4車線の大通りの歩道を若い女性が歩いていた。
動作はとてもゆっくりとして、左足をやや引きずるようにしながら、ひたすら前にと歩いていた。
金髪と言うよりは茶髪のショートカットは滅茶苦茶に掻き毟られ、左耳にピンク色の可愛いピアスが揺れていた
白いブラウスは半分程がひき毟られ半身には噛み千切られた、無数の歯形があり胸の乳房の跡地には白い肋骨が
見えていた、比較的無事な半身には小さな膨らみがあり、そこに鮮血の極彩色が黒い染みと成っていた。
スカートは履いておらず、剥き出しの下着が残骸となってこびり付くようにぶら下っていた。
元々人生に生きる目的など無かった彼女ではあったが、今では存在理由すら自分では見出す事は無かった。
彼女の記憶は有ったとすれば昨日の午前11時頃で途絶えていた。
家出3日目の高校2年生だった彼女は、その日は前日知り合ったばかりの男性と新宿のラブホテルに居た。
何の目標も無い上に暗い世相を反映して、無気力に全てに反発しての家出だった、何かをするあても無く
気力も無い彼女が10時過ぎに目覚めた時は、既にパトカーのサイレンが響き渡っていた。

何かがおかしい?と感じつつも気だるい時間を過ごしていた時、男が何気なくテレビのスイッチを入れて
事の真相が判明した。
信じられない事態の中で、その中心地にいる恐怖感が全てを支配し急いで身支度をした、最早男になぞ
構っていられる状況ではなかった。
未だに呆然としている男を突き飛ばして、出口に向かう背後から窓の外を覗き絶望的なうめき声を上げる
男の声が聞えたような気がする。
周りの部屋も騒然となり始め、恐慌状態のなか半裸で逃げ出そうとする女性に取り縋る男性の姿も見えた
狭いホールでは既に身支度を整えたカップルがエレベーターを待っていた。
乗りきれるだろうか?一抹の不安が過ぎる中で、エレベーターが到着した、狭いエレベーターに無理やり
押し込める様に乗り込み、階下に着く時間の中で初めて自分が昨夜一緒に過ごした男を見捨てた事実に
気が付いた、軽い懺悔の気持ちを持ちつつ、エレベーターが到着し扉が開いた。
全ては理解の限界を超えていた、最初に悲鳴そして怒号けたたましい騒音の中で全てが行われた。
大勢の人の手で、半ば引きずり出される様にしてホールに出た彼女の最後の言葉は何であっただろうか?

何はともあれ、そんな過去の事とは全く無関係に、そして相変わらず無気力に彼女は歩いていた。
テメェの事しか考えていない、くそやくたいも無いセンコーも恩着せがましく押し付けがましい両親も居ない
明日の事すら考える必要も無い、無政府主義者が陶酔する夢のような完全な自由を彼女は満喫していた、
勿論それを知覚する事は無かったが、、、。
今、歩道を歩いているのも別に理由なんて全く無い、でたければ車道に出たって構わないのだが車道に出る
理由すらない、唯なんとなく生前の習慣みたいなもので歩道を歩いていた、理由なんて知覚する事すらなかった。
そんな彼女がフト足を止めた、遠くで騒がしい何かがある、、、別に認識した訳でも無いのだがここ数時間
何の刺激も無い状態の中で得られた新鮮な刺激に対して、彼女は歩き始めていた。
通りの向こう側に、紺色の人間と緑色の人間が見えた、、、何となく噛付きたい衝動が体を駆け巡った。
同じように数人の仲間?が向かって行く、下半身を失い上半身だけで芋虫の様に体を引きずって行くのも居た。
それらに対して、紺色と緑色はしきりに腕を向けては小さな炎と大きな音を出していた。
その中の紺色が1人こちらを向いた、腕を突き出す手に黒い何かがある、直後に激しい衝撃を受けた・・。
星野良子17歳の詰らない無気力な人生は、そこで初めて終止符を打たれる事になった。
また、紺色の人間-須藤巡査長は付近のゾンビ掃討を対策本部に機械的な声で報告していた。



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最終更新:2011年11月04日 15:48