「くそっ!」
俺はバットでドアノブを破壊したが、2階の非常口もやはり予想通り中から封鎖されていた。
いくら押してもドアはまるで動かない。
俺は妻たちを連れて3階に上がった。
ここもまたバットでドアノブを叩き落とす。
開いた!
ここは中から封鎖されていない!
中に入るとひとりのやせぎすの男がいて目があった。
次の瞬間、男は手に持っていたダンボールか何かを落とすと背を向けて逃げ出し
てしまった。
さっきの男はゾンビではなかった。
あいつが妻たちに危害を加えることは・・・?
わからない・・・。
だが、少なくともこのまま外にいるより安全だということは確かだった。
そして、これ以上、荒井を放ってはおけない。
「香澄、加奈さん、中で隠れていてくれ!」
俺は階下に急いだ。
荒井・・・。
階段の隙間から荒井の様子が見えた。
荒井は今まさにゾンビに食いつかれようとしていた。
俺は階段を駆け下り、勢いを乗せたバットをゾンビの顔面に思い切り突き込んだ。
そいつの歯が飛び散り、派手に後ろに倒れこんだ。
おかげで将棋倒しが起こり、ゾンビどもの勢いが弱まった。
逃げるなら今しかない。
「荒井っ! 無事か!? 3階のドアが開いた!」
「おう!」
俺たちは階段を一気に駆け上がった。
ドアの内側に身体を滑りこませる。
俺たちは素早く辺りに散らばっているものをドアの前に積み上げた。
だが、パリケードというにはあまりに少ない。
これではすぐに破られてしまう。
妻たちが姿を現した。
「あなた、無事だったのね、よかった・・・」
「ああ、それより何かここに積めそうなものを!」
じきに俺と荒井が押さえるドアが外から叩かれ始めた。
「あんたら・・・人間か・・・?」
廊下の奥から声が聞こえた。
さっきの男だった。
「ああ、人間だ! それより、あんたも手伝ってくれ!」
「なにかバリケードにできるものを! はやく!」
俺と荒井は叫んだ。
ドアがすごい力で押されてくる。
ゾンビがドアを叩くたびにドア越しにその振動が全身に響いてくる。
ゾンビってこんなに力が強かったのか!?
ちくしょう・・・だめだ・・・開いちまう・・・。
そのとき、後ろから腕が伸びてきた。
見ると、さっきとは別のがっちりした男が俺たちと一緒になってドアを押さえていた。
さらにガラガラと後ろから何かが近づいてくる音がした。
台車に載せられたそれは冷蔵庫だった。
俺たちは冷蔵庫を勢い良くドアの前に落とした。
「まだ足りん、もっとだ!」
「いそいでくれ!」
俺たちは今度は冷蔵庫ごしにドアを押さえた。
ドアはまだぐいぐいと押されている。
しばらくするとまた台車に載った冷蔵庫が来た。
それもまたドアの前に落とす。
その次は洗濯機、また洗濯機。
なんでも良かった。
とにかくドアの前に積み上げていった。
悪戦苦闘のすえ、俺たちはかろうじてバリケードを作り上げることに成功した。
最終更新:2011年11月04日 15:55