宇宙線の影響か、はたまた地獄が死者であふれ返ったのか・・・。
地球上に「奴ら」が現れ始めて既に3ヶ月が経とうとしていた。地上は悲惨な状況の
ようだ。俺達のいるシェルターの屋外カメラには腐乱して徘徊する元住民達の姿が
映し出されている。まともな奴はもう誰一人いないようだ。オレ達はここを出るつもり
はない。食料も十分にある。所詮奴らは屍骸にしか過ぎない。あと1年もすれば腐敗が
進んで歩き回ることすらできなくなる筈だ。オレ達はその時をじっくりと気長に待つ
つもりでいた。

しかし、事はそううまく運ばない。咲っぺが高熱を出して倒れた。
ガモウ君に聞くと逃走の際に追ったケガから破傷風に感染した疑いがあるとのことだ。
オレと大友と西さんの3人は町の地図から病院を探し出し、そこへ向かう事となった。
目的地に向かうにはシェルターの換気ダクトからホームセンターの裏手に出て、駐車場
からホームセンターへ入り、そこから隣接する工場地帯、そして病院という経路が一番
安全かに思われた。出発しようとした時、ユウちゃんが三輪車をこぎながら寄って
来た。「お兄ちゃん!ユウちゃんも行く!!」「だめだ!ユウちゃんはガモウ君と咲っぺ
と一緒にいるんだ!!」「いやだ!ユウちゃんも行く!」仕方がない。連れていく事に
した。「高松くん、急ぎましょう!」西さんに呼ばれオレは換気ダクトに入り込んだ。

ホームセンターは静まり返っていた。どうやら元住民達はここまで入って来ていない。
隣に立っていた西さんが「わっ」と泣き始めた。色とりどりの商品、かすかに残る
日常の匂い。自分の置かれた状況を思い出し、感極まってしまった様だ。「西さん、
泣かないで」オレが慰めていると大友が怒鳴った「さあ!グズグズしてないでさっさ
と立ったらどうなんだ!病人のことを考えろ!」何もそんなに怒らなくても。しかし
西さんは「ごめんなさい大友さん!私もう存分に泣いたから、もう大丈夫!」
ふと見るとユウちゃんの姿が見当たらない。「ユウちゃーん」一階を探したがいない。
突然、ゴウーンという重い機械音が響き渡った。入り口のシャッターが開放された音。
ドっと入り口から元住民達が雪崩れこんで来た。「うわー!!」オレ達3人が逃げ出そうと
すると、館内放送が流れ始めた。「貴様らー!どこから入って来た!!このホームセンター
にあるものは全部オレのものだ!お前らはそこでゾンビに食われてろ!!!」
関谷の声だった。オレ達が通っていた大和小学校の「給食のおじさん」。
「お前らと一緒に来たガキはオレが預かってるぞ!!こいつはオレがペットに
するんだ!わかったらとっとと出てけー!!」

とりあえず2階のスタッフ・ルームに逃げ込んだオレ達は次に取る行動について
話し合った。「ユウちゃんを関谷から取り返しに行こう!」オレがそう言うと
大友が怒りだした。「バカ!咲っぺはどうなるんだ!!一刻の猶予もないんだぞ!」
確かにそうだった。倒れてからもうかなりの日時が経っている。一刻も早くペニシリン
を入手しなければ。「でも、ユウちゃんを放っておけないわ!!」どうするべきか
関谷はすぐにはユウちゃんを殺さないだろう。でも・・・。「よし!じゃあオレが一人で
病院へ行ってくる!!お前らはユウちゃんを助けにいけばいいだろ!」大友はそう叫ぶと
スタッフ・ルームを飛び出した。「高松!死ぬなよ!!」「お、大友・・・。お、お前も
だぞ!死ぬな!」やがて大友は駆け下りる音と共に階下に消えた。

2階は日曜大工のコーナーとなっており、武器に使えそうな刃物や鈍器の類が豊富
にあった。オレは以前、映画「リーサル・ウェポン」でダニー・クローバーが使った
ガスで釘を飛ばす工具がないか探したが、どうやら無い様だった。「高松さん、これは
どうかしら?」西さんが手に持っていたのは滑車だった。チェーンの先に拳くらいの
大きさの滑車が付いてる。「うん、これいい」いくつか武器を持つと、館内見取り図で
放送室がありそうな場所を探した。「多分、ここ」西さんが指を指したのは5階の一角。
彼女はたまに不思議な直感が働く時がある。「よし、行ってみよう」オレ達は階段を
登り5階へと向かった。
5階はガーデニング用品が陳列されていた。中央に噴水があり、濁った水を吐き出してる。
少しの間手入れしないとこんなになってしまうものか。いや、よく考えれば浄水場だってもう
稼動していないわけだ。足音を殺して、問題の部屋に近づいた。そこには「放送室」と
書かれている。中から話し声が聴こえる。「いるね」小声で確認し合う。ドアは一つしかない。
オレ達は強行突入することにした。ドーン!!

部屋に押し入ると、そこには誰もいなかった。ただ、TVがついていて、何かの
放送をしていた。「あ!!TVがやってる!!」西さんが走り寄っていった。
画面には「緊急放送準備中」というテロップがでており、スタジオの中を
忙しそうに走り回っている人々が映しだされている。「あ、人よ!人よ!」
西さんは興奮のあまりTVを掴んで揺らしだした。「西さんやめろ!TVが壊れる!」
プツンッという音と共にTVは消えた。「あー!ほら消えちゃったじゃないか!」
「わーっ!」西さんはまた泣き始めた。しかし、関谷とユウちゃんはどこに消えた
んだろう。そういえば、さっき関谷はオレ達が侵入したことに気づいていた。
もしかして、と思い、部屋を見回すとあった。監視モニターだ。

監視モニターを次々と切り替え、館内の様子を映しだす。1、2階はすでに元住民達で
溢れ返っていた。「ユウちゃん、無事でいてくれ・・・」2階の様子をしばらく見ていると
画面に関谷が映った。「あ!関谷!」関谷はローラー付きの荷台に縛ったユウちゃんを
乗せ、鉄の棒で荷台を叩いて音を出しながら元住民達をおびき寄せてる。「あいつ!
何するつもりだ!!」オレ達は武器を手に階段を駆け下りた。
3階まで来ると、2階から上がってくる関谷の叫び声が聞こえた。「こっちだ!こっちだ!
こっちにうまい餌があるぞー!」「うわーん!お兄ちゃーん!!」ユウちゃんが泣いている。
オレ達は先に3階の陳列棚の後ろに隠れ、関谷が来るのを待った。「よーし!いいぞいいぞ!
お前ら全員こっちに来い!」関谷は3階まで来ると、ユウちゃんを引っ張って、一気に奥の
出入り口のところまで移動した。「ここだー!餌はここにあるぞー!!全員入ってこい」
オレは関谷が何をしようとしているのか、ようやくわかった。奴はユウちゃんを囮にして、
1度招き入れた元住民達を3階におびき寄せ、封鎖して閉じ込めようとしてるのだ。
奴がここを封鎖してしまったら、お終いだ。「よし!西さん戦おう!」「うん!」
オレ達は関谷めがけて飛び出した。「わ!何だお前らは!」関谷は包丁を振り上げたが
西さんが選んでくれた武器が効力を発揮した。奴の間合いに入る前にオレの振った滑車
が奴の頭を割った。「ぐわー!!」

関谷は頭をおさえて倒れこんだ。「よし、西さんユウちゃんの縄をほどいて
やってくれ!」ユウちゃんを自由にすると、オレ達は関谷をおいて奥の出口に
向かった。「待って!」西さんがシャッターのボタンを押した。後ろを見ると、
元住民達がちょうど3階に入りきったところだった。「閉じ込めてやりましょう!」
ゴーン!という音と共にシャッターが閉じた。オレ達は出口から出て、外にあった
ボタンを押した。ゴゴゴゴ。閉じゆくシャッター。倒れている関谷が叫んだ。
「やめてくれー!閉じ込めないでくれ!お願いします!助けて!!」関谷に元住民達が
襲い掛かるところが見えた。ゴーン!!シャッターが閉じ、向こう側から関谷の
断末魔の悲鳴が聞こえた。西さんはユウちゃんの耳をふさいでいる。
ホームセンターを出て工場地帯に向かうと、向こうから人が来る。「あ!大友さんよ!」
遠くだったが、確かに大友だ。手に何か持っている。「ホントだ!大友だ!薬を持っている
ようだぞ!おーい!」オレ達は嬉々として駆け寄った。

確かに大友だった。しかし、もはや大友ではない様だった。首が付け根のところで
取れかけている。「大友・・・」フラフラと歩き、こっちに寄ってくる。オレ達を餌だと
思っているようだ。「大友さん・・・」西さんがペタンと座りこんでしまった。
大友の手にはしっかりと薬が握られている。「一緒に行けば良かった・・・。ごめん!」
オレは滑車を大友の顔面に叩きつけた。大友の首が取れ、道を転がった。
シェルターに戻り、薬を投与すると咲っぺは数日の内に回復した。
そしてまた、奴らがいなくなるのを待ちつづける日々が始まった。
しかし思ったよりも早くその日は来た。「奴ら」に天敵が現れたのだ。
ゴキブリ。しかもとびきり巨大な。数日間の内にゴキブリ達は「奴ら」を
食い尽くしてしまった。元住民はもういない。でも、オレ達はシェルター
を出られない。しかも今回はいつまで経っても出られそうにない。
オレ達はこれからどうなるのだろう。


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最終更新:2010年12月06日 20:06