真夜中、深夜三時。
何気にTVの深夜番組を見ていたら突然臨時ニュースが流れた、なにやら暴動が発生
しているとか何とか言ってるようだ。
都心部などではすでに警官隊との衝突がおき、死傷者もかなりの数に上っているらしい、
アナウンサーも事態の把握ができてないらしく混乱の真っ只中の放送でどうも
よく分からない、要領を得ないままの放送はどの局も同じのようで、TVから流れる
情報は混乱の極地に瀕してるようだ。
幾つかの局はなにやら、「そのままお持ちください」との画面が流れてる。
「?」正直何が起こってるのか分からない?ヘリからの撮影を見てる限りでは
かなり大変な状況のようだ、真っ暗のビル郡からはあちらこちらから火の手が上がってる
みたいだがどうやら停電も起こってるようだ。
友達に連絡を取ろうと電話を手に取ったが音がしない、コンセントが抜けてる分けでも
ないようだし番号を押しても反応しない、どうやら電話はダメらしい、携帯は先月から
止められてるので「連絡はあきらめるしかないか。」と考えてたその時TVのアナウンサーが
なにやら大声でがなりたててる。
「な!!なんなんだよ!!」「おい!どうなってんだ!」「止まりなさい!!」周りの声も入り混じり
現場が混乱の中にある事は伺え知る事ができるがアナウンサーがパニックに陥り
本来の職務を遂行できない状態に陥っていた。
入り混じる怒号の中TVの映像に釘付けになった、一見何処にでも居る普通のサラリーマンの
ようなオヤジが警官隊に襲いかっかっている、その後からもそれこそ無数の人間が警官隊に
突っ込みジェラルミンの盾もろとも警官を押し倒し、、、、そう、、なんと言うか
、、、「かみ殺している。」
喉元、顔などむき出しの人体を禿げたオヤジやOL、はたまた白衣を着た看護婦などがまるで
獣のように警官隊を襲いそして「食べてる!!、、のか?」肉を食いちぎり口の中に入るや
それを美味そうに「クチュクチュ」と音が聞こえるようなそんな映像がTVの
画面にズームで写しだされてる。
あっけに取れれてた、いったい何が起こってるのかも検討がつかない
確かに異常な状態ではある、だがこれがただの暴動だとはとても思えない
TVの画面が揺れる、声が聞こえる、叫び声が、次に聞こえるそれが先ほど警官達に
起こった出来事がTVクルーにも起こってるのだと思わせた。
肉を噛み切るような音と男の悲鳴それらが交じり合い、今まで感じた事のないような
感覚が自分の心の中にあるのが感じ取れた。
TVはスタジオに切り替わる、スタジオも自分と同じような状態だった。
男性アナウンサーの顔面蒼白で今にも倒れそうな感じである。
隣の女性アナウンサーは口に手をあて今にも吐きそうだ、いや吐いてる
手の間からは汚物がはみ出てデスクに滴り落ちる映像が流れてる。
「しっかりしろ!!」TVの中で誰かが叫んでる、それと同時に男性アナウンサーは
何とか喋りだした。
「今夜未明全国各地での暴動が発生、警察は機動隊を出動させ、、、」
男性アナウンサーが震える声で喋っている、「暴動?あれが暴動?」なぜ武器も持たずに
何処にでもいそうなOLや会社員が機動隊の中に突っ込みしかもあのようなおぞましい
方法で攻撃を加えるんだ。
そうあれは、、、まるで昔みた映画に出てきた生ける屍、、、ゾ ン ビ
「点呼よーし、荻原三尉全員います」
堅い敬礼で腰の位置まで積み上げられた土嚢越しに若い兵士が荻原に報告した。
「よし、お前ら、訓練通りにやればいいからな。なんかあっても
落ち着いて俺に報告しろよ。勝手に動き回るんじゃねえぞ。」
両手を腰にあて荻原は中山三曹にラジオ体操に似てる、と言われる声でこたえる。
いつもと同じ。訓練の始めと同じ、退屈な毎日をやり過ごすためのわざとらしい堅さの
動作で小隊は配置についた。違うのはこれが治安出動だということ。
市内で暴動が起こったとは聞かされたが、ここは市外より少し離れた山道。
知事の勇み足だろうが、自分の小隊がするべきことは多分ない。
そうでなくともこういう事件に自分たちの出番はこない。そういう国なのだ。
出動命令で浮き足立つものも居ないではなかったが、実際陣地構築の作業などを
始めると、急激に普段のどこか気だるい空気が漂い出した。
むしろ周囲に部隊が居ないため、それは訓練中よりも気楽なものだった。
荻原は第3小隊の山本ニ尉が苦手だった。
「あのしゃくれを見ないだけマシか。」
足もとの機関銃手が聞きとがめてニヤリと笑いながら、いいんですかー?などという。
世はなべて平穏、いっそ何か起きないものか。市内の連中は暴動を間近で見れるのか、すると
これはハズレなのかな、そんなことを荻原が考えていた時、何分ほどたっただろう。
「ありえない」そうつぶやいている自分に気が付いた。
いったい何が起こってるのか、あわててジーパンをはき財布を握り締め
玄関に向かった。
連絡を取りたかった、誰でもいい今起こったその出来事を話して落ち着きたかった。
そう思いながら玄関の戸を開けると、静かに静まり返ったいつもの町並みが目に入った。
三階建ての小さなマンション、一番上の階に住む、最近の例に漏れず近所との付き合いはない
隣には大学生が住んでいる、くらいの事は知っているが、今は電気も点いていない、休みの
前日はいないのは普通だし、今の時間寝てることも考えられる。
とにかく近くの公衆電話に向かおうとスリッパを履いた時、静かな町並みの中から聞こえて来る
物音に気がついた。
叫び声だ、最初にそう思った。
同時に自分の住み慣れた町が、「TVの中と同じような状態にあるのか?」と冷静に考えてた
混乱、、、、自分が混乱している、、、、落ち着け、落ち着け、何度も心の中で叫び続けた。
その時ドアの開く音が耳に入った。
大学生の隣に住んでる人が、家の中から顔を出したて、外の様子を伺っている。
女性のようだ、と女性はこちらに気がつき顔を向けた。
長い髪がよく似合う20代のOLといった感じの女性で赤い寝巻き姿のまま、僕を見ている。
軽い会釈が双方から行われた、「どうなってるんですか?」彼女の第一声だ、「分かりません」
そう答えるしかなかった。
「電話は繋がりますか?」僕が聞く「いえ。さっきから全然繋がりません」、
「携帯も?」、「はい。」よくは分からないがこのあたり一帯で携帯も普通電話も繋がらないらしい
公衆電話はどうなんだろう?確かこう言う時でも警察や消防には繋がるはずなんだが、
一般にも繋がるんだろうか?「公衆電話言ってみます。」自分はそう言って階段の方に向かおうとした時
「バチ」と言う音とともに電気が切れた。
「停電だ。」とっさにそう思った。
その時自分の腕に何かが掴みかかった、彼女がおびえ自分の腕に張り付いている。
「大丈夫、すぐに直るよ。」何の根拠もないがそういって彼女を引き離した。
とりあえず懐中電灯がいる、そう思い自分の家に戻ろうとした時遠くの方から爆発音が
聞こえた、驚きあたりを見回す交差点の方で車が炎上している。
しばらく眺めていると、近所の住民が外に出始めてる、この事態がただの事故で
あるかのような雰囲気の出方だ、そりゃそうだ、普通に寝てて外から爆発音、外に出てみれば
車が炎上、大きな事故には違いないが交差点の周りに民家はないし、すぐに誰かが警察に
連絡する程度だと思ってる。
でも電話は通じない、混乱が置き始めてる自分と同じ用にTVを見ていた人もいるだろう、
停電や電話が通じない事が分かればその理由が必要になる。
その理由が暴動であると言うならばそれでいいのかも知れない、でもTVを見ていた人間誰一人として
あれが只の暴動とは思わないだろう、自分でさえ見たままであればあるほど信じられないのだから。
それから数時間、死に物狂いの逃走劇だった。
混乱がおさまる気配はなく、不気味な不安が住み慣れた町を襲っていた。
事故と同時に車の中からはじき出された運転手かろうじて息があるようで近所の住民が
様子を見ようと四方から近ずく、しかし、、、、
叫び声、おんなの声が絶叫する、男の怒号が聞こえてくる。
四方から集まった住民であろう人達は、住民だけではなかった、そうTVの中でみたそれと同じような
空ろな目をしたサラリーマンや、寝巻き姿の女性、小さな子供、などが四方から集まる住民と同じ
ように集まりはじき出された運転手や、様子を伺いに来た住民に襲いかかっていた。
「一瞬迷った、部屋に篭るか、逃げるか。」「今逃げなければここに閉じ込められる。」
その恐怖が決断をさせた。
隣で恐怖のあまり立ち尽くす女性に、「逃げるぞ!!」そう言うが早いか彼女の腕を掴み
ぼんやり光る非常階段に向かおうとした。
慌てて戻る「幾らなんでも何もないのではきつい。」そう考えてる暇もないほど自分が混乱
しながらも懐中電灯といつも使ってるリュックを掴み、いそぎ非常階段を下りる。
「暗い」月が出てるとはいえ一切の人為的明かりがない状態にいきなり置かれて
初めて困難な決断をした事に後悔した。
しかし戻る事はより困難に思えた、交差点の炎上した明かりに照らされ無数の影がこちらに
向かってくるのがはっきりと分かる、「たとえあの部屋に戻れたとしていったいいつまで
篭ってるんだ、いざ出ようとしてもあんなに大勢に囲まれたらそれこそ脱出どころでは
ないんだ。!」自分に言い聞かすように足早に暗闇に住み慣れた町を逃げ出した。
自分が正しかったのか、間違っていたのか、考えてる時間などなかった。
暗闇になれた目は月明かりでも十分に辺りの確認できた。
町がすでに混乱の中に置かれてる事が確認できた、周囲の家から無用心に出てきた人々は
逃げ惑う人々を見て何が起こってるのか分からずにいるまま戸口に立ちすくみ、あっけに
取られていた。
走り抜ける自分達の後方から叫び声が上がる、それが周囲から聞こえればこの町全体が
すでに混乱の中に置かれてる事が容易に確認できた。
いったいどの位の者が襲われゾンビになったのか、、、「ゾンビ」フッ笑いがこみ上げてきた
映画のゾンビ、まさしくそれだろう、いやそうでなくてもこの異常事態に理由を付けると
すればそれ以外に考えられない、逆に理由付けれるからこそ今自分が他の人間より
多少は冷静なのかも知れない。
冷静といってもまともじゃないが、逃げ惑う中さまざまな者が見れた。
片腕のない人間や内臓が飛び出しそれを引きずりながら徘徊する者、みんな決まって目が空ろで
どうも足取りが重い、まさしく映画のゾンビだ。
「逃げ切れる」そう思っていた、だがこの混乱ぶりはどうか映画で見た時は「ここをこうして
こうすれば大丈夫」なんて考えていたが人間どれだけ自力で生きていないかよく分かる。
明かりがない、それだけでも相当の数の人間がこの混乱のなか命を落とすだろうか、
ましてや数が多すぎる、それこそ何処にでも居るような状態だ、ゾンビどもとの接触も一度や二度では
なかった、一度なんかは彼女が掴みかかられ半狂乱になって助けを求めた。
どう助けたのか、がむしゃらだった、なにも覚えていない、ただかすかに金属の棒から伝わる
今まで感じた事のないような感触だけが手に残っている。
僕達は逃げ続けた。
「ガタン!」ゆれる衝撃で目が覚めた、車の中だ。
助けられた、何処をどう逃げたのかは覚えていない途中座り込んでしまった彼女を
叱咤しながら逃げ続けた。
大き目の道路に出た時正直もうだめだと思った。
深夜の出来事のため通りには車は少ない、しかしそこにある車はすでに炎上してるか
放棄されその周囲にゾンビどもが空ろな目をして徘徊している。
自分が壊れ始めてる感じが全身から感じ取れた。
もう足が動かない、後ろで恐ろしいほどの呼吸をしている彼女も、自分以上に
参ってるいるだろう事ははっきり見て取れた。
「ああ」後悔が疲れを倍増しそうになり自分の体が今までの何十倍の重さに感じ
ひざがその重さに参るように地面に付こうとしていた。
その時「乗れ!!」
車だ!大き目のそれが何なのかはよく分からない四駆と言うのだろうか
その大きな巨体がまるでゾンビどもから自分達を守るように壁になり後部座席のドアが開いた
最後の力を振り絞り後ろでへたり込む彼女を掴み上げその後部座席に飛び込んだ。
同時に意識を失った、疲れが絶頂に達していた、混乱が追い討ちをかけ、自分の体に休息を強要した。
失う意識の中彼らの声が聞こえる「傷は!」「ないわ!大丈夫みたい!」、、、「ならいい。」
車は軽快なエンジン音を響かせている、自分達は人間として受け入れられた。
衝撃で目が覚めた自分は今の状態を確認し始めた。
外は、薄明かりと共にのどかな田園風景が広がっている、どのくらい眠ってたのだろうか
その時前から声をかけてきた「起きたか。」
年は同じくらい25、6といった所だろうか、Tシャツとジーパンで格闘家を思わせる
筋肉がTシャツから伸びる腕に見て取れた。
「ああ。」疲れが溜まってるのか自分の声に元気を感じられない、「車の運転はできるか?」
彼が聞く「いや、免許持ってないんだ。」残念ながら持っていいなかった原付はあるが
どうせ車を買う余裕もない今は取る必要もないと思って免許は取っていなかった。
「そうか、、。」明らかに落胆の声で彼は答える。
「起きてられるか?」と彼「?」質問の意味が分からず答えに窮する自分に
「正直眠いんだ、昨日仕事が終わって会社を出たらいきなりこれだ、止めて休みたいんだが、
起きたら囲まれてるというのは御免だしな」
見張りか、自分は納得した「ああ分かった。ここいらなら見晴らしもいいしもう明るいから
大丈夫だろう、任せといてくれ」
大丈夫、、、いったい何が大丈夫なのか、夜があけうっすらと日がのぼり始めた外を
見ながら考えていた。
考えてる間に運転手は窓に頭を倒しこみ、スーと大きな深呼吸と共に眠る準備に入っていった。
最終更新:2010年12月06日 20:16