静かだった、後部座席に三人前に二人、計五人、
前の二人は男性、後ろに乗ってるのは女性だ年齢も同じくらいだろうか
男三人に女が二人これが今の生き残りだ。
一緒に逃げてきた女性は後部座席の真中で隣の女性に持たれかっかって眠っていいる。

「名前も聞いてないな」少し笑いが込み上げた、住んで5年、顔も合わせた事がない
不思議だ、そう思いながら休息に尿意をもよおし始めた自分に気が付いた。
慌てて外に出ようとドアノブに手をかけた、「動かない」自分の手がまるでドアを
開けるのを頑なに拒否するように意思に歯向かい開閉を拒否していた。
驚きと同時に自分を叱咤した「ふざけるな!」歯向かう手に力を込めてゆっくりと
車のドアを開けた。
スーと静か冷たい外気が車の中に流れ込む、同時にあの血の匂いがムッと鼻に
付いた。

驚き慌てて周囲を見渡す、「いない」少なからず今自分達の周囲にはやつらは
存在してない、静かに外に出てそっとドアを閉じた。
血の匂いの理由が分かった。車には至る所に血がこびり付いていた、これが
何の血なのかは容易に想像できた。

尿意を満足させるため適当な所を探そうかと思ったが、
「怖い」そう、車から離れる恐怖が自分を留めた。
車を確認してみんなが寝てるの確認してジーパンのチャックを降ろした。
この際見られてもどうでもよかった、車から離れるその恐怖を考えると見られるくらい
どうって事はなかった。
しかし幾ら何でも道路に撒き散らす分けにはいかない、反対に周り田んぼの方で済ませるくらいの
羞恥心は残っていた。
チャックを戻し、車の前を回り反対に移動してチャックを降ろた時、ガチャ、
「!!」振り向くと同時にそこには申し訳なさそうに頭を掻きながら会釈するくったくのない
笑顔が助手席の方から降り立った。

もう一人の男である年齢は若い、おそらく10代だろう、多少ニキビ後の残る顔だが悪い顔では
ない利発そうな男前の部類だろう。
「僕も一緒にいいですか?」笑いながら自分と同じように尿意を満足させるためチャックを降ろした。

「何がどうなってるんです。」満足した彼はチャックを上げながら聞いてきた。
「ゾンビ」即答した。
馬鹿らしくも思えたが自分の中での結論はこうなっていた。
彼はきょとんとしていたが、ゾンビが何であるかぐらいは知っているようだった。
あの現状を説明するには暴動では無理だ、近年暴動などというもの事態が起こっていいない
せいぜいヤンキーと警官隊の小競り合い程度だ。
それをマスコミが面白おかしく煽って見た所で、今の日本ではあれが限界だろう、
それが、突然首都機能が混乱するような暴動が起こり、それが全国規模で起こるなど誰が
考える、考える前に無理である事など直ぐに分かる。
全国規模、どの程度の被害が出てるのだろう、明ける空を見上げながら想像する被害規模は
今の自分には分かりかねた。


車は走り続ける、田舎の国道が普段から空いてるのは分かるが、全く車は通らない
自己紹介はすんでいた。
自分 村上健二 26歳 一緒に逃げてきた女性は 上村涼子 22歳 
車に乗っていた男性は 田中隆二 26歳 立花竜太 18歳 
女性は 増田美香 24歳 
三人は会社の仲間らしい、休みを前にドライブをしようとしていた所、今回の異常な事態に
巻き込まれたらしい。

聞く話は自分の想像を超えていた、都市部などは殆ど戦争のようなありさまだったらしい
主要道路はやつらの格好の餌場と化していたそうだ。
車で逃げようと渋滞に巻き込まれそこを襲われるケースが頻発していた。
彼らはできるだけ裏道を抜けて都市部を抜け出し、車を走らせていた。
何度か囲まれはしたが、数はあまりなく、さすがに迷いはあったがそれらを突破するために
車は多くの帰り血を浴びる事になる。
都市部を抜け、自分の住む町に来た時も相当な数が町にいる事が確認できたそうだ。
隆二は続ける。
「正直恐ろしいよ、無表情で近づいてくる女や子供お構いなしに引き殺してた。
本当に彼らがそれなのか分からない、ニ、三人もしかしたら、、、、。」
蒼白になる彼の気持ちも分かる、自分も同じようなものだった、今だにあの感触が
手に残ってる。
上村涼子が助けを求めた時、とっさに近くにあった金属棒で、覆いかぶさる男の頭に
それを振り下ろした「ゴッキャ!!」鈍い音と共に男は動きをやめた、彼女から引きはなした
彼の顔面にその棒を付き刺した。
付き刺さる棒から伝わるあの感触、やわらかい物に無理やり突き刺さる感触
説明出来る部類の物ではなかった。


確かにゾンビもいただろう、だがあの男が人間だった可能性は本当にゼロなのか、、、

やめた、考えても無駄だった。
今更確かめるすべもなければ、あの時点での行動は間違っていない事ははっきりしている。
そう自分を納得させた。
それよりも、これからの事だ、いったい何処でどうしたらいいのか情報がほしい、
ハッ!とした。
「ラジオ」そう呟いた、田中隆二がその意味を汲み取り慌てて、ラジオのスイッチを入れた
彼らもこの混乱で正常な感覚を失っていた。
ザーーーーー、虚しく響くラジオを、彼はチャンネルを切り替え別の周波数に合わせて行った。


声が聞こえる、幸いまだ放送を続ける局が存在していた。
「、、、警官隊との、、、政府は、、、ザッ、、、」
隆二が周波数を合わせる、車の中は静まり返っていた。
「繰り返します。本日未明日本国内で大規模な暴動が発生、今だ拡大の一歩をたどっています。
警察は機動隊の出動させ鎮圧に乗り出して降りますが、今だ混乱は収まっておりません。
また現地の情報によりますと暴徒と化した民衆は、凶暴化しておりむやみに暴徒などへの
接触は硬く禁じられております。」
「また政府は非常事態宣言の発令も検討されておりましたが、その後の情報は入っておりません。」
「また自衛隊の駐屯地にも暴徒が押し寄せ、、、ザッ、、、発砲騒ぎが起こってるとの情報も
入ってきております。」
「住民には不用意に表にでず、自宅待機の方向で次の報告を待つように、、、」
「本当にこれでいいの!!」アナウンサーの声がヒステリックに喚き立てる。
「これじゃ死ねといってる様なもんじゃない!!」「国会の方からは何の連絡も入ってないの!!」
「何時間も経ってるのよ!!」「現地に行った人達からの連絡は?!!」

ラジオの向こうでも混乱が起こっている。
もう昼を回っている、すでに12時間以上が経っている。
これだけの時間が経っていて全く収拾の見込みない混乱が、苛立ちと、恐怖アナウンサーに
ヒステリックな行動を取らせている。


「政府が機能してない?」最悪の事態に陥ってるのかも知れない。
普段から当てには出来ない、そう知っていても今回のような
個人の力になんら解決の糸口がない以上、警察や自衛隊に期待するのが当然だ。
今回の場合い、TVの映像で見たように警察などは、全く無意味だろう、
本庁でふんぞり返ってるやつ等からすれば只の暴徒だ
発砲なんてさせて貰えるはずのない警察が、やつらの前に並んだ所でしまえば
ゾンビどもにとって、さしずめ食卓に並ぶビーフステーキの様なものだ、
被害は拡大し混乱が増すばかりだろう。

残るは自衛隊だがこれが動くには政府の許可が絶対だ。
その政府が何らかの理由で機能してない、、、何らかの理由、、、
諦めの心が自分の湧き上がった、たとえ自衛隊が活動できたとしても何処まで
出来るのか検討も付かない、もしこの混乱を収拾できるとしても直ぐにとは行かないだろう
その間は自分の力で生き残るしかない。


静かに座席に腰を落とすと、前方に町の様子が伺えた。
「町か?」隆二にたずねる「ああ。」軽く答える隆二はこのまま進むべきか
迷ってるようだ。
「進もう、それほど大きな町ではないし、突っ切ればいいだけだ。」
直ぐに隆二の迷いに返事を出した。
「そうだな。」彼も決断が早いその理由は直ぐに判明した。
「ガソンりんが残り少ない、迂回してれば確実に立ち往生する事になる。
この辺りが何処かも分からないし、やつらがどの程度潜んでるかも分からん
少なからず町の方が確実にガソリンを手に入れる事が出来る。」
「迂回した所で行く当てもない、車を走らせつづけるならどの道、補給は
必要だし食い物や休憩も必要になる。いいな。」
隆二はそう言ってアクセルを強く踏み込んだ。


町に入った、そう大きな町ではなさそうだがそれでも5、600人は暮らす町だろう
「周りを見といてくれ。」隆二がみんなに声をかけた。
車はやや早めのスピードで町を駆け抜ける。
ここも同じであった。
倒れたバイクや、黒焦げの車、ビルの壁には血などが飛び散っていた。
隆二は倒れた車や、放置された車を縫いながら街中をすすむ、
「裏通りには行かないんですか?」遠慮がちに立花竜太が尋ねる
「裏道りではガススタは見つからん。」隆二が答える。
「ないとは言えないがそれをのん気に探せるほどの余裕もない。ほら」
隆二は続け前方斜め右を顎でしゃくった。
すでにやつらが自分達に気づき、ゆっくりとこちらの方に向かってくるのが見えた。

どの方角からもやつらを確認できた。
昨晩とは違い明るい町並みの中に現れる彼らは、まるで窓越しから見るゾンビ映画
その物だった。

「あったぞ!!」隆二が叫ぶと同時に、みんなの目が一斉に前方左に立つ看板に
目が行った。
車はスピードを上げ車道を疾走する。


ガススタの前に来て愕然とした。
丁度ガススタの前にバスが転倒し入り口を 大きく塞いでいたのだ。
急ハンドルを切る隆二、振られる体制を何とか保ちながら見たものは
バスの裏側、丁度スタンドの方からやつらが現れたのだ。
隆二は車を止めスタンドに入れるか考えてるようだったが、
「無理よ、多すぎるわ。」美香の声で直ぐに車を発進させた。
スタンドからもその反対の方からもやつらはゆっくりこちらの方に向かってくるのが
確認できた。
たとえ行けたとしても、その間にやつらは増え続けるだろう、何十人もの壁を車で
突破できるとは甚だ疑問だった。
車は疾走する、残り僅かな燃料と共に。

町を抜ける事には成功した。
しかし問題はより深刻化している。
隆二は悔しさのあまりに無抵抗なハンドルに、その拳を打ち付けていた。

「どうする。」誰に質問するでもなく隆二は呟いた。
「進むしかない。」自分が答える。
どの道戻った所でどうにもならない、たった五人で武器も持たずあの町から燃料を
持ち出せるとは到底思えないからだ。
「進むしかない、もしかしたらこの先に別のガソリンスタンドがあるかもしれない。」
そう言うしかなった。
車は無言のまま走りつける。

「ガスン!」明らかに車の調子がおかしい、「ダメだ。そろそろ本当に無理かも知れない。」
隆二が沈痛な面持ちで呟く、「あれ見て!」その時後部座席の真中に陣取る上村涼子が叫んだ。
前方やや左、かなり向こうだが建物が見える。
「ガソリンスタンドかな?」立花竜太が疑問のように呟いく。
「行けそうだ、どの道あそこに行くしかない。」隆二がアクセルを踏みながら少し興奮
気味に叫んだ。

近ずくにつれその建物が見えてきた、三階建ての大きなホームセンター、
近年郊外などに多く立てられた、日曜大工、文具、雑貨、カー用品などいろいろ売っている
総合ショッピングセンターの様な物だ、食べ物や、衣類、ゲームセンター等も備え田舎などには
なくてはならない商業施設と化している。
本来なら客で賑わう時間、それが現状により巨大な無人ビルと化している。
いつもと違う事が、恐怖へと変わる。
車内は静まり返り、巨大な施設への恐怖がみなの心にある事がうかがい知れた。
「行くぞ。」隆二が決心したようにみなに言う。
すでにガソリンは限界だ、これ以上の走行は無理だろうあそこに行けば何らかの方法が
あるかも知れない、僕達はそう信じホームセンターに向かった。

ホームセンターの駐車場前でついに車が限界に達した。
隆二が何度かエンジンを掛けなおしてみるが、徒労に終わっていしまった。
「降りるぞ。」隆二は意を決してみなに行動を促す、同時に車内の全員が
覚悟してたように車から降りだした。

「やつらはいない。」自分が周囲を確認し、みなにも確認するように声に出して言った。
「行こう、今はいなくても次期にやってくる、逃げるにしてもとりあえずは車は動かない、
あそこに行って取り合えず安全の確保だけでも急がないと本当に手遅れになる。」
全員が足早にホームセンターに向かい、建物に入れる場所があるか確認した。
「前はダメだ、頑丈なシャッターが下りてる。」隆二が一通り確認して報告する。
「こっち!」裏手を見に行った竜太が声を上げた。

そこで見たものは社員が出入りするであろう扉の小窓が割られ内側から、
なに者かに補強されている扉が目に入った。

「すでに誰かがいるの?」美香が呟く、そう呟いた時ドアのノブが動き少し開けられた扉の
中から小さな目がこちらを覗いていた。
全員がギョッとしただろう、しかし中から出てきたのは幼い兄弟であった。
不安そうな目でこちらを見ているが、同時に大人に出会えた安心からか今にも
泣き出しそうな顔で「おじさん達だれ?」と兄の方であろう男の子が質問してきた。
「心外だなーまだ26だよ」などと考えていると
「僕達も逃げてきたの?」美香が逆に質問した、「お父さんが帰ってこないの。」
後ろのいた妹が震える声で答えた。
同時に泣き出す妹を庇うように兄の方が、「お父さんがここにいろって、
直ぐに帰ってくるって言ったのに、全然帰ってこないんだ。」そこまで言って兄の緊張が
限界に達し兄弟二人泣き出してしまった。

「お母さんとおばあちゃんとを迎えに行くって言ったまま帰ってこないんだ。」
落ち着きを取り戻した兄、良助が話した。
ホームセンターの中は電気が来ていた、どうやら自家発電、もしくはまだこの辺は
停電を起こしてないようだった。
電話は相変わらず普通になっていたのは残念だったが、何とか一息つく事ができた。
良太のおばあちゃんが入院しており、その看病に行っている母親と、入院しているおばあちゃんを迎えに行ったまま帰ってこないらしい。

妹の弓は安心したのか隣の長椅子で、すやすやと眠りについている。
人の声が聞こえたので扉を開けたそうだが、自分達に取っては大助かりでも今後は
危険である事を教えておくべきだと思った。


あれから三日、やつらはこのホームセンターに続々集まってくる。
簡単に脱出できる状態ではなくなっていた。
一度は、良助が外に出てしまう事態に見舞われたが、何とかみな生存する事に成功している。
ガソンリンに付いて色々話し合ったが、それを手に入れる事がどれだけ困難かが確認できた
だけだった。

この三日の間に手に入れる事が出来た情報といえば、相変わらずの混乱が続いてるという現実
だけである。
いや、もっとひどくなっていた。
政府は既に機能せず、警察機構は既にその役割を果たしてはいなかった。
各地の自衛隊が自主的に動きだしたとの事だがこれらも結局全体としての
活動ではなく、活動可能な部隊が個別に動いてる状態での行動であるようだ。

第一段階での失敗がすべてを崩壊させていた。
いまや国家としての機能それ自体があやしい状態に置かれてるのが現状である。
TVについては既に、すべての局で放送が終了していた、最後に行われた放送では
アナウンサーが
「都市部、市外、どこにいても同じです。危険に変わりありません。
みなさん生きてください、生きるために友人や家族、親しい仲間、彼らがもしやつらに
かまれ、傷つけられる事があったら迷いなく殺してあげてください」
「どんな方法でもかまいません、、、、頭を、、、頭を破壊するんです」
「、、、、、、、、それが、、、他に生き残る仲間のためにもなります」
「私には、、、私には、、無理でしょう、、、、、私はあなた達を襲うより
 襲うよりも、、、、、、人間として死にたい」
アナウンサーは冷静に言い終わると、ポケットから取り出した大き目のカッターで
その首筋を切り裂いた。
飛び散る鮮血をカメラは冷静に、はっきりと捕えながら放送は終了した。

誰もせめる事は出来ないだろう、いったい誰が愛する女性や妻、子供や肉親を
どれだけの人間が冷静に殺すことが出来るのか、いま生きてる仲間がやつらと同じように
なるとしてもだ。

「死にたい」、その気持ちはよくわかっていた。
しかし今確実に生きる可能性がある限り、自分は生き抜く事を考えている。
ここには必要な物はすべてそろってる。

「アメリカが救援に来ないだろうか」そんな話も飛び出した。
しかしそれはない、なぜならこの混乱が全世界規模で起こってると言う情報が
最後の放送前に行われていたからだ。

他の国が日本のように最悪の状態に陥ってないとして、
経済、生産、そのすべてが壊滅的なダメージを受ける中いったい誰が助けに来てくれるのか。

孤立した者それぞれがやつらと戦いながら生き残れたとして、、、、、。
生き残るだけだ、今出来るのはそれが精一杯だ。

銃が欲しかった。
映画のようにせめて銃器があればまだましだろう、この点はアメリカは日本より生存してる
人間は遥かに多いだろう。
それに「映画」
そう、あれが向こうでは有名だ学者や常識人には無理でもちょっと想像力のある人間なら
やつらの弱点を見つけ対応しているかもしれない。

やつら、「ゾンビ」どもはまさに映画と同じ弱点を持っていた。
頭部の破壊によりその活動は完全に停止するのが分かた。
良助が外に飛び出した時、自分達はそれでやつらから逃げ出す事が出来た。
同時に、火も極度に恐れる事も確認している。
「映画と同じ」それだけでもかなりやつらと戦う事が出来る、それだけで十分、
とは言いがたいがみんなの生存率はグンと跳ね上がった。

ホームセンターの一階の進入可能な所は完全に補強済みだ。
元々窓には鉄柵がそなえてあったし、センターには木材の販売所もあったので
それらは容易に行えた。
ただ一階裏の扉は開閉できるようにしている。
良助が拒否したのだ、父の帰りを待つ彼らに取ってそこを塞がれるのは
なんとしても許す事が出来なかった。
そのおかげで一度良助が外に出てしまったのだが、今は良助が簡単に開けれないようには
しているが開け様と思えば簡単に開けれるようにはしてある。
どの道すべてを塞ぐ分けにも行かなかったからだ。
逃げ道は必要である、一応裏の扉と二階の非常階段は中から簡単に開閉できるようにしてある。
三階と屋上は駐車上になっていたのでエレベーターの電源を切り、従業員の出入り口を
閉じればやつらの侵入は防げる。
自分達の生活は主に二階の休憩室に決めていた。
一階はやつらの壁を叩く音が一日中響いていたからだ、まだ二階の方がましであった。

休憩室の窓から見える風景は異常な光景だった。
既に腐敗の始まった死体がハエをたからせ歩きまわってくる。
内臓が飛び出し引きずり回しながら、哀願するように自分達に手を伸ばす。
眼球のなくなった顔をこちらに向け、まるで救いを求める難民のように、、、
しかしやつらは違う、やつらの求めるものは肉、そう俺達すべての、生きてる肉だ。

やつらは死んだ肉には興味がなかった。
竜太が肉やハムをやつらにばら撒いた事があった、一度は手に持つが匂いを嗅いですててしまう。
「贅沢なやつらだ」竜太が毒づいていた。

涼子の様子がおかしくなり始めていた。
限界なのだ、彼女は一日中二階の窓からやつらを眺めている、一度は彼らを刺激するのを
恐れ隆二と一緒に彼女を窓から引き離そうとしたが、わめき散らす彼女に観念して元に
戻してやった。

ニ週間、良く耐えたものだ。
情報は一切入らない、食料や水には困る事はなっかった。
しかし最近水の出が悪くなっている。
今まで出ていたのが奇跡のようなものだったので、水や電気については覚悟が出来ていた。

飲み水は元々センターの売り場の物だけを飲んでいたし、お風呂は入ってなかった。
飲み水で軽く体を拭くか、薬局に置いてあるパウダーシートなどで済ませていた。
さすがに頭は三日に一度シャンプーを掛ける事にはしていたが、それでも最小限の水で
済ませていた。

蛇口から出る水は怖くて使用できなかった。
主に水洗便所や植木に水をあげるのに使用していくらいだが、やはり本来あるものがなくなる
不安は大きかった。
それでなくてもこの状態を生き抜くストレスは、みなの心を確実に蝕んでいた。

涼子は悪くなる一方だ、最近では階下にいるやつらになにやら話しかけ時折
笑いを浮かべてる。
竜太もまた変化を起こし始めていた。
やつらを鍵竿の付いた棒で引っ掛けてはゲラゲラ笑いながら破損させる行為に没頭していた。

美香は率先してみんなの世話をしていた。
そうする事で責任感を奮い立たせ、平静を保とうとしているようだが
流石に疲れの様子はぬぐいされそうもなかった。
子供達も美香に一番なついており、妹の弓は何処に行くにも美香と一緒だった。
良助は隆二と共に行動する事が多く、彼もまた必死でこの世界を生き抜く知恵を学ぼうと
考えてるようだった。
隆二はそんな彼に格闘技などを教える傍ら、センターの売り場にあった無線の使い方を
必死で調べているようで、彼は今でもを抜け出す方法を模索しているようであった。

自分は主に奴らと戦う方法を考えていた。
ここに残るにしても、出るにしても、最悪の状態を考えいつでも対応できるように
して起きたかったからだ。
最初の夜自分の混乱が今だに忘れられない。
また同じように危険な状態に置かれたとして、あの夜と同じように混乱すれば
これはほど増えたやつらに対して、生き残る事は難しくなる。
それだけはなんとしても避けたかった。

それから数日後竜太が死んだ。
538 名前: あなたのうしろに名無しさんが・・・ [sage] 投稿日: 02/09/27 04:38
日課に拭ける竜太が窓辺にいたのを見たのが最後だった。
美香の叫び声で隆二と俺は二階の休憩室に向かった、そこには呆然と震える美香と
ゲラゲラと大笑いする涼子がいた。

「どうした!!」震える美香の肩を揺さぶりながら隆二が叫んだ。
弓はこの情景を遠くの柱に、隠れながら覗き込んでいる。
震える美香はスーと手で窓辺を指差す。

最悪の想像が俺と隆二の脳裏に浮かび上がる、それを確認する事に迷う二人をよそ目に
窓辺に飛びつく良助がいた。

「竜太兄ちゃん!!」

慌てた向かったその先にやつらに貪りつかれる、竜太が目に入った。
竜太の顔は笑っていた。
ボリボリ嫌な音が辺りに響き渡る、呆然と眺めるその光景にただ涼子の笑い声がまざり
現実をあいまいな世界にへと引きずり込んでいた。
竜太の笑顔は、全ての開放からの喜びに満ちていた。

暫くその場でへたり込んでいた。
みな何も喋る事が出来ずにいた。
ただ涼子だけがいつものように窓辺に座り、外を眺めながら何事かを呟いていた。

既に階下のいやな音は途絶え、次の食料を求めるやつらのノックだけがかすかに階下から
聞こえてくる。

落ち着いた美香が話す。
いつものように二人に食事を持って行く、その時には既に竜太の体は窓を越え
階下に落ちていく瞬間であった。
その横に立ちすくむ涼子、その光景が美香の最後に見た全てだった。

その日は誰もその場から離れなかった。
いったい何が起こったのか、階下に落ちた理由を知るのは、只一人涼子だけである。
誰もが竜太が落ちた理由が永遠に分からないという事が、今の涼子から伺い知れた。

翌朝から隆二は無線に掛かりっきりになった。
そのため良太は俺か美香が面倒を見る羽目になったが美香は弓の世話もあれば、
涼子の行動も監視しなければならない。
誰も声には出さないが、竜太の件に付いては涼子を怪しむ心がみなの心にあった。
しかし竜太の最後の状態では突発的に階下へ飛び降りた可能性も否定できない、
どちらにせよ涼子もまた、竜太のように突発的な行動に出るとも限らない以上
監視をするに越した事はなかった。

俺達はこれ以上失うことに、耐える状態ではなかった。

自然と良太の世話は俺が引き受けていた。
隆二は脱出を決意していた。



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最終更新:2010年12月06日 20:16