台風がどんどんひどくなってきた。外では悲鳴のような音をたてて風が吹いている。
「こんなことなら、6時の段階で帰っておきゃよかったな・・・」
ホームセンターの事務所で会計管理の仕事をしている靖男(仮名)は
キーボードに向かいながら、そんなことを考えていた。
「さて、ホームセンタースレでも覗いてみるか」
仕事をサボってオカ板の【ゾンビ】ホームセンター攻防扁【ゾンビ】にアクセスした。
最後についたレスは
780 :あなたのうしろに名無しさんが・・・ :02/10/01 21:31
>779
それはゾンビ達が窓を叩いている音だった!
ガシャーン
だった。そんなわけねえじゃん、靖男は鼻で笑いながら煽りレスを入れようとしたその時、
ガシャーン
一階の入り口でガラスが割れるような音がした。
靖男は不機嫌な顔で席を立った。職場のある二階から階段で一階に降りようとした。
職場のドアを開けると、吹き込んできた風が靖男の顔を撫でた。階段の電気を点けると、
下のほうで何人もの人間がうずくまっているのが見えた。
(いったいどこのホームレスだよ。この糞忙しい時に)そう思いながら荒げた声をかけた。
「おい、何やってんだ、お前ら!?」
階下の集団が一斉に顔を上げる。そこには・・・!
靖男は急いで職場のドアを閉め、鍵をかけた。今、見たものはなんだ?
頭が混乱し、複雑怪奇な思考が脳内を駆け巡った。信じられない、信じたくない。
だが、確かめるのもいやだ。絶対にいやだ。まだハロウィンには時期が早いだろうに。
「糞っ、>>780があんな事を書くから変なのが出てくるんだ。780って誰なんだ?
俺の知り合いか? ここにいることを知っていて脅かしているのか?」
職場のドアを見ると、すりガラスの向こうに蠢く人影が見えた。
これではガラスを割って侵入されるのは目に見えている。
靖男は、残業している部長に報告をしようとした。しかし、何と言えばいいのか?
「ぶ、ぶ、部長、ゾンビが外にいます!」
焦りの気持ちから、ストレートに報告してしまうマテ男だった。もちろん部長が
そんな言葉を信じるはずが無い。部長は冷ややかな目を靖男に向け、仕事に戻った。
「本当なんです、外を見てください。つうか、もう、ドアのところまで来て・・・」
ドガシャッ!
職場のドアのすりガラスが破られた。そこから侵入してきたのは、割れたガラスで
作った傷も気にすることの無い、まごうことなくゾンビそのものだった。
部長が音に驚いて席を立ち、ゾンビどもの姿を見たとき、何を考えたか、
ゾンビに近づいていった。注意をするつもりらしい。・・・冗談じゃない。
マテ男は部長を部長室に引っ張って、ソファに放り出すと、ドアを閉めて本棚を
移動させようとした。ところが、部長はそんな靖男を羽交い締めにして止めさせた。
「おまえ、何やってるんだ。俺が注意してくるからちょっと待ってろ!」
部長がドアを開けて部屋から出ようとしたその瞬間、
「おまえら、冗談も・・・ひゃぁー!」
変な声を上げながら、奴等に引きずり出されてしまった。部長は懇願するような目で
靖男を見た。しかし、もう、手後れだった。
部長室にたった一人残された靖男は、渾身の力を込めて本棚をドアの前に移動させた。
モップがあったのでそれをつっかえ棒にした。外ではシャクシャクという不気味な音が
している。それが何の音なのかは想像に難しくなかった。
気を取り直したマテ男は部長のコンピューターを使ってインターネットにつなげた。
もちろんアクセスするのは2ちゃんねるオカ板。すぐに新スレを立てた。タイトルは、
【部長】ホームセンターにゾンビ来た【餌食】
1 :あなたのうしろに名無しさんが・・・ :02/10/01 21:59
部長がゾンビに食われました。
だった。錯乱していたにしても馬鹿すぎるスレタイだった。もちろんこれでは
誰にも信用されない。必死でスレをageる靖男。煽る他の住人。
靖男は泪を流しながらキーボードを叩いた。やはり誰も信じてはくれなかった。
ならば、と思い、ニュー速+のスレに片っ端からレスを入れて注意を喚起した。
すでにこのとき、靖男は自分の生命のことなどどうでもよかった。
2ちゃんを見ている住人の、百人、いや十人、たった一人でもいい、自分のレスで
助かってくれれば・・・と、ただそれだけを考えていた。みんな、信じてくれ!
だが、ニュー速+でのレスもひたすら煽られるばかりだった。
靖男は、自分の心が2ちゃんねらーの通じず、悶絶した。
しかし、靖男は気づいていなかった。自分がレスを入れているところが、
「newsplus」ではなく「news」だったことを・・・。
事態ここに極まれり。にっちもさっちもいかなくなった靖男は、オカ板に立てた
自分のスレに戻ってきた。ネタスレと思われたのか、幸いにして削除はされていなかった。
45 :あなたのうしろに名無しさんが・・・ :02/10/01 22:45
みんな、信じてください! 本当にゾンビがいるんです。
今にもドアを破られそうです。あ、m
ここまで書いたとき、衝撃でモップが外れてしまった。本棚が傾いでいる。
靖男はすぐに「書き込む」ボタンをクリックし、ドアに走った。
体重をかけて本棚を押したが、すでにゾンビの腕がドアの隙間から突き出ていた。
永遠にも思える一瞬の攻防に打ち勝ったのはゾンビのほうだった。
靖男は隙をつかれて、右手を掴まれた。あっという間にドアの外に引っ張られ、
腕に激痛が走った。無理矢理力任せに引っ張ると、ビリッ、という不気味な音を立てて、
筋肉が剥離する感触を味わってしまった。なんとか自分の右腕を室内にもどすと、
白い骨が見えていた。靖男は失神しそうになりながらも、精神力のみで再びモップを
壁と本棚の間にかました。
(これでしばらくもたすことができる。早くみんなに信じてもらわなければ)
頭の中にはもうそんな考えしか浮かばなかった。靖男は痛みをこらえながら、
左手一本でキーボードを叩き続けた。
68 :あなたのうしろに名無しさんが・・・ :02/10/01 23:01
頼むから信じてktレア。おねあいだか…
75 :あなたのうしろに名無しさんが・・・ :02/10/01 23:05
みぎてをくわれあt 俺はもうだめkじゃもしれあないう
78 :あなたのうしろに名無しさんが・・・ :02/10/01 23:07
みんな、がんgって いきのびtw
81 :あなたのうしろに名無しさんが・・・ :02/10/01 23:11
もう、じかんgふぁのこっていない あとすこし、すこしうだけじかんwp@
84 :あなたのうしろに名無しさんが・・・ :02/10/01 23:13
やばあしjぞんびがくうううwたああああああああああ
ゾンビが本棚を倒し、室内に侵入した。狭い部屋にもかかわらず、マテ男は気づかずに
キーボードだけに集中していた。何匹ものゾンビにのしかかられ、かぶりつかれながら
人生における最後の力で「書き込み」ボタンをクリックした。
食われていくマテ男の表情は、困難を成し遂げたかのように満足げだった。
ゾンビが地上を蹂躪しきったのは、マテ男がスレを立ててから、たった三週間後のことだった。
愛すべき2ちゃんねらー達に幸あれ・・・
―――――――終わり―――――――
最終更新:2010年12月06日 20:30