ボクね、ジョンっていうの。少し頭は弱いけど、いい犬なんだよ。
ボクの飼い主は、ミホちゃんっていう女の子なんだ。ジョンっていう名前も
ミホちゃんがつけてくれたんだ。でも、ミホちゃんは小さいから、首輪には
「じょん」
としか書けなかったんだって。でも、ボクは「じょん」って書いた首輪が気に入ってるの。
だって、大好きなミホちゃんが一生懸命書いてくれたんだから・・・。
ある日、変な人達が家に来たの。すごく変な臭いがする人達がいっぱい来たの。
その変な臭いのする人達が、ミホちゃんのおじいちゃんとおばぁちゃんと
おかあさんとおとうさんを食べちゃったんだ。でもね、ミホちゃんは
縁の下に隠れていたから変な臭いのする人達に見つからなかったの。
ミホちゃんは、ずーっと泣いてたの。ずーっと、ずーっと。
ボクね、少し頭は弱いけど、いい犬だから、ミホちゃんを慰めようとして
クーン、クーンって鳴いたの。そしたら、ミホちゃん、少しだけ笑ってくれた。
ボクね、少し頭は弱いけど、いい犬だから、ちょっぴり嬉しかった。
ボクね、ジョンっていうの。少し頭は弱いけど、いい犬なんだよ。
いい犬だから、ミホちゃんの近くに変な臭いのする人達が来ないように見張ってたの。
ボクは紐で繋がれていたから、縁の下には入れないけど、ずーっと見張ってたんだ。
それから一回お日さまが昇って、ミホちゃんがどこかに行こうとしたの。
でもね、まだ変な臭いのする人達の臭いがしたから、「行っちゃダメだよ」って言ったの。
でもね、ミホちゃんは人間だから犬の言葉がわからないの。
ボクね、少し頭は弱いけど、いい犬だから、ミホちゃんのスカートをくわえて
行かせないようにしたの。そしたら、ミホちゃんがボクを抱きしめてくれたの。
ああ、よかった、わかってくれたんだ、と思って、スカートを離したの。
そしたら、行っちゃった・・・。
でもね、少ししたら、ミホちゃんが戻ってきたんだ。
でもね、その後ろから変な臭いのする人たちが追いかけてきたの。
ミホちゃん、早く、早く縁の下に隠れて!!
でも、ミホちゃん、転んじゃったんだ。
ボクね、少し頭は弱いけど、いい犬だから、ミホちゃんを助けようとしたの。
でもね、紐でつながれていたから、吠えることしかできなかった。
ミホちゃん、すぐに骨になっちゃった。
変な臭いのする人達はまたどこかに行っちゃった。
ボクは、前足を伸ばして、ミホちゃんの骨をなんとか自分の前まで引っ張ったんだ。
でもね、ミホちゃんの骨、ミホちゃんの匂いがしないんだ。
でもね、これはミホちゃんの一部、ボクの宝物。
ボクね、ジョンっていうの。少し頭は弱いけど、いい犬なんだよ。
それから何度かお日さまが昇って、昇って、昇って、
ボクね、お腹がすいちゃったんだ。
でもね、ミホちゃんの骨はかじらなかったんだ。ボクはいい犬だし、
これはボクの宝物だから。
今度は、鉄砲の匂いのする人が来たんだ。その人はボクを優しくなでて、
つながれていた杭から放してくれた。ボクはうれしくなって鉄砲の匂いのする人に
ついていくことにしたんだ。でも、ボクね、少し頭が弱いから、宝物を忘れちゃった。
骨になっちゃったけど、ミホちゃんといっしょじゃないといやなんだ。
でもね、人間は犬の言葉がわからないんだ。
そして、車に乗せられたんだ。
ボクね、頭は少し弱いけど、いい犬だから、騒がないようにしたんだ。
宝物は忘れてきちゃったけど、いい犬だから、諦めることにしたの。
車の中には、おじさんとおにいさん、おねえさんが二人乗ってた。
おねえさんたちは悲しそうな顔をしていたから、クーン、クーンって鳴いたの。
そしたら、おねえさんたちが、少しだけ笑ってくれた。
ボクね、少し頭は弱いけど、いい犬だから、ちょっぴり嬉しかった。
ボクね、ジョンっていうの。少し頭は弱いけど、いい犬なんだよ。
それから、おにいさんが車から降りて、大きな音が何度かしたら、
また車に戻ってきたの。いっぱい鉄砲の匂いがしたよ。
それから、少ししたら、ボクを車から降ろしてくれた。
ボクね、少し頭は弱いけど、いい犬だから、ちゃんと言うこと、聞いたよ。
でもね、扉の向こうから、変な臭いのする人の臭いがしたんだ。
ボクね、少し頭は弱いけど、いい犬だから、みんなに教えようとして唸ったんだ。
みんな、食べられちゃうよ。食べられちゃうよ。食べられちゃうよ。
でもね、人間は犬の言葉がわからないんだ。
でもね、あっという間におにいさんが変な臭いのする人達をやっつけちゃった。
それから、ボクは、みんなといっしょに色んな物がいっぱいいっぱいある所に
つれていってもらったんだ。
おにいさんとおねえさんたちは喜んでいたの。
ボクね、少し頭は弱いけど、いい犬だから、みんなが嬉しいときはボクも嬉しいんだ。
でもね、おじさんだけはつまらなそうにしてた。ボクもちょっぴりつまらなかった。
それから何度かお日さまが昇って、昇って、昇って、昇って、昇って・・・
おじさんとおにいさんから鉄砲の匂いがしなくなったんだ。
そしたら、大きな鳥がおじさんとおねえさんたちとボクをどこかにつれていっちゃったの。
おにいさんもいっしょに行こうよ。
でもね、人間は犬の言葉がわからないんだ。
ボクね、少しだけ悲しくなって、クーン、クーンって鳴いたの。
ボクね、ジョンっていうの。少し頭は弱いけど、いい犬なんだよ。
大きな鳥はボク達を人間がいっぱいいるところにつれていってくれたの。
おじさんとおねえさんたちといっしょだったけど、おにいさんはいなかったの。
ボクね、少し頭は弱いけど、いい犬だから、みんなを慰めようとして
クーン、クーンって鳴いたの。そしたら、みんな、少しだけ笑ってくれた。
ボクね、少し頭は弱いけど、いい犬だから、ちょっぴり嬉しかった。
でもね、おじさんはずーっと外を悲しそうな顔で見てたの。
外には変な臭いのする人たちがいっぱいいるのに・・・。
それから何度かお日さまが昇って、昇って、昇って、昇って・・・
おねえさんたちといっしょに大きな鳥がまたどこかにつれていったの。
今度はおじさんはいっしょじゃなかった。
おじさんもいっしょに行こうよ。
でもね、人間は犬の言葉がわからないんだ。
でもね、おねえさんたちは喜んでいたの。でもね、涙も流してたの。
ボクね、どうしたらいいのかわからなくて、クーン、クーンって鳴いたの。
ボクね、ジョンっていうの。少し頭は弱いけど、いい犬なんだよ。
それから何度かお日さまが昇って、昇って、昇って、昇って・・・
おじさんとおにいさんがやってきたんだ。おねえさんたちは大喜びしていた。
ボクね、少し頭は弱いけど、いい犬だから、いっしょに大喜びしたの。
そうしたら、みんながボクのこと、抱きしめてくれたんだ。
人間は犬の言葉がわからないはずなのに、ボクの言葉をわかってくれたんだ。
それから、ボクはみんなといっしょに食べたり、飲んだり、笑ったり・・・
何度かお日さまが昇って、昇って、昇って、昇って、昇って、昇って、昇って、昇って、
昇って、昇って、昇って、昇って、昇って、昇って、昇って、昇って、昇って、昇って、
昇って、昇って、昇って、昇って、昇って、昇って、昇って、昇って、昇って、昇って、
昇って、昇って、昇って、昇って、昇って、昇って、昇って、昇って、昇って、昇って・・・
ボクね、少し頭は弱いけど、いい犬なんだけど、ちょっと疲れちゃった。
ボク、もう、本当に、眠ってもいいかな? おじさん、おにいさん、おねえさんたち、
ボク、もう、本当に、眠ってもいいかな・・・・・・・・・・・・・・・
あれ、ここはどこだろう? きれいなお花がいっぱい咲いてるよ。
あ、ミホちゃんだ! ミホちゃんが手を振ってる!!
ボクだよ、ボクだよ、少し頭は弱いけど、いい犬だからやっと会えたんだね!。
そして、ボクはミホちゃんの胸に飛び込んだんだ。
―――――――終わり―――――――
最終更新:2010年12月06日 20:31