しかし手相は? 君は大軍の兵が同時に短剣で殺されるのを見るが、(その人々の)手相はお互いに同じではない。難破船の場合も同様。
『レオナルド・ダ・ヴィンチの手記』
こうした技法の〈強力さ〉を理解し、それらが世界に広く分布し、時代を超えて生き残って来た理由を知るためには、
人類学者ムーアの研究を援用して、組織(化)論のカール・E・ワイクがまとめた次のような考察が参考になる。
ネイティブアメリカンであるナスカピ族では、長老派カリブーの肩甲骨に現れたヒビを読み、狩人たちはそれによって狩りをする場所を決める。ムーアとワイクによれば、ナスカピ族のこの〈意思決定〉は次のような利点をもっている。
- もし失敗しても、誰かに累が(それほどには)及ばない。
- 情報が不十分なときでも、決定が下される。
- 代替案の間でさしたる違いがないときでも、迷わず決定が下される。
- (資源への負荷が分散することで)ボトルネックが克服されるかもしれない。
- (次の手が読めないため)競争者が混乱する。
- 代替案の数が(原理的には)無数になる。
- 手順が愉快だ。
- 決定は常に速やかに下される。
- 特別な技能がいらない。
- お金がかからない。
- その過程にケチのつけようがない。
- ファイルやその保管場所がいらない。
- 贔屓のしようがなく、どの代替案にも等しい重みづけがなされる。
- 解決に至る論争が不要である。
- 真の新奇性を呼び込むことができる。
- 読み方を変えることによって、ツキを変えられる。
- 過去の狩りの影響を受けない。同じ柳の下にドジョウを探す愚――短期的には賢明であっても、長期的には資源を枯渇させる愚かな戦略――を避けることができる。
- 人間や集団が無意識にハマる選好や分析、思考のパターンにも影響を受けない。しばしば野生動物は人より速くそのパターンを見抜き感じ取るので、その裏をかける。
読書猿『アイデア大全』
最終更新:2017年01月30日 18:59