人体と大地の相似(引用)

人間は古人によって小世界と呼ばれた。たしかにその名称はぴったりあてはまる、というのは、ちょうど人間が地水風火から構成されているとすれば、この大地の肉体も同様だから。人間が自分の内に肉の支柱で枠組たる骨を有するとすれば、世界は大地の支柱たる岩石を有する。人間が自分の内に血の池――そこにある肺は呼吸するごとに膨張したり収縮したりする――を有するとすれば、大地の肉体はあの大洋を有するが、これまた世界の呼吸(潮汐)によって六時間ごとに膨張したり収縮したりする。もし上述の血の池から人体じゅうに分岐してゆく血管が出ているとすれば、同様に大洋は大地の肉体を限りない水脈で満たしている。
大地の肉体には神経(及び腱)が欠けている。ここに神経のないのは、神経というものは運動のために作られたものであるがゆえである。だが世界は永遠に安定しているので、どんな運動も生じない。運動が生じないわけだから、神経を必要としないわけである。しかしその他のあらゆる点で両者は非常によく似ている。
                                   『レオナルド・ダ・ヴィンチの手記』
最終更新:2016年10月29日 00:28