ランダムネス(引用)

こうした技法の〈強力さ〉を理解し、それらが世界に広く分布し、時代を超えて生き残って来た理由を知るためには、人類学者ムーアの研究を援用して、組織(化)論のカール・E・ワイクがまとめた次のような考察が参考になる。
ネイティブアメリカンであるナスカピ族では、長老派カリブーの肩甲骨に現れたヒビを読み、狩人たちはそれによって狩りをする場所を決める。ムーアとワイクによれば、ナスカピ族のこの〈意思決定〉は次のような利点をもっている。
  • もし失敗しても、誰かに累が(それほどには)及ばない。
  • 情報が不十分なときでも、決定が下される。
  • 代替案の間でさしたる違いがないときでも、迷わず決定が下される。
  • (資源への負荷が分散することで)ボトルネックが克服されるかもしれない。
  • (次の手が読めないため)競争者が混乱する。
  • 代替案の数が(原理的には)無数になる。
  • 手順が愉快だ。
  • 決定は常に速やかに下される。
  • 特別な技能がいらない。
  • お金がかからない。
  • その過程にケチのつけようがない。
  • ファイルやその保管場所がいらない。
  • 贔屓のしようがなく、どの代替案にも等しい重みづけがなされる。
  • 解決に至る論争が不要である。
  • 真の新奇性を呼び込むことができる。
  • 読み方を変えることによって、ツキを変えられる。
  • 過去の狩りの影響を受けない。同じ柳の下にドジョウを探す愚――短期的には賢明であっても、長期的には資源を枯渇させる愚かな戦略――を避けることができる。
  • 人間や集団が無意識にハマる選好や分析、思考のパターンにも影響を受けない。しばしば野生動物は人より速くそのパターンを見抜き感じ取るので、その裏をかける。
                                    読書猿『アイデア大全』
最終更新:2017年01月30日 19:01