それにしても、知識が禁じられるとは? そんな奇怪な、無法なことがありえようか? なぜ彼らの主は知識を与えることを惜しんでいるのか? 知るということが罪であり、死である、とどうしていえるのか? 彼らが罪に堕ちないのはただ無知のおかげだというのか?
サタン(ミルトン『失楽園』)
悪を知らしめまいとして今まで彼らをヴェールのように蔽い、守っていてくれた、あの「無垢」がいつのまにか消えてしまっていた。正しさを信ずる心も、生来の義しさも、名誉を重んずる心も悉く失われ、あとに残されていたのは罪に悩む「羞恥」の前に曝けだされた二人の裸形の姿であった。
ミルトン『失楽園』
おお、わが子らよ、人間はあの禁じられていた樹の実を食べてから、われわれの誰にも劣らぬくらい善と悪の両方を知るにいたった。だが、彼がいくら誇らしげに思うにしても、要するにそれは失った善と新たにえた悪の知識にすぎぬ。もし彼が善だけを知り、悪を全然知らずにいたら、どれほど幸福であったかしれない。しかし、今彼は悲しみ、悔い、心を打ち拉がれて祈っている。
ミルトン『失楽園』