大砲(引用)

こういったものを、地下の深い所から、地獄のような焔を孕んだ生の状態のままで掘り起こしたいと、わたしは考えている。そして、それを空洞の長く丸い装置の中にぎっしりとつめ込み、もう一方の穴に火を点ずれば、それはたちまち膨張し烈火のようにいきりたち、雷鳴のような轟然たる音響とともにどんなに遠い所からでも、恐るべき破壊力をもった弾丸を敵陣深くたたき込むはずだ。その威力は、およそそれに敵対する一切のものを木っ端微塵に粉砕し、徹底的に圧倒し去る強さをもっている。敵も恐怖に震え上がり、われわれがいつの間にか神からその唯一の恐るべき武器である雷霆(いかずち)を奪ってきた、と思うに違いない。
                                    サタン(ミルトン『失楽園』)

突然、敵は一斉に手にしていた葦を前の方に差し出し、狭い火穴に正確に押しあてた。と思った瞬間、全天、焔に包まれ、忽ち煙で、――これらの巨砲の喉の奥から吐き出された濛々たる煙で、真暗になってしまった。そこから発する唸り声は、轟然たる大音響をたててあたりの大気に充満し、また、まさに悪魔の吐物ともいうべき、無数に繋がっている雷霆と鉄の弾丸の霰とを、汚らしく吐きちらし、大気の臓腑を無惨にもことごとく引き裂いた。
                                        ミルトン『失楽園』
最終更新:2017年04月17日 03:52