世襲(引用)

世の中で最も不合理なことが、人間がどうかしているために、最も合理的なこととなる。一国を治めるために、王妃の長男を選ぶというほど合理性に乏しいものがあろうか。人は、船の舵をとるために、船客のなかでいちばん家柄のいい者を選んだりはしない。そんな法律は、笑うべきであり、不正であろう。ところが、人間は笑うべきであり、不正であり、しかも常にそうであろうから、その法律が合理的となり、公正となるのである。なぜなら、いったいだれを選ぼうというのか。最も有徳で、最も有能な者をであろうか。そうすれば、各人が、自分こそその最も有徳で有能な者だと主張して、たちまち戦いになる。だから、もっと疑う余地のないものにその資格を結びつけおう。彼は王の長男だ。それははっきりしていて、争う余地がない。理性もそれ以上よくはできない。なぜなら、内乱こそ最大の災いであるからである。
                                          パスカル『パンセ』
最終更新:2017年05月12日 04:08