「○○、あなたはお見合いをするの?」
彼女は、自分にそう聞いた。
なんてことはない。些細な理由のお見合いだった。
月の民の中で大きな影響力を持つ貴人にして女神、稀神サグメ様。
その彼女の能力は、彼の幻想郷をも容易に征服できるとの噂だ。
どんな能力か、自分はそれを知らない。
そんな恐れ多い彼女に、仕える自分は今も疑問に思う。
前まで下っ端兵士だった自分が、何故彼女の側で仕えるようになったのだろう。
貴人の考えることは分からない。
きっかけは、月の都で祭りが行われた時のことだと思う。
月の都の下っ端兵士だった自分は、お互い暇だった上官と一緒に居酒屋で酒を飲んでいた。
何を祭る祭りなのか。
自分達は貴人達が開いた催しものに乗っかることにした。
酒は進み、意識は少し曖昧に、突然、上官からお見合いを持ちかけられた。
自分は、女性との付き合いを知らない、身も蓋もないことを言えば、
モテない人生を歩んできたため、突然の縁談に返事が返せなかった。
上官は、良い返事を待っている、そう言って会計を済まし立ち去った。
自分はその後、足取りはおぼつかないのに、妙にお見合いのことだけは、気がかりだった。
だからだろうか、貴人にして女神である
サグメ様と肩をぶつかってしまうのは。
意識が曖昧だったが、覚えていることは、彼女に土下座をし、許しをただ請う情けない自分の姿。
それが、彼女に仕えることになったきっかけだと思う。
自分は友人と呼べる仲間はいない。家族もいない。独り身だ。
簡単に捨てられる兵士として、条件は良かった。良く分かっていた。
だから立場も自然と下に見られた。
特に同僚のある兎(以下、同僚と呼ぶ)は、自分を惨めで哀れで存在価値のない獣と罵るくらいに。
同僚は将来、有望な兵士として貴人にも仕えている。依姫様の部隊だ。
対して自分が誇れるのは忠誠心ぐらいか。
その忠誠心も、貴人に見捨てられたら、儚い一方的なものだった。
だから、あの時は必死だった。きっと拷問で惨めに死ぬと思ったから。
本当に生きる価値がないことを恐れていたから。
その翌日、サグメ様に仕える者からサグメ様直筆の従者任命書を頂いた。
自分は、疑いと恐れをもちつつ、サグメ様のもとに向かい、サグメ様と面会することとなった。
面会はサグメ様と自分だけで、部屋で行われた。
自分はこのとき、相当緊張をしていた。死ぬことを覚悟していた。
しかし、サグメ様から発せられた言葉は
「任命書通りの内容よ。」それだけだった。
その日から、サグメ様の従者として仕えることなった。
サグメ様は自分のことを常に気にかけてくれた。
食事、服、体調管理。相談も聞いていただいた。
さすがに金銭的な関係を持ちかけられたときは、
遠慮したが。
それでも、こんな捨て駒の自分に、親身になってもらった。
彼女からすれば、大したことじゃない、あるいは裏があるかもしれないが、
自分は彼女に感謝をしている。
彼女からもらった恩に報いようと思った。
だからだろうか、油断をしていた。心酔していたのだろう。
同僚から受けたイジメを彼女に言ってしまった。
サグメ様に仕えることが決まった日から1週間後、
恐ろしいことをサグメ様に仕える従者の同僚から聞いた。
下っ端兵士時代、自分をいじめていた同僚が、無残な死体になっている。
とても見られる状態ではないほど、酷い死に方をしていたそうだ。
数日後、サグメ様からお見合いについて聞かれた。
「上官から、お見合いすることを勧めらていますが、今は返事をしていません。」
自分は正直に答えた。
「そう。・・・あなたは好きな人がいるの?」
? 妙だ。
「自分は色恋沙汰に興味がありません。」
数分黙った後に、
「あなたのお見合いは成功するわ。私と結婚することはできないけれど。」
? 何だ最後?
自分はお見合いについて話した覚えはないが、
調べられても困ることではないので、祝言だと思い
「ありがとうございます。」
とだけ言った。
突然、上官から手紙が送られた。
内容は、お見合いは中止となった。
上官曰く、お見合い相手は病気で倒れたらしい。意識は不明。
そして、最後にサグメ様が紙で忠告をしたそうだ。
曰く、私は彼の妻である。
自分は真偽を確かめなければならない。
彼女はどうして、自分に固執するのか?
今、サグメ様の部屋で彼女と二人だけ。
「サグメ様、何故自分に固執をなさるのですか?」
我ながら貴人、しかも月の女神にこんなことを言えたものだ。
「・・・。○○は私のことを愛している?」
なるほど。
「・・・。申し訳ありません。自分はサグメ様を
恋愛対象として見れません。それに、サグメ様ほど素晴らしい方なら
他によい人を見つけられますよ。自分とは釣り合いません。」
「○○。私は月の女神。」
「存じ上げております。」
「あなたは私の能力を知っている?」
「いえ、知りません。」
「やっぱり。嘘じゃなかった。」
なんのことだ。
「私とあなたが初めて会った時、
少し肩をぶつけただけなのに、あなたに謝られた。
恐れを抱き、絶望に沈む、必死だったあなたの顔。
苦しみと焦りがあなたをそうさせた。
胸が締め付けられた。あの時のあなたは、
哀れでそして、とてもとても愛おしかった。
私のすべてをかけて、守ってあげたかった。」
絶句した。あまりに衝撃的だった。
「あなたをいじめていたゴミは殺したわよ。
お見合いは中止させた。・・・そして、
私の能力は言ったことが逆転する力。」
自分とサグメ様との距離が近づく。
「あなたは私のこと、愛してくれる?
それとも、愛させる?旦那様。」
つまり、詰みだ。
「自分はサグメ様の夫になることを誓います。」
サグメ様は自分にめいいっぱい、口づけをした。
こうしてサグメ様と自分は夫婦となった。
感想
最終更新:2018年02月27日 00:26