白金の天使/Platinum Angel(MtG)

登録日:2011/12/26(月) 16:13:03
更新日:2024/04/05 Fri 18:03:40
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その心臓には、不死の秘密が隠されている。

(7)
アーティファクト クリーチャー 天使(Angel)
飛行
あなたはゲームに敗北することはなく、あなたの対戦相手はゲームに勝利することはない。
4/4


彼女はその工匠の最高傑作であり、金属から引き出された神性だ。


白金の天使は、Magic the Gatheringのミラディンに収録されたカード。

天使らしい4/4飛行というある程度の制空権と、何より勝敗のルールに介入する非常識な効果「自分は負けないし相手は勝てない」という能力が目をひく。

このカードで防げる敗北条件は

  • 自分のライフが0以下になった時
  • 引くべき時に山札から引けなかった時
  • 毒カウンターが10個になる時
  • 相手がゲームに勝利(特殊勝利)するカードを唱えたり能力を誘発・起動させた時
  • 自分がゲームに敗北(特殊敗北)するカードを唱えたり能力を誘発・起動させた時

など。自分が負けないというのも重要だが、相手が勝てないのも重要。前者だけだと、相手が「自分はゲームに勝利する」という効果のカードを使ったときに防ぐことが出来ない。このゲームにおいて相手の勝利と自分の敗北は必ずしも一致しないのだ。
極端な話、自分が死んで、毒まみれになって、ライブラリーも空っぽになり、対戦相手が《迷路の終わり》で《めでたしめでたし》して《機智の戦い》したとしても、
このカードさえコントロールしていれば負けではない。バキのドイルのごとく、ボロボロになりながら「敗北を知りたい」となるわけである。


が、これ自体のマナ・コストが7マナと重く、アーティファクト対策にもクリーチャー対策にも引っ掛かるアーティファクト・クリーチャー特有の脆さが足を引っ張り、
普通に7マナ払って出してもクリーチャー除去でたやすく攻略されてしまう。飛行を持っているという点も実は問題で、緑の飛行クリーチャー対策カードに引っかかってしまう。
さらにアーティファクトがテーマのミラディンには、その対策であるアーティファクト破壊の数自体も多かった。プラチナも残念だが錆びるのだ。
そもそも普通なら負ける状況でこのカードで耐えたとしても逆転できる望み、またそれができるデッキは限られている。
もたもたしていれば相手に対処カードを引かれる可能性も高まっていく。
そもそも普通のデッキにおいては7マナが出る頃には大勢が決している。7マナ出る前に死んでは元も子もないし、大型クリーチャーやド派手な置物をはじめ、もっと勝利に直接つながる選択肢なんていくらでもある。
そして言うまでもないが、「敗北条件を満たしているが、白金の天使のおかげで生きている状態」から白金の天使を破壊されると即敗北する。

極端な話をすると、《セラの天使》は5マナで4/4で警戒まで持っているので、戦闘面に関してはこっちのほうが断然強い。
「絶対負けない」というのは一見すると派手だし強いのだが、このゲームの目的は相手に勝つこと。負けないことと勝つことは違うのだ。

そして何より、当時のミラディンにはこれが霞む壊れカードがゴロゴロしていた。
上記アーティファクト対策もそれら壊れカードのために投入されまくっていたため、「ついでに」これもメインから対処されてしまう。
以上のような理由により、特にトーナメントレベルの結果は残さなかった。

一応ライブラリーまたは手札からクリーチャーを2体踏み倒す《歯と爪》を使ったデッキで、ウルザランドによるマナ加速から《歯と爪》をキャスト、これと《レオニンの高僧》を出してドヤ顔というコンボができた。
《レオニンの高僧》はアーティファクトを呪文の対象に取れなくするため、クリーチャー除去やアーティファクト除去、飛行対策などで対処されることを防いでくれるってわけ。
しかもウルザランドは8版、これと高僧と歯と爪はミラディン収録なのでスタンダードで組むことが出来た。
そこから全体除去を喰らうまでがお約束。上記の通りトーナメントレベルでは見かけなかった。
そもそもウルザトロンにしろ《歯と爪》にしろ他に良いカードがたくさんあった。《ダークスティールの巨像》×2とか、《鏡割りのキキジキ》と増やして楽しい何かとか。
これらは確かに敗北を防いでくれないが、代わりに対戦相手のライフを速やかに刈り取ってくれる。自分が負けるより先に相手を負かす方がいい。


そんなわけで実はこのカード、テキストはド派手だが大して強いわけではない。どの色でも割とあっさり除去できる。
では全く使えないのかというと、そこはMtGプレイヤー。ミラディン・ブロックというのは電波カードの梁山泊、トーナメントシーンさえあんな悲惨なことになっていなければMTG屈指のビルダー環境になっていたことだろう。
当然こいつもその利用法は様々に考えだされた。

「相手の勝利を防ぐ」というまっとうな使い方としては
  • まだ相手の体勢が整っていないうちに高速で召喚する
  • 召喚したあとに守る
この二つから片方ないし両方が利用される。たとえば上記の《歯と爪》で《レオニンの高僧》と一緒に出すパターンは、この2つの方法を採用したものである。
ただしこの使い方は「単なる時間稼ぎ」にしかならないため、採用するにしてはかなり消極的。4/4飛行を出すよりも、11/11破壊不能トランプルとかを出したほうが勝利につながるからだ。

一方でその「単なる時間稼ぎ」としては最高峰である。なにせ相手からすれば「このカードをほっといたら絶対に勝てない」。
この「相手の勝利を防ぐ」という使い方では
  • 対戦相手に対処を迫り、その間に勝勢を築く
  • 除去する手段がない相手に出して投了を促す*1
という使い方になる。
考え方としては「除去に弱い?分かってるよ、こいつは単なる時間稼ぎさ」とか「除去に弱い?じゃああなたは除去を持っているのか?」といった感じ。
たとえば《向こう見ずな実験》で出したり*2、《大いなる創造者、カーン》でサイドボードから引っ張ってきて素出しする*3
以前のモダンのウルザトロンでは、青単トロンで《白金の天使》に寄せた構築があった。天使を除去してくるカードを打ち消しで徹底的に守り抜くので守勢が楽になるのだ。《否定の契約》は0マナにして何のデメリットもない打ち消しになるし、これを守っているだけでとりあえず負けることはない。
クリーチャー除去があまり有用ではないノンクリ気味デッキを装って、相手がクリーチャー除去を入れ替えてしまった2戦目以降にこのカードで強襲するというプランもある*4

レガシーやヴィンテージでは、クリーチャー除去をあらかた抜いてしまっているプレイヤーがいる時期があった。そういう相手には、このカードを出すというのはほぼ勝利と同義である。
また初見殺しがそのまま勝利するMTGAのBO1ルールなどでも、ハメギミックのように機能していることがあるようだ。


もうひとつが、デメリットとして敗北に大きく近づいてしまうカードと併用するもの。
有名な例が、上記の《歯と爪》で連れてくるカードを《触れられざる者フェイジ》にするというもの。フェイジは手札から唱えて出さないとその物好きなコントローラーに抱き着いて敗北させてしまう能力を持つが、これを《白金の天使》が防いでくれる。スタンダードで成り立ったギミック。
さらに似たようなものには、自分のライブラリーを吹っ飛ばすのでまともに使えば次のターンに敗北する《地ならし屋》なんてのもある。やっぱりこれも《白金の天使》が防いでくれる。こっちはミラディン・ブロック内で成り立つギミック。

「自分がゲームに敗北する」という能力を含む4つの能力をひとつずつ選んでいく《悪魔の契約》と組み合わせるのもいい。《白金の天使》が出ている状態で「じゃあ敗北します!あっ防いだ!」となって、以降は3つの能力をひとつずつ扱えるってわけ。
次のターンにコストを支払わないと敗北する《否定の契約》や、軽量で追加ターンを得る代わりに敗北するデメリットを持つ《最後の賭け》などの敗北効果も防げる。
ライフが0になる可能性のある《大霊堂の戦利品》《むかつき》《向こう見ずな実験》なんかと組み合わせる手法もあるし、互いのライフやライブラリーをド派手にゴリゴリ削っていくようなカードと組み合わせるのもいいだろう。
《死の影》のサイズを大きくしつつ敗北から身を守るというのもある。

めちゃくちゃ変わったところでは、有名なプロポーズカード《Propossal》の文言「両方のプレイヤーが勝利する」を利用したもの。
《白金の天使》が戦場にいると、相手は勝てないのでこちらが一人勝ち。とんだ悪徳結婚じゃねーか。こんなこと考えてるから結婚できないんだよ*5


という感じで命を粗末にする無茶なプレイヤーを殺さないという使われ方をされることも多い。
ただしこれらの使い道にはもっと軽量かつ実用的なカードがいくつも存在している。今後さらに増えていくだろう。


つまり実は初見の「え、負けない!?これいいのかよ!?」というド派手なインパクトに対し、
やってることは結構地味というかみみっちいというかニッチというか、とにかくなんかあんまり派手な感じではない。
どちらかというと「除去できないならあなたの負けです」と迫るか、「敗北の約束なんて踏み倒すぜバーカ!」と居直るか。
陰湿で横暴、そういう意味では天使というよりもヤクザみたいなやつである。



さて、「○○しない」ときれいに断言されてしまうと、
「○○しないのか」と抜け道を探ってしまうのが人の性。
全ての領域をカバーしている、かに見える。
しかしやはり抜け道はあるもので、現在のところ「敗北しない」方で二つの穴が認められている。

一つ目。《白金の天使》をコントロールしているプレイヤーが自発的に負けを宣言する場合に限り、
《白金の天使》の能力を無視してよいことになっている。
すなわち投了である。
《白金の天使》を用いたゲームに興じるあまり、彼女とのデートに遅れても、アニヲタWikiでは一切責任を負わない。
ああ、居ないか。


二つ目。《白金の天使》は引き分けになることを禁止していない。
しかし、一般的な引き分けの形である「お互いのライフが同時に0になる」などでは、白金の天使の「ライフが0以下になっても無視」能力に抵触してしまい、《白金の天使》をコントロールしていないプレイヤーだけが死ぬことになる。

引き分けに持ち込む方法。それは、「任意で止めることの出来ない無限ループが発生した場合、強制的に引き分けになるルール」を適用させることだ。

停止出来ないならばどのような無限ループでも良いが、
せっかく白金の天使が戦場に出ているのだから、白金の天使が絡む無限ループを例に挙げておく。

ダークスティールの反応炉/Darksteel Reactor (4)
アーティファクト
ダークスティールの反応炉は破壊されない。
あなたのアップキープの開始時に、あなたはダークスティールの反応炉の上に蓄積カウンターを1個置いてもよい。
ダークスティールの反応炉の上に蓄積カウンターが20個以上置かれているとき、あなたはこのゲームに勝利する。



1.プレイヤーAの《ダークスティールの反応炉》に20個目のカウンターが乗ります。
2.勝利する能力が誘発します。
3.プレイヤーBの《白金の天使》によって何も起こりません。
4.しかし、反応炉の上には変わらずに20個のカウンターが。
5.2に戻る。


これで《白金の天使》を相手にしても引き分けに持ち込める。

…ま、これだって《白金の天使》のコントローラーが直接「敗北」
したワケではないのだが。



……とまあここまで説明してきたが、二つとも実戦ではまず起こり得ない。
仲間に頼んで再現に付き合ってもらおう。

え?居ない?またまたご冗談を。


あと当たり前であるが、ジャッジの裁定にも無力。
カードにマーキングをした、遅延行為をした、非紳士的行為をしたなどで「ゲームの敗北」以上の裁定を下されたときには、天使は守ってくれない。
ルールとマナーを守って楽しくMtG!



さて、ジャッジの話が出てきたので少し横道に。
かつてこの記事には、

「勝てそうにない時は足掻いて時間切れ引き分けを狙うのも一つの手である。
マナー違反と言われてもアニヲタWikiでは一切責任を負わない。」

という文章が載っていたのだが、一切責任を負わないと明言してたとしてもいいかげんなことを言うのはよろしくないので。
これ、ルール違反である。
マナーじゃなくて遅延行為」という立派なルール違反。上述の《白金の天使》でも防げないゲームロスをもらう可能性がある行為である。

他のTCGでは「最後まで諦めないことが大事だ。逆転のチャンスはあるかもしれない」という精神から、投了せずにゲームを続行することが合法として扱われていることも多い。
それどころか「投了を認めていない」「投了するのはマナー違反だ」と扱うゲームもある。おそらくこの部分を書いたアニヲタも、この精神で悪気なく書いたのだろう。
しかしMTGではプレイ時間を長引かせることを目的とした「時間稼ぎ」は処罰の対象になりうる
すでに1勝している状態で2戦目が長引いてしまい、かつ自分が敗色濃厚だが相手も攻めきれない」という状態では、現在のゲームを引き分けに持ち込めば1-0-1でマッチ勝利になるので試合を続けよう……という考え、つまり時間切れで逃げるなんてことを狙ったら怒られるってわけ。
詳しくはMTG wikiの「遅延行為」のあたりを参照のこと。

ただし《白金の天使》が戦場にある状態で相手にその対処札がなく、自分はこのまま耐え続けることで逆転用のカードを引いたり相手のライブラリーアウトなどで勝てるという状況などでこういう遅延疑惑を出されたなら、それは不当な投了要求なので拒否することが許される。
もし揉めてしまったらジャッジを呼んで「意味のない遅延」か「逆転の札を握っている自分と勝ち目のない相手」か、という状況を判断してもらうことになるのだが、ジャッジもそこまで暇じゃない
もしこういうルールに抵触しやすいデッキを使っている場合はこの辺のルールを事前にジャッジに聞いておこう。

このルールが有名になったのは《ドミナリアの英雄、テフェリー》《運命のきずな》を投入した初期型の【ターボネクサス】の頃。
テーブルトップにおいてはこのデッキはあらかじめ1勝している状態で2戦目の敗色が濃い場合、これらのカードで故意に無限ループを起こして相手の勝ち筋を奪って引き分けに持ち込む。1戦取っている状態、かつ負けないために正当なプレイングをしているのでこちらはOKという理屈らしい。
そもそもそんな状況に陥らないのが大事なので別途に勝ち筋を用意しておくことがほとんど。あくまで勝ちを拾う手段の中の一手段という扱いなのだが、その状況が起こらないわけではないので問題になってきてしまうのだ。
この勝ちを拾うための無限ループは「MOで同じことをすると自分の持ち時間がゴリゴリ削れて負けるのに紙だと勝利になるのか」「【ターボネクサス】側が負けている状態で無限ループを起こされた場合は投了すべきなのか」などで、
対戦相手としても知っておかないとちょっと不利になってしまうのだ。

この問題はMTGAにおいては、最終的に「《運命のきずな》の一部フォーマット禁止カード入りと全体持ち時間制が導入されてできなくなった*6」だが、それ以前にとある動画配信中のプロプレイヤーがこのループを受けてしまい2時間経過。
遅延行為の動画化が大きな騒ぎとなり、最終的にMtGAのディレクターが「【ターボネクサス】を使っていた対戦相手を一時的にBANする」という介入を行って決着を付けたことで大きな話題となった。
しかしテーブルトップのMTGには持ち時間制なんてものは存在しないため、現在でも問題の種火が残ってしまっている。
これについては昔から、「持ち時間」「無限ループの処理」などでも差異が生じることを受けて「テーブルトップとデジタルは、よく似た別のゲームである」と割り切ることが、プレイヤーの間で推奨されている*7

ぶっちゃけこの辺は昔からとにかく面倒だし、この話はTCGという娯楽の最も深い闇の部分になる。
他のTCGだと「TOD」みたいなデッキの話にもつながってきて荒れる話題になるし、人によっては話題に出されることすら不快がるのでこの辺で。とにかく「今は《白金の天使》しかいない状態で意味もなくあがいて時間切れを狙うのは絶対にやったらダメ」。
この記事を読んでいる人には起こらない事態だろうが、もしそういう状況になったのなら、上記のネクサスの話から総合的に判断してほしい。勝敗に対して意味があるなら認められるが、その意味が屁理屈の領域ならダメ。
そもそもMTGはそういうことが起こらないように除去が強いし、だからこそこのカードも除去耐性がガバガバだし、これが問題になるのはほんとに特殊な例なんだけどね。



さて、《白金の天使》の登場から数年後。ジェイスくじワールドウェイクにこのようなカードが登場した。

Abyssal Persecutor / 深淵の迫害者 (2)(黒)(黒)
クリーチャー — デーモン(Demon)
飛行、トランプル
あなたはゲームに勝利することはなく、あなたの対戦相手はゲームに敗北することはない。
6/6


逆《白金の天使》。このカードをコントロールしている限り自分は絶対に勝つことができない。その代わりスタッツは当時の4マナのクリーチャーの中ではずば抜けて優秀。
このカードのデザインは「軽くて強い代わりに非常に重いデメリットがついている」というもので、それ自体はどんなカードゲームにも存在する。そしてたいていの場合「デメリット?踏み倒して無視すりゃいいんだよ!」とギミックを研究されるが、ほとんどのカードは「こんなデメリット重いんじゃそもそも勝てねぇだろうが!」と諦められる。
だが「勝利できない」とルールで決められてしまう、というデメリットはなかなか聞いたことがないのではないだろうか。

このカードが戦場にある限り、対戦相手のライフを0にしても相手は敗北していないのでプレイを続けてしまう。そしてこの悪魔は自分で戦場からどこかへ立ち去ってくれるような気の利いた能力は持っていない。
ゆえにこのカードを処理する手段が別途必要になってくる。単体除去で狙い撃つ、全体除去に巻き込む、何かのコストにあてがうなど。

当然だが相手としては、敗北が遠い状態ならさっさと除去したがる。こんなもん生かしておいたらライフが速やかに削り切られてしまう。
しかし自分のライフが0になってしまったら逆にこの命綱を除去されないように立ち回る。つまり除去される前に自分が勝つとか、相手の除去を打ち消すとか。このように相手に逆転の猶予を与えてしまうという、かなり重いデメリットを持っている。実際対戦相手のライフを0にしたのはいいが、そこからこのカードを処理しあぐねて逆転負けを喫するということも少なくなかった。
また、このカードがいくら優秀でも別途処理手段を用意しなければならないということはカードを2枚使っているのと同義である。カード・アドバンテージという意味ではあまり優秀とは言えない……という考え方もある。

しかし逆に言えば、ライフをごりごり削るわけでも重い維持コストを要求するわけでも、対戦相手にドローやトークンやライフを提供するわけでも、デッキ構築を著しく縛るわけでもない。
ただ「こいつがいる間は自分が勝利できないだけ」でそれ以外のデメリットが一切ない。それどころか、中途半端に対処されるとむしろこちらに利益が生じる始末。
強い相手にはめっぽう強く、飛行とトランプルとパワー6がライフを速やかに刈り取ってくれる。
別途処理手段を用意しなくちゃいけない?こいつは黒のカードなんだし本来対戦相手に向けて使う除去をこいつに向けて使ったり、コストにクリーチャーを使うカードを唱えて打ち消す間もなく墓地に送ったり。
つまりこのカードを採用しても、デッキ構築に何ら悪影響は与えない……という考え方もある。

《白金の天使》は「相手に対処を迫るカード」としてハメ技のように活躍したが、逆天使こと《深淵の迫害者》はごく普通の「強力なクリーチャー」として非常に真っ当に活躍した。
主に青黒コントロールや黒単コントロールなど、元来除去が豊富なデッキにおいて相手に速度負けしないフィニッシャーとして使われ、
なんとスタンダードのみならずレガシーの黒単コントロールやデーモンストンピィなどでも使われたほどである。
好きなプレイヤーはこのデーモンのことがとことん好きだったのだ。

しかしこの「実際に勝利するまでのタイムラグ」は無視できない問題である。
「優秀かつ使いづらいデメリットがないメリット」と「絶対に勝利できない致命的なデメリット」が混在したこのカードは、それがゆえに敗北する、あるいは敗北スレスレの状況を招くこともあり、嫌うプレイヤーは本当に嫌う
これは結局根本的な部分が単なる好き嫌いの次元の話になるので、完全な平行線……つまり答えの出ない問だった。そのせいで当時はものすごい言い争いを引き起こし、
特にトーナメント志向の強いプレイヤーや黒使いはことあるごとにこのカードの有用性を口先マウント合戦議論した。トーナメント級の実用性と無視できないデメリットのせいで、とにかく論点に尽きないカードだったのだ。
逆に言えばそれだけ議論されるのは名カードの証ということでもある。弱いなら弱い、強いなら強いで終わりだもんね。当時の黒スレが盛り上がった理由のひとつでもある。

余談となるが、この一年後にミラディン包囲戦でも《ファイレクシアの十字軍》という優秀なスタッツとライフを詰められないデメリットを持つカードで同じようなレスバトルが繰り広げられることになる*8
愚痴を吐かれたり美学を語られたりと、まきぞえになった当時の非黒使いは「こいつらいつも議論してんな」と思ったものである。

さて、その後はメリット山盛りのクリーチャーやプレインズウォーカーが当然のように跳梁跋扈するように環境が変化したことで、《深淵の迫害者》が見られることはすっかりなくなってしまった。
しかし当時のスタンダードやレガシーに大きな華と争いの種を添えてくれたこのカード(とファイクル)は「MTGの、ひいてはカードゲームの奥深さ」を教えてくれた。

「敗北しないだけ、というデメリットが生み出す独特の観点と争点」
「デメリットとの向き合い方・付き合い方、そもそもそれはデメリットなのか?」
「重いが強いフィニッシャー(《墓所のタイタン》)か、軽いがデメリットを持つフィニッシャーか」

など、当時のスタンダードではビルダーの議論を呼ぶかなり面白い部類に入るクリーチャーだったのである。隣に続唱ジャンドやワムコやカウブレードさえなければもっと面白かっただろうに……



さて、気になるのがこの「絶対に負けない天使」と「絶対に勝てない悪魔」が同じプレイヤーのもとで戦場にいたらどうなるかという点。勝てない効果と負けない効果がループするのではないか?
答えは簡単、どちらのプレイヤーも敗北も勝利もできなくなるだけ。別に無限ループを引き起こすわけではない。
つまりお互いにライフもライブラリーも0になって手詰まりになっていたとしても、ルール上勝利も敗北もできないのでそのまま試合が続く。
現実とは意外と味気ないものなのである。ちなみにこれでもやっぱり引き分けや投了は禁止していない


彼女はアニヲタの追記・編集であり、暇な時間から引き出された文章だ。

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最終更新:2024年04月05日 18:03

*1 大体相手はよほどのことがないと投了する。

*2 たいていサイズが大きい上にデメリットのダメージを帳消しにできる《白金の帝像》が優先されるが、こちらはライフ以外の勝利手段にも対処できる。

*3 カーンが登場して以降の天使は、大体サイドボードに1枚積みということが増えた。これらのカードでアクセスするようである。

*4 上述の《向こう見ずな実験》がまさにそういう動きをする。

*5 これはMTG界隈に昔からある割と有名なジョークである。

*6 当時は「1ターン内の時間制限」のみあったため、こういった無限ターンであれば持ち時間切れ負けすることはなかった。

*7 その後レガシーやヴィンテージ、Pauperは、Unfinityの「ステッカー」のMO未実装によって本当にテーブルトップとデジタルが別のゲームになってしまっている。

*8 黒系のコントロールのフィニッシャーとして優秀だった。増殖ギミックや《墨蛾の生息地》もあるし、先制攻撃と感染とプロテクションのおかげでクリーチャー戦にものすごく強いし、何より3マナと軽い。ただしライフが詰められないので他のクリーチャーと共存させると非常に効率が悪いため、ここがものすごく嫌われた。当時トッププロとして公式のデッキ分析記事を連載していた津村健志氏も、上位の黒系コントロールのファイクルを見て、これらの観点から「墓所のタイタンのほうがいい」と意見を述べていた。