吸魂鬼(ディメンター)

登録日:2012/01/07 Sat 09:19:11
更新日:2024/04/25 Thu 10:32:42
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吸魂鬼は地上を歩く生物の中でも最も忌まわしい生物のひとつだ。最も暗く最も穢れた場所にはびこり、凋落と絶望の中に栄え、平和や希望、幸福を周囲の空気から吸い取ってしまう。


吸魂鬼(ディメンター)とは、ハリー・ポッターシリーズに登場する架空の生物である。



【外見】


一応は人間と似通った輪郭を持つが、酷くやせ細っており2mを超す長身である。

全身を黒いマントで覆い隠しており、後述する吸魂鬼の接吻を行う時以外には素顔を見せることはない。稀に袖から覗く手などは 「冷たい灰色に穢れたかさぶたに覆われた、まるで腐乱した水死体を思わせる」 と形容され、肉体の他の部分も同様の見た目であると推察される。

頭部の形状も人間に近いが、眼は存在せず(退化している?)薄い皮膚に覆われたのっぺら坊のような見た目になっている。
そのため種族として盲目であるという特徴を持つ。
ただ口は人間と同様の配置と形状であり、食事や吸魂鬼の接吻を行う際に用いられるなど重要な役割を果たしている。

総じて人間的な感覚からすれば恐ろしい外見を持った種族と言えるだろう。


【生態】


謎も多いが、基本的には人間の幸福な感情や魂それ自体を捕食し糧として活動する。

捕食の際には口を用い、大きく息を吸うようにして、人間の心から発せられる「幸福な感情」を吸い取る。
その力は凄まじく、吸魂鬼が近くにいるだけで人間は生きる活力を失ってしまう。
特に、ハリー・ポッターのように過去に悲惨な記憶を持つ者ほど吸魂鬼の影響を受けやすく、まともな身動きすらままならなくなり意識を失ってしまうことすらある。
またこの捕食行動と関連しているのかは分からないが、吸魂鬼の周囲は急激に気温が低下する描写が見られ、映画版では窓の水滴や湖が凍り付くなどの影響を与えていた。

また、外見の項目でも触れたように目に相当する感覚器官が存在しないため盲目である。
その代わりに人間の感情・生命力を感じ取ることができ、この能力で他の生物のことを認識している。

劇中で喋ることはないが、魔法省と協定を結んでアズカバンの看守を勤めたり、ある特定人物の個人的な依頼を請けていることから人間との意思疎通自体は可能なようだ。
また感情がないわけではなく、シリウス脱獄を受けた際には 「怒り狂っていた」 らしい。

寿命や繁殖方法などは明らかになっていないが、作中の描写では守護霊の呪文を除けば魔法に対してほぼ無敵とも言える耐性を持っており、食糧が足りている限り不滅に近い存在である可能性が高い。


【吸魂鬼の接吻】


この種族の最も恐るべき生態に、人間の魂そのものを餌食とする特異な捕食行動が挙げられる。

これは吸魂鬼(ディメンター)接吻(キス)と呼ばれ、犠牲者に対してその口で文字通り接吻を行い、魂を根こそぎ吸い取ってしまうのである。
この忌まわしい捕食行動の犠牲者は生ける屍のような状態になってしまい、元に戻す方法も見つかっていないため、実質的に死ぬのと変わりがない。死後の魂の救済の可能性すら奪ってしまう事から、むしろ 死より悍ましい状態 なのかもしれない。


【弱点】


一見無敵とも思える種族だが、弱点も存在する。

例えば先述した盲目であり、生物を感情・生命力で判別しているという点である。
こうした認知方法のため実は個人の判別が苦手であり、人間の区別は曖昧らしい。(ある程度は発せられる感情で認識できるようだが)
加えて人間以外の生物の感情・生命力を感知するのも苦手である。

また捕食行動に関しても、幸福な感情以外の感情や、人間以外の動物の感情は吸い取ることができず、動物もどき(アニメーガス)が動物に変身した場合も吸い取れなくなる。
(動物の精神は人間のそれに比べると単純なため、吸魂鬼には 「対象の精神が単純になった=他の連中と同じく精神を病んだ」 と認識するらしい。目が見えないのでそう感じるしかないというのもある)

作中ではこうした弱点を突かれ、犠牲者のすり替えや捕食行動の回避、脱走といった人間側の抵抗を許しており、物語にも大きな影響を与えることとなった。

シリウス・ブラックがアズカバンに収監されていながら精神を病まなかったのはこれら全てが原因で、まず記憶を吸われないために「自分はどういう経緯で収監されたのか」を覚えていたため自分を見失うことを避けられ、また苦しくなれば吸魂鬼が理解できない犬に変身して影響を最低限にできた。

それでも精神的にはギリギリに追い詰められ、抵抗する気力もなかった(収監された経緯を知っているだけに、収監の遠因が自分にあるという悔恨の念や、もう一人の犯人が自殺したという認識から自分が責めを負うべきだという自責の念もあったであろう)が、
さらに彼がとある新聞を読んで「怒りが入り交じった妄執」を抱いたところ、吸魂鬼はそれに干渉できず、彼の気力を大いに奮い立たせた。

ただし「動物もどき」にある程度詳しいはずのルーピンも「抵抗できるとは思いもしなかった」と言及しているため、動物への変身だけでやり過ごすのは限界がある模様。

また弱点とは異なるが、吸魂鬼に幸福な感情を吸われて鬱になった犠牲者にチョコレートを食べさせると回復効果があるらしい。ルーピンが犠牲者に対してこの対処を行ったと聞いたマダム・ポンフリーは「ちゃんとした治療法を知っている」と喜んでいた。


【守護霊の呪文】


『守護霊の呪文(エクスペクトパトローナム)』は吸魂鬼の弱点の最たるものである。

幸福な感情を増幅した銀の霞のようなバリアを展開し、吸魂鬼の接近を阻むことができる。
熟練した魔法使いならば自身の魂の在り方を反映した動物型の守護霊を呼び出すことができ、吸魂鬼を撃退することも可能。
事実上、魔法使いが吸魂鬼に対抗するための唯一の手段であり、ルーピン曰く特に強力な守護霊ならば吸魂鬼を追い払うのみならず 滅ぼしてしまうことすら可能 である。

ただし非常に難易度の高い魔法でもあり、成人した魔法使いでも 守護霊を呼び出せるレベルの使い手は一握り なのが玉に瑕である。


【魔法界における役割】


魔法界でもその性質から忌み嫌われているが、イギリス魔法界の刑務所にあたる 『アズカバン』 では魔法省との協定で看守の役割を果たしている。

【アズカバン】


アズカバンはかつてエクリズディスという名の強力な闇の魔法使いの隠れ家であり、 マグルの船乗りを誘い込んでは拷問して殺害していた という曰く付きの島だった。
エクリズディスの死後に島を発見した魔法省が調査隊を送った所、島は吸魂鬼のコロニーと化していることが判明した。
エグリズディスが吸魂鬼を使役していたのか、たまたま隠れ家とコロニーが同じ島にあったのか、彼の死後に勝手に棲みついたのかは不明である。
(なおこの時の調査隊の報告によると、吸魂鬼はこの島で見たものの中では 最も恐ろしくない存在だった とのこと。どんな地獄絵図だったのか…)

そんな曰く付きの島と吸魂鬼がなぜ監獄とその看守に納まったかというと、時の魔法大臣であるダモクレス・ロウルという人物が大きく関係している。


【吸魂鬼と魔法省の関係】


ダモクレス・ロウルは1700年代に反マグルの急先鋒として支持を集めて魔法大臣となった人物であり、非常に残虐、権威主義的な性格だった。
イギリス魔法界を綱紀粛清し、魔法使いが一丸となってマグルと対決することを目指した彼は、当時複数あった通常の魔法監獄を全て閉鎖し、 アズカバンと吸魂鬼を監獄と看守として再利用する ことを計画。人件費の削減(吸魂鬼は給料を欲しがらない)や脱獄の防止(当時の魔法監獄では脱獄が日常茶飯事だった)を盾に反対意見をねじ伏せて計画を推し進めた。
その結果、ロウルは吸魂鬼と協定を結び、吸魂鬼は囚人を提供される見返りにアズカバンの看守を担うこととなった。

ロウルの後任のパーキンソン魔法大臣もアズカバン容認派であり、ロウルとパーキンソンの在任期間の15年に渡ってアズカバンは監獄として運用され、その間の 脱獄はゼロ 。当初はあった批判的な意見も消えつつあるなど、その存在は既成事実化しかけていた。

そんな折に、アズカバンに懐疑的なエルドリッチ・ディゴリーがパーキンソンの後任として魔法大臣に就任。
ディゴリーは手始めにアズカバンを視察すると、吸魂鬼が囚人を気ままに餌食とし囚人が狂気と絶望に苦しめられている実態を目の当たりにして驚愕した。彼は視察を終えるとすぐさま調査委員会を立ち上げ、吸魂鬼を追放できないかを検討させた。 

しかし調査の結果判明したのはアズカバンの吸魂鬼はもはや手のつけようがないほど数と力を増しており、もしも協定を破棄して囚人の提供をやめれば、イギリス本島にアズカバンの吸魂鬼の大群が襲来するだろうという恐ろしい事実だった。

この調査結果により魔法省内部ではアズカバン容認派が多数派となり、吸魂鬼の追放計画は頓挫。
それでもディゴリーは代替案の策定を強く求めたが、このタイミングで龍痘という難病にかかり病没。その後の長きに渡り、歴代の魔法大臣は アズカバンの非人道的な環境に目をつぶり続けたのであった。


【アズカバンの看守として】


皮肉なことに、吸魂鬼は看守としては非常に優秀だった。

劇中ではシリウス・ブラッククラウチ・ジュニアの脱獄を許しているが、
逆に言うと 300年近くにわたりたったそれだけの脱獄しか許してこなかった ということでもある。

また吸魂鬼の恐怖は魔法界に知れ渡っており、誰であっても 「アズカバン送り」 という言葉には震え上がらざるをえなかった。
ハリーが「誰よりも勇敢」と語るルビウス・ハグリッドさえもが、一度吸魂鬼の脅威を体験してからは、再投獄を思うだけで震え上がり、口にすることも恐れたほど。
またハグリッドは 「法律を破ればアズカバンに送られる、それは何より怖い」 と述べたこともあり、吸魂鬼の恐怖が魔法界における犯罪抑止力となっていたのも、紛れもない事実なようである。
実際に、第一次魔法戦争後にイゴール・カルカロフが自分の知りうる闇の陣営の情報を全て吐いたのも、吸魂鬼とアズカバンへの恐怖によるものだった。

またアラスター・ムーディは悪人どもには然るべき処罰だと、アズカバンと吸魂鬼の果たす役割について比較的好意的に見ていた模様。
(四巻の過去編で、吸魂鬼への嫌悪を表すダンブルドアに「しかし、ああいう悪党どもには……」と言いかける場面がある)
現に名だたる死喰い人も吸魂鬼の影響には抗えず、闇の陣営随一の実力者であるベラトリックス・レストレンジでさえも投獄中はすっかりやつれてしまった。


闇の陣営として


経緯が経緯なので魔法省への忠誠心や看守としての使命感なぞまともにある筈もなく、ヴォルデモートの復活後は 「味わったことのない程の自由」 を約束されて魔法省から闇の陣営に寝返った。
この事によりアズカバンに収監されていた死喰い人が全て解放され、ヴォルデモートの勢力が強大化する一因となった。
(ただ前回ヴォルデモートが全盛期だった第一次魔法戦争の頃は、意外にも呼応はしていなかったらしい)

その他にも事実上アンブリッジの私兵として魔法法廷に駐在したり、反ヴォルデモート陣営の捜索や排除のために魔法界を徘徊するなど有力な戦力として活動していたようである。

その後、第二次魔法戦争終結後に魔法大臣に就任したキングスリー・シャックボルトはアズカバンの閉鎖を決定した。
アズカバンに巣くっていた吸魂鬼達の去就については述べられていないため不明である。



【各巻の活躍】


本編でもかなりの存在感を見せている。


【3巻】


本編初登場(アズカバン自体は二巻から言及)。
囚人シリウス・ブラック脱獄という不祥事に怒り狂い、再逮捕のためアズカバンを離れて各地に配置された。
特にシリウスが収監中「あいつはホグワーツにいる」と寝言を言っていたことを受けて、ホグワーツ魔法魔術学校やホグズミードを中心に警戒網を張る。
しかしホグワーツ校長アルバス・ダンブルドアは闇の生物として忌み嫌っており、校内への配置に大いに反対した。
懸念は的中しており、クィディッチの試合中に発せられる大量の「幸福な感情」に魅せられ、任務を忘れて会場に乱入、大いに吸い上げた。
ダンブルドアはこれに激怒している。

その後、ハリーは彼らの影響力を打破するために「守護霊の呪文」を熱心に訓練。
3巻後半では冤罪と分かったシリウスを救出するのに成功した。


【4巻】


バーテミウス・クラウチ・ジュニアが実は脱獄していたという知らせを受けて、魔法省大臣コーネリウス・ファッジに随伴して再びホグワーツの門をくぐる。
二年連続で脱獄されたことで頭にきていたのか、クラウチJrを見るやいなやいきなり「キス」を実行してしまった。

憂いの篩(ペンシーブ)」で描かれた過去編では、逮捕された死喰い人の法廷への護送を担当していた。
この記憶に飛び込んだハリーには吸魂鬼の影響などないにもかかわらず、その姿を見ただけで凍り付くようなあの感触を思い出していた。


【5巻】


なんと冒頭でいきなりダーズリー家の庭先、リトル・ウィンジングのプリベット通りに現れ、ハリーとその場にいたマグルの少年ダドリーを襲撃する。
これはハリーが間一髪「守護霊の呪文」を使って撃退したが、これが「未成年の魔法使いは学外で魔法を使わない」という禁則に触れたとして、ファッジからの攻撃を受ける切っ掛けとなる。
この突然の出現は、本巻後半でドローレス・アンブリッジから依頼を受けて動いたものと明かされた。

そして巻末のエピローグではいよいよ大々的に旗揚げしたヴォルデモート卿の陣営に与し、長らく務めてきたアズカバンでの仕事を放棄した。
当然、収監されていた元死喰い人も全員解放されている。


【6~7巻】


吸魂鬼がイギリス中に現れた為、イギリス全域が霧に覆われている(マグルには吸魂鬼が黒い霧に見える)。
また、7巻では死喰い人が吸魂鬼を呼び出す、制圧した魔法省に監視者のごとく居座るなど、完全に悪の手先になってしまっている。


【呪いの子】


とあるありえたかもしれない世界線で 大活躍 を見せる。


【余談】


作者のローリングがうつ病に罹患した時の心理状態を基に吸魂鬼の設定は考え出された。

またこうした恐るべき吸魂鬼だが、ダドリー・ダーズリーとハリーの関係修復に一役買っている。
7巻冒頭で、ダドリーは過去にハリーが吸魂鬼から自分を助けてくれたことへのお礼を言い、2人は熱い握手を交わす。
これは、ダドリーが吸魂鬼に吸われた時に脳裏に蘇った『過去の最悪の記憶』を見て激しい自己嫌悪に襲われ、
「自分はこのままじゃいけない」と自分の行いを省みるようになった為である。
物語終了後、2人はクリスマスカードを送りあう仲になっている。



追記・修正は吸魂鬼と接吻した方にお願いします。

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最終更新:2024年04月25日 10:32