アーマード・コア ザ・フェイク・イリュージョンズ

登録日:2014/10/20 Mon 13:55:11
更新日:2024/01/15 Mon 10:40:55
所要時間:約 7 分で読めます





一騎当千の彼らに敵はいない。
そして、友と呼べる者も……。

「……認めよう、君の力を。今この瞬間から、君はレイヴンだ」


この言葉に、心躍らせた者は多い。
けれども、この言葉の真の意味を知る者は数少ない----。



『アーマード・コア ザ・フェイク・イリュージョンズ』は、ファミ通文庫から刊行されているライトノベルアーマード・コアシリーズの公式小説作品。
著者は「お隣の魔法使いシリーズ」や「ファイアーエムブレム トラキア776」「紋章の謎」のノベライズを手がけた篠崎砂美。

ACシリーズにおける、記念すべき初のメディアミックス作品。




ストーリー

クロームムラクモ・ミレニアムの2大企業、そしてレイヴンズ・ネストの崩壊から約一年後。
依頼の斡旋所として機能していたネストという拠り所を失ったレイヴン達は、自分自身の力で依頼を見つけなければならなくなった。
レイヴン達は苦境の中で、ある者は企業との専属契約を結び、またある者はネスト時代のネットワークを頼りに自分たちの生きる場所を見出し、
ネスト崩壊の後もレイヴン達の活動が止まることはなかった。

アヴァロン・バレーのアリーナ。
ネスト崩壊後、各地のアリーナはレイヴンたちがその名を示しアピールするための場所として機能するようになり、アリーナを拠り所とするレイヴンも増えていた。リャノン・シードルもその一人であり、彼はアリーナを拠点としてレイヴン業を続けていた。
そんな彼の下に、一人の少女・ファータが依頼を持ち込んでくる。彼女の依頼は、彼女の住んでいたガル・シティを壊滅させた生体兵器・バグの駆除、そしてその親玉である「センチュリオン」を撃破すること。
リャノンはかつてネストのランカーであったレイヴン・ファルコンと共にこの依頼を完遂するが、ファータは「本当は、二人に与える報酬なんて最初からない」「バグを排除するために、レイヴンを利用した」ことを告げる。
激昂するファルコンだったが、リャノンは「依頼の不備を見抜けなかった自分の不手際」と嘯き、ファータを許す。
達観したリャノンの態度に納得の行かないファータはそれに対し、「報酬は働いて返す」と、強引にリャノンのパートナーとなることを宣言する。

ファータをパートナーとしたリャノン。そのリャノンに、ある日一通の依頼が届く。その依頼の差出人は、壊滅したはずのレイヴンズ・ネストであった。
不審に思いながらも、復活したネストの依頼を受諾したリャノン。
このネストの復活をきっかけに、リャノン、そしてファータは巨大な陰謀、そして戦いへと足を踏み入れることになる…。

概要・作風など

先にも述べたように、本作はACシリーズにおけるメディアミックス作品のはしりであり、
初代ACにおけるレイヴンズ・ネスト崩壊後の世界を舞台として、小説版オリジナルキャラクターであるリャノン・シードルとファータ・アマイを軸にしたオリジナルストーリーを描いている。

作者である篠崎砂美自身がACシリーズのプレイヤーであることもあって内容や設定は原作に忠実であり、作者自身が実際のゲームを用いて「敵の耐久力」「武器の破壊力」などを独自にリサーチしてゲーム内の描写に生かし、ゲームシステムを設定として落としこむなど、プレイヤーであるからこそのこだわりが随所にうかがえる。
また、ACのガレージとそこで行われているアッセンブル工程や、コックピット内部、オプションパーツの動作など原作で描かれていなかった部分の補完も積極的に行われている。ノベライズならではの精緻な描写には、レイヴンならにやりとできるはず。

また、後発のゲーム作品やノベライズ、二次創作ではお馴染みの「レイヴンの具体的な人物描写」を行った作品でもあり、台詞などが一切ない初代ACのランカーたちのプロフィールや人格の描写を行っている。
主人公・リャノンの相棒のようなポジションであるファルコンを筆頭にダイナマイトブルやリンクスミンクス、三日月、ヴォルフなど様々なランカーレイヴンに独自のキャラクター性、そして活躍の場面が与えられているのも見所。
インヴィジブルQなど意外なレイヴンも登場しており、ちょっとした「『初代』ランカーのオールスター」状態になっているため、
初代からのプレイヤーは懐かしい気分を味わえる。

総じて原作に忠実かつ、原作への愛を感じるノベライズであり、ファンアイテムとしての価値は高い。
現在では入手難度こそ高いが、旧作を知るレイヴンなら一度は手にとってみることをおすすめする。

登場人物

  • リャノン・シードル/カヒライス
本作の主人公であり、本作オリジナルキャラ。
アヴァロン・バレーのアリーナに身を置くレイヴン。
対戦相手であったファルコンから「無駄がない戦い方」「相当の腕」と評される通りの実力者だが、目立つことをよしとせず、アリーナにおいては常に勝率を中堅程度に調整している。
ミッションにおいても的確にバグの弱点を見抜いてアセンブルを変更するなど、レイヴンとしての実力の高さをうかがわせる。

レイヴン名は、アイルランドに伝わる女の妖精「リャナンシー」のもじり。
リャナンシーは人間の男性に対して愛を求め、愛を受け入れた男性に対して、詩の才能と美しい歌声を与える。
しかしその才能と引き換えにリャナンシーは男性から精気を奪っていく。芸術家が早死をするのはこのリャナンシーの愛を受け入れ、
芸術の才能を得たからだと言われている。

寡黙で、他者と馴れ合うことを拒む孤高のレイヴンであったが、ファータとの出会いをきっかけに、本来の人情に厚い一面を垣間見せるようになる。

乗機は、蒼色の中量二脚型AC「カヒライス」
プラズマキャノンとレーザーライフルによる中距離戦で敵を弱らせた後、レーザーブレードでとどめを刺すことをコンセプトとした機体だが、
リャノン本人の実力が高いため近距離における射撃戦にも対応できる万能さを見せる。
カヒライスはウェールズに伝わる妖精の名前で、死の前兆とされる。

+ ネタバレ注意
実は、クロームとムラクモ、そしてレイヴンズ・ネストを壊滅させた張本人。
つまり、彼こそが「イレギュラー」であり、初代ACの主人公その人である。
ネストと敵対した過去から「強すぎる力は身を滅ぼす」ことを身を持って認識し、ネスト壊滅以降は前述の通りその実力を偽り、目立つことを避けていた。
また、ファータをかつて助けた「蒼い四脚AC」のパイロットも彼。

ハスラー・ワンはイレギュラーである彼に執着しており、最終決戦においてリャノンとハスラー・ワンは再び死闘を演じることになる。

  • ファータ・アマイ
本作のヒロイン。
ガル・シティに住む一般市民。バグに占拠されたガル・シティから命からがら脱出し、アヴァロン・バレーでリャノンとファルコンに依頼を持ち込む。
過去に両親をバグに殺されており、バグの暴走事件の際にレイヴンの駆る蒼いACに守られたことをきっかけにレイヴンの存在を知る。
両親、そして町の人々を殺したバグを激しく憎んでおり、リャノンとファルコンにバグ駆除の依頼を持ち込むが、実は報酬を持っておらず、一度はファルコンに殺されかける。
しかし咄嗟に機転を利かせたリャノンに命を助けられ、それをきっかけに強引に押しかける形でリャノンのパートナーとなる。

我の強い性格であり、リャノン達を利用して裏で「特殊な細菌を使い、バグを完全に根絶する」という本来の目的を果たし、
歴戦のレイヴンに「騙して悪いが」をかますなど一般人にしてはかなり肝の据わった人物。
バグに関する高い知識とコンバットリグなどメカニックの操縦知識を始めとして、経理、オペレーターなど多方面に才能を発揮する。

  • ファルコン/ヴィジランティ
アヴァロン・バレーのアリーナに身を置くレイヴン。
レイヴンズ・ネストの元ランカー。

アメリカンな軽い性格の好青年。序盤でリャノンとアリーナにおいて対戦し、敗北しながらも彼の隠された実力を見抜く。
それを見込んでリャノンとコンビを組もうとするが素気無くあしらわれる。しかしその最中にファータと出会い、リャノンと共に依頼を受諾。
以降リャノン、そしてファータとはミッションで時折共闘する仲となる。

乗機のヴィジランティは標準的な中量二脚型AC。
ライフルとスラッグガンを軸にしたオールラウンドな機体。

  • ダイナマイトブル/ブロックバスター
レイヴンズ・ネストの元ランカー。
レスラーのようなガッチリとした体格が特徴のレイヴン。

作中の解説で「無謀で粗暴、思慮が浅く単純」と書かれてしまうほどの脳筋レイヴン。
殲滅戦を好む破壊ジャンキーであり、弾薬費やその場の状況を考えず、後先考えずに暴れまくり、時には作戦領域を廃墟に変えてしまう。

乗機のブロックバスターは武器腕を搭載した逆間接型AC。
腕のレーザーキャノンによる高火力が持ち味で、その威力を持って敵を完膚なきまでに破壊する。

  • リンクスミンクス/プリティキトゥン
レイヴンズ・ネストの元ランカー。
派手な髪型と豪快な性格が特徴の女レイヴン。

乗機のプリティキトゥンは軽量な4脚型AC。
武器腕ミサイルとスラッグガンという、防御を完全に捨てた完全攻撃型のAC。スピードを武器にその火力を敵に叩きつける。

  • ヴォルフ/フェンリル
レイヴンズ・ネストの元ランカー。

かつてのネストではランク4という上位に位置しており、復活した新ネストでも高いランクに位置しているベテラン中のベテラン。
常に余裕を持って任務を遂行することから高い任務の成功率を誇る。
リャノンと共闘した際には一度は戦場には不似合いなファータの存在を訝しむものの、リャノンのオペレーターと知ると戦力の一員として認め、非礼を詫びるなど紳士的。

乗機のフェンリルは武器腕装備のホバータンク型AC。この小説は武器腕率が高い
デュアルミサイルとマシンガン型武器腕により高い火力を有する。

  • 三日月/クレッセントlb
レイヴンズ・ネストの元ランカー。

紳士的な振る舞いが特徴のレイヴン。
戦場においては合理的な思考で戦いに臨み、任務遂行のためには味方の排除さえいとわない冷酷さを持つ。
任務の成功率は高く、クライアントからの信頼は厚い模様。

アヴァロン・バレーのアリーナにてリャノンの対戦相手として登場。しかし、ファータのオペレーティングを受けたリャノンに敗れている。
その後、ミッションにてリャノンと共闘するが…。

乗機のクレッセントlbは、くすんだ金色のカラーリングが特徴の重量二脚型AC
軽量なショットガンと中型ミサイルが特徴。

  • インヴィジブルQ/バウンティ
レイヴンズ・ネストの元ランカー。
登場シーンは少ないものの、作中では
「隠密作戦にはうってつけの男」「賞金首で、ネストとは疎遠」「ビジネスライクで、依頼の種別を問わない」と評されている。

  • ハスラー・ワン/ナインボール
言わずと知れた、レイヴンズ・ネストの元トップランカー

ネスト崩壊と同時に消息を絶っていたが、新ネストの始動とともに復活。
以前同様人前には決して姿を見せず、ブリーフィングにも音声だけで出席するなどそのスタンスは徹底している。
終盤にて登場し、リャノンたち腕利きのレイヴンと共に宇宙衛星”カエデ”の破壊ミッションに参加するが…。

+ ネタバレ注意
レイヴンならご存知とは思うが、ハスラー・ワンなるレイヴンは存在しない。
その正体はレイヴンズ・ネストのAIのいち側面であり、ネストの手駒・実働戦力といえる存在。
その思惑は「イレギュラー」になる可能性のある強い力を持ったレイヴンを一箇所に集め、まとめて抹殺すること。
そして再び2大企業が健在であった時と同じ力の均衡を作り出すことを狙いとする。
自らイレギュラーと認定したリャノンに執着し、本作オリジナルのコンバットリグ「ダグザ」と合体してレイヴン達を葬り去ろうとする。

乗機は勿論ナインボールだが、その武器構成は本作オリジナルのものに変更されている。
内訳はKARASAWA・肩部グレネード2門・月光という反則アセンブル。

余談

「BRAVE NEW WORLD」に登場するサーティの乗機「マーウォルス」のアセンブルは本作のナインボールへのオマージュが込められており、
KARASAWA・肩部グレネード2門・月光という本作のナインボールと同じ反則的アセンブルとなっている。

「マスターオブアリーナ」のディスク2に収録されたエクストラアリーナでは、ファルコン以外の本作に登場したレイヴンと戦うことができる。
ファルコンがいないのは、MoAが初代の前日譚という位置づけであり、初代の時点で「若手」であったファルコンはMoAの時点ではレイヴンになっていなかった為。

ACのメディアミックス、及び登場人物・ACの逆輸入は本作とMoAのノベライズ版で一度途絶え、「3ポータブル」でBNWとのコラボレーションが行われるまでの約10年の間、ACのメディアミックスは沈黙する事になる。

現在は絶版であり、入手が非常に困難な状況となっている。
発売からの時間経過もあって現在はかなりマイナーな存在であり、レイヴンの間でもあまり知られていない作品となっている。

なお、本来はMOAのノベライズを含めて三部作の予定で完結となる続編が出るはずであったが、実現はしなかった。
作者のHPには完結編のプロットが隠されているので、興味があるレイヴンは探してみよう。
初代、PP、MOAの主人公達が揃うのはまさに圧巻である。


君たちは有能すぎる。
記事を100%追記・修正するのならいいが、120%で追記・修正されては困るのだよ。
だから、消えて欲しい。それが冥殿の望みだ。



この項目が面白かったなら……\ポチッと/

+ タグ編集
  • タグ:
  • AC
  • アーマード・コア
  • ライトノベル
  • ノベライズ
  • ファミ通文庫
  • 篠崎砂美
  • アーマード・コア ザ・フェイク・イリュージョンズ

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2024年01月15日 10:40