獣の記憶(小林泰三)

登録日:2016/07/07 (木) 08:23:42
更新日:2023/09/25 Mon 04:10:36
所要時間:約 5 分で読めます







概要

『獣の記憶』とは角川ホラー文庫から出版されている短編小説集『肉食屋敷』に収録されている短編。
初出は『小説現代 1998年5月号増刊 メフィスト』
著者は『脳髄工場』『海を見る人』『AΩ 超空想科学怪奇譚』『酔歩する男』『アリス殺し』等で有名な小林泰三


あらすじ

主人公には悩みがあった。それは自分の中にもう一人の人格が存在していたのだ。
その人格は過激な性格で、主人公が眠っている時に様々な悪さを繰り返していた。

朝起きると鳥の死骸が放置されていたり部屋が散らかっていたり……。
自分のバイト先で迷惑を掛けたり……と。

主人公は困り果てており、精神科に通っているのに大した効果がない……。

そんな日々を繰り返すうちに、ついにもう一人の自分が殺人を犯してしまう――



登場人物

  • 主人公
慎重で繊細な性格をした本作の主人公。本作は彼の視点で進む。
自分の知らないところで勝手な行動をする敵対者に対し敵意を持っており、なんとかしようと思っている。
物事を冷静に捉える事が出来る頭脳を持ち、自己分析も得意で己の異常性を把握しつつも、
それ故に敵対者の影響を受けてしまい、最近では乱暴な言動を取る様になる。

ある日の昼、衛星放送の集金の人と揉めたりしながらバイトの面接のためにノートを持って外出し、
面接先でトラブルに見舞われつつも、病院でカウンセリングを受けながらノートを見ると、今朝確認した時にはなかったはずの切り傷だらけの裸の女が描かれていたのだ――
驚き、自宅に戻り死体を発見する。

  • 敵対者
主人公に宿っているというもう一人の人格。主人公は名前を与えず敵対者と呼称している。
彼に切り替わる瞬間を主人公は認識出来ず、主人公は敵対者の行動が記憶に残らないのに対し、
彼は主人公時の記憶をある程度は保持出来ているらしい。

現状は主人公の意識が眠りにつくと切り替わるようだが、
いつでも人格を変える事が出来る事を示唆し、自分の方があたかも主人格であるかのように振る舞う。
彼とはノートで意思疎通をしており、支離滅裂な文章で1ページを埋め尽くしている。
主人公とはこのノートでしか会話せず、それ以外の手段では交流しない。

自分も一応肉体を共有しているにも関わらず、とにかく主人公を破滅させる事を目的としている。

ついに殺人まで犯すが……。

探偵役。
毎週火曜日の午後1時半から45分間の間に主人公を診察している精神科医の女性。
主人公からすると部屋の壁に同化するように体の境界線が曖昧な女で、容姿は口元などしかハッキリしない。
主人公を観察し敵対者を消滅させるのではなく、和解して人格を統合してもらおうと考えていた。
しかし主人公の多重人格は特殊であり、そもそも彼女の前に敵対者の人格が現れなかった事から、
もしかしたら主人公の強い妄想が正体なのでは?とも考えていた。

敵対者が殺人を犯した事を知り、主人公を慰めつつ警察を呼んだため主人公から暴行を受ける。

  • 被害者の女
元ヤンキーで主人公が通っていた学校の先輩。
現在は娼婦をやっている他、元ヤンなので裏では恐喝して金を稼いでいる。
主人公宅で死体となって見つかる。




以下ストーリーのネタバレのため注意!





君と『敵対者』は別人だったんだ。別の人格ではなく、別の人物。

いったいぜんたい、どうして、こいつと自分が同一人物だなんて、思い込んじまったんだろね。

  • 真の敵対者
主人公は昼の12時に集金人と自宅で会話しているため、この時点で殺しているなら集金人が死体を見てる。
その後主人公はバイト先まで時間がないうえに主人公は焦りで転んだり、バイト先で土下座までしていたので多くの人々に目撃されており、犯行を行う時間がない。
つまり主人公は家を出た12時から精神科医の元に来るまでのアリバイがあり、
そして敵対者は死体が見つかる前に犯行を知り、さらに自分がやったと言っているので、この時点で二人が別人である事が確定出来るのだ。

精神科医の女が警察に連絡しようとしたのは、主人公の無実に気付いたため。

真犯人は主人公の古い知人であり、なおかつ心理学に精通している事を利用し、
彼を洗脳し、自分を多重人格と思い込ませることで、主人公を犯人に仕立て上げる事を思いついたようだ。

結果これ等の事に気付いた精神科医の女が警察を呼んで一緒に張り込んだ事で、
敵対者が主人公の部屋に乗り込んで犯人しか知らない事を呟いたことで逮捕された。

  • 主人公
どうやら催眠や暗示にかかりやすい体質と通っていた学校内では有名だったそうだ。
犯人はそれを知って利用したのだろう。

さらに主人公は週一でカラオケに通っていたようだ。それも不審な人物と一緒に。
店員に電話してみるとどうも歌わずに個室で相談しているという。
おそらくこの時に洗脳されたのだろう。



以下ストーリーの核心のため注意!





いったいぜんたい、どうしてあんたは自分を精神科医だと思い込んじまったんだろうね。


  • 精神科医の女
主人公は出掛ける時にノートを持って行っていた。しかもノートの中身を確認したうえでだ。
つまり敵対者があの内容を書く場合、犯行を終えてノートにその事を書くしかない。
そしてカウンセリングが終わった時には既に絵が描かれていた。
主人公がノートを書いたのでなければ、それを描ける人物はカウンセリング中ノートを手に取った精神科医の女だけである。

つまり精神科医の女こそ、この事件の真犯人、すなわち真の敵対者の正体だった――
主人公が病院でカウンセリングを受けていたのも、実際はカラオケ店で洗脳をしていたのだ。

しかし警察を呼んだのも、警察に真相を推理して話したのも、精神科医の女である
そう、精神科医の女はアリバイを作るために精神科医の女を演じる内に、本当の意味での多重人格になっており、本当に主人公の味方になってしまっていたのだ。
なので警察から見たら、自分と一緒にいた人物が勝手に主人公宅に乗り込んで行き自分達に逮捕された事になる。それも自分で事件の推理を披露して。




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最終更新:2023年09月25日 04:10