伝説の金属

登録日:2018/03/15 Thu 23:25:50
更新日:2024/01/31 Wed 22:15:11
所要時間:約 6 分で読めます




この記事では主にファンタジー系作品で多用される伝説の金属について取り扱う。



【架空の金属】

◇ミスリル◇

伝説の金属と言えばこれ。「魔法銀」などの名で呼ばれることも。
初出はJ・R・R・トールキンの『指輪物語』。
創作されたのが比較的早かったためか、イメージのブレがあまりない。

より強く羽より軽い上に、銀より輝いている」不思議な金属で、極めて希少な存在とされる。
最近の作品では、オリハルコンよりは格下の中級クラスの素材として扱われることが多くなっている気がする。

魔法との相性が非常によく、魔法使いの武具に使っても魔法の扱いを阻害しないとされる。
また、「銀」の性質を持っているためか聖なる力を宿しており、アンデッドに対して非常に有効であることも。
総じて希少性を除けば大きなデメリットはなく、バランスの良い素材として扱われることが多い。

元ネタの指輪物語では「Mithril」だが、他のファンタジー作品などでは綴りを変えて「Mythril」にしていることが多い。
『ダンジョンズ&ドラゴンズ』では「ミスラル(Mithral)」。

日本では特に『ファイナルファンタジー』シリーズで頻繁に登場することで有名。初期作品では出典通り希少な金属として登場していたが、シリーズを追うごとに安売りが進み「はがねの装備」ぐらいの扱いになってしまった。あまりにも有難みがない。
一方『ドラゴンクエスト』では一部作品に「ミスリルヘルム」が登場するぐらいで、後は「魔法の鎧」や「勇者の盾(ロトの盾)」などが裏設定でミスリル製とされている程度。
フルメタル・パニック!』では組織の名前であり、ミスリルに敵対する組織は「架空の銀」である「ミスリル」に対抗して水銀合金の「アマルガム」を名乗っている。

なお、トルーキンの作品群には、他に『ガルヴォルン』という架空の金属も登場する。
シンダール・エルフの一人、エオルが創り出した金属で、薄く打ち延ばされてもあらゆる刃や矢を防ぐほどの堅牢さを誇ったという。
意味は「黒い輝き」で、その名の通り黒玉のように黒々と輝くという。
しかし、認知度はミスリルとは雲泥の差…。
ミスリルとガルヴォルン、どうして差がついたのか…慢心、環境(登場作品)の違い…。


◇アダマンチウム◇

本来は「アダマント」で「壊れない」という形容詞だが、そこに鉱石を意味する「-ium」「-ite」を着けて創作された金属。
「アダマント」「アダマンティン」「アダマンタイト」のような名で登場することも。

特性は一言で言うと硬い(なにしろ語源がダイヤモンドと共通ですから)。そんだけ。
オリハルコンやミスリルと比べると、魔法的な特性はほとんどなく、ひたすら物理一辺倒な無骨さを持つことが多い。
それだけに、単純な物理的特性については非常に優れていることが多く、脳筋系武具の素材としては最高峰。
また、非常に重いために扱える人が限られてしまったりと、癖のある性質を秘めていることもある。

なおアダマントは「磁石(lapis adamans=慈しむ石)」を意味する語として用いられたこともあるので、
特に古い文献ではどのような意味で用いられているのかは慎重に判断する必要がある。

ジョナサン・スイフトの『ガリバー旅行記』では飛ぶ島"ラピュータ"の底面を構成する物質として登場する。
ラピュタは厚さ200ヤード(約182m)の1枚のアダマントの板により支えられており、
これを磁石でコントロールすることで空中を思い通りに動かすことができるという。
その性質や文脈からみて、このアダマントは磁石を意味している可能性も高い。

指輪物語で名前だけはアダマンティンとして登場しており、金属の名前として広まったのは『ダンジョンズ&ドラゴンズ』から。
(D&Dではアダマンチウムという金属を使った合金がアダマンティン)

アメコミではウルヴァリンの材質である合金のアダマンチウムが有名。

『ファイナルファンタジー』では、アダマンタイトがエクスカリバーの素材として登場した他、アダマンタイト製のカメ「アダマンタイマイ」なんて化け物が登場したことも。


◇オリハルコン◇

伝説金属の最高峰。オレイカルコスとも呼ばれる。
元になったのは、プラトンの書いた「クリティアス」という書籍の中のアトランティスに関する記述。
ちなみに創作ではよくアトランティスは超古代文明として描かれているが、
プラトンの記述を見る限りオリハルコン以外に特にこれと言って優れた技術を以っている描写はない。
また「アトランティスと古代ギリシャは互角に戦った」という描写もあるので、古代ギリシャにもアトランティスに匹敵する文明があったはずであるが、
「海に沈んだ古代文明アトランティス」の話はあっても「アトランティスと互角に戦った超文明ギリシャ」の話は滅多にない。ロマンの差だね

後の創作でかなりイメージの変遷があった金属である。クリティアスの表現を見る限り単なる銅の一種であり、
「硬い」だとか「不思議な性質を持つ」ということはなく単なる装飾品として扱われている。
恐らくは、黄銅(真鍮)のことだったのではないか、と現在では考えられている。
「金に次ぐ価値を持つ」とあるので希少な金属なのは間違いなかったようだが、逆に言えば金には劣る程度の常識的な価値しかなかったことになる。

その後、古代文明やアトランティスブームが起きると共に「オリハルコン」という不思議な金属の価値も飛躍的に高まっていったと考えられる。

日本では、恐らく手塚治虫原作の『海のトリトン』辺りが大衆に「オリハルコン」の名前を広めた最初期になると思われる。(原作漫画には無いアニメ独自設定だけど)
その後も多くのファンタジー作品に登場しており、基本的に登場すれば間違いなく最強クラスの金属として存在感を発揮する。
アトランティスなんて影も形もない作品でも平然と登場する。金属どころか宝石として登場する場合もある。

特に有名なのは、『ドラゴンクエスト3』の王者の剣修復イベントだろう。なんで牧場にオリハルコンが落ちているんだ…
ちなみにドラクエで最もよく登場しているオリハルコン製の武器は「オリハルコンの牙」である。テリーの相棒
8』では錬金システムでの、強力な武具や道具の材料となる。
ダイの大冒険』でも、主人公の最強武器として登場したり、オリハルコンでできた敵キャラが登場したりしている。


仮面ライダー剣』では初期からのライダー2人の変身エフェクト(で有名なアレ)が「オリハルコンエレメント」、ライダーアーマーの装甲が「オリハルコンプラチナ」製とされている。
後者こそ超硬度の金属のようだが、前者に至ってはエネルギースクリーンである。もはや実体ですらない。

遊戯王シリーズでは遊戯王デュエルモンスターズのドーマ編にて「オレイカルコス」の名称でカード名や鉱石名等として登場しつつ*1、続編GXにて、「オリハルコンの眼」と別名称かつ全く別の存在として登場したりもしている。

元々曖昧な記述しかなかったこともあり、作品によっては性質が大きく変わり、場合によっては「液体金属」なんて例も。
もはや金属ですらないものすらあり、あさりよしとおの漫画『ワッハマン』に登場するオリハルコンは「光を物質化するまで圧縮したもの」である。

悲惨な扱いのオリハルコンの一例としては『スレイヤーズ』が挙げられる。
この作品では、オリハルコンは全く強くない
希少かつ魔法的に優秀な特性を持つので取引価格は高いものの、「総オリハルコン製の剣」などは小枝一本斬るのがやっとというなまくらになってしまう。


◇ヒヒイロカネ◇

「緋緋色金」などとも書く。
数少ない和風の伝説金属として根強い人気を誇る逸品。「青生生魂(アポイタカラ)」とも。
ただし、その元ネタはすさまじく胡散臭い
最初に登場したのは『竹内文書』という書物で、これは
  • 古代日本には空飛ぶ船があった
  • 天皇家は世界を支配していた
  • キリストはかつて日本に来て日本で亡くなった
といった民明書房が如き文章が真面目に書かれている。
なおオリジナルの文章は戦時中に戦災で焼失し現存しないとされる。

竹内文書には特に具体的な性質について記述はないので、フィクションでも大体好き放題に扱われている金属。
とりあえず「赤い」という特徴は概ね共通するが、それ以外にほぼ共通点はないと言っていいだろう。
和風繋がりで日本刀などの素材に用いられることもあるが、この金属を前面に押し出すと、真っ赤な刀身の刀などというド派手な代物になってしまうのが難点。
もしくは、オリハルコンの別名や亜種として扱う作品もちらほら。

知名度があるところを挙げれば
仮面ライダーカブト』の主役ヒーローの装甲材(「ヒヒイロノオオガネ」なる強化版も)
吉永さん家のガーゴイル』の自動石像の装甲
あたりだろうか。

最近では『グランブルーファンタジー』における素材アイテムとして話題になることが多い。
ゲーム内における最も貴重なアイテムであり、ゲーム内の最上級キャラの加入素材として使用される。あと武器の上限開放。
入手方法が不定期に開催される『決戦!星の古戦場』という所属する騎空団(他ゲームで言うクラン)の対抗戦や『四象降臨』というイベント、もしくはいくつかの高難易度マルチで極々々低確率でドロップする。余りのドロップ率の低さにマルチで入手することは通称『脱法』と呼ばれる。
今日もお空ではヒヒイロを求めたきくうしさまが強大な星晶獣を血祭りにあげている。


◇アンオブタニウム◇

英:Unobtainium
名前は英単語のobtainable(手に入れられる)に、否定形(un)と金属元素の接尾語(-ium)を合成したもの。
つまりは「入手不可能な金属」の意。
ある単一の元素ではなく、「架空の金属」の総称の様に用いられる。
元々は創作ではなく工学や思考実験で用いられ、人工衛星の打ち上げもままならなかった時代には、
「宇宙の過酷な環境・用法に耐える理想的な金属」の意味でも使われていた。
そこから、「実在しないもの(ないものねだり)」という意味を含んだ揶揄にも用いられる様になった。

創作ではファンタジーよりどちらかと言えばSFに多く登場する。その名の通り、大抵は極めて希少なレアメタルという扱いである。

映画『ザ・コア』では地底探査船の外殻に使われた素材として登場しており、
チタンとタングステンの合金で、熱と圧力をエネルギーに変換できる能力を持っている。

また映画『アバター』ではストーリーの根幹を担う物質として登場。
常温超電導の性質と極めて強力な磁力を持ち、地球の困窮したエネルギー事情を救う可能性があるとされる。
地球での取引価格は1kg当たり2000万ドル(同質量の金の約400倍の値段)というアンオブタニウムの名に相応しい超希少物質。


◇神珍鉄◇

「神珍鐵」とも表記される。
日本では知らぬものはほぼいないと思われる、中国の古典作品『西遊記』。
その主人公である、斉天大聖・孫悟空が持つ「如意棒(正式名称:如意金箍棒(にょいきんこぼう))」の材質とされている金属。
ただ、「神珍鉄」もまた器物としての名前であり、材質の方は『九転鑌鉄』と言われることも。



製鋼

高品質な鋼の量産技術も、幾度か失伝やそれに近い危機に陥っている。
製鋼技術が後退した時代には、かつて作られていた高品質鋼材や其れを使った製品そのものが伝説扱いされていた。
以下はその代表例。

◇ダマスカス鋼◇

他の伝説の金属と違い、実在していたが、製造法が歴史の彼方に消えてしまったというガチのロストテクノロジー。
インドで作られ、シリアのダマスカスで売られていたことからこの名がついた。別名は「ウーツ鋼」。
紀元前から作られており、そのすさまじい切れ味と「決して錆びない」という不思議な特性、そして一種異様な刃紋から特にヨーロッパで高い人気を誇った。
が、遅くても20世紀に入る頃には製造法が失伝してしまう。現在売られている「ダマスカス鋼」とされる製品は、当時のそれを完全再現できていない。
表面に浮かぶ木目状の模様が最大の特徴で、その再現に多くの研究者が挑んでいる。*2
最近の研究では、現代の最新技術であるカーボンナノチューブらしき構造が確認されたという報告もあり、いまだに深いロマンを宿している金属である。

伝説で語られる作り方では、焼き入れの際奴隷の体に突き刺して焼き入れを行うという衝撃の制作方法。
奴隷の魂が乗り移って金属が硬くなるそうな。
ちなみに中世になると「赤毛の少年の尿で焼き入れを行うこと」に変化している

なお、日本刀に見られる「刃紋」とダマスカス鋼の木目状の模様は性質が全く異なる。

ONE PIECE』に登場する首領クリークは「ウーツ鋼」製の武具を纏っているが、これはウーツ鋼の特徴である木目がなく、
さらに「ダイヤモンドより硬い」らしいので名前だけ借りた別物。
(しかも作中では初期の主人公の最強技2発でぶち破られていた)

また、上記ヒヒイロカネと同じくダマスカス鋼も『グランブルーファンタジー』における素材アイテムとして採用されている。
ヒヒイロカネがキャラの加入素材として使用されるため武器の上限開放を行うのは専らこちら。
だがこちらも非常に貴重な素材アイテムとなっており、ダマスカス鋼の直接入手はイベント報酬ぐらいしか手段がない。
そのため、プレイヤーがマルチから回収できるのはダマスカス鋼の素材アイテム*3のそのまた素材のアイテム*4となっている。

上記ヒヒイロカネと同じく『仮面ライダーカブト』の戦闘員ゼクトルーパーの主要武器『マシンガンブレード』の 銃身下部からは厚さ3㎝の鉄すら切り裂くウーツ鋼製のブレードが展開する


◇ノリクム鋼◇

ダマスカス鋼同様に実在していたものの製造法が歴史の彼方に消えてしまったが、近代になって再現と量産化に成功した素材。
ローマ帝国の快進撃を支えた伝説的な素材で、ノリクム(現在のオーストリア)で製造されていた。
中世になって技術の後退と資源の枯渇によって失伝されていたが、製鋼時のスラグの調査から通常の炭素鋼より多量の1%強のマンガンを含んだ合金鋼である事が判明。
20世紀初頭の英国で艦船・橋梁用素材として有名なデュコール鋼として復活し、同盟国の日本にも技術導入が為された。
マンガンを主添加物にした合金鋼は炭素分が多めのデュコール鋼と同等素材のSMn433構造鋼や発条・耐衝撃工具・機械部品に使われるSUP6、SUP7発条鋼等が規格化されており、現代文明を支えている。


◇玉鋼◇

「たまはがね」。ダマスカス鋼と同じく実在の金属だが、半ば伝説化している存在。
現在でも主に日本刀の材料として製造されてはいるが、やはり製造法に失伝した部分が多く、作り方のわかっていない日本刀は多い。
日本伝統のたたら製法で作られており、ごくわずかに不純物を含むのが特徴。
日本刀の特性である「柔らかく粘り強い鋼」と「硬く鋭い鋼」を組み合わせた製法はこの玉鋼があってこそ。
ファンタジーでは、やはり日本刀の素材として要求されることが多い。単なる「鋼」とはレベルの違う最高級の素材の一つ。

漫画『神力契約者M&Y』では主要人物の一人が巨大な杭を「土」「水」「風」の力で玉鋼に生成し撃ち込むという技「白虹閃」を見せた。

なお、名前にもある通り本来は日本刀にだけ用いられる素材ではなく、大砲の玉などに用いられていた金属である。






伝説の金属に思いを馳せながら追記・修正お願いします。

この項目が面白かったなら……\ポチッと/

+ タグ編集
  • タグ:
  • 金属
  • レアメタル
  • ファンタジー
  • ロマン
  • ミスリル
  • アダマンタイト
  • オリハルコン
  • ダマスカス鋼
  • ヒヒイロカネ
  • 伝説の金属

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2024年01月31日 22:15

*1 ドーマ編ではプラトン関連の用語やモチーフが多い。

*2 「木目状の模様」をした包丁なら販売されている。

*3 通称『カスカス』

*4 通称『カスカスカス』