ファンタジア(映画)

登録日:2018/11/26 Mon 02:42:05
更新日:2024/03/29 Fri 16:03:20
所要時間:約 8 分で読めます




ファンタジア』とは、1940年に発表されたディズニースタジオの長編映画作品の一つ。
日本では1955年に公開された。
クラシックの名曲を題材に、クリエイターがイマジネーションを膨らませて描いた映像芸術」という他に類を見ない独創的なコンセプトのもと製作された。
そのため特に明確なストーリーは無いが、一度見れば非常に強烈なインパクトを与えられること請け合いの傑作である。

残念ながら、日本における本作の上映権は2021年をもって失われたので、映画館の大スクリーンで鑑賞できる機会はまず無くなってしまうだろう。
だが古い作品なので現在はパブリックドメイン扱いになっており、安売りDVDの定番にもなっているため今後もそちらでなら楽しむことはできる。
特に吹き替えが無くても十分楽しめる作品なので、そうしたDVDにありがちな吹き替え声優の低クオリティぶりには悩まされなくて済む。
というか、公式版にはカットされている部分があるため、その部分も見たい人にはむしろパブリックドメイン版の方が推奨されているという変わった立ち位置の作品でもある。探せば動画サイトで視聴することも容易い。



映画全体の構成

実写パートとアニメーションパートが交互に差し挟まれる。
前者にはレオポルド・ストコフスキー指揮、フィラデルフィア管弦楽団による実際の演奏風景と共にナレーションによる次の曲及び映像に関する解説が入り、後者は全編クラシック音楽のみが流れ台詞は一切無い*1
実際の演奏風景をほぼそのまま使っている分、ストコフスキーの足音やオケの音出しなどの様子もノーカットで含まれており、これが臨場感をより高めてくれている。

また実は映画史上初の完全ステレオ作品で、その音の重厚感は半端ではない。

他の作品にまで跨いで登場するキャラクターはミッキーマウスぐらいで、ディズニー作品の中でもかなり異色。


『トッカータとフーガ ニ短調』

ご存じ「大バッハ」ことJ.S.バッハ作曲のオルガン曲。
ある年代には「タラリ〜ン鼻から牛乳〜♪」の元ネタと言った方が通じやすいかもしれない。
本作では管弦楽版で演奏され、トッカータ部は実写パートで楽器紹介も兼ねているが、暗闇と色付きライトによる影が地味に怖い。
フーガ部からアニメパートに入るが、キャラクターは一切登場せず、抽象的な楽器のアニメーションが繰り広げられるのみ。
だが、音楽に合わせて滑らかに動きまくる楽器のアニメーションはなかなか見入ってしまうものがある。
抽象的でありながらも、どこかキャラクターじみたコミカルな動きをするのにも注目されたい。


組曲『くるみ割り人形』

チャイコフスキー作曲の、クリスマスを題材としたバレエ。
ただ、タイトルに反してくるみ割り人形そのものは登場しない。あくまで本作はバレエのアニメ化ではなく「音楽からイマジネーションを膨らませた」作品だからだ。
この曲に対して与えられた映像は、幻想的な妖精たちの踊り
音に合わせて色付いていく美しい花の映像美、さらには蜘蛛の巣を伝う水滴の一滴一滴までこだわった動きが美しい。
そして曲調がガラッと変わると、コミカルなキノコたちのダンスになり、美しい花たちのバレエ、妖しげな水底の情景へと切り替わり、アザミたちの情熱的なコサックダンスまで、曲調の変化に合わせて多彩なダンスが披露される。
最後は四季の移り変わりをそれぞれの季節を表す妖精たちで表したものになる。ラストで舞い降りる雪の結晶の美しさは、今見ても色あせない。


交響詩『魔法使いの弟子』

本映画で一躍有名となった、ポール・デュカス作曲の交響詩。
そして、本作の映像の中では最も有名だろうパートである。珍しく、元の曲のイメージからそのままストーリーを膨らませている。
大まかなあらすじは「大魔法使いイェン・シッド」の弟子である見習い魔法使いミッキーが、師匠が寝ている間に魔法を使って楽をしようとしたけれど……というもの。
音楽も合わさり、コミカルなのに、どこか恐怖感を抱かせる独特の雰囲気に仕上がっている。また、ファゴットが大いに存在感を発揮している。

  • ミッキーマウス
このパートでの設定は、見習い魔法使い。
師匠が寝ている間に水くみを命じられる……が、彼が置いていった魔法の帽子を面白半分に被る。
そして中途半端な能力で箒に命を吹き込んで、水くみをさせようと思いつく。
だが最初は上手く行ったものの、途中でうっかり居眠り。その間に箒は暴走を始めてしまい、目覚めてみたら部屋は水浸し!慌ててあの手この手で止めようと試みるが……?
この「青地に白い星柄のとんがり帽子と赤いローブ」という姿のミッキーは、彼の定番衣装の一つとして定着するに至った。
なお、東京ディズニーランドのアトラクション「ミッキーのフィルハーマジック」では、このポジションをドナルドダックが、下記のイェン・シッドのポジションをミッキーが担っている。

  • イェン・シッド
名前は「ディズニー(Disney)」の逆読み。厳格そうな魔法使いの老爺。
ミッキーのせいで地下が水浸しになってしまったのを、魔法一発で解決した。悪役面ではあるが、別にヴィランではない。
このパートに登場するだけのキャラクターだったが、後に『KINGDOM HEARTSシリーズ』にミッキーの師匠という設定のまま登場し、重要キャラの一角になった。

ただの箒……だったが、ミッキーが魔法をかけたことで、手が生えた上に二足歩行ができるようになった*2
だがミッキーが中途半端なところで寝てしまったため、暴走。延々と水汲みを続けることに。
そのため、本人(?)には何の非もないのに、パニクって止めようとした ミッキーにでたたき割られる 。この時の映像はめっちゃ怖い。
しかし、いつの間にか 自己増殖機能 まで身に着けており、割られた破片からさらに増殖
アメーバかな?何百体にも増えて組んで無限に水くみを続けようとしたせいでミッキーは危うく溺れかけるも、最後はイェン・シッドが魔法を解除したことで、ただの箒に戻った。

なお、このパートの後、 アニメのミッキーがストフコスキーと握手する という演出が入る。
しかしやり取りの締めくくりにミッキーは「また後で」と言うが、結局そのシーンを最後に全く出てこなくなる


バレエ音楽『春の祭典』

初演が大荒れになったことで有名な、ストラヴィンスキーのバレエ音楽。
本作で使われている楽曲の中では最も新しい作品で、なんと映画公開は初演からたった27年。作曲者も公開当時存命だった。
内容は 数十億年前の地球誕生から恐竜絶滅に至るまで を描き切ったもの。総演奏時間20分以上という大作パート。
アメーバなどの原生生物から、肺魚、そして主役ともいえる恐竜まで、前3つのパートとは異なり、かなり写実的に描写されているのが特徴。
生物同士の捕食など、荒々しい描写が多く、最も残酷と言えるかもしれない(さすがに直接的な流血は避けられているが)。
特に、クライマックスの「ティラノサウルスVSステゴサウルス」はかなり怖い。
ちなみにこの作品では恐竜絶滅の原因として「異常乾燥」を採用している*3
乾燥していく地球でわずかな水をもとめてさまよい、やがて一体また一体、と力尽きてゆく恐竜たちの姿は子供が見たらトラウマものかもしれない。
なお、時代的に仕方ないが、古生物の描写は今の視点から見ると変な点が多い*4
余談だが、後にディズニー・アニメーションは水に溢れた新天地を求め旅をする恐竜達を描いたCG映画「ダイナソー」を生み出す。


田園交響曲

ベートーヴェンの交響曲第6番『田園』。
モチーフは「ギリシャ神話」で、前パートから打って変わって平和で牧歌的なオリンポス山のふもとでの生活が描かれている。
ただし、最後まで牧歌的に進むわけではなく、中盤になると嵐と共に空からゼウスがやってきて……。ちなみにこの作品での彼は完全に悪役である。原典とそんな変わらないだろとか言うな。
たぶん時代的に最初期の「ケンタウロス娘」*5の登場する作品で、かつ『春の祭典』に次いで長いパート。リア獣たちのムカつく性活平和でほのぼのとした演出がかなり長く、話が動くまで時間がかかるため、人によっては退屈かもしれない。冒頭でおめかしをするケンタウロス娘や、愛くるしい仔ペガサスとキューピットの戯れがかわいい。
また、酒の神バッカスのお付きのロバは(スタジオが同じなので当然といえばそうだが)『ピノキオ』の終盤に出てくるロバにそっくり。

なお、もともとベートーヴェン自身がこの曲にはっきりとしたイメージを与えて作曲したものであるため、それと全く異なった映像を付け加えたことに関しては批判が多かったらしい。


『時の踊り』

ポンキエッリ作曲のバレエ『ラ・ジョコンダ』の一曲。今回は全編通してバレエで統一されている。
極度に擬人化された、いかにもディズニーらしい動物キャラクターが舞い踊る、一番「ディズニー」という雰囲気が表現されたパートと言えるだろう。
主役をあえて美しい動物ではなく、カバのプリマドンナ(ヒヤシンス・ヒッポダチョウのバレリーナ(ミラ・ユパノーバに設定したことで、滑稽さがよく表現されている。
更にトゥシューズを履いて軽やかに踊るゾウエレファンシーネなど、印象に残るシーンが多い。
中盤からは乱入してきたワニの一団(ベン・アリ・ゲーターとの追いかけっこになるが、まるで『トムとジェリー』とコラボしたかのようなコミカルなドタバタ劇は必見。


『禿山の一夜』&『アヴェ・マリア』

ラストを飾るのは、「闇と光」「悪と正義」という正反対のイメージを持つ2曲を繋ぎ合わせた異色のパート。
前半はムソルグスキー作曲の交響詩。よみがえった悪魔チェルナボーグが世界中を闇に染めようとする動き、そして悪魔たちの狂乱の宴が不安をあおる曲調に乗せて見事に表現されている。
『春の祭典』とはまた違ったファンタジックな不気味さがあり、これはこれで怖い。
ちなみに、今はコンプラにめちゃくちゃ厳しくなったディズニーではまず許可されないだろう女性の乳首が描かれている。悪魔のだけど。

後半は自然な繋ぎでシューベルトの作品へと移行し、清浄な鐘の音と共に、悪魔は地獄へ、彷徨える魂はあるべき場所へと帰っていく。
そしてチェルナボーグもまた、再び眠りに就き、世界に安息が訪れるのであった。
最後は平和を祈る巡礼者たちの祈りの行進で締められる。

ちなみにチェルナボーグは『KINGDOM HEARTS』で、ラストステージである「エンド・オブ・ザ・ワールド」の中ボスを務めるという大役を与えられている(なお、本編で最後に登場するディズニーヴィランでもある)。
しかし、「チェルナボーグ」という名前が微妙に知られていないせいか、作中では「ファンタジアの魔人」というなんか微妙な感じで呼ばれている。
あと、強さもはっきり言って見掛け倒し。動きもワンパターンだし……。
また、元ネタが知られているようで知られていないせいで、「ハートレスの一種?」と誤解する人がいたとかいないとか。ジミニーメモのハートレス一覧には載らないので注意しよう。
『3D』でも登場し、こちらはリクで戦うことになる。
更に、2020年まで東京ディズニーシーで上演されていたナイトタイムハーバーショー『ファンタズミック!』にも一瞬だけだが登場していた。


余談

『KINGDOM HEARTSシリーズ』では、チェルナボーグとイェン・シッドが登場している他は、箒がディズニーキャッスルの使用人としてモブ扱いで登場しているぐらいだった。
しかし、かなりの時を経て『3D』にて『シンフォニー・オブ・ソーサリー』という独立ステージとして登場。
だが、キャラクターは相変わらず先述の3人ぐらいで、原作再現キャラがあまりいないのは残念なところか。
また、このステージでは原作で全く台詞が無かったことを再現するために、キャラクターボイスが一切無くなるという特殊な演出がされているが、これも特に説明が無いせいで「バグなの?」と疑われるなど、何かと不憫なステージである。

単体ではメガドライブにて『ファンタジア ミッキーマウス・マジック』としてゲーム化されている。
操作キャラはもちろん魔法使いの弟子となったミッキーで、映画の各パートを再現したステージを進んでいく、という内容。
海外開発のためか、先に進むためにはスコア稼ぎが必要など難易度は高く、操作性はイマイチ。
さらには前年発売で高評価を得たセガ開発作『アイ ラブ ミッキーマウス 不思議のお城大冒険』と比べられることもあり、グラフィックやBGM以外の評価は低いようだ。

2000年には、実に60年ぶりの続編である『ファンタジア2000』が製作された。
この作品では交響詩『魔法使いの弟子』以外の楽曲は総入れ替えとなっており、内一曲である『威風堂々』にはドナルドダックデイジーダックが登場している。


追記・修正は、イマジネーションを膨らませながらお願いします。


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最終更新:2024年03月29日 16:03

*1 最後の『アヴェ・マリア』だけは合唱なので歌声が流れる。

*2 足も生えたのではなく、の部分が二股に分かれて足のようになった。

*3 現在有力な隕石衝突の学説が発表されたのは1980年なので、それより40年も前の作品だから違っていて当たり前だが。

*4 尻尾を引きずって歩く恐竜、首を持ち上げているブラキオサウルスなど。

*5 解説では雌のケンタウロスを指して「ケンタウレッタ」と称している。