軍の高官(鋼の錬金術師)

登録日:2020/07/05 Sun 00:08:11
更新日:2024/03/03 Sun 14:36:13
所要時間:約 16 分で読めます




軍の高官(鋼の錬金術師)とは、漫画鋼の錬金術師』においてアメストリス軍の上層部に所属する、将官以上の軍人達である。
ここでは中央(セントラル)の大総統府に所属する、「ある共通点」を持つ高官のみを指し、東方軍など各方面の司令官などは除外する。


【概要】

序列としては大総統であるキング・ブラッドレイの次に位置するものの、独裁国家であり、さらにブラッドレイ自身に強いカリスマとリーダーシップもあるため、彼に対して意見する権力などはない。
立場としては皇帝である大総統の意志を忠実に実行する高級官僚のようなもので、これに対して各方面の司令官は封建諸侯のような立場と言える。

以下ネタバレ


























へぇ…

一般人を犠牲にしてあんたら高官が不老不死を得て世界を統一する……ねぇ

「ある共通点」とは、ブラッドレイがホムンクルスであり、「お父様」の部下であるという事実を知ったうえで従っているということ。
アメストリスがお父様の野望を実現するために作られた国家であることも、お父様の最終目的も知らされている。
というより、お父様によって不老不死を与えられることを条件に軍の兵士たちも国民も欺いている。
お父様との戦いがゾルフ・J・キンブリーによって「人間と新たな人間と名乗るホムンクルスとの勝負」と表現されている以上、
そのお父様に付いているこの高官たちは「売国奴」というよりは「人類の裏切り者」と言った方が正確だろう。

軍の兵士や将校たち、あるいはホムンクルスたちも各々の想いや信念を抱えていることが描かれているのに対して、
この高官たちは不死への欲望から兵士や国民を犠牲にして恥じない、純然たる悪役という立ち位置にいる。

なお余談であるが、旧アニメではホムンクルスの造物主である「お父様」の代わりにダンテという色狂いのバアサンがいるのだが、
原作/FA/実写映画版においてはこの軍の高官たちがダンテに非常に近い立ち位置にいる。


【個別概要】

レイブン中将

CV:宝亀克寿
演:大和田伸也(実写映画版『最後の錬成』)

さぁ、早くこの穴を塞いでくれ。ブリッグズの諸君よ。君達は秘密を分けあった…同志だ

褐色肌髭面の初老の男。いつもニコニコと笑顔を浮かべ、「がははは」という笑い声が特徴的な豪快な人物。
気さくな大人を装っているが、実際には狭量かつ小心で、人使いも荒い。普段は柔和な笑顔を浮かべているものの、時折針のように鋭い目つきを見せる。
ブラッドレイがホムンクルスだと知り、軍高官に味方を得ようとするロイ・マスタングの前に現れ、
その鷹揚な態度で彼に「信頼できるかも」と思わせたものの、その直後にブラッドレイ本人の前に彼を案内し、本性を現した。

その後、エドワード・エルリック(以下、エド)とキンブリーを追うようにブリッグズに現れ、
司令官のオリヴィエ・ミラ・アームストロングもろとも北方軍を取り込もうとする。
その際、ことあるごとにオリヴィエにボディタッチをしようとするなど、品性下劣な態度を見せつけてオリヴィエを「ぶった斬ってしまいたい!!!!!」と激昂させている。

お父様による国土錬成陣を作成中のスロウスが北方軍と交戦して捕獲されたことを知り、
大総統の権力を背後にしてオリヴィエにスロウスを地下に戻して穴をコンクリートで塞ぐことを強要。
その際、穴の奥に北方軍の先遣隊がいることも知ってのうえで、彼らを生き埋めにしろと命じた

オリヴィエがその言葉に従ったのを見て、オリヴィエと北方軍もまた自分たちの配下になったと確信するが、
それは一時凌ぎのカモフラージュに過ぎず、工事の最中にオリヴィエに不意打ちで腕を刺され、


言ったでしょう 新たなイスなど不要と

その腐りきった尻を乗せている貴様の席をとっとと空けろ

老害が!!!

という啖呵とともに真っ向両断され、コンクリートの中に叩き込まれて文字通り「礎」となった。
一方でオリヴィエに突然刺された直後、反射的に自らの拳銃を取り出して反撃しようとするなど軍人らしい気骨も失ってはおらず、
オリヴィエからも「老いとは本当に恐ろしいものですね レイブン中将 貴方も昔は本気でこの国を想う若く気高い軍人であったでしょうに」という言葉を送られている。
オリヴィエが斬殺した後、部下がガッツポーズをするカットがある辺り、相当忌み嫌われていたことがわかる。

東方司令部のグラマン中将とも旧知の仲で、彼にも不死を餌に勧誘したが、一蹴された。


ガードナー中将

CV:糸博

では『人を作るな』は? なぜ人を作る事を禁止している?

痩せぎすの細面に眼鏡をかけた、学者のような雰囲気の初老の男。
ブラッドレイと取引し、ブリッグズの指揮権と引き換えに中央軍に席を得たオリヴィエに、ホムンクルス側が密かに開発している人形兵の存在を教えた。

第19巻末の次回予告に冒頭の台詞とともに登場し、国家錬金術師の三大制限「金を作るな」「人を作るな」「軍に逆らうな」の理由をオリヴィエを通して読者に教えるという重要な役割を果たす。
ちなみに内容は「軍に逆らうな」は言わずもがな、「金を作るな」は経済の混乱を避けるため*1
「人を作るな」の真実は「個人が強力な軍隊を持たないようにするため」、つまり人造技術を軍上層部が独占するためという、あまりにも身もふたもない理由であった。
無数に吊り下げられる人形兵をバックに佇むガードナーの場面は鬼気迫る迫力で、まさに軍上層部の闇といった雰囲気がある。
彼はレイブンやクレミンのようにあからさまに傲慢な態度こそ見せないものの、
「戦場は(人形兵の動力にするための)大量の魂を手に入れる猟場となるのだよ」と嘯くなど、残忍さでは引けを取らない。

その後、後述のフォックスとともにオリヴィエを見張っていたものの、オリヴィエがフォックスの腕を切り裂いた瞬間、
彼がオリヴィエに突きつけていた拳銃を向けられて自分の銃を抜くことすらできず、そのままあっさりと眉間を撃たれて殺された。


クレミン准将

CV:勝沼紀義

貴様ら下の者は知らんでいい。さっさと行け

褐色の肌に禿頭の男。どこかモアイ像を思わせる、厚ぼったい唇と瞼が特徴の、典型的な部下を虐げる悪徳上官。
高官たちの中でも一際高圧的で、ことあるごとに部下に怒鳴り散らすなど、とにかく横暴。
一番現実にいてほしくない、しかし残念ながらどこの会社にもいそうなタイプのクソ上司である。

セントラルにおける中央軍の実質的な指揮官でもあるようで、「約束の日」を前に決起したマスタングと、互いに部隊を率いてセントラルで交戦する。
その際、マスタングがブラッドレイ夫人を人質にしたことを知りながらも「大佐の部下ともども夫人には消えてもらえ」と即座に見捨てるなど、
ブラッドレイに対してすら人間的な感情をかけらも抱いていないことがうかがえる*2
この態度が最初は決起したマスタングを恐れていた夫人をマスタングに協力させる切っ掛けともなってしまった。

マスタング側にブリッグズ兵が加勢し、さらに人形兵の暴走が始まると戦況は膠着状態に陥るが、ラジオ・キャピタルの放送で夫人が中央兵の殺意を証言し、
ハイマンス・ブレダが「上層部にブラッドレイを排除しようとする一派がいる」と宣言したことで、クレミンは不利な立場に陥る。
ブリッグズの戦車も現れて戦闘そのものも劣勢となると、逆上したクレミンはついに住民ごと砲撃を命じようとするものの、
直後に作戦本部に乱入したバッカニアに捕縛された。

その後、お父様による国土錬成陣の発動が近づくと、自分を捕らえているブリッグズ兵達に「早く練成陣の中心へ行くんだ! ここではだめだ!」と、
椅子に縛られたまま必死に足掻き、への恐怖に怯えながら魂を奪い取られた。
その直後にヴァン・ホーエンハイムの策によってアメストリス人の魂が返還されると、クレミンもまた「……生きてる」と涙と涎を垂れ流しながら生の実感を味わった。
何だかんだで最も目立った高官だと言えるだろう。

戦後、「悪しき錬金術の大実験を企てた軍上層部の暴走を防ぐためにマスタングとオリヴィエが決起し、ブラッドレイとセリムは混乱のどさくさで死亡した」というシナリオをスムーズに動かすため生き残ったエジソンと共に拘束・連行された。


フォックス

調子に乗るな女郎! 貴様らブリッグズの山猿どもなどひねりつぶして──

CV:ふくまつ進紗

黒髪の坊主頭に鋭い視線と口髭の男。大総統府のブラッドレイとお父様不在の会議室で、ガードナーとともにオリヴィエを見張っていた。
「まだマスタングは捕まらんのか 何をやっとるのだクレミン准将は」と自分は指一本動かそうともしないで、働いているクレミンにケチを付けていた。
笑顔で挑発を続けるオリヴィエに凄みをきかせるが、蛙の面に小便であった。
密かにオリヴィエが招き寄せていたブリッグズ兵がマスタングに加勢して参戦すると、オリヴィエに拳銃を向けて兵を引かせようと脅すが、
百戦錬磨の彼女には全く敵わず、銃を向けていながら引き金を引く暇すらなく居合切りで銃を握っていた腕を切り裂かれた挙句、そのまま傷口にをねじ込まれ、
つい数刻前得意げに語っていた「変化するために痛みを伴うのは仕方の無い事だ」という屁理屈をその身にそっくりそのまま返される羽目になった。

その後、右腕を半ば裂かれた重傷のままオリヴィエに剣を突きつけられて中央兵の前に引き出され、兵を引かせるよう強要されるものの、
足を突き刺され、直後に殺されかねない状況の中で兵たちに閉門を命じるなど、土壇場で根性を発揮。
オリヴィエからも「腐ってはいるが根性無しではないようだ」と称賛されたが、その直後、
オリヴィエに不意打ちで掌打を放ったスロウス誤爆を受けて叩き潰されて死亡。
肝心のオリヴィエには避けられてしまうなど死に甲斐のない最期であったが、後述の短い白髪に口髭の男に比べれば、一瞬で死ねただけまだましかも知れない。


短い白髪に口髭の男(本名不明)
高官達の中でも特に出番の少ないモブの一人。
いつまで経ってもマスタング達を倒せないことに業を煮やし、人形兵を起動させる暴挙に出る。
起動した人形兵に「よーしよしよし、いいか、パパの言う事聞けよ」となだめようとするが、直後に複数の人形兵達に貪り食われ
自業自得とはいえ高官達の中でもとりわけ凄惨な末路を迎えた。
彼自身はそれで終わったものの、彼のしでかした行為そのものは始まったばかりに過ぎず、暴走した人形兵はさらに戦場に泥沼の混乱をもたらしていくことになる。


短い白髪にほうれい線と鷲鼻の男(本名不明)
高官達の中でも特に出番の少ないモブの一人。
クレミン率いる作戦本部にも大総統府の会議室にもいなかった、この状況で一体何をしていたのかよくわからない人*3
作戦本部が陥落した時、部下を連れて大総統執務室にこもり、そこを本部にしようとする。
そして大総統のイスを前に魅惑され、「この危機を乗り切れば」と自分がそのイスに座る姿を夢想したが、
その瞬間、部屋に乱入してきた人形兵達によって短い白髪に口髭の男と同様の末路を辿った。
ちなみに大総統のイスは後にその場にやってきたオリヴィエからは「こんな狙撃されやすそうな場所に座る奴の気が知れんわ」と酷評された。
ブラッドレイなら狙撃されても避けられるかも知れないが、他の連中には無理であろう。


エジソン准将

CV:天田益男

おまえらは我々の命令を聞くように作られてるんじゃなかったのか! あのお方は我々にウソを言っていたのか!?

サンタクロースを思わせる、豊かな白髭に眼鏡の高齢の男。
顔だけ見れば温和なおじいちゃんといった風情で、態度そのものは主な出番の中では終始怯えた態度しか取っていなかったため、詳しい性格は不明。
しかし、発言の節々から彼もまたホムンクルス側の高官たちの独善的な考えに染まり切っていたこと自体は見て取れる。
顔こそ初期から出ていたものの、高官達の中では主な出番は最も遅い。
大総統府を占拠完了したオリヴィエ達に彼の尋問が行われたのは、お父様とホーエンハイム、グリード達とブラッドレイの死闘が既に始まった後の事である。

上述のモブ2人と同様、人形兵に食い殺されそうになったところをイズミ・カーティスに助けられ、そしてそのまま捕虜にされて内幕を洗いざらい吐かされた。
その時、イズミの前でこともあろうに幼き日のエドとアルフォンス・エルリック(以下、アル)が必死の思いで真髄を会得した「一は全、全は一」という言葉を
自分達軍高官の都合のいいように解釈して見せるという、虎の尾を踏み龍の逆鱗に触れるごとき真似をしでかした挙句、便所スリッパではたき倒された。
その後、真実を知った中央兵達から階級章や制帽を三行半代わりに投げつけられ、がっくりとうなだれるしかなかった。

全てが終わった後はクレミンと共に事件の首謀者として国民の前に突き出された。
彼らがその後どうなったかは描かれていないが、大総統の死に関与したクーデターの首謀者となれば、極刑は免れないと思われる。
情報操作によりクレミン共々「お父様」とブラッドレイの分の罪まで被せられてしまったわけだが、
国民を犠牲にしようとした事自体は紛れもない事実であるため、同情の余地は全くないだろう。


ゲルトナー

CV:てらそままさき

アームストロング少将がおらずともこの戦果、すばらしい! さすが一枚岩と名高いブリッグズだな!

黒髪と黒い口髭の男。うっすらと長めのもみあげも顎まで生えている。
レイブン中将を斬って、その後任の座を要求したオリヴィエの代役としてブラッドレイから派遣された新任の北方軍司令官。
ドラクマの侵攻の際にマイルズ達北方軍がドラクマ軍を瞬殺した光景を見てその実力を賞賛したり、
東方軍との合同演習では北方軍を褒めたグラマンに「仕上げたのは私ではなくアームストロング少将なのですが」「東軍こそ良い面構えの者が多いですね」と発言するなど、態度は冷静かつ温和なもの。

「約束の日」の人類とホムンクルスの決戦以降の動向は不明。マイルズ達が行動を起こす際に捕縛か抹殺されたと思われる。


【余談】


軍の高官達に共通する思想として、
  • 「物事は大きな目で見なくてはならない。自分たちの計画は世界のためになることだ」
  • 「選ばれた者である自分たちが高みに登り、アメストリスが世界を変える」
  • 「世界は疲弊している。誰かが生まれ変わらせる必要がある」
……といった弱肉強食思想らしきものがある。
特にホムンクルス達やお父様と考えを共有していた様子はないため、高官達が自分たちの人類への裏切りを正当化するために作った思想なのだと思われる。
あるいはイシュヴァール、あるいは地下道やブリッグズで敵も味方も信念や命をかけて生き抜いてきた中、
安全な場所でぬくぬくと強者に守られながら弱肉強食を口にする彼らの態度は笑止千万でしかないが、
悲しいことながらこうした腐敗高官はいつの時代、どこの国にもいるものである。
(危険な所にいたとはいえ、自らの利権の為なら部下や国民を蹂躙するという点では、原作のフェスラー准将や、旧アニメ版のバスクなんかもこれに類すると言ってよい)
その人間の普遍的な業を描くという意味でも、彼らの描写もまた『鋼の錬金術師』の人間描写に深みを与えることに寄与しているのかもしれない。

また、「国民や兵士を犠牲にして高官が不老不死を得て世界を統一する」という計画をエジソンが供述していたが、
全てが成就した時にお父様やホムンクルスたちが高官達を切って捨てはしないかという疑問もある。
ラストエンヴィーは人間そのものを見下していたが*4
その中に自分自身のものでもない力で威張る人間の典型である高官達が入っていないとは思えないのではないか。

実際、クレミンが囚われていた時もお父様は躊躇なく国土練成陣を発動していたが、これの場合は非常事態だからやむを得ずそうしただけで、
全てが順調に行っていたならちゃんと高官達にも不死を与えていた可能性もないとも言い切れない。
そして引き続き人間社会を治めるための道具として彼らを仕えさせることも有り得たかも知れないが、作中における彼らの無能かつ無責任な様子を考えると、
やはり用が済んだらそのままお払い箱となっていた可能性も低くなさそうである。

別作品を例に挙げると、『バッカーノ!』でもよく似た状況で、錬金術師のセラードが権力者達を協力させて不死の薬を作ろうとしていたが、
彼の場合、事が成ったら権力者達のことは早々に切り捨てようと算段していた。



追記・修正は軍の高官に逆らってからお願いします。

この項目が面白かったなら……\ポチッと/

+ タグ編集
  • タグ:
  • クソ上司
  • 老害
  • 裏切り者
  • 軍人
  • 軍部
  • アメストリス軍
  • 鋼の錬金術師
  • 中将
  • 准将
  • 身勝手
  • 自己中心的
  • 何故か立ってしまった項目
  • 俗物
  • 将軍
  • マッチポンプ
  • 汚い大人の見本市
  • ダメな大人の万国博覧会

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2024年03月03日 14:36

*1 ユースウェル炭鉱でエドがやってたアレ、もしちゃんと元に戻してなかったらインフレでえらい事になります。ちなみに空想科学読本シリーズでの検証は別ベクトルでえらい事になってるとのこと。

*2 というより、後のエジソンの台詞からもわかるように、ホムンクルス側の高官達が真に服従しているのはあくまでお父様であり、総統のはずのブラッドレイのことは内心で道具としか思っていなかったと思われる。

*3 日頃は内政担当で、戦闘はクレミンやフォックスの管轄なのかも知れない。そもそも高官である以上現場の指揮が本業でないのはやむを得ない。

*4 例:「今の繁栄も自分達の力だけで成し遂げられたと思ってやがる!」というエンヴィーのセリフなど