電気工事士

登録日:2020/10/26 (月曜日) 00:03:08
更新日:2024/04/06 Sat 10:47:02
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サトシ「いけピカチュウ!10まんボルトだ!」

ピカチュウ「高圧・特別高圧電気取扱特別教育を修了していますか?」

サトシ「してないです」

ピカチュウ「資格は?」

サトシ「電工2種なら…」

ピカチュウ「でしたら600Vまでですね」

サトシ「いけピカチュウ!600ボルトだ!」



電気工事士(でんきこうじし)は、日本の国家資格(免許)の一つ。または、その資格を持つ技術者のことを指す。
略称は電工(でんこう)。



概要


①資格の電気工事士について

経済産業省の認定資格で、危険物取扱者自動車整備士と並ぶ、工業系の有名な資格の一種。

現代社会における「衣食住」の「住」を支える資格である故に、景気に関係なく安定した需要がある。

なおかつ業務独占資格(特定の仕事を行う際に絶対必要な資格の総称)で、さらに受験制限がなく学歴不問である*1ことから、不動産業界の宅地建物取引士(宅建)と並び非常に需要の高い資格となっている。

就職・転職活動の際に於いても書いて損が無い大変有用な資格である。
電気絡みの工事を行う企業の多くは応募時に必須としているし、無資格でも採用はするが入社後に取得してもらう方針の企業からは諸々の手間などが省けるため優遇される事も。また電気業界のみならず建築業界や施設管理、警備、不動産業界など幅広い職種に於いて需要がある。
さらに実務経験を積めば自分で電気工事会社を立ち上げる(独立開業)こともできる*2

危険物取扱者の乙四や2級ボイラー技士、第三種冷凍機械責任者(冷凍3種)と並びビルメンテナンス(設備管理)業界で重要視されている資格の一つで、これらをまとめてビルメン4点セットと呼ぶこともある。

②技術者の電気工事士について

当資格を持ち、住宅(家)や店舗などの新築、リフォームの際に、配線図を基に施工を行う技術者を電気工事士と呼ぶ。

素人が誤った知識で電気設備の工事を行ってしまうと、感電や火災などの重大事故が起こる可能性が非常に高いため、これらの施工は必ず電気工事士の資格を持った人が行わなければならないと決められている(業務独占資格)。
なので、資格の無い人が家のコンセントの増設なんかをやったりしたら電気事業法違反で罰せられてしまう。
また、意外だろうが無資格で電柱に勝手に登ったりするのも同法に違反する。
そこらのイキった連中が遊びで電柱に登ったりする事がたまにあるがいつ転落・感電死しても不思議ではないし、万一設備を傷つけ停電騒ぎを起こそうものなら前科&ウン千万~億単位の損害賠償を背負う羽目になる。



電工の種別


電気工事士には第一種(電工一種)第二種(電工二種)の2種がある。
他の資格のような階級と混同されがちだが、正確にはこの二種には階級的な関係はない

電工二種

第二種を取得している技術者は一般的な住宅や個人経営の小規模店舗の工事を行うことができる。
扱える電力は600ボルトまで。上述のポケモンのコピペではサトシは電工二種を取得しているために600ボルトしか繰り出せないことになっている。が、電工二種を持っているなら、ポケモンマスターになれなくとも技術者としてやっていけば食いっぱぐれる心配はないだろう。

電工一種

第一種では第二種でカバーする作業に加え、より大規模な工場や高層ビル、マンション、ショッピングモール、総合病院、学校などの工事も行えるようになる。電工一種は電工二種で取り扱える作業の資格を包含しているため、実質は電工二種の上位資格といえる。
但し免状の更新や定期講習が不要の第二種と違い、第一種は五年単位で経済産業大臣の指定の定期講習を受講して免状を更新する必要があり、期限切れの状態で電気工事を行えば電気工事士法違反で、最悪免状の失効*3もあり得る。
ちなみに、扱える電力は7000ボルトまで。これを苦労して取得しても、ピカチュウに10まんボルトを命令することはできない。



資格の取得

※実際に資格を取得したいと思った場合、当Wikiを参考にするよりも先にネットを切って真面目に勉強することをおススメするよ!

電気工事士の資格を取得するためには国家試験を受験し合格する必要がある。
試験は筆記技能(実技)の2段階あり、両方について合格基準に達さなければ資格は貰えない。
電工二種は試験に合格したら申請すればすぐに免許がもらえる。
基本的には電工二種の資格を取ってから電工一種の試験を受験し、実務経験を積むというのが王道ルートとなっている。

開催時期

上期(筆記6月、技能7月)と下期(筆記10月、技能12月)があり、第一種は年1回下期のみ実施、第二種は上期と下期の年2回実施となる。
第二種に関しては、かつては同じ年度内は上期と下期のどちらかしか受験できなかったが、現在は上期と下期のダブル受験も可能となっている。

内容

筆記試験

電気工事士は手先の仕事だが、そもそも知識がなければ始まらない。というわけで、前半戦で電気工事の作業に必要な基礎知識を測る。

四択のマークシート方式で、問題数は全50問。30問(60%)以上正解すれば合格となる。
基礎理論、配電理論、材料・工具、作業方法、測定方法、検査方法、配線図、法令などから幅広く出題される。例年特に配線図のウエイトが大きい。
計算問題が多いため、前提学力として高校基礎レベルの数学物理学の知識は絶対必要(といっても大学受験ほど高度ではないが)。中学校の数学や理科の内容すら怪しい人には正直かなり厳しい。

第一種ではこれらに加え応用知識や変電所の知識も要求され、より難易度が高くなる。

「筆記試験には合格したが技能試験で落とされてしまった」という場合、次回の試験に限り筆記試験が免除される。ただし次回までに技能試験に合格できなかった場合は筆記試験から受け直す羽目になる。

技能試験

筆記試験の合格者および免除対象者が受験できる後半戦。

この試験では、実際に手を動かして電気工事士として必要な作業が安全にできることを確認する。
図面と材料が与えられ、自前の工具を使って図面通りに回路を組み上げるという形式だが、第一種の実技ではより難易度の高い課題が課せられる。

合格基準は、「欠陥が一つでもあれば不合格」と非常に厳しい。

かつては「重大な欠陥は一つで不合格。軽微な欠陥は三つで不合格」だったのだが、2017年の改定で「欠陥に重大も軽微もない。一つでも欠陥があったらアウト」という考えに変わった。

主な欠陥は次の通り
  • 通電できていない
ちゃんと電気の通り道が出来ておらず、スイッチを入れても電灯が点かない、ショートしてしまうなど。試験に詳しくなくても一発アウトとわかる論外の欠陥である。
  • 電線の色が違う
電線には白、黒、赤、緑などの色があり、それぞれ繋ぐべき箇所がある(特に白)のだが、これの色を間違えてしまうと欠陥となる。電線の色が複数あるのは、ショートを防ぐためなので、これを間違えてしまうのは電気工事士として不適格。
  • 被膜に大きな傷がついており、中の銅線が見えている
銅線を被膜で覆っているのは漏電を防ぐためなので、本来覆っておくべき場所が露出しているのはアウト。
  • 銅線に大きな傷がついている
電気工事の大原則として「抵抗を増加させてはいけない」というものがある。銅線に傷があるということは、その分銅が減っており、電気が通りにくくなっている(=抵抗が増えている)ので欠陥扱いになる。
  • 電線の長さが指定と違う
  • ねじで銅線を挟むつなぎ方をする際、被膜まで一緒に挟んでいる



難易度

筆記、技能を合わせた合格率は第二種(上期)は例年40%台、第一種は例年20〜30%台である。第二種は上期のほうが下期より合格率が高い。

電工二種は筆記の合格ラインは6割と低いのに加え、計算問題や専門知識を問われる問題の比率が低く、暗記だけで十分合格を狙える。しかも過去問の使い回しが多い。

技能試験は先述の通り、欠陥が一つでもあれば不合格という厳しい基準だが、問題があらかじめ公開されているので予習が可能*4

むしろハードルを上げているのは、工具や練習資材を揃えるのに3万円以上かかるという金銭問題かもしれない。



学生と電工


工業高校や職業訓練校の電気系の学科では、生徒全員が電工二種の資格を取ることを目標としているところがほとんどである。
逆に言えば電気科卒業なのに電工二種の資格が取れなかったら、「お前は学校で何を学んだんだ?」と厳しい目を向けられてしまうかも。

電工一種は高校生にとっては難関であり、在学中に合格できたらクラスでは一目置かれる存在になるだろう。
そもそも試験に合格しただけでは電工一種の資格を取ることはできず、一定の実務経験が必要となる。大学(短期大学を含む)や工業高専で関連単位を取得して卒業していた*5場合は3年、それ以外の場合は5年である。




電気主任技術者


電気工事士より上位格の資格として電気主任技術者(でんきしゅにんぎじゅつしゃ)というのもある。電気工事士が主に作業員の資格であるのに対し、電気主任技術者は監督現場責任者のための資格である。「気主任技術者試」を略して電験(でんけん)と呼ぶことも多い。
この資格の需要自体は高い割には、実際にこの資格を取得できる人はかなり少ないため、電気主任技術者の資格を持っていれば、就職・転職活動では大きなアドバンテージになる。

電気主任技術者の役割は電気工作物の保安、管理業務。

電気工作物

電気工作物とは、ものすごく簡単に言うと電気を作って送って受け取るもの全てである。我々にとって最も身近な電気工作物は「我が家」である。
電気工作物は大きく一般用電気工作物(受電電圧600V以下)と事業用電気工作物(それ以外)の2つに分けられ、事業用電気工作物は電気主任技術者による点検・管理が義務付けられている。
600Vなんて学校、スーパー、ビルなどのちょっと大きい建物だったら簡単に超える。
公共設備に出入りしている作業服のおじさんをイメージすると分かりやすいだろう。(ジェンダーフリーが主流の昨今はおじさんとは限らないが)
ああいった作業者が一般家庭を出入りするような風景が思い浮かばないのは、住居などは一般用電気工作物に当たるため。

ちなみに、これよりさらに上の受電電圧7000V以上の施設は有資格者を置かないといけない、7000V以下の施設は点検・管理を委託することができるが、委託先には当然有資格者が必要なため、この資格の需要は高い。

電気主任技術者の種別

電気主任技術者には第一種(電験一種)、第二種(電験二種)、第三種(電験三種)の3種がある。
種別によって扱える電気工作物に制限がある。

第三種電気主任技術者 受電電圧5万ボルト未満の電気工作物
  • 事業用電気工作物のうち8割くらいは三種でカバーできると言われている。

第二種電気主任技術者 受電電圧17万ボルト未満の電気工作物
  • イオンモールのような大型商業施設やでかい工場になると二種が必要になる。
  • どうしてもピカチュウに10まんボルトを使わせたい場合は、この資格を目指そう。

第一種電気主任技術者 すべての電気工作物
  • 一種が必要な施設は…発電所変電所くらい。

発電設備など他にも細かい制約はあるが概ねこんな感じ。

難易度

ストレートに言えば難しい
需要が高い割に超が付くほどの難関資格として知られ、比較的易しめとされる電験三種ですら合格率は例年10%未満しかない。これは電工とは比較にならないほど高度な専門知識に加え、高校上級レベルの数学物理学の知識が必要となるためである。
工業高校だと学校トップで優秀な生徒でも電験三種が関の山と言われており、二種以上は大学生でも理系はともかく、文系の学部学科だとかなり難しい試験である。

ただし電験三種は解答方式が五択のマークシートであるのと、科目合格制度(有効期限あり)があるのがまだ救いか。初心者は一発合格を狙うのではなく、3年以内に4科目(理論、機械、電力、法規)を制覇することを目指すのが望ましい。

より難易度の高い電験二種や電験一種は二次試験として記述式の問題もある。特に電験一種は電気系資格のみならず資格試験全体で見ても医師国家試験や司法試験、公認会計士試験ITストラテジスト試験*6英検1級と並ぶ最難関級の国家資格と言われることもあるらしい。また、電験一種は年間の合格者数が500人にも満たない非常に狭き門である(これは司法試験の合格者よりも少ない)。


下位資格・他の資格との関連

電気主任技術者の有資格者は、第一種電気工事士の資格を無試験で取得することが可能。ただしやはり実務経験はやはり必要となる(高卒は5年以上、大卒・高専卒は3年以上)。

また、電気主任技術者の有資格者が第二種電気工事士試験を受験する場合は、筆記試験が免除され、技能(実技)試験だけ受ければ良い。

他にも電験一種または電験二種の合格者は弁理士国家試験の一部科目免除制度を利用できたり、社会保険労務士(社労士)試験の受験資格*7を得ることができるなど、様々な特典がある。


電気工事士の資格を持っているキャラクター


  • 青木百々(ハイスクール・フリート
  • 両津勘吉こちら葛飾区亀有公園前派出所
    • 特に説明もなく、しれっと電柱に登って配線に工作を行ったりする描写があるが、これは資格保有者だからこそ為せる業なのだ。
      冒頭でも書いたが、資格も無いのに勝手に電柱に上ったら怒鳴られるどころじゃ済まない事態になるので、前科がついたり感電死したくなかったら止めようね!
      (両さんは資格云々の前に怒られるようなことしてる事が多いが)

余談


  • 工事担任者は名前が似ているが全く別の資格。こちらは総務省の認定資格で、ネットワークエンジニアのための国家資格である。
    • 電気通信主任技術者(電通主任)は工事担任者の上位互換で、これも電気工事士とは別物。





最終更新:2024年04月06日 10:47

*1 医師や薬剤師、看護師などの医療資格や建築士などは特定の大学や専門学校を卒業していなければ試験を受験すること自体が許されない。

*2 電工一種が望ましいが、個人経営の電気工事店であれば電工二種でも開業することが可能。

*3 失効自体は行った電気工事の内容によっては第二種でもあり得る

*4 13種類の候補問題が公開されており、本番ではそのうちのいずれか1つが出題される。

*5 中退はダメ

*6 情報処理技術者試験の最高峰の区分。

*7 通常は大学(短期大学を含む)や高等専門学校を卒業した者しか受験できないが、それ以外の学歴(専門学校、高卒、中卒)でも特定の難関国家資格(公認会計士、不動産鑑定士、弁理士、税理士、司法書士、土地家屋調査士、行政書士、海事代理士、中小企業診断士、全国通訳案内士、技術士、一級建築士、気象予報士、第一級総合無線通信士、電験一種、電験二種、高度情報処理技術者試験合格者など)を持っていれば社労士試験を受験することができる。また、弁護士の資格を持っていれば試験を受けなくても社労士の資格を得ることができる。ちなみに電験三種は対象外である。