令夢の世界はスリップする 赤い夢へようこそ -前奏曲-

登録日:2021/06/02 Wed 20:28:10
更新日:2023/11/01 Wed 21:42:55
所要時間:約 21分で読めます










令夢の世界はスリップする」は2020年に刊行されたはやみねかおるの小説。
「前奏曲」とあるようにシリーズ化する予定らしい。

ジャンルはミステリー……いや、多分青春小説。
ミステリー部分よりニヤニヤ部分の方が明らかに力入っている気がするし。

今作の特徴は何と言ってもクロスオーバーものであること
デビューから30年弱多くの作品により広がり続けてきたはやみねワールド。様々な登場人物たちがオールスターで一堂に会する。
教授が! 創也が! 恭助が!要するにはやみね世界の社会不適合者どもが事件に立ち向かっていく物語。


主人公は中学二年生の女の子である『谷屋令夢』。
彼女は並行世界に移る『スリップ』という能力を持っている。その力ではやみね世界に転移してしまうというのが大まかなあらすじ。


今回中心になるのは「都会のトム&ソーヤ」。というかマチトムが話の大半を占めている。
イメージとしては「都会のトム&ソーヤ 令夢編feat.クイーン,夢水&恭助」みたいな感じ。
令夢は転移した世界で、そちらのシリーズの主人公である内藤内人と幼なじみになっている。そして夏休みの間に彼と様々な体験をすることになる。
オリジナルの主人公が既存作品の主人公と幼なじみとは随分夢小説みたいな設定である。


ただ、「はやみね世界にスリップする」という話であるが、本作で描かれる世界はいつもとは別世界。……はやみね世界の読者にはちょっとややこしいかもしれないが。
元々はやみねかおるの作品はほぼすべて世界観を共有している。その上で令夢ははやみねキャラが登場する世界に転移する。だが、その世界の設定はいつもの世界とはやや設定が違う。
一番わかりやすいのは令夢の存在。上述の通り令夢と内人が幼なじみになっているのが、世界観の前提条件になっている。だがマチトムには一度も令夢は登場したことはない。
それ以外にも、今回のクロスオーバーのために多少いつもと設定が違っているところがある。


作者は本作の執筆目的について「今まで広げてきた風呂敷をたたむこと」としている。
はやみねかおるは2017年1月のトークイベントにて、「60歳*1で引退する」そして「引退の前に、ここまで広げまくった大風呂敷を畳んでいく」と表明した。
そのこともあり現在彼の作品では作中世界の繋がりが見えてくると同時に、世界観についての「何か」が見え始めている。
アナミナティ」や「醒めない夢」などの単語を中心に、あの世界には大きな秘密があることがほのめかされている
その秘密の中核となるのがこのシリーズであるらしい。
……それにしても、風呂敷たたむために新シリーズ執筆って逆に風呂敷広げていないだろうか。


【あらすじ】


谷山令夢は至って普通の中学二年生。だが並行世界に移動する『スリップ』という能力を持っていた。
ある日スリップした世界はとても奇妙な世界。幼なじみの内人は無敵のサバイバーになっており、彼にはイケメン御曹司な相棒・創也がいた。
他にも怪盗や名探偵など、この世界には変わっているとしか言えない人物たちに囲まれている。
そして始まる夏休み。令夢は内人と共に学校で起きた「落書き事件」を調査する。その小さな事件は、世界の謎につながっていった。


【キーワード】


◆スリップ
主人公・谷屋令夢の持つ「並行世界に移る力」。
正確には並行世界の自分と入れ替わる力。移した世界の自分がどうなるかは分かっていない。
令夢は中二の春ごろにいきなりこの力を手に入れた。そのためこの力のルールは一切分かっていない。いつもいきなり発動するこの力に振り回されることになる。
スリップする前の夜には「奇妙な夢」を見るらしい。その夢を見た次の朝には転移している。どんな夢なのかは覚えていないが奇妙であるとか。
元の世界に戻れる条件もよく分かっていない。だが「何かを成し遂げるか解決する」ことが戻れる条件の一つであると令夢は推測している。例えば過去にテストで悪い点を取ってスリップしたが、その後の小テストで平均点を取ったら戻れたということがあった。
スリップする世界は選べないし、いつ帰れるかもわからない。それでも心の中で求め続けた「母が生きている世界」についに移動し、令夢は「ずっとこの世界にいたい」と考えるようになる。


◆アナミナティ
近年のはやみね作品に登場する言葉。
RD曰く「50年ほど前の小説に登場した単語」であるらしい。意味は「接着剤」「泡」「無名」。
物語では人ならざるものが作った『何か』であると定義されている。誰が作ったのか、なぜ作ったのかは分かっていない。
怪盗クイーンが盗む品の大半がアナミナティである。アナミナティを回収することも怪盗の美学のひとつ。
また『都会のトム&ソーヤ』の現状ラスボス候補であるマクリも所有している。究極のゲームをつくるために必要らしいが……。
『モナミは世界を終わらせる?』の主人公・真野萌奈美は「人間のアナミナティ」であることが示唆されている。
このように作品ごとに扱いは多少違う。だが人間が手を出してはいけないものという点は一致している。


◆醒めない夢
この世界において避けなければならないものとして扱われている事象。詳細は全くの不明。
『都会のトム&ソーヤ』では「頭脳集団」に所属する時見が見た未来として登場する。内人と創也がゲームを完成させた場合、人類は醒めない夢を見るとされる。
『怪盗クイーン』では「‵ラルファ」というナニカが封印から解かれた場合醒めない夢を見ると言われる。これについて唯一知っているらしい「オグロ」は「こわい夢は、起きたら消えるよね。でも、その夢が、起きても消えなかったら……。死んでも見続けるとしたら……」と説明している。
そしてこの説明と、『虹北恭助』シリーズに登場した陽炎村伝説はよく似ているが……。ついでに陽炎村は今後クイーンの過去を握る重要な鍵として登場するらしい。
何よりこれは作者が初期から書いてきた「赤い夢」と酷似している。


◆第一の暗号
令夢の中学校の昇降口に書かれていた落書き。『ASP3』と記されている。
昇降口にはほかにも落書きはあるが、何故かこれだけ鉛筆で小さく書かれている。
学校では生徒会とクラブ連合が予算を巡って言い争っており、それが関係していると推測されている。


◆第二の暗号
学校の校庭で見つかった、ラインカーで記された巨大な落書き。
まったく意味を持っていない線が、様々な方向に引かれている。


◆第三の暗号
今度は虹北商店街。閉業した酒屋『李下じいさんのリカーショップ』のシャッターに書かれていた落書き。
縦書きで


10
と書かれている。


◆神
終盤で夢水が口にした概念。
人間にも理解できるよう編集された存在ではなく、人間には認知すら不可能は本物の神。
夢水など一部の人間は、夢の中でのみその「神」と出会うことができるらしい。*2


【登場人物】


◆谷屋令夢
本作の主人公。違う世界にスリップする能力を持っている。
どこにでもいる平凡な中学二年生。三年前に母親が交通事故で亡くなっており、父親と二人暮らし。その関係で家事全般はある程度できる。
内藤内人とは小さいころからの幼なじみ。家族ぐるみの付き合いをしている。

本人も自称している通り、妙な力を持っていることを除けば普通の女の子。明るくやや勝気な性格であることを以外は、本当にどこにでもいるような中学生。
感性も比較的一般人寄り。そのため本作では個性の強いはやみね世界の住人に驚かされることが多い。令夢という「外側」の視点で見るため、いつものキャラたちもやや違った印象を受ける。これ読んで亜衣や響子ちゃんが美少女であることを思い出した人もいるんじゃないだろうか。

平凡だがやたら環境適応能力が高い。これは令夢自身も自覚している。
そもそもスリップ能力についても、手に入れて半年で馴染んでいた。力について怯えることなく「どんな過酷な世界に行っても私は生き残れるだろう」と考えている。それどころか別の世界に行けることを楽しんでいる。随分たくましい中学生である。
また中盤には謎の人物に誘拐されてしまう。……が、「わめいてもどうせ逃げられない」と即座に判断し、大人しくしていた。そのおかげで内人は彼女をスムーズに助けることができた。
『平凡だが地頭はいい』という内人とどこか似ている人物。

彼女が元いた世界には「神」の概念が存在しない。そのためおみくじや神社の存在に首をかしげていた。


◆令夢の母
本来の世界では交通事故で亡くなっている。
令夢が今回転移した世界では存命であり、彼女にとっては3年ぶりの再会となった。
しかし令夢が14歳まで生きていた場合の母は厳しい教育ママになっており、そのギャップに悩まされることになる。


◆内藤内人
『都会のトム&ソーヤ』シリーズの主人公。自称平凡な、その実無敵のサバイバー。
本作では令夢の幼なじみになっている。令夢が元いた世界でも、彼女の幼なじみとして存在している。そちらの内人はサバイバル能力がなければ小説執筆もしていない、正真正銘『平凡な中学生』。
元いた世界の内人は小さいころに令夢をかばって手に怪我をした過去がある。そのため未だに古傷が残っている。しかしこの世界の内人には傷が残っていない。

相変わらず無敵のサバイバー。今回は令夢の視点で見ているために、いつもより強キャラ感がある。
  • 自分たちを尾行している人物がいることにあっさりと気が付く
  • その人物が襲ってくるも焦ることなく新聞紙とガムテープで追い払う
  • さらわれた令夢を取り返すため、咄嗟に手元にあった花火で応戦する
これだけのことをやらかしておいてよく『平凡な中学生』を名乗れるものである。そりゃ創也も突っ込みたくなるだろう。

本編での内人との大きな違いはかなり熱心に小説を書いていること。本編では執筆していることをごく一部の人間にしか話していない。それにに対しこちらではほぼ公言している。
徹夜で執筆を続けたり、賞の傾向も研究しようとしたりなど小説にかける愛は深い。
小説について話し合うため、中盤では亜衣に会うことになる。

令夢とは幼なじみであり友達以上恋人未満の関係。
お互い男女とか関係なくバカ言い合える唯一の関係。それでも令夢のことになるとムキになってしまうなどどこか異性として意識してしまっている。この2人のニヤニヤ度数はメチャクチャ高い。
令夢を守ろうとするときの内人はやたらイケメンである


◆竜王創也
『都会のトム&ソーヤ』シリーズもう一人の主人公。竜王グループの御曹司であり、『究極のゲーム』をつくることを夢見る内人の相棒。
令夢が元いた世界には存在しなかったらしい。初めて創也を見たときは「イケメンで天才で御曹司」というトンデモ人物の実在に驚いていた。気持ちは分かる。ついでに「コイツと平凡な内人のどこに接点が?」と訝しんでいた。それも気持ちは分かる。
本作は令夢と内人の物語であるためか若干サブ寄り。大体二人のフォローに回っている。相棒とその幼なじみの関係性が気になるのか、何かとおせっかいをかけてくる。
本作の探偵役の一人であり、推理力は相変わらず高い。令夢がスリップしてきたと気が付いた初めての人物である。


◆二階堂卓也
創也のボディーガード。戦闘能力は本編世界と同じく人間を辞めている。
令夢と内人の痴話喧嘩について、「青春ですね」と的確なコメントをしていた。流石に恥ずかしかったのか耳を真っ赤にしていた。


◆クイーン
『怪盗クイーン』シリーズの主人公。「人生はC調と遊び心」がモットーのお気楽怪盗。
今回はもっぱら世界観の解説役を務める。まあ『怪盗クイーン』の物語が現状一番世界の秘密に切り込む内容であるから仕方がない。
ひと仕事終わったということで、休息を兼ね夢水に逢いに行くため日本に赴く。
ただそれ以外では意外と出番は少なめ。結局令夢と絡むシーンはほぼゼロであるし。トルバドゥールの中で怠けたり、教授の洋館に転がり込んで駄弁ったりするくらいしかやっていない。その短いシーンで世界観について解説しているのだから結構頑張っている。
まあ本作は中学生の女の子が主人公であるので、話に入りづらかったのだろう。


◆ジョーカー
クイーンの仕事上のパートナー。クイーンの出番が少ないので必然的に彼の出番も少ない。
クイーンからは「日本にはNINJAがいるからケンカしないようにね」とわけのわからない忠告を受けていた。「NINJAって何百年も前に絶滅したんじゃないんですか」と至極真っ当な疑問を返すも、「相手はNINJAだよ。NINJAが死ぬはずないだろ」という言葉に納得しかけてしまう。


◆RD
一介の人工知能。
仕事が終わったから休みを取りたいと主張するクイーンに対し、あれだけの仕事で休みは取らせられないと反論していた。
夢水とクイーンの駄弁りのために、大量のおつまみをつくらされる羽目になる。


◆岩崎亜衣
『名探偵夢水清志郎事件ノート』の語り部。三つ子の長女で小説家志望の中学一年生。
内人の小説の打ち合わせ相手として登場する。正直出番は少なめ。セリフも数言しかない。
小説家としての技量の高さには内人も舌を巻いていた。この子小説家スキルに関してははやみね世界最強格だから仕方がない。本編世界では15歳にしてとある賞の最終選考まで残っているくらいだし。
何故かスリップ能力が登場するSF小説を書いている。教授にアイデアをもらったらしい。


◆夢水清志郎
『名探偵夢水清志郎事件ノート』シリーズの主人公。社会不適合者な名探偵。
亜衣が一福堂で打ち合わせをすると聞いて、お好み焼きを食べるため勝手についてきた。安定して変人であり、初対面の令夢すら「ものすごく怪しい」とコメントした。
コイツ相手ではあのクイーンすらツッコミに回らざる得なくなる。
語り部が亜衣ではないので「夢水さん」と呼ばれる。なんだか新鮮。
物語ではクイーンと同じく世界観の解説役。そのため探偵としての役割はあんまりない。しかし令夢がスリップしてきたことをアッサリ気が付くなど名探偵である。
ただ、「クイーンのライバル」という設定のためか、明らかにキャラ設定が怪盗クイーン側に引っ張られている。何故かクイーンの物語で起こりかけている世界の真実についても、ある程度知識があるというチートっぷり。それどころかクイーンが知らない事象についても知っている節がある。どちらもクイーンの世界では国際警察機構トップクラスの機密情報である。
何者なんだ、この名探偵?


◆岩崎真衣
◆岩崎美衣
亜衣の妹たち。内人との打ち合わせに付いてくる。そっくりな三つ子ということで令夢に驚かれた。
それ以外はほぼモブ。まあオールスターで物語を回すんだから誰かが犠牲にならなきゃいけないわけで……。


◆虹北恭助
『虹北恭助』シリーズの主人公。古本屋「虹北堂」を営む不登校児。
このシリーズは彼が小学校~高校までの話であるが本作では高校生設定。
また旅に出ていたが、令夢が虹北商店街にやってくると同時に旅から帰ってくる。そして響子ちゃんにぶん殴られた。虹北商店街の一員として第三の暗号に挑むことになる。
一応はやみね作品の主人公の一人だがあまり本筋にはかかわらない。シリーズ自体が一番早く終わったこともあり、世界の謎についての話を入れにくかったのかもしれない。でも恭助はそちら方面に関わらず響子ちゃんと末永く幸せでいて欲しい気がしなくもない。
ちなみに本編世界の恭助は響子と結婚し子供をひとりもうけている。詳しくは『ディリュージョン社』シリーズまたは『名探偵夢水清志郎の事件簿』シリーズを読もう。


◆野村響子
『虹北恭助』シリーズの語り部。恭助の幼なじみというか嫁。
第三の謎の発見者。商店街に落書きされていることにキレて、一福堂でヤケ食いしていたところで令夢たちと出会う。
戦闘能力は無駄に高い。連絡もなく帰ってきた恭助にきれいな右ストレートを叩きこんでいた。


◆狐面の女
お祭りに売っているような狐のお面をつけた少女。
中盤に登場し令夢を誘拐する。彼女が内人たちに関わる場合、彼らのゲームが別次元のものになるため止めようとしているらしい。
正体はおそらく『都会のトム&ソーヤ』に登場する浦沢ユラ。計画立案集団『頭脳集団』に所属している。
……心なしか、令夢に対しては殺意が高い気がする。まあ本編で内人と一番フラグ立てているのはこの人なので、いきなり幼なじみの令夢が出てきたらイラっと来るだろう。


◆芝原
令夢の中学校のサッカー部の部長。クラブ連合の会長を務めている。現在は予算関係で生徒会ともめている。
実は結構うっかりなところがあるらしい。


◆田添
生徒会の会計。クラス連合と言い争っている。令夢の元いた世界では芝原とつき合っていた。


それ以外にも多くのキャラがカメオ出演している。見つけられるだけ見つけてみよう!


















◆第一の暗号
書いたのは芝原と田添。
実はこちらの世界でもふたりは付き合っていた。しかし個人としての想いはあっても、それぞれの立場ゆえに表立って付き合うことはできない。そのため自分たちにだけわかるメッセージとして、昇降口に落書きを残していた。
意味は単純に「After School Park 3」。つまり「放課後3時に公園で会いましょう」。


◆第三の暗号
泥棒など質の悪い業者が、同業者などに家の情報を伝えるためのメッセージ。
「十」と「口」を縦につなげて「古」。恭助の推理によると「あの店には10年物の古酒がある」ということになる。
それを見て窃盗団が店に入るが、恭助たちの活躍で事なきを得た。




とある夏祭りの帰り道、令夢は亜衣の小説にスリップ能力が登場することを知る。
さらに亜衣から夢水からヒントをもらったと聞き、創也と共に彼の住む洋館に尋ねる。


夢水は微細な違和感から令夢がスリップする力を持つと推理した。
その話の中で令夢はこの世界には神という概念があること、逆に創也たちは令夢の世界にはそれがないことを知る。

話していく中で、夢水はスリップについてひとつの推測を立てる。令夢目線ではこの世界はゲームのようであると
ゲームとは段階的に目的をクリアしていき、最後にラスボスを倒せばゲームクリア。
それは令夢の周りにいくつも謎が現れてきたことによく似ている。さらに令夢が元の世界に帰れる条件は「何かを成し遂げるか解決する」こと。つまりラスボスを倒すことによるゲームクリア
今まで登場した謎は、謎の答えが重要なのではなく、立て続けに表れたことこそが重要なのだった
残された謎は、校庭に記された暗号のみ。

あまりの話に創也も令夢も呆然とする。創也が独り言のように「僕らはプレイヤーなんですか」と言う。
夢水はそれを否定した。プレイヤーは神であり、自分たちは駒であると


その話を聞いてから、令夢はどうしても落ち込み気味になっていった。
その上
「令夢が元気がない」

「内人が心配する」

「内人は想像力過多なため『もしかして令夢と創也は付き合っていて自分はお邪魔虫なのでは?』と斜め上の心配をする」

「内人も元気がなくなっていく」
という悪循環を繰り返していた。

それでも令夢は状況を変えるため、創也の助言もあって、夏休み最終日に内人とふたりきりで花火大会に行くことへ。


当日、ふたりは花火の隠れスポットである神社の境内に向かっていた。
石段を上る最中令夢はうっかり足を滑らせてしまう。転びそうになった彼女の手をとって助けたのは内人だった。
令夢の手を見て内人は驚いたようにつぶやく。




「誰だ……お前?」


令夢が元いた世界では、小さいころに彼女をかばって内人が手に怪我をしたことがあった。そのせいであちらの世界の内人には未だに古傷が残っている。
だがこの世界の内人に傷はない。こちらでは令夢が内人をかばって怪我をしたのだから。
令夢に残っているはずの古傷がないことで、今の彼女には何かあることに気が付いたのだった。

観念した令夢は自分が力を持っていること、そして出来ればこの世界にいたいことを話す。
内人も納得してくれた。帰り道、ぽつりぽつりと互いに2学期の抱負を話す。
そんな中、内人がふと訊ねた。令夢がこちらに来たなら、元々この世界にいた令夢はどこに行ってしまったのかと。その口調は妙に心配げだった。

それを聞いて令夢は決意を固める。出来ることなら自分はずっとこの世界にいたい。けれども、そういうわけにはいかないと。
だから令夢は最後まで隠しておきたかったある事実を口にした。



「あのね、校庭に落書きしたの――それ、わたしなんだ」













◆第二の暗号
つくったのは令夢自身。暗号に意味はなくただ適当に描いただけ。
令夢は早い段階でこの世界で解決するべきことが暗号を解くことだと薄々分かっていた。だが創也や夢水のような名探偵がいるため、早かれ遅かれ謎は解かれてしまう。だから令夢は全く意味のない、誰にも解けない謎を作った
夢水たち名探偵は令夢がつくったことを理解している。けれども同時に令夢の気持ちも理解しているため謎は解かない。だから令夢さえ黙っていればずっとこの世界にいられるはずだった。
けれどもそういうわけにはいかないと令夢は気が付いてしまった。

こうして謎は全て解かれた。令夢は明日には元の世界に戻っているだろう。
令夢は「明日からの自分にも普通に接してほしい」と告げ、内人と別れた。
母とも自分なりに折り合いをつけることができた。


それから次の日、つまり2学期の始まり。令夢は元の世界に戻っていた。
隣には内人がいる。けれどもあちらとは違いサバイバル能力もなければ小説も書いていない平凡な中学生。
内人が笑顔を向ける。令夢にはそれが妙に懐かしい感じがした。



内人――小説、書いてみない?



【余談】


このように様々な作品の闇鍋になっている本作。
作者は「この本だけを読んでも楽しんでいただけるように書きましたが」と前置きしたうえでこれらも読むように勧めている。

『都会のトム&ソーヤ』①⑦⑧
今回メインとなったシリーズ。
7・8巻は狐面の女ことユラと『醒めない夢』の初出。

『そして五人がいなくなる』
夢水シリーズの第一作。
これに登場する遊園地『オムラ・アミューズメント・パーク』はこの作品でも近々オープンされると令夢が言っている。

『少年名探偵 虹北恭助の冒険』
虹北恭助シリーズの第一作。特に冒険ものではないタイトル詐欺。
これの恭助はまだ小学生だが、読めばシリーズのお約束は理解できる。

『怪盗クイーンはサーカスがお好き』
クイーンシリーズの(ry。
「この怪盗世界を股にかけているはずなのに日本でしか働かないな」とか言われていたころ。

『オリエント急行とパンドラの謎』
クイーンと夢水の本格クロスオーバー。とは言っても8割クイーンの話だが。

『怪盗クイーンからの予告状 怪盗クイーンエピソード0』
クイーンと夢水の初対決、クイーンとジョーカーの出会い、初楼の結成秘話を採録したもの。
ちなみに余談だが。本作ではクイーンと夢水が出会っている(少なくとも2巻後の出来事)に対して遊園地がオープンしていない(一巻中の出来事)ことから、やはり本作は本編とはパラレルワールドであることが分かる。

『モナミは世界を終わらせる?』
今後間違いなく最重要事項となる現象『シンクロ』が中心となる作品。
そっちでの主人公モナミが今作ではモブだったのは……やっぱり出しにくかったのだろう。作者もコントロールしにくい強いキャラ扱いしているし。

『僕と未来屋の夏』
同じく今後重要になってくるであろう『時見』が登場する。
それにしても、はやみね読者もまさか時見とシンクロがここまで重要になるとは思っていなかっただろう。


これらを読むと面白さが当社比8倍になるらしい。
今の部分だけでなくシリーズすべて読むと当社比64倍増し、さらにはやみね作品全部読むと∞増し。
なおはやみねかおるの作品はメディア化・再録含めて大体120冊前後。

多い

























内藤くんは、小説を書かないの?













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最終更新:2023年11月01日 21:42

*1 2024年

*2 どうでもいいかもしれない余談だがはやみね先生は教授と夢で出会ったことで作品の主人公に据えている。