2000年第45回有馬記念

登録日:2021/12/25 Sat 23:04:27
更新日:2024/04/30 Tue 10:19:47
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テイエムオペラオーはどうするんだ!?

テイエムはどうする!?

残り310mしかありません!!


2000年第45回有馬記念とは、2000年12月25日に中山競馬場で行われたGⅠレースである。
時の最強馬、テイエムオペラオー『世紀末覇王』の名を確たるものにした、有馬記念史上屈指の伝説のレースである。


出走馬


枠番 馬番 馬名 騎手 オッズ 人気
1 1 ツルマルツヨシ 藤田伸二 13.1 4
2 マチカネキンノホシ 岡部幸雄 24.1 7
2 3 ホットシークレット 横山典弘 34.0 8
4 ナリタトップロード 的場均 7.6 3
3 5 ジョ―ビッグバン 山田和広 54.9 11
6 トーホウシデン 田中勝春 15.2 5
4 7 テイエムオペラオー 和田竜二 1.7 1
8 ユーセイトップラン 中館英二 144.7 16
5 9 ゴーイングスズカ 芹沢純一 101.0 14
10 キングヘイロー 柴田善臣 39.9 9
6 11 ステイゴールド 後藤浩輝 46.5 10
12 ダイワテキサス 蛯名正義 81.0 13
7 13 メイショウドトウ 安田康彦 6.8 2
14 アドマイヤボス 武豊 19.3 6
8 15 アメリカンボス 江田照男 131.4 15
16 メイショウオウドウ 河内洋 57.2 12

世紀末の絶対王政

2000年、この年の古馬戦線の主役はテイエムオペラオーとメイショウドトウだった。
テイエムオペラオーはこの年は京都記念→阪神大賞典→天皇賞(春)→宝塚記念→京都大賞典→天皇賞(秋)→ジャパンカップと連戦連勝。歴戦の古豪も、新進気鋭の若駒も、海外からの刺客も、不気味なジンクスもすべてねじ伏せ勝ち星を重ねていた。そして宝塚、秋天、JCにおいてオペラオーの2着に入っていたのはメイショウドトウであった。
「黙ってオペドトウを買え」──世紀末の日本競馬にそんな風潮が定着するのも無理はなかった。

そして迎えたこの年最後のレース、有馬記念。このレースでもオペラオーとドトウが抜けているのは誰の目にも明らかであった。テイエムオペラオーはここを勝てば史上初の秋古馬三冠、更には重賞8連勝・年間無敗・古馬王道GⅠ完全制覇(グランドスラム)という前代未聞の大記録がかかっている。当然1番人気、付いたオッズは1.7倍と断然の支持を受けた。

しかし、他の馬や騎手も当然そうやすやすと勝たせてはくれない。何としても勝ってやる──そう思っていたのはこれまで幾度となくオペラオーの2着で悔しい思いをしてきたドトウだけではなかった。

覇王、絶体絶命

レーススタート、オペラオーは好スタートを切り、他馬もまずまず揃ったスタートとなった。
そしてオペラオーはそのままいつもの先行策を取ろうとしたが、スタート直後から馬群に揉まれる苦しい展開となり、思うような位置取りができない。しかも1周目の4コーナーで他馬と接触し、一気に後方まで下がってしまった。

そして問題はこの後。オペラオーは10頭以上もの馬にガッチリ包囲され、前にも後ろにもほとんど動けなくなってしまう。
普段は前の方でレースをする馬までもがオペラオーを囲んでおり、まるで徒党を組んでオペラオーを負かしに行っているかのようなレースぶりであった。スタンド前に差し掛かったころには事態に気づいた観客から「ふざけんなー!」と怒号が飛び、中山競馬場は異様な雰囲気に包まれる。

さあ、和田がグイグイグイグイ押している!

和田がグイグイグイグイ押している!

オペラオーは後方に追いやられたままレースはスローで進む。向こう正面になってもオペラオーには道が空かない。前にも行けず外にも出せず、後方11番手のまま最後の直線に差し掛かる。
残り300mを切ってもオペラオーは依然として馬群の中。中山競馬場は怒号や悲鳴、絶望で包まれた。

テイエムは来ないのか!?

テイエムは来ないのか!?

もう駄目だ!誰もがそう思ったその時──




テイエム来た!



テイエム来た!



テイエム来た!




テイエム来た!!





テイエム来た!!






テイエム来た!!!






抜け出すか!?メイショウドトウと!!




この絶体絶命の窮地でも覇王は諦めていなかった。
ダイワテキサスが内にヨレて前が空いた一瞬の隙をついて奇跡のような末脚で包囲網を脱出し、前を行くメイショウドトウに襲い掛かる。
そして──




テイエム、テイエム、テイエムかー!?僅かにテイエムかー!!




最後はメイショウドトウをハナ差差し切り、劇的な勝利を収めたのだった。
“ハナ差圧勝”。人々は彼の勝ちっぷりをこう評した。
もはやこの馬は負けることなどないのか──、そんな衝撃とともに20世紀最後の有馬記念は幕を下ろした。


レース結果

着順 馬名 タイム 着差 後3F コーナー
通過順
1 テイエムオペラオー 2:34.1 - 36.4 14-12-12-11
2 メイショウドトウ 2:34.1 ハナ 36.5 11-8-8-7
3 ダイワテキサス 2:34:2 3/4 36.9 6-5-4-2
4 キングヘイロー 2:34.3 1/2 36.0 15-15-16-13
5 アドマイヤボス 2:34.3 ハナ 36.6 12-12-12-11
6 アメリカンボス 2:34.7 2.1/2 37.5 3-3-4-2
7 ステイゴールド 2:34.8 クビ 37.5 12-12-8-7
8 メイショウオウドウ 2:35.0 1 37.5 8-8-8-7
9 ナリタトップロード 2:35.1 3/4 38.0 6-5-3-2
10 ホットシークレット 2:35.1 クビ 38.2 3-3-2-1
11 ユーセイトップラン 2:35.2 クビ 37.0 15-15-15-14
12 マチカネキンノホシ 2:36.0 5 38.7 3-5-4-6
13 ジョービッグバン 2:36.3 1.3/4 39.4 1-1-1-2
14 トーホウシデン 2:36.9 3.1/2 39.4 8-8-8-7
15 ゴーイングスズカ 2:38.5 10 41.2 2-2-4-15
ツルマルツヨシ - - - 8-8-12-16


払い戻し

単勝 7 170円 1番人気
複勝 7 120円 1番人気
13 170円 2番人気
12 770円 13番人気
枠連 4-7 330円 1番人気
馬連 7-13 380円 1番人気
ワイド 7-13 230円 1番人気
7-12 1,730円 22番人気
11-12 2,900円 33番人気


例によってオペドトウのワンツーで決着したため、払い戻しはかなりしょっぱくなった。
馬券師たちは改めてこの2トップの力に感服したのであった。


余談


  • 始まる前からハンデ?
実はこの日の朝、オペラオーは暴れた馬に驚いて顔面を強打しており、顔が腫れて左目はほとんど見えない状態で出走していたという。
そんな状態で相手が弱いならともかくGⅠの大舞台で強豪たちの徹底マークを振り切って勝てる馬など、未来永劫現れないのではなかろうか。

  • 関係者のコメント
このレースについて馬主の竹園氏は「馬も騎手も涙が出るほどかわいそうだった」と述べた。また、和田騎手は当時の連勝街道を歩んでいた1年を振り返って「おかしくなるくらいのプレッシャーだった。あの年はオペラオーの事しか考えてなかった」と当時の心境を明かしている。

  • 陰謀論
この包囲網について、競馬ファンの間で「社台系ではないオペラオーのグランドスラムを警戒した社台グループが包囲網を仕組んだ」という陰謀論が語られる事があり、ネット上では「社台包囲網」という表現が当たり前のように定着している。
実際には根拠になるような事柄もなく、それどころか今回社台系の馬は別に有力でも何でもない数頭*1しか出走しておらず、包囲網に参加した馬に至ってはステイゴールドぐらいしかいなかったので、単なる邪推に過ぎないのだが。
そもそもそれまでのオペラオーの戦績を考えれば要注意な相手としてマークするのはむしろ当然の発想であり、そこにレース展開が予想以上にスローペースになって*2馬が密集する形になった事が重なった結果、たまたま包囲されてる様に見えたというのが有力な見解だろう。
実際の所は当事者達のみにしかわからないのだが、少なくとも外野が社台が仕組んだなどと囃し立てるのは明らかに見当違いだろう。そのため、この話はあくまで根拠のない全くの陰謀論、眉唾物として流しておいた方がいいだろう。
他にも「岡部ライン」などと揶揄されたりもするが、やはりこちらも根拠はないことに違いはない。

  • その後のオペラオー
かくしてドトウをお供に大偉業を達成したオペラオーは文句なしにこの年の年度代表馬に満票で選ばれた。
そして、翌年も現役続行するもさすがに激戦の疲れには逆らえず、天皇賞(春)を勝ったのを最後に未勝利に終わり*3、引退した。宝塚記念ではメイショウドトウの逆襲を許し、秋戦線ではたちに引導を渡され、ついに覇王の絶対王朝は崩壊と相成ったのである。有馬記念での「テイエムは来ているが届きそうにない!」という実況*4に、一つの時代の終わりを感じた人は多かっただろう。
しかし、そんな中でも同世代の馬以外には2回以上の先着を許さず、最後まで掲示板を外さずに戦い抜いたという点では、覇王の面目は保ったと言えるだろう。

  • キングヘイロー
最強世代との呼び声高い98年クラシック世代の一角で、この年に高松宮記念で悲願のGⅠ制覇を達成したキングヘイローは今回が引退レースとなった。
短距離路線に舵を切って久しく、高松宮記念の後は再びパッとしない成績が続いており、概ね終わった馬と見なされていたであろうが、
馬群の中だとやる気をなくすのでオペラオーのマークには一切加わらず、外から上がり最速でほとんど差のない4着。彼の卓越した適性の広さと譲りの強烈な末脚を最後までファンに見せつけたのであった。
引退後は種牡馬としても優秀な成績を収めた。
2019年3月19日、24歳没。

  • ツルマルツヨシ
結果の項にて競走中止となっているツルマルツヨシは、シンボリルドルフ産駒最後の中央重賞馬。
スペシャルウィークが7着に撃沈し、そんな彼をマークしていたせいでオペラオーも3着に終わってしまった前年の京都大賞典(GⅡ)を勝ち、前年の有馬記念で2強決着に一歩及ばなかったオペラオーに続いて4着だったのがこの馬である。
体質の弱さから2000年は有馬記念でようやく2戦目という状態であったが、それでもオペ・ドトウ・トップロードに続く4番人気となかなかの評価を受ける。
しかし最終直線にて競走中止、症状は繋靱帯断裂。命には関わらなかったが競走能力喪失で引退となった。
種牡馬にはなれず、2002年から京都競馬場で誘導馬となる。しかし脚の具合が悪くなり2007年で引退。
功労馬として余生を過ごしていたが2011年にオーナーが亡くなり、あわや廃用の危機であったが現役時代の担当厩務員が立ち上がり「ツルマルツヨシの会」を設立、ファンの支援により現在も存命中である。




すごい苦しい追記・修正でしたが……ウッ

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最終更新:2024年04月30日 10:19

*1 アドマイヤボス(馬主:ノーザンファーム=社台グループ)、ステイゴールド(馬主:社台レースホース)。また、ホットシークレット馬主の金子真人氏が馬主になるきっかけとしてノーザンファームの吉田勝己氏を紹介されたとwikipediaに書かれている程度、それとて90年代半ば=この時点で数年前。

*2 逃げ馬のホットシークレットが控えた事が原因とされる。もちろん社台はまったく関係ない。

*3 ただし、京都大賞典では2位入線し、1位入線のステイゴールドの失格によって繰り上がり1着。

*4 99年時は「テイエムも来ているが、外の方から最強の二頭!(スペシャルウィークグラスワンダー)」であり00年は上述の通り「テイエム来た!」の連呼。