リトラクタブル・ヘッドライト

登録日:2022/07/31 (日) 20:32:30
更新日:2024/01/08 Mon 17:05:12
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リトラクタブル・ヘッドライトとは、回転・開閉式としたヘッドライトのことである。
通称は「リトラ」「パカパカ」など。
「リトラクタブル」はRetract(格納)を語源とした「格納可能な」という意味である。

自動車に使われることがほとんどのため、本項では自動車での採用例を中心に述べる。


【始まり】

この世に自動車が登場して以降、様々なメーカーは空気抵抗を減少させるため、あの手この手の策を発案してきた。
しかし、どうしても空気抵抗面で巨大な壁が出てきた。それがヘッドライトの位置である。

ヘッドライトの最低地上高は歩行者に対する安全上の理由から規制があり、極端に低い位置には設置出来ない。
また、当時のヘッドライトは角形と丸型の規格型しか製造が出来なかったため、
そのまま流線型の前頭部に装備すると見た目も空気抵抗も非常によろしくないものとなる。

そこで考えられたのが、
「ヘッドライトは必要な時に出し、そうじゃない時にしまったほうが良くね?」
というアイデアである。

これなら高さ規制も空気抵抗もクリアできるということで、1960年代以降世界の自動車に急速に広まるようになった。

【種類】

空気抵抗が最も重視されるスーパーカーやスポーツカーに採用されることが多かったため、
「スーパーカー=リトラ」というイメージを持つ人も多いことだろう。
スポーツカー以外では70年代のアメリカ高級車で、直線に切り立った縦型のカバーを回転させてライトを開閉する車種もあった。特に米国市場では「ヘッドライトの高さ」を始めとした規定が厳格であったため、それに適合しつつメリットを大きく見いだせるリトラはアドヴァンテージとなり得た。
空気抵抗とまるっきり無関係の車種で採用されたのは、見た目の豪華さを狙ったギミックとも言えよう。
また、格納状態でもヘッドライトが一部分露出した状態の車種もあった。

特に1980年代以降の日本車ではリトラがちょっとしたブームとなり、セダンやコンパクトカーというおおよそ必要性のない車種までリトラが採用されることもあった。

さらにさらに、スーパーカーブームの影響で少年向け自転車にもこのライトを装備したものが現れている。

【終焉】

しかし、1990年代以降は採用車種が急速に減少することとなる。
その理由として以下が挙げられる。

  • ライトが展開/せり出す構造ゆえ、対人衝突時の安全性が問題視され、リトラは突起物扱いとなり改正以降に製造された車両は車検に通らなくなった*1
  • 展開機構が付いているため重量の増加、寒冷地・事故時に故障するリスクの増大
  • マルチリフレクターヘッドランプやプロジェクターランプの実用化に伴う、ヘッドライトのメインユニット部分小型化
  • 樹脂成形技術の大幅な向上に伴う、形状の自由化*2

これに伴いリトラは急速に衰退し*3、市販車では2005年のシボレー・コルベットを最後に姿を消した。
その後EU圏内で初採用された、デイライトや一定の明るさ以下でメインライトを一瞬で点灯させるという法令が出来てしまい、点灯までに時間がかかるリトラは実質的に不可能となった。*4
しかし自転車が製造されたように、当時の男子に与えたインパクトは非常に強く、未だにリトラの人気は高い。

なおリトラのレンズは規格ものであることが大半であり、H4丸灯やH4角灯などが主流であった。このためメーカーやサプライヤーの壁がほとんど無きに等しく、レンズおよびリフレクターユニットの入手が非常に容易かつ極めて低コストであるというメリットも存在する。
*5

【主な採用車種】

マツダ・RX-7(全世代)
リトラと聞いて真っ先に思い浮かぶであろうキングオブピュアスポーツカー。
日本車で最後までリトラを生産していた車種である。
当初はポルシェのようなカエル目の採用も考えられていたが、結果リトラとなった。
カエル目になっていたらその後同車の運命も変わっていただろう。
なおSA22C、FC3S、FD3Sと三世代あるが、全てレンズ形状は違う。

◎ランボルギーニ・カウンタック
リトラと(ryスーパーカーの横綱。
片側横並びの2灯ずつ、4灯が飛び出すスタイルは日本中の少年の心をつかんだ。
外観は製造終了まで幾度となく改良が加えられたが、ライトの形状はそのままだった。
なお、2021年に復活したLPI-800では残念ながら採用されなかった。
上にも書いたようにEU圏内どころか日本でも批准されたメインライトの点灯制限に引っかかってしまうため。

◎トヨタ・スプリンタートレノ(AE85/86・AE91/92形)
ハチロク登場に際し、カローラの北米輸出用クーペはリトラが採用され、日本ではスプリンター名義で発売。
豆腐屋さんのハチロクはとあるバトルの際、このリトラを生かしたテクニックを見せることに。

◎日産・180SX
1988年に登場したシルビアのハッチバック版兄弟車。
数少なっていた5ナンバーのFR車ということでシルビアともども走り屋御用達となる。
シルビアがフルモデルチェンジ後も1998年まで製造が続けられた。
ちなみに、この180SXのフロント軽量化やグリルヘッドライトによる灯化変更、あるいは“フロント破損時、解体屋からパーツを仕入れて安く修理する”等を狙ってシルビアからライトを移植改造したのがご存じ「シルエイティ」で、後に日産から純正改造車も発売された。

◎チゼータ・モロダーV16T
マルチェロ・ガンディーニデザインがランボルギーニ・ディアブロとしてデザインしたうちの1つがチゼータ社によってこの世に誕生した。
世界でもめずらしいダブルリトラ(左右で4つのライトが開閉する)。


◎ホンダ・スペイシー125ストライカー
二輪車初のリトラ採用車。
映画「ターミネーター」でサラ・コナーが乗っているのがこのバイクである。

◎京成AE100形
リトラ、実は鉄道車両にも採用例があるのをご存じだろうか?
空港特急「スカイライナー」の2代目車両で採用された。
こちらは消灯時には蓋が閉まる仕組みとなっていた。
しかし90年代後半以降はヘッドライトを常時点灯させるようになったため、蓋が閉まるのは停車中と後尾時だけとなった。




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最終更新:2024年01月08日 17:05

*1 この結果、当時を知らない+自動車に対する知識が乏しい若年警察官に違法な改造パーツと誤認され、注意されるというトラブルも起こっている。

*2 ヘッドライトがガラス製であった時代が長く、ガラス製は重量がある上に複雑な成形は不可能であった。同時に、そのためにどのメーカーの車両であってもフロントフェイスの印象がまるで代わり映えしないという弊害もあった。

*3 ホンダNSXのように、マイナーチェンジに伴ってリトラから固定式に変更された車種もある。

*4 一応「エンジン始動と同時にユニットを常時展開」であれば、ライトの点灯・消灯自体をは別に制御してやることで不可能ではない。ただ「走行中常時開いているリトラ」に存在意義はあるのか?と言われたら…である。

*5 例えば、いわゆる丸一灯バイクのヘッドライトはまさにH4丸灯。自動車で言うところのマツダ・RX-7 SA22Cやマツダ・ロードスター NA型などと同じ