パルプ・フィクション(映画)

登録日:2023/08/18 (金) 19:00:38
更新日:2024/03/23 Sat 23:03:55
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クエンティン・タランティーノ監督 時代にとどめをさす。



Pulp Fiction


概要


『パルプ・フィクション』(原題:Pulp Fiction)は、1994年10月14日にアメリカで公開されたオムニバス形式の映画。
日本では1994年10月8日に公開。
タイトルは、安物のパルプ紙に印刷された、すぐに読み捨てられるような通俗的な小説、つまり「三文小説」を意味する。
ハリウッド屈指のオタク監督クエンティン・タランティーノの、名実ともに代表作である。
そして90年代で最も重要な映画の一つでもあり、その斬新な構成と細部への徹底した作りこみ、小粋でハイセンスなセリフ回しや音楽の使い方など、後世に与えた影響は計り知れない。

前作『レザボア・ドッグス』で衝撃的な監督デビューを飾ったタランティーノであるが、実はこれを撮る前に、3話からなるオムニバス作品を撮りたいと考えていた。
その内の一つが『レザボア・ドッグス』として映画になっており、残りのアイデアをどうするのか、という所から本作が始まった。
まず、強盗カップルの話と、殺し屋コンビの話。そしてそこに加えられたのが、ビデオ屋時代の同僚ロジャー・エイヴァリーが書いた八百長試合の約束を破ったボクサーの話。
これらの物語は時系列がシャッフルされ、それぞれが少しずつ絡み合っており、最後まで観ると全容が分かる仕組みとなっている。
つまり、タイトルにもあるように小説の形式を映画に持ち込んだ作品と言える。*1
タランティーノ曰く、

三つのストーリーが並べられるのではなく、キャラクターが別のパートにも出入りする、オーバーラップする方が面白いと思い始めた。
短編ではなく、長編小説(ノヴェル)を映画でやる方法の一つとしてね。
最初から最後まである人物が主役で、他は脇役という形ではなく、ここではトラボルタの演じるヴィンセントが、彼中心のシチュエーションの次には、他の人物が主役を務める状況に入っていく。
小説ではそういう方法はよく行われているよね。
ラリー・マクマートリーの『ラスト・ショー』がそうだったけれど、章やパートごとに登場人物に違った角度からの光を当てる。
1作の中だけではなくて、ある1作の中ではマイナーなキャラクターが、別の作品では中心に据えられたり……。

この映画の脚本を書く作業は、小説を書くことに近かったと思う。

映画のラストでは、この作品がそれまでに登場した人物たち全員の、あるコミュニティを描いたものだ、というイメージを観客に持ってほしかった。
ラストの状況が最初から見えていて脚本を書いたわけじゃないんだ。
書きながら、僕はジュールスとヴィンセントと、あちこちほっつき歩くことを楽しんだ。
その中から、ラストのあのダイナー(食堂)のシーン、パンプキンとハニー・バニーが仕切っている状況に、ジュールスとヴィンセントがいる、という形が見えてきた。
そこで何が起こるかということもね。
そこで映画の円環(フル・サークル)が閉じる。

引用元:キネマ旬報1994年9月下旬号 P43

また、本作はフランスのヌーヴェルバーグ映画*2からも影響を受けている。
1940年代~50年代のフィルム・ノワールをフランスの若い監督たちが思い思いに撮った結果、独自性やアート性の強い作風になっていった。それを90年代にやったのが本作。
特に強い影響を受けているのがジャン=リュック・ゴダールの『はなればなれに』であり、本作の名場面であるダンスシーンはこの作品が元ネタの一つとなっている。
他にも、とにかく数えきれないほどの映画から引用しているので、お暇なら探してみよう。

しかしハリウッドの文法からかけ離れた構成のシナリオゆえに、最初に持ち込んだトライスター社からは
「ワケわからんから時間軸通りに書き直せ。というか本筋と関係ない話が多すぎる」と突っぱねられた。
彼らは斬新な話でなく、あくまで確実にヒットする話が欲しかったのである。
逆に本作を拾ったのは、当時新興だったミラマックス。そしてその読みは見事的中することになる。

迎えた第47回カンヌ国際映画祭。
ミラマックスから最終日の夜まで滞在するべきだと言われたタランティーノは、どうせお世辞か、せいぜい脚本賞かトラボルタへの主演俳優賞くらいだろうと思っていた。
しかし、授賞式が進んでも、なかなか作品の名前を呼ばれない。
これは……もしや?そわそわし始めるタランティーノ。
そして審査委員長のクリント・イーストウッドが封を開けて、最高賞パルムドール受賞作品の名前を告げた。───「パルプ・フィクション」
こうして、このしがないビデオ屋のバイト出身の監督は、わずか2作品目で映画界のてっぺんを取ってしまった。
さらに客席からアンチによるヤジを飛ばされても、中指を立てて返すという余裕すら見せつけた。もはや大スターの域である。

その後も快進撃はさらに続き、インディペンデント映画として初めて、アメリカ国内の売り上げ1億ドルを達成
パルムドールだけに飽き足らず、タランティーノとミラマックスはその後も各地で売り込みしまくり、メジャーな評論家協会賞を片っ端からものにしていった。
が、第67回アカデミー賞では7部門にノミネートされたものの、結局脚本賞のみの受賞に終わっている。
まあ、アカデミー賞の保守的な性質を考えれば、一つ取れただけでも御の字だと言える。

翌日の晩、タランティーノはビデオ屋時代の仲間たちを招待し、一緒に『荒野の用心棒』を鑑賞したり、思い出話に花を咲かせた。
そして彼らは皆、一つの時代が終わったことを悟っていた……
あの映画の生き字引は、もはや自分たちの手の届かない所に行ってしまったのだから。


ちなみに鑑賞する上での注意点として原語版ではローカルネタやマニアックな映画ネタが多く翻訳版ではそれらの大半がカット、意訳されてしまっているため翻訳版では映画を味わい尽くすには不十分である点が挙げられる*3
映画を好きになったという人は対訳本を読みながら再度鑑賞することをお勧めする。細かい小ネタも解説してあるので普通に鑑賞するだけでは気づけなかったネタも知ることができる。販促ではない

あらすじ



                
パルプ    
                
(1)柔らかく湿った形状のない物体    
(2)質の悪い紙に印刷された煽情的な内容の出版物     
               


プロローグ


……ここはとあるレストラン。
パンプキンとハニー・バニーというカップルが、強盗のやり方について駄弁っている。
「愛してるわ、パンプキン」
「愛してるよ、ハニー・バニー」
すると二人は豹変、店内での強盗を実行し始めた!

……ヴィンセントとジュールスの殺し屋コンビが、ハンバーガーのことやボスの妻ミアのことを駄弁りながら、目的地に向かう。
二人は若者たちが盗んだボスのアタッシュケースを取り戻すと、彼らを射殺してしまった。

第1話 ヴィンセント・ベガとマーセルス・ウォレスの妻


ある日ボスの妻ミアの面倒を見ることになったヴィンセント。
最初は仕事だと割り切っていたが、レストラン「ジャック・ラビット・スリム」でのデートを通していいムードになっていく。
が、このまま仕事は無事に終わると思われた矢先、ミアが誤ってヴィンセントの持っていたヘロインを吸ってしまい死の淵に……!

第2話 金時計


曾祖父から代々金時計を受け継いできたボクサーのブッチ。
ギャングのボス、マーセルスと八百長試合の約束をしていたが、対戦相手を死なせてしまう。
命を狙われた彼は恋人のファビアンと共に逃げ出そうとするが、彼女がよりによって大切な金時計をアパートに忘れてきたことが発覚。
アパートに取りに戻るブッチだが、そこから災難に次ぐ災難が始まる。

第3話 ボニーの一件


ヴィンセントとジュールスが若者たちを始末した後、トイレにもう一人が隠れていた。
ところが不思議なことに彼の撃った弾はすべて外れ、二人は無事だった。
この奇跡を目の当たりにし、殺し屋から足を洗うことを決意するジュールス。
しかし帰りに、ヴィンセントは内通者のマーヴィンをうっかり誤射して殺害。
二人も車内も血まみれ。はたしてどう対処するのか。

……そして最後に、物語は冒頭のレストランへとつながっていく。

登場人物


  • ヴィンセント・ベガ
演:ジョン・トラボルタ
吹替:鈴置洋孝

オランダ帰りのくたびれた体つきのギャング。愛読書は『Modesty Blaise』*4
第1話の主人公で、ボスの妻ミアの世話を頼まれた時は仕事と割り切ろうとしていたが、何だかんだで満更でもなさそうだった。
「ジャック・ラビット・スリム」でミアと共にツイストを踊るシーンで、トラボルタの出世作『サタデー・ナイト・フィーバー』を思い出した方も多いはず。
しかし帰宅後、トイレに行っている間にミアが誤って彼の持っていたヘロインを吸ってしまう。*5
出てきた後見たのは、見るも無残な姿となったミアだった……
大慌てで売人のランスの家に駆けこんだ彼は、すったもんだの末に心臓へのアドレナリン注射をぶっ刺すことに成功し、無事ミアを蘇生させた。

第2話では、ブッチの家に忍び込むも、銃を台所に置き忘れた挙句、トイレから出てきた所をブッチに見つかり……

第3話では若者たちを始末した後でうっかり内通者のマーヴィンを射殺、自分たちはもちろん、車の中を血と脳味噌の破片まみれにしてしまい、てんやわんやの大騒動に。
しかも盛大にやらかした割にどこか他人ごとだわ、ウルフに仕事を頼んでいるのに偉そうな態度だわと、その前に語られたエピソードを考えるとあんな目に遭うのもさもありなんである。
何とか車を掃除し死体を始末、血まみれになっていた装いもダサいTシャツに改め二人で朝食に行くが、彼がトイレに行っている間にカップルが強盗事件を起こすのだった……

こうして見ると分かる通り、彼がトイレに行くたびに事件が起こっている

演じたトラボルタは当時キャリアの低迷期であり、元は『レザボア・ドッグス』のマイケル・マドセンが第一候補だったが、マドセンが『ワイアット・アープ』出演のため降板。
トラボルタも当初は本作でなく、『フロム・ダスク・ティル・ドーン』の吸血鬼役を提示されたが興味を持てず、代わりに提示されたのが本作だった。
結果的にトラボルタは本作で再ブレイクを果たしたが、マドセンはこの選択を後悔したそうな。
まあ、ダンスシーンはトラボルタでなければ出来なかっただろうし、何よりMr.ブロンドのイメージもあって怖すぎるだろう……
このことから、Mr.ブロンドとヴィンセントは兄弟という裏設定が作られたという。
また、本作を書き入れ時の夏ではなく、賞レースに有利な秋公開にするようミラマックスに進言したのもトラボルタだった。
結果はご存じの通り。これは、自分の価値を信じてくれたタランティーノへの恩返しであったのだ。

  • ジュールス・ウィンフィールド
演:サミュエル・L・ジャクソン
吹替:大塚明夫

ヴィンセントの相方の黒人ギャング。
何かとうっかり屋なヴィンセントと対照的に冷静な性格。
ガールフレンドがベジタリアンのため、滅多にハンバーガーを食べる機会がないらしい。
そのため、アタッシュケースを取り戻す場面でチーズバーガーを本当に美味しそうに頬張るので、思わず食べたくなった方も多いだろう。
そして本作屈指の名言製造機
相手を殺すときの決め台詞は「エゼキエル書25章17節」。これを暗唱できるようになった人も多いはず。
しかしこの台詞、実は最後の部分しか合っておらず、その元ネタは千葉真一の『ボディガード牙』がアメリカで公開された時に付け加えられた序文から。
にもかかわらず、結構有名な評論家までもが聖書の引用だと信じていたらしい。
第3話では、トイレに隠れていた若者たちの仲間に何発も撃たれたにもかかわらず、弾がまったくかすりもしなかった*6ことで神の奇跡を感じ、殺し屋から足を洗うことを決断する。
そしてレストランで出会った強盗カップルを説得し、見事犠牲を出さずにその場を収めるのだった。
さらにその後の時系列である第2話で登場しなかった辺り、どうやら本当に組織から抜けた模様。
ちなみに彼の持つ「BAD MOTHER FUCKER」という文字の刺繍が入っている財布は、タランティーノの私物である。

  • ミア・ウォレス
演:ユマ・サーマン
吹替:勝生真沙子

マーセルスの妻。コカイン常習者。
元女優だが、今までの出演作で一番大きい仕事がパイロット版のドラマだったことから、大成できなかったようだ。
ヴィンセントと「ジャック・ラビット・スリム」にデートに行き、ツイスト大会に二人で出場。
この時彼女はノリノリで踊っているのに対し、ヴィンセントはゆったりした踊り方。
これはアッパー系のコカインとダウナー系のヘロインの対比となっているのではないかと考察されている。
帰宅後、うっかりヘロインを吸ってしまったことから生死の境をさまようが、事件解決後にデート中に教えられなかった番組のジョークを教えるのだった。
「パパとママと坊やのトマトが歩いているの。坊やの足が遅いもんだから、パパ・トマトが坊やをつぶして言うの。急げ(キャッチ・アップ)”……ケチャップ
ちなみに彼女が出演したドラマ『フォックス・フォース・ファイブ』は、5人組の女性秘密エージェントの話で、ミアはナイフ投げの達人を演じていた。
勘のいいファンは気づいたかもしれないが、これは『キル・ビル』の毒蛇暗殺団の元ネタである

  • ランス
演:エリック・ストルツ
吹替:宮本充
  • ジョディ
演:ロザンナ・アークエット
吹替:田中敦子

ヤクの売人夫婦。ジョディは全身の16カ所にピアスをしている。
ランス曰く、コカインはすっかり廃れており、ヘロインが人気トップに返り咲いたという。
そこでヴィンセントはヘロインを買っていくが、本来風船に入れて売るところをちょうど切らしてビニール袋に入れたばかりに、後に大惨事を招くことに。*7

  • ブッチ・クーリッジ
演:ブルース・ウィリス
吹替:山寺宏一

第2話の主人公で、落ち目のボクサー。
マーセルス曰く、「もう少しでトップまで登りつめるところまでいったが、トップはつかめなかった」。
彼から八百長試合の約束を持ちかけられ大金を受け取るも、実は弟を使ってノミ屋で自分の勝利に賭けていた。
しかも試合で対戦相手を死なせてしまい、追われる身に。
翌日、テネシーに発とうとしたタイミングでファビアンが自宅に大切な金時計を忘れてきたことが発覚。命がけで取りに戻るハメに。
無事に金時計を見つけ、意気揚々と戻ろうとするも……運悪く、マーセルスと鉢合わせしてしまった。
さらに運の悪いことに、逃げ込んだ先の質屋は何と変態どもの隠れ蓑で、マーセルス共々囚われの身に。
その後拘束をほどき脱出しようとするも、いたぶられるマーセルスを放っておけず……
まさに「情けは人の為ならず」を表したキャラクターと言える。

  • ファビアン
演:マリア・デ・メディロス
吹替:伊藤美紀

ブッチのフランス人の恋人。ポコッと出たおなかがセクシーだと考えている。
パイとパンケーキが大好物で、朝食に両方食べてしまうほどの健啖家。
しかし泣き虫でトロいところがあり、ブッチにとって命より大事な金時計を忘れるという大失態をやらかす。

  • クーンツ大尉
演:クリストファー・ウォーケン
吹替:菅生隆之

ブッチの回想に登場。
彼が幼い頃に、父の形見である金時計を渡すためにやって来たベトナム復員兵。
曰く、ベトナム戦争時に父と彼は捕虜になり、その時計を奪われまいと、とんでもない場所に隠し続けていたという……
まさにシリアスな笑いである。
この金時計を巡ってブッチは危険を冒す羽目になるが、結果的に彼が勝ち取ったものを考えればむしろ幸運のアイテムだったといえる。

  • マーセルス・ウォレス
演:ヴィング・レイムス
吹替:玄田哲章

ギャングのボス。
とても嫉妬深く、妻ミアの足をマッサージした男をバルコニーから突き落としたという逸話を持つ。
ブッチが八百長試合の約束を破った後は命をつけ狙うが、返り討ちにあった挙句、ブッチが逃げ込んだ先の質屋でアッー!な目に遭ってしまう
このシーンの元ネタは、ジョン・ブアマン監督の映画『脱出』から。
タランティーノは9歳の時にこの作品を観て、トラウマを植え付けられたという……
劇中での扱いは悲惨そのものだが、裏切り者のブッチに対しても恩義に報いる行動をしたり、
ジュールスの唐突なSOSに対して面倒臭がりながらもちゃんと対応するなど、街の顔役としてのキャラクターは伊達ではない一面も見せる。

  • エスメラルダ
演:アンジェラ・ジョーンズ

八百長試合の約束を破って逃げ出したブッチを拾ったタクシー運転手。
ラジオでこの試合を聞いており、ブッチに人を殺した気持ちはどうなのかと興味津々に尋ねる。
演じたアンジェラ・ジョーンズは後の『フェティッシュ』で、殺人事件マニアの特殊清掃員を演じている。

  • ジミー・ディミック
演:クエンティン・タランティーノ
吹替:立木文彦

ジュールスのカタギの友人。コーヒーの淹れ方にはこだわりがある模様。
ボニーという看護師の妻*8がおり、恐妻家。
ヴィンセントとジュールスにとんでもない厄介事を持ち込まれ怒り心頭に。
ちなみに前作『レザボア・ドッグス』のMr.ホワイトと同じ苗字であり、血縁関係にあるらしい。
今回のタランティーノは死なない

  • ウィンストン・ウルフ
演:ハーヴェイ・カイテル
吹替:西村知道

マーセルス直属の“掃除屋”。
ダンディでエレガントな物腰で、どんなに惨い殺人現場だろうと、時間が限られていようと、的確に指示を出すプロ中のプロ。
おまけに事件の発端となったヴィンセントに生意気な口をきかれても毅然と受け流した。
その冷静さには、ジュールスも舌を巻くほど。

  • パンプキン
演:ティム・ロス
吹替:安原義人
  • ハニー・バニー
演:アマンダ・プラマー
吹替:安達忍

プロローグとエピローグに登場する強盗カップル。本名はリンゴとヨランダ。
訪れたレストランで強盗を実行するが、そこには神の奇跡に触れて改心したジュールスがいた……
出番は短いものの、3つのエピソードをまとめ円環構造を完成させる重要な立場と言える。

余談


〇タランティーノ作品で定番の小道具「レッド・アップル」のタバコと「ビッグ・カフナ・バーガー」は、本作が初登場。*9
特に「レッド・アップル」は、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』のエンドロールのおまけ映像によると1862年創業という老舗ブランド。
しかし、1858年が舞台の『ジャンゴ 繋がれざる者』にもそれらしきロゴが登場しており、実際はもっと歴史が長いのかもしれない。

〇ヴィンセントの乗る1964年製の赤いシェベル・マリブ・コンバーチブルはタランティーノの私物だったが、本作の製作中に盗難に遭ってしまった
ところが2013年、カリフォルニアで保安官がシェベル・マリブ・コンバーチブルを分解しようとしていた二人組を発見。
職務質問したところ、この車の登録番号は偽造されており、タランティーノの車だったことが判明。
なお、所有者は車を購入したばかりであったため、窃盗には関与してないと見なされている。

〇マーセルスのアタッシュケースの中身は、長年ファンたちの間で議論されている。
鍵の番号が「666」だったり、開けると光り輝いていること、そしてマーセルス自身の後頭部に大きな絆創膏が貼ってあることから、その中身はマーセルスの魂だったのでは?と考える向きも。

〇第1話の舞台のレストラン「ジャック・ラビット・スリム」は50年代のハリウッドをモチーフとしており、映画ネタが盛りだくさん。
受付はエド・サリヴァンのコスプレの男、店員たちはマリリン・モンロー*10やメイミー・ヴァン・ドーレン、怪傑ゾロなど当時のスターやキャラクターの格好をしている。
『レザボア・ドッグス』でMr.ピンクを演じたスティーヴ・ブシェミも、バディ・ホリーに扮したウェイターの役でカメオ出演。
5ドルのシェイクは「マーティン=ルイス」と「エーモス=アンディ」の2種類があるが、前者は白人二人組のコメディアン、後者は黒人二人組によるコメディ番組から。
つまり、この二つはミルクシェイクとチョコレートシェイクということ。
その楽しい内装などもあって、ぜひとも訪れたいと思ったファンも多いのでは?
また、原語版でブッチが自宅に戻るシーンで流れてくるラジオによーく耳を澄ますと、この店のニュースかラジオ広告らしきものが聞こえてくる。

〇ブッチの対戦相手はウィルソンで、これはアメリカ大統領選を戦った“カルビン・クーリッジ”と“ウッドロー・ウィルソン”が由来。
また、看板には小さく「フォスラーvsマルティネス」とあるが、これはタランティーノのビデオ屋時代の同僚ラッセル・フォスラーとジェリー・マルティネスから。

〇タランティーノがジミー役で出演している間、『デスペラード』のロバート・ロドリゲスが監督していた。
後にロドリゲスは、本作の影響力の大きさを『スター・ウォーズ』に例えている。

〇本作の音楽は、懐かしのポップスやサーフミュージックで構成されている。
それらの曲の使い方はどれもハイセンスで、それぞれの場面ごとにこれ以上ないくらいにマッチしている。
タランティーノ曰く、

70年代の音楽にはその時代に生まれ育った人間にしか理解できない素晴らしさがあるんだ。

曲の寄せ集めじゃなくてテイストが大事だ。
パーソナリティが感じられる選曲さ。
まるで曲がセリフの一部のように聞こえてくる一体感のある楽しみ方、ありだよ。

音楽は僕に映画作りの取っ掛かりを与えてくれる。
いわば舵とりをしてくれるんだ。

他の奴が同じ曲を使っても、僕の使い方にはかなわないさ。

シネマ通信より抜粋

〇本作のシナリオにおいて多大な貢献をしたロジャー・エイヴァリー。
前述の通り、ブッチのエピソードは元は彼自身の書いた脚本だったのだが、タランティーノからクレジットをストーリー原案に格下げ要求されたことから揉めることになってしまう。
確かにこのエピソードの土台はエイヴァリーによるものだが、金時計の話やクーンツ大尉の台詞はタランティーノが作ったもの。
結局エイヴァリー自身が監督作『キリング・ゾーイ』の製作で手いっぱいだったことや、家賃の支払いにも困っていたことから折れざるを得なくなった。
こうして二人の関係には亀裂が入り、アカデミー賞での授賞式以後、顔を合わせることは無くなった……
と思いきや、近年和解したのか、現在二人はかつて勤めていたビデオ屋から名を取った「The Video Archives Podcast」というポッドキャストを始めている。
二人が往年の映画について熱く語り合う内容であり、やはりオタク同士の絆はそう簡単に断ち切られないようだ。


真実は───お前はwiki籠りで、俺は心悪しき荒らしだ。
でも俺は頑張るぜ……編集者になれるよう死ぬ気で、頑張る。

参考文献
キネマ旬報1994年9月下旬号
クエンティン・タランティーノ 映画に魂を売った男(フィルムアート社)
町山智浩の映画塾!
The 'Pulp Fiction' scenes that were not directed by Quentin Tarantino
シネマ通信

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最終更新:2024年03月23日 23:03

*1 この物語構成のアイデアを出したエイヴァリーは、ねじれた形で接点が重なり合うプレッツェルになぞらえている

*2 1950年代末に起こった、「新しい波」を意味する映画運動

*3 字幕版は戸田奈津子女史というのもあるが、吹き替え版は文字数の制約が少ないにもかかわらずさらに意訳が多い

*4 1966年に『唇からナイフ』として映画化されている。ちなみにタランティーノは小学1年生の時に「看護師の母の正体はモデスティ・ブレーズ」と言って担任に怒られたらしい

*5 劇中ではヴィンセントがヘロインを静脈注射でキメるシーンがある。つまりこれが本来の使い方であり、鼻から吸ったミアはオーバードーズを起こしてしまった

*6 しかも壁をよく見ると、ちょうど背中の位置に穴が開いている

*7 コカインとヘロインは見た目が似ているため、コカインはビニール袋、ヘロインは風船に入れて売られる

*8 『レザボア・ドッグス』でナイスガイ・エディが呼ぼうとした闇医者と同じ名前である

*9 厳密には、『レザボア・ドッグス』でブロンドがホワイトとピンクの争いに割って入る場面で飲んでいたジュースも、「ビッグ・カフナ・バーガー」のものらしい

*10 このマリリンのそっくりさんを演じたスーザン・グリフィスは、日本のホテル聚楽のCMにも出演している