レザボア・ドッグス

登録日:2023/07/09 (日) 21:28:57
更新日:2024/03/25 Mon 20:32:04
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「ライク・ア・ヴァージン」の意味を教えてやるよ。

昼夜問わず男と寝まくるヤリマンの歌だ。

ヤリたい、ヤリたい、ヤリたい、ヤリたい……

ある日、超デカチンと出会う。ハンパなくデカい。

映画の『大脱走』みたいに穴を掘りまくる。

女はグイグイ突かれて昔の感触を思い出す。すごい痛みだ。とにかく痛い。

もうガバガバのはずだが男に突かれると痛い。

初めての時みたいに痛い。

ヤリマンは処女喪失の痛みを思い出す。

だから、「ライク・ア・ヴァージン(処女のように)」なんだ。

概要


『レザボア・ドッグス』(原題:Reservoir Dogs)は、1992年1月18日にアメリカで公開されたクライムサスペンス映画。
日本では1993年4月24日に公開された。
ハリウッド屈指のオタク監督クエンティン・タランティーノの、衝撃のデビュー作である。

1989年、長年勤めたビデオ屋の店員を辞めたタランティーノは、本格的に映画の道を目指していた。
しかし、25歳の時に書いた『トゥルー・ロマンス』のシナリオのコピーをハリウッドのプロデューサーに片っ端から送りつけたものの、まったく相手にされない。
それでも何とか、脚本家協会が決めた最低料金3万ドルで売ることができた。
たとえ最低料金でも、ビデオ屋のバイトだった彼にとっては初めての大金。このカネで映画を作ろうと思い立つ。
その頃、タランティーノはとあるパーティーで駆け出しの映画プロデューサー、ローレンス・ベンダーと出会う。彼は俳優を目指していたが芽が出ず、プロデューサーに転向していた。
タランティーノが三週間書き続けたシナリオ───ノートに手書き、しかも誤字脱字だらけ───を見せたところ、ベンダーはその面白さに舌を巻き、さらにまとまった資金を集めようと提案。
ベンダーは出資者探しに1年の猶予が欲しいと言ったのだが……
それまで散々期待を持たせるだけ持たせて実際は空約束というのを何度も経験していたタランティーノはいてもたってもいられず、二カ月しか猶予を与えなかった。
……まったくの駆け出し二人が、たった二カ月で資金調達。ミッション・インポッシブル、無茶にも程がある。

ところが、なんと奇跡が起きた。
俳優になることを諦められないでいたベンダーは演技クラスに通い続けていたのだが、コーチのピーター・フロアにこのシナリオを映画化したいという話をした。
「もしいくらでもカネがあって、誰でも好きに選んでもいいなら、誰を主演にしたい?」
「……ハーヴェイ・カイテルですね」
するとフロアは叫んだ。「ハーヴェイ・カイテルはウチのカミさんの親友なんだ!すぐにそいつを送るんだ!」
そのシナリオを送ってから3日後。ベンダーの留守電にはカイテルからのメッセージが。
「シナリオは読んだ。これに出たい」
ついに二人に運が向いてきた。製作費も150万ドルに。それでも超低予算とは言え、当初の予算の50倍だ。
その他のキャスティングも、スティーブ・ブシェミにティム・ロス、マイケル・マドセンという具合に個性派俳優が揃った。
……だが、実はタランティーノにはカメラを扱った経験がなかった
予算の都合上物語はほぼ倉庫内で展開されるため、観客を退屈させないようカメラワークは極めて重要である。
そのためサンダンス・インスティテュート*1に入学することに。
講師の一人だったテリー・ギリアム*2は、床にカメラを置いて広角レンズで人物を遠くに捉えたかと思うと、急に顔のクローズアップにつなぐ彼の引き出しの多さに感心していた。
その才能はもちろん、今まで観てきた映画からしっかり学び取っていたのだ。
また、アドバイザーの女優からは「あんなに幸せそうにしている人は初めて見た」と言われている。

こうして作られた本作は、映画ファンに大きな衝撃を与えるほど斬新なアイデアに満ちていた。
まず項目冒頭に挙げた、あまりにも独特すぎるマドンナの「ライク・ア・ヴァージン」の考察。
作戦実行直前にこんな無駄話をする強盗なんて前代未聞である。しかも伏線ですらない。
おまけに強盗の話なのに、強盗シーンなし。つまり、今までのクライム映画が省いてきた部分だけで構成された作品なのだ。
そして中盤以降のとあるシーンでは、目を覆わずにはいられないだろう
小粋な無駄話、長回し、腹の探り合い、血みどろバイオレンス……
「処女作にはその人の全てが表れる」と言うが、正にその通りになったわけである。「ライク・ア・ヴァージン」だけに。

この斬新さと残酷描写などにより、インディーズ映画の登竜門、サンダンス映画祭では受賞を逃したものの話題をかっさらい、すぐさまミラマックスが配給権を獲得。
───中卒のモテないオタクが、いきなり監督デビュー作で大出世。
そして一躍時代の寵児となったタランティーノは次回作『パルプ・フィクション』で、名実共に90年代以降の映画界を牽引する存在となるのだった

あらすじ


ここはとあるコーヒーショップ。
8人の男たちが、マドンナの歌やラジオ番組についてや、チップを払うの払わないので駄弁り続けている。
彼らはギャング。もうすぐ宝石店への強奪計画を実行するところだ。

……しかし、用意周到に進めていたはずの計画は失敗。現場は警察に取り囲まれていたのだ。
果たして、サツの犬は誰か?
生き残った者たちは、アジトの倉庫の中で誰が裏切り者か、壮絶な腹の探り合いを始めるのだった……

登場人物


  • Mr.ホワイト/ラリー・ディミック
演:ハーヴェイ・カイテル
吹替:堀勝之祐

リーダー格。
ベテランのギャングで、ボスのジョーとも長いつき合い。
義理人情に厚い昔気質で、個人情報を教えることが固く禁じられている中オレンジに本名を教えており、深手を負った彼をかばい続ける。
むろん、アウトローなので特有の非情さも持ち合わせ、「人質に口を割らせるには小指を落とすのが一番だ」などと発言したり、警官を蜂の巣にしたりしている。
ちなみに、かつての仕事仲間に「アラバマ」という名前の女性がいたことが語られているが、『トゥルー・ロマンス』のヒロインの名前と同じであり、同一人物である可能性が示唆されている。

  • Mr.オレンジ/フレディ・ニューエンダイク
演:ティム・ロス
吹替:安原義人

一番若く、気弱そうな男。
普段は『マッハGoGoGo』のTシャツを着ていたり、部屋にシルバーサーファーのポスターがあったりと、オタク気質な模様。
計画失敗後の逃走中、女性の車を奪おうとした時に撃たれ、瀕死の重傷を負う。
OP終了後、いきなり血まみれになって後部座席でもがき苦しんでいる彼のカットで「この映画何かが違う……」と感じた方も多いはず。
そのため作中のほとんどで、血まみれになって倒れているが……

  • Mr.ブロンド/ヴィック・ベガ
演:マイケル・マドセン
吹替:金尾哲夫

ガタイのいい男。
出所したばかりで、ボスのジョーの名前を吐けば釈放されるところ、仲間たちをかばい4年間服役していた義理堅さを持つ。
そのため、ジョーやエディからの信頼も厚い。
ホワイトとピンクの争いに割って入る場面はカッコいい。
しかしサディストの危険人物であり、警報が鳴ったことに怒り狂い銃を乱射。それが原因で警察と銃撃戦になり、メンバーは散り散りに。
実際この件でホワイトからも「あいつとは組めない」と言われている。
そして何より、本作最大のトラウマ要員

ちなみに、タランティーノの次回作『パルプ・フィクション』の主人公の一人ヴィンセントの兄という裏設定がある。
そのため、ベガ兄弟が主人公の映画も企画されていたが、俳優の年齢の問題から実現しなかった。

  • Mr.ピンク
演:スティーヴ・ブシェミ
吹替:有本欽隆

小賢しい風貌の男。
チップは基本的に払わない主義。ちなみに実際のタランティーノもそうで、周りを困らせていたらしい。
ジョーから「ゲイみたいだから」という理由でピンクのコードネームをつけられた時は露骨に嫌がり、パープルにしたいと提案したが、先約がいるとのことで却下されている。
曲者で疑り深い性格だが、警察が来るタイミングが早すぎることからメンバーにスパイがいるのにいち早く気づいたりと、察しがよい。
本作のメインキャラで唯一生存しており、宝石を持ち逃げした。しかし倉庫が警察に包囲されていたことを考えると……


アニヲタwiki的な話題で言うと、本作中におけるブシェミの風貌が漫画『ONE PIECE』でサンジのデザイン上における元ネタになったのは有名な話。

  • Mr.ブルー
演:エディ・バンカー
吹替:水野龍司

凄みのある風貌の初老の男。
マドンナの歌の中では「ボーダーライン」が好きだが「パパ・ドント・プリーチ」は好きでないらしい。
計画失敗後は行方不明となるが、後にブラウン共々警官に撃たれて死亡していたことが明かされる。
演者は元ギャングの作家であり、デビュー作『ストレートタイム』が、1978年にダスティン・ホフマン主演で映画化されている。

  • Mr.ブラウン
演:クエンティン・タランティーノ
吹替:高宮俊介

やたらアゴが発達した若い男。
冒頭の「ライク・ア・ヴァージン」考察を披露していたのは彼。
彼も自身のコードネームに「クソの色だから」と不服そうにしていた。
計画失敗後は警官に頭を撃たれて死亡する。

  • ナイスガイ・エディ/エディ・キャボット
演:クリス・ペン
吹替:荒川太郎

ジョーの息子。
ブロンドと仲が良く、父の目の前で思いっきり取っ組み合いながらじゃれ合うほど。
その名の通り友情を重んじるナイスガイだが、拷問されてボロボロになっていたマーヴィンをあっさり射殺するという残酷さを見せつける。
名前の由来は、タランティーノが勤めていたビデオ屋の常連客だった大工から。
店にふらっと立ち寄っては棚や引き出しをタダで直してくれるほど人がよかったため、「ナイスガイ・エディ」の顧客名で登録されていた。
演者は名優ショーン・ペンの弟だが、2006年に40歳の若さで早世してしまった。

  • ジョー・キャボット
演:ローレンス・ティアニー
吹替:中庸助

裏社会の大物。
オレンジ曰くファンタスティック・フォーのザ・シングに似ている」
集まったメンバーたちにコードネームを与え、個人情報を教えないよう厳命する。
以前部下に名前を自由に決めさせた時はブラックにばかり人気が集中したため、自分が選んだ名前を付けるようになったらしい。
演者は50年以上にわたるキャリアの中で多くのギャングやタフガイを演じ続けた。

  • マーヴィン・ナッシュ
演:カーク・バルツ
吹替:神谷和夫

ブロンドに誘拐された新人警官。
作中最大の被害者であり、拷問されてもシラを切り通すも、ブロンドのサディズムから耳を切り落とされたり、火をつけられそうになったりえげつない目に遭う。


余談


〇主題歌の「リトル・グリーン・バッグ」は1969年に発売されたオランダの歌手ジョージ・ベイカーの楽曲で、本作でリバイバルヒットを果たした。
日本ではCMでの使用率が高く、映画は知らなくてもこの楽曲は聞いたことあるという人も多いだろう。
ちなみにタイトルは誤りで、本来は「Little Greenback」、つまり裏面が緑の米ドル札を表している。
カネ目当てで行動して失敗し、大切なものを見失ってしまったという歌詞だが、それはまさに、本作のギャングたちの末路を暗示しているのである。

〇タイトルの『レザボア・ドッグス』は直訳すると「ため池の犬ども」となる。
謎めいたタイトルであり、当然周りの製作費担当やマーケティング担当は疑問視し、タイトルの変更を提案していたという。
これに対しタランティーノは笑いながら振り返っている。
「どの提案もゴメンだったから言ってやったぜ。“これはヌーヴェルバーグのギャング映画ではドブネズミって意味なんだ!『勝手にしやがれ』とかでも使われてるよ”って。連中はその手の映画を観もしない大バカだから、コロッと騙されやがった!」
また、込められた意味の説明についても「みんな好き勝手考察してるのがオモロいから」という理由で放置している。
しかしビデオ屋の同僚たち曰く、ルイ・マル監督の『さよなら子供たち』の原題『Au revoir les enfants(オ・ルヴォ・ワール・レ・ゾンフォン)』をうまく発音できず、ついに面倒になって『レザボア・ドッグス』と発音するようになったことが由来だという。
さらに彼の母コニーからは、当時の彼女から『さよなら子供たち』を観ようと誘われた時「そんな『レザボア・ドッグス』な映画なんか観たくねー!」と叫んでいたところを目撃されている。
あのー、そんなワガママだからモテなかったのでは……

〇冒頭のブラウンによる「ライク・ア・ヴァージン」の考察は、本作を代表する名シーン。
しかしブラウンを演じたタランティーノはこの自説を本気で信じており、後にマドンナに会いレコードにサインしてもらう時、よせばいいのにその自説が正しいか尋ねた。
レコードにはサインのほかに、こう書かれていた。「あれはデカチンじゃなくて愛の歌よ」
……つまりタランティーノは、世界中に恥ずかしいにも程がある解釈を垂れ流したことになる

〇ロケ地の倉庫は、元は葬儀屋があった場所。
そのため、画面の隅には棺桶が映っているし、ブロンドが腰かけていた車の屋根は霊柩車のものだったりする。

〇本作は予算節約のため、衣装は自前のものとなっている。
メインキャラの衣装が喪服なのは、誰でも持っているだろうという理由からなのだが、ブシェミとロスはよく見ると黒ジーンズとなっている。

〇クライマックスのホワイト、エディ、ジョーが三すくみとなるシーンで、ホワイトに撃ち返されたエディ。
実はこのシーン、一瞬早く弾着が弾けてしまっている。
しかしタランティーノは「エディは誰に撃たれたんだ?って世界中で話題になるからそのままにしとくわ」と、撮り直ししなかった。
もちろん、撮り直しするだけのカネや時間がなかったのもあるが。
そしてその予言通り、このシーンは映画ファンの間で論争になり、「Who Shot Eddy?」と書かれたTシャツまで売り出された。

フジテレビのバラエティ番組「SMAP×SMAP」では本作のパロディとして「裏切り者」というコーナーが存在した。
これはメンバーに出された料理のうち一つが激辛(もしくは激苦・激スッパ)で、誰がそれを食べたかなどをお互いに当て合うもの。
本コーナーにはなんとタランティーノご本人がゲスト出演しており、ゲームにも参加している。
このように、本作のOPはそのキャッチーさに加えて、黒スーツにサングラスの男たちと「リトル・グリーン・バッグ」さえあれば作れるという手軽さから、様々な場所でパロディ化されている。

〇『キャビン・フィーバー』や『ホステル』といったスプラッタホラー映画を得意とするイーライ・ロス監督は、今作のパロディ作品『レストラン・ドッグス』を学生時代に製作した事をきっかけに映画監督デビューを果たした。
その後、自身が監督を務めたホラー映画が次々とヒットを飛ばしていったのだが、それら彼の作品群がタランティーノ本人にも評価され、『グラインドハウス』内でフェイク予告編の制作*3を行ったり、タランティーノ作品にて俳優として出演したりと、現在はタランティーノファミリーの一人として扱われる様になった。



追記・修正は、「K-ビリーのスーパーサウンド'70s」を聞きながらお願いします。


参考文献
「キル・ビル」&タランティーノ・ムービー インサイダー(洋泉社)
クエンティン・タランティーノ 映画に魂を売った男(フィルムアート社)
タランティーノ・バイ・タランティーノ(株式会社ロッキング・オン)
タランティーノ映画に隠された10の真実
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最終更新:2024年03月25日 20:32

*1 ロバート・レッドフォードが設立した、次世代を担う新しい映像作家の発掘と支援をするための非営利組織。何千人もの応募者の中からわずか6名だけが選ばれる狭き門だった

*2 英国のコメディ集団モンティ・パイソンのメンバーの一人にして映画監督。代表作は『未来世紀ブラジル』や『12モンキーズ』など

*3 そのフェイク予告『サンクスギビング』は、16年後の2023年に長編映画化された