トンボ/蜻蛉

登録日:2023/08/25 Fri 12:26:14
更新日:2024/01/25 Thu 03:45:46
所要時間:約 9 分で読めます





トンボとは、以下のものを指す。

 1.昆虫の一種。漢字では「蜻蛉」と書く。

 2.グラウンドの整備などに使う、土を平らにならすためのT字型の道具

 3.裁断する印刷物の、裁断位置を示すための目印

 4.『魔女の宅急便』の作中に登場する人間の少年の名前。本名はコポリ。

 5. 1988年10月7日から同年11月25日まで、TBSで放送されていた長渕剛主演のテレビドラマ。またそのドラマの主題歌の曲名。

本項では1について解説する。

目次


【概要】

細長い翅と腹、二対四枚の羽を持った昆虫の一種。
分類上は蜻蛉(せいれい)*1に属し、学名は“Odonata”
英語ではdragonfly(ドラゴンフライ)と呼ぶ。

全世界でおよそ5500種類ほどが存在し、日本にはおよそ200種類が存在する。

漢字で書くと『蜻蛉』で、音読みすると「せいれい」だが、この読み方は上記の蜻蛉目の際くらいにしか使われない。
読みのトンボは「飛ぶ棒」がなまったものという説が濃厚。
幼虫のヤゴは「ヤンマの子」を略して「ヤゴ」と呼ばれたとされている。

日本最大種オニヤンマから最小種のハッチョウトンボまで大小さまざまな種が知られ、古生代石炭紀に生息していた巨大昆虫メガネウラもトンボの一種である。

卵→幼虫→成虫という蛹が存在しない不完全変態の昆虫で、幼虫は腹腔中にエラを持ち淡水で過ごす水生昆虫で、種を問わずヤゴ(水蠆)と総称される。

古生代から現在に至るまで3億年間ほとんど姿を変えず、三度の大量絶滅を生き延びているのも特徴。

またツノトンボ、ヘビトンボ、カトンボ(ガガンボ)も名前にトンボがついているが、いずれもトンボとは遠縁の昆虫である。

他にカゲロウやウスバカゲロウもそれぞれ蜻蛉、薄羽蜻蛉と書かれることがあるがトンボとは別種の昆虫。
カゲロウは不完全変態で、幼虫の多くが水棲であるなど見た目以外にもトンボと共通点が多く、比較的近縁と言われるが
アリジゴクの成虫ことウスバカゲロウは完全変態であるためトンボともカゲロウともかなり縁が遠い他人のそら似である。


【生態】

幼虫のヤゴの段階では水中で過ごす。肉食性の水生昆虫として有名。
蛹を経由しない不完全変態の昆虫であるため、この段階で体の作りは無駄が少なく、翅も小さなものが背面に出ている。

主に小型の水棲昆虫を食べるが、時には小魚やオタマジャクシを食べることもあり、小魚の体液をすすることもある。
幼虫故にサイズは小さいものの、この段階でサイズを度外視すれば非常に獰猛な捕食者である。

9〜14回の脱皮を繰り返して大きくなり、羽化する。幼虫でいる期間はさまざまで、例えばオニヤンマは5年(回数は10回ほど)ほどを幼虫で過ごし、幼虫の状態で越冬する。
脱皮を重ねた幼虫は複眼が斜め上に飛び出し、下唇の鋏部分がマスクのように口を覆う独特の風貌となる。
終齢幼虫になると翅がはっきりと見えるようになり、最終的にはヤゴが陸に登って羽化して成虫となる。
この羽化時に、種類によって垂直になったり水平になったりと姿勢が異なる。

成虫は種によって若干異なるが、概ね6月から9月にかけて多く見られる。

成虫になりたての段階では「テネラルな成虫」とよばれ、色が白っぽく体も軟いため飛び方も弱々しい。
一日ほどで体色も濃くなり、水辺から離れた林や草地で過ごし、性成熟するのを待つ。

性成熟するとオスは水辺に集まるようになり、そこでメスを待ち、メスを見つけるとすごい勢いでダッシュしてメスを捕まえて交尾する。
この時の姿は独特で、その連結した姿は「おつながり」と呼ばれていたが、近年では「タンデム」とも呼ばれるようになった。ハート型につながる種も存在する。


トンボのメスの生殖器は、他の昆虫と同じように腹部の先にあるのだが、
オスの生殖器は2つに分かれており、精巣は腹部の先、もう一つは交尾に使う「副性器」で、腹のつけね(腹部第2・3節)にある。
このため交尾は、オスの副性器と、メスの生殖器が結合して行われるのでこのような独特な形になる。

オスはこの時精子を精巣から副性器へ移す「移精行動」が必要となり、種によって止まったり飛びながら行う。

食性は幼虫から変わらず肉食性。昆虫界屈指の凄腕のハンターであり、、ハエ、チョウなどの飛ぶ昆虫を空中で捕食する。
場合によっては共食いすることもある。
飛行中の獲物を捕らえる時は獲物に向かって飛ぶのではなく、獲物が進むであろう場所を予測してそこに飛ぶという頭脳プレイを見せる。
獲物を捕える時は6本の脚をかごのように組んで獲物をわしづかみにし、太い毛が多く生えた脚で捕えた獲物を逃さず鋭い大顎で獲物をかじって食べる。
なので捕まえようとした時に噛まれるとかなり痛い。

1~3万個のレンズからなる複眼も大きく発達しており、実に270度の広大な視野を誇り、
解像度は高くないが40m先で動いた虫の動きも見逃さない高い動体視力と人間の5倍にもなるフレームレートで得られる情報を脳が処理し、
先述の頭脳プレイを可能にしている。

一方で止まっているのを見るのは苦手で、首ももげやすく、子どもが捕まえようと指をぐるぐるし目を回してみたら首だけもげてそのまま飛んでいったという逸話もある。


飛行能力

昆虫界でも初期に現れた分類でありながら指折りの飛行能力を有し、飛ぶ能力に関しては天才と言っても過言ではない。
二対の翅を巧みに使いこなし、数秒間も同じ点で静止するホバリングも可能。
これはヘリコプターでも未だ不可能な領域であり、トンボの飛行能力の高さの片鱗が見える生態とされている。
スピードもオニヤンマで70km/h、ギンヤンマに至っては100km/h自動車の高速道路並みの速度を叩きだす。宙返りや急旋回、バックなどもお手の物で小回りがきく。

なお1枚までなら喪失しても飛行に大きな支障はきたさない。

翅は薄さと丈夫さを両立させる「ボロノイ構造」と、飛行中の空気抵抗を軽減させる「カテナリー曲線」と呼ばれる洗練されたフォルムをしている。
顕微鏡で見ると飛行機の翼と違い凸凹しており、昔は飛びにくいのではないかとされていたが、
実際はこの凸凹を利用して小さな渦を作り揚力を生み出し、横風にも容易には流されない安定した飛行を実現している。

一方で飛行と空中での捕食に特化しすぎているため脚で歩くことは苦手というかほとんどなく、わずかな距離でも飛んで移動する。
また翅をセミなどのように腹側に畳むことができず、とまるときは広げたままか背に立てるのも原始的特徴だと考えられている。

【人間との関係】

ヤゴ時代には水中の害虫、成虫になると空中の害虫を捕食するため益虫と扱われることもある。
特にカに対してはボウフラと成虫両方を捕食するため天敵中の天敵となっている。ただし稀にワサビやクワなどの農作物に産卵して農家に被害を与えることもある。

中国の影響で精力剤となるというふれこみで漢方薬として服用されたこともあった。

日本では生涯肉食で前にしか飛ばないことから「勝虫」と呼ばれ、縁起を担いで装飾のモチーフや染め物の柄とされてきた。
同様の理由でムカデも好まれたが、先述の通りトンボの場合は後退もできる。

戦国武将本多忠勝が愛用したの「蜻蛉切」も、穂先に飛んできたトンボが真っ二つに切れたのが名前の由来らしい。
古事記にもその姿は記されており、紀元前2世紀頃の銅鐸にトンボの絵が刻まれてたものが発見されている。

「蜻蛉」の字には「かげろう」の読みもあり、江戸時代にはトンボの別名がカゲロウとした文献もあるが、
平安時代の『蜻蛉日記』で「あるかなきかの心ちするかげろふの日記といふべし」と明らかにカゲロウを指しており混同されていたようだ。
さらに古くは「秋津(あきつ)」と呼び『古事記』においては本州のことをその形から「大倭豊秋津島(おおやまととよあきつしま)」と呼んでいる。

しかし一方で西洋ではイトトンボ(damselfly、damseは乙女の意)以外の種類を冒頭のdragonflyと呼び分け、
「翅に触ると手を切る」「嘘をついた奴の口や耳を縫い付ける」「針を持っていて刺してくる」など、徹底したマイナスイメージをつけて嫌っていた。
このイメージが改善されたのは日本文化が西洋に流入して起きた「ジャポニズム」の影響によるものだったりする。

彼らの翅をヒントに飛行機の翼の改良や微風でも発電可能な風力発電のプロペラなどが開発されている。

人間による都市開発や森林伐採などによる水の綺麗な渓流の減少などの水質汚染、水田の減少や農薬使用により数を減らしている種も少なくなく、
日本でも一部の都道府県で絶滅危惧種に指定されている種も存在する。


【主な種類】

◆トンボ亜目(不均翅亜目)

後翅が前翅より長く、止まるときに翅を畳まないという特徴がある。

●オニヤンマ

言わずと知れた日本最大のトンボ。最大で体長が10cmを上回ることもある。
腹部の黒と黄色の縞模様が、のパンツの柄に似ていることからオニヤンマと名付けられた。
当然ながら日本のトンボの中では最強クラスの戦闘力を持ち、先述した獲物の他にも場合によってはオオスズメバチオオカマキリ、シオヤアブを捕食することもある
飛行能力が高いので空中戦ではオニヤンマに分があるが、油断していると逆にやられてしまうこともあり、
総じて上記3種とは日本最強昆虫の座を争っており、まるで四天王のような構図となっている。
顎もそれ相応に強いので、下手に触ると出血したり皮膚を持っていかれることも。

大型トンボ類の中では小規模な水域に適応している種であり、羽化まで時間が掛かるので渇水しないと言う条件は付くが小さな林の中の小規模な小川や其処と繋がっている池でも個体群を維持出来るので、他の大型トンボ類が壊滅している地域でもしぶとく生き残っている事例が多い。

近年では、オニヤンマの模型等が虫除けに効果があるとのことで、帽子などに付ける人が見られる。

●アキアカネ

童謡でも知られる赤トンボの代名詞。
体長3.2〜4.6cm。胸部の側面には明瞭な黒条がある。
暑さにはかなり弱く、夏、特に猛暑の年は山地で過ごし、標高2000mで繁殖した記録もある。涼しくなると麓に降りてくる。
なお、上述の童謡では「(彼らに)追われてみた」のではなく、「(親の背に)負われて、見た」のである。

●シオカラトンボ

都市部を含めた街中でもよく見られるポピュラーな種で、体長は5〜5.5cm。メスは別名ムギワラトンボとも呼ばれる。
成熟した雄は胸部から腹部の前方が白っぽい粉で覆われており、これをに見立てた事が和名の由来。
ちなみにこの粉状のものは自分で分泌したワックス質のもので、舐めても塩辛くはない。
ワックスゆえに撥水性があり、顕微鏡で見ると板状の微粒子が重なり、光を散乱させていた。新たな生物由来の日焼け止めの開発につながる可能性もあるという。

●ギンヤンマ

こんな名前だが、体色は銀色ではない。
体は緑、腹部は黄褐色で、胸と腹の境界部分の色がオスは水色、メスは黄緑とはっきり違う。体長7cm。
先述した通り最高速度でなら昆虫界最速で、見られる時期も4〜11月とかなり長い。
アジアやオセアニアの熱帯地域にはオオギンヤンマという8.5cmほどの近縁種が存在する。

●ハッチョウトンボ

日本最小のトンボで体色や複眼は赤い。体長1.7〜2.1cmと五円玉以下の小ささで、世界的にも最小の部類。
長野県駒ヶ根市では市の昆虫、和歌山県古座川町では町指定の天然記念物に指定されている。

●コオニヤンマ

名前の通りオニヤンマを小さくしたようなトンボ。
だがオニヤンマの近縁ではなく、サナエトンボという大型のトンボの仲間である。
トンボにしては脚が長いためか自分よりも大型の昆虫を狩ることが可能でなんと上記のオニヤンマをも狩った記録がある。
そのため隠れた強豪では? と評価する人もいるという。

●テイオウムカシヤンマ

オーストラリアクイーンズランドなどに生息している世界最大級のトンボ。
体長は16〜18cmとオニヤンマの1.5倍ほどの大きさを持ち、主に秋に見られる。


◆イトトンボ亜目(均翅亜目)

トンボ科やヤンマ科などは不均翅亜目に属するが、こちらは均翅亜目に属し、それらが後翅が前翅に比べて幅広いのに対し、こちらはほぼ均一になっている。
止まるときは翅を重ねて閉じるという特徴があるほか、胴体部も細長い。交尾の際にハート型を作るのはこの均翅亜目に属する種である。
複眼も小さく、腹部は細長く小型の種になると名前通り糸くずのように見えることも。
ヤゴも同様に細長く、腹部先端に細いえらが3つあり不均翅亜目ヤゴと区別できる。

●ハグロトンボ

その名の通り漆黒の翅が特徴で体は緑。全長5.7〜6.7cm。
流れの緩やかな川の周辺でよく見かける。
トンボの中では飛ぶのが下手な部類で、素早く飛んだりホバリングしたりせず、チョウのようにひらひらと舞うように羽ばたく。

●ハビロイイトトンボ

中南米に生息している現生するイトトンボの仲間で、トンボの中でも最大級。
全長はオニヤンマとほぼ同じで、翅を広げると19cmにもなる。体色は暗褐色から黒で、黄色い模様がある。大きさに違わずパワーもかなりのもので、巣を貼ったクモに体当たりして落ちてきたものを捕食する習性がある。


ムカシトンボ亜目(均翅不均翅亜目)

●ムカシトンボ

日本固有種で、所謂生きた化石とされる生物の一種。体長は5cm前後で体色はオニヤンマと同じ黄色と黒の縞模様。
トンボの系統は均翅亜目から不均翅亜目が分岐したと考えられているが、ムカシトンボは両方の特徴を持っていて、2つの亜目のつながりを示す原始的なトンボとされる。
なのでトンボの分類でも、この種のみムカシトンボ亜目(均翅不均翅亜目)という特別な亜目に分類されている。だが近年では不均翅亜目とする考え方も増えてきている。
ヒマラヤ山脈が聳えるネパールにヒマラヤムカシトンボと呼ばれる近縁種が生息している。


◆絶滅種

●メガネウラ

古代の巨大昆虫として有名なオオトンボ類の一属。
体長は60〜70cmとオニヤンマの5倍、テイオウムカシヤンマの4倍以上にもなる史上最大級の昆虫である。
ここまで大きくなれた理由は当時の石炭紀の時代にシダ植物が大繁殖し、結果35%という高い酸素濃度を誇っていたためとされている。
ヤゴも最大30cmほどあったのではないかと言われている。
だが巨体ゆえに現在ほどは素早くはなかったようだ。

絶滅理由として挙げられるのは飛行性爬虫類の登場や火山活動の活性化により酸素量が低下したことなど。
少なくともペルム紀末までには絶滅したと考えられている。
メガネウラが属する原蜻蛉目というグループは、少なくとも中生代三畳紀まで生息していたが、それも遅くともジュラ紀前期までには絶滅したとされている。
余談だが、アメリカアリゾナ州立大のジョン・ヴァンデンブルックス博士は当時の酸素濃度を再現して育ててみるという実験を行った。
その結果としては、ある程度は通常のトンボよりも大きくなったものの、本来のメガネウラほどのサイズには遠く及んでいないという。


【トンボをモチーフにしたキャラクター】

◆特撮


◆ゲーム


◆漫画


◆アニメ



追記・修正は目の前で指を回転されても目を回さない方にお願いします。

この項目が面白かったなら……\ポチッと/

+ タグ編集
  • タグ:
  • トンボ
  • アニヲタ昆虫図鑑
  • ドラゴンフライ
  • 勝虫
  • 益虫
  • 肉食
  • ハンター
  • 生物
  • 虫項目
  • メガヤンマ
  • 本多忠勝
  • メガギラス
  • イノセクトロン
  • ドラゴンフライアンデッド
  • 風見志郎
  • 仮面ライダーV3
  • 秋津茜
  • ブレントロン
  • レイドラグーン
  • トンボオージャー
  • 鉛筆
  • ゴッドトンボ
  • 仮面ライダードレイク
  • 秋津
  • 不完全変態
  • 水棲昆虫
  • 蜻蛉目

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2024年01月25日 03:45

*1 その通り「トンボ目」と呼ばれることも。