ガ(蛾)

登録日:2024/01/23 Tue 22:35:00
更新日:2024/02/24 Sat 16:16:10
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() とは鱗翅目に属する昆虫の総称である。
英語ではmoth(モス)と呼ぶ。

+ 目次

【概要】

大きな翅と太い腹部を持ったチョウに酷似した姿をした昆虫。
主に春から秋にかけて姿を現すが、中には冬にも活動する種がいるなど温度に関しては意外と適応力のある種類でもある。
チョウと同じく幼虫はイモムシ型またはケムシ型であり、蛹を経て成虫に羽化する完全変態の成長サイクルを持つ。

ほとんどの種が幼虫の頃は草食性。
野草から野菜まで様々な植物を食すことから、バッタと同じく農家には厄介視されてしまう事も。
特にヨトウガと言われる種は夜盗と名の付く通り夜行性であり、しかも植物であればなんでも食べる幼虫の食性の広さから害虫として嫌われる種の一つである。
逆に、成虫になると主に花の蜜などを吸うが、中には口が退化してしまい幼虫時に蓄えた栄養のみで生きる種もいる。

また鱗翅目に属する昆虫であるため、翅には鱗粉が付いている。
……がこれも例外があり、鱗粉がなく翅が透明な種も存在する等多様性に富んでいる。
後述するドクガやイラガの幼虫のイメージからケムシ=有毒というイメージで語られがちなのが不遇。
ただ、実際の所有毒の種は多くなく、触っても無害な事がほとんどである。


《チョウとの違い》

よく言われるチョウとの違いだが実は生物学的に見るとほとんどない。
チョウの項目にもあるように、近年の学術業界では主に鱗翅目のうち「アゲハチョウ上科」「セセリチョウ上科」「シャクガモドキ上科」がチョウ、それ以外全てがガということになっているが、これは一般人が従来蝶・蛾と呼び分けてきた基準とは必ずしも一致しておらず、遺伝的な近縁関係を重視している。
ちなみに漢字表記があるのに生物の名称をカタカナで書いているのも生物学の慣習で、漢字で書く場合は文化的側面が重視された記述である。

従来蝶・蛾と呼び分けられてきた基準としては、
特徴等
留まり方 翅を閉じて留まる 翅を広げたまま留まる
翅の模様 鮮やかで綺麗 地味または毒々しい
活動時間 朝や昼など明るい時間帯 夜や夕方など暗い時間帯
腹部の形状 細い 太い
触角の形状 棍棒状 羽状
蛹のみ 繭を形成する

といった点が一応挙げられる。
ただし主観的で曖昧なものもあるうえ、前述の通り生物学におけるチョウ・ガの区別には採用されていないためいずれの項目にも例外が多数存在する。
セセリチョウは虫に詳しくない人がみたら十中八九蛾の仲間と認識するだろうし、オオスカシバなんかは昼に飛び回るうえぱっと見はハチ。

しかしチョウと違って夜に活動する事、街頭などの明かりに集団で集って飛び回るその姿、
模様も良く言って地味、悪く言えば毒々しいものが多いため、
人間には気持ち悪がられ、嫌われがちなのが現状である。

だが、ガにもチョウと見間違わんばかりの美しい種がいるのは知っておいていただきたい。
そのような特定の種でなくとも、よ~~く見ると、意外にモフモフしてて可愛かったりするのだが……。
ちなみに種としてもチョウより繁栄している種である様子。
鱗翅目に属する虫の内、チョウが250種ほどなのに対して、ガはなんと5000種以上もいるのだという。

このように確かにチョウに比べてあまりいいイメージを持たれることは少ないのは事実だが、しかし全ての種が害虫として駆除されるわけではない。
例えば、カイコに関しては昆虫としては数少ない家畜化された種の一つで、幼虫の出す糸が高級な布製品の材料になるのだ。


【主な種類】

●ヨナグニサン

ご存じ沖縄県が誇る日本最大の巨大なガ。
翅はなんと翼長が30cmにも達する程発達し、あまりに大きいので飛ぶ際に音がするという。
だが成虫は口が退化してしまうので食物を摂ることができず、幼虫の頃に蓄えた栄養が尽きれば死んでしまうという儚さもある。
かのモスラはこの蛾がモチーフと言われる。


オオミズアオ

上でガはチョウに比べると地味だと書いたが本種はその中でも例外な、青白く美しい羽根を持つ蛾の中の異端児。
その美しさから過去には学名にギリシャ神話月の女神の名が冠せられていた。


●ドクガ

毒のある蛾の総称ではなく、そういう名前の種が存在する。
名前の通り有毒のガで幼虫は勿論繭、メスの場合は成虫に至るまであらゆる形態でを持っている。
なお、成虫は鱗粉に毒がある…わけではなく、幼虫時代の毒毛針を体に塗りつけている。
バラ科やブナ科を始めとした様々な植物に多数の幼虫が発生することがあり、刺されると凄まじい痒みに襲われる。
また、このドクガが所属する分類群として"ドクガ科"が存在するが、その名に反してドクガ科の中でも有毒種は少数派である。


●イラガ

黄色い翅をしたガ。
幼虫は刺々しい見た目をしている上にドクガと同じく有毒。
しかもドクガと違い刺されると痒みではなく激痛が走る。
そのあまりの激痛から別名として電気虫と言われる程である。
一方で有毒なのは幼虫のみで成虫になると無毒になる。
街中の街路樹でも仲間のヒロヘリアオイラガがしばしば発生するので要注意。

●ヤマンギ

沖縄での通称で正式名称はイワサキカレハ。
こちらも幼虫が現地ではハブと同等かそれ以上に恐れられており、触れると2週間は激痛と痒みが続く毒毛を持っている。
厄介なのがそれだけ強い毒を持ちながら体色が警告色のような派手な物ではなく、木の幹に溶け込むような非常に地味な色合いであること。
そのためパッと見で発見するのが難しく、何気なく木に触れたらコイツがいて被害を被るなんて事が多々ある。
山道を歩く際には要注意。

●ヒトリガ

毒々しい派手な模様の羽根をしたガ。モスラの羽根の柄はこいつをモデルにしたのではないかといわれる。
ガはだいたいそうだが光に吸い寄せられる正の走光性が顕著で、「飛んで火に入る夏の虫」の代表例。
和名の「火取蛾」もそれが由来である。
幼虫は庭木や農作物を荒らすので嫌われており、フサフサでいかにも触れなさそうな毛虫だが実は毛に毒はない。
ちなみにヒトリガの仲間の幼虫は脚が発達したものが多く、初夏には毛虫とは思えない速度で地面を爆走する姿を観察できる。
地域によってはクマケムシとか呼ばれることも。そして田舎ではよく道路を横断して轢かれそうになっている。


●カイコガ

真っ白な体をしたガ。太っちょでかわいい。
しかし、一般には絹(シルク)を採るために飼育される幼虫「カイコ」のイメージが強いのではないだろうか。
幼虫の出す糸が高級な布製品の材料になる事から古来より重宝されてきた歴史があり、「蚕」という物々しい漢字がそれを物語る。
現在では肉食の虫や爬虫類、両生類の餌としても使われる事がある。
昆虫としては極めて珍しい、完全に家畜化された種であり、野生で生きる力を完全に失っている。
このため幼虫は木の枝に留まれないほど脚の力が弱く、成虫も胴が大きすぎるため羽はあっても飛ぶことはできない。


●クワコ

白褐色の体色をしたガ。
名前の通り桑の葉を食べる食性である。
先述したカイコの原種とされているが、これに関しては異論もある。


●ヨトウガ

害虫としてのガの代表例とも言える種類。
幼虫は昼間は地中に隠れて過ごし、夜間に出てきてほとんどあらゆる作物の葉を貪欲に食い尽くす。
昨日は無事だった葉が夜のうちにすっかり消失してしまうことから夜盗虫(ヨトウムシ)と名付けられた。英語でも「Thief moth(泥棒蛾)」である。
その習性ゆえに昼間に殺虫剤を使用しても駆除しにくい点も厄介。


●シャクガ

シャクトリムシと呼ばれる幼虫の方が有名なガ。
成虫はいたって普通の、羽根を広げて止まるタイプのガである。
ちなみに成虫がこいつに似ているシャクガモドキ科は当然見た目はガなのだが、チョウに分類されるということになっている。


●アゲハモドキ

その名の通り、アゲハチョウによく似ているガ。
特にクロアゲハやジャコウアゲハによく似ている。
毒のあるジャコウアゲハに擬態していると考えられるが、北海道などジャコウアゲハの生息しない地域にもいたりする。
北海道で黒っぽいアゲハチョウを見かけたら、それはガである可能性が高い。


オオスカシバ

蜂に擬態するガ。
ガとしては羽が短い上に透き通っており、胴体は黄緑や赤、黄色と派手でホバリングを得意とするなど、ガらしからぬ見た目と動きを特徴とする。


●ボクトウガ

上で幼虫は草食性といったな?あれは嘘だ。
ボクトウガの幼虫はコナラやクヌギの幹を食べて穴を開けた上で、
そこから滲み出る樹液に寄ってきた虫たちを食べる


●ミノガ

いわゆる「ミノムシ」としての姿が有名なガ。
幼虫時代は周囲にあるものを身体の周りに集め、糸で固定したミノを作り上げる。
その糸の強度は、かのクモの糸より強靭だとか。
ただ、ずっと籠り切りというわけではなく、時にミノから出て、餌である木の葉などを食べる。

そして、そのままミノのなかで蛹→成虫となり、一般的に想像されるガの姿になる。
……オスは。

メスはというと、翅も脚もない腹部のみが大きな姿として羽化する。
当然、このような姿で外には出れるはずもなく、そのままミノの中で過ごす。
そして、その状態でフェロモンを外部に放出。
誘引されたオスはミノの外から、中にいるメスへと腹部と生殖器を伸ばして交尾を行う。
改めて字面にすると、ずいぶんな変態行為に思えてくるが、これも彼らの生存戦略である。

ただ、近年では個体数が減少しており、絶滅危惧種に選定されている。


●マイマイガ

白褐色っぽい翅をしたガ。
特にオスがヒラヒラと舞うように飛行する事からこの名が付いた。

成虫・幼虫共に数年に一度大発生する事で有名な種でもあり、川沿いの建物の壁や窓にびっっっっっっしり張り付いている事も。見たらげんなりする事請け合いである。
幼虫は派手な色かつザ・毛虫な外見をしており、1齢幼虫には実際に毒を持つがそれ以降は無毒化する。
ただし毛は細かいのでたとえ無毒化しても風で舞ったものが目に入ったり吸い込むなどすると人によってはアレルギー反応を起こすことがあるので非常に厄介である。
しかも幼虫はヨトウガの幼虫並みにえり好みをしない食性なので大発生した際には作物を根こそぎ食い荒らして農家に大打撃を与えてしまうこともあるという。
ちなみに英語ではかつてGypsy moth(ジプシー蛾)と呼ばれていたが差別的だという声から
spongy moth(海綿蛾)になった。
変更後の英語名に関しては卵が海綿を思わせる見た目であったことに由来するという。

よく勘違いされがちだが『帰ってきたウルトラマン』に登場した怪獣キングマイマイはカタツムリではなくこのガが名前の由来かつモチーフである。
それぞれ異なる2つの形態を幼虫、成虫と表記しているのもこのため。

●メイガ

褐色の模様の小型のガの総称。
ヨトウガと並んで害虫として有名な種であり、
ヨトウガの幼虫が主に収穫前の作物を食べるのに対しこのメイガの幼虫は
室内などに保管してある米や豆類を食べてしまう。
しかも噛む力が強いのでビニール袋はおろか、なんと生半可なプラスチック程度なら簡単に食い破ってしまうという厄介な特性も持つ。
その上総じて小型の体格である為に侵入に気付かれにくく、気が付いた時には手遅れなんて事態になり兼ねないのも厄介なところ。


●ハエトリナミシャク

ハワイ固有のシャクガの仲間。
成虫は白と茶の体色でぶっちゃけ地味だが、こいつに関しては幼虫のほうが有名。
というのも、世にも珍しい完全な肉食のイモムシなのだ。
木の上でじっとして枝や葉のフリをし、近づいてきたハエや他のイモムシを強靱な爪で覆い被さるように捕獲し、鋭い顎で捕食する。
この特異な生態は昆虫学者達の注目を集め、現在は「ハワイアン・キャタピラー」という通称で呼ばれている。


●サザン・フランネル・モス

アメリカ南東部とメキシコに棲息するメガロピギア科のガ。和名はまだ付いていない。
「プス・キャタピラー(子猫蛾)」とも呼ばれ、成虫・幼虫ともにモフモフの毛で覆われた、何とも触ってみたくなる外見をしている。幼虫の歩き方はほぼネコバスそのもの。
だがそのモフモフの毛は全て毒棘であり、発熱や低血圧、リンパ節炎といった重篤な症状を起こすアメリカのガでも最強クラスの猛毒を持つため絶対に触ってはいけない。
近年バージニア州で大量発生が確認されており、州当局から注意喚起が出されている。


●ベネズエラヤママユガ

名前の通りベネズエラを中心とする中南米に棲息するガで、広義ではカイコの仲間。
……と聞くとあまり大したことなさそうにも思えるが、幼虫は現在地球上に存在するあらゆる節足動物の中でも最強とも言われる猛毒を持つ超危険な毛虫である。なお成虫は無毒。
毒はマムシやハブのような抗凝血性の出血毒であり、刺されると傷口からの出血が止まらなくなり、最悪脳出血までもを引き起こす。
さらに周囲の環境に合わせて体色を変化させる事が出来るため気付かず触れてしまうというケースが多く、そこから付いた異名は「暗殺毛虫」
ただ血清も存在するため、今後は死者も減るものと予測される。


●クジャクヤママユ



【ガをモチーフにしたもの】

近縁種であるチョウと何かと比較される事の多いガ。
しかし、チョウは美しく可愛らしい種が多いことからヒロインのモチーフに抜擢されることもある。
それに対し、ガは活動時間が夜である事や、チョウに比べて毒々しい模様で実際に毒を持つ種がいる故か、ダークなイメージを持たれがち。
総じて、悪役になってしまうことが多い。
もっとも、そんなイメージを利用してチョウをモチーフにしたキャラのライバルになることもないわけではない。
また、モスラのように温厚なキャラのモチーフとして使われる事もある。




  • 都市伝説
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      • ただし、「蛾人間(モスマン)」との名こそ付いているが、羽やその他に、特段、蛾の特徴が見られるわけではない様子



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最終更新:2024年02月24日 16:16

*1 カイコガの幼虫がモチーフ。