シーザスターズ(競走馬)

登録日:2024/02/23(金) 21:27:45
更新日:2024/02/24 Sat 16:14:00
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The horse of a lifetime!!!

―2009年凱旋門賞 最終直線の実況より―


シーザスターズ(Sea the Starsとは、2006年生まれのアイルランドの競走馬。
20年ぶりに現れたイギリスクラシック二冠馬にして、同期も古馬もなぎ倒し、偉大な兄を超える活躍をみせた名馬である。


概要


父ケープクロスアーバンシー、母の父ミスワキという血統。
父は現役時代G1を1勝したのみだが、種牡馬としては英愛オークス、BCフィリー&メアターフなどG1・7勝を挙げた名牝ウィジャボードや、
凱旋門賞・エクリプスSなどを制した英ダービー馬ゴールデンホーンなど多くの実力馬を輩出している。
日本の競馬ファンにとっては、ジャック・ル・マロワ賞でタイキシャトルの3着だった馬と言えばわかりやすいかも

母は現役時代に凱旋門賞を制し、繁殖入り後は英愛ダービーを制覇し大種牡馬にもなったガリレオなど
数々の名馬を産んだゴッドマザー。

母の父はミスタープロスペクターの後継種牡馬としては珍しく中長距離に適性を持ち、ブルードメアサイアーとしても評価の高い大種牡馬である。

これでお分かりの通り、本馬はなかなかの良血、しかもガリレオの半弟である。
しかしサドラーズウェルズ産駒のガリレオとは違い、ケープクロス産駒であるところがミソ。
ケープクロスはあのダンシングブレーヴと同期の名スプリンターであるグリーンデザートの直仔、つまりダンジグ系で、
ガリレオよりもかなりスピード色の強い、見た目だけならマイラーかスプリンターという血統構成である。
実際ケープクロスもマイラーだったし。

このような構成に至った理由は、他でもない先述のウィジャボードによるところが大きい。
アーバンシーを所有する香港の実業家デヴィッド・ツイ氏はウィジャボードが7馬身差で圧勝した英オークスを現地で観戦しており、
その強さに興味をひかれてケープクロスにたどり着き、自身で色々調べた結果アーバンシーの交配相手として
申し分ないという結論に達したのだった。


馬名の由来は、ツイ氏が幼いころ母親からよく言われていた”See the Stars(星を見てごらんなさい)”という言葉に、
母アーバンシー(Urban sea)のSeaをひっかけたもの。


かくして誕生したシーザスターズは、生まれ故郷であるアイルランドの名伯楽ジョン・オックス調教師のもとに
入厩し、競走生活への準備を進めていった。


競走生活


2歳時(2008年)


7月の未勝利戦でデビュー。主戦騎手を務めるのは名手マイケル・キネーン
日本の競馬ファンにとっては、かつてモンジューエレクトロキューショニストを駆ってエルコンドルパサーゼンノロブロイ
倒したジョッキーとしても記憶に残っているであろう人物である。
キネーン騎手はもともと近く引退する意向だったのだが、シーザスターズの才能に惚れ込み、
シーザスターズのためだけに引退を先延ばししてまで騎乗していたのだった。
レースではそんな名手の期待に応えるかのようにインコースから伸び…

伸びることなく、馬群に包まれたまま4着に終わった。あれ?


しかし続く未勝利戦は前走の反省か積極的に前の位置をとると、昨年の英ダービー馬オーソライズドの全弟
サーガーフィールドソバーズとの「ダービー馬の弟対決」を制し、無事勝ち上がった。


約6週間の休養を挟んだのち、アイルランド伝統のマイルG2ベレスフォードステークスに出走。
ここでは前年オークス三冠馬の全弟マスターオブザホースらとの直線での4頭入り乱れた激戦を制し、重賞初制覇。
3戦2勝の申し分ない戦績で3歳を迎えることとなった。


3歳時(2009年)


明けて3歳、3月にウイルス性感染症にかかって発熱し、調教が2週間行えないという憂き目にあう。
このため前哨戦を使わず、ぶっつけ本番でイギリスクラシック一冠目であるG1・2000ギニーステークスに出走した。
このレースには、
  • 2歳G1をすでに2勝しカルティエ賞最優秀2歳牡馬に選ばれたマスタークラフツマン
  • G1で人気を裏切り惨敗したものの評価の依然高い素質馬リップヴァンウィンクル
  • 前哨戦G3を強い勝ち方でこなしてきたデレゲーター
などが揃い、シーザスターズは良血であるものの3月の体調不良などから6番人気となった。
それでもレースでは残り2F地点でキネーン騎手の仕掛けに反応して一瞬で抜け出し、
後から追いすがってきたデレゲーターを振り切ってG1初制覇。
伝統あるクラシック一冠目を手にした。



そして次走は、由緒あるダービーの中のダービー、ダービーステークスとなった。
…のだが、凶悪なエプソム12Fコースをこなすにあたりサドラーズウェルズ産駒でスタミナ面の裏付けがあった兄ガリレオに対し、
シーザスターズは父系が思いっきり短距離馬。一応母系はスタミナがあると言えなくもないが…
「そんな血統で大丈夫か?」「大丈夫だ、問題ない」この懸念は戦前からささやかれており、
当のオックス師も回避の可能性を最後までちらつかせていたが、結局馬場も良好ということで出走となった。

このレースにはアイルランドの巨大競馬団体クールモアの専属調教師にしてアイルランド最大の名伯楽、
エイダン・オブライエン調教師の調教馬が大挙襲来しており、1番人気のフェイムアンドグローリーを軸に、
  • リップヴァンウィンクル
  • ブラックベアアイランド
  • ゴールデンソード
  • マスターオブザホース
  • エイジオブアクエリアス
のべ6頭も出走させるばかりか、フォーメーションまで組ませるという必勝体制を敷いていた。
しかもしれっとG1馬が2頭(フェイムアンドグローリーとリップヴァンウィンクル)もいる。もうヤダこのレース…

血統面の不安がささやかれるシーザスターズは、しかしレースが始まると好位先行という距離不安など
露ほども感じさせない堂々たる競馬を展開。
4番手で直線コースに入ると残り3Fからスパートして逃げていたゴールデンソードを置き去りにし、
後ろから追い込むフェイムアンドグローリー、リップヴァンウィンクル、マスターオブザホースに
影すら踏ませず完勝。
1989年のナシュワン以来20年ぶりにイギリスクラシック二冠を達成した。
ちなみに2着から5着までは全て先述のオブライエン軍団であった。オブライエン涙目。


セントレジャーステークスも勝てばニジンスキー以来の三冠馬誕生の可能性もあるところだったが、
オックス師は早々にセントレジャーを目指さない旨を名言。
次走をアイリッシュダービーとしていたが直前の大雨による馬場の悪化から回避し、10FのG1エクリプスステークス
選択。古馬との初対戦となった。
ここには先のダービーステークスで4着に下したリップヴァンウィンクルや、セントレジャーとBCターフを勝った
古馬の大将格コンデュイットなどがいた。
レースではシーザスターズは好スタートから中団好位に落ち着き、残り2Fからスパートを開始。
他有力馬は後ろからシーザスターズをマークしていたのだが瞬発力の差でもはやついていけず、
唯一並びかけてこれたリップヴァンウィンクルを二の脚で競り落として難なくG1・3勝目を挙げた。


続いては夏シーズンの大一番である10FのG1インターナショナルステークスに参戦した。
ここはスタウト厩舎の馬が回避したことで4頭立てとなったのだが、
シーザスターズ以外の残り3頭はなんと全てエイダン・オブライエン厩舎の馬であった。

それもそのはず、これまでクールモアの所有馬のことごとくがシーザスターズの前に敗れ去っており、
オブライエン師は何としてでも打倒シーザスターズを果たすべく、2000ギニーで敗れたのちにG1を2連勝した
マスタークラフツマンを刺客として、その援護役の馬2頭とともにここに送り込んできたのである。
いわゆるマッチレースであるのだが1対3って卑怯すぎる…。

レースが始まるとラビット2頭がハナを切ってペースを作り、その後ろにマスタークラフツマン、
最後尾にシーザスターズと続いた。
このまま最終直線に入るとラビットは失速。前が詰まってくるのだが、ラビット2頭の間に進路が生まれていて
マスタークラフツマンはその直後につけている。
これはマスタークラフツマンを先に行かせた後にラビット2頭がすかさず間を狭めてシーザスターズの進路を消し、
そのまま直線で詰まらせるか最悪でも外に持ち出す分ロスさせてしまい、
その隙にマスタークラフツマンがスパートしていく、というオブライエン師必勝の策だった。卑怯とは言うまいな…

だがシーザスターズにまたがるのは全てを知り尽くしている大ベテランのマイケル・キネーン。
その作戦はとっくに看破しており、マスタークラフツマンと接触しかねないほどギリギリに近づいたままくっつく力技で、
ラビット2頭に壁を作られる危機を脱する。
それでもまだマスタークラフツマンが前にいる。残り2Fでシーザスターズはキネーン騎手が追う中、
マスタークラフツマンは好機とばかりに鞭を入れて全力スパートをかけている。
万事休すかと思われたがこれもキネーン騎手の隠し玉。
実はシーザスターズはこの時点でハミがかかっておらず、見た目通りに全力で追われてはいなかったのである。
残り1Fでハミをかけて合図するとシーザスターズもこれに応え抜群の瞬発力で末脚爆発。
もはや抵抗する余力のないマスタークラフツマンを並ぶ間もなく交わし去り、レースレコードで快勝した。

名手の勝負眼と名馬の能力がかみ合ったこのレースをベストレースに挙げる人も多い。


さらに中2週と詰まった日程ながら、アイルランド伝統の最強馬決定戦である
G1アイリッシュチャンピオンステークス(10F)に出走。シーザスターズが故郷アイルランドで走るのは
これが最後ということで、すでにアイルランドの英雄となったシーザスターズを見ようと
レパーズタウン競馬場には大観衆が詰めかけた。
ここではまたもやオブライエン軍団が待ち構えており、シーザスターズ不在の愛ダービーを5馬身圧勝した
フェイムアンドグローリー、前走で下したマスタークラフツマンに加えさらに3頭が参戦。
2000年有馬記念どころではない文字通りの「オブライエン包囲網」を形成していた。グラサンいい加減にしろ。

レースではシーザスターズの後ろからフェイムアンドグローリー、前にはマスタークラフツマンが
ポジションを取り、マスタークラフツマンのスパートに合わせてシーザスターズが仕掛けたところで
その外をフェイムアンドグローリーがまくっていくというお手本のような包囲網を展開。まさに前門の虎後門の狼
しかしマスタークラフツマンをフェイムアンドグローリーが交わしたところを
外からシーザスターズが一瞬で抜け出して勝負あり。
包囲をものともせずにシーザスターズが2馬身半差で完勝した。オブライエン涙目…


次走は英チャンピオンステークスと凱旋門賞の両にらみで、凱旋門賞については回避をにおわせていたものの、
結局は欧州最大のG1凱旋門賞に出走した。
この年の凱旋門賞のメンバーは
  • すでに2度破っている愛ダービー馬のフェイムアンドグローリー
  • エクリプスSで3着となった後にキングジョージ覇者となった古馬総大将コンデュイット
  • 凱旋門賞と同コースのパリ大賞典・ニエル賞を制した上がり馬キャバルリーマン
  • サンタラリ賞・ディアヌ賞・ヴェルメイユ賞を勝ち昨年の女王ザルカヴァの再現を狙う無敗馬スタセリタ
  • 前年ジョッケクルブ賞馬で当年もG1・2勝の実力者ヴィジョンデタ
  • 当年G1・2勝で翌年にはドバイでブエナビスタを破る名牝ダーレミ
  • 母国のG1を5馬身差圧勝したブラジルの雄ホットシックス
  • 前々年と前年の2年連続で同レース2着となり3度目の正直を目指すユームザイン
などなど、さりげなく紛れ込んだオブライエン軍団がかすむほどに豪華なメンバーとなったが、
ダービー以来の2400m戦ではあったもののかつての距離不安の声はどこへやら消し飛び、
単勝1.67倍という圧倒的な支持を集めた。

レースが始まるとシーザスターズはあまりにスタートが良く、そこにオブライエン厩舎のラビットがわざと
馬体を合わせていったことで、思いっきり掛かってしまう。
そこでキネーン騎手は馬群の中団インコース沿いのポジションに控えることで、なんとかシーザスターズを落ち着かせた。
あれ、これデビュー戦で見たのと同じパターンじゃ?という、下手をすれば前が壁のままで終わりかねないリスクもあったが、
そこでじっくり脚をためてチャンスを待ち構えた。
そして最終直線に入ったところですぐ前を行くスタセリタが内ラチ沿いに切れ込んだことで生じた隙間めがけて
末脚を爆発。隣で意図を察したダーレミがコースを消そうと寄せてきたのを勢いのまま弾き飛ばし、一瞬で先頭に躍り出た。
後方からユームザインとコンデュイットが猛然と追い込んできたがもはや寄せ付けず、2馬身差で余裕のゴール。
G1・6連勝で欧州の頂点を手にした。

2000ギニー・ダービー・凱旋門賞のハットトリックは史上初で、
またデトロワ(1980年)&カーネギー(1994年)母子に次ぐ史上2組目の凱旋門賞母子制覇も達成。
この年自身が勝利した2000ギニーを前に亡くなった母への手向けを添えた。

※余談だが、ユームザインはまたしても2着となり凱旋門賞3年連続2着という珍記録を達成した。
 前年はザルカヴァ、この年はシーザスターズとレジェンド級の馬相手に連続で2着しているあたり
 相当に強いのだが…相手が悪すぎたというほかない。


この後BCターフやジャパンカップへの出走も検討されていたが、結局この凱旋門賞を最後に引退。種牡馬入りとなった。
年末にはカルティエ賞最優秀3歳牡馬年度代表馬をダブル受賞する栄誉にも浴した。
通算戦績は9戦8勝。負けたのはデビュー戦の4着のみであった。本当にどうして負けたんだろうか?



競走馬としての評価


国際的に統一された基準で競走馬の能力を数値化するワールドサラブレッドランキングでは136ポンドをマーク。
これは21世紀の馬としてはフランケルが現れるまで最高の値で、
135ポンドを超えたのも1997年のパントレセレブル以来12年ぶりのことたった。

特徴としては何よりその瞬発力快速ぶりである。
デビューから引退までその手綱をとったキネーン騎手は、
「シーザスターズが凄いのは、わずか3歩でトップギアに入るところです。そんな加速の仕方は他の馬では味わったことがない」
と述べ、モンジュー、ガリレオやジャイアンツコーズウェイといった、自身が騎乗した名馬を差し置いて
生涯最高の馬であると評している。
良馬場でのスピード勝負にはきわめて強く、インターナショナルSでのレコード勝ちのほか、
凱旋門賞でも勝ち時計2分26秒3と好タイムを残している。

また先述の通り、オブライエン軍団からの度重なる徹底マークを受けながらそれらをものともせず
返り討ちにしてのけた精神力の強さも特筆すべきところである。

種牡馬として


初年度の後輩相手には一世代上の怪物牝馬ザルカヴァ、日本の女傑ウオッカらを迎え、
2013年より産駒がデビュー。
2歳時点では重賞馬こそ出すもののG1馬は現れなかったが、産駒が3歳になると
3歳牝馬として38年ぶりにキングジョージを勝ったタグルーダや、外ラチいっぱいに吹っ飛びながら独ダービーを大差圧勝したシーザムーンが活躍。
その後も欧州を代表する名ステイヤーのストラディバリウスや、絶対女王エネイブルを追い詰めたシーオブクラスなど
実力馬を続々送り出し、2016年の英愛リーディングサイアーでは
ガリレオ、ドバウィに次ぐ3位の成績を収めた。

さらに2022年から2023年は、アガリードとの間に生まれたバーイードフクムの全兄弟コンビが活躍。
フクムは2024年から日本で種牡馬入りしている。
すでに亡くなった偉大な兄ガリレオの後を追ってこれからのさらなる飛躍に期待がかかるところである。


追記・修正は凱旋門賞を母子制覇してからお願いします。
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最終更新:2024年02月24日 16:14