2001年宇宙の旅(映画)

登録日:2024/03/13(水) 22:30:00
更新日:2024/04/05 Fri 19:18:23
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2001:
a space odessey





2001年宇宙の旅』とは、1968年に公開されたSF映画である。
監督はスタンリー・キューブリック。


概要

アーサー・C・クラークの同名小説を原作としたもので、脚本はキューブリックとクラークが共同執筆している。
そのため小説の映画化というよりは今でいうメディアミックスに近い。

台詞が徹底的に削られた難解なストーリー、クラシック音楽のBGM、新開発の特殊効果の積極的使用などそれまでのSF映画とは一線を画した作風は大きな話題を呼び、以降のSF映画に多大な影響を与えた。
そのため本作は、SF映画の原点にして頂点とも称される。

公開直後から大きな反響を呼び、1968年の世界興行収入1位を獲得。その後も何度かリバイバル上映が行われた。
1991年にはアメリカ国立フィルム登録簿に登録され、日本でも文部科学省の特選映画に選定されている。

メインテーマとして使用されるのは、リヒャルト・シュトラウスによる交響詩『ツァラトゥストラはかく語りき』の導入部分。
それまでSF映画といえば電子音楽と決まっていたため、この斬新な試みも大きな話題を呼んだ。
本作以降、天体現象の映像にこの楽曲が被せられるシーンを見たことある人が多いだろう。
おかげでこれ以降シュトラウスの楽曲ジャケットは天体の写真ばかりになった。
他にも『美しき青きドナウ』や『レクイエム』等が使用されている。

監督のキューブリックは本作でアカデミー賞の視覚効果部門を受賞している。


あらすじ

※以降ネタバレ含みます。

今から400万年前の地球。
人類最古の存在であるヒトザルは、謎の黒い石板モノリスに導かれ、動物の骨を武器にして戦う知識を得る。
一匹のヒトザルが骨を空中に投げた次の瞬間、一転して舞台は2001年、人類が月に居住可能となった時代。
月から巨大なモノリスが発掘されたことを調査するため、フロイド博士は基地へと向かう。

その18か月後、木星探査のためにディスカバリー号に乗り込んだ船長のボーマンは、搭載されていたコンピュータ「HAL9000」の異常に気付き…


登場人物

吹替は『日曜洋画劇場』(テレビ朝日)で放送された時のもので、()内はノーカット版の追加吹替キャスト。

  • デヴィッド・ボーマン
演:キア・デュリア
吹替:堀勝之祐
「ディスカバリー号」の船長。徹底した秘密主義により、当初は真の目的を知らされていなかった。
途中、HAL9000の暴走により仲間を全員殺され、以降孤独な戦いに挑む。

  • フランク・プール
演:ゲイリー・ロックウッド
吹替:小川真司
ボーマン船長の同僚。HAL9000の暴走を止めようとしたものの船外活動中に宇宙へ放り出されてしまう。

  • ヘイウッド・R・フロイド
演:ウィリアム・シルベスター
吹替:小林昭二(大場真人)
アメリカ合衆国宇宙評議会の博士で、ディスカバリー号の総司令担当である。
地球にいる娘のアン(演:ビビアン・キューブリック)とテレビ電話で話し、誕生パーティーに行けないことを謝る。

  • HAL9000
声:ダグラス・レイン
吹替:金内吉男(木下浩之)
「ディスカバリー号」を制御する会話型コンピューターで、赤い目玉のようなカメラアイがトレードマーク。「SAL 9000」という姉妹機もいるらしい。
元ネタはIBMが開発した世界初の量産型コンピュータ「IBM 704」で、IBMのアルファベットを1文字ずつ前にずらすと「HAL」になる。
ロボットとしての躯体が丸ごとディスカバリー号に組み込まれており、赤い目があるところは全てHALとの会話インターフェース。
「乗員と問題を話し合い解決を目指しなさい」というプロトコルが与えられていたものの、実際には更に「この探査任務の本当の目的であるモノリス探索のことは、船長のボーマンと副長のプールにだけ内緒にしろ」というプロトコルを与えられ、乗員と話すべきなのかそうでないのかが判断できなくなり、不可解な言動を繰り返すようになる。
更に「HALをシャットダウンしよう」と相談する乗員*1を見てパニックになり、暴走。
「乗員と話したくても話せない状況」を作りつつ自らのシャットダウンを回避するため、乗員の皆殺しを決行する。
本作では悪役的ポジションから反乱するコンピューターの元祖と呼ばれることもあるが、同種の作品にありがちな人間への無条件な敵対ではなく、人間の考え方が理解できないゆえの反乱という独特な描写が見られる。


登場メカニック

  • モノリス(TMA・0)
地球とは異なる場所から来た、とある存在によって製作・設置された四角柱型マシーン。
それぞれに異なる機能が搭載されており、外部からの何らかの影響をトリガーとしてその機能を発揮する。

このうち冒頭に登場するTMA・0と呼ばれるものは「触れた対象の知的生命への進化を促す」機能を有しており、400万年前に類人猿集団が触れた際には彼らを道具を扱える知的生命へと進化させた。

本作の他の要素と同じく後世に多大な影響を与えた柱であり、「高い技術力を持つ存在=敢えて何も装飾の付いてないまっ平らな石柱」といった今ではありがちなテンプレを生み出した。

  • 人工衛星
猿の投げた骨から切り替わる、本作で骨の次に映った「道具」。
軍事衛星であり、よく見ると本体下部にだいぶ物騒なモノをぶら下げている。

人の進化とそれに伴う業を現した非常に印象的なシーンに仕上がっており、本作の映像編集の巧みさが語られる際にはまず初めに言及されるシーンとなっている。

  • オリオン号
スペースクリッパーと呼ばれる、地球と宇宙ステーションを往復するシャトル。
スペースシャトルをさらに流線形にしたような形状が特徴。
よく間違われるが猿が投げた骨が次のカットで切り替わるのはこれではなく上の軍事衛星である。

機内は無重力で、歩行する際には磁力ブーツで足を固定している。
キャビンアテンダントが無重力の機内で壁を登るシーンは巨大なセットを利用しており、見た人々を驚愕させた。

  • ステーション5
巨大な輪が二つ繋がったような形状をした巨大宇宙ステーション。
後のSFにおける宇宙ステーションのイメージに多大な影響を与えている。

中央部が発着場になっており、その周囲を囲む円環が居住スペース。このため、ソ連科学者との懇談シーンでは通路はどこも坂道のように湾曲している。

  • アリエス号
月面クラビウス基地へ向かう際に使用された球形の宇宙船。
4本の着陸脚が生えており、シルエットはずんぐりむっくりになったアポロ月着陸船といった趣。
内部にはTVがあり、劇中では柔道の試合が映っていた。

  • ムーンバス
月面の移動に使われる小型宇宙船。
見た目もバスっぽいが、車輪の代わりに着陸脚が生えている。

  • モノリス(TMA・1)
人類が初めて発見したモノリス。通称TMA・1(Tycho Magnetic Anomalyの略)。
略称通り、月面南部の巨大クレーター「ティコ」の地中に埋められた状態でバリバリ磁気を放っていた。

磁気異常を使って自らの所在を示し、発掘されて露出することで「知的生命体が月を掘り返せるレベルまで技術的に進化した」ということを知らせる役目を担っており、劇中では世紀の大発見にウキウキで記念撮影を始めようとした科学者一行を猛烈に苦しめつつ次の目的地である木星へと強力な電波を発信した。

  • ディスカバリー号
木製探査船。エンジンと球体を細長い棒で繋いだような、一見頼りない形状をしている。
月のモノリスが発した信号を追い、数名の乗組員と高知能コンピューターを伴って木星へと調査に赴いた。

  • スペースポッド
ディスカバリー号の船外作業用マシン。
正面に窓の配置された球形の機体で、作業用アームが二本装備されている。
本編では作業というよりも密談のための個室として使われている場面が印象的。

  • モノリス(TMA・2)
木星の軌道上に浮遊しているモノリス。もはやティコとか全然関係ないがコレも略称はTMA。
画面が暗くてモノリスの視認が難しく、更に小説版にはあった台詞が全部飛ばされているせいで映画だけ見ていると何が起こっているのか激烈に分かりにくく、それが逆に魅力的で論争の種となっていることで知られる。

調査のためにスペースポッドで接近してきたボーマンに対して、「スターゲート」という巨大なワームホールを開き、彼をガンギマったサイケな映像で生命の誕生などを示しつつ遥か彼方のとある場所へと飛ばした。


余談

  • 続編
本作の正式な続編として『2010年』が製作されている。
企画当初キューブリックは興味を示さず、クラークも「キューブリック抜き」を条件にしたため監督は代わりにピーター・ハイアムズが務めた。
本作の謎についてもある程度説明がなされている。
また、本シリーズの完結編としてクラークによってプールを主人公とした「3001年終局への旅」が執筆されている*2

  • ラジオドラマ
公開から10年後の1978年にFM東京でラジオドラマ化された。全5話。
原作をなぞりつつもナレーションや台詞は大幅に追加され、話の流れがわかりやすくなった。
最大の変更点はHAL9000のキャラクターで、よく喋る明るい女性型コンピューター*3になっている。さすが女体化の国日本
とは言え物語後半の暴走と末路については変わらないので、人によっては本家以上に鬱になるかもしれない。

  • 登場する企業
本作で登場するスペースシャトルにはパンアメリカン航空(通称パンナム)の文字が描かれている。
パンナムは当時世界各国に路線網を広げていたアメリカを象徴する実在の航空会社で、
本作以外では『ブレードランナー』や『007シリーズ』、日本の特撮も含めた多数映像作品に登場していた。
ところが1980年代以降の航空自由化に伴う競争力の低下やそれに伴う赤字体質の改善に失敗し、1991年に破産。
監督のキューブリック*4ともども2001年をその目で見ることが出来なかった。

  • HAL9000
元ネタ同様HAL9000はIBM製で、当初IBMは映画製作に非常に協力的であった。
ところが、「コンピューターが人を殺す」という当時としては斬新な内容に激怒してしまい、以降ロゴを隠すようにIBMから指示が出された。ただし編集できなかった箇所もあり、そこではIBMのロゴを確認できる。

オマージュ元や引用元としてメチャクチャ有名な存在でもあり、軽く挙げただけでも以下のものがある。
  • 「メタルギア」シリーズの仲間キャラ「オタコン」の本名「ハル・エメリッヒ」の名称由来
  • ゲームソフトメーカー・HAL研究所の社名の由来*5
  • 「WALL-E」の悪役ロボット「AUTO」
  • 魔人探偵脳噛ネウロ」の敵キャラ「電人HAL」/春川英介

  • 幻の美術スタッフ
本作の美術設定には当初、漫画家の手塚治虫を起用する予定だった。
ところが当時手塚は漫画連載・アニメに多忙で海外作品に取り組む暇なんぞまずないため、やむなく
私は260人*6を食わせなければならず、1年間も家を空けるわけにはいきません」という御断りの手紙を出した。
キューブリックはそれを読んで「260人も家族がいるとは驚きました」ととんだ勘違いの返事を送り、手塚は大笑いしたという。アフリカか!

  • キット化
本作の主要なメカは、2017年頃から続々とメビウスモデルによりキット化されている。
印象的だったディスカバリー号やオリオン号はもちろんのこと、規模の大きいステーション5や(相対的に)やや地味な活躍のスペースバスなども網羅。
巨大なスペースポッドやアリウス号、HALの実物大モデルなども立体化されており、立体派にも嬉しい時代になっている。




追記・修正はスター・チャイルドへと進化を遂げてからお願いします。

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最終更新:2024年04月05日 19:18

*1 HAL9000は起動以来一度も電源を切られたことがなかったため、シャットダウンを「死」と捉えて恐れるようになっていた

*2 こちらは2014年頃にテレビドラマ化の企画が持ち上がったが、2024年現在動きはなく没になった模様。

*3 担当声優は『ベルサイユのばら』のオスカル役等で知られる田島令子。

*4 こちらは1999年に他界。

*5 創立当初、MZ-80Kシリーズ向けに本作をモチーフにしたゲームを制作・販売していた。

*6 当時の虫プロダクションの従業員数。