ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko0546 俺が、ゆっくりだ! 8
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ankoss
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『俺が、ゆっくりだ! 8』
・「俺がれいむでれいむが俺で」的設定です
・俺の考えたことは、ゆっくりでもわかる語彙であれば自動的に翻訳されてれいむが喋りやがります
・見た目、性能はゆっくり、頭脳は人間です
・「その7」を読んでいないとよくわからないかと思われます
十四、
“俺”たちはありすの墓を作ってやった。ありすの体は…本当にもう、運ぶことができないくらいにぐちゃぐちゃ
だったから…、飾りのカチューシャを持って行って…巣穴の中に埋めた。巣穴の中をありすの墓にしようと言ったの
はぱちゅりーだった。そこには、ありすが敷き詰めた…とかいはな、落ち葉の絨毯がある。それに、あの赤ありすと
一番長く過ごした場所はここだったろうから…誰も反対はしなかった。
ようやく…泣き疲れて、泣きやんだ“俺”たち。ありすの墓前に、ゆうかからもらった花の種と…新しい住処で食
べる予定だった野菜を供えた。
「…ありすと…そだてたおやさいさん…いっしょにたべたかったのぜ…」
まりさが呟く。誰も、何も言わない。俺も、心の中でありすのことを思い返すたびに、寂しい気持ちになっていた。
まりさは、ひとしきりありすの墓の前で後姿を震わせていたが、やがて“俺”の方に向き直り、
「れいむ………ちょっと、くるのぜ」
『……ゆっくりりかいしたよ』
ぱちゅりーとちぇんが不安そうに“俺”を見る。俺はというと…こうなるような気はしていたから、ある程度の覚
悟はできていた。恐らく、まりさは…“俺”を、俺を許せないのだろう。ありすを助けに行こうとしていた、まりさ
をずっと押さえつけていたのは、“俺”だ。
『ずーり…ずーり…』
こんなときまで緊張感のない…。ツッコミを入れるのも面倒くさいくらい…俺は疲れていた。もう、何が正しいの
かわからない。全然わからない。
開けた場所。最初に…この森に入って休憩をした場所。…休む、休まないでもめたっけ。あの頃は、これから何度
もありすやまりさと衝突すると思っていたけど、もう、ありすと衝突することは2度とない。本当に、ぼーっとして
いた。
だから、まりさの体当たりで弾き飛ばされるまで…まりさが“俺”に威嚇をしているのにも気付かなかった。
「ぷくうううぅぅぅぅぅ!!!!」
ゆっくり特有の擬音も、今の“俺”が聞くとそう馬鹿にできたもんでもない。間抜けな姿はともかく、まりさの怒
りだけは十分に伝わってきた。
「れいむ!!!!こたえるのぜ!!!!」
なんだよ。
『なんなの?』
「どうして…ありすをたすけにいかせてくれなかったのぜ!?」
お前が行って…何ができると思ってんだよ…。
『いってたすけられたとおもってるの?ばかなの?しぬの?』
まりさは更に顔を膨らませ、顔を真っ赤にして“俺”に飛びかかってきた。…動きが単調すぎる。まりさの体が“俺”
にぶつかる寸前、後ろに飛びのきまりさの攻撃をかわし、右の揉み上げを勢いよく振ってまりさの左頬に打ち付けた。
「ゆっ…ゆぅ…っ!」
怒り心頭のまりさに、“俺”はきっと冷たい視線をぶつけていたことだろう。
「ゆがああああああああ!!!!」
まりさが連続で体当たりを仕掛けてくる。れみりゃの動きに比べれば…遅い。このれいむの体でも十分、対応する
ことができた。ちっとも当たらない攻撃に、まりさは苛立ちを隠せない。
「なんでなのぜ!!!なんでっ!!!!」
…まりさ。お前が弱いからだよ。だから、お前の攻撃は“俺”に当たらない。わかったか?
『…ゆっくりりかいしてね…?』
「なんでっっっ!!!!!!!」
息を切らしながら、まりさの攻撃が止まる。体力が尽きたのだろう。…無能なれいむに自分の攻撃が当たらなくて
悔しいんだろうか。滑稽だな。
「うっ…」
…ついに泣きだすか。上手くいかないとなったら泣くだけなんて…所詮はクソ饅頭だよな。
「なんでれいむはまりさよりもつよいのに…っ!いっしょにありすをたすけにいってくれなかったのぜっ?!!!」
…………っ!
「まりさひとりじゃどうにもできなかったよ!…でもっ!れいむとちぇんと…まりさがいっしょにがんばれば…っ!
ありすをたすけることができたかもしれないのぜっ!!???」
…一緒に…?まりさと…ちぇんと…3匹で?…馬鹿な。それでも…
『にんげんさんは…』
「れいむは…っ!たたかうまえからにんげんさんをこわがって…っ!にげただけなのぜっ!!!」
そんなのは机上の空論だ。それに、“俺”たちがどんなに力を合わせたところで人間には絶対勝つことなんてでき
ない。それなのに、人間に挑むなんて…無意味だ。
『じゃあっ…!!!』
八つ当たりだったかも知れない。“俺”はほとんど動けないまりさに体当たりをかまし、突き飛ばした。
「ゆぐっ!!」
『そこまでいうなられいむにおしえてねっ!!!どうやってにんげんさんからありすをたすけるつもりだったの!?』
「それは…」
『こたえられないくせにっ!!!かってなことばっかりいわないでねっ!!!!』
「………………」
“俺”の息も、俺の心臓の鼓動も、荒い。……助けることが…できたのだろうか…?あの状況下で…ありすを。赤
ありすを。どうやって?どうやれば良かった?何が正解だったのだろう…?俺が選んだやり方は…正解じゃなかった
のか…?
「わからないよー!ふたりともやめるんだねーーーー!!!!」
草むらの陰で見ていたのだろうか。ちぇんが飛び出す。遅れてせき込みながら、ぱちゅりーものそのそと出てきた。
「ふたりともやめて!とかいはじゃないわ!!!」
驚いて、声のする方を見る。まりさもほとんど動かせない顔を必死に声のする方へと向ける。…ありす?
「むきゅ…。ありすがここにいれば…きっとそういっていたはずよ」
「う…ゆぐ…ゆぇ…ゆぅぅぅん…ゆぅぅぅぅぅぅぅん…」
まりさがぼろぼろと泣き出す。ぱちゅりーは…ちぇんにまりさと巣穴に戻るよう指示をすると…まりさに寄り添い
戻って行った。
静寂が辺りを包む。…馬鹿な話だとは思うけど、ぱちゅりーなら…俺の疑問に答えてくれるような気がした。俺は
あのときどうするべきだったのか?俺の選んだ答えは間違っていたのか?誰でも良かったのかも知れない。ただ…聞
きたくて、聞きたくて…たまらなかった。そして、答えを聞かせてほしかった。
『ぱちゅりー…れいむは…まちがっていたのかな…?』
「むきゅ…わからないわ」
俺は、ありすを助けることができたのだろうか…?
『まりさやみんなといっしょにがんばれば…ありすをたすけられたのかな…?』
「…わからない」
どうして、人間が近くに来る可能性があるとわかった上で、ありすを一匹で行かせてしまったのか…?
『……ありすを……ひとりでいかせなければ…こんなことにならなかったのかな…?』
「それもわからないわ」
どこから?答えを出すためには…どこまで遡ればいい?誰でもいいから…答えてくれよ…っ。
『…あたらしいおうちをさがしにいかなければ…っ!!!』
“俺”の頬になにか柔らかい感触を感じる。ぱちゅりーが“俺”の頬に自分の頬をすりよせていた。すりすり…す
りすり…何度も、静かに、優しく…それでいて、力強く。
「すーり…すーり…」
なんだよ…?意味わかんねぇ…。意味わかんねぇけど…ぱちゅりーが…“俺”のことを気遣ってくれてる事だけは
…悔しいが理解できた。ぱちゅりーは“俺”に頬をすり寄せ続けながら、呟くように言葉を紡いでいった。
「れいむ…。なにがただしかったかなんて…きっとだれにもわからないわ」
『…………』
「ぱちゅも…まりさも、ちぇんもわからない」
なんだよ、それ…。ちっとも答えになってないじゃないか…っ!
『…ちゃんとこたえてね…れいむ、おこるよ!?』
荒い言葉をぶつけたにも関わらず、ぱちゅりーのすーりすーりは止まらない。そして、今度はぱちゅりーが“俺”
に質問をしてきた。
「むきゅっ…。ぱちゅは…れいむといっしょにやまへかえらなければ…こんなかなしいおもいをせずにすんだかしら?」
『ゆっ…?』
ぱちゅりーたちは“俺”に勝手についてきた。ただ、それだけ…だと思っていた。
でも、ぱちゅりーはぱちゅりーで、「“俺”について行きき、山へ帰るべきか?」と考えて…。「ついて行く」と
決断して、結果、「ずっと一緒にいた大切な友達を失った」。
ぱちゅりーの行動は…正しかったのだろうか?あのまま街で暮らしていれば…明日をも知らぬ暮らしを強いられる
代わりに…友達を失うことはなかったかも知れない。でも、野良ゆっくりとして…人間によって大切な友達を奪われ
ることになっていたかも知れない。
失うこと。奪われること。同じことのようで…違うのだろうか?
「むきゅっ…」
ぱちゅりーの声に、思考が止まる。
「むきゅきゅ…れいむもこたえられないのだから…おあいこさん、だわ」
ぱちゅりーの頬越しに、この…ゲロ袋の…いや、ゆっくりの…。“ぱちゅりー”の優しさが伝わる。今、涙を流し
ているのは“俺”だろうか。それとも、俺なんだろうか。
…ああ、そうだよな…。わからない。わかるはずがないんだ。だって…答えなんかないから…。ないものねだりで
自分の望む正解を求めたところで…たどり着ける道理はない。俺は…何を勘違いしていたんだろうか。まるでこの世
の出来事すべてに…答えがあるかのように思っていたのか?
「だれにだって…わからないのよ…でも」
『でも?』
「むきゅっ…。そうやってかんがえて…なやんで…それでもこたえをさがそうとするれいむのこと…ぱちゅはすきだ
わ」
不覚にも、声を上げて泣いた。ゆっくりなんかの言葉で泣いた。俺は不安だった。自分のやったことが正しいかわ
からなかったから。まりさも…不安だったんだ。ありすを助けることができたかどうかは、“わからなかった”から。
「むきゅ…まりさとありすはね…こいびとさん、だったのよ」
『ゆっ?!』
でも…確か…。
「むきゅきゅ」
ぱちゅりーはクスクスと笑った。
「れいむ。こいびとさんとは…すっきりー!するだけじゃないのよ…?」
そこまでは思ってない。思ってないが…子孫を残すことができないのに…って考えた時点で…同じことか…。そう
だよな…子供ができないからって…男女がお互いを好きになる理由には…関係ない。ん?男女?
「まりさとありすはね…あのちびちゃんのことを…じぶんたちのこどもとしてそだてるつもりだったの」
『……………』
「あたらしいおうちについてから…そのことをはなす、といっていたわ」
『どうして…すぐにいわなかったの…?』
「れいむがちびちゃんのことをすきじゃない、っていうのをまりさもありすもきづいていたから」
…嘘、だろ…?あいつらは…あいつらなりに…俺に気を遣ってたってことなのかよ…。
「それに…みんなのことをかんがえてくれてるれいむに…よけいなしんぱいをさせたくなかったのかしらね…?そこ
までは…ぱちゅも“わからない”わ」
俯く。言葉も出なかった。相変わらずぱちゅりーが優しく頬をすり寄せてくる。不思議だな…。落ち着く…。いつ
もなら…すーりすーりしてるゆっくりなんざ見かけようもんなら…即座に叩き潰していたものなのに…。こんなに…
こいつら…饅頭共にとっては…安心する行為だったのか…。そういえば…良く不安がる赤ゆに親ゆがすーりすーりし
てやるところを見るが…。そういうこと、なわけね…。
謝ろう。まりさに。なんて言えばいいかはわからないけど。
『れいむ…まりさにゆっくりごめんなさいするよ』
…饅頭の謝罪なんて…鳴き声くらいにしか思ってなかったけど…人間にうまく伝わらないだけで…案外、本当に悪
かった…って、ちゃんと思えてるのかも知れないな…。…多分、俺は認めないだろうけど。
「むきゅっ!そのひつようはないわ」
『ゆ?』
「いまごろ、まりさも…ちぇんにおこられてるだろうから。れいむのきもちもかんがえなさい、ってね。むきゅきゅ」
人生に答えはない。無数の選択肢の中から自分が選んだ答えの…答え合わせをすることはできない。そんな当たり
前のこと…でも気づきにくいこと。それを…まさか饅頭から教わることになるとはな…。
翌朝、“俺”はまりさと巣穴の入り口で鉢合わせた。お互いの視線が宙で交差する。ぱちゅりーもちぇんも何も言
わなかった。
「まりさは…ありすのぶんまでいっしょうけんめいいきるよ」
『………』
「ありすのぶんまで…れいむといっしょにいるよ」
『……まりさ……』
「…っ」
『………』
なんとなくお互い目を逸らす。不意にまりさは、
「ゆっくりしていってね!!!!」
くっ…!無理矢理…っ!!
『ゆっくりしていってね!!!!』
…“挨拶”を返すとまりさは笑った。“俺”も釣られて笑ってしまった。
ゆうかのときには…“俺”もゆうかも…お互いの気持ちを素直に言い合った。…案外、それはこうやって親しい間
柄ではなかったからこそ、できたことかも知れない。素直に伝えることができなくても…お互いに「ゆっくりしてい
ってね!!」と言い合えば、なんとなく分かり合えるような気さえ、した。
初めて…この“ゆっくりしていってね!”という言葉が…ゆっくりにとって、…大切な言葉なんだと感じさせられ
た。
ぱちゅりーとちぇんが、ぴょこぴょこ飛び跳ねて、“俺”たちのそばに寄ってくる。
「わかるよー!れいむもまりさもなかなおりできたんだねー!!」
「むきゅっ!それじゃあ、れいむ。ぱちゅたちにつぎのこうどうのしじをしてちょうだい」
まりさとぱちゅりー、それからちぇんが一斉に“俺”の方を向く。…ありすも…、一緒にいたような気がした。
『ゆっ!あたらしいおうちにいどうして…おひさまがさよーならーするまえにおうちをつくるよっ!!!』
「「「ゆっくりりかいしたよ!!!!」」」
れいむ…とっても、とかいはだわ…。
どこからか…そんな声が、聞こえた気がした。
十五、
それにしても、ちぇんは穴を掘るのが早い。まりさも十分に早いが…それでもちぇんのほうが早い。やっぱり猫
なんだろうなぁ…。いや、饅頭だけど…でも…猫…なんだよな?猫耳あるし…猫又っぽい尻尾だし…。
「れいむ!ゆっくりしてないでてつだうのぜ」
そう言ってくれるな、まりさクン。俺はお前ら饅頭と違って、虫とか草とか食べれないからさ…。あんまり動く
とすぐに餡子がなくなってしまうのだよ。…いや、ホントに。
「わかるよー、れいむはあたまはいいけど、あなをほったりするのはにがてなんだねー。ちぇんとまりさにまかせ
てねー」
「ゆげぇっ?!」
ちぇん…。お前は本当に菩薩のようなゆっくりだな…。まりさは文句を言いながらも器用に巣穴を掘っていく。
“俺”とぱちゅりー…いや、ゲロ袋の指示は、入り口を狭く長く掘っていき、自分たちの住む場所…すなわちゆっ
くりできる場所を広く掘る、ということ。雨対策に、巣穴の入り口から広間へ向かって、上に緩やかな傾斜をもた
せている。これで浸水することもあるまい。巣穴を深く掘るのは、人間や捕食種対策だ。いくらあらゆる手で人間
の嗜虐心をくすぐるクソ饅頭を虐待するためとは言っても、結構な量の穴を掘ってまでヒャッハーしようとする奴
はいないだろう…。………。いるかも知れないな。…俺とかやっても構わないくらいの気分だし。
「むきゅっ。れいむ…こんかいは、けっかいっ!ははらないの?」
んー…張ってもいいけど…っておい。カムフラージュだよ、カムフラージュ。結界じゃねぇよ。
『ゆー…はってもいいけど、けっかいっ!はけっかいっ!だよ。けっかいっ!じゃないよ』
「むきゅう…ぱちゅにはりかいすることができないのだわ…」
ああ、俺にも理解できなかったよ。しかし…巣穴のカムフラージュくらい、他のゆっくりにもできないのか…?
個人的には、もう少しありすのことで塞ぎこんでしまうかと思っていた。でも、案外この饅頭共は強かった。生
きていくのに必死なのだろう。必死だから…振り向く暇も…余裕もないのかも知れない。今の俺には、こいつらが
こんなに一生懸命に巣穴を掘っているのも、ありすのことを振り返らないために、必死になっているようにも見え
る。…まさかとは思うが、餡子脳だからもうありすのことはゆっくりわすれたよ!とか言わないだろうな。もしそ
うなら、俺のセンチな気持ちを返せ。お前らの命で。
「れいむー…!たくさんほったよー!!」
掘削中の穴の奥からちぇんの声が聞こえる。しっかりした地盤の場所を選んだ(その分掘りにくかっただろうが)
ため、崩落の危険性はないだろう。
「おぼうしさんがつっかえるのぜ…」
まりさが帽子のことを気にしながら、ずりずりと穴から這い出してくる。気になるなら脱げよ、それ…。ああ、
まりさ種は帽子脱いだら大泣きするんだったな…。あれだけ何度も帽子いじめしておいて、忘れちまうとは…。
情けないぜ…。
「むきゅ。それじゃこんどはみんなでゆっくりできるひろいばしょをほりましょう。れいむ?ほかになにかしじ
はあるかしら?」
『ゆっ!ちぇんはあなほりさんがとくいだからおうちのほうをまかせるよ。れいむとまりさとぱちゅりーでおや
さいさんをつくるばしょをほろうね!』
「わかったよー!」
ちぇんに、疲れたら適宜休息を取るように促した後、“俺”とまりさとぱちゅりーは枯れ葉や折れた木の枝な
どで覆われた山の斜面を掘って平坦にする作業に取り掛かった。口に少し太めの木の棒を咥え、それをスコップ
がわりにして掘っていく。
ここにはゆうかからもらった野菜の種を蒔く予定だ。そのため、なるだけ小川の近くを掘っていく。巣穴から
多少の距離はあるが…野菜に水をやる手間を考えれば、こちらのほうに畑を作るほうが効率がいいだろう。仲間
が減り、個への負担が大きくなったのを理解してか、普段は頭脳派のぱちゅりーもこの開墾に参加していた。後
からクリームを吐かなければいいが…。
「れいむーーーー!!!」
まりさが大声を上げる。何事だ?!
『どうしたのっ?!』
「あなさんをほってたら、なかからいもむしさんがいっぱいでてきたのぜっ!いち…に………たくさんいるのぜ!」
死ねよ。
『ゆっくりしんでね』
「ひ…ひどいのぜぇ…!いくられいむがたべられないからって…!」
まぁ、そいつは芋虫っつーか、なんかの幼虫だろ。食感は…悔しいが良さそうな気はするが、俺は人間として
の尊厳を優先させていただく。…ふむ。土の下に幼虫がいる、ってことはそこそこ養分が豊富なんだろう。こん
なとこで野菜が育つか不安なところもあったが、これならなんとかなりそうだ。問題なのは野菜の管理をどうす
るかだな…。
『ゆっ』
「むきゅ、どうしたの?」
いいこと思いついた…。あいつらは雑草とか平気で食うから、食事がてら草むしりをしてもらおう。俺は…水
をやる方法を考えないとな…。いっそ、小川の流れを変えるか?畑の近くを通るように川筋を変えれば、水をや
るのにも効率が良さそうだ。残念なのは、午前中ぐらいしか太陽の光が当たらないことだよな。それを懸念して
日照効率のいい場所に畑を作ろうとすると、人間にすぐ見つかってしまうような場所になるというもどかしさ。
結局、この日は一日、土を掘り続けた。たまに、よその野生ゆっくりがやってきては、
「ゆっくりしてないゆっくりがいるよ!」
「おお、あわれあわれ」
などと言って去って行った。人間の姿に戻ったら、あいつらはとりあえず全部潰してやろうと思う。そんなこ
とを考えていたら、まりさとぱちゅりーが寄ってきて、
「れいむ!まりさはれいむのかんがえてることがまちがってるとはおもってないのぜ!」
え、潰していいってこと?
『つぶしていいの?』
「?」
「むきゅ!いつかほかのゆっくりたちもわかるときがくるわ。ゆっくりしているだけでは、いつかゆっくりでき
なくなってしまうということに」
あ、ああ。そっちの話ね。飼いゆは野生ゆに冷たいのかと思ってしまったぜ。しかし、こいつら…思考はもは
やゆっくりじゃねーな。…とは言っても…こいつらはゆっくりするために今こうして穴を掘ってるわけで、結局
それはゆっくりしたい欲求を満たすためでもあるわけか?
今すぐ、ゆっくりしたいか。最終的に、ゆっくりしたいか。それだけの差なんだろうな。まぁ…とは言っても、
ゆっくりの食糧は無限にあるわけじゃない。ゆっくりの数が増えれば、食糧をめぐって争いが起きたりもするだ
ろう。そういう時代がきたら、こいつらはどうするんだろうな…?
食糧を争い、水を巡って争い、住む場所を巡って争う。…ん?それ、なんて弥生時代?お、俺たちは…縄文人
である野生ゆの前に現れた…、大陸の文化、すなわち人間の文化を持って現れた渡来人みたいな存在になってい
るのでは…っ?!
今、俺がこうしてまりさやぱちゅりー、ちぇんに役割を与えて指示を出しているのは…権力者の出現?古墳時
代への突入?もし、このままこの野菜作りみたいな文化がゆっくり社会に浸透していったら…いずれは群れがで
きるのでは…?そして、その群れを治める強力なゆっくり…想像はつかんが、そんな存在が現れるのかも知れな
い…。
まるで…人間の歩んできた歴史そのものではないか…?…いや、まぁ、ゆっくり共が自分たちも野菜を作ろう、
なんて思い始めるかは知らんが…。そういえば…ゆうかのところに種をもらいに来たゆっくりがいたとか言って
たっけ…?実は…同じようなこと考えてる連中もいるのかも知れないな。とりあえずその場で種を食った、って
言ってたから救いようがない馬鹿なのは間違いないけど。
俺は一人でこういう考察を延々とするのが好きみたいだな…。基本的に口で木の棒を咥えてるから、会話とか
は絶対できないわけだが…。いずれは、人間と同じような文明を築きあげたりしてな。ははは、ないない。それ
はない。
疲れ果てた“俺”とまりさとぱちゅりーは、巣穴へと戻った。まだ少し明るいが無理は禁物だ。特にまともな
食糧にありつけない俺は。狭く長い巣穴の入り口を抜ける際、まりさのケツが目の前でぶりんぶりんと揺れてい
て、不快だった。
『ゆわぁ………』
思わず、声を上げたね。ちぇん…お前は…一匹でここまで穴を掘るたぁ…リアルに大したもんだ。“俺”たち
4匹はもちろん…下手すりゃ10匹くらい住めるんじゃないか…?しかも、まだ足りてはいないけど落ち葉の絨
毯を敷くとは…。誰かさんが“とかいは、とかいは”言ってきそうだぜ。功労者のちぇんは疲れたのか眠ってい
た。
『ゆぅ…』
「むきゅぅ…まえのおうちのときもそうだったけれど…またなにかもんだいがあるのかしら?」
余程のことがない限り、この巣穴が完全に襲撃されることはないだろう。でも、今は、余程のことがあると仮
定して計画を進めていくべきだ。…裏口を作ろう。そのことを発案すると、案外素直に聞き入れてくれた。まだ
記憶に新しいはずだ。隠しているつもりだった前の巣穴の中から人間が出てきたことを。万が一、巣穴の中に侵
入されたときのことを考えての判断だ、ということを2匹は理解していたのだ。理屈ではなく、生き残るための
本能によるものであったのかも知れないが。
まりさとぱちゅりーは芋虫や雑草を。“俺”は残り少なくなってきたキノコを食べ終わると、早速穴掘りに取
り掛った。が、この作業は激しく困難を極めた。なんてったって見えん。暗くて見えん。巣穴の入り口が長いた
め、十分に光が届かない。加えて日照条件はよくない。防御性を重視したせいか、一日この中で過ごす…という
のには不向きになってしまった。
『ゆぅ』
そんなふうにため息をつくと、ほぼ暗闇の中でぱちゅりーが口を開いた。
「むきゅ。こんどはみんなでかんがえましょう」
…え?
『…ゆ?』
「ぱちゅたちはひとりひとりじゃいいかんがえはうかばないかもしれないけれど…」
「そうなのぜ!まりさも…れいむと、ぱちゅりーといっしょにおうちのことについてかんがえるのぜっ!」
悪い癖だな。また一人で考え込もうとしてた。どこからやり直すか。そればかり考えようとしていた。やり直
すだけが…全てじゃないんだな。ここから、変えていくことだってできるはずだ。…“俺”一人では無理でも…
まりさやぱちゅりー…ちぇんと一緒なら。
『…ゆっくりりかいしたよ!』
冷たい朝の風が、運転席と助手席の間を通り抜けた。男が一人。女が一人。車から降りてくる。そして後部座
席に積んであった車いすを降ろし、一人の少年をその椅子に座らせた。
「ここどこぉ…?ゆっくりしたいよぅ…」
少年は、外見に似合わない子供っぽい口調で不安そうに周囲を見渡している。男が少年の肩に手を乗せ、優し
く語りかけた。
「ここはな…まだお前が子供の頃…俺と一緒にカブトムシを取りに来た場所だ。…覚えてないか?」
「ゆぅ………れいむ………しらないよ………」
「…っ!!!!あなたの名前はれいむなんかじゃないっ!!!!!」
女が大声を上げる。男は慌ててそれを制した。少年は顔をくしゃくしゃにして泣き出した。
「ゆああああああん!!」
「落ち着け、落ち着くんだ。大丈夫。大丈夫だから」
「…ゆぐっ…ひっく…」
泣きやむ少年とは正反対に、女は少年にもたれかかるように崩れ落ちた。
「れいむ…れいむ…おさんぽしてただけなのにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!」
まるで癇癪を起こすかのように叫び声を上げる少年。男は、女を助手席に乗せ車いすを押し始めた。女はただ
ひたすら泣き続けている。
「どうして…どうして…こんな目に…」
男と車いすの少年が森の中へと入って行く。そばには小さな川が流れていた。
「おみずさんっ!ゆっくりごーくごーくするよっ!!!!」
言って、車いすから降りようとして崩れ落ちる。顔を、腕を擦りむく。男が慌てて少年を抱き起こす。
「ゆっぐぃ…いじわるしないでねぇぇぇぇ!!!!!」
男の精神は既に崩壊寸前だった。この少年の…、男の、息子の名前を繰り返し呟くことで正気を保っていた。
「落ち着け…頼むから、落ち着いてくれ…」
「ゆああああああああああ!!!!」
「…としあき」
つづ…く?
・「俺がれいむでれいむが俺で」的設定です
・俺の考えたことは、ゆっくりでもわかる語彙であれば自動的に翻訳されてれいむが喋りやがります
・見た目、性能はゆっくり、頭脳は人間です
・「その7」を読んでいないとよくわからないかと思われます
十四、
“俺”たちはありすの墓を作ってやった。ありすの体は…本当にもう、運ぶことができないくらいにぐちゃぐちゃ
だったから…、飾りのカチューシャを持って行って…巣穴の中に埋めた。巣穴の中をありすの墓にしようと言ったの
はぱちゅりーだった。そこには、ありすが敷き詰めた…とかいはな、落ち葉の絨毯がある。それに、あの赤ありすと
一番長く過ごした場所はここだったろうから…誰も反対はしなかった。
ようやく…泣き疲れて、泣きやんだ“俺”たち。ありすの墓前に、ゆうかからもらった花の種と…新しい住処で食
べる予定だった野菜を供えた。
「…ありすと…そだてたおやさいさん…いっしょにたべたかったのぜ…」
まりさが呟く。誰も、何も言わない。俺も、心の中でありすのことを思い返すたびに、寂しい気持ちになっていた。
まりさは、ひとしきりありすの墓の前で後姿を震わせていたが、やがて“俺”の方に向き直り、
「れいむ………ちょっと、くるのぜ」
『……ゆっくりりかいしたよ』
ぱちゅりーとちぇんが不安そうに“俺”を見る。俺はというと…こうなるような気はしていたから、ある程度の覚
悟はできていた。恐らく、まりさは…“俺”を、俺を許せないのだろう。ありすを助けに行こうとしていた、まりさ
をずっと押さえつけていたのは、“俺”だ。
『ずーり…ずーり…』
こんなときまで緊張感のない…。ツッコミを入れるのも面倒くさいくらい…俺は疲れていた。もう、何が正しいの
かわからない。全然わからない。
開けた場所。最初に…この森に入って休憩をした場所。…休む、休まないでもめたっけ。あの頃は、これから何度
もありすやまりさと衝突すると思っていたけど、もう、ありすと衝突することは2度とない。本当に、ぼーっとして
いた。
だから、まりさの体当たりで弾き飛ばされるまで…まりさが“俺”に威嚇をしているのにも気付かなかった。
「ぷくうううぅぅぅぅぅ!!!!」
ゆっくり特有の擬音も、今の“俺”が聞くとそう馬鹿にできたもんでもない。間抜けな姿はともかく、まりさの怒
りだけは十分に伝わってきた。
「れいむ!!!!こたえるのぜ!!!!」
なんだよ。
『なんなの?』
「どうして…ありすをたすけにいかせてくれなかったのぜ!?」
お前が行って…何ができると思ってんだよ…。
『いってたすけられたとおもってるの?ばかなの?しぬの?』
まりさは更に顔を膨らませ、顔を真っ赤にして“俺”に飛びかかってきた。…動きが単調すぎる。まりさの体が“俺”
にぶつかる寸前、後ろに飛びのきまりさの攻撃をかわし、右の揉み上げを勢いよく振ってまりさの左頬に打ち付けた。
「ゆっ…ゆぅ…っ!」
怒り心頭のまりさに、“俺”はきっと冷たい視線をぶつけていたことだろう。
「ゆがああああああああ!!!!」
まりさが連続で体当たりを仕掛けてくる。れみりゃの動きに比べれば…遅い。このれいむの体でも十分、対応する
ことができた。ちっとも当たらない攻撃に、まりさは苛立ちを隠せない。
「なんでなのぜ!!!なんでっ!!!!」
…まりさ。お前が弱いからだよ。だから、お前の攻撃は“俺”に当たらない。わかったか?
『…ゆっくりりかいしてね…?』
「なんでっっっ!!!!!!!」
息を切らしながら、まりさの攻撃が止まる。体力が尽きたのだろう。…無能なれいむに自分の攻撃が当たらなくて
悔しいんだろうか。滑稽だな。
「うっ…」
…ついに泣きだすか。上手くいかないとなったら泣くだけなんて…所詮はクソ饅頭だよな。
「なんでれいむはまりさよりもつよいのに…っ!いっしょにありすをたすけにいってくれなかったのぜっ?!!!」
…………っ!
「まりさひとりじゃどうにもできなかったよ!…でもっ!れいむとちぇんと…まりさがいっしょにがんばれば…っ!
ありすをたすけることができたかもしれないのぜっ!!???」
…一緒に…?まりさと…ちぇんと…3匹で?…馬鹿な。それでも…
『にんげんさんは…』
「れいむは…っ!たたかうまえからにんげんさんをこわがって…っ!にげただけなのぜっ!!!」
そんなのは机上の空論だ。それに、“俺”たちがどんなに力を合わせたところで人間には絶対勝つことなんてでき
ない。それなのに、人間に挑むなんて…無意味だ。
『じゃあっ…!!!』
八つ当たりだったかも知れない。“俺”はほとんど動けないまりさに体当たりをかまし、突き飛ばした。
「ゆぐっ!!」
『そこまでいうなられいむにおしえてねっ!!!どうやってにんげんさんからありすをたすけるつもりだったの!?』
「それは…」
『こたえられないくせにっ!!!かってなことばっかりいわないでねっ!!!!』
「………………」
“俺”の息も、俺の心臓の鼓動も、荒い。……助けることが…できたのだろうか…?あの状況下で…ありすを。赤
ありすを。どうやって?どうやれば良かった?何が正解だったのだろう…?俺が選んだやり方は…正解じゃなかった
のか…?
「わからないよー!ふたりともやめるんだねーーーー!!!!」
草むらの陰で見ていたのだろうか。ちぇんが飛び出す。遅れてせき込みながら、ぱちゅりーものそのそと出てきた。
「ふたりともやめて!とかいはじゃないわ!!!」
驚いて、声のする方を見る。まりさもほとんど動かせない顔を必死に声のする方へと向ける。…ありす?
「むきゅ…。ありすがここにいれば…きっとそういっていたはずよ」
「う…ゆぐ…ゆぇ…ゆぅぅぅん…ゆぅぅぅぅぅぅぅん…」
まりさがぼろぼろと泣き出す。ぱちゅりーは…ちぇんにまりさと巣穴に戻るよう指示をすると…まりさに寄り添い
戻って行った。
静寂が辺りを包む。…馬鹿な話だとは思うけど、ぱちゅりーなら…俺の疑問に答えてくれるような気がした。俺は
あのときどうするべきだったのか?俺の選んだ答えは間違っていたのか?誰でも良かったのかも知れない。ただ…聞
きたくて、聞きたくて…たまらなかった。そして、答えを聞かせてほしかった。
『ぱちゅりー…れいむは…まちがっていたのかな…?』
「むきゅ…わからないわ」
俺は、ありすを助けることができたのだろうか…?
『まりさやみんなといっしょにがんばれば…ありすをたすけられたのかな…?』
「…わからない」
どうして、人間が近くに来る可能性があるとわかった上で、ありすを一匹で行かせてしまったのか…?
『……ありすを……ひとりでいかせなければ…こんなことにならなかったのかな…?』
「それもわからないわ」
どこから?答えを出すためには…どこまで遡ればいい?誰でもいいから…答えてくれよ…っ。
『…あたらしいおうちをさがしにいかなければ…っ!!!』
“俺”の頬になにか柔らかい感触を感じる。ぱちゅりーが“俺”の頬に自分の頬をすりよせていた。すりすり…す
りすり…何度も、静かに、優しく…それでいて、力強く。
「すーり…すーり…」
なんだよ…?意味わかんねぇ…。意味わかんねぇけど…ぱちゅりーが…“俺”のことを気遣ってくれてる事だけは
…悔しいが理解できた。ぱちゅりーは“俺”に頬をすり寄せ続けながら、呟くように言葉を紡いでいった。
「れいむ…。なにがただしかったかなんて…きっとだれにもわからないわ」
『…………』
「ぱちゅも…まりさも、ちぇんもわからない」
なんだよ、それ…。ちっとも答えになってないじゃないか…っ!
『…ちゃんとこたえてね…れいむ、おこるよ!?』
荒い言葉をぶつけたにも関わらず、ぱちゅりーのすーりすーりは止まらない。そして、今度はぱちゅりーが“俺”
に質問をしてきた。
「むきゅっ…。ぱちゅは…れいむといっしょにやまへかえらなければ…こんなかなしいおもいをせずにすんだかしら?」
『ゆっ…?』
ぱちゅりーたちは“俺”に勝手についてきた。ただ、それだけ…だと思っていた。
でも、ぱちゅりーはぱちゅりーで、「“俺”について行きき、山へ帰るべきか?」と考えて…。「ついて行く」と
決断して、結果、「ずっと一緒にいた大切な友達を失った」。
ぱちゅりーの行動は…正しかったのだろうか?あのまま街で暮らしていれば…明日をも知らぬ暮らしを強いられる
代わりに…友達を失うことはなかったかも知れない。でも、野良ゆっくりとして…人間によって大切な友達を奪われ
ることになっていたかも知れない。
失うこと。奪われること。同じことのようで…違うのだろうか?
「むきゅっ…」
ぱちゅりーの声に、思考が止まる。
「むきゅきゅ…れいむもこたえられないのだから…おあいこさん、だわ」
ぱちゅりーの頬越しに、この…ゲロ袋の…いや、ゆっくりの…。“ぱちゅりー”の優しさが伝わる。今、涙を流し
ているのは“俺”だろうか。それとも、俺なんだろうか。
…ああ、そうだよな…。わからない。わかるはずがないんだ。だって…答えなんかないから…。ないものねだりで
自分の望む正解を求めたところで…たどり着ける道理はない。俺は…何を勘違いしていたんだろうか。まるでこの世
の出来事すべてに…答えがあるかのように思っていたのか?
「だれにだって…わからないのよ…でも」
『でも?』
「むきゅっ…。そうやってかんがえて…なやんで…それでもこたえをさがそうとするれいむのこと…ぱちゅはすきだ
わ」
不覚にも、声を上げて泣いた。ゆっくりなんかの言葉で泣いた。俺は不安だった。自分のやったことが正しいかわ
からなかったから。まりさも…不安だったんだ。ありすを助けることができたかどうかは、“わからなかった”から。
「むきゅ…まりさとありすはね…こいびとさん、だったのよ」
『ゆっ?!』
でも…確か…。
「むきゅきゅ」
ぱちゅりーはクスクスと笑った。
「れいむ。こいびとさんとは…すっきりー!するだけじゃないのよ…?」
そこまでは思ってない。思ってないが…子孫を残すことができないのに…って考えた時点で…同じことか…。そう
だよな…子供ができないからって…男女がお互いを好きになる理由には…関係ない。ん?男女?
「まりさとありすはね…あのちびちゃんのことを…じぶんたちのこどもとしてそだてるつもりだったの」
『……………』
「あたらしいおうちについてから…そのことをはなす、といっていたわ」
『どうして…すぐにいわなかったの…?』
「れいむがちびちゃんのことをすきじゃない、っていうのをまりさもありすもきづいていたから」
…嘘、だろ…?あいつらは…あいつらなりに…俺に気を遣ってたってことなのかよ…。
「それに…みんなのことをかんがえてくれてるれいむに…よけいなしんぱいをさせたくなかったのかしらね…?そこ
までは…ぱちゅも“わからない”わ」
俯く。言葉も出なかった。相変わらずぱちゅりーが優しく頬をすり寄せてくる。不思議だな…。落ち着く…。いつ
もなら…すーりすーりしてるゆっくりなんざ見かけようもんなら…即座に叩き潰していたものなのに…。こんなに…
こいつら…饅頭共にとっては…安心する行為だったのか…。そういえば…良く不安がる赤ゆに親ゆがすーりすーりし
てやるところを見るが…。そういうこと、なわけね…。
謝ろう。まりさに。なんて言えばいいかはわからないけど。
『れいむ…まりさにゆっくりごめんなさいするよ』
…饅頭の謝罪なんて…鳴き声くらいにしか思ってなかったけど…人間にうまく伝わらないだけで…案外、本当に悪
かった…って、ちゃんと思えてるのかも知れないな…。…多分、俺は認めないだろうけど。
「むきゅっ!そのひつようはないわ」
『ゆ?』
「いまごろ、まりさも…ちぇんにおこられてるだろうから。れいむのきもちもかんがえなさい、ってね。むきゅきゅ」
人生に答えはない。無数の選択肢の中から自分が選んだ答えの…答え合わせをすることはできない。そんな当たり
前のこと…でも気づきにくいこと。それを…まさか饅頭から教わることになるとはな…。
翌朝、“俺”はまりさと巣穴の入り口で鉢合わせた。お互いの視線が宙で交差する。ぱちゅりーもちぇんも何も言
わなかった。
「まりさは…ありすのぶんまでいっしょうけんめいいきるよ」
『………』
「ありすのぶんまで…れいむといっしょにいるよ」
『……まりさ……』
「…っ」
『………』
なんとなくお互い目を逸らす。不意にまりさは、
「ゆっくりしていってね!!!!」
くっ…!無理矢理…っ!!
『ゆっくりしていってね!!!!』
…“挨拶”を返すとまりさは笑った。“俺”も釣られて笑ってしまった。
ゆうかのときには…“俺”もゆうかも…お互いの気持ちを素直に言い合った。…案外、それはこうやって親しい間
柄ではなかったからこそ、できたことかも知れない。素直に伝えることができなくても…お互いに「ゆっくりしてい
ってね!!」と言い合えば、なんとなく分かり合えるような気さえ、した。
初めて…この“ゆっくりしていってね!”という言葉が…ゆっくりにとって、…大切な言葉なんだと感じさせられ
た。
ぱちゅりーとちぇんが、ぴょこぴょこ飛び跳ねて、“俺”たちのそばに寄ってくる。
「わかるよー!れいむもまりさもなかなおりできたんだねー!!」
「むきゅっ!それじゃあ、れいむ。ぱちゅたちにつぎのこうどうのしじをしてちょうだい」
まりさとぱちゅりー、それからちぇんが一斉に“俺”の方を向く。…ありすも…、一緒にいたような気がした。
『ゆっ!あたらしいおうちにいどうして…おひさまがさよーならーするまえにおうちをつくるよっ!!!』
「「「ゆっくりりかいしたよ!!!!」」」
れいむ…とっても、とかいはだわ…。
どこからか…そんな声が、聞こえた気がした。
十五、
それにしても、ちぇんは穴を掘るのが早い。まりさも十分に早いが…それでもちぇんのほうが早い。やっぱり猫
なんだろうなぁ…。いや、饅頭だけど…でも…猫…なんだよな?猫耳あるし…猫又っぽい尻尾だし…。
「れいむ!ゆっくりしてないでてつだうのぜ」
そう言ってくれるな、まりさクン。俺はお前ら饅頭と違って、虫とか草とか食べれないからさ…。あんまり動く
とすぐに餡子がなくなってしまうのだよ。…いや、ホントに。
「わかるよー、れいむはあたまはいいけど、あなをほったりするのはにがてなんだねー。ちぇんとまりさにまかせ
てねー」
「ゆげぇっ?!」
ちぇん…。お前は本当に菩薩のようなゆっくりだな…。まりさは文句を言いながらも器用に巣穴を掘っていく。
“俺”とぱちゅりー…いや、ゲロ袋の指示は、入り口を狭く長く掘っていき、自分たちの住む場所…すなわちゆっ
くりできる場所を広く掘る、ということ。雨対策に、巣穴の入り口から広間へ向かって、上に緩やかな傾斜をもた
せている。これで浸水することもあるまい。巣穴を深く掘るのは、人間や捕食種対策だ。いくらあらゆる手で人間
の嗜虐心をくすぐるクソ饅頭を虐待するためとは言っても、結構な量の穴を掘ってまでヒャッハーしようとする奴
はいないだろう…。………。いるかも知れないな。…俺とかやっても構わないくらいの気分だし。
「むきゅっ。れいむ…こんかいは、けっかいっ!ははらないの?」
んー…張ってもいいけど…っておい。カムフラージュだよ、カムフラージュ。結界じゃねぇよ。
『ゆー…はってもいいけど、けっかいっ!はけっかいっ!だよ。けっかいっ!じゃないよ』
「むきゅう…ぱちゅにはりかいすることができないのだわ…」
ああ、俺にも理解できなかったよ。しかし…巣穴のカムフラージュくらい、他のゆっくりにもできないのか…?
個人的には、もう少しありすのことで塞ぎこんでしまうかと思っていた。でも、案外この饅頭共は強かった。生
きていくのに必死なのだろう。必死だから…振り向く暇も…余裕もないのかも知れない。今の俺には、こいつらが
こんなに一生懸命に巣穴を掘っているのも、ありすのことを振り返らないために、必死になっているようにも見え
る。…まさかとは思うが、餡子脳だからもうありすのことはゆっくりわすれたよ!とか言わないだろうな。もしそ
うなら、俺のセンチな気持ちを返せ。お前らの命で。
「れいむー…!たくさんほったよー!!」
掘削中の穴の奥からちぇんの声が聞こえる。しっかりした地盤の場所を選んだ(その分掘りにくかっただろうが)
ため、崩落の危険性はないだろう。
「おぼうしさんがつっかえるのぜ…」
まりさが帽子のことを気にしながら、ずりずりと穴から這い出してくる。気になるなら脱げよ、それ…。ああ、
まりさ種は帽子脱いだら大泣きするんだったな…。あれだけ何度も帽子いじめしておいて、忘れちまうとは…。
情けないぜ…。
「むきゅ。それじゃこんどはみんなでゆっくりできるひろいばしょをほりましょう。れいむ?ほかになにかしじ
はあるかしら?」
『ゆっ!ちぇんはあなほりさんがとくいだからおうちのほうをまかせるよ。れいむとまりさとぱちゅりーでおや
さいさんをつくるばしょをほろうね!』
「わかったよー!」
ちぇんに、疲れたら適宜休息を取るように促した後、“俺”とまりさとぱちゅりーは枯れ葉や折れた木の枝な
どで覆われた山の斜面を掘って平坦にする作業に取り掛かった。口に少し太めの木の棒を咥え、それをスコップ
がわりにして掘っていく。
ここにはゆうかからもらった野菜の種を蒔く予定だ。そのため、なるだけ小川の近くを掘っていく。巣穴から
多少の距離はあるが…野菜に水をやる手間を考えれば、こちらのほうに畑を作るほうが効率がいいだろう。仲間
が減り、個への負担が大きくなったのを理解してか、普段は頭脳派のぱちゅりーもこの開墾に参加していた。後
からクリームを吐かなければいいが…。
「れいむーーーー!!!」
まりさが大声を上げる。何事だ?!
『どうしたのっ?!』
「あなさんをほってたら、なかからいもむしさんがいっぱいでてきたのぜっ!いち…に………たくさんいるのぜ!」
死ねよ。
『ゆっくりしんでね』
「ひ…ひどいのぜぇ…!いくられいむがたべられないからって…!」
まぁ、そいつは芋虫っつーか、なんかの幼虫だろ。食感は…悔しいが良さそうな気はするが、俺は人間として
の尊厳を優先させていただく。…ふむ。土の下に幼虫がいる、ってことはそこそこ養分が豊富なんだろう。こん
なとこで野菜が育つか不安なところもあったが、これならなんとかなりそうだ。問題なのは野菜の管理をどうす
るかだな…。
『ゆっ』
「むきゅ、どうしたの?」
いいこと思いついた…。あいつらは雑草とか平気で食うから、食事がてら草むしりをしてもらおう。俺は…水
をやる方法を考えないとな…。いっそ、小川の流れを変えるか?畑の近くを通るように川筋を変えれば、水をや
るのにも効率が良さそうだ。残念なのは、午前中ぐらいしか太陽の光が当たらないことだよな。それを懸念して
日照効率のいい場所に畑を作ろうとすると、人間にすぐ見つかってしまうような場所になるというもどかしさ。
結局、この日は一日、土を掘り続けた。たまに、よその野生ゆっくりがやってきては、
「ゆっくりしてないゆっくりがいるよ!」
「おお、あわれあわれ」
などと言って去って行った。人間の姿に戻ったら、あいつらはとりあえず全部潰してやろうと思う。そんなこ
とを考えていたら、まりさとぱちゅりーが寄ってきて、
「れいむ!まりさはれいむのかんがえてることがまちがってるとはおもってないのぜ!」
え、潰していいってこと?
『つぶしていいの?』
「?」
「むきゅ!いつかほかのゆっくりたちもわかるときがくるわ。ゆっくりしているだけでは、いつかゆっくりでき
なくなってしまうということに」
あ、ああ。そっちの話ね。飼いゆは野生ゆに冷たいのかと思ってしまったぜ。しかし、こいつら…思考はもは
やゆっくりじゃねーな。…とは言っても…こいつらはゆっくりするために今こうして穴を掘ってるわけで、結局
それはゆっくりしたい欲求を満たすためでもあるわけか?
今すぐ、ゆっくりしたいか。最終的に、ゆっくりしたいか。それだけの差なんだろうな。まぁ…とは言っても、
ゆっくりの食糧は無限にあるわけじゃない。ゆっくりの数が増えれば、食糧をめぐって争いが起きたりもするだ
ろう。そういう時代がきたら、こいつらはどうするんだろうな…?
食糧を争い、水を巡って争い、住む場所を巡って争う。…ん?それ、なんて弥生時代?お、俺たちは…縄文人
である野生ゆの前に現れた…、大陸の文化、すなわち人間の文化を持って現れた渡来人みたいな存在になってい
るのでは…っ?!
今、俺がこうしてまりさやぱちゅりー、ちぇんに役割を与えて指示を出しているのは…権力者の出現?古墳時
代への突入?もし、このままこの野菜作りみたいな文化がゆっくり社会に浸透していったら…いずれは群れがで
きるのでは…?そして、その群れを治める強力なゆっくり…想像はつかんが、そんな存在が現れるのかも知れな
い…。
まるで…人間の歩んできた歴史そのものではないか…?…いや、まぁ、ゆっくり共が自分たちも野菜を作ろう、
なんて思い始めるかは知らんが…。そういえば…ゆうかのところに種をもらいに来たゆっくりがいたとか言って
たっけ…?実は…同じようなこと考えてる連中もいるのかも知れないな。とりあえずその場で種を食った、って
言ってたから救いようがない馬鹿なのは間違いないけど。
俺は一人でこういう考察を延々とするのが好きみたいだな…。基本的に口で木の棒を咥えてるから、会話とか
は絶対できないわけだが…。いずれは、人間と同じような文明を築きあげたりしてな。ははは、ないない。それ
はない。
疲れ果てた“俺”とまりさとぱちゅりーは、巣穴へと戻った。まだ少し明るいが無理は禁物だ。特にまともな
食糧にありつけない俺は。狭く長い巣穴の入り口を抜ける際、まりさのケツが目の前でぶりんぶりんと揺れてい
て、不快だった。
『ゆわぁ………』
思わず、声を上げたね。ちぇん…お前は…一匹でここまで穴を掘るたぁ…リアルに大したもんだ。“俺”たち
4匹はもちろん…下手すりゃ10匹くらい住めるんじゃないか…?しかも、まだ足りてはいないけど落ち葉の絨
毯を敷くとは…。誰かさんが“とかいは、とかいは”言ってきそうだぜ。功労者のちぇんは疲れたのか眠ってい
た。
『ゆぅ…』
「むきゅぅ…まえのおうちのときもそうだったけれど…またなにかもんだいがあるのかしら?」
余程のことがない限り、この巣穴が完全に襲撃されることはないだろう。でも、今は、余程のことがあると仮
定して計画を進めていくべきだ。…裏口を作ろう。そのことを発案すると、案外素直に聞き入れてくれた。まだ
記憶に新しいはずだ。隠しているつもりだった前の巣穴の中から人間が出てきたことを。万が一、巣穴の中に侵
入されたときのことを考えての判断だ、ということを2匹は理解していたのだ。理屈ではなく、生き残るための
本能によるものであったのかも知れないが。
まりさとぱちゅりーは芋虫や雑草を。“俺”は残り少なくなってきたキノコを食べ終わると、早速穴掘りに取
り掛った。が、この作業は激しく困難を極めた。なんてったって見えん。暗くて見えん。巣穴の入り口が長いた
め、十分に光が届かない。加えて日照条件はよくない。防御性を重視したせいか、一日この中で過ごす…という
のには不向きになってしまった。
『ゆぅ』
そんなふうにため息をつくと、ほぼ暗闇の中でぱちゅりーが口を開いた。
「むきゅ。こんどはみんなでかんがえましょう」
…え?
『…ゆ?』
「ぱちゅたちはひとりひとりじゃいいかんがえはうかばないかもしれないけれど…」
「そうなのぜ!まりさも…れいむと、ぱちゅりーといっしょにおうちのことについてかんがえるのぜっ!」
悪い癖だな。また一人で考え込もうとしてた。どこからやり直すか。そればかり考えようとしていた。やり直
すだけが…全てじゃないんだな。ここから、変えていくことだってできるはずだ。…“俺”一人では無理でも…
まりさやぱちゅりー…ちぇんと一緒なら。
『…ゆっくりりかいしたよ!』
冷たい朝の風が、運転席と助手席の間を通り抜けた。男が一人。女が一人。車から降りてくる。そして後部座
席に積んであった車いすを降ろし、一人の少年をその椅子に座らせた。
「ここどこぉ…?ゆっくりしたいよぅ…」
少年は、外見に似合わない子供っぽい口調で不安そうに周囲を見渡している。男が少年の肩に手を乗せ、優し
く語りかけた。
「ここはな…まだお前が子供の頃…俺と一緒にカブトムシを取りに来た場所だ。…覚えてないか?」
「ゆぅ………れいむ………しらないよ………」
「…っ!!!!あなたの名前はれいむなんかじゃないっ!!!!!」
女が大声を上げる。男は慌ててそれを制した。少年は顔をくしゃくしゃにして泣き出した。
「ゆああああああん!!」
「落ち着け、落ち着くんだ。大丈夫。大丈夫だから」
「…ゆぐっ…ひっく…」
泣きやむ少年とは正反対に、女は少年にもたれかかるように崩れ落ちた。
「れいむ…れいむ…おさんぽしてただけなのにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!」
まるで癇癪を起こすかのように叫び声を上げる少年。男は、女を助手席に乗せ車いすを押し始めた。女はただ
ひたすら泣き続けている。
「どうして…どうして…こんな目に…」
男と車いすの少年が森の中へと入って行く。そばには小さな川が流れていた。
「おみずさんっ!ゆっくりごーくごーくするよっ!!!!」
言って、車いすから降りようとして崩れ落ちる。顔を、腕を擦りむく。男が慌てて少年を抱き起こす。
「ゆっぐぃ…いじわるしないでねぇぇぇぇ!!!!!」
男の精神は既に崩壊寸前だった。この少年の…、男の、息子の名前を繰り返し呟くことで正気を保っていた。
「落ち着け…頼むから、落ち着いてくれ…」
「ゆああああああああああ!!!!」
「…としあき」
つづ…く?