ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko2556 おにんぎょ姫
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ankoss
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『おにんぎょ姫』 12KB
改行忘れで再提出。すみません
おにんぎょ姫
嘘あき
太陽がありすの頭の上に来る少し前。
山肌を転がるようにありすはあんよを動かす。
山を降りるといつもニコニコと“すーりすーり”と頬をなでたり“あまあま”をくれたり、
“とかいは”なお話をしてくれる“ゆっくりできる”お兄さんがいるからだ。
「やあ、ありす。今日も元気か?」
「ありすはきょうもとかいはよ!」
山に沿うように備えられている鉄製のバス停を表す標識近くに、
鳥の囀りに耳を傾けながら木製のボロいベンチに座るお兄さんが居た。
車道を通る車は一台もなく、太陽の日差しが燦々と水田に活気を与えアスファルトを焦がしてゆく。
「おにいさん、きょうもとかいにいくんでしょ! とってもうらやましいわ!!」
脳内で“とかい”の情景を描きながら目をキラキラと光らせるありす。
沸騰したお湯が鍋から噴き出るように、
キャッキャキャッキャと魚のように飛び跳ねて興奮するありすの乱れ舞う金髪に、
お兄さんは椅子から腰を上げ静かに手櫛を入れた。
「ゆ、ゆ、ゆ、ゆっくち~~」
うねうねとタコの触手のように緩急をつけながらありすの頭を撫で回す。
ダラシなく涎を垂らし悦に浸るありすを眺め、
お兄さんは一旦手を止め、眉をひそめてポツリと呟いた。
「お兄さんはね、もうココには戻ってこれないかもしれないんだ」
突然の言葉にありすは一瞬、真っ青になった。
お兄さんは悪い嘘を付くような人じゃない。
その事を分かっているから、ありすはわなわなと体を震わせてお兄さんの顔を見つめた。
「で、でも、とかいは」
「もっと遠い都会に行かなくちゃならないんだ。だから、会いに行けなくなってしまったんだよ」
いつもお兄さんが行く都会はこの辺りの繁華街であって、
一時間毎のバスを使って片道30分で行ける場所である。
けれど、ありすには理解出来ない。
「そんな……」
急な転勤でお兄さんはこの町にはいられなくなったのだ。
都会に出ていい仕事を得られるのは良いのだが、
「とっても忙しくなるだろうから、ここには戻ってこれないかもしれないんだ……」
悄気るお兄さんを見て、ありすはなんだかゆっくり出来なかった。
だから、逆に喜ばせたかった。
お兄さんに似合うのは笑顔だけだから。
「よかったじゃない! おにいさんはとかいでもっととかいはになれるんでしょ!!」
ボキャブラリーが貧困なありすには精一杯の賛辞だった。
出来ればずっと一緒にいたいという気持ちが無いといえば嘘だが、
お兄さんが“とかいは”に成れることの方が大事なのだ。
椅子の上に飛び乗り、ありすは無い胸を張ってみせた。
「そうか、そうだよな。俺、頑張らないと」
軽い鼻息と共に、お兄さんはいつものお兄さんの笑顔を取り戻した。
「ありがとう、ありす。俺、どうするか迷ってたんだ。
ずっとこの村で味気のないのんびりとした人生を過ごすのもいいと思ってたんだけど、
“とかいは”ってヤツに成ることの方が大事だよな………ほんとに、ありがとな!!」
感極まったのか、お兄さんはありすをヒョイっと抱き上げて、胸に押し当てる。
頬から伝わるお兄さんの鼓動と共にありすは言わなければならないことを思い出した。
「そうだ、おにいさん……ありすは」
「なあ、ありす」
「……なに?」
「明日、俺はこの街から出る」
遮るように告げられた言葉。
余りにも急すぎる話にありすの思考回路は追いつけなくなってしまった。
「だからね、明日も来てくれると嬉しいんだ」
遠方から聞こえるバスの排気音がタイムリミットを告げる。
気が動転し、口が開きっぱなしで声を発することが出来ないありすに、
お兄さんはポケットから三つの飴玉を取り出して見せた。
「今日は奮発して三つだ。明日は一袋やるからな。絶対に来いよ」
乱暴に閉まる自動ドアの音を聞きながら、
ありすは三つの飴玉と一緒にバスが“とかい”に行くのを見送ることしか出来なかった。
ーーーーーーーーー
「おにいさんにいいそびれちゃったな……」
本当は『いっしょにゆっくりしていってね!
べ、べつにありすはしかたなく……おにいさんがしんぱいだからついていくだけなんだからね!!
とかいにいきたいだけなんだから!! か、かんちがいしないでね!!!』と言うべきだったのだ。
悶々と枯葉で作ったベットの上で転がりながら、あの時、唖然としていた自分を怨めしく思っていた。
「はあ、どうしてこんなことに……」
食料庫の横に備えてある、今までお兄さんからもらった“あまあま”の山を見つめた。
「おにいさんの……ばか」
ーーーーーーーーー
最初にお兄さんに会ったのは、ありすが群の狩場から離れ迷子になっていた時だ。
涙を流しながら途方にくれている時に、ありすは人間そのものを始めてみたのだ。
「おい、大丈夫か?」
ゆっくりよりも何倍も大きく、れみりゃのように手足のある生き物。
本能として人間を知ってはいたが、いざ対面するとその姿に恐怖せざるを得なくなってしまった。
「あ、あ、あ……」
「ん? どこかいたいのか?」
「こここここ、こないでぇえええええ!!!!」
勃起してしまったありすのぺにぺにから“おそろしーしー”が噴きでた。
恐怖と羞恥が入り交じり、ありすはただ泣き伏せるだけ。
そんな姿を見て、お兄さんはにっこり笑って頭を撫でてくれたのだ。
「大丈夫だ。お兄さんは虐待お兄さんじゃないからな」
「ゆわぁあああああああ!!!! ごっじにぐるなぁあああああ!!!!!」
頭を優しくなでられても、それがさらなる恐怖心を呼び覚まし、
体中が凍りそうな感触と共に鳥肌がたった。
「おいおい、泣かないでくれよ。……ほら、あまあまやるから泣きやめって」
「あ、あまあまさん……ひっく……」
その言葉を聞くやいなや、ありすは赤子のように大泣きすることをやめた。
お兄さんはえずくありすを宥めながら、一欠片のチョコレートをその口に投げ入れた。
「むーちゃむーちゃ、しししししししあわせぇえええええええ!!!!!!!」
まるで、体がお空へと飛んでいってしまいそうな至福感が体中に満ちてゆく。
野いちごを食べた時以上の甘味。
いや、自然に生えている“あまあま”とは比べものにならないほどの物。
この世のものとは思えない真の“とかいは”な“あまあま”を食べ、ありすは更にうれしーしーを漏らしてしまった。
「ゆふぅ……」
賢者タイムのひと時が流れ、ありすはぐったりとその場で寝転んだ。
「し、しあわせぇ……」
「そんなに美味しかったのか。そりゃ、良かったな」
人間がいることを思い出し、ありすは元に戻る。
「にんげんさん、いったいなんのようなの」
冷たく言い放ちながら、ありすはずーりずーりとお兄さんと距離を開けようとした。
だが、お兄さんは友好的な笑顔を見せるのだ。
「そりゃ、困ってる生き物を助けるのは普通だろ?」
ーーーーーーー
結局、ありすは家に帰ることが出来た。
お兄さんが「来た道を逆にたどれば良いんじゃないか」とアドバイスをくれたからだ。
「またこの時間に来いよ。お前の大好きな“あまあま”もってきてやるからさ」
もしかすると、この“とかいは”なありすを拐かして手駒にする気じゃないのだろうか。
最初の頃はそう考えたものなのだが、
あまあまの誘惑に負けてありすはお兄さんに会いに行くことにした。
だが、お兄さんは紳士的で、決してありすを傷つけるようなことはせず、ありすをゆっくりさせてくれたのだ。
馴れ馴れしく触ってくるお兄さんが億劫だった時もあった。
すこし意地悪をするお兄さんにイラッとすることもった。
だけど、総じてありすはお兄さんを愛してしまったのだ。
「すきよ……だいすきよ……」
おうちの中で一人、憂いた少女のように頬を染めながら何度も呟いたセリフ。
今、口にしてみるとその言葉がどれだけ重いのかを実感させられる。
群の中では独身ゆっくりとして肩身狭く生きてはいたのだが。
群の若いまりさやぱちゅりー、ちぇんからもプロポーズを受けたこともあるのだが。
「ありすはおにいさんがだいすき」
決して報われぬ恋に体中のカスタードを焦がされていた。
ありすは分かっているのだ、お兄さんとは一緒にゆっくりできないと。
なぜなら、ありすは人間と比べてとんでもなく小さいし、手足もない。体そのものが違うのだ。
「おにいしゃん……」
こんなに心苦しいものなら、ありすはお兄さんと出会わなければよかったんだ。
おうちの壁に勢い良く額をぶつける。痛みが走る。
「いたいよ……いたいよ!!」
額から滲み出るカスタードが痛みの原因なんかじゃない。
心がとっても痛いのだ。
「おにいざあああああああん!!!」
鬱憤していた悲しみが涙腺を通して流れだす。
誰も栓を閉じてくれることのない、このやり場のない気持はどうやって扱えばいいのだろうか。
ありすはお菓子の山に齧りついた。
外装が付いていようともお構いなしに、ありすは食べ狂った。
なんどもなんども、体の許容量一杯を超えても食べ続けた。
「どぼじでなのよぉおおおおおお!!!!」
悲痛の声は夜の森へと消えて行く。
ただ、煙のように所在なさ気に消えて行く。
ーーーーーーー
「ゆ、これって」
朝目が覚めると、ありすの目の前には肌白い腕が二本置かれていた。
「からだが……おもい」
ありすはグッと体そのものを意識する。
左手がピクリと反応し始めたのだ。
「ありすにどうがはえたの……?」
外から見れば、母親の腹の中にいる胎児のごとくありすは体を丸めている。
交差する腕をゆっくりと解き、背筋にぐっと力を入れてみた。
「ゆぅうううう~~~~」
背筋に硬い針金が入っているんじゃないかと思えるほどに、背筋を正すのが難しい。
だが、ゆっくりと確実に曲がり始めてはいるのだ。
「もうすこし……ゆぎぃいいいい!!!!」
あにゃるに力を込めて背筋を動かす。
自然と腰の周りが曲がり始め、足も伸びてゆく。
「ゆぁあああああ!!!!!!!」
多少の痛みなど窮するものか。
ありすはがむしゃらに力を込めて、体の節々を伸ばしてみせた。
「ゆんやぁああああああああ!!!!!!」
そこにいるのは全体的に蒼をモチーフにしたワンピースに、
黒線が入った白いブラウスを着飾った胴付きゆっくり。
勢い良く振るわれる四肢が新しいありすを迎え入れる。
世界を闊歩する為の新しい体。
すべてが明るく見えてしまいそうな感動がありすの心を震わせる。
「やっったぁあああああ!!!!」
バタバタと手を動かしながら喜びを表現する。
だが、ありすはこの時大事なある物を振り落としていたのだ。
無造作に体を動かしたため、大事な物をありすは無くしてしまったのだ。
ーーーーーーー
「ゆふふ~ありすはにんげんさんになっちゃんたんだわ~~♪」
時折四つん這いながらも不慣れな体を引きずってありすは山肌を歩く。
痙攣する両足を根性で支えながらゆっくりとバス停へと向かう。
「これで、おにいさんと……うふふふふ」
四肢さえあればお兄さんと一緒に“ゆっくり”出来る。
一緒に御飯だって食べれるし、バスにだって乗れる。
“とかい”にだって一緒に行ける。
“ちゅっちゅ”だってこの日のために残しておいた取っておきの“ふぁーすとちゅっちゅ”があるし、
“すっきりー”だって。
“あかちゃん”を作って本当の“とかいは”な”しあわせー”な家族を築けることも出来るのだ。
「もうすこしだからねっ!!! まっててね、おにいさん!!!」
亀の歩みのように遅いが、ありすは枯れ木を踏みしめながら確実に一歩一歩と歩み続ける。
生まれたてのこの体は柔い為、石や枝に引っかかって生傷が絶えない。
足に満遍なく激痛が走るが、今のありすには感じない。
ただ、スカートの裾を握りながらコツコツと歩き続けた。
ーーーーーーー
「ゆ? へんなゆっくりがいるのぜ?」
狩場に差し掛かったところ、数匹の群れのゆっくり達がいた。
冬ごもりに備えて餌をせっせと集めているのだろう。
「ゆっくりしていってね!!」
「「「………………」」」
いつもどおり“とかいは”な挨拶をしたはずだ。
だが、彼らは黙りを決め込んでいる。
一体どうしたものかと再度挨拶をかわそうとした時、脇腹に激痛が走った。
「ゆぎゃぁあああああ!!!!」
「こいつ、どうつきなんだみょん! れみりゃとおなじだみょん!!!!」
胴付きゆっくりの服も硬化するまでには時間がいる。
なぜなら、服も体からの生成物だから。
だけど、ありすは体の動かし方もよく分からないままの胴付きゆっくりの成り立てだ。
服を貫通して穴が開いてしまった脇腹を必死に両手で抑える。
襲いかかってきたようむは群一番の剣の達人。
何事かと、カスタードで滲むワンピースを気にしながら、
ありすは自分に起きたことを捲し立てるように話した。
「ま、まって、ありすはありすよ!!! どうつきになったのよ!!!!」
胴付きになったとしてもお飾りがそれを証明してくれるはず。だが、頭が妙に軽いのだ。
「ありすならちゃんとかちゅーしゃさんがあるのぜ!!!」
反論するまりさに巫山戯るなと食ってかかろうとしてみる、
だが、頭にかかる重みがいつもの物とは違うのだ、
急いで頭を手探りで触ってみる。掛かっているはずのカチューシャがない。
「な、なんで!!」
「やっぱり、こいつはれみりゃなんだねーわかるよー!!」
「まだ、こどもだからみんなでやっつけらえるのぜ」
今まで見たことがない恐ろしい目付きで群の皆がにじり寄る。
まだ死ねない。ありすはまだ死ねないはずなのだ。
「やめてぇーー!!!!!」
ありすの願いは虚しく、怒涛の勢いで迫り来る群のゆっくり達を止めることは叶わなかった。
ーーーーーーー
烏が赤く染まる夕日に向かって囀る。だが、お兄さんはバス停で待ち続けていたのだ。
「ありす、どうして……」
キャリーバッグの横に置いてあるゆっくり用の籠を持ち上げてみる。
「“一緒にゆっくりしよう”って言うんだったよな、ゆっくり流のプロポーズは」
最後のバスがあと少しで到着してしまう。
それでも、お兄さんはギリギリまでありすのことを待ち続けたのだ。
「怒って此処に来なかったのかな……ごめん、ごめんよ」
止めもなく湧き出る涙。
田舎に飛ばされ呆然と生きていた自分に、初めて元気をくれたあのゆっくりとの別れが惜しい。
「ありす、達者でな」
バス停から数歩歩いてたどり着く、
禿げてしまった広葉樹の根元に飴玉とチョコレート、マシュマロをそれぞれ一袋づつ置いた。
「さようなら、ありす」
別れの言葉には物足りない言葉ではあったが、お兄さんはそれ以上のことは言えなかった。
ただ、その場に拡がるのは黒い煙とエンジン音だけ。
そして、置いていった思い出だけが残った。
ーーーーーーー
死に瀕するありすは丸い月夜を眺めた。
リンチによって至る所に刺さっている樹の枝は体の自由を束縛し、
指先一つピクリとも動かすことが出来ない。
(おにいさん、おにいさん……)
涙も枯れ、地べたの土臭い匂いが鼻腔を刺激するのみ。
自分の体に出来た“おべべ”もカスタードと土埃で台無しである。
(ごめんなさい、おにいさん……)
思念だけがありすを自由にしてくれる。
蘇る思い出を一つ一つたどりながらありすは自分の人生を見返していく。
(ごめんなさい……いけなくて、ごめんなさい……)
最後の力を振り絞り、フグのように樹の枝が出っ張った体を転がし、
雲ひとつないきれいな星空を眺める。
(おにいさん……ありすは、……ゆうきが……なかっ……たの……おく…びょう……ものの……いなか……もの…で……ごめん…な)
「もっじょ…ゆっぐじ…じだぎゃ…っじゃ……」
いつも微笑みかけてくれるお兄さんの笑顔を真似て、ありすはその生涯を終えた。
終わり
改行忘れで再提出。すみません
おにんぎょ姫
嘘あき
太陽がありすの頭の上に来る少し前。
山肌を転がるようにありすはあんよを動かす。
山を降りるといつもニコニコと“すーりすーり”と頬をなでたり“あまあま”をくれたり、
“とかいは”なお話をしてくれる“ゆっくりできる”お兄さんがいるからだ。
「やあ、ありす。今日も元気か?」
「ありすはきょうもとかいはよ!」
山に沿うように備えられている鉄製のバス停を表す標識近くに、
鳥の囀りに耳を傾けながら木製のボロいベンチに座るお兄さんが居た。
車道を通る車は一台もなく、太陽の日差しが燦々と水田に活気を与えアスファルトを焦がしてゆく。
「おにいさん、きょうもとかいにいくんでしょ! とってもうらやましいわ!!」
脳内で“とかい”の情景を描きながら目をキラキラと光らせるありす。
沸騰したお湯が鍋から噴き出るように、
キャッキャキャッキャと魚のように飛び跳ねて興奮するありすの乱れ舞う金髪に、
お兄さんは椅子から腰を上げ静かに手櫛を入れた。
「ゆ、ゆ、ゆ、ゆっくち~~」
うねうねとタコの触手のように緩急をつけながらありすの頭を撫で回す。
ダラシなく涎を垂らし悦に浸るありすを眺め、
お兄さんは一旦手を止め、眉をひそめてポツリと呟いた。
「お兄さんはね、もうココには戻ってこれないかもしれないんだ」
突然の言葉にありすは一瞬、真っ青になった。
お兄さんは悪い嘘を付くような人じゃない。
その事を分かっているから、ありすはわなわなと体を震わせてお兄さんの顔を見つめた。
「で、でも、とかいは」
「もっと遠い都会に行かなくちゃならないんだ。だから、会いに行けなくなってしまったんだよ」
いつもお兄さんが行く都会はこの辺りの繁華街であって、
一時間毎のバスを使って片道30分で行ける場所である。
けれど、ありすには理解出来ない。
「そんな……」
急な転勤でお兄さんはこの町にはいられなくなったのだ。
都会に出ていい仕事を得られるのは良いのだが、
「とっても忙しくなるだろうから、ここには戻ってこれないかもしれないんだ……」
悄気るお兄さんを見て、ありすはなんだかゆっくり出来なかった。
だから、逆に喜ばせたかった。
お兄さんに似合うのは笑顔だけだから。
「よかったじゃない! おにいさんはとかいでもっととかいはになれるんでしょ!!」
ボキャブラリーが貧困なありすには精一杯の賛辞だった。
出来ればずっと一緒にいたいという気持ちが無いといえば嘘だが、
お兄さんが“とかいは”に成れることの方が大事なのだ。
椅子の上に飛び乗り、ありすは無い胸を張ってみせた。
「そうか、そうだよな。俺、頑張らないと」
軽い鼻息と共に、お兄さんはいつものお兄さんの笑顔を取り戻した。
「ありがとう、ありす。俺、どうするか迷ってたんだ。
ずっとこの村で味気のないのんびりとした人生を過ごすのもいいと思ってたんだけど、
“とかいは”ってヤツに成ることの方が大事だよな………ほんとに、ありがとな!!」
感極まったのか、お兄さんはありすをヒョイっと抱き上げて、胸に押し当てる。
頬から伝わるお兄さんの鼓動と共にありすは言わなければならないことを思い出した。
「そうだ、おにいさん……ありすは」
「なあ、ありす」
「……なに?」
「明日、俺はこの街から出る」
遮るように告げられた言葉。
余りにも急すぎる話にありすの思考回路は追いつけなくなってしまった。
「だからね、明日も来てくれると嬉しいんだ」
遠方から聞こえるバスの排気音がタイムリミットを告げる。
気が動転し、口が開きっぱなしで声を発することが出来ないありすに、
お兄さんはポケットから三つの飴玉を取り出して見せた。
「今日は奮発して三つだ。明日は一袋やるからな。絶対に来いよ」
乱暴に閉まる自動ドアの音を聞きながら、
ありすは三つの飴玉と一緒にバスが“とかい”に行くのを見送ることしか出来なかった。
ーーーーーーーーー
「おにいさんにいいそびれちゃったな……」
本当は『いっしょにゆっくりしていってね!
べ、べつにありすはしかたなく……おにいさんがしんぱいだからついていくだけなんだからね!!
とかいにいきたいだけなんだから!! か、かんちがいしないでね!!!』と言うべきだったのだ。
悶々と枯葉で作ったベットの上で転がりながら、あの時、唖然としていた自分を怨めしく思っていた。
「はあ、どうしてこんなことに……」
食料庫の横に備えてある、今までお兄さんからもらった“あまあま”の山を見つめた。
「おにいさんの……ばか」
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最初にお兄さんに会ったのは、ありすが群の狩場から離れ迷子になっていた時だ。
涙を流しながら途方にくれている時に、ありすは人間そのものを始めてみたのだ。
「おい、大丈夫か?」
ゆっくりよりも何倍も大きく、れみりゃのように手足のある生き物。
本能として人間を知ってはいたが、いざ対面するとその姿に恐怖せざるを得なくなってしまった。
「あ、あ、あ……」
「ん? どこかいたいのか?」
「こここここ、こないでぇえええええ!!!!」
勃起してしまったありすのぺにぺにから“おそろしーしー”が噴きでた。
恐怖と羞恥が入り交じり、ありすはただ泣き伏せるだけ。
そんな姿を見て、お兄さんはにっこり笑って頭を撫でてくれたのだ。
「大丈夫だ。お兄さんは虐待お兄さんじゃないからな」
「ゆわぁあああああああ!!!! ごっじにぐるなぁあああああ!!!!!」
頭を優しくなでられても、それがさらなる恐怖心を呼び覚まし、
体中が凍りそうな感触と共に鳥肌がたった。
「おいおい、泣かないでくれよ。……ほら、あまあまやるから泣きやめって」
「あ、あまあまさん……ひっく……」
その言葉を聞くやいなや、ありすは赤子のように大泣きすることをやめた。
お兄さんはえずくありすを宥めながら、一欠片のチョコレートをその口に投げ入れた。
「むーちゃむーちゃ、しししししししあわせぇえええええええ!!!!!!!」
まるで、体がお空へと飛んでいってしまいそうな至福感が体中に満ちてゆく。
野いちごを食べた時以上の甘味。
いや、自然に生えている“あまあま”とは比べものにならないほどの物。
この世のものとは思えない真の“とかいは”な“あまあま”を食べ、ありすは更にうれしーしーを漏らしてしまった。
「ゆふぅ……」
賢者タイムのひと時が流れ、ありすはぐったりとその場で寝転んだ。
「し、しあわせぇ……」
「そんなに美味しかったのか。そりゃ、良かったな」
人間がいることを思い出し、ありすは元に戻る。
「にんげんさん、いったいなんのようなの」
冷たく言い放ちながら、ありすはずーりずーりとお兄さんと距離を開けようとした。
だが、お兄さんは友好的な笑顔を見せるのだ。
「そりゃ、困ってる生き物を助けるのは普通だろ?」
ーーーーーーー
結局、ありすは家に帰ることが出来た。
お兄さんが「来た道を逆にたどれば良いんじゃないか」とアドバイスをくれたからだ。
「またこの時間に来いよ。お前の大好きな“あまあま”もってきてやるからさ」
もしかすると、この“とかいは”なありすを拐かして手駒にする気じゃないのだろうか。
最初の頃はそう考えたものなのだが、
あまあまの誘惑に負けてありすはお兄さんに会いに行くことにした。
だが、お兄さんは紳士的で、決してありすを傷つけるようなことはせず、ありすをゆっくりさせてくれたのだ。
馴れ馴れしく触ってくるお兄さんが億劫だった時もあった。
すこし意地悪をするお兄さんにイラッとすることもった。
だけど、総じてありすはお兄さんを愛してしまったのだ。
「すきよ……だいすきよ……」
おうちの中で一人、憂いた少女のように頬を染めながら何度も呟いたセリフ。
今、口にしてみるとその言葉がどれだけ重いのかを実感させられる。
群の中では独身ゆっくりとして肩身狭く生きてはいたのだが。
群の若いまりさやぱちゅりー、ちぇんからもプロポーズを受けたこともあるのだが。
「ありすはおにいさんがだいすき」
決して報われぬ恋に体中のカスタードを焦がされていた。
ありすは分かっているのだ、お兄さんとは一緒にゆっくりできないと。
なぜなら、ありすは人間と比べてとんでもなく小さいし、手足もない。体そのものが違うのだ。
「おにいしゃん……」
こんなに心苦しいものなら、ありすはお兄さんと出会わなければよかったんだ。
おうちの壁に勢い良く額をぶつける。痛みが走る。
「いたいよ……いたいよ!!」
額から滲み出るカスタードが痛みの原因なんかじゃない。
心がとっても痛いのだ。
「おにいざあああああああん!!!」
鬱憤していた悲しみが涙腺を通して流れだす。
誰も栓を閉じてくれることのない、このやり場のない気持はどうやって扱えばいいのだろうか。
ありすはお菓子の山に齧りついた。
外装が付いていようともお構いなしに、ありすは食べ狂った。
なんどもなんども、体の許容量一杯を超えても食べ続けた。
「どぼじでなのよぉおおおおおお!!!!」
悲痛の声は夜の森へと消えて行く。
ただ、煙のように所在なさ気に消えて行く。
ーーーーーーー
「ゆ、これって」
朝目が覚めると、ありすの目の前には肌白い腕が二本置かれていた。
「からだが……おもい」
ありすはグッと体そのものを意識する。
左手がピクリと反応し始めたのだ。
「ありすにどうがはえたの……?」
外から見れば、母親の腹の中にいる胎児のごとくありすは体を丸めている。
交差する腕をゆっくりと解き、背筋にぐっと力を入れてみた。
「ゆぅうううう~~~~」
背筋に硬い針金が入っているんじゃないかと思えるほどに、背筋を正すのが難しい。
だが、ゆっくりと確実に曲がり始めてはいるのだ。
「もうすこし……ゆぎぃいいいい!!!!」
あにゃるに力を込めて背筋を動かす。
自然と腰の周りが曲がり始め、足も伸びてゆく。
「ゆぁあああああ!!!!!!!」
多少の痛みなど窮するものか。
ありすはがむしゃらに力を込めて、体の節々を伸ばしてみせた。
「ゆんやぁああああああああ!!!!!!」
そこにいるのは全体的に蒼をモチーフにしたワンピースに、
黒線が入った白いブラウスを着飾った胴付きゆっくり。
勢い良く振るわれる四肢が新しいありすを迎え入れる。
世界を闊歩する為の新しい体。
すべてが明るく見えてしまいそうな感動がありすの心を震わせる。
「やっったぁあああああ!!!!」
バタバタと手を動かしながら喜びを表現する。
だが、ありすはこの時大事なある物を振り落としていたのだ。
無造作に体を動かしたため、大事な物をありすは無くしてしまったのだ。
ーーーーーーー
「ゆふふ~ありすはにんげんさんになっちゃんたんだわ~~♪」
時折四つん這いながらも不慣れな体を引きずってありすは山肌を歩く。
痙攣する両足を根性で支えながらゆっくりとバス停へと向かう。
「これで、おにいさんと……うふふふふ」
四肢さえあればお兄さんと一緒に“ゆっくり”出来る。
一緒に御飯だって食べれるし、バスにだって乗れる。
“とかい”にだって一緒に行ける。
“ちゅっちゅ”だってこの日のために残しておいた取っておきの“ふぁーすとちゅっちゅ”があるし、
“すっきりー”だって。
“あかちゃん”を作って本当の“とかいは”な”しあわせー”な家族を築けることも出来るのだ。
「もうすこしだからねっ!!! まっててね、おにいさん!!!」
亀の歩みのように遅いが、ありすは枯れ木を踏みしめながら確実に一歩一歩と歩み続ける。
生まれたてのこの体は柔い為、石や枝に引っかかって生傷が絶えない。
足に満遍なく激痛が走るが、今のありすには感じない。
ただ、スカートの裾を握りながらコツコツと歩き続けた。
ーーーーーーー
「ゆ? へんなゆっくりがいるのぜ?」
狩場に差し掛かったところ、数匹の群れのゆっくり達がいた。
冬ごもりに備えて餌をせっせと集めているのだろう。
「ゆっくりしていってね!!」
「「「………………」」」
いつもどおり“とかいは”な挨拶をしたはずだ。
だが、彼らは黙りを決め込んでいる。
一体どうしたものかと再度挨拶をかわそうとした時、脇腹に激痛が走った。
「ゆぎゃぁあああああ!!!!」
「こいつ、どうつきなんだみょん! れみりゃとおなじだみょん!!!!」
胴付きゆっくりの服も硬化するまでには時間がいる。
なぜなら、服も体からの生成物だから。
だけど、ありすは体の動かし方もよく分からないままの胴付きゆっくりの成り立てだ。
服を貫通して穴が開いてしまった脇腹を必死に両手で抑える。
襲いかかってきたようむは群一番の剣の達人。
何事かと、カスタードで滲むワンピースを気にしながら、
ありすは自分に起きたことを捲し立てるように話した。
「ま、まって、ありすはありすよ!!! どうつきになったのよ!!!!」
胴付きになったとしてもお飾りがそれを証明してくれるはず。だが、頭が妙に軽いのだ。
「ありすならちゃんとかちゅーしゃさんがあるのぜ!!!」
反論するまりさに巫山戯るなと食ってかかろうとしてみる、
だが、頭にかかる重みがいつもの物とは違うのだ、
急いで頭を手探りで触ってみる。掛かっているはずのカチューシャがない。
「な、なんで!!」
「やっぱり、こいつはれみりゃなんだねーわかるよー!!」
「まだ、こどもだからみんなでやっつけらえるのぜ」
今まで見たことがない恐ろしい目付きで群の皆がにじり寄る。
まだ死ねない。ありすはまだ死ねないはずなのだ。
「やめてぇーー!!!!!」
ありすの願いは虚しく、怒涛の勢いで迫り来る群のゆっくり達を止めることは叶わなかった。
ーーーーーーー
烏が赤く染まる夕日に向かって囀る。だが、お兄さんはバス停で待ち続けていたのだ。
「ありす、どうして……」
キャリーバッグの横に置いてあるゆっくり用の籠を持ち上げてみる。
「“一緒にゆっくりしよう”って言うんだったよな、ゆっくり流のプロポーズは」
最後のバスがあと少しで到着してしまう。
それでも、お兄さんはギリギリまでありすのことを待ち続けたのだ。
「怒って此処に来なかったのかな……ごめん、ごめんよ」
止めもなく湧き出る涙。
田舎に飛ばされ呆然と生きていた自分に、初めて元気をくれたあのゆっくりとの別れが惜しい。
「ありす、達者でな」
バス停から数歩歩いてたどり着く、
禿げてしまった広葉樹の根元に飴玉とチョコレート、マシュマロをそれぞれ一袋づつ置いた。
「さようなら、ありす」
別れの言葉には物足りない言葉ではあったが、お兄さんはそれ以上のことは言えなかった。
ただ、その場に拡がるのは黒い煙とエンジン音だけ。
そして、置いていった思い出だけが残った。
ーーーーーーー
死に瀕するありすは丸い月夜を眺めた。
リンチによって至る所に刺さっている樹の枝は体の自由を束縛し、
指先一つピクリとも動かすことが出来ない。
(おにいさん、おにいさん……)
涙も枯れ、地べたの土臭い匂いが鼻腔を刺激するのみ。
自分の体に出来た“おべべ”もカスタードと土埃で台無しである。
(ごめんなさい、おにいさん……)
思念だけがありすを自由にしてくれる。
蘇る思い出を一つ一つたどりながらありすは自分の人生を見返していく。
(ごめんなさい……いけなくて、ごめんなさい……)
最後の力を振り絞り、フグのように樹の枝が出っ張った体を転がし、
雲ひとつないきれいな星空を眺める。
(おにいさん……ありすは、……ゆうきが……なかっ……たの……おく…びょう……ものの……いなか……もの…で……ごめん…な)
「もっじょ…ゆっぐじ…じだぎゃ…っじゃ……」
いつも微笑みかけてくれるお兄さんの笑顔を真似て、ありすはその生涯を終えた。
終わり