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anko2979 まりさ☆りざれくしょん!(後編)
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『まりさ☆りざれくしょん!(後編)』 22KB
虐待 観察 日常模様 現代 細かい技術云々はスルーしてね たくさんでいいよっ 以下:余白
虐待 観察 日常模様 現代 細かい技術云々はスルーしてね たくさんでいいよっ 以下:余白
『まりさ☆りざれくしょん!(後編)』
三、
あれから、れいむとまともに顔を合わせることができなくなった。
「まりさが助かればそれでいい」。平然とそう言ってのけたれいむの真意が理解できないのだ。
れいむは判っていたのである。雨が降って、ありすとぱちゅりーが永遠にゆっくりしてしまう未来図を。はっきりと予見していたはずなのだ。
あの言葉から察するに、れいむはありすとぱちゅりーを見殺しにしたのだろう。
まりさにはれいむの事が分からない。
あんなに優しくて賢いれいむが、何故仲間を見殺しにするような選択肢を選んだのか。考えれば考えるほど何も分からなくなっていく。
まりさが閉じていた目をそっと開いた。
「まりさが助かればそれでいい」。平然とそう言ってのけたれいむの真意が理解できないのだ。
れいむは判っていたのである。雨が降って、ありすとぱちゅりーが永遠にゆっくりしてしまう未来図を。はっきりと予見していたはずなのだ。
あの言葉から察するに、れいむはありすとぱちゅりーを見殺しにしたのだろう。
まりさにはれいむの事が分からない。
あんなに優しくて賢いれいむが、何故仲間を見殺しにするような選択肢を選んだのか。考えれば考えるほど何も分からなくなっていく。
まりさが閉じていた目をそっと開いた。
(れいむは、いったいどういうつもりなんだろう……)
神様のように感じていたれいむの存在が理解できなくなると、途端にそれが恐ろしい何かに変貌してしまったかのように感じた。
(ありすとぱちゅりーのことは、えいえんにゆっくりしてしまってもいいと……おもってたのかな)
そう考えると何故だか冷たくて寂しくて悲しくなってしまう。れいむを優しいゆっくりだと思っているまりさにとって、それは余りにも残酷な展開だった。
最近では食料を探しに行くときも、おうちに帰ってきたときもれいむの姿を見かけない。
一度、おうちを訪ねてみようかと思ったこともあったがそれを実行に移すことができなかった。
まりさはれいむを怖がっていたのである。自分よりも力を持つ者が、真意も読めないままに近くにいればそれは畏怖の対象となるだろう。
最近では食料を探しに行くときも、おうちに帰ってきたときもれいむの姿を見かけない。
一度、おうちを訪ねてみようかと思ったこともあったがそれを実行に移すことができなかった。
まりさはれいむを怖がっていたのである。自分よりも力を持つ者が、真意も読めないままに近くにいればそれは畏怖の対象となるだろう。
「まりさ」
「……っ!」
また、これまでのように巣穴の外かられいむがまりさに声をかけた。
つい昨日までその声にどうしようもない喜びを感じていたはずなのに、今はそれが微塵も感じられない。
もちろんれいむの方にそんな気は毛頭無いのである。一方的にまりさが怯えているだけだ。
好きなはずのれいむの声がやたらと大きな重圧となって、まりさに重くのしかかった。
つい昨日までその声にどうしようもない喜びを感じていたはずなのに、今はそれが微塵も感じられない。
もちろんれいむの方にそんな気は毛頭無いのである。一方的にまりさが怯えているだけだ。
好きなはずのれいむの声がやたらと大きな重圧となって、まりさに重くのしかかった。
「まりさ。いるんでしょ?」
「いま、いくよ……」
ずりずりとあんよを這わせて巣穴の入口へと這うまりさ。そのあんよの進みは遅い。
葉っぱの扉を押し開けて外に出るといつもと変わらぬ無表情のれいむがそこにいた。ぼんやりとまりさを見つめている。
まりさは無意識に視線を逸らした。
葉っぱの扉を押し開けて外に出るといつもと変わらぬ無表情のれいむがそこにいた。ぼんやりとまりさを見つめている。
まりさは無意識に視線を逸らした。
「どうしたの、まりさ。れいむのことがきらいになっちゃったの?」
「そ、そんなことないよ……」
「ほんとうに?」
「ほ、ほんとうだよ……。でも……」
「でも、なんなの?」
「まりさ、れいむのかんがえていることがすこしもわからないよ。だから、れいむのことをおしえてね。れいむがなにをかんがえているのか、しりたいよ……」
「…………」
れいむが動きを止めた。
まりさはれいむの心を離さぬようにその虚ろな瞳を見据え続けている。
何も知らなかったのだ。まりさは何一つれいむのことについて知らない。ミステリアスとかそういう形容を超越して、何も解らないのである。
最初はそれを知りたいという気持ちが恋へと繋がった。だが今は違う。知らなければ怖いという感情のほうが先行しているのだ。
まりさはれいむの心を離さぬようにその虚ろな瞳を見据え続けている。
何も知らなかったのだ。まりさは何一つれいむのことについて知らない。ミステリアスとかそういう形容を超越して、何も解らないのである。
最初はそれを知りたいという気持ちが恋へと繋がった。だが今は違う。知らなければ怖いという感情のほうが先行しているのだ。
「ゆ?」
まりさの言葉を無視したまま、れいむが森の奥へと視線を向けた。まりさが顔を傾げてそちらの方を見る。
(……どうしたのかな……?)
「まりさ。いまから、れみりゃがくるよ」
「ゆ゛っ!?」
死の宣告に等しいことをさらりと言ってのけるれいむ。まりさが口を開けたままその動きを止めた。
れみりゃの活動時間は夜。今はどう考えても日中だ。まだ正午にすらなっていない。こんな時間に活動するれみりゃなどいるはずがないのだ。
困惑し混乱しかけるまりさの前にれいむが無言で立ちはだかった。
すると。
れみりゃの活動時間は夜。今はどう考えても日中だ。まだ正午にすらなっていない。こんな時間に活動するれみりゃなどいるはずがないのだ。
困惑し混乱しかけるまりさの前にれいむが無言で立ちはだかった。
すると。
「うー☆ うー☆ たべちゃうどぉ!!」
「ゆ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!! れみりゃだあ゛ぁ゛ぁ゛!??」
れいむの予告通りに飛来してくるれみりゃ。その数、三。
真っ昼間だというのに活発に動くれみりゃたちは既にまりさとれいむを標的に定めているようだ。一斉に急降下してくる。
まりさは思わず泣きながら顔を背けた。ぎゅっと目を閉じ、口を真一文字に結ぶ。それはささやかな死に対する抵抗。命を食いちぎられる痛みに対して唯一取れる防御策。
ぶるぶる震えて動かないまりさ。しかし、予想に反してその痛みはいつまでもまりさを襲うことはなかった。
恐る恐る目を開く。
そこにはまりさの目の前で固い木の枝を咥えたれいむがれみりゃの牙を受け止めている姿があった。
まりさが目を点にしてその様子を見つめる。がっぷり四つと言ったところか。れいむもれみりゃも微動だにしない。
真っ昼間だというのに活発に動くれみりゃたちは既にまりさとれいむを標的に定めているようだ。一斉に急降下してくる。
まりさは思わず泣きながら顔を背けた。ぎゅっと目を閉じ、口を真一文字に結ぶ。それはささやかな死に対する抵抗。命を食いちぎられる痛みに対して唯一取れる防御策。
ぶるぶる震えて動かないまりさ。しかし、予想に反してその痛みはいつまでもまりさを襲うことはなかった。
恐る恐る目を開く。
そこにはまりさの目の前で固い木の枝を咥えたれいむがれみりゃの牙を受け止めている姿があった。
まりさが目を点にしてその様子を見つめる。がっぷり四つと言ったところか。れいむもれみりゃも微動だにしない。
「れい……むっ……!?」
「まりさ……なにをぼーっと、してるの……? ゆっくりしてないではやくにげてね……」
「ゆ、ゆぅぅぅぅぅぅ!??」
れいむと組み合っているれみりゃの後方からもう一匹れみりゃが突っ込んできた。体勢を変えて間一髪で回避するれいむ。みょんより強いというのも伊達ではないらしい。
更にもう一匹。それがまりさ目がけて飛んでくる。
れいむと目が合った。れみりゃ二匹を相手にしていれば、当然まりさへの援護は期待できない。
更にもう一匹。それがまりさ目がけて飛んでくる。
れいむと目が合った。れみりゃ二匹を相手にしていれば、当然まりさへの援護は期待できない。
「う……うわぁぁぁぁぁ!!!!」
れみりゃの鋭い牙がまりさの頬をざっくりと切り裂く。刹那、痺れるような痛みが患部を襲い、そこから中身の餡子がぼとりと落ちる。
顔面蒼白になるまりさ。激痛と漏れ出した自分の中身を見て思わず絶句する。おそろしーしーを漏らしながらあんよを僅かながらも動かすことができなかった。
顔面蒼白になるまりさ。激痛と漏れ出した自分の中身を見て思わず絶句する。おそろしーしーを漏らしながらあんよを僅かながらも動かすことができなかった。
「ゆひ……ゆひぃ……」
滝のように涙を流して情けない声を漏らし、顔だけ後ろへ後ろへと行こうとしているようだがその場から動くことができない。
それを見たれみりゃが「うー☆」と楽しそうに笑い、まりさの餡子が少量付着した牙を見せて羽をぱたつかせている。
こうなってしまった通常種はもはやどうすることもできない。永遠にゆっくりしてしまうまで、捕食種の牙で引き裂かれ続けるだけだ。
それをまりさもれみりゃも理解しているのだろう。敗者の嘆きと勝者の笑みが両者の間で混じり溶け合う。
仮にまりさが他のゆっくりと比べて肝の据わっているゆっくりだったとしても、跳ねればどんどん中身が零れていく。皮が破れるということはゆっくりにとって致命傷なのだ。
れみりゃはわざとらしくまりさの周囲をぐるぐる飛び回っていた。
その残酷な笑みが、牙が、まりさの視界の中で出入りを繰り返している。
それを見たれみりゃが「うー☆」と楽しそうに笑い、まりさの餡子が少量付着した牙を見せて羽をぱたつかせている。
こうなってしまった通常種はもはやどうすることもできない。永遠にゆっくりしてしまうまで、捕食種の牙で引き裂かれ続けるだけだ。
それをまりさもれみりゃも理解しているのだろう。敗者の嘆きと勝者の笑みが両者の間で混じり溶け合う。
仮にまりさが他のゆっくりと比べて肝の据わっているゆっくりだったとしても、跳ねればどんどん中身が零れていく。皮が破れるということはゆっくりにとって致命傷なのだ。
れみりゃはわざとらしくまりさの周囲をぐるぐる飛び回っていた。
その残酷な笑みが、牙が、まりさの視界の中で出入りを繰り返している。
「ゆ゛ぐっ……!!」
「!! れ、い……む……」
れいむの声。それに対して向けられるまりさの消え入るような声。それらをれみりゃたちの「うー☆ うー☆」という歓声が掻き消していく。
しかし、そんな事に気を取られている暇はなかった。
れみりゃの牙がまりさの左目を捉えて、それを力任せに抉り出したのである。
しかし、そんな事に気を取られている暇はなかった。
れみりゃの牙がまりさの左目を捉えて、それを力任せに抉り出したのである。
「ゆ゛ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あぁ゛ぁ゛あ゛!!!!!」
失われた左目。そこから口のラインにかけて引き千切られてしまったまりさ。まりさは気が狂ったように泣き叫んで地面をのた打ち回っていた。
「うー☆ うー☆ たべちゃうどー!」
「や゛べでぇ゛ぇ゛!!! ばでぃざのおべべをだべな゛い゛でぐだざい゛ぃ゛ぃ゛!!!」
まりさの視界には映し出されていないが、二対一を強いられていたれいむも顔の数カ所を食いちぎられていた。揉み上げも片方地面に転がっている。餡子も撒き散らされていた。
もともと暗くなりかけていたまりさの視界が更に闇に染められていく。
それでも、れいむはあれだけの傷を負いながらもいつもと変わらない表情をまりさに見せていた。
もともと暗くなりかけていたまりさの視界が更に闇に染められていく。
それでも、れいむはあれだけの傷を負いながらもいつもと変わらない表情をまりさに見せていた。
(……え……?)
その極限状態の中で、初めてまりさはれいむに対する違和感に気が付いた。あるいは、気にしないようにしていた部分に対して何らかの確証を得たのか。
れいむのあの表情。ほとんど変化することのない表情や態度。まりさはそれをれいむの感情表現の方法が乏しいせいだと思い込んでいた。
自分よりも遥かに痛みに対して強い耐性を持っているのだろう。いったいどうすればそんな風に自分も強くなれるのだろうか。そう考えていた。
しかし、まりさもれいむもそうだが、今負っている傷は“痛みへの耐性”がどうのこうのと言えるような代物では到底ない。
まりさの餡子脳がようやくフル回転を始める。おかしい。どう考えてもおかしい。
そういう視点でこの場を改めて目視すると、あんな異常なダメージを全身に負いながら表情一つ変えないれいむに対して、れみりゃは“畏れ”を感じていないのだろうか。
相変わらず「うー☆」と言いながら機械的にれいむに対して牙を突き立てるのみである。
れいむのあの表情。ほとんど変化することのない表情や態度。まりさはそれをれいむの感情表現の方法が乏しいせいだと思い込んでいた。
自分よりも遥かに痛みに対して強い耐性を持っているのだろう。いったいどうすればそんな風に自分も強くなれるのだろうか。そう考えていた。
しかし、まりさもれいむもそうだが、今負っている傷は“痛みへの耐性”がどうのこうのと言えるような代物では到底ない。
まりさの餡子脳がようやくフル回転を始める。おかしい。どう考えてもおかしい。
そういう視点でこの場を改めて目視すると、あんな異常なダメージを全身に負いながら表情一つ変えないれいむに対して、れみりゃは“畏れ”を感じていないのだろうか。
相変わらず「うー☆」と言いながら機械的にれいむに対して牙を突き立てるのみである。
「まりさ。ごめんね」
不意にれいむが口を開いた。
まりさの展開していた思考が現実へと引き戻される。
いつのまにか、まりさを攻撃していたれみりゃもれいむの方へ加勢に入り、れいむは三匹がかりで牙による蹂躙を為す術なく受け続けていた。
れいむの右目が爆ぜる。リボンなどはとうの昔に破り捨てられ、綺麗だった黒い髪もれみりゃの涎と泥にまみれ見る影もない。
食い破られた顔からは致死量に近い餡子が漏れ出しており、それは既に一カ所や二カ所ではなくなっている。
片方の揉み上げと黒い髪の毛が残っていなければ、そこにれいむ種というゆっくりがいることに誰も気づかないだろう。
そんなボロボロの状態であるはずのれいむ。それなのに。
あの落ち着き払った表情は何だと言うのか。顔の半分近くを損壊させていながらも、まりさには確かに感じ取ることができた。あれはれいむの“いつもの表情”に他ならない。
まりさの展開していた思考が現実へと引き戻される。
いつのまにか、まりさを攻撃していたれみりゃもれいむの方へ加勢に入り、れいむは三匹がかりで牙による蹂躙を為す術なく受け続けていた。
れいむの右目が爆ぜる。リボンなどはとうの昔に破り捨てられ、綺麗だった黒い髪もれみりゃの涎と泥にまみれ見る影もない。
食い破られた顔からは致死量に近い餡子が漏れ出しており、それは既に一カ所や二カ所ではなくなっている。
片方の揉み上げと黒い髪の毛が残っていなければ、そこにれいむ種というゆっくりがいることに誰も気づかないだろう。
そんなボロボロの状態であるはずのれいむ。それなのに。
あの落ち着き払った表情は何だと言うのか。顔の半分近くを損壊させていながらも、まりさには確かに感じ取ることができた。あれはれいむの“いつもの表情”に他ならない。
「ゆ゛っぎぃ゛ぃ゛ぃ゛!??」
「うー☆ うー☆ たべちゃうどー☆」
まりさのお下げに噛みついた一匹のれみりゃがそれをブチブチと音を立てて引き千切る。左のこめかみ辺りを刃物で突き刺されたかのような激痛がまりさを襲った。
「い゛だい゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!!」
右目と左目の在った場所から涙が流れる。
滲んだ視界の片隅ではれいむがれみりゃたちに食い散らかされている真っ最中だった。
時折れいむが痙攣を起こしているかのように顔全体を跳ね上げるのは、れみりゃの咀嚼によるせいだろう。れいむは既に完全に抵抗する手段を失っていた。
滲んだ視界の片隅ではれいむがれみりゃたちに食い散らかされている真っ最中だった。
時折れいむが痙攣を起こしているかのように顔全体を跳ね上げるのは、れみりゃの咀嚼によるせいだろう。れいむは既に完全に抵抗する手段を失っていた。
「まりさ」
「!!!」
れいむの声に対してまりさが目を見開く。
やたらとれいむの声がまりさまでしっかりと届いた。抑揚のない、感情が籠っているように感じない……“冷静”だと思っていたれいむの静かな声。
やたらとれいむの声がまりさまでしっかりと届いた。抑揚のない、感情が籠っているように感じない……“冷静”だと思っていたれいむの静かな声。
「まりさ。げーむおーばーだよ。ありすとぱちゅりーはたすけておくべきだったのかもしれないね。そうしたらふたりをつかってれみりゃからにげられたかも」
「……?!」
ゲームオーバー。確かにれいむはそう言った。
この期に及んでいったいれいむは何を言っているのだろう。そんなことよりもあんな状態で流暢に喋ることができる理由は一体何だというのか。
この期に及んでいったいれいむは何を言っているのだろう。そんなことよりもあんな状態で流暢に喋ることができる理由は一体何だというのか。
「うー☆ うー☆ たべちゃうどー☆」
同じ言葉を繰り返しながられいむの存在を少しずつ食らっていくれみりゃたち。
まりさはそれを薄れゆく意識の中でぼんやりと見つめていた。
まりさはそれを薄れゆく意識の中でぼんやりと見つめていた。
「“また”、しっぱいしちゃったよ。“まえのとき”は“なかま”がおおすぎて、やられちゃったけど……やっぱりれいむひとりじゃきびしいね」
「うー☆ うー☆ たべちゃうどー☆」
れみりゃの口がれいむの最後の一かけらをその中に収める。
れいむはまりさの視界から消えてしまう直前まで、残った左目でまりさのことを見続けていた。
れいむはまりさの視界から消えてしまう直前まで、残った左目でまりさのことを見続けていた。
「まりさ……“またね”」
最後の最後までれいむは淡々とした口調でまりさに別れを告げた。
まりさにはもう何が何だか分からない。れいむの事が分からない。何一つとして分からない。
翻るれみりゃの翼。迫りくる牙。貼り付けられたかのような笑顔。それらがまりさの視界全てを覆い尽くす。
まりさにはもう何が何だか分からない。れいむの事が分からない。何一つとして分からない。
翻るれみりゃの翼。迫りくる牙。貼り付けられたかのような笑顔。それらがまりさの視界全てを覆い尽くす。
(まりさ……えいえんにゆっくりしちゃうんだ……)
口を壊されたまりさはもはや喋ることすらできない。頬に、あんよに、額に、れみりゃたちが一斉に牙を立てる。
それなのに抵抗することもできない。激痛に叫び声を上げることも、身を捩じらせることも許されていなかった。ただ、食糧としての最期を迎えるのみ。
れみりゃたちは容赦なくまりさを食いちぎり、ばらばらに引き裂いていった。邪魔だと判断されたのか帽子はとっくに投げ捨てられている。
餡子が口から噴水のように吐き出された。まりさが“その時まで”は生きていたという証拠だろう。
あとは物言わぬ饅頭として、れみりゃたちにその全てを食らい尽くされた。
それがまりさの“今回の最期”だった。
それなのに抵抗することもできない。激痛に叫び声を上げることも、身を捩じらせることも許されていなかった。ただ、食糧としての最期を迎えるのみ。
れみりゃたちは容赦なくまりさを食いちぎり、ばらばらに引き裂いていった。邪魔だと判断されたのか帽子はとっくに投げ捨てられている。
餡子が口から噴水のように吐き出された。まりさが“その時まで”は生きていたという証拠だろう。
あとは物言わぬ饅頭として、れみりゃたちにその全てを食らい尽くされた。
それがまりさの“今回の最期”だった。
四、
「あー、もうっ! なによこのクソゲー! ホント、初見殺しにも程があるわねっ!!!」
「基本的に姉ちゃんの操作が下手なだけだよ。今ぐらいのれみりゃだったら、一匹でもどうにかなるし……。攻略サイトでも読んでみたら?」
「うるさいうるさいっ!! 私は一周目は自分でクリアしないと気が済まないタチなんだっ!」
液晶テレビには真っ黒な画面と“GAME OVER”という白い文字が映し出されていた。そこに姉弟の表情も映りこんでいる。
弟は姉からコントローラーを奪い取ると、ボタンをカチャカチャと操作して次の画面へと進ませた。
弟は姉からコントローラーを奪い取ると、ボタンをカチャカチャと操作して次の画面へと進ませた。
「あははっ! でも、プレイ時間は前よりも一時間くらい増えてるよっ! でも総合評価はDランクだってさ」
「ぬぅ……。ちょっと私よりもゲームが上手いからって調子に乗ってんじゃないの……っ!?」
「事実を突きつけただけだよ」
昨今、ゲーム業界の発展には目を見張るものがある。
数年前は絶対に無理だとされていたことが、今は現実と成り得るほどに世界全体のプログラミング技術は向上し続けていた。
従来のゲーム……特にRPGというジャンルについては登場人物を操作し、そのキャラクターたちに起こる様々なイベントをプレイヤーが追体験してそれを楽しむものだった。
それが少しずつ変化してコントローラーを使わずに自らの動きで画面内のキャラクターを動かす体感型のゲームが発展していく。
これからも月日を重ねるごとにゲームというジャンルは進化を続けていくだろう。そんな進化の途中に生み出されたゲームがこれだった。
数年前は絶対に無理だとされていたことが、今は現実と成り得るほどに世界全体のプログラミング技術は向上し続けていた。
従来のゲーム……特にRPGというジャンルについては登場人物を操作し、そのキャラクターたちに起こる様々なイベントをプレイヤーが追体験してそれを楽しむものだった。
それが少しずつ変化してコントローラーを使わずに自らの動きで画面内のキャラクターを動かす体感型のゲームが発展していく。
これからも月日を重ねるごとにゲームというジャンルは進化を続けていくだろう。そんな進化の途中に生み出されたゲームがこれだった。
『Yukkuri Box 365』。
ネーミングはどう考えてもかつてPS3と並び称されていたゲーム機のパロディである。余談だが現在はPS5が発売されていた。
『Yukkuri Box 365』(以下:『YB365』)は大手ゲームメーカーが開発した、ソフト内蔵型の新しいハードだ。
ゲームの内容は至ってシンプルで、一匹のゆっくりが天寿を全うするまでプレイヤーがパートナー役となりそれを支え、様々なイベントをクリアしていくというもの。
プレイヤーはコントローラーを使って操作キャラである“パートナー”を動かしてゆっくりをフォローすることができる。
また、キーボードを使って話しかけたい言葉を入力すると、自動的に“ゆっくり口調”に変換されて“パートナー”とチャットのように会話をすることもできる。
この二つの機能を使って、ゆっくりを誘導したりピンチから助けたりしながら生存時間を競っていくというゲームなのだ。
CEROはZ指定であり十八歳未満は購入できない。理由はもちろん暴力的なシーンが盛りだくさんだからである。
無表情のれいむ。感情の乏しいれいむ。それは姉が“操作”していた“キャラクター”だったのだ。
そして、まりさは……。
『Yukkuri Box 365』(以下:『YB365』)は大手ゲームメーカーが開発した、ソフト内蔵型の新しいハードだ。
ゲームの内容は至ってシンプルで、一匹のゆっくりが天寿を全うするまでプレイヤーがパートナー役となりそれを支え、様々なイベントをクリアしていくというもの。
プレイヤーはコントローラーを使って操作キャラである“パートナー”を動かしてゆっくりをフォローすることができる。
また、キーボードを使って話しかけたい言葉を入力すると、自動的に“ゆっくり口調”に変換されて“パートナー”とチャットのように会話をすることもできる。
この二つの機能を使って、ゆっくりを誘導したりピンチから助けたりしながら生存時間を競っていくというゲームなのだ。
CEROはZ指定であり十八歳未満は購入できない。理由はもちろん暴力的なシーンが盛りだくさんだからである。
無表情のれいむ。感情の乏しいれいむ。それは姉が“操作”していた“キャラクター”だったのだ。
そして、まりさは……。
「それにしても酷いゲームだよねぇ、これ。ゆっくりの命をなんだと思ってるのかしら」
「姉ちゃんが言っても全然説得力ないけどね。それに……ほら、ちゃんと生きてるよ。まだ、“コンティニュー”できるみたいだし」
「本当に“あのまりさ”もタフよね」
「すごく生意気な野良ゆっくりだったからね。僕もそれを狙ってあいつを連れてきたんだし」
「でもさ。その生意気な性格も今はほとんど無いよね。ゲームをやり始めた頃はもうちょっと生意気な口調だったような気がするけど」
「そりゃあ、何回も何回も死ぬのを経験してたら性格も大人しくなっていくだろうね。と言うよりも、もう精神的にギリギリなんじゃないかな……? 実は」
そんな会話をしながらチラリと横目で一点を見る姉弟。そこには『YB365』が置いてある。
箱型の機械の横部分に電源スイッチがある。反対側からは三本のコードが伸びており、それぞれコンセントと液晶テレビ、キーボードに繋がっていた。
そして、上部。そこからは四本のコードが伸びている。この四本のコードは構造がよく分からないが高精度の電極のようなものだ。
箱の中には街で捕まえてきた野良まりさがセットされており、四本のコードはその野良まりさに突き刺さっていた。
電極は画面に映し出されたまりさに、野良まりさの感情や行動を伝える役目を果たしている。
ゲーム中にまりさが受けた痛みや苦しみもまた、箱の中に閉じ込められた野良まりさにダイレクトに伝わるという仕組みだ。
もちろん、ゲーム中にまりさが死んでしまえば箱の中の野良まりさも、それをリアルに追体験してしまう。
しかしそれが原因で野良まりさが死んでしまうようなことはない。あくまでゲームの中の出来事はゲームの中だけのものである。
寿命は野良まりさ本体に依る。
つまり野良まりさが寿命で永遠にゆっくりしてしまうまでコンティニューを続ければ、ひたすらに野良まりさは“死”の追体験を繰り返す事になるのだ。
箱型の機械の横部分に電源スイッチがある。反対側からは三本のコードが伸びており、それぞれコンセントと液晶テレビ、キーボードに繋がっていた。
そして、上部。そこからは四本のコードが伸びている。この四本のコードは構造がよく分からないが高精度の電極のようなものだ。
箱の中には街で捕まえてきた野良まりさがセットされており、四本のコードはその野良まりさに突き刺さっていた。
電極は画面に映し出されたまりさに、野良まりさの感情や行動を伝える役目を果たしている。
ゲーム中にまりさが受けた痛みや苦しみもまた、箱の中に閉じ込められた野良まりさにダイレクトに伝わるという仕組みだ。
もちろん、ゲーム中にまりさが死んでしまえば箱の中の野良まりさも、それをリアルに追体験してしまう。
しかしそれが原因で野良まりさが死んでしまうようなことはない。あくまでゲームの中の出来事はゲームの中だけのものである。
寿命は野良まりさ本体に依る。
つまり野良まりさが寿命で永遠にゆっくりしてしまうまでコンティニューを続ければ、ひたすらに野良まりさは“死”の追体験を繰り返す事になるのだ。
「ところでこのまりさ、何回死んだの?」
「え? ……ちょっと確認してみるよ。えーと……百五十四回」
「姉ちゃん、死なせすぎだよ。ゲーム下手糞にも程があるよ」
「いちいち一言多い!!」
「シナリオモードばっかりやってるからだよ。たまには観察モードでもやってさ……こいつのスペックを把握しないと」
「え? そんなことできんの?」
「説明書読みなよ」
『YB365』には二つのモードがあるのだ。
姉がやっていたのはシナリオモードである。全二十ステージで構成されており、ステージが進むほど難易度が上がっていく。ちなみに姉が撃沈したのは第一ステージのラストだ。
キノコ狩りも、ありすやぱちゅりーと体験した雨も、れみりゃの襲来もすべてゲーム中のイベントである。
それに対してもうひとつ用意されている観察モードは一切のイベントが起こらず、ひたすらにゆっくりが活動しているのを見ているだけというものだ。
代わりに天候・気温・季節などの調節をプレイヤーの手動で行うことができ、ゆっくりがどういう状況下でどういう行動を取るのかシミュレートすることができるのである。
それに基づいてシナリオモードの戦略を練ったり、行動パターンを把握してよりスムーズなゲーム展開ができるようにするのだ。
姉がやっていたのはシナリオモードである。全二十ステージで構成されており、ステージが進むほど難易度が上がっていく。ちなみに姉が撃沈したのは第一ステージのラストだ。
キノコ狩りも、ありすやぱちゅりーと体験した雨も、れみりゃの襲来もすべてゲーム中のイベントである。
それに対してもうひとつ用意されている観察モードは一切のイベントが起こらず、ひたすらにゆっくりが活動しているのを見ているだけというものだ。
代わりに天候・気温・季節などの調節をプレイヤーの手動で行うことができ、ゆっくりがどういう状況下でどういう行動を取るのかシミュレートすることができるのである。
それに基づいてシナリオモードの戦略を練ったり、行動パターンを把握してよりスムーズなゲーム展開ができるようにするのだ。
「姉ちゃん、冬が来たらイベントが始まる前にゆっくり死ぬよ多分。冬のときにどうすればいいか分かる? どんだけ活動時間短くなるか分かる?」
「わ、……分からない……」
「試しに僕がやってみるよ。観察モードだから、姉ちゃんも見ておけばいいよ」
「うぅ……」
そう言って観察モードを立ち上げる弟。
画面の中にはまりさが映し出されていた。先ほどの“死”から僅か十分弱で再び強制的に目覚めさせられたのである。
まりさは「ここがどこだかわらないよ」と言いながら不安そうに周囲をきょろきょろ見渡していた。それを見ていた姉がうっとりとした表情を浮かべる。
画面の中にはまりさが映し出されていた。先ほどの“死”から僅か十分弱で再び強制的に目覚めさせられたのである。
まりさは「ここがどこだかわらないよ」と言いながら不安そうに周囲をきょろきょろ見渡していた。それを見ていた姉がうっとりとした表情を浮かべる。
「やだ……なにこれかわいい」
「見てるだけの方が楽しいって言う人もいるくらいだからね……。でも……こんなこともできるんだよ」
弟がメニュー画面を開き、「気温」にカーソルを持っていく。その設定を二十四度から一気にマイナス三十度まで下げた。
すぐに画面の中のまりさに変化が訪れる。拡大すると歯をガチガチ鳴らして凍えているようだった。凍りついた涙が頬にへばりついている。
すぐに画面の中のまりさに変化が訪れる。拡大すると歯をガチガチ鳴らして凍えているようだった。凍りついた涙が頬にへばりついている。
「ざ……ざぶい゛……よ゛……ゆ゛っぐり゛……でぎ、な゛……。……も゛っど……ゆ゛っぐ……ゆ゛っ、ゆ゛っ……」
画面が暗転して「コンティニューしますか?」との文字が映し出された。一分経たないうちにまりさは“再び死んだ”のである。
姉はキョトンとした目でその様子を見つめていた。
弟がすぐにコンティニューを選んで観察モードを再開すると、また「ここはどこぉ……」などと言いながら周囲を見渡すまりさが画面に映された。
コンティニューされる段階で自分が何をやっていたのか強制的に忘れさせられるのである。しかし、記憶自体は本体の野良まりさが持っているのでおぼろげに引き継がれる。
百五十回ものゆっくりできない死の記憶は蓄積されていき、やがて本体の野良まりさの精神を壊すだろう。
言い換えればそれが『YB365』の寿命と言ってもいい。もっとも、別のゆっくりを捕まえてきて箱の中に入れればいくらでも替えがきくのではあるが。
画面内を不安そうに這い回るまりさの周囲に十五匹のれみりゃが配置された。弟がメニュー画面を使ってまりさの周囲にれみりゃを放ったのである。
まりさはしーしーをぶちまけてその場で固まってしまう。れみりゃたちは一斉にまりさへ飛びかかった。一瞬で餡子を飛び散らせて絶命するまりさ。
すぐに画面が暗転して「コンティニューしますか?」の文字が表示される。まりさは、また死んだのだ。
そこから更にもう一度コンティニュー。
「ゆっくりしていってね……?」と不安そうな声を出すまりさ。
今度は天候を台風に設定した。途端に暴風と雷雨が発生してそれがまりさを蹂躙する。
最初は必死になって逃げ回っていたのだが、帽子が風で吹き飛ばされるわ、それを追いかけて木の下から飛び出し雨に打たれて溶けて死ぬわで、またそのゆん生を終了した。
暗転。ゲームオーバー。コンティニュー。画面に表示されるまりさ。気温を五十度に設定。水分を失い、五分と経たないうちに干からびるまりさ。ゆん生の終了。
暗転。ゲームオーバー。コンティニュー。画面に表示されるまりさ。紆余曲折を経て、ゆん生の終了。
何度も何度も生き返る。ゲームの中に閉じ込められて、ひたすらに死ぬことだけを繰り返していく。
姉はキョトンとした目でその様子を見つめていた。
弟がすぐにコンティニューを選んで観察モードを再開すると、また「ここはどこぉ……」などと言いながら周囲を見渡すまりさが画面に映された。
コンティニューされる段階で自分が何をやっていたのか強制的に忘れさせられるのである。しかし、記憶自体は本体の野良まりさが持っているのでおぼろげに引き継がれる。
百五十回ものゆっくりできない死の記憶は蓄積されていき、やがて本体の野良まりさの精神を壊すだろう。
言い換えればそれが『YB365』の寿命と言ってもいい。もっとも、別のゆっくりを捕まえてきて箱の中に入れればいくらでも替えがきくのではあるが。
画面内を不安そうに這い回るまりさの周囲に十五匹のれみりゃが配置された。弟がメニュー画面を使ってまりさの周囲にれみりゃを放ったのである。
まりさはしーしーをぶちまけてその場で固まってしまう。れみりゃたちは一斉にまりさへ飛びかかった。一瞬で餡子を飛び散らせて絶命するまりさ。
すぐに画面が暗転して「コンティニューしますか?」の文字が表示される。まりさは、また死んだのだ。
そこから更にもう一度コンティニュー。
「ゆっくりしていってね……?」と不安そうな声を出すまりさ。
今度は天候を台風に設定した。途端に暴風と雷雨が発生してそれがまりさを蹂躙する。
最初は必死になって逃げ回っていたのだが、帽子が風で吹き飛ばされるわ、それを追いかけて木の下から飛び出し雨に打たれて溶けて死ぬわで、またそのゆん生を終了した。
暗転。ゲームオーバー。コンティニュー。画面に表示されるまりさ。気温を五十度に設定。水分を失い、五分と経たないうちに干からびるまりさ。ゆん生の終了。
暗転。ゲームオーバー。コンティニュー。画面に表示されるまりさ。紆余曲折を経て、ゆん生の終了。
何度も何度も生き返る。ゲームの中に閉じ込められて、ひたすらに死ぬことだけを繰り返していく。
「観察モードはセーブできないから気をつけてね」
「え? じゃあどうやってずっと観察するの……?」
「これは練習、っていうかいろんなシチュエーションでゆっくりがどんな反応をするか見るためのものだからなぁ……。人によっては観察モードしかやらない人もいるけど」
「ずっと電源つけっぱなしなの?」
「うん。でもそれをすると箱の中のゆっくりがすぐに体力消費して死んじゃうからね……。個人的にはあんまりお薦めしないよ」
無意識にコンティニューをしてしまったのか、また草原の上にまりさが一匹ぽつんと映し出されていた。
弟は無言でメニュー画面を開き、「観察モードの終了」を選択する。
弟は無言でメニュー画面を開き、「観察モードの終了」を選択する。
「ゆ゛ぶべぇ゛ッ??!!!」
画面内のまりさが爆発したかのように弾け飛んだ。直後、画面が暗転してタイトル画面へと戻る。
「え? わざわざ死ぬの?」
「仕様だよ。記憶が次のプレイに引き継がれないように、観察モード終了と同時に必ず死ぬんだ」
「へぇ……結構、考えてるのね……」
「でも、今のまりさは本当に無駄死にだったね。まぁ、実際にこいつが死んだわけじゃないんだけど」
そう言って『YB365』の箱をコンコンと叩く弟。
「久しぶりに“電池残量”確認してみる?」
「えー……でも、気持ち悪いし……」
「大丈夫だよ。専用の箱に閉じ込めてあるんだから」
『YB365』の電源を落とし、本体に手をかける。それから慣れた手つきで箱の表側の蓋を外した。
「うわ……」
本体の中にもう一つ箱がある。“ソフト”の役目を果たしている野良まりさだ。姉が思わず目を背けるのも無理はない。
真っ白になった金髪が抜け落ちて箱の底部に溜まっている。それを覆い隠すかのようにしーしーとうんうんがへばりついていた。
見開かれっぱなしの目玉は乾燥しているのが目視で分かるくらいにガサガサの状態になっている。干からびた頬の皮はところどころが剥がれてしまっていた。
半開きの口から垂れ下がるしわくちゃの梅干しのようになった舌。歯は一本も残っていない。帽子だけがあの日捕まえてきたときのままだ。
弟が本体の音量調節を最大まで引き上げると、微かに呻き声が聞こえてきた。
真っ白になった金髪が抜け落ちて箱の底部に溜まっている。それを覆い隠すかのようにしーしーとうんうんがへばりついていた。
見開かれっぱなしの目玉は乾燥しているのが目視で分かるくらいにガサガサの状態になっている。干からびた頬の皮はところどころが剥がれてしまっていた。
半開きの口から垂れ下がるしわくちゃの梅干しのようになった舌。歯は一本も残っていない。帽子だけがあの日捕まえてきたときのままだ。
弟が本体の音量調節を最大まで引き上げると、微かに呻き声が聞こえてきた。
「お……ね、が……じば……。こ…………て……く……、だ……さ…………。ころ……じで……。こ……ろ……し……て……」
その瞳には何も映し出されていないだろう。姉弟の声も届いていないだろう。
何度も何度も死んだまりさは憔悴しきった様子で虚空に向けて声を絞り出す。それはいったい誰への願いだろうか。
うわ言のように「殺して」と繰り返すまりさを見て、弟はクスクス笑っていた。
何度も何度も死んだまりさは憔悴しきった様子で虚空に向けて声を絞り出す。それはいったい誰への願いだろうか。
うわ言のように「殺して」と繰り返すまりさを見て、弟はクスクス笑っていた。
「上級者はね……いや、ちょっと頭のおかしい人たちかな……」
「何よ……」
「最初の十回くらいしかできないプレイが一番楽しいんだってさ」
「どういうこと?」
「この蓋を開けた状態で、ヘッドフォンをつけて初回プレイをするんだ」
「それって……」
「そう。最初の“死”が一番苦しむ表情と叫び声が凄いんってだ。直前まで元気で生意気な口ばっかり利いてるゆっくりがいきなり絶叫するのは、堪らないらしいよ」
「私には理解できないわね……。私はシナリオモードがクリアできればそれでいいもん」
「ホント……。このゲーム、いったい誰が……誰の為に作ったんだろうね」
そう言いながらそっと『YB365』の箱の蓋を閉める弟。音量を消してしまえばこの中に野良まりさがいる事など当事者たちしか分からないだろう。
もう一度電源を入れる。幾つかの画面の切り替わりを経て、再びまりさが映し出された。
弟がクスクス笑いながら、メニュー画面を開いてまりさの満腹度というゲージを一気に下げていく。
するとまりさは「ゆっくり、おなかが……すいたよ……」と途端に憔悴してしまう。
画面を拡大すると顔面蒼白のまりさがはらはらと涙を流していた。それを見て思わず失笑する姉弟。
またゲージを元に戻してやるとぴょんぴょん草の上を跳ね始める。
箱の中の野良まりさが本当の意味で永遠にゆっくりしてしまうまで、野良まりさがゆっくりできる日は絶対に訪れないだろう。
このゲームは“命を弄ぶゲーム”だった。
『YB365』に収められたゆっくりは一生、この仮想空間から抜け出すことができない。
何度も何度も死んで、あるいは殺されて、遊ばれて。また何度も同じ場所に呼び出されて、それから死んで。ひたすらにそれを繰り返す。
もう一度電源を入れる。幾つかの画面の切り替わりを経て、再びまりさが映し出された。
弟がクスクス笑いながら、メニュー画面を開いてまりさの満腹度というゲージを一気に下げていく。
するとまりさは「ゆっくり、おなかが……すいたよ……」と途端に憔悴してしまう。
画面を拡大すると顔面蒼白のまりさがはらはらと涙を流していた。それを見て思わず失笑する姉弟。
またゲージを元に戻してやるとぴょんぴょん草の上を跳ね始める。
箱の中の野良まりさが本当の意味で永遠にゆっくりしてしまうまで、野良まりさがゆっくりできる日は絶対に訪れないだろう。
このゲームは“命を弄ぶゲーム”だった。
『YB365』に収められたゆっくりは一生、この仮想空間から抜け出すことができない。
何度も何度も死んで、あるいは殺されて、遊ばれて。また何度も同じ場所に呼び出されて、それから死んで。ひたすらにそれを繰り返す。
この世界ではゆっくりは生き物として扱われていなかった。ゆっくりが“動くゴミ”と称されるようになって随分と長い時間が経っている。
街で見かけたゆっくりは全て例外なく殺すようになった世の中だ。今更、そんな価値の無い命がどう扱われようと誰もそれを咎めようとはしなかった。
この世界においてゆっくりとは人間たちの玩具でしかない。
それも壊してしまおうが失くしてしまおうが、掃いて捨てるほどそこらを這い回っているゆっくりたちだ。これ以上ない安い玩具だった。
『YB365』についても、インターネットでは“ゴミの有効利用”などの書き込みも多く、幅広い層に受け入れられているようだ。
今日も、この箱の中に入れられたゆっくりがゲームの中で死に、現実で死ぬような苦痛を味わいながら、またゲームの中で蘇る。
壊れない玩具が誰にも気づかれず泣き叫ぶ。
死ぬまで。
ずっと……それを繰り返すのだ。
街で見かけたゆっくりは全て例外なく殺すようになった世の中だ。今更、そんな価値の無い命がどう扱われようと誰もそれを咎めようとはしなかった。
この世界においてゆっくりとは人間たちの玩具でしかない。
それも壊してしまおうが失くしてしまおうが、掃いて捨てるほどそこらを這い回っているゆっくりたちだ。これ以上ない安い玩具だった。
『YB365』についても、インターネットでは“ゴミの有効利用”などの書き込みも多く、幅広い層に受け入れられているようだ。
今日も、この箱の中に入れられたゆっくりがゲームの中で死に、現実で死ぬような苦痛を味わいながら、またゲームの中で蘇る。
壊れない玩具が誰にも気づかれず泣き叫ぶ。
死ぬまで。
ずっと……それを繰り返すのだ。
La Fin