ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko3493 悪魔の子・エデンの東へ
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ankoss
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『悪魔の子・エデンの東へ』 35KB
愛で 差別・格差 飾り 群れ ゲス 捕食種 希少種 自然界 人間なし すいません、名前を入れ忘れました。嘘あきです
すっかり日が落ちてしまった薄暗い森の下で、黒く蹲る物が一つ。
「にゃあぁ…………」
新しく生まれた3匹の子ゆっくりを養うために夜遅くまで狩りをしていたのだが、
その最中にれみりゃに襲われてしまったのだ。
命からがら逃げ出したは良いものの、体中に刻み込まれた切り傷の痕からチョコレートが溢れ続ける。
(みんな……ごめんね………)
走馬灯のように映る番のれいむと、その周りを囲む長女のちぇんと次女・末っ子れいむの朗らかな姿がちぇんの後悔を生む。
ちぇんは自分ににないぐらいに活発で親思いの良い子で、次女れいむはとってもゆっくりとしたお母さん似のゆっくりで、末っ子は少し食欲旺盛なれいむで……
何故、群れの約束を破ってまで狩りをしてしまったのだろうか。
こうなることは分かっていたはずなのに。
「ぅううう………わぎゃ…ない……よぉ」
瞳から溢れる涙は徐々に大地へと拡がる。
まるで体から生気が零れてしまったかのように。
「たしゅ……けて………れいむ」
親愛なるれいむの名をこぼすも現実は無情で、刻々と時間だけが過ぎ去っていく。
「わがるよぉ……ぢぇんはじぬんだね……」
霞む視線の先にはれみりゃの姿が見えた。
それは、ちぇんの生前の最後の記憶となったのだ。
悪魔の子
嘘あき
1-1
「……ちぇ……ん………ちぇん!」
傷みきった神経をシェイクするように、ちぇんの体は揺さぶられていた。
「いたい……んだね。ゆっくりやめてね……」
病み上がりの体を動かして、なんとか口だけを動かした。
「ちぇん!!」
キンキンと響く悲痛で聴き慣れた声が耳をノックする。
痛みで苛立ちが湧きそうになったが、どこかホッとする声だった。
「そのこえはれいむだね……」
「そうだよ! れいむはれいむだよ!!」
幼い頃からおうたで聴き慣れたあのれいむの声だ。
ほろりと垂れてくるれいむの涙を体で受け止めて、ちぇんは曖昧ながらも適切な返事をした。
「ただいまなんだねー」
日光が目の隙間から入ってくる。
ちぇんはその目を慣れさせながら徐々に開いてみせた。
「ここは……」
暗幕で閉じられた世界とはうって違って、太陽が燦燦と登っている。
それに、地面に放置されていたはずなのに長の家のベットに寝かされている。
止めを刺されるはずだった、あの状況下で誰かが助けてくれたのだろう。
「わかるよー。みんな、ありがとうなんだよー」
「ちぇんのばか! ばかばかばか!!」
れいむのぴこぴこが病み上がりの体を襲うが、甘んじてちぇんは受け止めた。
「むきゅん、ほんとうにおばかさんね!」
「おさ…」
夫婦の営みを壊すかのように、長のぱちゅりーが怒りの形相でちぇんを見る。
「まったく、なにをかんがえてれみりゃがでてくるじかんにかりをしてたのかしら」
「ごめんなんだねーおさー」
「いいわけはいいのよ! むきゅ!!」
「「ゆぴぃーっ!」」
怒鳴るぱちゅりーに二匹は体を寄り添わせる。
だが、ぱちゅりの目尻に湿っぽい物を見つけたちぇんは真摯に謝った。
「ほんとにごめんねーなんだよ。ぱちゅりー。おちびちゃんのためにごはんさんをたくさんとってきてあげたかっただけなんだよー」
「でも、おきてやぶりはゆっくりできないわ!」
「そうなんだねーわかるよー」
居場所狭しとれいむは二匹を交互に見渡す。
「でも、きょうはちぇんがいきていたことにかんしゃしましょう!」
「「ゆゆ?」」
クエスチョンマークを頭上に掲げた二匹は長の案内されるがままに広場に連れて行かれた。
「みんな! ちぇんがかえってきたわよ!!」
群れの全員、総勢23匹の成体ゆっくりとその子供たちが歓喜の声で迎え出てくれたのだ。
「「「「「「「ゆっくりしていってね!」」」」」」
飛び跳ねながらちぇんの復帰を歓迎する大人たちの間に、3匹の子ゆっくりが佇んでいた。
「おちびちゃんたち……」
恐る恐る、ちぇんは3匹の下にたどり着き、その顔触れを眺めて涙ながらに叫んだ。
「ゆっくりしていってねー!!!」
1-2
父ちぇんが群れに帰った、その翌日の夕方。
「おとーさん、おかーさん、ただいまなんだねー」
長女のちぇんが父親代わりの狩りに行ってきたばかりだった。
まだ病み上がりということで、群れの大人たちについて行って一生懸命働いたのだ。
「ゆっくり、おかえりなさい」
母れいむが出迎え、今日の収穫を長女の帽子から取り下ろした。
「ゆゆ! おちびちゃんはかりのてんさいだね!!」
そこには父ちぇんが何時も集めてくるよりもたくさんの量のご飯が散らばっていた。
「ゆゆ、みんながおすそわけしてくれたからなんだよーわかってねー」
照れ隠しをしながら長女のちぇんは母れいむと一緒に採ってきた物を倉庫へと持ち運んで行った。
その後ろ姿を、未だに体が良く動かない父ちぇんが眺めてほっと一息、長女の頑張りを喜んだ。
(これなら、どこにいってもあんしんなんだねーわかるよー)
大人になれば、集団でこの場所から離れて新たなる地に移住する。
これはこの山に住むゆっくりの頭数調整のために自然的に生まれた掟である。
父ちぇんも幼馴染の母れいむとその仲間たちと共にこの地を開拓したのだ。
あの時と、れみりゃに襲われることと比べたら大差もなく、今生きていることが少しありがたいと思えた。
「みんな! ごはんのじかんだよ!!」
体を引きづりながら食堂へと向かう父ちぇんの横を二匹の子ゆっくりが横切った。
「ゆわーい! きょうのごはんさんだよぉ!!」
「ごはんさんはでいぶのものだよ!! ゆっくりしないではやくたべさせてね!!」
長女とは違って優秀とは言えないこの二匹が父ちぇんにとってはネックであった。
次女れいむはただゆっくりしているだけのマイペースなゆっくりなのでお嫁さんに向いているだろう。
だが、末っ子れいむは甘やかせてしまったのが悪かったのか、茄子型に太りでいぶになりつつある。
このままでは開拓の途中に置いていかれるに違いないと父ちぇんは思うのだが、
一度愛してしまった子供に叱咤するのはいかほどのものかと躊躇っている部分がある。
「ゆっくりいただきますなんだねー」
ゆっくりとしか使えない口で今日とれた草をムシャリと咀嚼するが、
ほとんどの食べ物を子れいむ達が食べてしまい、残りかすをぺろぺろと掬い取った。
「ごちそうさまなんだねー」
折角、長女ちぇんが初めて採ったごはんだったのにとしょんぼりするが、
気を取り直してちぇんは再び眠ることにした。
1-3
数日が経った。
体が動かせるようになり、父ちぇんは長女のちぇんと一緒に狩りをすることにした。
「おとーさんとかりにいけるなんて、うれしいよ!」
訛った体を動かすのと、長女に自分の父としてのカッコいい姿を見せるためにも父ちぇんははりきって見せた。
「ゆっくりがんばるよ!」
いつもの狩り場である群れ近くの野原で父ちぇんは決意を堅く、狩りに挑んだ。
「ちょうちょさんなんだねー!」
パタパタと飛ぶ蝶々を自慢のあんよで追いかけては見るものの、体が未だ疲れているのか全く追いつけない。
「ま、まつんだねー!!」
その横を群れのまりさが走りぬき、口でくわえた帽子で蝶々をとって見せた。
「ゆひひ、ちぇんにはわるいのぜ!」
「にゃ~~~」
何時もなら自慢のあんよで、悪態をついているのは自分のほうなのに、今日はお株を奪われてしまった。
だが、そんなことで諦めるほど父ちぇんは弱くない。
「にゃ! そこにもいたんだね!!」
花の蜜を吸うという絶好のチャンスに父ちぇんは目をつけて駆け出すが、
今度は独身れいむに先を越されてしまった。
「ゆっくりごめんね!」
パッチリお目目で似合わないウィンクをされたのにも苛立ったが、
れいむにまで狩りで負けてしまうのはとても悔しかった。
「にゃー…しかたないんだねー」
これ以上、飛んだり跳ねたりの狩りはできないとわかった父ちぇんはそこらじゅうに生えている食べられる草を摘むことにした。
「にゃにゃ! そういえば、おちびちゃんは?」
自分のことで精いっぱいだった父ちぇんはすっかり長女ちぇんのことを忘れていた。
視界のどこにもおらず、どこか別の場所で狩りをしているのだろう。
「わ、わからないよ!!!??」
狩り場のことに詳しくないはずなので、最悪れみりゃが住んでいる場所を通過しているかもしれない。
「ど、どうしよう!!」
元気なころの父ちぇんならば真っ先に飛んでいくところだったが、
れみりゃに襲われた傷が疼いてあんよが動かない。
「わ、わからないよ~!!」
最悪、自分がされたような事を長女ちぇんにも、と考えたら父ちぇんは居てもたっても居られなくなった。
体をぶるぶるふるわせて恐ろしーしーが出んばかりになっている父ちぇんの下に長女ちぇんは帰ってきた。
「おとーさんどうしたの? わからないよー」
何食わぬ顔で佇む長女ちぇんに、父ちぇんは涙を隠すことはできなかった。
「よがっだ~~!!!」
何が良かったのか分からない長女ちぇんは、とりあえず父ちぇんの頬にすーりすーりをした。
「おとーさん、ゆっくりおちついてね」
すーりすーりを続け、父ちぇんは段々と落ち着きを戻し、長女ちぇんに面と向かった。
「おちびちゃんどうしてたの! おとうさんしんぱいだったんだよ!! わかれよー!!」
「それは、おとうさんがはしってどっかいっちゃったから」
「にゃ?」
よくよく考えれば、対抗心をガソリンにエンジンを吹かして暴走していたのは自分のほうであった。
「そ、それはごめんなさいなんだねー」
父ちぇんはぺこりと頭を下げた。
「あれ? おちびちゃんのおぼうし…」
ちらりと見えた長女ちぇんの帽子の中には以前、大人に交じって狩りに居た時と同様の量のご飯が詰まっていた。
「にゃ! みてみて、おとーさん! たくさんとれたんだよーわかってねー!!」
興奮気味に帽子の中身を見せてくれる長女ちぇんに唖然とした。
「にゃ、とってもたくさん……ちょうちょさんも」
狩りを教えるどころか、長女ちぇんは通常運航の父ちぇんよりもたくさんご飯を採っていたのだ。
「にゃ! それはまさか!!」
しかも、ゆっくりには珍しい野ネズミの死体まで。
「おちびちゃんはすごいね……」
父ちぇんのしょぼくれた面に、長女ちぇんは再度すーりすーりをして慰める。
「おとーさん……ねずみさん、たべていいよ」
「にゃ!?」
野ネズミはとっても貴重なご飯で、生きているうちに食べれるかどうかの代物である。
また、猫に近いちぇん種にとっては御馳走以上の何物でもない。
それを今ここで食べられるのはとっても嬉しいが、娘の手前それはできなかった。
「い、いいよ。おとーさんはいいからちぇんがたべるといいんだよー」
涎を垂らしながら反対する父ちぇんに長女ちぇんはくすりと笑って返した。
「おとーさん、ねずみさんをたべてはやくなおってね!」
「おちびちゃん…」
父ちぇんは泣きながら野ネズミのはらわたを齧った。
「にゃ、おいしいよ~!」
ガッツガッツと息一つ入れず父ちぇんは娘のプレゼントをむさぼり食べた。
そんな父の姿を長女ちぇんはルビーのお目目で垣間見た。
「よかったね、おとーさん」
長女ちぇんがどこかへ行こうとしていたので、父ちぇんはそれを咎めた。
「もうどっかにいっちゃだめだよー」
自分の体力が低下していることもあって、長女ちぇんを遠くには行かせたくなかったのだ。
「だいじょうぶ! もうすこしかりをするだけだよーわかってねー」
「おちびちゃーん!」
どんなゆっくりよりも速いあんよで、長女ちぇんは駆けだしてしまった。
「にゃー…」
娘に追いつけない自分を責める一方で、どこか長女ちぇんが大人になっていくヴィジョンも見えたのだ。
「とりあえず……だいじょうぶだよねー」
ゆっくりらしいポジティブな考えで、ひとまず長女ちぇんに任せ、野ネズミを食べる作業に戻った。
「むーしゃむーしゃするんだねー…ゆっ!」
ねずみのヒゲの部分が父ちぇんの鼻の部分をかすった。
「ゆっくちん!!」
大きなくしゃみと共に何かが体から飛び出てしまった感触を受けた。
「にゃにゃ?」
くしゃみの時に閉じてしまったまぶたをそっと開けて見せる。
「にゃ……わ、わか」
父ちぇんの左半分が見えなくなっていたのだ。
「わからないよ……」
恐る恐る左目を動かしてみせるが、何の感触も受け付けない。
「にゃにゃにゃ!!」
右目を動かしてみると、少し離れたところに父ちぇんの橙色の目が転がっていた。
1-4
(どうしよう……わからないよー…)
なんとか左目を嵌め直した父ちぇんはとぼとぼと群れの途中まで歩きながら考えていた。
一体、どうして自分の目が取れてしまったのだろうか。
それに、取れた目の辺りからゆっくり出来ない匂いが漏れ出してきている。
「わからないよぉお」
ぽっかりと空いた左目の穴からちょぼちょぼと涙が溢れそうになった。
「ゆゆ! ちぇん!! ゆっくりしていってね!!」
そんな帰り際に、背後から一匹のまりさが声をかけてきた。
「ゆっくりしていってね!」
父ちぇんは急いで左目をつぶり、まりさに振り返った。
「ゆゆ、ちょっとくさいのぜ?」
「にゃ、なんでもないんだよーわかってねー」
すんすんと鼻を啜るまりさはピンと来たかのように含み笑いをした。
「……もしかしておもらししたのぜ!?」
「ち、ちがうよー!」
父ちぇんは飛び跳ねて抗議するが、まりさは鼻につく臭いに疑問を隠せずには居られなかった。
「ゆーん、でもにおうのぜ?」
まりさは父ちぇんのしーしー穴とうんうん穴を見たがどちらも漏らした跡がないのを確認した。
それでも、父ちぇんから臭う異臭にまりさはハッと顔色を変えた。
「もしかして、げーげーさんじゃないのかぜ?」
体調が完全でない父ちぇんであれば、激しい狩りの運動でゲロをはいてしまう可能性もある。
「ご、ごめんなのぜ。ひどいこといって…」
心根が優しいまりさは自分の無礼を詫びた。
「にゃーん……」
勝手に謝られてしまってもと父ちぇんは思うが、これで事が収束するのなら致し方ないと黙っておいた。
「それよりも、ちぇんのおちびちゃん。とってもすごかったのぜ!」
まりさは花が開くように笑顔で語り始めた。
「むれいちばんのあんよのはやいちぇんがかんたんにおいぬかれててないてたのぜ」
「にゃにゃ?」
「ちょうちょさんとりのときにかちあって、かけっこしてたのぜ。
もうれつにゆっくりできないはやさでちぇんのおちびちゃんがはしって、
ちょうちょさんをてにいれてたのぜ!!」
「にゃぁ…」
「それに、むれいちばんのかりのたつじんのまりさよりもたくさんきのみをてにいれてたのぜ!!」
「にゃ! ちぇんもおちびちゃんのかりのせいかをみたけど…」
「あのおちびちゃんはほんとうにすごいゆっくりなのぜ。
おとなのゆっくりよりもゆうしゅうなゆっくりなのぜ!」
「にゃにもそこまで…」
「うそじゃないのぜ! ちぇんのおちびちゃんはしょうらいおさになるのはかくていてきにあきらかなのぜ!!」
まりさが興奮気味に語っているところに突如、長のぱちゅりーが乱入した。
「むきゅ、そうね」
「「おさ!!」」
「ぱちぇもそうおもうわ。おちびちゃんはぱちぇのはなしをよくきいてたし、かりのうでもすごい。
ゆっくりのなかのゆっくりよ。
こんどのかいたくだんのりーだーとしてにんめいするつもりだわ」
開拓団の言葉を聞いてちぇんはあわてて反論した。
「そ、それははやすぎるんだねー! わかってよー」
しかし、ぱちゅりーは首を振ってちぇんの言葉を否定した。
「むきゅ、あのこもいいとしごろなのよ。それに、かりにさんかしているってことはおとなのしょうこよ」
「でも…」
「ちぇん、まりさもおさがただしいとおもうのぜ」
「まりさまで!?」
「ちぇんのおちびはてんさいなのかもしれないのぜ」
「てんさい?」
「きっと、すばらしいおさになるとおもうのぜ!」
「にゃが……」
これ以上何も言えなかったちぇんは、少量の成果とともに帰途に就いた。
その間、ずっと長女のちぇんのことを考えた。
あの子がいなければ、きっと次女と末っ子を養うことはできないだろう。
また、自分の代わりとして父親役をかってほしかった。
このままでは、次女と末っ子は強制的に未熟のまま群れを追い出されるのかもしれない。
「わからないよぉ」
父親らしい悩みを抱えながら日は地平線へと沈んでいった。
1-5
日増しに父ちぇんの体は弱ってゆき、体臭が隠せないほどまでになってしまった。
そして、なによりも体の部分が徐々に溶けるように腐っていくのだ。
痛みは全く感じず、ただバターのように体が崩れてゆく。
「にゃが…」
外に出る事は許されず、体が全く動かない。
狩りに関しては長女に頼みっぱなしで、父親らしいことは何もできず。
タダ飯ぐらいの汚名を被ってちぇんのプライドはズダズタになってしまった。
「わがらないよぉ……」
パクパクと金魚のように口が動く父ちぇん。
その傍には番いのれいむと次女のれいむが掛かりっきりで看病していた。
末っ子はといえば、家の空気が臭くて餌の時間にしか帰ってこなくなってしまったのだ。
近所付き合いも最悪で、悪臭を垂れ流す父ちぇんいっかの周りからゆっくりがたちのいてしまった。
それでも、番いれいむの厚い愛情と予想外の優しさを見せてくれた次女れいむにちぇんは救われた。
「おとーさん、しっかりしてね!」
次女れいむの泣きそうな声を聞きながら、父ちぇんは必死にその言葉に答えようと目を見開いて見せる。
「だ、だいじょうぶなんだねー」
ガラガラの声で返事をし返すが、それが精いっぱいだった。
(わがらないよーわがらないよー)
ただ、呪詛の言葉が体中を跳ねくり回ってゆっくりできなかった。
いったい、どうしてこんなことになったのだろう。
左目が取れてしまってからすべてがパーになってしまった。
確かに、生きていることは奇跡だったのだけれど、
こんな終わり方でよいのだろうか。
そして、何よりも長女ちぇんが怖かった。
最初のことは何ともなかったのに、
最近では長女ちぇんの目を見るのが怖くなったのだ。
当初は何ともなかったのに、赤く光る面妖な視線がちぇんの体を痺れさせるのだ。
それが、徐々に強くなり、最近では痛みを発するほどになってしまった。
ああ、なんでこんなことになってしまったのだろう。
「もっとゆ…」
絶望に足を取られる前に父ちぇんは立ち直った。
1-6
長女ちぇんは今日も狩りに出かけた。
ゆっくりできない臭いがすると他のゆっくり立ちからは遠のかれたが、
長女ちぇんには何の苦にもならなかった。
ただ、家族の安寧だけを願って狩りをするだけだ。
狩りに出かけようと家を出たところで、末っ子れいむが取り巻きたちと一緒に絡まれた。
「おい、どれい! きょうもたのんだよ!!」
「そうなのぜ! まりささまのぶんもとってくるのぜ!
さもないと、ちぇんのおやじをゆっくりさせなくしてやるのぜ!!
いや、もうゆっくりしてないのぜ!?」
「「「ゆぷぷぷぷぷぷぷ!!!!」」」
自分の父親が笑いの種にされても平然としている、いやそれ以上に本心から笑っている末っ子れいむに長女ちぇんはへどが出た。
「ふん…」
鼻息で青二才の連中を払いのけ、長女ちぇんは狩りへ向かう。
「ちょっとまつのぜ!!」
一番ガタイのでかいまりさが長女ちぇんの行く手を阻んだ。
「なかなかのびゆっくりなのぜ」
長女ちぇんは父親代わりに狩りをしているせいか、ゆっくりにとってはスポーティでスタイルの良いゆっくりだった。
おまけに、長女ちぇんの持つ赤いローズレッドの髪はとても魅力的だったのだ。
「いっぱつ、すっきりーさせろなのぜ!」
瞬間、長女ちぇんは大きな口を開け、まりさの勃起したぺにぺにを噛み千切った。
「ぺっ!」
「ななななななな、まりさのぺにぺにがぁあああああああああああああああああ!!!!!」
長女ちぇんはニヒルに答えた。
「これで、すっきりーだね。わかるよー」
「ゆぎゃぁああああああああああああ!!!!!!!」
恐ろしーしーの水たまりが栓を失った股間から大量に漏れ出す。
だが、中身が漏れ出すことは一切なかった。
「ちゃんと、ぺにぺにだけきってあげたんだよー。わかれよー」
狩りで鍛えた卓越した技術でぺにぺにだけを切断し、まりさを女にしてやったのだ。
本来ならそのまま噛み殺してしまいたいとことだったが、問題を起こして一家が追放されたら厄介だ。
「それじゃあ、いく「まつのぜぇえええええええ!!!!」」
他の若いまりさたちが一斉に木の枝を持って長女ちぇんを囲む。
「どれいのくせになまいきなのぜぇええええ!!!」
わんやわんやと叫ぶ中に末っ子れいむが長ちぇんに吐き捨てた。
「どれいふぜいがぁあああああ!!!!ちょうしにのりすぎなんだよぉおおお!!!!!!!!!」
優秀な長女ちぇんを奴隷扱いして、自分の身をごまかそうとするガキどもに長女ちぇんは辟易した。
いっそのこと、末っ子だけでも殺しておこうかと身を引いたところに待ったの声がかかる。
「むきゅ! そこまでよ!!!」
それは、紛れもない長ぱちゅりーの姿だった。
「しょうらいのおさをころさせはしないわ」
1-7
ぱちゅりーの家に連れていかれた長女ちぇんは今から始まる話の内容に恐れを感じていた。
「ちぇんをみっかごのかいたくだんのおさににんめいするわ」
これ以上風評被害を受けないためにも、長女ちぇんがリーダーになる必要があった。
リーダーには評価というものが付き物だ。
皆が納得しないリーダーはいずれ崩壊する。
現役で素晴らしい狩りの腕を見せつけ、若いゆっくり達の関心を集めている今を逃してはならないのだ。
ならず者のゆっくり達を除いて。
「ちぇんはおとーさんやおかーさんのせわでいそがしいんだよ、わかってねー」
「いづれはおやばなれをしないといけないのよ!」
断固としてその言葉を通そうとする意図が見えた長女ちぇんは何も言い返せなかった。
「たしかに、ちぇんのおとーさんはたいへんなことになってるわ。
でもね、いつかはおとなになるのよ。
そして、いつかどこかでしななきゃならないのよ」
その言葉にムッとした長女ちぇんは言い返した。
「とってもむせきにんなんだねー。
おとーさんにしねっていってるようにきこえるんだよーわかれよー!!」
「たしかに、そうきこえるのかもしれないわね。
でもね、ぱちぇたちゆっくりはゆっくりするためにいきているのよ」
「それがいまなんだからほっといてほしいんだよー」
「それじゃ、だめなのよ。かんじょうのままにいきることはだれにだってできるわ」
冷静に考えれば、全体主義的に考えればぱちゅリーの言葉はごもっともなのかもしれない。
でも、長女ちぇん個人の心には強い矛盾が沸き起こるだけだった。
「ちぇんは、おとーさんとおかーさんがすきなんだよ…」
「わかっているわ。
ちぇんのおとーさんがいなくなったときに、いちばんかなしかったのはちぇんよね」
「………」
「でも、ちぇんのおとーさんはとつぜん、きずだらけのすがたでわたしのいえのまえにあらわれた」
長女ちぇんは口内の肉を歯噛みした。
「いったい、だれがちぇんをたすけてくれたのかはわからないわ。
いろいろききこみもしたのだけれど……
あのときから、なにもかもかわってしまったのね………」
しんみりとした空気を打ち破るように外から大きな声が聞こえた。
「おさ! たいへんだよ!!」
突如走りこんできたまりさが長に向かってこう告げた。
「れみりゃがちぇんのいえにむかってるのぜ!!」
「むぎゅ!? それって……」
「きっと、においでばれたのぜ!!」
蒼褪める長女ちぇんは一目散に自分の家へと戻った。
エデンの東へ
2-1
次女れいむが生まれようとしていた時だった。
植物型出産によって作られた3匹の中の真ん中の子であった。
前にはちぇんの二股の尻尾が見え、意識が薄弱ながらもこれが姉だということが良く分かった。
だが、事件は唐突に起こった。
それは、誰もが眠っている真夜中のこと。
プルプルと体を震わせながら頭の上についている茎から離れようとする次女れいむは見てしまったのだ。
お飾りを被っていないちぇんが長女のちぇんを食べてしまっていたのだ。
むーしゃむーしゃと聞こえるその声に恐ろしーしーを漏らしたが、
飾りなしのちぇんは無視して、長女を咀嚼していた。
(どぼじでぞんなごどしゅるにょぉおおおおお!!!)
叫んでやりたかったが、生まれようとしているときだったので口がうまく動かない。
ただ、涙としーしーだけが漏れ出すばかりであった。
飾りなしのちぇんが食事を終えると、こんどは長女ちぇんの物であった帽子を口で摘まんだ。
「…ちび……ん……ちぇ……」
ぼそぼそと聞こえる声に、次女れいむは不思議なことに母性を感じた。
そこからの記憶は、次女れいむの再度の眠りの記憶とともに打ち切られた。
2-2
次女れいむはゆっくりしすぎたゆっくりであった。
そのため、周りからはゆっくりしすぎだといわれ、劣等感を良く感じていた。
しかし、長女のちぇんはそうでもなかった。
他のどのちぇんよりもかけっこが速く、まりさよりも喧嘩が強く、みょんよりも枝の使い方が上手であった。
そんな姉を持つ次女れいむはさらに強い劣等感を抱いた。
末っ子れいむもそうであった。
さらに言えば、次女れいむと長女れいむを比較しながら育ったのでゆっくりらしいゆっくりになるのが馬鹿げてきたのだ。
そのため、末っ子れいむはでいぶの道へと歩むことになったのだが。
話は戻して、次女れいむは末っ子れいむとは違い、根がとっても優しいゆっくりだった。
そのため、他のゆっくりにちょっかいをかけられることもしばしば。
「れいむはまぬけなゆっくりなのじぇ~」
お飾りをまりちゃに取られて泣く泣く追いかける次女れいむ。
だが、身体能力が種族的に劣っているので追いつけない。
しかも、まりちゃは無邪気な心でいたずらをしているためお飾りがいかに大切なものかを分かっていないのだ。
もし、転んだりして口に咥えられたお飾りが破けたらどうなるのか。想像力が欠如している。
「かえぢで~!!」
「へへ~ん、いやなのじぇ~――ゆべッ!」
前を見ずに走っていたせいで、まりちゃは自分よりも一回り大きいゆっくりにぶつかった。
「いったいだれなのじぇ! まりちゃしゃまのかりぇいなあんよをとみぇるげすは!!」
「ちぇんなんだねーわかれよー」
「おねーちゃん…」
それは紛れもない長女ちぇんであった。
この長女ちぇんは成長が通常よりも早く、体と頭脳がほかの子ゆっくりよりも成体へと近づいていたのだ。
そんな、ゆっくりを前にまりちゃは震えながら長女ちぇんの目線から逃れようとした。
「ちゃんとかえしてあげるんだよー」
「わ、わかっちぇるのぜ……」
以前、一番大きいガキ大将のまりちゃを圧倒したのを知っていたまりちゃは、すぐさま口からお飾りを離した。
「こ、こりぇで…」
「ちゃんとあやまるんだよーわかるねー?」
ドスの利いた声にビビり、まりさはれいむのほうを向いて何度も土下座をした。
「ごごごご、ごめんなさいなのじぇぇえええええええ!!!」
恐ろしーしーと共にまりさはその場から逃げ去った。
「これでだいじょうぶなんだねー」
長女ちぇんは次女れいむのお飾りを拾ってあげると、それを頭の上に結びなおしてあげた。
「れいむはびゆっくりだからちょっかいをかけられるんだよーわかるよー」
ニコニコとれいむに微笑むちぇんに次女れいむは頬が赤くなった。
「そ、そんなわけないよ! もう、からかわないでね!!」
「うそじゃないんだねーわかれよー」
長女ちぇんのお世辞に次女れいむは少し嬉しかった。
「……っ!」
「にゃ? どうしたの?」
ただ、あの時の光景が目に焼き付いて離れなくて、れいむは長女ちぇんの優しさが本物なのかが信じられなかった。
2-3
父と母、そして長女ちぇんは次女れいむに優しかった。
強い劣等感を抱いていた次女れいむにとって唯一の救いでもあった。
大人になるにつれ、他に友達もでき始め、次第に家族への依存はなくなった。
だが、長女ちぇんにだけは得体の知れない感情だけが残ったまんまであった。
「れいむにおねーさんって、とってもゆっくりしてるね!!」
友達のれいむが次女れいむに果敢に話をしてくる。
次女れいむには長女ちぇんを目当てにしてくる子が多い。
どれをとっても一級品の優等生である長女ちぇんは正に高嶺の花であった。
「そうよ、あのちぇんはきっとかいたくだんのおさになって、わたしたちをみちびいてくれるわ!」
ありすが声高々に言うと、周りのゆっくりも賛同しながら自分たちの意見をぶつけ合いながら論議していた。
そんな中、自分の姉妹の話をされても肩身が狭い次女れいむはただ、黙ってその場でとりのこされることしかできなかった。
「ねぇ、れいむはちぇんのことをどうおもっているの?」
「ゆゆ?」
「れいむだって、ちぇんとけっこんできるのよ?」
ゆっくりの間では姉妹同士の結婚が普通にある。
人間ならばインセストタブーや心理的な面で近親相姦はありえないのだが、
ゆっくりにおいては前者後者の憂いは全くない。
突然の質問にどぎまぎしながら次女れいむは考えてみた。
確かに、長女ちぇんはとても魅力的なゆっくりである。
姉妹でなければ高嶺の花としてずっと見続けていたのだろう。
いや、兄弟かどうかもあやふやなゆっくりにどんな査定を出せばよいのか。
「ゆゆ~」
プスンプスンと頭から煙が出そうになる次女れいむは答えを迷った。
長女ちぇんに対して自分はどんな思いを抱えているのだろうか。
「わからないよ~」
次女れいむは姉のまねをしてみせた。
2-4
ある日の夜のこと。
「ごはんさんがたりないよ! どれいはゆっくりしないでかりにいってきてね!!」
「にゃーん、おちびちゃん、おそとはゆっくりできないんだよ?」
末っ子れいむが癇癪を起こし、父ちぇんはどうすればいいのか分からなかった。
どうも、末っ子れいむはお腹が空きやすいタイプで日ごとに食べる量が増していっている。
そのせいで、お腹回りも茄子型になってしまうほどに。
もし、見識のあるゆっくりであれば、これがでいぶであるとわかるのだが、
残念ながらでいぶを見たことがないちぇん親子にとってはかわいい子供のだだっこであった。
「わかったよー、ちぇんがかりにいってあげるから」
「ちぇん! それはゆっくりできないよ!」
どれいははやくいけ、だのと叫ぶ末っ子れいむを尻目に長女ちぇんと次女れいむも反対した。
「そとはあぶないんだねーわかれよー」
「そ、そうだよ! おともだちからきいたけど、れみりゃがこのあたりにいるっていってたよ!!」
「すこし、かりをするだけならだいじょうぶなんだねー」
父ちぇんは子供たちを安心させるために笑顔を作り、そのまま駆け足で狩り場へと向かった。
「ゆっくりしないではやくかえってくるんだよ! このくそどれいっ!!」
そして、父ちぇんは瀕死の状態でぱちゅりーの家の前に現れるのだった。
次女れいむはあの時のことを克明に覚えている。
母は泣き叫んで父ちぇんの名前を何度も叫び、
自分はただ、悲しむだけで涙をずっと流し続け、
末っ子れいむはというと、悪態をつきながらも少しだけ心配する振りを見せ、
そして、長女ちぇんは歯を噛みしめて震えていた。
2-5
その後、長女ちぇんが初めての狩りをした時の話。
自分たちの盛大で大人のまねごとをするのは長女ちぇんが最初だろうといわれていたが、まさにその通りであった。
「おとーさん、おかーさん。ただいまなんだねー」
沢山のご飯を持ってきた長女ちぇんに次女れいむは驚かざるを得なかった。
長女ちぇんは他の皆に援助をしてもらったと言っているが、次女れいむは違うことを知っていた。
なぜなら、先ほどまで外でゆっくりしていた時に大人たちの会話を聞いていたからだ。
曰く、とんでもない速さで蝶を追いかけていただの、草を見分けるのがとても上手だったとか。
誇らしい気持ちと一緒に長女ちぇんが自分の姉ではないという確信が深まる一方であった。
だが、長女ちぇんはいつも家族に優しかった。
力があるのにそれを振るおうとはせず、ただ寡黙に力を良い方向へと使っていたからだ。
例えば、いじめられているゆっくりを助けるためにいじめっ子をしめたり、
お腹のすいたゆっくりのために蝶をふるまったり。
「みんな! ごはんのじかんだよ!!」
思い出に浸っているところに母れいむの声が聞こえた。
次女れいむは長女ちぇんの採ってきたご飯に手をつけようか迷った。
だが、いつの日か言ってくれた言葉に頬を赤く染め、腹の空くままに食卓へと向かった。
2-6
父ちぇんの調子が悪くなって、全く動けなくなってしまった。
「おとーさん…」
とんでもなくゆっくりできない臭いを醸し出しながらも父ちぇんは生きていた。
両目はすでに取れてしまい、自慢の尻尾は二つとももげてしまい。
耳は頭の片面ごとくずれさり、ただの汚物として生きながらえていた。
「ゆっくりしていってね! おねがいだから、ゆっくりしていってね!!」
ペーろぺーろをする母に汚い物を見る目で見てしまうこともあったが、
次女れいむは一緒に看病に徹することにした。
はっきり言って、次女れいむにはそれぐらいしかやることがなかったからだ。
父ちぇんの影響で次女れいむからはしだいに友達が離れてゆき、また一人ぼっちになってしまった。
末っ子れいむは群れのやんちゃなゆっくり達と遅くまで行動を共にするようになってしまったし、
残されたのは自分と母れいむと長女ちぇん、父ちぇんのみであった。
「おとーさん…」
「わ、わがるよぉおお」
かろうじて返事が出来るだけの物と言ってしまえばよいだろう。
それでも、自分を愛してくれた一匹のゆっくりを袖には振れなかった。
2-7
そして、運命の日がやってきた。
「う~~~、びんてーじなにおいだど~」
ヨチヨチと両足を動かせながら迫ってくる胴付きのゆっくり、れみりゃ。
それを目の前にして次女れいむはただただポツンと見上げることしかできなかった。
「ゆっくじやべでね!! れびりゃはどごがにぎえでね!!」
泣きながら反抗をしようとする母れいむが父ちぇんの盾になるべく前に出た。
「わ…わがらないよぉ」
やめてと言っているように聞こえる父ちぇんの懇願は無視され、れみりゃは母れいむの髪をつかんだ。
「れみぃのじゃまをするやつは、ぽーい☆ だどー」
つかんだ片手を振りまわし、母れいむを地面に何度もたたきつける。
「ゆべっ、ゆぎゃ、ゆごっ、ゆひっ、ゆげぇ!!!」
欠けた歯が次女れいむの頬を掠る。
石を落した水面の様に飛び跳ねる母れいむの餡子は次女れいむを恐怖のどん底へ落した。
「しね、しね~だど~~」
「うぎぃいいいやぁああああああああ!!!!!!!!!」
ボロ雑巾のようになった母れいむの両顎を掴むと、こんどは力任せに真っ二つに引き裂いたのだ。
「がぁあああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!」
「うー、ばっちいどー☆」
物言わぬ二つの物体になった母れいむ。
最後まで痛みを食いしばってきた鬼の形相で果てた母れいむを次女れいむは涙ながらに見た。
だが、そんな事とはお構いなしにれみりゃは母れいむの死骸を踏み付けて、次女れいむの前に立つ。
「おまえはしょくごのでざーとだど」
「わ、わわわわわかりましたぁああ!!!!」
次女れいむのプライドは折られ、れみりゃの言いなりにならざるを得なかった。
「めいんでぃっしゅだど~~」
茫然と立ちすくむ次女れいむは服のあんこを払って父ちぇんに近づくれみりゃを見た。
「わ、わがら……」
両目がないはずなのに、自分を睨んで助けをこいている様に次女れいむはそう見えた。
「ご、ごめんなさい」
圧倒的暴力に組み伏せられたれいむは小声で謝った。
「さっそくたべるんだど~」
「ゆぎっ!」
腐って柔らかくなった父ちぇんの頭の部分にれみりゃの腕ごと浸かる。
「やわらかくてぷでぃんみたいだど~」
そのまま、父ちぇんのチョコを掬うとそれを口にした。
「あまあま、でりしゃす~!」
キャッキャと満足げに笑みを浮かべるれみりゃ。
「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ」
裏腹に強いダメージを受けて言語を司る部分をやられたちぇんは言葉にならない悲鳴を上げた。
「あ、ああ、ああ、、あ、あ、あ、ああ、」
「うーおもしろいんだどー!」
反射的に喋るおもちゃのようになってしまった父ちぇんに子供心を光らせたれみりゃが何度も何度も父ちぇんの頭に腕を埋める。
「うーうーう~♪」
「あぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎい」
凄惨な現場を見させられている次女れいむはただ、祈るしかなかった。
だれか助けて、と。
「にゃぁああああああああ!!!!!!!!!!!」
長女ちぇんの声とともにれみりゃが吹っ飛んだ。
2-8
「ぜったいにゆるさないんだねー!!」
父ちぇんの前には長女ちぇんが立ちはだかった。
肩で息を吸いながら、ゆっくりとれみりゃとの間合いを取り、牽制する。
「いたいどぉおお!!!」
顔を抑えながら立ちあがったれみりゃは長女ちぇんの顔を見た。
「もしかして、おまえ、あのときのちぇんだど!?」
「そうなんだねー」
あの時とはいつのことなのだろうか、次女れいむは分からずに会話を聞いた。
「おまえはぜったいにゆるさないんだど!!」
「ちぇんもゆるさないんだねー!!!」
長女ちぇんは帽子から枝を抜き取ると、先をれみりゃの胸に向けて掲げた。
「う~!! ぐーんぐにるだど!!」
れみりゃも負けじと、腰に差しておいた長女ちぇんの物よりもながい木の枝を取りだした。
「にゃあぁ……」
リーチで負けている以上、長女ちぇんは不利である。
おまけに身体能力は純粋にれみりゃのほうが上だ。
だからこそ、長女ちぇんは捨て身の覚悟で戦うことになる。
「うー!!」
れみりゃがぐーんぐにるを長女ちぇんの頭めがけて振り下ろす。
「にゃ!」
避けそびれたのか、帽子が引っ掛かって脱げてしまった。
だが、
「しねぇ!!!!」
帽子をお取りに、そのまま突貫しれみりゃの胸に一本の木の枝を刺し貫いた。
「うぎゃぁああああああ!!!!」
痛みで体を硬直させているれみりゃを尻目に、今度はれみりゃの右足を食いちぎって体のバランスを崩す。
「でびりゃのみぎあじがぁあああああああああああああ!!!!!!!」
れみりゃが手放したぐーんぐにるを口にくわえ、最後に頭を貫いて殺した。
「これでおわりだよ…」
しかし、全てを見ていた次女れいむは目を疑った。
「おねえちゃんじゃ……ない?」
「ちぇんは……あたいは……おねえちゃんじゃないんだよ」
2-9
長女ちぇんがまだ赤ちゃんゆっくりの時であった。
母親であるおりんに連れられてずっと旅をしていたのだ。
父親に関しては母おりんがなにも告げてくれなかったので知ることもないだろう。
母おりんは生粋の捕食種で、ゆっくりのゾンビを引き連れて群れを襲う悪いゆっくりであった。
そのため、群れの物からは忌み嫌われ、襲っては逃げを繰り返す毎日であった。
しかし、そんな生活に疲れてしまった母おりんはある決断をした。
それは、自分の娘にだけは普通の生活を送ってほしいというものであった。
だからといって、死臭が染みついた自分ではそんなことはできないだろう。
また、普通に暮らすといっても家の作り方や食べられる草や生き物についての知識がない。
ならば、ホトトギスのように托卵してしまえばいいのではと考えたのだ。
「おりん、おまえはきょうからちぇんになるんだよ?」
「にゃ?」
まだ物覚えが悪かったので、刷り込みをするには最適な時期だった。
そして、長女ちぇんが覚えている母親の唯一の声でもあったのだ。
誰もが寝静まる夜の空の下で、母おりんはとあるちぇん一家の家に侵入し、そこに赤ちゃんが作られているかどうかを確認した。
そして、あのちぇんとれいむの一家を見つけたのだ。
「ごめんね、おちびちゃん」
母おりんはそういうと、れいむのでこから生えている子ちぇんの帽子をきれいに取り去り、子ちぇんをそのまま丸呑みにした。
そして、残った帽子を自分の娘にかぶせた。
次女れいむが見ているとは気付かずに……
2-10
長女ちぇんは母親の意図を良く理解していた。かなり賢い個体であった。
それでも、最初は戸惑い、自分のことを「あたい」と呼んでしまうなどミスを犯したりしたが、父ちぇんは優しく言い間違えを正してくれた。
母親れいむも母性愛に満ちて優しかった。長女ちぇんにはしだいに家族愛を言う物が芽生えたのだ。
種族間を超えた強い感情であった。
だからこそ、この家族の一員になろうと必死に頑張ったのだ。
父が死にそうになっている時も、れみりゃから助けだし、自分の能力を使って生きながらえさせたのだ。
だが、結果は散々たるものとして終わってしまった。
「あたいはおりんなんだよ!!」
両親は非業の死を遂げ、自分の正体がばれてしまい、長女ちぇん改めおりんは自暴自棄になった。
「そうだよ、あたいはずっとだましてきたさ!! でもね、ほんとうにかぞくのことがすきだった!!!」
「おねえちゃん…」
「おねえちゃん、おねえちゃん、いわないで! あたいはおりんなんだよ」
「ちがうもん! おねえちゃんは「そこまでよ!!」ゆゆ!?」
長ぱちゅりーを筆頭に若いゆっくりたちがおりんの前に立ちはだかった。
「まさか、ちぇんがおりんだったなんて……」
おりんについて、ぱちゅりーは知っていたのだ。
かつて、たくさんの群れを襲い、辺境の地へと消えた伝説の悪魔。
その末裔であるおりんの素性を。
「ざんねんだけど、ちぇん……じゃなかった、おりんはむれからでていってもらうわ」
2-11
群れの皆が見守る中、帽子を脱いだおりんは辺境の地とよばれる何もない土地へと一匹、開拓に生かされることになった。
名目上は開拓であるが、実質死刑と何も変わりがない。
「どっかいけ、このくじゅうう!!!!」
末っ子れいむがおりんに唾を飛ばす。次いで、おりんの背中には、ぽつぽつと小石が飛んだ。
後ろを見れば、怒りの形相で睨みつけてくる、かつての群れの仲間たちがいた。
「さようなら」
おりんはなにも後悔はないと自分の心に決めながらゆっくりとあんよを進めた。
2-12
荒れ地が続く道を延々とおりんは歩く。
何もない場所が続き疲労が強いストレスへと変わっていく。
だが、おりんは諦めずに歩いた。
「……おー……ん! おねー……!!」
ふと、背後から聞こえる声に反応し背後を見る。
「れいむ……」
その姿はまごうことなき次女れいむであった。
「おねーちゃん…れいむもいっしょにいくよ!!」
「おりんはおねーちゃんじゃないんだよ!!」
「ちがうもん。おねーちゃんはおねーちゃんだもん!!」
「だから…「それなら、れいむをおよめさんにしてね!」……にゃ?」
れいむは真剣な顔つきでおりんに告白した。
「いっしょにゆっくりしてね」
「な、なにをいってるんだい!?」
「ひとりぼっちはだーめだーめだよ!!」
「れいむはびゆっ「れいむがほんとうにすきなのはおねーちゃんだもん!!」」
閑古鳥が鳴く荒野の地にれいむの叫びはこだました。
「ぜったいに、これからもいっしょだよ」
目をそらさないれいむの熱意に負け、おりんは頭をコクリと垂れた。
「わかったよ。わかったんだねー」
「ゆゆ! わかったんならそれでいいよ!!」
わーいわーいと声を上げながら無邪気に喜ぶれいむに笑みがこぼれた。
そして、おりんは絶対に生き延びてやろうと決心した。
「じゃあ、いこうか」
何もない大地に二匹のゆっくりは歩を進める。
だれも見守らないこの世界を、二人だけの世界を。
おわり
愛で 差別・格差 飾り 群れ ゲス 捕食種 希少種 自然界 人間なし すいません、名前を入れ忘れました。嘘あきです
すっかり日が落ちてしまった薄暗い森の下で、黒く蹲る物が一つ。
「にゃあぁ…………」
新しく生まれた3匹の子ゆっくりを養うために夜遅くまで狩りをしていたのだが、
その最中にれみりゃに襲われてしまったのだ。
命からがら逃げ出したは良いものの、体中に刻み込まれた切り傷の痕からチョコレートが溢れ続ける。
(みんな……ごめんね………)
走馬灯のように映る番のれいむと、その周りを囲む長女のちぇんと次女・末っ子れいむの朗らかな姿がちぇんの後悔を生む。
ちぇんは自分ににないぐらいに活発で親思いの良い子で、次女れいむはとってもゆっくりとしたお母さん似のゆっくりで、末っ子は少し食欲旺盛なれいむで……
何故、群れの約束を破ってまで狩りをしてしまったのだろうか。
こうなることは分かっていたはずなのに。
「ぅううう………わぎゃ…ない……よぉ」
瞳から溢れる涙は徐々に大地へと拡がる。
まるで体から生気が零れてしまったかのように。
「たしゅ……けて………れいむ」
親愛なるれいむの名をこぼすも現実は無情で、刻々と時間だけが過ぎ去っていく。
「わがるよぉ……ぢぇんはじぬんだね……」
霞む視線の先にはれみりゃの姿が見えた。
それは、ちぇんの生前の最後の記憶となったのだ。
悪魔の子
嘘あき
1-1
「……ちぇ……ん………ちぇん!」
傷みきった神経をシェイクするように、ちぇんの体は揺さぶられていた。
「いたい……んだね。ゆっくりやめてね……」
病み上がりの体を動かして、なんとか口だけを動かした。
「ちぇん!!」
キンキンと響く悲痛で聴き慣れた声が耳をノックする。
痛みで苛立ちが湧きそうになったが、どこかホッとする声だった。
「そのこえはれいむだね……」
「そうだよ! れいむはれいむだよ!!」
幼い頃からおうたで聴き慣れたあのれいむの声だ。
ほろりと垂れてくるれいむの涙を体で受け止めて、ちぇんは曖昧ながらも適切な返事をした。
「ただいまなんだねー」
日光が目の隙間から入ってくる。
ちぇんはその目を慣れさせながら徐々に開いてみせた。
「ここは……」
暗幕で閉じられた世界とはうって違って、太陽が燦燦と登っている。
それに、地面に放置されていたはずなのに長の家のベットに寝かされている。
止めを刺されるはずだった、あの状況下で誰かが助けてくれたのだろう。
「わかるよー。みんな、ありがとうなんだよー」
「ちぇんのばか! ばかばかばか!!」
れいむのぴこぴこが病み上がりの体を襲うが、甘んじてちぇんは受け止めた。
「むきゅん、ほんとうにおばかさんね!」
「おさ…」
夫婦の営みを壊すかのように、長のぱちゅりーが怒りの形相でちぇんを見る。
「まったく、なにをかんがえてれみりゃがでてくるじかんにかりをしてたのかしら」
「ごめんなんだねーおさー」
「いいわけはいいのよ! むきゅ!!」
「「ゆぴぃーっ!」」
怒鳴るぱちゅりーに二匹は体を寄り添わせる。
だが、ぱちゅりの目尻に湿っぽい物を見つけたちぇんは真摯に謝った。
「ほんとにごめんねーなんだよ。ぱちゅりー。おちびちゃんのためにごはんさんをたくさんとってきてあげたかっただけなんだよー」
「でも、おきてやぶりはゆっくりできないわ!」
「そうなんだねーわかるよー」
居場所狭しとれいむは二匹を交互に見渡す。
「でも、きょうはちぇんがいきていたことにかんしゃしましょう!」
「「ゆゆ?」」
クエスチョンマークを頭上に掲げた二匹は長の案内されるがままに広場に連れて行かれた。
「みんな! ちぇんがかえってきたわよ!!」
群れの全員、総勢23匹の成体ゆっくりとその子供たちが歓喜の声で迎え出てくれたのだ。
「「「「「「「ゆっくりしていってね!」」」」」」
飛び跳ねながらちぇんの復帰を歓迎する大人たちの間に、3匹の子ゆっくりが佇んでいた。
「おちびちゃんたち……」
恐る恐る、ちぇんは3匹の下にたどり着き、その顔触れを眺めて涙ながらに叫んだ。
「ゆっくりしていってねー!!!」
1-2
父ちぇんが群れに帰った、その翌日の夕方。
「おとーさん、おかーさん、ただいまなんだねー」
長女のちぇんが父親代わりの狩りに行ってきたばかりだった。
まだ病み上がりということで、群れの大人たちについて行って一生懸命働いたのだ。
「ゆっくり、おかえりなさい」
母れいむが出迎え、今日の収穫を長女の帽子から取り下ろした。
「ゆゆ! おちびちゃんはかりのてんさいだね!!」
そこには父ちぇんが何時も集めてくるよりもたくさんの量のご飯が散らばっていた。
「ゆゆ、みんながおすそわけしてくれたからなんだよーわかってねー」
照れ隠しをしながら長女のちぇんは母れいむと一緒に採ってきた物を倉庫へと持ち運んで行った。
その後ろ姿を、未だに体が良く動かない父ちぇんが眺めてほっと一息、長女の頑張りを喜んだ。
(これなら、どこにいってもあんしんなんだねーわかるよー)
大人になれば、集団でこの場所から離れて新たなる地に移住する。
これはこの山に住むゆっくりの頭数調整のために自然的に生まれた掟である。
父ちぇんも幼馴染の母れいむとその仲間たちと共にこの地を開拓したのだ。
あの時と、れみりゃに襲われることと比べたら大差もなく、今生きていることが少しありがたいと思えた。
「みんな! ごはんのじかんだよ!!」
体を引きづりながら食堂へと向かう父ちぇんの横を二匹の子ゆっくりが横切った。
「ゆわーい! きょうのごはんさんだよぉ!!」
「ごはんさんはでいぶのものだよ!! ゆっくりしないではやくたべさせてね!!」
長女とは違って優秀とは言えないこの二匹が父ちぇんにとってはネックであった。
次女れいむはただゆっくりしているだけのマイペースなゆっくりなのでお嫁さんに向いているだろう。
だが、末っ子れいむは甘やかせてしまったのが悪かったのか、茄子型に太りでいぶになりつつある。
このままでは開拓の途中に置いていかれるに違いないと父ちぇんは思うのだが、
一度愛してしまった子供に叱咤するのはいかほどのものかと躊躇っている部分がある。
「ゆっくりいただきますなんだねー」
ゆっくりとしか使えない口で今日とれた草をムシャリと咀嚼するが、
ほとんどの食べ物を子れいむ達が食べてしまい、残りかすをぺろぺろと掬い取った。
「ごちそうさまなんだねー」
折角、長女ちぇんが初めて採ったごはんだったのにとしょんぼりするが、
気を取り直してちぇんは再び眠ることにした。
1-3
数日が経った。
体が動かせるようになり、父ちぇんは長女のちぇんと一緒に狩りをすることにした。
「おとーさんとかりにいけるなんて、うれしいよ!」
訛った体を動かすのと、長女に自分の父としてのカッコいい姿を見せるためにも父ちぇんははりきって見せた。
「ゆっくりがんばるよ!」
いつもの狩り場である群れ近くの野原で父ちぇんは決意を堅く、狩りに挑んだ。
「ちょうちょさんなんだねー!」
パタパタと飛ぶ蝶々を自慢のあんよで追いかけては見るものの、体が未だ疲れているのか全く追いつけない。
「ま、まつんだねー!!」
その横を群れのまりさが走りぬき、口でくわえた帽子で蝶々をとって見せた。
「ゆひひ、ちぇんにはわるいのぜ!」
「にゃ~~~」
何時もなら自慢のあんよで、悪態をついているのは自分のほうなのに、今日はお株を奪われてしまった。
だが、そんなことで諦めるほど父ちぇんは弱くない。
「にゃ! そこにもいたんだね!!」
花の蜜を吸うという絶好のチャンスに父ちぇんは目をつけて駆け出すが、
今度は独身れいむに先を越されてしまった。
「ゆっくりごめんね!」
パッチリお目目で似合わないウィンクをされたのにも苛立ったが、
れいむにまで狩りで負けてしまうのはとても悔しかった。
「にゃー…しかたないんだねー」
これ以上、飛んだり跳ねたりの狩りはできないとわかった父ちぇんはそこらじゅうに生えている食べられる草を摘むことにした。
「にゃにゃ! そういえば、おちびちゃんは?」
自分のことで精いっぱいだった父ちぇんはすっかり長女ちぇんのことを忘れていた。
視界のどこにもおらず、どこか別の場所で狩りをしているのだろう。
「わ、わからないよ!!!??」
狩り場のことに詳しくないはずなので、最悪れみりゃが住んでいる場所を通過しているかもしれない。
「ど、どうしよう!!」
元気なころの父ちぇんならば真っ先に飛んでいくところだったが、
れみりゃに襲われた傷が疼いてあんよが動かない。
「わ、わからないよ~!!」
最悪、自分がされたような事を長女ちぇんにも、と考えたら父ちぇんは居てもたっても居られなくなった。
体をぶるぶるふるわせて恐ろしーしーが出んばかりになっている父ちぇんの下に長女ちぇんは帰ってきた。
「おとーさんどうしたの? わからないよー」
何食わぬ顔で佇む長女ちぇんに、父ちぇんは涙を隠すことはできなかった。
「よがっだ~~!!!」
何が良かったのか分からない長女ちぇんは、とりあえず父ちぇんの頬にすーりすーりをした。
「おとーさん、ゆっくりおちついてね」
すーりすーりを続け、父ちぇんは段々と落ち着きを戻し、長女ちぇんに面と向かった。
「おちびちゃんどうしてたの! おとうさんしんぱいだったんだよ!! わかれよー!!」
「それは、おとうさんがはしってどっかいっちゃったから」
「にゃ?」
よくよく考えれば、対抗心をガソリンにエンジンを吹かして暴走していたのは自分のほうであった。
「そ、それはごめんなさいなんだねー」
父ちぇんはぺこりと頭を下げた。
「あれ? おちびちゃんのおぼうし…」
ちらりと見えた長女ちぇんの帽子の中には以前、大人に交じって狩りに居た時と同様の量のご飯が詰まっていた。
「にゃ! みてみて、おとーさん! たくさんとれたんだよーわかってねー!!」
興奮気味に帽子の中身を見せてくれる長女ちぇんに唖然とした。
「にゃ、とってもたくさん……ちょうちょさんも」
狩りを教えるどころか、長女ちぇんは通常運航の父ちぇんよりもたくさんご飯を採っていたのだ。
「にゃ! それはまさか!!」
しかも、ゆっくりには珍しい野ネズミの死体まで。
「おちびちゃんはすごいね……」
父ちぇんのしょぼくれた面に、長女ちぇんは再度すーりすーりをして慰める。
「おとーさん……ねずみさん、たべていいよ」
「にゃ!?」
野ネズミはとっても貴重なご飯で、生きているうちに食べれるかどうかの代物である。
また、猫に近いちぇん種にとっては御馳走以上の何物でもない。
それを今ここで食べられるのはとっても嬉しいが、娘の手前それはできなかった。
「い、いいよ。おとーさんはいいからちぇんがたべるといいんだよー」
涎を垂らしながら反対する父ちぇんに長女ちぇんはくすりと笑って返した。
「おとーさん、ねずみさんをたべてはやくなおってね!」
「おちびちゃん…」
父ちぇんは泣きながら野ネズミのはらわたを齧った。
「にゃ、おいしいよ~!」
ガッツガッツと息一つ入れず父ちぇんは娘のプレゼントをむさぼり食べた。
そんな父の姿を長女ちぇんはルビーのお目目で垣間見た。
「よかったね、おとーさん」
長女ちぇんがどこかへ行こうとしていたので、父ちぇんはそれを咎めた。
「もうどっかにいっちゃだめだよー」
自分の体力が低下していることもあって、長女ちぇんを遠くには行かせたくなかったのだ。
「だいじょうぶ! もうすこしかりをするだけだよーわかってねー」
「おちびちゃーん!」
どんなゆっくりよりも速いあんよで、長女ちぇんは駆けだしてしまった。
「にゃー…」
娘に追いつけない自分を責める一方で、どこか長女ちぇんが大人になっていくヴィジョンも見えたのだ。
「とりあえず……だいじょうぶだよねー」
ゆっくりらしいポジティブな考えで、ひとまず長女ちぇんに任せ、野ネズミを食べる作業に戻った。
「むーしゃむーしゃするんだねー…ゆっ!」
ねずみのヒゲの部分が父ちぇんの鼻の部分をかすった。
「ゆっくちん!!」
大きなくしゃみと共に何かが体から飛び出てしまった感触を受けた。
「にゃにゃ?」
くしゃみの時に閉じてしまったまぶたをそっと開けて見せる。
「にゃ……わ、わか」
父ちぇんの左半分が見えなくなっていたのだ。
「わからないよ……」
恐る恐る左目を動かしてみせるが、何の感触も受け付けない。
「にゃにゃにゃ!!」
右目を動かしてみると、少し離れたところに父ちぇんの橙色の目が転がっていた。
1-4
(どうしよう……わからないよー…)
なんとか左目を嵌め直した父ちぇんはとぼとぼと群れの途中まで歩きながら考えていた。
一体、どうして自分の目が取れてしまったのだろうか。
それに、取れた目の辺りからゆっくり出来ない匂いが漏れ出してきている。
「わからないよぉお」
ぽっかりと空いた左目の穴からちょぼちょぼと涙が溢れそうになった。
「ゆゆ! ちぇん!! ゆっくりしていってね!!」
そんな帰り際に、背後から一匹のまりさが声をかけてきた。
「ゆっくりしていってね!」
父ちぇんは急いで左目をつぶり、まりさに振り返った。
「ゆゆ、ちょっとくさいのぜ?」
「にゃ、なんでもないんだよーわかってねー」
すんすんと鼻を啜るまりさはピンと来たかのように含み笑いをした。
「……もしかしておもらししたのぜ!?」
「ち、ちがうよー!」
父ちぇんは飛び跳ねて抗議するが、まりさは鼻につく臭いに疑問を隠せずには居られなかった。
「ゆーん、でもにおうのぜ?」
まりさは父ちぇんのしーしー穴とうんうん穴を見たがどちらも漏らした跡がないのを確認した。
それでも、父ちぇんから臭う異臭にまりさはハッと顔色を変えた。
「もしかして、げーげーさんじゃないのかぜ?」
体調が完全でない父ちぇんであれば、激しい狩りの運動でゲロをはいてしまう可能性もある。
「ご、ごめんなのぜ。ひどいこといって…」
心根が優しいまりさは自分の無礼を詫びた。
「にゃーん……」
勝手に謝られてしまってもと父ちぇんは思うが、これで事が収束するのなら致し方ないと黙っておいた。
「それよりも、ちぇんのおちびちゃん。とってもすごかったのぜ!」
まりさは花が開くように笑顔で語り始めた。
「むれいちばんのあんよのはやいちぇんがかんたんにおいぬかれててないてたのぜ」
「にゃにゃ?」
「ちょうちょさんとりのときにかちあって、かけっこしてたのぜ。
もうれつにゆっくりできないはやさでちぇんのおちびちゃんがはしって、
ちょうちょさんをてにいれてたのぜ!!」
「にゃぁ…」
「それに、むれいちばんのかりのたつじんのまりさよりもたくさんきのみをてにいれてたのぜ!!」
「にゃ! ちぇんもおちびちゃんのかりのせいかをみたけど…」
「あのおちびちゃんはほんとうにすごいゆっくりなのぜ。
おとなのゆっくりよりもゆうしゅうなゆっくりなのぜ!」
「にゃにもそこまで…」
「うそじゃないのぜ! ちぇんのおちびちゃんはしょうらいおさになるのはかくていてきにあきらかなのぜ!!」
まりさが興奮気味に語っているところに突如、長のぱちゅりーが乱入した。
「むきゅ、そうね」
「「おさ!!」」
「ぱちぇもそうおもうわ。おちびちゃんはぱちぇのはなしをよくきいてたし、かりのうでもすごい。
ゆっくりのなかのゆっくりよ。
こんどのかいたくだんのりーだーとしてにんめいするつもりだわ」
開拓団の言葉を聞いてちぇんはあわてて反論した。
「そ、それははやすぎるんだねー! わかってよー」
しかし、ぱちゅりーは首を振ってちぇんの言葉を否定した。
「むきゅ、あのこもいいとしごろなのよ。それに、かりにさんかしているってことはおとなのしょうこよ」
「でも…」
「ちぇん、まりさもおさがただしいとおもうのぜ」
「まりさまで!?」
「ちぇんのおちびはてんさいなのかもしれないのぜ」
「てんさい?」
「きっと、すばらしいおさになるとおもうのぜ!」
「にゃが……」
これ以上何も言えなかったちぇんは、少量の成果とともに帰途に就いた。
その間、ずっと長女のちぇんのことを考えた。
あの子がいなければ、きっと次女と末っ子を養うことはできないだろう。
また、自分の代わりとして父親役をかってほしかった。
このままでは、次女と末っ子は強制的に未熟のまま群れを追い出されるのかもしれない。
「わからないよぉ」
父親らしい悩みを抱えながら日は地平線へと沈んでいった。
1-5
日増しに父ちぇんの体は弱ってゆき、体臭が隠せないほどまでになってしまった。
そして、なによりも体の部分が徐々に溶けるように腐っていくのだ。
痛みは全く感じず、ただバターのように体が崩れてゆく。
「にゃが…」
外に出る事は許されず、体が全く動かない。
狩りに関しては長女に頼みっぱなしで、父親らしいことは何もできず。
タダ飯ぐらいの汚名を被ってちぇんのプライドはズダズタになってしまった。
「わがらないよぉ……」
パクパクと金魚のように口が動く父ちぇん。
その傍には番いのれいむと次女のれいむが掛かりっきりで看病していた。
末っ子はといえば、家の空気が臭くて餌の時間にしか帰ってこなくなってしまったのだ。
近所付き合いも最悪で、悪臭を垂れ流す父ちぇんいっかの周りからゆっくりがたちのいてしまった。
それでも、番いれいむの厚い愛情と予想外の優しさを見せてくれた次女れいむにちぇんは救われた。
「おとーさん、しっかりしてね!」
次女れいむの泣きそうな声を聞きながら、父ちぇんは必死にその言葉に答えようと目を見開いて見せる。
「だ、だいじょうぶなんだねー」
ガラガラの声で返事をし返すが、それが精いっぱいだった。
(わがらないよーわがらないよー)
ただ、呪詛の言葉が体中を跳ねくり回ってゆっくりできなかった。
いったい、どうしてこんなことになったのだろう。
左目が取れてしまってからすべてがパーになってしまった。
確かに、生きていることは奇跡だったのだけれど、
こんな終わり方でよいのだろうか。
そして、何よりも長女ちぇんが怖かった。
最初のことは何ともなかったのに、
最近では長女ちぇんの目を見るのが怖くなったのだ。
当初は何ともなかったのに、赤く光る面妖な視線がちぇんの体を痺れさせるのだ。
それが、徐々に強くなり、最近では痛みを発するほどになってしまった。
ああ、なんでこんなことになってしまったのだろう。
「もっとゆ…」
絶望に足を取られる前に父ちぇんは立ち直った。
1-6
長女ちぇんは今日も狩りに出かけた。
ゆっくりできない臭いがすると他のゆっくり立ちからは遠のかれたが、
長女ちぇんには何の苦にもならなかった。
ただ、家族の安寧だけを願って狩りをするだけだ。
狩りに出かけようと家を出たところで、末っ子れいむが取り巻きたちと一緒に絡まれた。
「おい、どれい! きょうもたのんだよ!!」
「そうなのぜ! まりささまのぶんもとってくるのぜ!
さもないと、ちぇんのおやじをゆっくりさせなくしてやるのぜ!!
いや、もうゆっくりしてないのぜ!?」
「「「ゆぷぷぷぷぷぷぷ!!!!」」」
自分の父親が笑いの種にされても平然としている、いやそれ以上に本心から笑っている末っ子れいむに長女ちぇんはへどが出た。
「ふん…」
鼻息で青二才の連中を払いのけ、長女ちぇんは狩りへ向かう。
「ちょっとまつのぜ!!」
一番ガタイのでかいまりさが長女ちぇんの行く手を阻んだ。
「なかなかのびゆっくりなのぜ」
長女ちぇんは父親代わりに狩りをしているせいか、ゆっくりにとってはスポーティでスタイルの良いゆっくりだった。
おまけに、長女ちぇんの持つ赤いローズレッドの髪はとても魅力的だったのだ。
「いっぱつ、すっきりーさせろなのぜ!」
瞬間、長女ちぇんは大きな口を開け、まりさの勃起したぺにぺにを噛み千切った。
「ぺっ!」
「ななななななな、まりさのぺにぺにがぁあああああああああああああああああ!!!!!」
長女ちぇんはニヒルに答えた。
「これで、すっきりーだね。わかるよー」
「ゆぎゃぁああああああああああああ!!!!!!!」
恐ろしーしーの水たまりが栓を失った股間から大量に漏れ出す。
だが、中身が漏れ出すことは一切なかった。
「ちゃんと、ぺにぺにだけきってあげたんだよー。わかれよー」
狩りで鍛えた卓越した技術でぺにぺにだけを切断し、まりさを女にしてやったのだ。
本来ならそのまま噛み殺してしまいたいとことだったが、問題を起こして一家が追放されたら厄介だ。
「それじゃあ、いく「まつのぜぇえええええええ!!!!」」
他の若いまりさたちが一斉に木の枝を持って長女ちぇんを囲む。
「どれいのくせになまいきなのぜぇええええ!!!」
わんやわんやと叫ぶ中に末っ子れいむが長ちぇんに吐き捨てた。
「どれいふぜいがぁあああああ!!!!ちょうしにのりすぎなんだよぉおおお!!!!!!!!!」
優秀な長女ちぇんを奴隷扱いして、自分の身をごまかそうとするガキどもに長女ちぇんは辟易した。
いっそのこと、末っ子だけでも殺しておこうかと身を引いたところに待ったの声がかかる。
「むきゅ! そこまでよ!!!」
それは、紛れもない長ぱちゅりーの姿だった。
「しょうらいのおさをころさせはしないわ」
1-7
ぱちゅりーの家に連れていかれた長女ちぇんは今から始まる話の内容に恐れを感じていた。
「ちぇんをみっかごのかいたくだんのおさににんめいするわ」
これ以上風評被害を受けないためにも、長女ちぇんがリーダーになる必要があった。
リーダーには評価というものが付き物だ。
皆が納得しないリーダーはいずれ崩壊する。
現役で素晴らしい狩りの腕を見せつけ、若いゆっくり達の関心を集めている今を逃してはならないのだ。
ならず者のゆっくり達を除いて。
「ちぇんはおとーさんやおかーさんのせわでいそがしいんだよ、わかってねー」
「いづれはおやばなれをしないといけないのよ!」
断固としてその言葉を通そうとする意図が見えた長女ちぇんは何も言い返せなかった。
「たしかに、ちぇんのおとーさんはたいへんなことになってるわ。
でもね、いつかはおとなになるのよ。
そして、いつかどこかでしななきゃならないのよ」
その言葉にムッとした長女ちぇんは言い返した。
「とってもむせきにんなんだねー。
おとーさんにしねっていってるようにきこえるんだよーわかれよー!!」
「たしかに、そうきこえるのかもしれないわね。
でもね、ぱちぇたちゆっくりはゆっくりするためにいきているのよ」
「それがいまなんだからほっといてほしいんだよー」
「それじゃ、だめなのよ。かんじょうのままにいきることはだれにだってできるわ」
冷静に考えれば、全体主義的に考えればぱちゅリーの言葉はごもっともなのかもしれない。
でも、長女ちぇん個人の心には強い矛盾が沸き起こるだけだった。
「ちぇんは、おとーさんとおかーさんがすきなんだよ…」
「わかっているわ。
ちぇんのおとーさんがいなくなったときに、いちばんかなしかったのはちぇんよね」
「………」
「でも、ちぇんのおとーさんはとつぜん、きずだらけのすがたでわたしのいえのまえにあらわれた」
長女ちぇんは口内の肉を歯噛みした。
「いったい、だれがちぇんをたすけてくれたのかはわからないわ。
いろいろききこみもしたのだけれど……
あのときから、なにもかもかわってしまったのね………」
しんみりとした空気を打ち破るように外から大きな声が聞こえた。
「おさ! たいへんだよ!!」
突如走りこんできたまりさが長に向かってこう告げた。
「れみりゃがちぇんのいえにむかってるのぜ!!」
「むぎゅ!? それって……」
「きっと、においでばれたのぜ!!」
蒼褪める長女ちぇんは一目散に自分の家へと戻った。
エデンの東へ
2-1
次女れいむが生まれようとしていた時だった。
植物型出産によって作られた3匹の中の真ん中の子であった。
前にはちぇんの二股の尻尾が見え、意識が薄弱ながらもこれが姉だということが良く分かった。
だが、事件は唐突に起こった。
それは、誰もが眠っている真夜中のこと。
プルプルと体を震わせながら頭の上についている茎から離れようとする次女れいむは見てしまったのだ。
お飾りを被っていないちぇんが長女のちぇんを食べてしまっていたのだ。
むーしゃむーしゃと聞こえるその声に恐ろしーしーを漏らしたが、
飾りなしのちぇんは無視して、長女を咀嚼していた。
(どぼじでぞんなごどしゅるにょぉおおおおお!!!)
叫んでやりたかったが、生まれようとしているときだったので口がうまく動かない。
ただ、涙としーしーだけが漏れ出すばかりであった。
飾りなしのちぇんが食事を終えると、こんどは長女ちぇんの物であった帽子を口で摘まんだ。
「…ちび……ん……ちぇ……」
ぼそぼそと聞こえる声に、次女れいむは不思議なことに母性を感じた。
そこからの記憶は、次女れいむの再度の眠りの記憶とともに打ち切られた。
2-2
次女れいむはゆっくりしすぎたゆっくりであった。
そのため、周りからはゆっくりしすぎだといわれ、劣等感を良く感じていた。
しかし、長女のちぇんはそうでもなかった。
他のどのちぇんよりもかけっこが速く、まりさよりも喧嘩が強く、みょんよりも枝の使い方が上手であった。
そんな姉を持つ次女れいむはさらに強い劣等感を抱いた。
末っ子れいむもそうであった。
さらに言えば、次女れいむと長女れいむを比較しながら育ったのでゆっくりらしいゆっくりになるのが馬鹿げてきたのだ。
そのため、末っ子れいむはでいぶの道へと歩むことになったのだが。
話は戻して、次女れいむは末っ子れいむとは違い、根がとっても優しいゆっくりだった。
そのため、他のゆっくりにちょっかいをかけられることもしばしば。
「れいむはまぬけなゆっくりなのじぇ~」
お飾りをまりちゃに取られて泣く泣く追いかける次女れいむ。
だが、身体能力が種族的に劣っているので追いつけない。
しかも、まりちゃは無邪気な心でいたずらをしているためお飾りがいかに大切なものかを分かっていないのだ。
もし、転んだりして口に咥えられたお飾りが破けたらどうなるのか。想像力が欠如している。
「かえぢで~!!」
「へへ~ん、いやなのじぇ~――ゆべッ!」
前を見ずに走っていたせいで、まりちゃは自分よりも一回り大きいゆっくりにぶつかった。
「いったいだれなのじぇ! まりちゃしゃまのかりぇいなあんよをとみぇるげすは!!」
「ちぇんなんだねーわかれよー」
「おねーちゃん…」
それは紛れもない長女ちぇんであった。
この長女ちぇんは成長が通常よりも早く、体と頭脳がほかの子ゆっくりよりも成体へと近づいていたのだ。
そんな、ゆっくりを前にまりちゃは震えながら長女ちぇんの目線から逃れようとした。
「ちゃんとかえしてあげるんだよー」
「わ、わかっちぇるのぜ……」
以前、一番大きいガキ大将のまりちゃを圧倒したのを知っていたまりちゃは、すぐさま口からお飾りを離した。
「こ、こりぇで…」
「ちゃんとあやまるんだよーわかるねー?」
ドスの利いた声にビビり、まりさはれいむのほうを向いて何度も土下座をした。
「ごごごご、ごめんなさいなのじぇぇえええええええ!!!」
恐ろしーしーと共にまりさはその場から逃げ去った。
「これでだいじょうぶなんだねー」
長女ちぇんは次女れいむのお飾りを拾ってあげると、それを頭の上に結びなおしてあげた。
「れいむはびゆっくりだからちょっかいをかけられるんだよーわかるよー」
ニコニコとれいむに微笑むちぇんに次女れいむは頬が赤くなった。
「そ、そんなわけないよ! もう、からかわないでね!!」
「うそじゃないんだねーわかれよー」
長女ちぇんのお世辞に次女れいむは少し嬉しかった。
「……っ!」
「にゃ? どうしたの?」
ただ、あの時の光景が目に焼き付いて離れなくて、れいむは長女ちぇんの優しさが本物なのかが信じられなかった。
2-3
父と母、そして長女ちぇんは次女れいむに優しかった。
強い劣等感を抱いていた次女れいむにとって唯一の救いでもあった。
大人になるにつれ、他に友達もでき始め、次第に家族への依存はなくなった。
だが、長女ちぇんにだけは得体の知れない感情だけが残ったまんまであった。
「れいむにおねーさんって、とってもゆっくりしてるね!!」
友達のれいむが次女れいむに果敢に話をしてくる。
次女れいむには長女ちぇんを目当てにしてくる子が多い。
どれをとっても一級品の優等生である長女ちぇんは正に高嶺の花であった。
「そうよ、あのちぇんはきっとかいたくだんのおさになって、わたしたちをみちびいてくれるわ!」
ありすが声高々に言うと、周りのゆっくりも賛同しながら自分たちの意見をぶつけ合いながら論議していた。
そんな中、自分の姉妹の話をされても肩身が狭い次女れいむはただ、黙ってその場でとりのこされることしかできなかった。
「ねぇ、れいむはちぇんのことをどうおもっているの?」
「ゆゆ?」
「れいむだって、ちぇんとけっこんできるのよ?」
ゆっくりの間では姉妹同士の結婚が普通にある。
人間ならばインセストタブーや心理的な面で近親相姦はありえないのだが、
ゆっくりにおいては前者後者の憂いは全くない。
突然の質問にどぎまぎしながら次女れいむは考えてみた。
確かに、長女ちぇんはとても魅力的なゆっくりである。
姉妹でなければ高嶺の花としてずっと見続けていたのだろう。
いや、兄弟かどうかもあやふやなゆっくりにどんな査定を出せばよいのか。
「ゆゆ~」
プスンプスンと頭から煙が出そうになる次女れいむは答えを迷った。
長女ちぇんに対して自分はどんな思いを抱えているのだろうか。
「わからないよ~」
次女れいむは姉のまねをしてみせた。
2-4
ある日の夜のこと。
「ごはんさんがたりないよ! どれいはゆっくりしないでかりにいってきてね!!」
「にゃーん、おちびちゃん、おそとはゆっくりできないんだよ?」
末っ子れいむが癇癪を起こし、父ちぇんはどうすればいいのか分からなかった。
どうも、末っ子れいむはお腹が空きやすいタイプで日ごとに食べる量が増していっている。
そのせいで、お腹回りも茄子型になってしまうほどに。
もし、見識のあるゆっくりであれば、これがでいぶであるとわかるのだが、
残念ながらでいぶを見たことがないちぇん親子にとってはかわいい子供のだだっこであった。
「わかったよー、ちぇんがかりにいってあげるから」
「ちぇん! それはゆっくりできないよ!」
どれいははやくいけ、だのと叫ぶ末っ子れいむを尻目に長女ちぇんと次女れいむも反対した。
「そとはあぶないんだねーわかれよー」
「そ、そうだよ! おともだちからきいたけど、れみりゃがこのあたりにいるっていってたよ!!」
「すこし、かりをするだけならだいじょうぶなんだねー」
父ちぇんは子供たちを安心させるために笑顔を作り、そのまま駆け足で狩り場へと向かった。
「ゆっくりしないではやくかえってくるんだよ! このくそどれいっ!!」
そして、父ちぇんは瀕死の状態でぱちゅりーの家の前に現れるのだった。
次女れいむはあの時のことを克明に覚えている。
母は泣き叫んで父ちぇんの名前を何度も叫び、
自分はただ、悲しむだけで涙をずっと流し続け、
末っ子れいむはというと、悪態をつきながらも少しだけ心配する振りを見せ、
そして、長女ちぇんは歯を噛みしめて震えていた。
2-5
その後、長女ちぇんが初めての狩りをした時の話。
自分たちの盛大で大人のまねごとをするのは長女ちぇんが最初だろうといわれていたが、まさにその通りであった。
「おとーさん、おかーさん。ただいまなんだねー」
沢山のご飯を持ってきた長女ちぇんに次女れいむは驚かざるを得なかった。
長女ちぇんは他の皆に援助をしてもらったと言っているが、次女れいむは違うことを知っていた。
なぜなら、先ほどまで外でゆっくりしていた時に大人たちの会話を聞いていたからだ。
曰く、とんでもない速さで蝶を追いかけていただの、草を見分けるのがとても上手だったとか。
誇らしい気持ちと一緒に長女ちぇんが自分の姉ではないという確信が深まる一方であった。
だが、長女ちぇんはいつも家族に優しかった。
力があるのにそれを振るおうとはせず、ただ寡黙に力を良い方向へと使っていたからだ。
例えば、いじめられているゆっくりを助けるためにいじめっ子をしめたり、
お腹のすいたゆっくりのために蝶をふるまったり。
「みんな! ごはんのじかんだよ!!」
思い出に浸っているところに母れいむの声が聞こえた。
次女れいむは長女ちぇんの採ってきたご飯に手をつけようか迷った。
だが、いつの日か言ってくれた言葉に頬を赤く染め、腹の空くままに食卓へと向かった。
2-6
父ちぇんの調子が悪くなって、全く動けなくなってしまった。
「おとーさん…」
とんでもなくゆっくりできない臭いを醸し出しながらも父ちぇんは生きていた。
両目はすでに取れてしまい、自慢の尻尾は二つとももげてしまい。
耳は頭の片面ごとくずれさり、ただの汚物として生きながらえていた。
「ゆっくりしていってね! おねがいだから、ゆっくりしていってね!!」
ペーろぺーろをする母に汚い物を見る目で見てしまうこともあったが、
次女れいむは一緒に看病に徹することにした。
はっきり言って、次女れいむにはそれぐらいしかやることがなかったからだ。
父ちぇんの影響で次女れいむからはしだいに友達が離れてゆき、また一人ぼっちになってしまった。
末っ子れいむは群れのやんちゃなゆっくり達と遅くまで行動を共にするようになってしまったし、
残されたのは自分と母れいむと長女ちぇん、父ちぇんのみであった。
「おとーさん…」
「わ、わがるよぉおお」
かろうじて返事が出来るだけの物と言ってしまえばよいだろう。
それでも、自分を愛してくれた一匹のゆっくりを袖には振れなかった。
2-7
そして、運命の日がやってきた。
「う~~~、びんてーじなにおいだど~」
ヨチヨチと両足を動かせながら迫ってくる胴付きのゆっくり、れみりゃ。
それを目の前にして次女れいむはただただポツンと見上げることしかできなかった。
「ゆっくじやべでね!! れびりゃはどごがにぎえでね!!」
泣きながら反抗をしようとする母れいむが父ちぇんの盾になるべく前に出た。
「わ…わがらないよぉ」
やめてと言っているように聞こえる父ちぇんの懇願は無視され、れみりゃは母れいむの髪をつかんだ。
「れみぃのじゃまをするやつは、ぽーい☆ だどー」
つかんだ片手を振りまわし、母れいむを地面に何度もたたきつける。
「ゆべっ、ゆぎゃ、ゆごっ、ゆひっ、ゆげぇ!!!」
欠けた歯が次女れいむの頬を掠る。
石を落した水面の様に飛び跳ねる母れいむの餡子は次女れいむを恐怖のどん底へ落した。
「しね、しね~だど~~」
「うぎぃいいいやぁああああああああ!!!!!!!!!」
ボロ雑巾のようになった母れいむの両顎を掴むと、こんどは力任せに真っ二つに引き裂いたのだ。
「がぁあああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!」
「うー、ばっちいどー☆」
物言わぬ二つの物体になった母れいむ。
最後まで痛みを食いしばってきた鬼の形相で果てた母れいむを次女れいむは涙ながらに見た。
だが、そんな事とはお構いなしにれみりゃは母れいむの死骸を踏み付けて、次女れいむの前に立つ。
「おまえはしょくごのでざーとだど」
「わ、わわわわわかりましたぁああ!!!!」
次女れいむのプライドは折られ、れみりゃの言いなりにならざるを得なかった。
「めいんでぃっしゅだど~~」
茫然と立ちすくむ次女れいむは服のあんこを払って父ちぇんに近づくれみりゃを見た。
「わ、わがら……」
両目がないはずなのに、自分を睨んで助けをこいている様に次女れいむはそう見えた。
「ご、ごめんなさい」
圧倒的暴力に組み伏せられたれいむは小声で謝った。
「さっそくたべるんだど~」
「ゆぎっ!」
腐って柔らかくなった父ちぇんの頭の部分にれみりゃの腕ごと浸かる。
「やわらかくてぷでぃんみたいだど~」
そのまま、父ちぇんのチョコを掬うとそれを口にした。
「あまあま、でりしゃす~!」
キャッキャと満足げに笑みを浮かべるれみりゃ。
「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ」
裏腹に強いダメージを受けて言語を司る部分をやられたちぇんは言葉にならない悲鳴を上げた。
「あ、ああ、ああ、、あ、あ、あ、ああ、」
「うーおもしろいんだどー!」
反射的に喋るおもちゃのようになってしまった父ちぇんに子供心を光らせたれみりゃが何度も何度も父ちぇんの頭に腕を埋める。
「うーうーう~♪」
「あぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎい」
凄惨な現場を見させられている次女れいむはただ、祈るしかなかった。
だれか助けて、と。
「にゃぁああああああああ!!!!!!!!!!!」
長女ちぇんの声とともにれみりゃが吹っ飛んだ。
2-8
「ぜったいにゆるさないんだねー!!」
父ちぇんの前には長女ちぇんが立ちはだかった。
肩で息を吸いながら、ゆっくりとれみりゃとの間合いを取り、牽制する。
「いたいどぉおお!!!」
顔を抑えながら立ちあがったれみりゃは長女ちぇんの顔を見た。
「もしかして、おまえ、あのときのちぇんだど!?」
「そうなんだねー」
あの時とはいつのことなのだろうか、次女れいむは分からずに会話を聞いた。
「おまえはぜったいにゆるさないんだど!!」
「ちぇんもゆるさないんだねー!!!」
長女ちぇんは帽子から枝を抜き取ると、先をれみりゃの胸に向けて掲げた。
「う~!! ぐーんぐにるだど!!」
れみりゃも負けじと、腰に差しておいた長女ちぇんの物よりもながい木の枝を取りだした。
「にゃあぁ……」
リーチで負けている以上、長女ちぇんは不利である。
おまけに身体能力は純粋にれみりゃのほうが上だ。
だからこそ、長女ちぇんは捨て身の覚悟で戦うことになる。
「うー!!」
れみりゃがぐーんぐにるを長女ちぇんの頭めがけて振り下ろす。
「にゃ!」
避けそびれたのか、帽子が引っ掛かって脱げてしまった。
だが、
「しねぇ!!!!」
帽子をお取りに、そのまま突貫しれみりゃの胸に一本の木の枝を刺し貫いた。
「うぎゃぁああああああ!!!!」
痛みで体を硬直させているれみりゃを尻目に、今度はれみりゃの右足を食いちぎって体のバランスを崩す。
「でびりゃのみぎあじがぁあああああああああああああ!!!!!!!」
れみりゃが手放したぐーんぐにるを口にくわえ、最後に頭を貫いて殺した。
「これでおわりだよ…」
しかし、全てを見ていた次女れいむは目を疑った。
「おねえちゃんじゃ……ない?」
「ちぇんは……あたいは……おねえちゃんじゃないんだよ」
2-9
長女ちぇんがまだ赤ちゃんゆっくりの時であった。
母親であるおりんに連れられてずっと旅をしていたのだ。
父親に関しては母おりんがなにも告げてくれなかったので知ることもないだろう。
母おりんは生粋の捕食種で、ゆっくりのゾンビを引き連れて群れを襲う悪いゆっくりであった。
そのため、群れの物からは忌み嫌われ、襲っては逃げを繰り返す毎日であった。
しかし、そんな生活に疲れてしまった母おりんはある決断をした。
それは、自分の娘にだけは普通の生活を送ってほしいというものであった。
だからといって、死臭が染みついた自分ではそんなことはできないだろう。
また、普通に暮らすといっても家の作り方や食べられる草や生き物についての知識がない。
ならば、ホトトギスのように托卵してしまえばいいのではと考えたのだ。
「おりん、おまえはきょうからちぇんになるんだよ?」
「にゃ?」
まだ物覚えが悪かったので、刷り込みをするには最適な時期だった。
そして、長女ちぇんが覚えている母親の唯一の声でもあったのだ。
誰もが寝静まる夜の空の下で、母おりんはとあるちぇん一家の家に侵入し、そこに赤ちゃんが作られているかどうかを確認した。
そして、あのちぇんとれいむの一家を見つけたのだ。
「ごめんね、おちびちゃん」
母おりんはそういうと、れいむのでこから生えている子ちぇんの帽子をきれいに取り去り、子ちぇんをそのまま丸呑みにした。
そして、残った帽子を自分の娘にかぶせた。
次女れいむが見ているとは気付かずに……
2-10
長女ちぇんは母親の意図を良く理解していた。かなり賢い個体であった。
それでも、最初は戸惑い、自分のことを「あたい」と呼んでしまうなどミスを犯したりしたが、父ちぇんは優しく言い間違えを正してくれた。
母親れいむも母性愛に満ちて優しかった。長女ちぇんにはしだいに家族愛を言う物が芽生えたのだ。
種族間を超えた強い感情であった。
だからこそ、この家族の一員になろうと必死に頑張ったのだ。
父が死にそうになっている時も、れみりゃから助けだし、自分の能力を使って生きながらえさせたのだ。
だが、結果は散々たるものとして終わってしまった。
「あたいはおりんなんだよ!!」
両親は非業の死を遂げ、自分の正体がばれてしまい、長女ちぇん改めおりんは自暴自棄になった。
「そうだよ、あたいはずっとだましてきたさ!! でもね、ほんとうにかぞくのことがすきだった!!!」
「おねえちゃん…」
「おねえちゃん、おねえちゃん、いわないで! あたいはおりんなんだよ」
「ちがうもん! おねえちゃんは「そこまでよ!!」ゆゆ!?」
長ぱちゅりーを筆頭に若いゆっくりたちがおりんの前に立ちはだかった。
「まさか、ちぇんがおりんだったなんて……」
おりんについて、ぱちゅりーは知っていたのだ。
かつて、たくさんの群れを襲い、辺境の地へと消えた伝説の悪魔。
その末裔であるおりんの素性を。
「ざんねんだけど、ちぇん……じゃなかった、おりんはむれからでていってもらうわ」
2-11
群れの皆が見守る中、帽子を脱いだおりんは辺境の地とよばれる何もない土地へと一匹、開拓に生かされることになった。
名目上は開拓であるが、実質死刑と何も変わりがない。
「どっかいけ、このくじゅうう!!!!」
末っ子れいむがおりんに唾を飛ばす。次いで、おりんの背中には、ぽつぽつと小石が飛んだ。
後ろを見れば、怒りの形相で睨みつけてくる、かつての群れの仲間たちがいた。
「さようなら」
おりんはなにも後悔はないと自分の心に決めながらゆっくりとあんよを進めた。
2-12
荒れ地が続く道を延々とおりんは歩く。
何もない場所が続き疲労が強いストレスへと変わっていく。
だが、おりんは諦めずに歩いた。
「……おー……ん! おねー……!!」
ふと、背後から聞こえる声に反応し背後を見る。
「れいむ……」
その姿はまごうことなき次女れいむであった。
「おねーちゃん…れいむもいっしょにいくよ!!」
「おりんはおねーちゃんじゃないんだよ!!」
「ちがうもん。おねーちゃんはおねーちゃんだもん!!」
「だから…「それなら、れいむをおよめさんにしてね!」……にゃ?」
れいむは真剣な顔つきでおりんに告白した。
「いっしょにゆっくりしてね」
「な、なにをいってるんだい!?」
「ひとりぼっちはだーめだーめだよ!!」
「れいむはびゆっ「れいむがほんとうにすきなのはおねーちゃんだもん!!」」
閑古鳥が鳴く荒野の地にれいむの叫びはこだました。
「ぜったいに、これからもいっしょだよ」
目をそらさないれいむの熱意に負け、おりんは頭をコクリと垂れた。
「わかったよ。わかったんだねー」
「ゆゆ! わかったんならそれでいいよ!!」
わーいわーいと声を上げながら無邪気に喜ぶれいむに笑みがこぼれた。
そして、おりんは絶対に生き延びてやろうと決心した。
「じゃあ、いこうか」
何もない大地に二匹のゆっくりは歩を進める。
だれも見守らないこの世界を、二人だけの世界を。
おわり