ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko4458 どうあがいても絶望
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ankoss
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『どうあがいても絶望』 33KB
制裁 ギャグ パロディ 戦闘 失礼します
制裁 ギャグ パロディ 戦闘 失礼します
※ オリキャラ無双
※ 「anko4147 ぐんまりさ迷子になる」のキャラが出てきます。
※ 人間さんが人間じゃないけど、いつものことです。
※ 微修正しました。
※ 「anko4147 ぐんまりさ迷子になる」のキャラが出てきます。
※ 人間さんが人間じゃないけど、いつものことです。
※ 微修正しました。
チートあき
「……ここどこなのぜ?」
まりさはぼんやりと部屋を見回した。
普通のまりさである。その帽子には緑と白の四角い地域ゆっくりバッジが付けられてい
た。白い部分には星シールがふたつ。リーダーなどの上級ゆっくりの証しだった。
開いていたケージから外に出て、周囲を見る。
普通のまりさである。その帽子には緑と白の四角い地域ゆっくりバッジが付けられてい
た。白い部分には星シールがふたつ。リーダーなどの上級ゆっくりの証しだった。
開いていたケージから外に出て、周囲を見る。
「まりさは、ほけんじょでけんこうしんだんをうけていたはずなんだぜ……」
三歳になった地域ゆっくりは、保健所で健康診断を受ける決まりだ。まりさはケージに
入れられ保健所に送られ、丸一日掛けて健康診断を受ける予定だった。
が、なぜか目の前に広がる謎の世界。
入れられ保健所に送られ、丸一日掛けて健康診断を受ける予定だった。
が、なぜか目の前に広がる謎の世界。
「ゆぅ……?」
黒い床や壁、天井。形はどこかの部屋なのだが、何故か見えるもの全てが黒い。黒い
インクで塗ったというより、闇を部屋の形に固めたような不気味さだ。窓の外には、赤い
空が広がっている。朝焼け夕焼けの赤ではなく、血のような赤だ。そこに黒い雲が浮か
んでいる。明らかにおかしい。
空のケージはあるのだが、中にいるべきゆっくりがいない。
まりさはケージの乗せてあった机から床に飛び降りる。
形のない恐怖を飲み込みながらも、そろーりそろーりと足を進める。
インクで塗ったというより、闇を部屋の形に固めたような不気味さだ。窓の外には、赤い
空が広がっている。朝焼け夕焼けの赤ではなく、血のような赤だ。そこに黒い雲が浮か
んでいる。明らかにおかしい。
空のケージはあるのだが、中にいるべきゆっくりがいない。
まりさはケージの乗せてあった机から床に飛び降りる。
形のない恐怖を飲み込みながらも、そろーりそろーりと足を進める。
「?」
ふと見知ったものが目に入った。赤いリボン。黒い髪の毛。れいむだった。まりさに背を
向け、じっと佇んでいる。
向け、じっと佇んでいる。
「れいむ、そこでなにし――」
まりさの声に、れいむが振り向いた。
顔のあちこちが欠け、液状の餡子を垂らしている。どう見てもまともな状態ではない。
白く濁った目に正気の色はなかった。
顔のあちこちが欠け、液状の餡子を垂らしている。どう見てもまともな状態ではない。
白く濁った目に正気の色はなかった。
「ゆああ……ああ……!」
「おばけええええっ!」
「おばけええええっ!」
もぞもぞと迫ってくるれいむに、まりさは逃げ出した。
「ふふ。がんばってね、まりさ」
どこからかその様子を眺める一匹のれいむ。
わらわらと廊下を進んでくるクリーチャーゆっくり。数は十匹ほど。
口に石を含み、まりさは大きく息を吸い込んだ。ぷくーのような威嚇ではなく、大きく息
を吐くために空気を含む。口の中の石を舌で唇に移し、
口に石を含み、まりさは大きく息を吸い込んだ。ぷくーのような威嚇ではなく、大きく息
を吐くために空気を含む。口の中の石を舌で唇に移し、
「ふっ!」
思い切り吹き出した。
「ゆぎっ」
クリーチャーれいむが顔面に石を喰らい倒れる。
口に丸い小石を含み、それを勢いよく吹き出す技術。地域ゆっくりのリーダーとして身
に付けてた攻撃術だった。威力は大きく、相手が基本種なら必殺には及ばないものの、
かなりのダメージを与えられる。
口に丸い小石を含み、それを勢いよく吹き出す技術。地域ゆっくりのリーダーとして身
に付けてた攻撃術だった。威力は大きく、相手が基本種なら必殺には及ばないものの、
かなりのダメージを与えられる。
「ふっ!」
「あぎっ」
「ふっ!」
「うぼぁ」
「あぎっ」
「ふっ!」
「うぼぁ」
何匹かのゆっくりを倒してから、まりさは帽子からメスを一本取り出した。建物内を移動
している時に見つけたものである。
それを口に咥え、まりさは走った。
している時に見つけたものである。
それを口に咥え、まりさは走った。
「ゆあああっ!」
シャッ、シュ、サクッ!
「いぎぎぃ」
「あぎゅ!」
「あぎゅ!」
たくみにメスを振り回し、クリーチャーゆっくりを切り捨てていく。見た目はおどおろどろ
しいが、クリーチャーゆっくりはさほど強くない。訓練を積んだまりさなら、数匹まとめて相
手にすることが可能だ。
しいが、クリーチャーゆっくりはさほど強くない。訓練を積んだまりさなら、数匹まとめて相
手にすることが可能だ。
「おおお……おお……」
しかし、廊下の奥から十数匹のクリーチャーが現われる。
まりさはメスを咥えたまま、後退した。
まりさはメスを咥えたまま、後退した。
「いくらやっつけてもきりがないんだぜ……! このままじゃやられるのぜ……!」
この謎の場所から脱出しようと建物内を探し回ること一時間。クリーチャーを倒すことは
簡単だが、疲労はゆっくりと確実に蓄積していく。いまだに出口は見つからない。このま
まではいずれやられてしまう。
簡単だが、疲労はゆっくりと確実に蓄積していく。いまだに出口は見つからない。このま
まではいずれやられてしまう。
「ばりざあぁ……」
「ごっぢよぉぉ……」
「ああっ、おお……」
「ごっぢよぉぉ……」
「ああっ、おお……」
見るとクリーチャーゆっくりが増えていた。数十匹へと。
その時だった。
その時だった。
「でやああッ!」
声が響いた。人間の男の声。
ドッ。
そして、まりさの頭上を衝撃が突き抜けた。
ゴガドガグシャ……!
空間が歪み、クリーチャーたちが吹き飛ばされる。声を上げる暇もない。一瞬で粉々の
飛沫となって、廊下の奥へと消えていった。
飛沫となって、廊下の奥へと消えていった。
「……えー……」
まりさは咥えていたメスを落とす。
砕けた窓ガラス、引き剥がされた廊下の床。壁には多数の亀裂が走っている。天井の
蛍光灯は残らず割れ、剥がれた天井板とともに床に散乱していた。まりさに近付いてい
たクリーチャーゆっくりたちは、跡形もなく消し飛んでいる。
圧倒的な破壊力。
カツカツ、と足音が近付いてくる。
砕けた窓ガラス、引き剥がされた廊下の床。壁には多数の亀裂が走っている。天井の
蛍光灯は残らず割れ、剥がれた天井板とともに床に散乱していた。まりさに近付いてい
たクリーチャーゆっくりたちは、跡形もなく消し飛んでいる。
圧倒的な破壊力。
カツカツ、と足音が近付いてくる。
「ほう。生身のまりさか。まだ生き残りがいたようだな」
まりさは振り向いた。
そこにいたのは、がっしりとした体躯の五十歳ほどの男だった。中分けにした黒い髪の
毛に、右目に浸けた片眼鏡。細いカイゼル髭と顎髭を生やしている。口には葉巻を咥え
ていた。服装は高級そうな紺色のスーツである。
そこにいたのは、がっしりとした体躯の五十歳ほどの男だった。中分けにした黒い髪の
毛に、右目に浸けた片眼鏡。細いカイゼル髭と顎髭を生やしている。口には葉巻を咥え
ていた。服装は高級そうな紺色のスーツである。
「……おじさん、なにものなのぜ?」
まりさは尋ねた。
ゆっくりとまりさを見下ろし、男は答えた。
ゆっくりとまりさを見下ろし、男は答えた。
「ワシか? ワシは公餡委員会の特一級ゆっくり技能士だ。同僚には衝撃のおじさんと
か呼ばれている。ちょっとゆっくりを一匹捕まえに来たのだよ」
か呼ばれている。ちょっとゆっくりを一匹捕まえに来たのだよ」
と、窓の外を眺める。
「こうあん……? とくいっきゅう……? なんか、すごそうなかたがきなのぜ」
嫌な予感を覚えつつ、まりさは呻いた。公餡という組織は知っている。しかし、具体的
に何をしているのかは、まりさはほとんど知らない。金バッジの試験を行っていることくら
いだ。その公餡の特一級。物凄いことはぼんやりと理解できる。
男は笑って顎髭を撫でる。
に何をしているのかは、まりさはほとんど知らない。金バッジの試験を行っていることくら
いだ。その公餡の特一級。物凄いことはぼんやりと理解できる。
男は笑って顎髭を撫でる。
「そうだな。プラチナバッジみたいなものだ」
「プラチナ……!?」
「プラチナ……!?」
なんかよく分からないが、絶対に関わってはいけない類の人間とは理解できた。
だが、もう手遅れらしい。
男がまりさを脇に抱え上げている。
だが、もう手遅れらしい。
男がまりさを脇に抱え上げている。
「では行くぞ、まりさ!」
「ど、どこへいくのぜ……?」
「ど、どこへいくのぜ……?」
まりさの問いに、男は窓の外を指差した。
赤い空に黒い雲は浮かんでいる異形の世界。
赤い空に黒い雲は浮かんでいる異形の世界。
「無論、この裏世界を作り出してるシズオカれいむの元へだ。まったく、あの莫迦者が。
健康診断で保険センターに連れて行ったら、何をトチ狂ったかシズオカタイム発動させ
やがってからに。これは、きっついお仕置きをしてやる必要があるな。くくくく……」
「ゆぅぅぅ」
健康診断で保険センターに連れて行ったら、何をトチ狂ったかシズオカタイム発動させ
やがってからに。これは、きっついお仕置きをしてやる必要があるな。くくくく……」
「ゆぅぅぅ」
これから自分がどんな目に遭うのかを想像し、まりさは涙を流した。
「とりあえず外に出るぞ」
男はそう言って、廊下を歩き出した。
やたらと広い玄関ホールへとやってくる。
保健所にはこんな場所は無いと記憶していたが、まりさの目の前にはちょっとした公園
並の空間があった。男の脇に抱えられたまま、階段からホールを見下ろす。
保健所にはこんな場所は無いと記憶していたが、まりさの目の前にはちょっとした公園
並の空間があった。男の脇に抱えられたまま、階段からホールを見下ろす。
「ゆぐぅぅ」
「おおぉ……」
「あぎっ、いぎゃゃぁああ……」
「おおぉ……」
「あぎっ、いぎゃゃぁああ……」
床に蠢くクリーチャーゆっくりたち。十匹や二十匹ではない。何百匹ものクリーチャーが、
もぞもぞと階段に近付いてくる。
もぞもぞと階段に近付いてくる。
「ゆんやあああ!」
あまりのおぞましさにまりさは悲鳴を上げた。
床だけではない。正面のガラス戸の向こうにも大量のクリーチャーが見える。まりさが
相手にしていたものの比ではない。文字通りのたくさん。
床だけではない。正面のガラス戸の向こうにも大量のクリーチャーが見える。まりさが
相手にしていたものの比ではない。文字通りのたくさん。
「なにこれ、なにこれ、なにこれええ!? なんかへんなのが、ものすっごくたくさんいる
んだぜえええ!? というか……これ、どうするんだぜええ! どうやってそとにいくんだ
ぜええ!?」
「愚問だな」
んだぜえええ!? というか……これ、どうするんだぜええ! どうやってそとにいくんだ
ぜええ!?」
「愚問だな」
薄く笑いながら、男はそう答えた。階段を叩く靴音。普通の人間なら逃げ出すだろうバ
ケモノの大群を相手に、普通に階段を下りていく。
おもむろに男は右腕を振り上げ、
ケモノの大群を相手に、普通に階段を下りていく。
おもむろに男は右腕を振り上げ、
「ふんっ」
振り抜く。
ドグォォン!
爆音とともに衝撃波がホールを駆け抜けた。
わらわらと階段に近付いていたクリーチャーたちが、一瞬で消える。波紋のように広が
る見えない空気の壁が、床ごとクリーチャーを剥ぎ取り、空中で粉々に粉砕していた。壁
に無数の亀裂が走り、天井が砕けて吹き飛ぶ。
わらわらと階段に近付いていたクリーチャーたちが、一瞬で消える。波紋のように広が
る見えない空気の壁が、床ごとクリーチャーを剥ぎ取り、空中で粉々に粉砕していた。壁
に無数の亀裂が走り、天井が砕けて吹き飛ぶ。
ゴガァンガジャァン!
さらに衝撃波は正面のガラス戸を粉砕し、外のクリーチャーを薙ぎ払った。
パラパラパラ……
埃や天井の破片が落ちてくる。
数百匹はいただろうクリーチャーたちは、残らず消えていた。
数百匹はいただろうクリーチャーたちは、残らず消えていた。
「ツッコミどころはいっかしょにしてほしいんだぜ……」
剥き出しになった床を見つめ、まりさは涙を流す。見ている方が馬鹿らしくなるほどの
圧倒的な破壊力だった。人間業ではない。
圧倒的な破壊力だった。人間業ではない。
「シズオカれいむの百匹や二百匹、ワシにかかればものの数ではない。まりさも大船に
乗ったつもりで裏世界観光を楽しんでくれたまへ。はっはっはっ!」
乗ったつもりで裏世界観光を楽しんでくれたまへ。はっはっはっ!」
自信たっぷりに宣言してから、男はのしのしとホールを進んだ。
どこかの暗い部屋。
れいむはテレビの前に座っていた。
れいむはテレビの前に座っていた。
「…………」
テレビに映っているのは、この裏世界の様子である。
散歩でもするような軽い足取りで道路を歩いていく男。その脇には一匹のまりさが抱え
られている。その頭上を飛び回っている飛行系のクリーチャーゆっくり。
散歩でもするような軽い足取りで道路を歩いていく男。その脇には一匹のまりさが抱え
られている。その頭上を飛び回っている飛行系のクリーチャーゆっくり。
パシュ、パシュン。
空中のれみりゃとふらんが消えた。
「これは超能力や魔術、魔法の類ではない。筋肉と関節を極限まで使い、超音速で腕を
動かし、発生させた衝撃波を飛ばしているのだ。言うなれば、人間の技術の極致のひと
つだろうな。細かい部分の技術は企業秘密だが」
「ゆー。それはすごいのぜー……」
動かし、発生させた衝撃波を飛ばしているのだ。言うなれば、人間の技術の極致のひと
つだろうな。細かい部分の技術は企業秘密だが」
「ゆー。それはすごいのぜー……」
男の説明にまりさがなげやりに応えている。
ぱたぱたと空を飛ぶれみりゃやふらん、羽付ききめぇ丸の飛行系クリーチャーゆっくり
たち。それをまりさを抱えた男が、見もせずに撃ち落としていた。軽く手を振るたびに、空
中のクリーチャー数匹が消し飛ぶ。
ぱたぱたと空を飛ぶれみりゃやふらん、羽付ききめぇ丸の飛行系クリーチャーゆっくり
たち。それをまりさを抱えた男が、見もせずに撃ち落としていた。軽く手を振るたびに、空
中のクリーチャー数匹が消し飛ぶ。
「……こまったね」
理不尽な光景を眺めながら、れいむは呟いた。
「りぐりぐりぐるー!」
「りーぐるー!」
「りーぐるー!」
地面から大量に現われたクリーチャーりぐるの群れ。
「おお、りぐるか。珍しい」
男は軽く跳ねて、その場で一回転した。爪先から発生した衝撃波が、りぐるの群れを
吹き飛ばし、ついでに周囲の電柱やビルを削っている。
りぐる最大の武器である圧倒的な物量もあっさりと退けていた。
吹き飛ばし、ついでに周囲の電柱やビルを削っている。
りぐる最大の武器である圧倒的な物量もあっさりと退けていた。
「このにんげんさん、にんげんじゃないよ。どうしよう……」
そうとしか言いようのない状況である。
シズオカれいむの作り出す裏世界。一種の夢のようなものだ。そこに人間やゆっくりの
精神を引き込んで、極めてリアルな仮想現実を体験させる。シズオカタイムの正体はそ
のようなものである。夢なので実際に死ぬことはないし、起きたら割とあっさりと忘れてし
まう。逆に裏世界を表世界に流し込むことで物理的な破壊力も作れるが、れいむ自身人
を驚かすのが目的なので殺傷力は必要ない。
ともあれ、ここはいわゆる夢なのだ。
そこにこの男は生身で乗り込んできた。現実と夢の境界をあっさりと踏み越えて。
シズオカれいむの作り出す裏世界。一種の夢のようなものだ。そこに人間やゆっくりの
精神を引き込んで、極めてリアルな仮想現実を体験させる。シズオカタイムの正体はそ
のようなものである。夢なので実際に死ぬことはないし、起きたら割とあっさりと忘れてし
まう。逆に裏世界を表世界に流し込むことで物理的な破壊力も作れるが、れいむ自身人
を驚かすのが目的なので殺傷力は必要ない。
ともあれ、ここはいわゆる夢なのだ。
そこにこの男は生身で乗り込んできた。現実と夢の境界をあっさりと踏み越えて。
ガガッ! ピーッ!
異音とともにテレビに走る砂嵐。
「ゆっ?」
「れいむ!」
「れいむ!」
画面一杯に男の顔が映った。
「ゆひっ!?」
顔を強張らせるれいむ。
男はテレビ越しにれいむを見据え、口を開いた。
男はテレビ越しにれいむを見据え、口を開いた。
「単刀直入に用件だけ告げる。シズオカれいむ、貴様への罰は――チキチキ! 第一回
シズオカれいむだけの168時間耐久すーぱーうるとらお説教ターイム。当然食事も休憩
も睡眠も一切無しよ――だ」
シズオカれいむだけの168時間耐久すーぱーうるとらお説教ターイム。当然食事も休憩
も睡眠も一切無しよ――だ」
意味はすぐに理解できなかったが、洒落にならない罰ということは理解した。
ちなみに、168時間は一週間である。
ちなみに、168時間は一週間である。
「これからワシ直々に貴様を捕まえに行く」
男が白い歯を見せた。
「降伏は無駄だ。全力で抵抗しろ」
ブツッ。
テレビが消える。
黒い画面を見つめ、れいむは冷や汗を流した。
黒い画面を見つめ、れいむは冷や汗を流した。
「…………マヂでどうしよう?」
適当に道を歩いていた男が足を止めた。
「おおおお……ぉぉぉ……」
「なんなんだぜ?」
「なんなんだぜ?」
突如聞こえてきた声に、まりさは周囲に視線を巡らせる。赤い空と黒い雲、影絵のよう
な黒い建物。時折何かのクリーチャーゆっくりが現われては、埃でも払うような気楽さで
男に吹き飛ばされている。
な黒い建物。時折何かのクリーチャーゆっくりが現われては、埃でも払うような気楽さで
男に吹き飛ばされている。
「ほほう」
男が真上を向いた。一緒にまりさも真上を向く。
「!」
肌色の丸いものが落ちてくる。周りに比較するものがないのでどれくらいの大きさかは
分からないが、それはとてつもなく大きかった。
分からないが、それはとてつもなく大きかった。
「はぁっ!」
男が腕を振り上げ、衝撃波を放つ。
もこっと凹み、大きな丸が横に逸れる。
さらに数秒後、爆音とともに近くのビルが潰れた。叩き付けるような風とともに、土煙や
小石が流れてくる。黄色の髪の毛が揺れ、お下げが跳ねた。
もこっと凹み、大きな丸が横に逸れる。
さらに数秒後、爆音とともに近くのビルが潰れた。叩き付けるような風とともに、土煙や
小石が流れてくる。黄色の髪の毛が揺れ、お下げが跳ねた。
「なんなんだぜえええ!?」
巨大な丸い物体。黄色い髪の毛を生やし、頭に黒い帽子を乗せている。ドスまりさだっ
た。しかし、その大きさは非常識だった。普通ドスまりさは二メートルから三メートルほど
である。目の前に現われたドスは周囲のビルの数倍はある。
た。しかし、その大きさは非常識だった。普通ドスまりさは二メートルから三メートルほど
である。目の前に現われたドスは周囲のビルの数倍はある。
「大きなドスだな。二十メートル級か」
男は楽しそうにドスを眺めていた。
「むもおおおん!」
咆哮を上げ、ドスが帽子にお下げを突っ込む。
取り出されたドスキノコ。一メートル以上はある巨大なキノコだった。
ドスはキノコを口に放り込み、咀嚼を始める。
取り出されたドスキノコ。一メートル以上はある巨大なキノコだった。
ドスはキノコを口に放り込み、咀嚼を始める。
「ドススパークを撃つ気のようだ。さて、まりさ。せっかくだからお前に選ばせてやる。どう
する? 撃たせてみるか、それとも止めるか? 結果は大して変わらんが」
「うたせちゃだめなのぜええ!」
する? 撃たせてみるか、それとも止めるか? 結果は大して変わらんが」
「うたせちゃだめなのぜええ!」
まりさは全力で叫んだ。
「つまらん」
不満げに口を尖らせ、男が右手を前に出した。手の平を上に向け、薬指と小指を軽く握
り込み、中指と親指の先をあわせる。
り込み、中指と親指の先をあわせる。
パチッ。
男の指が鳴った。
ぱかっ。
縦まっぷたつになったドスが左右に倒れた。隣のビルを巻き込んで。
「!?」
まりさは目を点にする。
おたべなさいをしたかのように、きれいに左右まっぷたつ。指パッチンひとつで、大き
なビルほどもあるドスまりさを縦に両断していた。具体的な仕組みは不明だが。
おたべなさいをしたかのように、きれいに左右まっぷたつ。指パッチンひとつで、大き
なビルほどもあるドスまりさを縦に両断していた。具体的な仕組みは不明だが。
「おお。見様見真似だが、思ったよりも上手くいったぞ」
右手を動かしながら、男が笑っている。
「うもおおっ!」
「おおおん!」
「おおおん!」
真っ二つになったドスが、その場で二匹のドスへと変化した。大きさは半分くらいになっ
ているが、それでも十数メートルもある超巨大ドスである。
ているが、それでも十数メートルもある超巨大ドスである。
パチパチッ!
ぱかぱかっ。
ぱかぱかっ。
再生したドス二匹が真っ二つになった。
が、四匹のドスになって再生する。
が、四匹のドスになって再生する。
パチパチン、パチパチッ!
が、さらに男が指を鳴らし、ドスたちがまっぷたつになる。
「ゆおおおお!」
それでも再生してくるドス。
男はまりさを地面に下ろし、前へと歩き出した。ぱちぱちと両手の指を鳴らし、見えない
斬撃が空を飛ぶ。数十匹に増殖したドスたちが縦に横に斜めに切断されていた。いつの
間にかドスサイズのれいむやありすも混じっている。
切断されながら再生してくるドスたちと、それを指パッチンで斬り捨てていく男。
男はまりさを地面に下ろし、前へと歩き出した。ぱちぱちと両手の指を鳴らし、見えない
斬撃が空を飛ぶ。数十匹に増殖したドスたちが縦に横に斜めに切断されていた。いつの
間にかドスサイズのれいむやありすも混じっている。
切断されながら再生してくるドスたちと、それを指パッチンで斬り捨てていく男。
「はっはっは。同僚がぱちぱち躍ってるのの見て楽しそうだなとか他人事のように思っ
ていたが。ふむ、実際なかなかどうして、面白いじゃないか!」
ていたが。ふむ、実際なかなかどうして、面白いじゃないか!」
躍るように手足を動かしながら、男は指を弾いて見えない刃を飛ばしている。
「おじさんがたのしそうでなによりなのぜ……」
まりさは他人事のように、その光景を眺めていた。
ゴッ、ゴゴッ……ガコッ。
「ゆ?」
意識が引き戻される。
中枢餡まで響く、重苦しい音。何か重い金属を引きずるような音だった。
中枢餡まで響く、重苦しい音。何か重い金属を引きずるような音だった。
「ようやく少しは骨のありそうなヤツが出てきたか。ふんっ!」
男が腕を一振り、大量に分裂したドスたちをまとめて薙ぎ払う。
ギギ、ガッ……ゴゴ……。
現われたのは人型のナニカだった。
巨大な赤い三角形の頭。ぼろぼろの白い上着と肩口から離れた袖、腰に巻かれた大
きな赤い布。袖と上着の隙間からは異様な筋肉の付いた肩が見えていた。右手に長大
な大鉈を持っている。聞こえていた音は、この大鉈を引きずる音だった。
巨大な赤い三角形の頭。ぼろぼろの白い上着と肩口から離れた袖、腰に巻かれた大
きな赤い布。袖と上着の隙間からは異様な筋肉の付いた肩が見えていた。右手に長大
な大鉈を持っている。聞こえていた音は、この大鉈を引きずる音だった。
「なんなんだぜ、これ……!?」
今までのクリーチャーたちと明らかに違う風格。
まりさはただ震えることしかできない。
男が感心したように呟いた。
まりさはただ震えることしかできない。
男が感心したように呟いた。
「なかなか貫禄のあるれいむだ」
「あれのどこがれいむなんだぜ……?」
「あれのどこがれいむなんだぜ……?」
まりさの正直な問いに、男は首を傾げ、
「妙な事を訊くな、まりさ。お前もゆっくりだろう。わからんのか? 頭の後ろに赤いリボン
くっついてるだろ? あれをれいむと呼ばずして、何をれいむと呼ぶのだ」
くっついてるだろ? あれをれいむと呼ばずして、何をれいむと呼ぶのだ」
三角形の後ろを指差す。そこには大きな赤いリボンが付いていた。れいむ種のリボン
である。よく見ると服装は胴付きれいむのそれだった。
である。よく見ると服装は胴付きれいむのそれだった。
「そのりくつはおかしいのぜ!?」
だが、納得できるものではない。
「さんかくさまなら……! さんかくさまならきっとなんとかしてくれるよ……!」
テレビに向かって祈るようにもみあげを擦り合わせているれいむ。
「さて、どんなもんかな?」
男は右手を持ち上げた。中指と親指をあわせ。
パチッ。
飛ぶ斬撃。
三角れいむは無言で大鉈を振り上げた。鉄骨を叩き付けたような金属音とともに空中
に火花が散り、後ろにあったビルが斜めに切断される。
見えない斬撃を、三角れいむは弾いてみせた。
三角れいむは無言で大鉈を振り上げた。鉄骨を叩き付けたような金属音とともに空中
に火花が散り、後ろにあったビルが斜めに切断される。
見えない斬撃を、三角れいむは弾いてみせた。
「まあ、物真似だしな」
男が左手でまりさの頭を掴み、再び脇に抱え上げる。
声もなく、三角れいむが走った。その巨体と重装備から想像も付かない速度で接近し
てくる。左足の踏み込みから、大鉈を一閃。
声もなく、三角れいむが走った。その巨体と重装備から想像も付かない速度で接近し
てくる。左足の踏み込みから、大鉈を一閃。
ゴウウンッ!
空を裂く鋼の塊を、男はブリッジでもするように仰け反り躱した。
「吐くなよ、まりさ?」
「ゆぐ」
「ゆぐ」
まりさは慌てて口を閉じる。
振下ろされる大鉈が地面を抉った。
男はまりさを抱えたまま、飛び退く。それを追い掛け振り抜かれる巨大な大鉈。地面を
吹き飛ばし、瓦礫を薙ぎ払い、電柱を切断し、ビルを叩き壊し。圧倒的な斬撃が縦横無
尽に繰り出される。
しかし当たらない。三角れいむの攻撃を、男はことごとく躱していった。
振下ろされる大鉈が地面を抉った。
男はまりさを抱えたまま、飛び退く。それを追い掛け振り抜かれる巨大な大鉈。地面を
吹き飛ばし、瓦礫を薙ぎ払い、電柱を切断し、ビルを叩き壊し。圧倒的な斬撃が縦横無
尽に繰り出される。
しかし当たらない。三角れいむの攻撃を、男はことごとく躱していった。
「なかなかいい動きをしている」
男は余裕たっぷりの笑みを浮かべていた。
「ゅ……ぅぅ……」
まりさは口を閉じ、目元に涙を浮かべる。縦に横に振り回され、胃の中身を吐き出しそ
うになっているが、気合いで耐えていた。
うになっているが、気合いで耐えていた。
「だが――ぬるい!」
勢いよく右腕を突き出す。
三角れいむが大鉈を盾のように構えた。
三角れいむが大鉈を盾のように構えた。
ボッ。
「ゆぅぅぅ……!」
まりさは無力に引きつった悲鳴を漏らす。
巻き起こった衝撃波は、桁違いに大きかった。今までのものの数十倍もの規模。濁流
のような空気が、巨大なハンマーのように三角れいむを殴り飛ばす。大鉈が真ん中から
へし折れるのが見えた。アスファルトごと地面がはぎ取られ、周囲のビルがオモチャの
ように崩れ、瓦礫が渦を巻き、三角れいむがその中に消え去る。
数秒して、衝撃波が収まる。
巻き起こった衝撃波は、桁違いに大きかった。今までのものの数十倍もの規模。濁流
のような空気が、巨大なハンマーのように三角れいむを殴り飛ばす。大鉈が真ん中から
へし折れるのが見えた。アスファルトごと地面がはぎ取られ、周囲のビルがオモチャの
ように崩れ、瓦礫が渦を巻き、三角れいむがその中に消え去る。
数秒して、衝撃波が収まる。
「…………」
まりさは更地になった地面を無言で眺めていた。眺めることしかできない。
ゴコン……。
遠くから、そんな音が聞こえた。
「これ、なんのおとなのぜ……?」
「ああ。一チャンク壊れたか?」
「ああ。一チャンク壊れたか?」
緊張感なく男が呟く。
直後、地面に亀裂が走った。
鈍い衝撃とともに、地面が少し沈む。続いていくつもの亀裂が地面に走った。原型を止
めていたビルが崩れ、そのまま地面ごと真下に消えていく。大地が地震のように揺れ、
裂け目が増えていた。
直後、地面に亀裂が走った。
鈍い衝撃とともに、地面が少し沈む。続いていくつもの亀裂が地面に走った。原型を止
めていたビルが崩れ、そのまま地面ごと真下に消えていく。大地が地震のように揺れ、
裂け目が増えていた。
「ちょ、おじさ……なんか、やばいのぜ……?」
自分たちがいる場所が壊れて落ち始めている。まりさはそう判断した。
「落ち着けまりさ」
まりさを地面に下ろし、男はポケットから銀色の薄い箱を取り出した。手の平に乗るくら
いの大きさで、滑らかな銀色。シガレットケースである。
男は蓋を開け、葉巻を一本取り出し、口に咥えた。
ケースをポケットにしまい、眉を寄せる。ぱたぱたと上着を叩きながら、
いの大きさで、滑らかな銀色。シガレットケースである。
男は蓋を開け、葉巻を一本取り出し、口に咥えた。
ケースをポケットにしまい、眉を寄せる。ぱたぱたと上着を叩きながら、
「あー、んー。ライターどこいった?」
「おちつきすぎなのぜええ! すこしはあわてるのぜええ!?」
「おちつきすぎなのぜええ! すこしはあわてるのぜええ!?」
ぐーねぐーねしながら、まりさは叫ぶ。周囲が崩れて奈落の底に落ちていく。落ちたも
のがどこに消えるのかは想像もつかない。男は落ちたところで平気なのだろう。しかしま
りさは普通のまりさである。
のがどこに消えるのかは想像もつかない。男は落ちたところで平気なのだろう。しかしま
りさは普通のまりさである。
「仕方ない。先に行け」
そう言うなり、男はまりさを掴み上げ、放り投げた。
「ゆううううう!?」
空気を切り裂き、赤い大空へと飛んでいく。
あっという間に飛行系のゆっくりでも飛ばないだろう高さまで跳び上がっていた。遠くに
見える黒い山並み。血のように赤い空に浮かぶ、黒い雲。黒い影のような街並が遙か
下に見える。その街が大きく四角形に抜け落ちていた。男が口にした一チャンクとはこ
の四角形の事なのだろう。
あっという間に飛行系のゆっくりでも飛ばないだろう高さまで跳び上がっていた。遠くに
見える黒い山並み。血のように赤い空に浮かぶ、黒い雲。黒い影のような街並が遙か
下に見える。その街が大きく四角形に抜け落ちていた。男が口にした一チャンクとはこ
の四角形の事なのだろう。
「まりざはおそらをとんでるのぜええええ!」
涙を迸らせながら、まりさは空を飛ぶ。
「ぱちぇがおかーさんよ」
「まりさがおとーさんなんだぜ」
「おとーしゃん、おかーしゃん。ゆっくちちていっちぇね!」
「まりさがおとーさんなんだぜ」
「おとーしゃん、おかーしゃん。ゆっくちちていっちぇね!」
父まりさと母ぱちゅりーに挨拶する赤ゆっくりだった頃の記憶。
「はつおきゅうりょうもらったのぜ!」
「おきゅうりょうはよーくかんがえてつかうみょん」
「おきゅうりょうはよーくかんがえてつかうみょん」
星ひとつの地域ゆっくりとなり、お給料を貰った時の記憶。
「まりさはまりだよ。せんぱい、よろしくおねがいします」
「しっかりおしえるから、まりさもがんばっておしごとおぼえるのぜ!」
「しっかりおしえるから、まりさもがんばっておしごとおぼえるのぜ!」
班長になって後輩まりさに仕事を教えていた時の記憶。
「まりさ、来週からお前は星ふたつのリーダーだ。担当地区は第五児童公園だ」
「ゆうううん! まりさがんばるのぜええっ!」
「ゆうううん! まりさがんばるのぜええっ!」
星ふたつに出世し、小さな公園のリーダーを任された時の記憶。
「まりさ、明後日から隣の二葉市の森林地区に異動だ。結構大きい群れだからな。しっ
かり気合い入れて仕事しろよ。……俺とは今日でさよならだな、ちょっと寂しくなるぜ」
「まりさもさびしいのぜ。おにいさん、いままでおせわになりましたのぜ」
かり気合い入れて仕事しろよ。……俺とは今日でさよならだな、ちょっと寂しくなるぜ」
「まりさもさびしいのぜ。おにいさん、いままでおせわになりましたのぜ」
今担当している森への異動が決まった時の記憶。
「ああ――ああっ……」
今まで生きてきた三年ほどの記憶が、浮かんでは消えていく。走馬燈という言葉が浮
かぶが、まりさは走馬燈がどのようなかは知らなかった。
ともあれ、いくつもの思い出が浮かんで消える。
平均寿命がおよそ五、六年と言われる地域ゆっくりにとって、三年はとても長い月日だ
った。だが、それも終わる。この高さから地面に落ちたら即死だ。
かぶが、まりさは走馬燈がどのようなかは知らなかった。
ともあれ、いくつもの思い出が浮かんで消える。
平均寿命がおよそ五、六年と言われる地域ゆっくりにとって、三年はとても長い月日だ
った。だが、それも終わる。この高さから地面に落ちたら即死だ。
「ゆ?」
その時。
ガガ……ガコッ……。
赤い三角形が視界に入った。
「!」
さきほど男に吹き飛ばされた三角れいむだった。
まりさが落ちるだろう大きな道路のど真ん中に立っていた。
半分くらいに折れた大鉈を両手に持ち、右半身を前に出す。鉈の先端で軽く地面を叩
いてから、空中に円を描くようにぐるりと大きく一回転させ、右腕を正面に突き出した。真
っ直ぐ空へと向けられる大鉈。左手で右肩を軽く撫でるような仕草をする。
三角れいむは大鉈を引き戻し、両手で構えた。
いわゆる振り子打法の構え。
まりさが落ちるだろう大きな道路のど真ん中に立っていた。
半分くらいに折れた大鉈を両手に持ち、右半身を前に出す。鉈の先端で軽く地面を叩
いてから、空中に円を描くようにぐるりと大きく一回転させ、右腕を正面に突き出した。真
っ直ぐ空へと向けられる大鉈。左手で右肩を軽く撫でるような仕草をする。
三角れいむは大鉈を引き戻し、両手で構えた。
いわゆる振り子打法の構え。
「どぼじでうづきまんまんなのぜえええ! まりさはやきゅうぼーるじゃなないのぜ!」
空中でぐねぐねと悶えるがどうにもならない。
だが、救世主は現われた。
わっし、と背後から頭を掴まれる。
だが、救世主は現われた。
わっし、と背後から頭を掴まれる。
「待たせたな、まりさ」
「おじ――」
「おじ――」
淡い希望とともに、まりさは振り向いた。無茶苦茶な事をしているが、この男の力は本
物だ。どんな強敵でもあっさりとなぎ倒してくれる。どんな状況でも苦もなく何とかしてし
まう。人間のプラチナバッッジなのだ。
だが、世の中そう甘くはない。
周囲の暗闇を押し退ける白い輝き。
物だ。どんな強敵でもあっさりとなぎ倒してくれる。どんな状況でも苦もなく何とかしてし
まう。人間のプラチナバッッジなのだ。
だが、世の中そう甘くはない。
周囲の暗闇を押し退ける白い輝き。
「どおじであんよがもえてるんだぜえええっ!」
予想外のものを目の当たりにして、まりさは叫んだ。
何故か男の左足が白く燃えていた。膝から下が白熱した鉄のように輝き高熱を放って
いる。肌が焼けるような熱さだ。熱いというより痛い。それほどの熱量。触ったらゆっくり
でなくとも大火傷だろう。なのに、当の本人は熱がっている様子もない。
葉巻に火が付いていた。これで付けたらしい。
大鉈をバッドのように構える三角れいむを見据え、男が吼える。
何故か男の左足が白く燃えていた。膝から下が白熱した鉄のように輝き高熱を放って
いる。肌が焼けるような熱さだ。熱いというより痛い。それほどの熱量。触ったらゆっくり
でなくとも大火傷だろう。なのに、当の本人は熱がっている様子もない。
葉巻に火が付いていた。これで付けたらしい。
大鉈をバッドのように構える三角れいむを見据え、男が吼える。
「ワシの心は、この白熱する足よりも、もっと熱く燃えている!」
「せつめいになってないんだぜ!? にほんごでこたえてほしいのぜ!?」
「せつめいになってないんだぜ!? にほんごでこたえてほしいのぜ!?」
きっぱりと告げられる答えに、まりさは悶えながら抗議をした。無意味な事は分かって
いたが、言わずにはいられなかった。
男の目が、三角れいむを捉える。
いたが、言わずにはいられなかった。
男の目が、三角れいむを捉える。
「悪魔風脚〈ディアブルジャンブ〉――」
男が白熱する左足を持ち上げた。
三角れいむが大鉈を振り抜く。
三角れいむが大鉈を振り抜く。
「画竜点睛〈フランバージュ〉ショットォ!」
焦げた空気が風となってまりさの頬を撫でる。
「すこしやりすぎたかな?」
五階建てのビルの屋上に立った男。
脇にまりさを抱え、目の前にできた大穴を眺めていた。
隕石が衝突したようなクレーターである。もしくは火山の火口だ。直径百メートル以上
はあるだろう。街の数区画が丸く消し飛び、周囲のビルがなぎ倒されていた。穴の奥の
方では融けた地面が、鈍い赤色に輝いている。
まりさは淡々と呟いた。
脇にまりさを抱え、目の前にできた大穴を眺めていた。
隕石が衝突したようなクレーターである。もしくは火山の火口だ。直径百メートル以上
はあるだろう。街の数区画が丸く消し飛び、周囲のビルがなぎ倒されていた。穴の奥の
方では融けた地面が、鈍い赤色に輝いている。
まりさは淡々と呟いた。
「すこしどころじゃないのぜ。というか、おじさんいろいろとおかしいのぜ。なにをどうやっ
たらこんなおおあなあけられるのぜ?」
たらこんなおおあなあけられるのぜ?」
問いには答えず、男は空を見上げた。
「では、準備運動も終わった事だし、れいむを捕まえに行くか」
屋上を蹴って数十メートルの上空へと、跳び上がる。生身の人間が垂直跳びできる高
さは二メートルほど。そんな常識を無慈悲に踏み越え、男は空へと身を躍らせる。
さは二メートルほど。そんな常識を無慈悲に踏み越え、男は空へと身を躍らせる。
タンッ。
何もない空中。
そこに乾いた音を響かせ、男がさらに上昇する。
そこに乾いた音を響かせ、男がさらに上昇する。
タンッ。
さらに何もない空中を蹴って男が上昇する。
シタタタタ……!
まりさを脇に抱えたまま、男は走った。上半身を全く動かさず、残像が残る速度で両足
を動かし、空中を突き進む。街の上空百メートル以上の高度。足元に足場があるわけで
はないのに、謎の原理で空中を突っ走っていた。
妙に冷めた気分で、まりさは口を開いた。
を動かし、空中を突き進む。街の上空百メートル以上の高度。足元に足場があるわけで
はないのに、謎の原理で空中を突っ走っていた。
妙に冷めた気分で、まりさは口を開いた。
「おじさん、しつもんがあるのぜ」
「何だ? ワシに答えられるものなら答えてやろう」
「どういうしくみでおそらをはしってるのぜ?」
「何だ? ワシに答えられるものなら答えてやろう」
「どういうしくみでおそらをはしってるのぜ?」
率直に聞く。人間は空を飛べない。当たり前だ。空を飛ぶための羽などの器官が存在
しない。だというのに、どのような不条理を用いてか男は空中を走っている。
指で右目の片眼鏡を動かし、男は答えた。
しない。だというのに、どのような不条理を用いてか男は空中を走っている。
指で右目の片眼鏡を動かし、男は答えた。
「水や空気などの流体が動く物体に作用する抵抗は、速度の二乗の近似に比例する。
つまり、早く動く物体ほど大きな抵抗を受ける。超高速で動く物体に対しては、空気さえ
も固体として振舞うのだ。十分な速度で空気を蹴れば、その空気は固体として振舞う。
何もない空間を蹴ることも十分可能なことだ」
つまり、早く動く物体ほど大きな抵抗を受ける。超高速で動く物体に対しては、空気さえ
も固体として振舞うのだ。十分な速度で空気を蹴れば、その空気は固体として振舞う。
何もない空間を蹴ることも十分可能なことだ」
シタタタタ……
男が空気を蹴る音が響いている。
「あとは空気蹴りを連続で行えば空を走ることができる。理解できたか?」
「もっともらしいへりくつこねても、まりさはだまされないんだぜ!」
「もっともらしいへりくつこねても、まりさはだまされないんだぜ!」
腕の中で悶えながらまりさは涙とともに叫んだ。
「どうぐもつかわないでにんげんはおそらとべないんだぜ! じょーしきなんだぜ! よの
なかにはばんゆーいんりょくとか、じゅうりょくかそくどとか、そーゆーものがあるんだぜ!
しつりょうはおっこちるのぜ!? にんげんがそうかんたんにそらをとべたら、なんかいろ
いろせかいがたいへんなんだぜええ!?」
なかにはばんゆーいんりょくとか、じゅうりょくかそくどとか、そーゆーものがあるんだぜ!
しつりょうはおっこちるのぜ!? にんげんがそうかんたんにそらをとべたら、なんかいろ
いろせかいがたいへんなんだぜええ!?」
よく分からない何かへの必死の抵抗である。
しかし、男は仕方ないとばかりにため息を付き。
しかし、男は仕方ないとばかりにため息を付き。
「驚くのも無理はない。空を飛べる人間は国内でも三十人くらいしかいないからな」
「さんじゅうにんもいるのかぜええ!?」
「さんじゅうにんもいるのかぜええ!?」
常識のひとつが壊れる音を、まりさは聞いた。
まりさは人間がゆっくりよりも色々なことができる事を知っている。人間の枠を越えちゃっ
ている人間が少しいることも知っていた。しかし、素で空を飛べる人外が三十人も存在して
いるとは、考えたことすらなかった。
まりさは人間がゆっくりよりも色々なことができる事を知っている。人間の枠を越えちゃっ
ている人間が少しいることも知っていた。しかし、素で空を飛べる人外が三十人も存在して
いるとは、考えたことすらなかった。
にんげんってすごいんだぜ……
諦めとともに、まりさは思考を放棄した。
「ん?」
男が正面に目を向ける。
「ゆぅぅ……」
空中にわわわらと現われたクリーチャーゆっくり。もはや百や千という単位ではなく、数
えるのも面倒になるくらいにたくさんのゆっくりだった。れみりゃやふらんなどから、リボン
を羽のように動かしているれいむや、箒型すぃーに乗ったまりさなどもいる。
喩えるなら、クリーチャーゆっくりの雲である。
それが押し寄せてきた。
えるのも面倒になるくらいにたくさんのゆっくりだった。れみりゃやふらんなどから、リボン
を羽のように動かしているれいむや、箒型すぃーに乗ったまりさなどもいる。
喩えるなら、クリーチャーゆっくりの雲である。
それが押し寄せてきた。
「ゆん?」
ピキューン!
まりさの頭に何かが弾ける。
目を見開く。視覚聴覚が、思考力が異様なまでに研ぎ澄まされていく。自分がどうなっ
ているのか、敵がどこにいるのか、周囲に散らばる情報がお下げで取るようにはっきり
と把握できる。まりさの意識が、溢れるように空間を埋め尽くしていく。
目を見開く。視覚聴覚が、思考力が異様なまでに研ぎ澄まされていく。自分がどうなっ
ているのか、敵がどこにいるのか、周囲に散らばる情報がお下げで取るようにはっきり
と把握できる。まりさの意識が、溢れるように空間を埋め尽くしていく。
「おじさんっ、8じのほうこうななめうえなのぜ」
「とりゃッ!」
「とりゃッ!」
背後から迫ってきたきめら丸を、男が衝撃波で吹き飛ばした。
「11じのほうこう、ななめしたなのぜっ」
「ちぇりゃァッ!」
「ちぇりゃァッ!」
視界の隅から現われた飛行まりさ数匹が消える。
くるくると回転しながら飛んできた箒型すぃー。
まりさは男の腕から抜け出し、空中に身を躍らせた。不思議と恐怖はない。自分がどう
動けばいいのか、考える前に身体が動いている。飛んできたすぃーに飛び乗り、まりさ
は大きく声を上げた。
くるくると回転しながら飛んできた箒型すぃー。
まりさは男の腕から抜け出し、空中に身を躍らせた。不思議と恐怖はない。自分がどう
動けばいいのか、考える前に身体が動いている。飛んできたすぃーに飛び乗り、まりさ
は大きく声を上げた。
「ゆーはっはっはっ! ここはまりささまにまぁかせるのぜええ!」
「はっはっは、それは頼もしいな。征くぞまりさ!」
「はっはっは、それは頼もしいな。征くぞまりさ!」
「みまとしんきの時間差攻撃は見事だった。みまの攻撃が通じれば、駄目押しにしんき
の攻撃が打ち込まれるし、みまを捌いても防御が疎かになったところにしんきが突っ込
んでくる。シンプルだが実によくできたコンビネーションだった」
の攻撃が打ち込まれるし、みまを捌いても防御が疎かになったところにしんきが突っ込
んでくる。シンプルだが実によくできたコンビネーションだった」
椅子に座って、一リットル紙パックの紅茶を直接飲んでいる男。
どこかの休憩室のようだった。部屋の中央に置かれた机の上に、まりさは座っていた。
目の前の皿に盛られためちゃうまフード。どこから拾ってきたのか、男はおやつタイムを
楽しんでいた。
さきほどから続く、男の武勇伝。グンマーの奥地でみまとしんきと戦った話。
どこかの休憩室のようだった。部屋の中央に置かれた机の上に、まりさは座っていた。
目の前の皿に盛られためちゃうまフード。どこから拾ってきたのか、男はおやつタイムを
楽しんでいた。
さきほどから続く、男の武勇伝。グンマーの奥地でみまとしんきと戦った話。
「ま、両方捌けばいいだけだがな」
ぽりぽりとフードを囓ってから、紅茶を飲む。ゆっくりフードはビスケットやクッキーのよ
うなものなので、人間が食べても問題はない。めちゃうま味ともなると下手なお菓子より
も美味しかったりする。
美味しそうな匂いがしているが、まりさは眺めるだけだった。食欲が無い。
うなものなので、人間が食べても問題はない。めちゃうま味ともなると下手なお菓子より
も美味しかったりする。
美味しそうな匂いがしているが、まりさは眺めるだけだった。食欲が無い。
「おじさんすごいのぜ……」
まりさは力無く呟いた。
さっきまで箒型すぃーに乗って、奪い取ったミニ八卦炉を使って、男とともに空中戦を繰
り広げていた気がするが、気のせいだろう。気のせいである。というか、気のせいという
ことにした。
男はフードを囓りながら、紙パックの紅茶を直飲みしている。
さっきまで箒型すぃーに乗って、奪い取ったミニ八卦炉を使って、男とともに空中戦を繰
り広げていた気がするが、気のせいだろう。気のせいである。というか、気のせいという
ことにした。
男はフードを囓りながら、紙パックの紅茶を直飲みしている。
「秘境グンマー。あそこには面白いゆっくりがうようよいる。正攻法では入れないし、出ら
れないがな。自由に出入りする方法は、それこそ国家機密よ。知っても素人が実行でき
るもんじゃあないけどな。ははは」
れないがな。自由に出入りする方法は、それこそ国家機密よ。知っても素人が実行でき
るもんじゃあないけどな。ははは」
暢気に笑っている男。
その背後にふと視線を移し、
その背後にふと視線を移し、
「ゆ!」
まりさは目を見開く。
男の背後、そこから黒い影が現われた。音もなく、気配もなく。
男の背後、そこから黒い影が現われた。音もなく、気配もなく。
「ぅぅぅん?」
巨大な三角形の頭。がっしりした身体。三角れいむだった。さっきの蹴りで消し飛んだ
と思っていたのだが、生きていたらしい。折れたはずの大鉈は元に戻っている。
三角れいむが、その大鉈を男の首へと振下ろす。
と思っていたのだが、生きていたらしい。折れたはずの大鉈は元に戻っている。
三角れいむが、その大鉈を男の首へと振下ろす。
ズンッ。
だが、男は無造作に右手を持ち上げ、鉈を掴み止めた。
「食事中に仕掛けるとは、礼儀のなっていない三角だ、なっ!」
椅子を跳ね飛ばし、後ろ回し蹴りで三角れいむを蹴り飛ばす。
床で跳ね、壁に激突する三角れいむ。壁をぶち抜き、隣の部屋へと転がった。が、手
を突いて勢いよく跳ね起きる。ダメージは無い。
男は数歩足を進め、三角れいむと対峙した。
床で跳ね、壁に激突する三角れいむ。壁をぶち抜き、隣の部屋へと転がった。が、手
を突いて勢いよく跳ね起きる。ダメージは無い。
男は数歩足を進め、三角れいむと対峙した。
「一回目はいい。そうなるように手加減したのだからな。だが、二回目は駄目だ。あの時
きっちりトドメを刺したと思ったのだが……。くくくっ。殺し切れていなかったか、手ぬるか
ったか、甘かったというのか……このワシが。そんな自分に腹が立つわ!」
きっちりトドメを刺したと思ったのだが……。くくくっ。殺し切れていなかったか、手ぬるか
ったか、甘かったというのか……このワシが。そんな自分に腹が立つわ!」
右手を握り締める。物理的な圧力を覚えるほどの気迫が、渦を巻いて男の身体から迸
った。空気が軋み、大地が震え、世界が轟く。
三角れいむが大鉈を構えた。
った。空気が軋み、大地が震え、世界が轟く。
三角れいむが大鉈を構えた。
「三度目は無いッ! この裏世界ごと、跡形もなく、消し飛ばしてやる!」
「ちょっとまつのぜ……。なにさらっとおそろしいこといってるのぜ……!」
「ちょっとまつのぜ……。なにさらっとおそろしいこといってるのぜ……!」
吼える男にまりさは叫ぶが、声は届かない。
男は本気だった。言葉通り、この三角れいむを消し飛ばす気だろう。この裏世界ごと。
この広大な世界を丸ごと破壊するのは不可能に思えるが、おそらく男はそれが可能だ。
そして、それを今から実行する気だった。
男は本気だった。言葉通り、この三角れいむを消し飛ばす気だろう。この裏世界ごと。
この広大な世界を丸ごと破壊するのは不可能に思えるが、おそらく男はそれが可能だ。
そして、それを今から実行する気だった。
「全てを原子に打ち砕け――」
三角れいむが突進してくる。
男は右腕を引き絞り、前進した。
男は右腕を引き絞り、前進した。
「ビッグバン――」
右拳が突き出される。
「パンチ――」
「ゆんや――」
「ゆんや――」
爆発する光に、まりさは悲鳴を上げる間もなく呑み込まれた。
「ゆ?」
気がつくとまりさは暗い場所にいた。
広く四角い空間。床は硬いコンクリート製。壁に見える鉄骨。さきほどまでいた休憩室
ではない。ここはどこかの倉庫だろうと、まりさは見当を付けた。隅っこの方に四角い段
ボール箱が置かれている。
広く四角い空間。床は硬いコンクリート製。壁に見える鉄骨。さきほどまでいた休憩室
ではない。ここはどこかの倉庫だろうと、まりさは見当を付けた。隅っこの方に四角い段
ボール箱が置かれている。
「こんにちは、まりさ」
振り向いた先に、一匹のれいむがいた。どこにでもいるれいむに見える。しかし、普通
のれいむではないのだろう。まりさの知っているれいむとは何かが違う。
れいむの横には古めかしいテレビが一台置かれていた。
のれいむではないのだろう。まりさの知っているれいむとは何かが違う。
れいむの横には古めかしいテレビが一台置かれていた。
「ここはたのしかった?」
笑顔とともに聞いてくる。
「れいむは、シズオカれいむなのぜ……?」
そう尋ねる。魔境シズオカのれいむ。健康診断で保健所に連れてきたら、シズオカタイ
ムを発動させてしまったと、男は言っていた。
ムを発動させてしまったと、男は言っていた。
「うん……」
目を伏せ、れいむが頷く。
「なんかげんきないのぜ?」
「168じかんたいきゅうすーぱーうるとらおせっきょうターイムだって。ぜんりょくでていこ
うしろっていわれたから、ぜんりょくでていこうしたけど……だめだったよ。あのにんげん
さん、にんげんじゃないもん……」
「168じかんたいきゅうすーぱーうるとらおせっきょうターイムだって。ぜんりょくでていこ
うしろっていわれたから、ぜんりょくでていこうしたけど……だめだったよ。あのにんげん
さん、にんげんじゃないもん……」
乾いた笑いがこぼれる。
無数のクリーチャーゆっくりも、超巨大ドスも、三角頭のれいむも、あの男には全く通じ
なかった。シズオカれいむの百匹や二百匹ものの数ではないと言ってたが、その言葉も
嘘や誇張ではない。そういう怪物だ。
目を逸らし、まりさはため息をついた。
無数のクリーチャーゆっくりも、超巨大ドスも、三角頭のれいむも、あの男には全く通じ
なかった。シズオカれいむの百匹や二百匹ものの数ではないと言ってたが、その言葉も
嘘や誇張ではない。そういう怪物だ。
目を逸らし、まりさはため息をついた。
「それはごしゅうしょうさまなのぜ。でも、じごうじとくなのぜ……」
お説教タイム。そういう罰があるらしい。ひたすらお説教を受けるというシンプルにして
凶悪な内容だ。まりさが前に担当していた公園に、24時間耐久お説教タイムを受けたこ
とのあるれいむがいた。好奇心でその内容を聞いたら、無言で泣き出してしまった。そ
れほど凄惨なものらしい。
それが168時間。つまり一週間。
ご愁傷様としか言いようがない。
凶悪な内容だ。まりさが前に担当していた公園に、24時間耐久お説教タイムを受けたこ
とのあるれいむがいた。好奇心でその内容を聞いたら、無言で泣き出してしまった。そ
れほど凄惨なものらしい。
それが168時間。つまり一週間。
ご愁傷様としか言いようがない。
「そうだよね……」
れいむの目元に涙が浮かぶ。
「さて――」
れいむとまりさは同時に声のした方に向き直った。
乾いた靴音を響かせ、男が歩いてくる。
乾いた靴音を響かせ、男が歩いてくる。
「まだ手札は残っているかね、れいむ? あるなら出した方がいいぞ」
「ゆ……」
「ゆ……」
男を見つめ、ただ震えるだけのれいむ。最大の切り札である三角れいむも、一蹴され
ている。もはやれいむに手札は残されていなかった。
ている。もはやれいむに手札は残されていなかった。
ドガシャン!
真上から響く破壊音。
そして、男の前に一匹のゆっくりが落ちてきた。
そして、男の前に一匹のゆっくりが落ちてきた。
「まつんだぜ! れいむにはてはださせないんだぜ!」
「まりさっ!?」
「まりさ?」
「まりさっ!?」
「まりさ?」
現われたのはまりさだった。黒い三角帽子と黄色い髪の毛。どこにでもいるような普通
のまりさである。だが、こちらも普通ではないようだった。
男が足を止め、現われたまりさを見下ろす。眉を持ち上げ、
のまりさである。だが、こちらも普通ではないようだった。
男が足を止め、現われたまりさを見下ろす。眉を持ち上げ、
「貴様は確か、前橋加工所のグンマー流れだったか? どうやってここに来たかは敢え
て訊くまい。これも何かの機会だ。相手をしてやる。かかってこい」
「グンマー……?」
て訊くまい。これも何かの機会だ。相手をしてやる。かかってこい」
「グンマー……?」
出てきた単語にまりさは瞬きをした。この日本のどこかにあると言われる秘境。怪物の
ような生き物やゆっくりが棲むと言われている。そこのまりさ。
ような生き物やゆっくりが棲むと言われている。そこのまりさ。
「ゆあああッ!」
グンマーまりさが叫んだ。
床を蹴って男に飛び掛かる。普通のゆっくりが跳ねても人間にとってはボールがぶつ
かった程度だ。しかし、グンマーゆっくりの力はそんなものではない。コンクリートの床
を凹ませ、砲弾のような速度で男に突っ込んでいく。
並の人間がその体当たりを喰らえば、よくて重傷だろう。
床を蹴って男に飛び掛かる。普通のゆっくりが跳ねても人間にとってはボールがぶつ
かった程度だ。しかし、グンマーゆっくりの力はそんなものではない。コンクリートの床
を凹ませ、砲弾のような速度で男に突っ込んでいく。
並の人間がその体当たりを喰らえば、よくて重傷だろう。
「甘いな」
男は無造作に、まりさを手で払った。
ドガショァン!
コンクリートの床を一直線に削るまりさ。
「まだまだなんだぜえええ!」
少し餡子を吐きながらも、再び男に突進する。
ドグォン!
しかしあっさりと手で払われ、コンクリートの床にめり込んでいた。あちこちから餡子を
流しながら、跳ね起きる。
流しながら、跳ね起きる。
「だ、だいじょうぶなのぜ……?」
まりさは思わず声を掛けた。コンクリートが砕けるほどの力が、どれほどのものなのか
想像は付かない。その力で叩き付けられ、原型を留めている強度がどれほどのものな
のかも分からない。非常識に強いグンマーまりさだが、それでも男には遠く届かない。
想像は付かない。その力で叩き付けられ、原型を留めている強度がどれほどのものな
のかも分からない。非常識に強いグンマーまりさだが、それでも男には遠く届かない。
「これくらい、どうってことないなのぜ!」
まりさに向かって言い切り、グンマーまりさはその場で回転を始めた。
「ゆううううッ! ああああああああ!」
空気が引き込まれ、砂埃が渦を巻き、空中へと舞い上げられる。空気が軋むような音
があたりに響いていた。黄色と黒の小さな竜巻。
があたりに響いていた。黄色と黒の小さな竜巻。
ギュンッ!
施条弾のような回転を伴った突進が、男の顔面に炸裂した。
男は大きく仰け反ってから。
男は大きく仰け反ってから。
「ふんっ!」
勢いよく身体を前に倒した。お辞儀をするように。
轟音とともに、グンマーまりさが床に叩き付けられる。倉庫が揺れ、床に幾筋もの亀裂
が走る。舞い上がる砂埃とコンクリートの破片。
轟音とともに、グンマーまりさが床に叩き付けられる。倉庫が揺れ、床に幾筋もの亀裂
が走る。舞い上がる砂埃とコンクリートの破片。
「なかなかだ。だが、ワシと戦うのは百年早い!」
グンマーまりさを見下ろし、男が告げる。その顔面は無傷だった。
小さなクレーターの底で半壊しているまりさ。顔は半分潰れ、帽子もどこかに吹き飛ん
でいる。痙攣しながら、あちこちから餡子を流していた。
それでも片目をれいむに向け、声を絞り出す。
小さなクレーターの底で半壊しているまりさ。顔は半分潰れ、帽子もどこかに吹き飛ん
でいる。痙攣しながら、あちこちから餡子を流していた。
それでも片目をれいむに向け、声を絞り出す。
「れいむ……にげるんだぜ……!」
「ゆぅぅぅん!」
「ゆぅぅぅん!」
涙を流し、れいむが餡子を吐いた。吐餡ではない。
餡子がれいむの足元に広がり、れいむの身体が餡子の中に沈む。さらに餡子が生き
物のように蠢き、床に走った亀裂へと消える。
餡子がれいむの足元に広がり、れいむの身体が餡子の中に沈む。さらに餡子が生き
物のように蠢き、床に走った亀裂へと消える。
「ふっ、小賢しい」
小さく笑い、男が足を振り上げた。
靴の裏が天井に向くほどに高く。
そして振下ろす。
靴の裏が天井に向くほどに高く。
そして振下ろす。
ガグォンッ!
轟音とともに、足が床を叩いた。その威力はまるで建設用杭打ち機である。いやそれ
以上だろう。コンクリートが砕け、下の地面ごと床が裂け、捲れ上がる。地中へと流し込
まれる衝撃波が嵐のように荒れ狂った。引き裂かれた地面が柱のように地上へと突き
出し、土煙が噴煙のように吹き出す。
以上だろう。コンクリートが砕け、下の地面ごと床が裂け、捲れ上がる。地中へと流し込
まれる衝撃波が嵐のように荒れ狂った。引き裂かれた地面が柱のように地上へと突き
出し、土煙が噴煙のように吹き出す。
「ゆぎぃ!」
床に走った亀裂から、れいむが飛び出してきた。地中に走った衝撃に弾き飛ばされた
のだろう。驚愕と絶望に染まった顔で、男を見つめている。
のだろう。驚愕と絶望に染まった顔で、男を見つめている。
「………」
まりさは動くこともできず、事の成り行きを見守っていた。
がし。
と男の手がれいむを掴む。
「知らなかったのか? このワシからは逃げられない」
「ゆあぁ、ぁぁ……」
「ゆあぁ、ぁぁ……」
れいむが弱々しく悲鳴を漏らした。
あとがき
人間のチートの行き着く先を書いてみたかったので。
おじさんのコンセプトは、原作東方キャラと殴りあって普通に勝てる強さです。
人間のチートの行き着く先を書いてみたかったので。
おじさんのコンセプトは、原作東方キャラと殴りあって普通に勝てる強さです。
ちなみに、過去SSに登場した人間さんのレベル。
金バッジレベル 前橋加工所の研究員、覚醒後の罪袋、穴掘りお姉さん
銀バッジレベル 回転お兄さん、麗破亞流お兄さん、燃えるモヒカンくん、他管理課の技術者たち
金バッジレベル 前橋加工所の研究員、覚醒後の罪袋、穴掘りお姉さん
銀バッジレベル 回転お兄さん、麗破亞流お兄さん、燃えるモヒカンくん、他管理課の技術者たち
過去SS
anko4439 ぼうぎょ 255
anko4420 心無い天使
anko4406 罪と罰
anko4386 ゆっくりゲスになってね!
anko4377 勝手に生えてくる
anko4373 ものもらい
anko4360 ゆっくりさせてね
anko4350 Cancer
以下省略
anko4439 ぼうぎょ 255
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anko4406 罪と罰
anko4386 ゆっくりゲスになってね!
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anko4360 ゆっくりさせてね
anko4350 Cancer
以下省略
挿絵: