ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko1297 微笑みの代償 後編
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ankoss
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『微笑みの代償 後編』
五、
その日は休日だった。元まりさ一家の五匹はいつまで経ってもこの家から出て行かない男に怯えて、朝からずっと気分が悪い
状態に陥っていた。心が休まる時間は一瞬たりともなかった。いつまた、そこの扉を開けて入ってきた男が虐殺を行うか気が気
ではない。
死を宣告された子まりさが箱の隅で震えて泣いていた。そのあまりにも寂しい後姿に姉妹たちのどれもが声をかけることがで
きなかった。
男は朝食の片付けをしていた。これが終わったら隣の部屋に置いてある玩具で遊ぶつもりだった。午前中のうちに子まりさを
殺したら、飼い犬の様子を見に行くという予定で動いている。
蛇口の水を止める。
立てかけてあった包丁とまな板をそれぞれの手に持つと畳の部屋へと移動を始める。
一方、足音で男がこの部屋に近づいていることに気がついた五匹のゆっくりはどれからともなくその身を震わせ始めた。子ま
りさは既に発狂しそうなぐらいに怯えている。扉が開かれた。
「ゆひぃぃぃぃぃぃっ!!!!」
最初に悲鳴を上げたのはやはり子まりさである。当然だろう。なぜなら今から子まりさは死ぬのだ。先に殺された三匹の姉妹
のように痛めつけられてそのあまりにも短いゆん生を終了させるのだ。
「こ……こにゃいで……っ!! こっちこにゃいで……っ!!!」
箱の壁に頬を押し付けてがたがたと震える子まりさの元に男の手が伸ばされる。
「ゆんやああああああ!!! やっ!!! やああああああ!!!!!」
あっさりと捕まえられた子まりさが箱の中から取り出される。その様子を見て二匹の子ゆっくりと母れいむが静かに涙を流し
ていた。あれだけ文句を言ってきた母れいむも大人しくなったものである。既に理解をしているのだろう。自分たちに残された
道が“死”しかないということを。
男はおもむろに子まりさから帽子を奪い取った。普段そこにあるものがなくなるというのは、落ち着かないものである。加え
て奪われたのはゆっくりにとって命の次に大事なお飾りである。
「か……かえしちぇにぇっ!! まりしゃのだいじなおぼうしさん……っ!! ゆっくちしにゃいでかえしえちぇにぇっ!!」
畳の上で子まりさがぽむぽむとその場で跳ねる。どう足掻いても届きなどしないのにその表情は必死だ。まるで、頑張れば男
から帽子を取り返せると勘違いしているかのようだ。残念ながらそれはあり得ない。男は帽子を投げ捨てると、子まりさを鷲掴
みにしてまな板に押し付けた。
「ゆ……ゆげぇっ!!」
少し強めに押し付けたせいか子まりさが中身を少量吐き出す。男はそんな事は一切気にせずにもう片方の手で包丁を構えた。
子まりさの視界にゆっくりできなさそうな“何か”が映る。鮮明に餡子脳に刻み込まれていた。それは昨夜、子れいむを殺した
カッターの刃を彷彿とさせる。子まりさが包丁を見つめて涙を流す。
男は子まりさの頭をやや強めに押し付けた。
「ゆぶぶぶぶぶぶぶ!!!!」
口をまな板に押し付けられた子まりさが苦しそうに呻いている。男は包丁を子まりさの体の中央にそっと当てた。
「……っ!!」
反応が昨夜の子れいむとあまり変わり映えしなかったので一気に包丁を落とした。跳ね上がろうとする子まりさの顔を更に押
しつける。普通なら即死である。しかし、ゆっくりは体を真っ二つに分断された程度では死なない。いや、死ねない。
男は素早く子まりさの上半身である顎から上の部分を持ち上げて切り口を下にしてまな板の上に置いた。
「ゆ゛っぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!」
ようやく絶叫を上げることが許される。上半身のみの子まりさの視界には、うねうねと動き続ける自分の下半身が映っている。
当然、あんよは下半身のほうにあるためその場を動くことができない。一瞬にして餡子の量を二分の一にまで減らされたことで
全身から力が抜けて行く。それなのに包丁で切られた部分は凄まじい熱を持ち、子まりさをじわじわと苦しめ続けた。
「まりさの下半身さん、返してね~……とはさすがに言わないか」
男の言葉など子まりさには聞こえていないのだろう。必死の形相で、
「まりしゃのあんよしゃん……っ!! ゆっくちしにゃいでかえっちぇきちぇにぇっ!!!」
「…………」
男が少しだけ苦笑いをしながらこめかみのあたりをかく。
「――――――!!」
母れいむが悲しそうな顔で男と子まりさを見つめている。さすがに何も言いはしなくなったが心の中では男に向けて思いつく
限りの文句を叫んでいることだろう。
上半身、下半身に分けられた子まりさの前に先ほど奪い取った黒い帽子を持って来た。
「おぼ……おぼうち……しゃん……」
さすがのゆっくりでもこの状態では長く生き続けることはできないらしい。明らかに表情がおかしくなりつつある。それでも
帽子を取り戻そうと必死になって舌を伸ばす様子には恐ろしい執念を感じる。
男が子まりさの上半身を持ち上げて下半身の上に置く。あんよが……下半身がもぞもぞと動き始めた。
(相変わらずデタラメな生き物だな……)
ゆっくりは体を半分に切っても、くっつけさえすればそのうち回復してしまう。自然界において体を寸断されるような事態は
まず起こり得ないだろうが、そういう意味では生命力はずば抜けて高い生き物なのかも知れない。ただ、生きるための力があま
りにも皆無であるというだけで。
「ゆっぐり……あんよしゃんが……うごかにゃいよっ……!!」
帽子に駆け寄ろうとしているのだが、それをしようとすると上半身だけが動いてしまい下半身から離れてしまう。そうなって
しまった場合、自分がどうなるのかということを本能が理解しているためそれ以上動こうとはしない。
男はそんな子まりさの前に帽子をちらつかせた。
「ゆぇ……っ!! いじわりゅしにゃいで……かえしちぇにぇっ……!!」
お決まりの言葉を繰り返す子まりさ。意地悪しないで、とはよく言ったものだ。意地悪どころかこれまで姉妹を徹底的に惨殺
した相手に対して言うような言葉ではない。それとも、帽子を奪われたことのショックが大きくて男がどういう人物なのかを忘
れてしまったとでも言うのだろうか。
あんよを思うように動かせないことに気付くと今度は懸命に舌を伸ばし始める。男は、帽子を床に放置して部屋を出て行った。
「まりしゃ……まりしゃああ!!!」
箱の中に入れられた残り一匹ずつとなった子れいむと子まりさが、帽子を奪われた子まりさに声をかける。しかし、その言葉
すら届いていないようだ。子まりさはずっと帽子を食い入るように見つめている。まともな感情は失われてしまっていた。帽子
を奪われた恐怖と体を真っ二つにされた激痛が、子まりさから正常な思考回路さえも奪っていた。男は子まりさから、帽子とあ
んよと思考回路を一度に奪い去ってしまったのだ。
「……ゆっくりできないゆっくりなのぜ」
父まりさが呟くのを母れいむが聞き逃さなかった。箱をガタガタと揺らして父まりさに恨みの言葉を浴びせる。父まりさは冷
めた目でそんな母れいむの姿を見ていた。ひとしきり文句を言い終えて、全身で呼吸をしながら父まりさを睨みつける母れいむ
に対して冷たい言葉が放たれる。
「……どうせ、れいむもしぬのぜ。 いまさらなにをいっても、むだなのぜ……」
母れいむが叫び声を上げる。
「おまえは……ッ!!!! おばえ゛だげはあ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!!!!!」
自分と、家族を裏切った父まりさ。ちびちゃんに囲まれて幸せなゆん生を送るという自分の夢を壊した父まりさ。せめて絶望
の淵で恐怖と悲しみに苛まれようとも、最後まで家族として父まりさやちびちゃんたちと共に在りたいと願っていた母れいむに
とって父まりさはもはや許すことのできない“敵”であった。何もかも裏切ったのだ。
「まりささまは、むれにかえってべつのゆっくりとすっきりー!して、あたらしいちびちゃんをつくるのぜっ!!!」
「ゆ゛があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!! ぶざげる゛な゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!!!!!!」
「げらげらげらげら!!!!」
箱の中に閉じ込められている母れいむがどれだけ激昂しようが、父まりさに対し恨みを抱こうが怖くもなんともない。父まり
さは母れいむに対して心底馬鹿にしたような顔で笑っていた。どうせ生き残るのは自分だけだ。死人に口なし。恐れるものなど
何もない。
そうこう言っているうちに男が部屋に戻ってきた。手にはハサミが握られている。帽子を奪われた子まりさが男を見上げて声
を上げた。
「おにぇがいしましゅぅぅぅ!!! まりしゃのおぼうししゃんを……かえしちぇくだしゃいぃぃぃ!!!」
上半身しかなかったときにはまともに喋ることさえできていなかった様子だったが、下半身の餡子と馴染んできたのか流暢な
言葉を喋るようになってきたようである。しかし、無理に体を動かそうとすると上半身と下半身が分かれてしまうようでそこか
ら動こうとはしない。
男は無言で子まりさの帽子のつばをハサミで切り落とした。黒い布が一片、畳に落ちる。子まりさはその黒い布切れを無言で
見つめていた。次に男が手にしている帽子を見る。顔から血の気が引いていく。
「ゆ……ゆわああああああ!!!!! やめちぇにぇっ!!! やめちぇにぇっ!!!!」
男が帽子に何をしたのか遅れて理解することができたようである。今すぐにでも男を攻撃して帽子を奪い返したいだろうが、
そんなことをすれば上半身と下半身が分かれてしまい死んでしまう。あんよを焼かれたわけでもないのに、子まりさはまな板の
上から一歩たりとも動く事ができないでいた。
ハサミが一つ、二つと入れられる。
「ゆびゃあああああああん!!!!」
泣き出す。体を真っ二つにされたときよりも流す涙の量は多いようにさえ思える。餡子の量が落ち着いてきたことで思考能力
が多少なりとも回復してきたのか反応がゆっくりらしくなってくる。どうせなら、思考回路が停止したままでいたほうが幸せだ
ったかも知れない。
男は次々と帽子をハサミで切り刻んでいった。はらはら……と落ちて行く黒の布きれに対して視線を上下させながら滝のよう
に涙を流してその動きを追う。
「やめちぇ……っ!! どおしちぇこんにゃこちょしゅりゅのぉぉぉぉぉ??!!!!」
そのとき、あんよが“ずり……”とまな板の上を動いた。跳ねるとまではいかなくとも這うことぐらいはできるようになった
らしい。上半身と下半身が離れてしまわないように、ゆっくりゆっくりまな板の上であんよを這わせる子まりさ。男の手に握ら
れている帽子は既に半分以上切り裂かれているため、もう一度かぶることはできないだろう。それでも懸命に帽子を求めて這い
寄ってくる。
シャキン…… シャキン……
容赦なく一定のペースで切られていく子まりさの帽子が少しずつその形を失っていく。
「ゆわああああ!!! まっちぇにぇっ!!! まっちぇにぇっ!!!!」
「お、し、ま、い」
最後のハサミが入れられ、バラバラに切り裂かれた帽子が子まりさの傍らにただの布切れとして転がっている。ようやくこの
場所までたどり着いた時にはもう全てが遅かったのである。
「ゆ……ぁ……」
瞳が絶望に染まっていき、冷や汗が全身を伝う。
「ゆんやあああああああ!!!!! まりしゃのおぼ―――――ゆ゛ぎゅんッ??!!!!」
男のつま先が子まりさの“上半身”を正確に捉えた。くっつきかけた下半身との皮がもう一度裂け、上半身だけが飛んでいく。
勢いよく壁に叩きつけられ、再び下半身を失った子まりさが必死の形相で口を開く。
「がひっ……!! こひゅっ……!! おぼ……ち……、あんよ…………かえし……ちぇ……」
上半身だけとなった子まりさのすぐ傍に父まりさの入った透明な箱が置いてある。その中にいる父まりさと目が合った。
「だしゅ……け、ちぇ……」
「ゆっくりしねっ!!!!」
父まりさが瀕死の子まりさにかけた言葉はその一言だけだった。程なくして子まりさが事切れる。
「ちびちゃあああああああああああん!!!!!」
これまで我慢していた叫びをここで爆発させる母れいむ。せめて、子まりさがその命の灯を消してしまう前にその言葉をかけ
ていれば、最後に聞いた言葉が父親からの辛辣な一言にはなり得なかったであろうに。
「「まりしゃ……」」
残された子れいむと子まりさが、動かなくなった下半身のあんよを見ながら涙を流す。八匹もいた家族はついに半分の四匹だ
けになってしまった。
男が子まりさの残骸を片付けて部屋を出る。畳の部屋には不穏な空気が漂っていた。母れいむ、子れいむ、子まりさ。三匹が
父まりさを鬼のような形相で睨みつけているのである。
「つぎはおまえなのぜ」
父まりさが、箱の中の子まりさの方に向いて冷たく言い放つ。母れいむが唇を噛み締めて父まりさに呪詛を浴びせるが気にし
ている様子はない。二匹の子ゆっくりも一緒になって、
「うるしゃいのじぇっ!!! ゆっくちできにゃいおちょーしゃんは、いましゅぐしにぇっ!!!!」
「れーみゅ……ぜっちゃいにゆるしゃにゃいよ……っ!!!!」
「だったらなんなのぜ? まりささまを“せいっさいっ!”できるのかぜ?」
「「ゆ゛ぎぃぃぃぃぃ!!!!!」」
二匹の子ゆっくりが父まりさを更に強く睨みつける。ふんぞり返って笑い続ける父まりさ。母れいむは目の前のゲスゆっくり
を今すぐにでも飛びかかって制裁したいと思っていたが、それをすることはできない。悔しくてたまらなかった。こんな箱の中
にさえいなければ、子供たちと力を合わせて父まりさを倒すことは可能であったかも知れないのに。
それなのに、自分たちの命を握っているのはこの父まりさなのである。いずれ父まりさに“今度はれいむを殺すのぜ”と言わ
れて、その通りにあの人間に殺されるのだけは屈辱だった。しかし、そうなってしまうのだろう。そんな自分の決定づけられた
未来を思うと、悔しくて悔しくて涙が溢れてくる。
「げらげらげらげらげらげら!!!!!」
父まりさの薄汚い高笑いが畳の部屋にこだました。
一方で男は動物病院へと車を走らせていた。当初の予定どおり飼い犬の様子を見に行くためだ。駐車場に車を止めていそいそ
と病院のドアを開ける。先生が出迎えてくれた。
「おお、君か」
「コタローの様子はどうですか?」
「うん。 餌もたくさん食べているし問題はないよ。 さすがに歩き回ったりはまだできないがね」
先生の言葉に男がほっと溜め息をつく。
「様子を見に行ってもいいですか?」
「構わんよ」
男が病院の奥にあるケージへと向かう。男の匂いに気付いたのか飼い犬がこちらへやってこようとする。男はそれを制しよう
と少し急ぎ足でケージの中に侵入していった。そっと頭を撫でる。飼い犬が穏やかな表情を浮かべた。
手術をした後ろ脚を覗き見ると、メスを入れるために刈り上げられたのであろう場所が痛々しい。
「クゥーン……」
飼い犬が甘えた鳴き声で男の腕に鼻を押し付ける。男は飼い犬としばらく一緒に過ごしていた。さすがに長居をするわけには
行かなかったので飼い犬の頭をぽんぽんと軽く叩いて立ち上がった。飼い犬がズボンの裾辺りに鼻を近づける。
“行かないで”
と言っているのだろう。男はもう一度だけ飼い犬の鼻の頭をちょん、と触ると名残惜しいがケージの中を後にした。振り向く
ことはしない。目が合ってしまったらきっともう一度ケージの中に入ってしまう。
(早く元気になれよ)
心の中でつぶやく。先生に挨拶をして男は病院を後にした。
ゆっくりに傷つけられた飼い犬の後ろ脚はすぐには治らないだろう。超高齢犬というのも手伝って治りは決して早くはないは
ずだ。それに比べて先ほどの子まりさはどうか。上半身と下半身をぶった切っても、くっつけてしばらく経てば勝手に回復する
のだ。
家に監禁しているゆっくり共への罰は“殺すぐらいでちょうどいい”のだ。
「今日はもう一匹殺すか……」
冷たい表情でそんな事を呟きながら男は家に向けて車を走らせた。
六、
玄関を開けると畳の部屋から怒鳴り声が聞こえてきた。声からして監禁している元まりさ一家が口論をしているようである。
この様子だと男が帰宅したことにも気づいていないらしい。そっと扉に耳を当ててみる。
「かぞくごろしのげすなまりさは、しねええぇぇぇぇ!!!!!」
「おちょーしゃんはゆっくちできにゃいよっ!!!」
「まりしゃ……おちょーしゃんだけはじぇったいにゆるしゃにゃいのじぇっ!!!!」
これまでの仕打ちに対しての怒りの矛先は全て父まりさに向けられているようだ。これが真っ当なゆっくりであれば、余りに
もゆっくりできない家族からの罵声に心が砕かれるのだろうが、父まりさは“真っ当なゆっくり”にカテゴライズされていない
らしい。
「さっきからうるさいのぜっ!!! どうせしぬんだから、おとなしくしてるのぜっ!!!」
それどころか反論する元気もあるようだ。いざ同族が殺される場面に立ち会うと恐怖で何もできないくせに命の選択権を与え
られているという立場上、気持ちに余裕があるのだろう。はっきり言って父まりさは臆病である。惨たらしく死んでいくゆっく
りの姿を直視できているのは、母れいむと子ゆっくりたちの方だ。
“一匹だけ助けてもらえる”という条件を呑み、次々と家族を見捨てていく父まりさはある意味では頭がいいと言えた。そう。
本当に、ある意味では。
男が扉を開けて畳の部屋へと入ってくる。父まりさは箱の中でぴょんぴょんと飛び跳ねながら、
「にんげんさんっ!! つぎはこのちびをころすのぜっ!!!!」
「ばでぃざあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!!!!!」
父まりさからの“リクエスト”はまた子まりさであった。その子まりさは、男に向かって無意味にな威嚇を涙目で行っていた。
こういう本当に覚悟を決めたゆっくりを虐待するときはさすがに注意を払わなければならない。いつものように箱の中に手を伸
ばす。男の手に向かって子まりさが体当たりをしかける。その行動を読んでいた男はそれをかわすとあっさり子まりさを掴み上
げて何か言いだす前に畳に叩きつけた。
「ゆ゛ぶぇっ!!!!」
凄まじい衝撃に、そこから動くことができないらいしい。男は竹のムチをうずくまって震えている子まりさに向けて振り下ろ
した。パァンッ!!という音が子まりさの皮から響く。既にその一撃で皮が破れ中身の餡子が飛び出していた。
「い゛ぢゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛い゛!!!!!!」
破れているのはあんよとあにゃる周りである。何の問題もない。そこを二度、三度打ち付ける。
「ゆ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛……っ!!」
呻くだけで抵抗らしい抵抗はしなくなった。所詮、ゆっくり如きの決意はこの程度のものだ。すぐに心が折れる。決死の覚悟
は一分と経たないうちに消えてなくなる。
「ゆひっ……、ゆひぃっ……!!!」
子まりさがずりずりと腹這いになって男から逃げ出す。それを踏みつける。
「ゆ゛げっ!!!」
短く叫んで餡子を吐き出す。子まりさが十分に動くことができなくなったのを確認すると、男は一旦部屋を出た。
「ちびちゃんっ!! ちびちゃんっ!!! ゆっくりしてねっ!!!!」
「おきゃーしゃん……くやしぃのじぇ……」
「どうして?! どうして?!」
「しぇっかく……はこしゃんからでられちゃのに……たしゅけちぇ……あげられなくちぇ……ごめんにぇ……?」
母れいむの目から涙が溢れる。今すぐに駆け寄って頬をすり寄せてあげたかった。傷口を舐めてあげたかった。箱に向かって
体当たりを繰り返す。ガタガタと揺れはするものの、やはりゆっくりの力では箱をどうにかすることはできない。こんなに痛く
て苦しい思いをしているのに、この子まりさは母れいむを箱から出すことを考えていたというのだろうか。
三つの箱には、それぞれ父まりさ、母れいむ、子れいむが入っている。現状、自由に動くことはできないが箱の中に入ってい
ないのは子まりさのみである。子まりさは、自分がこの状況を打破できないかと思考を巡らせていたのだった。もし、この子ま
りさが順調に育っていれば群れを治めるリーダーになっていたか、下手をすればドスになる資質さえ秘めていたかも知れない。
「ちびちゃん!! ちびちゃんだけでもにげてねっ!!! いますぐでいいよっ!!!!」
必死になって母れいむが叫ぶが子まりさにはその体力は残されていない。父まりさがその二匹の様子を見ながら大笑いしてい
た。
「げらげらげらっ!! ばかなのぜ? しぬのぜ? にんげんさんからにげられるわけないのぜっ!!!」
「ばでぃざは……だま゛っでろ゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ッ!!!!!!!」
「おお、こわいこわい」
父まりさが小馬鹿にしたような笑みを浮かべて小さく呟く。そこへ男が戻ってきた。ホットプレートを抱えている。母れいむ
と子まりさ、それに子れいむがこれまで見たことのない大きな道具に言い知れぬ恐怖を感じていた。
男が子まりさを乱暴に掴み上げる。それだけで先ほど竹のムチで打たれて引き裂かれた皮から餡子がぶりゅっ、と漏れ出して
くる。
「ゆ゛ぎぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛っ!!!!」
目を血走らせて子まりさが苦痛にうめき声を上げる。意識のある状態で自分の中身が体外へと出て行く痛みは相当なものであ
ろう。
「ぐぞじじぃぃぃぃ!!!!! ちびちゃんを……ばな゛ぜえ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ッ!!!!!!!!!」
立場を完全に理解して大人しくしている事しかできないと思っていた母れいむが、いつかのように激昂して男に対して咆哮を
上げた。男の傍らには竹のムチが置いてある。あの日、今と同じように男に文句を言ったあと自分がどうなったかを忘れている
わけではないだろうに。
「ぷっくうぅぅぅぅぅぅ!!!!!」
あろうことか威嚇までしてきた。今、母れいむにとって目の前の子まりさは自分の命よりも尊い存在になっていたのだ。これ
以上黙って我が子を殺されてなるものか……と、箱の中から牙を剥いてきたのである。男はまず先に母れいむを痛めつようかと
も思ったが、目の前で子まりさを惨たらしく殺したほうが精神的に堪えるだろうと踏んであえてそれはしなかった。
無視された母れいむは、少しでも自分に男の注意を引こうと必死になっている。男はホットプレートから伸びるプラグをコン
セントに刺し込むと、ホットプレートのダイヤルを回し始めた。その上に子まりさを置く。
「ゆ……? ゆ、ぐぅ……?」
これがどういう道具かが分からないが、ゆっくりできなさそうなのは間違いない……子まりさがその場から逃げ出そうとする
があんよを思うように動かすことができない。あんよを動かそうとすると先ほどムチで打たれた箇所が痛むのだ。
「ゆぅぅぅぅぅっ!!!」
痛みに耐えて必死にあんよを動かす。ずりずりとホットプレートの上を這っていく子まりさの頭を竹のムチで叩いた。
「ゆびぃっ!!!」
「れいぶの……ちびちゃんに……びどいごどをずる゛な゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!!!!」
箱の中から母れいむが叫ぶがそれを無視して、竹のムチで子まりさの頭を押さえつける。ようやく、ホットプレートが温まり
始めたようだ。子まりさが、不思議そうな表情を浮かべていた。
「ゆゆ……? にゃんだか……あんよが、あったかくなっちぇきたのじぇ……?」
激痛に耐えながらも自身を取り巻く環境が変化していっている事に気付くゆっくりは珍しい。そして、それが少しずつ熱くな
ってきていることにもいち早く勘付いたようだ。
「ゆっ!! ゆゆゆっ!!!」
「ちびちゃんっ!! ちびちゃん!!! どうしたのッ??!!!」
加熱が加速していく。やがて子まりさのあんよの皮が耐えがたい熱気に晒され始めた。
「あ゛ち゛ゅい゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!!!」
子まりさのあんよが張り付いたプレートから煙が上がり出す。男はそのまましばらく子まりさを押さえつけていた。身動きを
取れない子まりさのあんよがじわじわと焼かれていく。
「い゛ぢゃいの゛じぇえ゛ぇ゛え゛ぇ゛え゛ぇ゛!!!!!!!」
熱と一緒に今度は激痛が走り始める。あんよの皮が少しずつ焼き上げられていきその過程で、体内の餡子にまで熱によるダメ
ージが伝わるのだ。子まりさは、お下げを左右にぶんぶんと振り回して抵抗を試みたが押さえつける男の力に抗うことはできな
い。
「ちびちゃあああああああああああああああん!!!!!!!!!!」
母れいむが叫ぶ。また、自分の目の前で我が子が苦しむ姿を見ているしかないのだろうか。苦しみもがく子まりさの顔が、涙
が、母れいむの瞼の裏に焼きつけられていく。
「ゆ゛ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!」
天に向かって絶叫する子まりさ。男が押さえつけた手を離すも、油も敷かずに加熱を始めたホットプレートの上で焼かれた子
まりさのあんよはくっついてそこから離れない。あんよは少しずつ炭化を始めていた。無理に動かそうとすると、炭化した皮の
一部が崩れて更なる激痛に襲われる。
引き裂かれた皮の一部からは熱気が直接体内に入り込んで中身の餡子を炙っている。
「ゆ゛があ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!!!」
叫ぶ。まだ叫ぶ。どれだけ叫んでも、あんよから伝わってくる熱と痛みは終わらない。やがて、子まりさの底部付近は完全に
炭化してぴくりとも動かすことができなくなっていた。ここまで来たら次の段階である。男が子まりさに手を伸ばした。
「もう、やべでえ゛え゛え゛え゛え゛え゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!!!!!!!」
母れいむが箱の中で絶叫している。滝のように涙を流していた。既に顔面蒼白である。叫んだりでもしていなければ正気を保
つことができないのだろう。
男はそんな母れいむを尻目に子まりさの頭に右手をそっと当てた。親指で子まりさの目の付近を持ち上げて、残った四本の指
で子まりさの顔面を未だ熱されたままのホットプレートに押し付けた。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
あんよ焼きの次は顔面焼きである。無理矢理、押し付けているため底部から後頭部付近の皮が既に裂けている。そこから餡子
が漏れ出していた。
「あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!! あ゛ぢゅい゛ぃ゛ぃ゛ッ!!! ゆ゛びああ゛あ゛あああ゛ッ!!!!!!」
焼かれた顔の部分が真っ赤になっていく。その状態から額をこすりつけさせるように右手を動かす男。満遍なく顔全体が焼き
上げられていく。熱気によって茹であがった顔の一部が水膨れのように膨れ上がる。そこも更に丁寧に焼いていく。
「ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」
苦しみのあまり伸ばした舌先が、熱されたプレートに触れてくっつく。もうどこが熱くてどこが痛いのかさえ分からない。
「ゆひゅーーーー!! ごひゅーーーーっ!!!!」
まともに喋れなくなった子まりさをなおも熱と痛みが蹂躙していく。最初に押し付けられた額は既に炭化しており、右の目玉
が焼けただれて崩れ落ちてきた。ジュウゥゥゥ……という音と共に水蒸気が上がる。
しばらくして子まりさは、痙攣をするだけの塊となった。母れいむに顔を見せてやろうと引っ張り上げたとき、プレートにく
っついていた舌が千切れた。その時、一瞬だけ力強く痙攣を起こしたがそれ以降は「ゆ゛、ゆ゛……」と短く呻くばかりである。
「うぎゃああああああああ!!!!」
子まりさの焼けただれた姿を見て、母れいむが絶叫した。成体ゆっくりであるにも関わらず凄まじい勢いでしーしーを噴出さ
せる。
前髪は溶けてちりぢりになっており、額は真っ黒に炭化して痙攣を起こすたびに黒ずんだ固い皮がぱらぱらと落ちる。右目は
そこに存在しておらず焼け落ちたときの液体だか何か分からないが、それが右頬にべったりと付着していた。焼き上がっていな
い場所は一様に真っ赤に腫れ上がっており、そこにゆっくり独特の柔らかい皮などありはしない。唇も同様に焼かれており、剥
きだしになった歯茎からは数本の崩れた歯が見える。だらりと伸ばした舌は途中でちぎれており不気味に垂れていた。
「ひ……ひいぃぃぃぃぃぃっ!!!!!!」
左目だけが無傷で、その視線は母れいむに向けられていた。口のあった辺りを微かに動かすが言葉にはならない。男が子まり
さの考えているであろう言葉を代弁してやる。
「……おきゃーしゃん、たしゅけちぇ」
「ゆ゛……ッ、があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!! じね゛ッ!!! じねっ!!! じね゛ぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
母れいむが恐ろしい形相で男に対して批難を浴びせる。ゆっくり虐待用の道具としてはかなりの性能を誇る“透明な箱”が倒
れるのではないかと思うぐらいにガタガタと揺れていた。男がホットプレートのダイヤルを“切”に合わせてコンセントからプ
ラグを引き抜く。
子まりさはまだ生きていた。それを証明するのが無傷の左目から流れてくる涙である。
「ちびちゃあん……、ちびちゃああん……っ!!!」
悲痛な声が畳の部屋に響く。その声は子まりさに届いているのだろうか。男は子まりさの髪の毛を掴むと思い切り引っ張り上
げた。
「~~~~~~~~~~ッ!!!!!」
ブチブチブチィ……ッ、という嫌な音がしてホットプレートにくっついていたあんよが引きちぎられる。意識も痛覚も残って
いるのか、子まりさはその瞬間にカッと目を見開き強い痙攣を起こした。
「おでがいじばずぅ……もう、やべであげでぐだざい゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛……おでがいじばず……おでがいじばず……」
「もう終わったからやめてやるよ」
そうだ。もう、“終わった”のである。子まりさの体は完全に男によって崩されてしまった。底部が引きちぎられた事により、
中身の餡子がホットプレートの上に流出している。流していた涙も止まってしまっていた。
母れいむが絶望に染まった表情でホットプレートの上に横たわる我が子のなれの果てを見つめる。家族想いの子まりさは、も
うこの世にいない。最後の最後まで、生きたまま全身を焼かれて殺されたのである。それは母れいむにとってあまりにも残酷な
結末だった。
「うあ……あぁ……もう、……もうやだぁ……どうして……どうして……どうして……」
男は子供のように“どうして”を繰り返す母れいむを放置してホットプレートの片づけを始めた。子まりさが母れいむの視界
から消える。筆舌に尽くしがたい悲しみが母れいむを襲っていた。子れいむは途中から失神していたのだろう。しーしーを漏ら
しながら箱の中でぐったりしている。子まりさが無残に殺されるのを見て気を失ったのか、次は自分が子まりさと同じ苦しみを
与えられることを想像して気を失ったのかは、わからない。
父まりさも箱の中で怯えていたが、それは自分の命が危険に晒されているからというわけではないようだ。
(だいじょうぶなのぜ……! こわくないのぜ……! あとは、れいむとちびちゃんだけなのぜ……っ!!)
ぐったりとしている子れいむに不気味なまでの視線を送り、“ゆへ……ゆへへっ……”とか細い声で微笑む父まりさ。どうや
ら次に男に差し出す家族を決めたようである。
「ちびちゃん……ちびちゃん……ちびちゃん……」
「うるさいのぜ。 ちびちゃんはまたつくればいいのぜ!」
母れいむの感情の奥底からどす黒いものが湧きあがってくる。自分はこんなにも他者を憎むことができたのかと少しばかり戸
惑いながらも、へらへらと笑うゴミ以下の生き物を睨みつけた。
「……てやる……」
「なんなのぜ?」
「ごろ゛じでや゛る゛ぅ゛ぅ゛!!!!」
「ゆっへっへっ!! できっこないのぜっ!!!」
「れ゛い゛ぶがしんでも゛……ぜったい゛に……お゛ばえ゛を、ころじでやる゛う゛う゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛!!!!!!!」
れいむが。
死んでも。
絶対にお前を殺してやる。
七、
箱の中に横たわる子れいむはぴくりとも動かなかった。涙だけが溢れてくる。時々思い出したように揉み上げが微かに動く。
男が手を下す前から既に子れいむは憔悴しきっていた。大根おろし器ですり下ろされた姉妹の中身を餌として与えられたが、手
をつけてはいない。箱の中に監禁されてからただの一滴も水を口にしていない。体の小さな子れいむは、体力的にも精神的にも
とっくに限界を超えていたのだ
「ちびちゃん……っ! ゆっくり……ゆっくりしてね……ね? ね? ちびちゃん……ゆぅぅぅ……」
母れいむが声をかけるが反応は返ってこなかった。虚ろな瞳で天井のどこかを見上げたまま動かない子れいむ。母れいむにそ
の恐怖と絶望を拭い去るだけの励ましの言葉はかけてあげられなかった。
六匹もいた子ゆっくりのいた箱の中には、もう子れいむが一匹しか残っていない。子れいむは理解していたのだ。次に殺され
るのが自分だということを。目の前で行われた姉妹に対する数々の残虐な行為が頭によぎるたびに意識を失いそうになる。
恐ろしくて堪らないのに頬をすり寄せ合う相手も、頬を舐め合う相手もいない。無機質な立方体の中で永遠にも感じられる孤
独を味わう。いつになっても眠気は襲ってこなかった。せめて眠りについて夢の中でだけでも楽しい思いができたら、どんなに
幸せなことだろうか。
子れいむには、それさえも許されていなかった。畳の部屋を静寂が包む。父まりさは箱の中ですーやすーやと寝息を立ててい
た。その表情には勝者の余裕が浮かんでいる。月明かりが父まりさの寝顔を照らすたびに母れいむは腸が煮えくりかえるような
感覚に陥っていた。
月が沈み、再び太陽が昇ったときが子れいむの終焉である。母れいむも子れいむもそれを理解している。だからこそ恐ろしい
のだ。
“おひさましゃん、こんにちわー。 ぽーかぽーかしちぇあったかいにぇっ♪”
自分たちを暖かく包んでくれた太陽の光をこんなにも恨めしく思う日が来ようとは。
空が少しずつ明るくなってくる。死へのカウントダウン。無情にも陽はまた昇り、やがて“朝”が訪れた。
「ちびちゃん……?」
子れいむが箱の中をずりずりと這って移動し始めた。両親の顔から目を背けて箱の隅に身を寄せる。後姿がぶるぶると震えて
いた。見ていて痛々しい。家のどこからか足音が聞こえてきた。男が目を覚ましてのだろう。その音を聞いた瞬間、子れいむが
びくん、と体を大きく震わせた。
顔を箱の壁に押し付けて滝のように涙を流す子れいむ。眉をハの字に曲げ、顔を真っ赤にして泣き続ける。
(きょわい……きょわい……きょわい……きょわい……)
想像を絶する精神的な苦痛に中身の餡子を吐きそうになるがそれを堪える。痛めつけられるぐらいなら中身を全て吐いて楽に
なればいいのにと思うが、それは間違っている。“中身を吐く”というのは人間が想像しているより遥かにゆっくりにとって苦
痛なのだ。“食べた物を吐き出す”のではなく“中身を吐き出す”のである。
ふと、子れいむが箱の中央に移動を始めた。母れいむが心配そうにその様子を見つめている。
「しゅーり……しゅーり……」
子れいむは箱の中に“餌”として与えられた子まりさの残骸に頬をすり寄せ始めた。母れいむが思わず絶句する。子れいむの
頬に餡子が付着していく。
「ちびちゃ……」
「しゅーり、しゅーり……。 ……ちあわちぇ……」
何かにすがらずにはいられなかったのだろう。孤独の中に放置されるのは辛くて仕方がなかった。母れいむが叫ぶ。
「ちびちゃんっ!!!」
「しゅーり……しゅーり……」
「ちびちゃああああああああんっ!!!!!」
母れいむの声が聞こえていないのか一心不乱に餡子の塊に頬をすり寄せる子れいむ。顔の左半分が真っ黒に汚れていた。
「朝から元気だな」
開かれた扉の傍らに立っている男が残り三匹となったゆっくりに声をかけた。子れいむの視界に男が入った瞬間、しーしーが
勢いよく噴出された。その後もまるで蛇口を最後まで閉めなかった時のように、ちょろちょろとしーしー穴から砂糖水が漏れて
くる。表情は恐怖と絶望で染め上げられていた。
「にんげんさんっ!! つぎはあのちびをころすのぜっ!!!」
いつの間にか起きていた父まりさは開口一番、男に向かってそう言い放った。その物言いも最初の頃に比べて偉そうな態度に
変化していた。大方、父まりさは男のことを自分の望み通りに動く奴隷か何かと勘違いし始めているのだろう。初日に散々痛め
つけられたにも関わらず、命の選択権を与えてやったことで自分の立場というものが分からなくなってしまったようだ。
子れいむは無言で泣いていた。分かってはいた事である。そして、これから自分がどんな酷い目に遭わされるのかも、おぼろ
げに理解することができる。
ここまで生き残った事こそがこれから始まる苦痛と恐怖の序章であったのだ。
歯を鳴らす子れいむ。男が箱の中に手を伸ばした。あんよが震えて一歩たりともその場を動けない。持ち上げられる。
「ゆ……っ! ゆぅ……っ!!」
言葉を発することが唯一の抵抗の手段だった。身を捩らせることも、あんよをくねらすこともできない。恐怖で心が支配され
ているため、まるで金縛りにでもあったように体が動かない。男は子れいむを畳に置いた。それでも、逃げ出すことは叶わなか
った。つま先で軽く蹴る。ころころと転がっていく子れいむ。止まった先は母れいむの箱の目の前である。
「にんげんざんっ!! にんげんざんっ!!!」
叫び続ける母れいむを無視して男は再び子れいむを掴んだ。そして、それを見せつけるように母れいむの前に持ってくる。
「お……きゃ……しゃん……」
力なく自分に対して呼びかける子れいむの姿を見て母れいむが泣き叫んだ。
「だずげであ゛げでよ゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!!」
男は子れいむの前髪を指でつまむと、それを一気に引きちぎった。歯を食いしばり目を見開く子れいむ。
「い゛ぢゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぃ゛!!!!!」
恐怖に支配されていた心は、痛みによって解き放たれたらしい。急に身を捩らせて泣き叫ぶ子れいむの姿を母れいむが食い入
るように見つめている。男は子れいむの髪の毛を少しずつ、少しずつちぎっていった。
「ゆ゛びゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!!」
徐々に子れいむの頭皮が露わになっていく。邪魔だったリボンも引きちぎってバラバラに破いてやった。
「れーみゅのがわ゛い゛ぃ、おりぼんしゃんがぁぁぁぁぁ!!!!」
続いて揉み上げをそっとつまんだ。
「やめちぇにぇっ!! やめちぇにぇっ!! れーみゅのぴこぴこしゃんに……ひじょいこちょしにゃいでにぇっ!!!」
手の中から男を悲しそうな顔で見上げて必死に訴える。ぼろぼろ涙を流していた。男は揉み上げを持った手にそっと力をかけ
た。途端に子れいむが苦悶の表情を浮かべる。
「ゆ゛んぎぃぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ッ!!!!!」
歯を強く食いしばる。顔は真っ赤だ。男によって引っ張られた揉み上げは、子れいむの皮と共に在ろうとその場で抵抗を続け
る。そしてそれは子れいむの皮に対して凄まじい負荷をかけていた。
ミチミチ……ッ、と嫌な音がし始める。子れいむは全身から汗を噴き出して激痛に耐えている。目玉の三分の一ほどが飛び出
しているようにも思えた。あんよをくいっ、くいっ、と動かして痛みを紛らわせようとしているがそれは無駄な行為である。
ブチィィィィッ!!!!
「い゛ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!!!!!!!」
凄まじい音と共に子れいむの左の揉み上げが引きちぎられた。髪の毛が束になっているため、数本ずつ千切られるのはワケが
違う。揉み上げのあった場所の皮が少しだけ裂けてそこから餡子が漏れていた。
「ちびちゃあああああああああん!!!!!」
「い゛ち゛ゃい゛よ゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!!!!!!!!」
わざわざ痛がるような事をしているのだから当然だ。口を限界まで開き、顔を真っ赤にして泣き喚く姿は母れいむの心を存分
に傷つけた。今回は、母れいむの入った箱のすぐ目の前で残虐な行為が行われているのである。これまでと違って、我が子が男
に“何をされて”、“どうして泣き叫んでいるのか”がはっきりとわかる。
男の手の中で子れいむが滅茶苦茶に暴れまわる。どこにこんな力が残っていたのかわからない。鬱陶しくなってきたのか、掴
んでいた手の人差し指を子れいむの目玉に思いっきり突っ込んだ。右の目玉が一瞬で顔の奥に押し込まれてその中で形を崩す。
「ゆ゛ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!! れ゛ーみゅのぎゃわ゛い゛ぃ゛おべべがあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!」
「ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!! や゛べでね゛っ!!! や゛べでねっ!!!!!」
サイズが違うだけの同じ顔が似たような声で似たような言葉を吐き散らす。子れいむのしーしーが箱の壁にかかり、母れいむ
の視界をほんの少しだけ遮る。
「ゆ゛っ……ゆ゛……、れーみゅの……おべべ……もみあげ、しゃん……」
ぶるぶると体を震わせながら自分の置かれた状況を整理していく。畳に転がった揉み上げとリボンの切れ端が視界に入ると、
口を半開きにしたまま大粒の涙を流した。そこに潰して抉りだした目玉を添えてやると、子れいむは全身を震わせて泣き叫んだ。
「おでがいじばず!! おでがいじばず!!!!」
「もう何度、お願いしたよ? 一度も聞いてもらえなかっただろ? 諦めろよ」
「ゆ゛ぐ、ぎぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!」
男は執拗に子れいむの髪の毛を千切っていった。そのたびに体全体を大きく跳ね上げて激痛を訴えていたが男の行為がそれで
止まることはない。やがて、右の揉み上げを残すのみとなった中途半端な禿饅頭が畳に転がされた。子れいむが畳を這って進み、
千切られた髪の毛やリボン、揉み上げを見て叫び声を上げる。
「ゆ゛んや゛あ゛あ゛あ゛!!! れーみゅのかみのけしゃん!! おりぼんしゃん!! もみあげしゃん!!!!」
何もかもを奪われたことを嘆き絶望する子れいむの元に先ほど抉った目玉を見せてやると、
「おべべもぉぉぉぉぉぉ!!!!」
などと喚きながら、それらのゴミに舌を這わせる。
「ぺーりょぺーりょ……ゆっくちしにゃいで、なおっちぇにぇっ!! れーみゅ、こまっちぇりゅよっ!!!」
残された右の揉み上げだけをぴこぴこと動かし、必死になってリボンや髪の毛を舐め続ける姿はあまりにも滑稽であった。母
れいむはそんな子れいむの姿を見て、涙を流すのみだ。
男は無駄な行為を続ける子れいむの頭を右手で押さえつけた。
「ゆぶぶぶぶ!!!!」
口を畳に押し付けられて言葉を喋れなくなった子れいむが苦しそうに呻きだす。
「も゛う゛や゛べでよ゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!!!!」
母れいむが箱の中で絶叫する。男はそれを無視して子れいむの残された右の揉み上げをつまんだ。視界に入れることはできな
いが、どういう状況にあるかは感触で把握することのできた子れいむが必死になってこの場を逃れようと暴れまわる。しかし、
男によって更に強く顔を畳に押さえつけられることでその動きは制されてしまった。
先ほどと同じように揉み上げをゆっくりと引っ張っていく。踏ん張って抵抗していたせいか、あにゃるから少量の餡子が漏れ
出てきた。再び、揉み上げと皮の引っ張り合いである。涙を流しているのか顔周辺の畳は湿り気を帯びていた。しーしー穴の付
近には小さな水たまりができている。
程なくして、子れいむのもう一方の揉み上げも引き千切られた。刹那、尻をびくんと上に跳ね上げてぐったりと畳につけて小
刻みに震えだす。ようやく子れいむを抑えつけていた右手を離すと、すぐに起き上がって泣き叫び始めた。
「ゆ゛ん゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!! ……あ゛あ゛ッ!! や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!」
凄まじい叫び声である。その叫びには、痛みと苦しみ。恐怖と悲しみ。そして、男への怨みが込められていた。髪の毛を全て
引きちぎられる痛みは想像を絶するものがあるが、子れいむの中身はほとんど失われていない。どれだけぐったりしていても、
先ほどの叫びを聞けば分かるとおり生命活動には何の支障も出ていないのである。
呼吸を荒くしながら、悲痛な表情で泣き続ける子れいむ。男は淡々と次の作業に移った。ポケットからチャッカマンを取り出
した。子れいむの目の前で火をつける。
「ゆ゛びゃあ゛ッ!!!」
揺らめく炎が一瞬だけ、子れいむの頬を撫でた。それだけで飛び上がり喚き散らす子れいむ。
「や゛め……ちぇ、にぇ? それは……ゆ゛っぐち……できにゃいよ……」
怯えながら母れいむの入った箱の壁に頬をくっつける子れいむ。そこに母れいむが駆け寄る。壁を隔てた親子の再会だ。
「おきゃああああしゃああああああん!!!!!」
「ちびちゃんっ!!! ちびちゃんっ!!!!!」
そんな下らない“ごっこ遊び”には付き合わない。男は再び子れいむを掴み上げるとチャッカマンの先端をあにゃるに無理矢
理ねじ込み始めた。あにゃるを限界まで押し広げられて、痛みと恥ずかしさで顔を真っ赤にする子れいむ。あにゃるは少しだけ
裂けてしまっている。うんうんの通り道を突きぬけて体内の中央付近までチャッカマンをねじ込んだところで、男はようやく力
をかけるのをやめた。
「ゆ゛ぴっ……、ゆひぃ……っ!」
子れいむがびくびくと痙攣しながら、小さな声を漏らしている。視点は既に定まっていないようだ。
「や……じゃ……、やめ……ちぇ……」
チャッカマンの火力調整を“+”の側に持って行く。おもむろにトリガーを引くと、子れいむが恐ろしい形相で暴れ始めた。
「ゆ゛ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
「ゆひぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!!」
その絶叫は男の想像を遥かに超えるものであった。箱の中の母れいむも思わず怯えて後ずさる。
「あ゛あ゛あ゛!!! あ゛ぢゅい!!!! い゛ぢゃい゛ッ!!!! ゆ゛があ゛!!! ゆ゛ぎぃ゛ぃ゛ぃ゛!!!!!」
体内に刺し込まれたチャッカマンの先端から炎が出ている。
「や゛びぇ……ッ!!! ゆ゛ぎゃあ゛っ!!! だじゅ……!!!! げちぇ……ッ!!! ひぎゃあああああ!!!!!」
体の内側から、直接中身の餡子を焼き焦がされる激痛が文字通り子れいむの体内を駆け巡る。漏れ出すしーしーは留まるとこ
ろを知らない。滅茶苦茶に暴れまわる子れいむを抑えつけて炎を送り続ける男。母れいむには子れいむの中で何が起こっている
かまでは分からないため、その場でがたがた震えながら我が子の絶叫を聞いている。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!!!???」
男はチャッカマンを更に体内の奥深くにねじ込んでいった。そしてその先端が望み通りの場所へと“貫通”したのを確認する
と、もう一度チャッカマンのトリガーを引く。
「ゆああああああああああああ!!!!!」
絶叫してしーしーをぶちまけたのは母れいむである。既に息絶えた子れいむの口から炎が吐かれていた。視界に映る子れいむ
は母れいむにとって異形の魔物のように思えた。チャッカマンを引き抜くと、男は死んだ子れいむを持って畳の部屋を出て行っ
た。
一瞬にして部屋を静寂が包んだ。
「ゆ゛……ゆ゛……ゆ゛……ゆ゛……」
母れいむの切れ切れの呼吸だけが聞こえる。ふと、子ゆっくりたちが入っていた透明な箱に目を向ける。
六匹もいた愛らしい我が子。そのどれもが筆舌に尽くしがたい拷問の末に、惨たらしく殺された。箱の中は空っぽだ。小さな
体で一生懸命跳ねて暮らしていた子ゆっくりは、一匹たりともいない。
涙がぼろぼろと溢れてくる。
「ごめんね……っ!!! ごめんねっ!!! まもってあげられなくて……っ、ごめんね……っ!!!!」
八、
畳の部屋に二匹のゆっくり。父まりさと、母れいむ。お互いに一言も喋らない。これが数日前で仲良く夫婦をしていた二匹の
姿だろうか。その面影はどこにもない。
夕方。
仕事先から帰ってきた男はずっと隣の部屋にいた。足音だけが静かな部屋に聞こえてくる。母れいむは箱の壁に頬を寄せて、
これから我が子と同じような目に遭わされて殺されるのを……怯えながら待っていた。次に男が扉を開けてこの部屋に入ってき
たときが、自分の命の終わり。母れいむはそれを理解していた。
午後七時を回ったころ、それまで家の中から聞こえてきていた足音がぴたりと止んだ。家事を終えたのだろう。母れいむは、
唇を噛み締めた。隣の部屋での男の行動が終わったら、次の行動をするためにこの部屋に入ってくる。自分たちの命を次々に奪
っていく行動に移るのだ。
男が扉を開けて畳の部屋へと入ってくる。電灯のスイッチを入れると、満身創痍でうずくまっている母れいむとニヤニヤと笑
い続ける父まりさが照らし出された。
「にんげんさんっ!!!」
父まりさが声を上げる。
「なんだ?」
「ほんとうに、ひとりだけはたすけてくれるのぜ?!」
「“一匹だけ”ならな」
母れいむが箱の中で小刻みに震えていた。それを見て父まりさが笑い声を上げた。
「じゃあ、つぎはれいむをころすのぜぇぇぇ!!!!」
「ばでぃざあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!!!!」
嬉々として隣の箱に入った母れいむに死刑宣告を下す父まりさの顔はあまりにも醜いものだった。母れいむは、羅刹の如き形
相で父まりさを睨みつけている。それに対して“げらげらげら!”と笑い続ける父まりさの顔を見ていると衝動的に殺してしま
いそうになるので、さっさと箱から母れいむを引きずり出した。
「やめてねっ!! はなしてねっ!!! ぷっくうぅぅぅぅぅぅ!!!!」
さすがにすぐに泣き喚いたりはしない。涙目になりながらも行う威嚇は、母れいむにとっての宣戦布告であった。ただでやら
れるつもりはない、ということらしい。男はその威嚇を鼻で笑うと、手にした竹のムチで母れいむを殴打し始めた。
「ゆ゛ぎゃぁぁっ!!! ひぎぃっ!! ゆ゛げぇぇっ!!!」
戦いは始まる前に終わり、一方的な暴力が母れいむを襲った。初日とは違う。男は本気で竹のムチを振るっていた。あの日は
“痛めつけること”が目的だったが、今日は違う。最初から“殺すつもりで”母れいむの顔を打っているのだ。さすがに成体ゆ
っくりの皮は厚いため、二度三度打った程度で皮は破れない。
ムチの風を切る音。母れいむの皮を打つ乾いた音。母れいむの口から洩れる短い呻き。その三種類の音だけが畳の部屋に響く。
救いを求める相手もいない母れいむは、黙って自身に走る激痛に耐えるしかない。耐えて、耐えて、耐えて、やがて死ぬまでこ
の苦痛は終わらないのだ。
体中を痺れるような熱を持った痛みが駆けて行く。徹底的だった。男はこの短時間で何度ムチを振り下ろしたかわからない。
母れいむの皮が破れようが真っ赤に腫れ上がろうがお構いなしと言った様子だ。
顔を畳に自ら押し当てて痛みから逃れようとしている母れいむの尻を思いっきり蹴りつけた。
「ゆ゛ぎゃああッ?!」
目の前の柱に顔面をぶつけて畳にうずくまる。痛みにのた打ち回る母れいむの仰向けになった腹部のあたりを更にムチで打ち
つけた。そのたびに、体全体をびくんっ、びくんと跳ね上げる。
「ゆ゛ひぃ……ゆ゛ひぃ……。 ぎゅぶるッ!!!!」
ぐったりとしていた母れいむの顎のあたりに垂直に拳を下ろした。深々と皮の奥にめり込む。
「ゆ゛ぼぇっ!!!」
その衝撃からか、口から餡子を噴水のように吐き出した。その餡子がべちゃべちゃと母れいむの顔に降りかかる。
父まりさは少しだけ戸惑っていた。男の執拗な暴力の数々に、これまでとは違う何かを感じていたのだ。もちろん、子ゆっく
りに対して今のような虐待を行えばすぐに潰れてしまうというのもあるのだが。
「ぎゅべっ!!! ゆ゛ぶりゅっ!!!」
同じように拳を何度も何度も撃ち込む。その度に餡子を吐き出すため、母れいむの顔は自身の吐いた餡子で真っ黒になってい
た。
男はぐったりとして動かなくなった母れいむに再び竹のムチを振り下ろした。ピシャアアアアン!!!という音と共に、満足
に動かすことのできない体をびくん、と痙攣させる。
母れいむに関しては最初から殴り殺すだけと決めていた。様々な道具を使って泣き叫ぶゆっくりを見て楽しいのはせいぜい赤
ゆっくりか子ゆっくりぐらいまでのものだ。こんなふてぶてしい顔をしたバスケットボールサイズのゆっくりに、ちまちまと道
具を使った虐待などしても面白くない。成体ゆっくりは何も考えずに殴るに限る。男はそう思っていた。そっちのほうがストレ
ス解消にもなる。
「お前は……ッ!! どんだけ傷がついても構わないからな!!!」
口調を荒げながら執拗に殴打を繰り返す。男はたとえ金属バットを使ってもゆっくりを即死させずに長い時間いたぶることの
できる自信を持っていた。母れいむの顔は原形を留めないほどに醜く腫れ上がり、まるでジャガイモのような状態になってしま
っている。
一見すれば、これが“ゆっくり”だとは誰にもわかるまい。
一方でひたすらその身を打たれ続ける母れいむは、腫れ上がった皮のせいで誰にも知られることなく涙を流し続けていた。父
まりさの言ったとおりになってしまったことが悔しくて仕方がなかった。結局我が子を一匹も守ることができずに、こうして男
に弄られてやがては殺される。そんな自分の終焉に納得がいかなかった。しかし、それを変えるだけの力は持ち合わせていない。
腫れ上がった皮の隙間から父まりさの姿が見える。箱の中で母れいむを見ながら事もあろうに笑みを浮かべていた。その様子
を見て歯を食いしばる母れいむ。
(まりさ……ッ!!! ぜったいに……ぜったいにころしてやるっ!!! ころしてやるっ!!!!!)
その生命力の高さと皮の厚さが逆に長く母れいむを苦しめることになった。このジャガイモの中にはまだまだたくさんの餡子
が詰まっている。
「ゆ゛……っ、ゆ゛……っ、ゆ゛……っ」
苦しそうに呼吸をする母れいむの脇腹辺りを蹴りつける。
「ゆ゛べっ!!!」
しーしーが漏れ出してくる。部屋の壁に身を寄せてぐったりと横たわる母れいむの髪の毛を掴んで持ち上げる。その目には既
に光はない。痛みに対して呻き声を上げるだけの物体と化していた。そのまま柱に顔面を叩きつける。歯が折れたのか畳にぽろ
ぽろと小石のようなものが落ちてきた。
「ゆ゛ひゅー……、ゆ゛ひゅー……」
砕かれた歯の隙間から呼吸が漏れる。男は母れいむを畳の上に放り投げた。
「びゅげっ……!!!」
落下の際に勢いよく後頭部を叩きつける。そのまま体を震わせながら餡子を床に吐き出した。もはや虫の息である。男が母れ
いむを蹴って転がす。
「ゆ゛………………ゆ゛…………」
ここまで痛めつけられても母れいむはしぶとく生きている。生きている、という言い方が正しいのかはわからない。時々思い
出したように“ゆ゛”と鳴くだけの物体に、その言葉は少しもったいないようにも感じた。
「げらげらげら!!! れいむ!! まりささまを、ころしてやるとかいってたのぜ?!」
突如、箱の中の父まりさが声を上げた。
(ま゛……り゛…………ざぁ……ッ!!!!)
男が思わず目を見張る。母れいむの揉み上げが、父まりさの罵倒に反応するかのようにぴくりと動いたのだ。そんな事に気付
かず、父まりさは母れいむを思いつく限りの言葉で罵倒し続ける。
「なまいきなことばっかりいう、れいむはしんでとうぜんなのぜっ!!!」
今わの際の母れいむが体全体を微かに震わせている。泣いているのだろう。悔しくて悔しくてたまらないはずだ。家族と自分
を裏切ってのうのうと生き残ろうとしているこの父まりさが、憎らしくてたまらないはずだ。
「ゆっくりできないれいむは…………しねっ!!!!!」
反応を返さなくなった。母れいむはようやく死を迎えたのだ。体内の餡子がなくなってしまったのか。それとも心が死んでし
まったのかは分からない。畳の上にジャガイモのような饅頭が一個転がっていた。
男はその母れいむだったものの髪の毛を掴んでぶら下げた。だらりと力なく男の手にぶら下がる“それ”は討ち取った敵将の
首のようにも見える。男が無言で歩きだす。父まりさの入った箱の横を通ろうとしたとき、
「にんげんさんっ!!! やくそくなのぜっ!!! まりささまをたすけるのぜっ!!!!」
箱の中でたむたむと飛び跳ねる父まりさが本当に嬉しそうな笑顔で声をかけてきた。男が立ち止まる。父まりさは男がこの忌
々しい透明な箱の蓋を開けるのを今か今かと待ち望んでいる様子だった。
“一緒にゆっくりを殺した仲間”ということで、父まりさは自分が男と対等な立場にあると勘違いしているらしい。男が部屋
を出て行く。
「ま……まつのぜっ!!!」
父まりさが慌てふためいた様子で男の後ろ姿に声をぶつける。男は既に事切れた母れいむをダイニングテーブルの上に置いた。
今もなお騒ぎ立てている父まりさの元へと足を向ける。再び現れた男の姿に、父まりさが安堵の笑みを浮かべた。
「約束どおり“一匹だけ”は助けてやる」
その言葉を聞いた父まりさが醜悪な笑顔ではしゃぎ出す。男は無言で父まりさの入った透明な箱に、後ろ手で隠し持っていた
ハンマーを打ちつけた。
凄まじい音と共にガラス製の透明な箱の天井が砕けて、鋭い先端をもった破片が父まりさに降り注ぐ。
「ゆ゛ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ??!!!」
無数のガラス片が父まりさの顔に突き刺さる。あまりにも突然の出来事と、突如顔中を襲った激痛に思わず転げ回る。
「い゛だい゛よ゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!!!」
砕けた透明な箱の床に散らばったガラス片が更に父まりさを蹂躙していく。父まりさは歯を食いしばり滝のような涙を流しな
がら咆哮を上げた。
「な゛ん゛でごどずる゛の゛ぜえ゛ぇ゛ぇ゛ッ?! だずげる、ってい゛っだのぜぇ゛ぇ゛ぇ゛!!!!?????」
「ああ。 “一匹だけ”な。 だが、その一匹はお前じゃない」
「わげのわがらな゛いごどをいう゛な゛ぁぁぁッ!!! やぐぞぐはまも゛ら゛な゛いと、いけない゛んだぜえ゛ぇ゛ッ?!!」
「俺は、“最後に残った一匹を助けてやる”なんて一言も言ってない」
―――――この中で、“一匹だけ”なら助けてやってもいい
―――――明日からお前らを一匹ずつ殺してやる。 朝までに話し合って誰を殺すか決めておけ
―――――お前が決めろ。 自分が一番可愛いなら、最後まで残りの家族を殺すように言えばいい
「ふ……ふざげる゛な゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
男が父まりさの収まる透明は箱の前にしゃがみ込む。男は、父まりさを身の毛もよだつ様な冷たい視線で睨みつけた。
「ゆ……ゆひいぃぃぃぃぃぃッ!!!!」
睨まれただけで、父まりさは金縛りにあったようにその場を動けなくなった。既に自分を閉じ込めていた透明な箱は砕けてし
まい、ジャンプさえすれば脱出できるという状況にありながらその行動に移せない。それはこれまで父まりさが一度も感じた事
のない“恐怖”だった。
餡子脳で考える。男の言った言葉の意味を。
一匹だけなら助けてもらえる。一匹ずつ殺される。残りの家族を殺すように言い続ければ、必ず自分が最後の一匹になる。
三段論法で考えても父まりさが助かる結末に矛盾はないはずだ。なのに、どうして……?
めまぐるしく駆け巡る思考と恐怖とで凍りついたように動けなくなる父まりさ。男は父まりさに向かって語りかけた。
「まりさ。 ずっと誰を殺すか選び続けて疲れただろう?」
「ゆ゛、ゆ゛、ゆ゛、ゆ゛……」
ガチガチを歯を鳴らし震えだす父まりさ。男は父まりさにまるで耳打ちをするように顔を近づけていった。
「だから今度は俺が選んでやるよ」
「次に死ぬのは、―――――まりさ。 お前だ」
九、
死の宣告を受けた父まりさは怯えながら夜の月を見上げていた。凍りついたように動かなかったあんよも今は何とか動かす事
ができる。体内に刺さったガラス片の痛みさえ堪えればすぐに箱の中から脱出できるだろう。しかし、父まりさは今ようやく気
がついたのである。透明な箱の外も、更に大きな“部屋”という名の箱によって閉ざされているということを。
逃げることはできない。本能がそう呟く。
あれから何度考えても、自分が殺されてしまう理由がわからなかった。父まりさの最初の計画では今頃、山に帰って仲間のゆ
っくりを集めて今回の出来事を語って聞かせている段階である。それなのに今も変わらず男の家に監禁され、あまつさえ死刑宣
告さえ受けてしまった。
体の震えが収まらない。父まりさは自分の前で惨たらしい最期を遂げて死んでいった七匹のゆっくりの事を思い出していた。
「こわいよぉ……! しにたくないよぉぉ……!! だれか……すーりすーりしてほしいのぜぇぇぇ……!!!」
弱々しい声で鳴く。自身を慰めてくれる家族の全てを裏切り全滅させた父まりさは、母れいむや子ゆっくりたちと頬をすり寄
せたくて仕方がなかった。しかし、家族が捕えられていた二つの透明な箱の中には誰もいない。
幻のように浮かんでは消える母れいむの笑顔や、愛らしい仕草でぴょこぴょこと跳ね回る子ゆっくりたち。
「…………ゆぐっ!!」
我が身可愛さにそれらを全て裏切り消し去ってしまったのは、他ならぬ父まりさ自身である。
結局、この日、父まりさは一睡もすることなく次の日の朝を迎えた。
差し込む太陽の光が父まりさを照らし出す。家族が毎晩訪れるのを恐れていた、“朝”が来たのだ。
「ゆ……ゆああ……っ!! ゆああああ……」
朝の訪れに恐怖し、しーしーを垂れ流す父まりさ。部屋の向こうから男の足音が聞こえてくる。男もどうやら目を覚ましてい
るらしい。全身がわななくように震え出す。小刻みに歯をカチカチと鳴らし、額からは大量の汗が流れ出した。自然と瞳に涙が
溜まっていく。
「こわい……ごわい……ごわいよぉ…………」
小さく。どこまでも小さく父まりさが呟く。男の足音が、父まりさの命の時計を刻む針の音のように聞こえた。やがて、その
音が聞こえなくなる。
「―――――――――ッ!!!!」
父まりさの体が跳ね上がるかのように強く震えた。
―――ガチャッ……
扉が開く音。これから始まる地獄という名の時刻を告げる音。その時刻を告げるのは陽気な音楽でも、鳩の鳴き声でもない。
「ゆ゛あ゛あ゛……ッ!!! ゆああああああ……ッ!!!!!!」
畳の部屋に入ってきた男は父まりさを箱から取り出した。
「ゆ゛ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!!!」
そのまま、思い切り畳に叩きつける。
「ゆ゛ぎゅえッ??!!!」
思考がまともに動き出すよりも先に、顔面に凄まじい激痛が走る。一瞬、男の手から離れた父まりさが必死の形相で逃げよう
とする。だが、しかし。
「い゛だい゛のぜえ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!!!!
突然その場で転げ回る父まりさ。体内に無数のガラス片が刺さっていることは既に忘却の彼方だったのであろう。それを無理
矢理思い出させるのは体中を駆け巡る激痛。痛みに抗おうと暴れれば暴れるほど、父まりさはガラス片により中身の餡子を蹂躙
されるのだ。
「ゆ゛ひっ……、ゆ゛ひっ……!!!」
ぼろぼろと涙を流しながら激痛に歯を食いしばる父まりさ。男は父まりさを転がすように何度も何度も“優しく”蹴りつけた。
畳の上をごろごろと転がる父まりさが更なる絶叫を上げる。
「や゛べでえ゛え゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ッ!!!!」
泣き叫ぶ父まりさに竹のムチを振り下ろす。体の外側に電撃のように走る痛みに身を捩ると、今度は体の内側でガラス片がこ
すれ合う。
「ゆ゛ぎぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛!!!」
内と外。両方から生じる激痛の波が父まりさを容赦なく襲い続けた。動けば体の中から傷つけられるため、動いてはならない。
しかし放たれるムチによる衝撃に父まりさは体を跳ね上げざるを得ないのだ。体内のガラス片と襲いかかる竹のムチという連携
の前で父まりさは抗う術を思いつくことのないまま、ただひたすらに地獄の責め苦を味わわされた。
「ゆ゛げぇっ!!! う゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛っ!!!!」
凄まじいまでの苦痛に父まりさが思わず餡子を吐き出す。ぼとぼと畳に落ちた餡子を見て父まりさの顔が青ざめていった。
「ば……ばでぃざの……な゛がみざん……ゆっぐりじないで……」
男によって持ち上げられる父まりさ。その泣き顔でぐしゃぐしゃになってしまった顔を畳の餡子に向かって押し付ける。
「ゆ゛ぶぶぶぶぶ……ッ!!!」
「まだ中身を吐くには早すぎるだろ。 さっさと食え」
父まりさの中身である餡子が再び父まりさの口の中へと入って行く。そのあまりの気持ち悪さに父まりさはまた、餡子を吐き
出した。しかし、行き場のない餡子は父まりさの口から出ることはなく舌の上で留まっている。男は父まりさ頭頂部と顎の辺り
を抑えつけて中身を吐き出さないように仕向けた。
「ほら噛め」
そして、父まりさの口を上下に動かす。父まりさがあまりの苦痛に涙としーしー、うんうんを同時に垂れ流し始めた。それで
も男は父まりさに自分の中身を食べさせようとする。自身の中身が自分の歯で咀嚼され、喉を通り体内へと送られていく。
(ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ッ!!!!!!)
せっかく飲み込んだ餡子がまた逆流してくる。父まりさの口からは大量の餡子が勢いよく吐き出された。
「ゆ゛ぶる゛ぇ゛ッ!!! げへっ……!!! ゆ゛ぐぇ……ッ!!! ゆ゛はー……ゆ゛はー……ッ!!!!」
嗚咽に混じって口の中に残っていた餡子がぴゅるぴゅると飛び出す。顔面蒼白の父まりさが畳の上に転がる。痙攣を起こして
白目を剥いていた。男はあらかじめ用意していたオレンジジュースを父まりさの顔にぶっかける。
「ゆ゛がはっ!!!!」
まるで息を吹き返したかのように身を捩りだす。目からは洪水のように涙が流れ出している。ぐったりとしながらも、男に向
ける視線はこの苦しみからの解放を求めていた。哀願するように男を見上げている。男はそんな父まりさの顔面を思い切り踏み
つけた。
「ゆ゛べぇッ??!!!」
変形した顔の形に合わせて中身の餡子が動き、それに押しやられる形で体内のガラス片が父まりさの皮を突き破って顔を出し
た。
「ぎひっ……!!! い゛ぃ゛ぃ゛……っ!!! ゆ゛ぎぃ゛ぃ゛ぃ゛!!!!」
男は父まりさの皮から覗くガラス片を一つずつ引き抜いていった。引き抜くたびに父まりさが激痛に体を跳ね上げる。引き抜
く際、ガラス片が父まりさの皮にこすれているのだろう。
しばらくそれを繰り返した。父まりさを踏みつけたり殴ったりした際に自分がガラス片で傷ついてはたまらない。素手では危
険なので一番最初に犬小屋の入り口に打ち付けた板を使って父まりさの全身を圧迫していく。
「ゆ゛ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!!」
父まりさの顔面に板をあてがい片膝を乗せて徐々に体重をかけていく。一歩間違えば圧迫死してしまってもおかしくないのに、
男は器用に父まりさの体全体を押し潰していった。皮のあちらこちらからガラス片が飛び出してくる。
「がひっ!!! こひっ!!!」
“手術”の最中に患者である父まりさの容体が急変し始めたらオレンジジュースをかける。意識を取り戻したところで再び麻
酔なしの“手術”を再開する。
「や゛べでえ゛え゛え゛え゛え゛!!! い゛だい゛い゛だい゛い゛だい゛い゛だい゛!!!!!!!」
それを一時間近く繰り返した。父まりさは既に疲労困憊の様子である。だらしなく舌を垂らし、全身を痙攣させながらぐった
りしている。あらかた体内のガラス片は回収できたようだ。オレンジジュースを与えて回復したところに、竹のムチを振るう。
「もう゛や゛だあ゛あ゛あ゛あ゛!!! お゛う゛ぢがえ゛る゛う゛う゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛!!!!!!」
想像を絶する激痛と苦痛に幼児退行でもしているのだろうか。もうこの世のどこにも居場所などない死を決定づけられた饅頭
が悲痛な叫び声を上げた。激しく体をくねらせて痛みに抗おうとする父まりさの姿を見て、体内にガラス片が残されていないこ
とを確認する。
「どぼ……じで……」
父まりさが途切れ途切れに言葉を紡ぐ。満足に動くことができないようだ。それはそうだろう。父まりさのあんよは執拗に殴
打された結果、不気味なまでに腫れ上がっている。せいぜいあんよをうねうねと動かすくらいしかできないようだ。
「だずげでぐれる……で、いっだの゛に……ッ!! うぞづき……っ!! うぞづいちゃ……いげないんだよっ!! ゆっぐり
りがいじでね……っ?!」
男が父まりさを嘲笑する。
「家族を見捨てたゴミの分際で道徳を語るな」
父まりさには男の言葉の意味がわからない。それを教えてやる必要などない。
「うそづき……う゛ぞづぎ……うぞつぎ……」
同じ言葉を繰り返す父まりさを蹴り飛ばす。壁に叩きつけられて跳ね返ってきた。
「ゆ゛っ、ゆ゛っ、ゆ゛っ、ゆ゛っ……!!!!」
苦しそうに短く呻き声を上げる父まりさ。
「嘘つき呼ばわりは酷いな。 俺はちゃんとお前の家族を“一匹だけ”助けてやったぜ?」
「だがら……っ!! ぞれ゛は、ばでぃざでじょお゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ッ??!!!!」
「いや、違う」
「……ばでぃざあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あッ!!!! じね゛え゛え゛え゛ぇ゛ぇ゛ッ!!!!!!」
突然、響いた叫び声に父まりさが目を見開く。恐る恐る声のする方向に目を向ける。そこには父まりさに見覚えのない子ゆっく
りの“れいむ”がいた。見ず知らずの子“れいむ”にいきなり“死ね”と叫ばれた父まりさはあまりの展開に思考回路がまったく
ついていけていない。
“れいむ”が動けない父まりさに飛びかかる。恐ろしい形相である。所詮、子ゆっくりサイズの“れいむ”の攻撃は成体ゆっく
りである父まりさにはとっては大したダメージにならない。ならないのだが、父まりさは恐怖でがたがた震えていた。この“れい
む”の父まりさへの怨念たるや凄まじいものがある。
「ゆわぁ……ゆひぃぃぃぃ!!!!」
そもそも自分が何故ここまで怨まれなければならないのかが理解できず、心が恐怖に支配されていく。“れいむ”は父まりさの
顔に噛みついたり、体当たりをしたりを繰り返す。
「や……やべでぇぇぇぇ!!! やべでぇぇぇぇぇ!!!!」
ワケも分からず“れいむ”の攻撃を受け続ける父まりさは、先ほどまでの痛みすら忘れてこの状況に対して怯え苦しんでいた。
男が父まりさに語りかける。
「俺はな。 こいつを助けてやったんだ」
「……ッ??!!!」
父まりさには男が何を言っているかわからなかった。
「そいつを良く見てみろ」
言われたとおりに、自分に対して執拗なまでに攻撃を繰り返す“れいむ”を凝視する父まりさ。
「…………っ!!!!!」
突然、父まりさがガタガタと震え始めた。全身を冷や汗が伝う。呻くように短く呼吸をする。男が父まりさに“答え”を告げ
た。
「お前が裏切って見殺しにした……“家族”だろ?」
「ゆ゛げえ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ッ!!! う゛お゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛っ!!!!!」
あまりの息苦しさに中身の餡子を大量に吐き出す父まりさ。父まりさが餡子脳に刻み込まれた記憶を呼び覚ます。
―――最初に選んだ子れいむは、男の手の中で握り潰されて殺された。
―――二番目に選んだ子まりさは、片方の目玉を抉られ、大根おろし器で体をぐちゃぐちゃにされて殺された。
―――三番目に選んだ子れいむは、全身に縫い針を刺され、カッターで頭頂部を切り裂かれて殺された。
―――四番目に選んだ子まりさは、体を真っ二つにされて、奪われたお帽子を取り戻そうとしながら殺された。
―――五番目に選んだ子まりさは、左目のみを残して、ホットプレートにあんよと顔面を押し付けられて焼き殺された。
―――六番目に選んだ子れいむは、髪を残さずむしり取られて、チャッカマンで体内を焼かれて殺された。
―――最後に選んだ母れいむは、ひたすら男に殴られ続けて殺された。
「ゆ゛あ゛……っ、あ゛あ゛……っ!!!!」
「最初の子れいむのお飾り。 二番目の子まりさの右目。 三番目の子れいむの髪の毛と皮。 四番目の子まりさの―――」
「や゛べろ゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ッ!!!!!!!!」
狂ったような叫び声を上げる父まりさを無視して淡々と男が続ける。
「四番目の子まりさの下半身。 五番目の子まりさの左目。 六番目の子れいむの顔―――――」
「ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!」
恐ろしい形相で体当たりを繰り返す“れいむ”の左頬にはべったりと餡子が付着している。それは箱の中で最後に残された子
れいむが寂しさと恐怖を紛らわせるために、大根おろし器でぐちゃぐちゃにされて餌として与えられた子まりさの残骸に頬をす
り寄せたときのものである。
そして。
「ぜっだい゛に……ッ!!! お゛ばえ゛をごろじでや゛る゛う゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛!!!!!!!!!!!!!!」
「ゆ゛ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!」
男が一言。
「最後の母れいむの……餡子に刻み込まれた記憶」
父まりさの目の前にいる“れいむ”は、紛れもなく父まりさのかつて家族だったもののなれの果てである。
「う゛ぞだあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」
「……お前も、体を真っ二つにされた子まりさを覚えているだろう?」
「ゆぐぅ……ッ!!!」
“上半身と下半身をぶった切っても、くっつけてしばらく経てば勝手に回復するのだ。”
「ゆ゛……ゆ゛があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!!!!!!」
父まりさが渾身の力で飛び上がる。着地すると同時に“れいむ”が潰されて中身の餡子をぶちまけた。
「ゆ゛はー……っ!!! ゆ゛はー……っ!!!!!」
父まりさが、がたがた震えている。
「せっかく、“一匹だけ”助けてやったって言うのによ……」
男の声が届いているのかどうかはわからない。父まりさは姿の見えない何かに怯えてその場を一歩も動けずにいた。
「二度も家族を殺すなんて最低のゆっくりだな、お前は」
十、
「おすわり!」
退院したばかりの飼い犬の餌皿に“餌”を入れて命ずる。飼い犬は後ろ脚をゆっくり、ゆっくりと曲げて尻を下ろした。
「待て」
飼い犬が餌皿を見つめて涎を垂らす。
「よし!」
男が最後の指示を与えると、飼い犬は勢いよくその“餌”に食らいついた。
「ゆ゛ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!! や゛べでえ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!!!!」
あの後、男は父まりさのあんよをフライパンで焼いた。とは言っても炭化してしまうほど長く焼いていたわけではない。
あんよを焼かれて身動きの取れなくなった父まりさの体を三度ばかり包丁で切り裂いてガラス片が残っていないかを確認した。
目視だけでは不安だったので、餡子を三分の一程掻き出して余った母れいむの餡子を食べさせては中身を補充させるを数回にわ
たって繰り返し、餡子の交換を行った最後にもう一度腹を開いて中身をこねくり回してみたが、ガラス片は残っていなかった。
この一週間の間で父まりさに与えら得れた苦しみは相当なものであっただろう。そんな父まりさの中身の餡子は、人間が食べ
ても絶賛するほどの味になっているはずだ。
男は飼い犬への“退院祝い”に父まりさを与えたのだ。
「も゛っど……ゆっぐり、じだが……」
あっという間に餌皿の中の父まりさを食べ終わる飼い犬。
男が散歩用の紐を持って現れた。
「コタロー、散歩に行こうか」
「ワンワンワンッ!!!」
どこまでも澄み切った青空。男と飼い犬が並んで畑の中の道を歩いていく。
ゆっくり……ゆっくりと。
おわり
日常起こりうるゆっくりたちの悲劇をこよなく愛する余白あきでした。
五、
その日は休日だった。元まりさ一家の五匹はいつまで経ってもこの家から出て行かない男に怯えて、朝からずっと気分が悪い
状態に陥っていた。心が休まる時間は一瞬たりともなかった。いつまた、そこの扉を開けて入ってきた男が虐殺を行うか気が気
ではない。
死を宣告された子まりさが箱の隅で震えて泣いていた。そのあまりにも寂しい後姿に姉妹たちのどれもが声をかけることがで
きなかった。
男は朝食の片付けをしていた。これが終わったら隣の部屋に置いてある玩具で遊ぶつもりだった。午前中のうちに子まりさを
殺したら、飼い犬の様子を見に行くという予定で動いている。
蛇口の水を止める。
立てかけてあった包丁とまな板をそれぞれの手に持つと畳の部屋へと移動を始める。
一方、足音で男がこの部屋に近づいていることに気がついた五匹のゆっくりはどれからともなくその身を震わせ始めた。子ま
りさは既に発狂しそうなぐらいに怯えている。扉が開かれた。
「ゆひぃぃぃぃぃぃっ!!!!」
最初に悲鳴を上げたのはやはり子まりさである。当然だろう。なぜなら今から子まりさは死ぬのだ。先に殺された三匹の姉妹
のように痛めつけられてそのあまりにも短いゆん生を終了させるのだ。
「こ……こにゃいで……っ!! こっちこにゃいで……っ!!!」
箱の壁に頬を押し付けてがたがたと震える子まりさの元に男の手が伸ばされる。
「ゆんやああああああ!!! やっ!!! やああああああ!!!!!」
あっさりと捕まえられた子まりさが箱の中から取り出される。その様子を見て二匹の子ゆっくりと母れいむが静かに涙を流し
ていた。あれだけ文句を言ってきた母れいむも大人しくなったものである。既に理解をしているのだろう。自分たちに残された
道が“死”しかないということを。
男はおもむろに子まりさから帽子を奪い取った。普段そこにあるものがなくなるというのは、落ち着かないものである。加え
て奪われたのはゆっくりにとって命の次に大事なお飾りである。
「か……かえしちぇにぇっ!! まりしゃのだいじなおぼうしさん……っ!! ゆっくちしにゃいでかえしえちぇにぇっ!!」
畳の上で子まりさがぽむぽむとその場で跳ねる。どう足掻いても届きなどしないのにその表情は必死だ。まるで、頑張れば男
から帽子を取り返せると勘違いしているかのようだ。残念ながらそれはあり得ない。男は帽子を投げ捨てると、子まりさを鷲掴
みにしてまな板に押し付けた。
「ゆ……ゆげぇっ!!」
少し強めに押し付けたせいか子まりさが中身を少量吐き出す。男はそんな事は一切気にせずにもう片方の手で包丁を構えた。
子まりさの視界にゆっくりできなさそうな“何か”が映る。鮮明に餡子脳に刻み込まれていた。それは昨夜、子れいむを殺した
カッターの刃を彷彿とさせる。子まりさが包丁を見つめて涙を流す。
男は子まりさの頭をやや強めに押し付けた。
「ゆぶぶぶぶぶぶぶ!!!!」
口をまな板に押し付けられた子まりさが苦しそうに呻いている。男は包丁を子まりさの体の中央にそっと当てた。
「……っ!!」
反応が昨夜の子れいむとあまり変わり映えしなかったので一気に包丁を落とした。跳ね上がろうとする子まりさの顔を更に押
しつける。普通なら即死である。しかし、ゆっくりは体を真っ二つに分断された程度では死なない。いや、死ねない。
男は素早く子まりさの上半身である顎から上の部分を持ち上げて切り口を下にしてまな板の上に置いた。
「ゆ゛っぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!」
ようやく絶叫を上げることが許される。上半身のみの子まりさの視界には、うねうねと動き続ける自分の下半身が映っている。
当然、あんよは下半身のほうにあるためその場を動くことができない。一瞬にして餡子の量を二分の一にまで減らされたことで
全身から力が抜けて行く。それなのに包丁で切られた部分は凄まじい熱を持ち、子まりさをじわじわと苦しめ続けた。
「まりさの下半身さん、返してね~……とはさすがに言わないか」
男の言葉など子まりさには聞こえていないのだろう。必死の形相で、
「まりしゃのあんよしゃん……っ!! ゆっくちしにゃいでかえっちぇきちぇにぇっ!!!」
「…………」
男が少しだけ苦笑いをしながらこめかみのあたりをかく。
「――――――!!」
母れいむが悲しそうな顔で男と子まりさを見つめている。さすがに何も言いはしなくなったが心の中では男に向けて思いつく
限りの文句を叫んでいることだろう。
上半身、下半身に分けられた子まりさの前に先ほど奪い取った黒い帽子を持って来た。
「おぼ……おぼうち……しゃん……」
さすがのゆっくりでもこの状態では長く生き続けることはできないらしい。明らかに表情がおかしくなりつつある。それでも
帽子を取り戻そうと必死になって舌を伸ばす様子には恐ろしい執念を感じる。
男が子まりさの上半身を持ち上げて下半身の上に置く。あんよが……下半身がもぞもぞと動き始めた。
(相変わらずデタラメな生き物だな……)
ゆっくりは体を半分に切っても、くっつけさえすればそのうち回復してしまう。自然界において体を寸断されるような事態は
まず起こり得ないだろうが、そういう意味では生命力はずば抜けて高い生き物なのかも知れない。ただ、生きるための力があま
りにも皆無であるというだけで。
「ゆっぐり……あんよしゃんが……うごかにゃいよっ……!!」
帽子に駆け寄ろうとしているのだが、それをしようとすると上半身だけが動いてしまい下半身から離れてしまう。そうなって
しまった場合、自分がどうなるのかということを本能が理解しているためそれ以上動こうとはしない。
男はそんな子まりさの前に帽子をちらつかせた。
「ゆぇ……っ!! いじわりゅしにゃいで……かえしちぇにぇっ……!!」
お決まりの言葉を繰り返す子まりさ。意地悪しないで、とはよく言ったものだ。意地悪どころかこれまで姉妹を徹底的に惨殺
した相手に対して言うような言葉ではない。それとも、帽子を奪われたことのショックが大きくて男がどういう人物なのかを忘
れてしまったとでも言うのだろうか。
あんよを思うように動かせないことに気付くと今度は懸命に舌を伸ばし始める。男は、帽子を床に放置して部屋を出て行った。
「まりしゃ……まりしゃああ!!!」
箱の中に入れられた残り一匹ずつとなった子れいむと子まりさが、帽子を奪われた子まりさに声をかける。しかし、その言葉
すら届いていないようだ。子まりさはずっと帽子を食い入るように見つめている。まともな感情は失われてしまっていた。帽子
を奪われた恐怖と体を真っ二つにされた激痛が、子まりさから正常な思考回路さえも奪っていた。男は子まりさから、帽子とあ
んよと思考回路を一度に奪い去ってしまったのだ。
「……ゆっくりできないゆっくりなのぜ」
父まりさが呟くのを母れいむが聞き逃さなかった。箱をガタガタと揺らして父まりさに恨みの言葉を浴びせる。父まりさは冷
めた目でそんな母れいむの姿を見ていた。ひとしきり文句を言い終えて、全身で呼吸をしながら父まりさを睨みつける母れいむ
に対して冷たい言葉が放たれる。
「……どうせ、れいむもしぬのぜ。 いまさらなにをいっても、むだなのぜ……」
母れいむが叫び声を上げる。
「おまえは……ッ!!!! おばえ゛だげはあ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!!!!!」
自分と、家族を裏切った父まりさ。ちびちゃんに囲まれて幸せなゆん生を送るという自分の夢を壊した父まりさ。せめて絶望
の淵で恐怖と悲しみに苛まれようとも、最後まで家族として父まりさやちびちゃんたちと共に在りたいと願っていた母れいむに
とって父まりさはもはや許すことのできない“敵”であった。何もかも裏切ったのだ。
「まりささまは、むれにかえってべつのゆっくりとすっきりー!して、あたらしいちびちゃんをつくるのぜっ!!!」
「ゆ゛があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!! ぶざげる゛な゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!!!!!!」
「げらげらげらげら!!!!」
箱の中に閉じ込められている母れいむがどれだけ激昂しようが、父まりさに対し恨みを抱こうが怖くもなんともない。父まり
さは母れいむに対して心底馬鹿にしたような顔で笑っていた。どうせ生き残るのは自分だけだ。死人に口なし。恐れるものなど
何もない。
そうこう言っているうちに男が部屋に戻ってきた。手にはハサミが握られている。帽子を奪われた子まりさが男を見上げて声
を上げた。
「おにぇがいしましゅぅぅぅ!!! まりしゃのおぼうししゃんを……かえしちぇくだしゃいぃぃぃ!!!」
上半身しかなかったときにはまともに喋ることさえできていなかった様子だったが、下半身の餡子と馴染んできたのか流暢な
言葉を喋るようになってきたようである。しかし、無理に体を動かそうとすると上半身と下半身が分かれてしまうようでそこか
ら動こうとはしない。
男は無言で子まりさの帽子のつばをハサミで切り落とした。黒い布が一片、畳に落ちる。子まりさはその黒い布切れを無言で
見つめていた。次に男が手にしている帽子を見る。顔から血の気が引いていく。
「ゆ……ゆわああああああ!!!!! やめちぇにぇっ!!! やめちぇにぇっ!!!!」
男が帽子に何をしたのか遅れて理解することができたようである。今すぐにでも男を攻撃して帽子を奪い返したいだろうが、
そんなことをすれば上半身と下半身が分かれてしまい死んでしまう。あんよを焼かれたわけでもないのに、子まりさはまな板の
上から一歩たりとも動く事ができないでいた。
ハサミが一つ、二つと入れられる。
「ゆびゃあああああああん!!!!」
泣き出す。体を真っ二つにされたときよりも流す涙の量は多いようにさえ思える。餡子の量が落ち着いてきたことで思考能力
が多少なりとも回復してきたのか反応がゆっくりらしくなってくる。どうせなら、思考回路が停止したままでいたほうが幸せだ
ったかも知れない。
男は次々と帽子をハサミで切り刻んでいった。はらはら……と落ちて行く黒の布きれに対して視線を上下させながら滝のよう
に涙を流してその動きを追う。
「やめちぇ……っ!! どおしちぇこんにゃこちょしゅりゅのぉぉぉぉぉ??!!!!」
そのとき、あんよが“ずり……”とまな板の上を動いた。跳ねるとまではいかなくとも這うことぐらいはできるようになった
らしい。上半身と下半身が離れてしまわないように、ゆっくりゆっくりまな板の上であんよを這わせる子まりさ。男の手に握ら
れている帽子は既に半分以上切り裂かれているため、もう一度かぶることはできないだろう。それでも懸命に帽子を求めて這い
寄ってくる。
シャキン…… シャキン……
容赦なく一定のペースで切られていく子まりさの帽子が少しずつその形を失っていく。
「ゆわああああ!!! まっちぇにぇっ!!! まっちぇにぇっ!!!!」
「お、し、ま、い」
最後のハサミが入れられ、バラバラに切り裂かれた帽子が子まりさの傍らにただの布切れとして転がっている。ようやくこの
場所までたどり着いた時にはもう全てが遅かったのである。
「ゆ……ぁ……」
瞳が絶望に染まっていき、冷や汗が全身を伝う。
「ゆんやあああああああ!!!!! まりしゃのおぼ―――――ゆ゛ぎゅんッ??!!!!」
男のつま先が子まりさの“上半身”を正確に捉えた。くっつきかけた下半身との皮がもう一度裂け、上半身だけが飛んでいく。
勢いよく壁に叩きつけられ、再び下半身を失った子まりさが必死の形相で口を開く。
「がひっ……!! こひゅっ……!! おぼ……ち……、あんよ…………かえし……ちぇ……」
上半身だけとなった子まりさのすぐ傍に父まりさの入った透明な箱が置いてある。その中にいる父まりさと目が合った。
「だしゅ……け、ちぇ……」
「ゆっくりしねっ!!!!」
父まりさが瀕死の子まりさにかけた言葉はその一言だけだった。程なくして子まりさが事切れる。
「ちびちゃあああああああああああん!!!!!」
これまで我慢していた叫びをここで爆発させる母れいむ。せめて、子まりさがその命の灯を消してしまう前にその言葉をかけ
ていれば、最後に聞いた言葉が父親からの辛辣な一言にはなり得なかったであろうに。
「「まりしゃ……」」
残された子れいむと子まりさが、動かなくなった下半身のあんよを見ながら涙を流す。八匹もいた家族はついに半分の四匹だ
けになってしまった。
男が子まりさの残骸を片付けて部屋を出る。畳の部屋には不穏な空気が漂っていた。母れいむ、子れいむ、子まりさ。三匹が
父まりさを鬼のような形相で睨みつけているのである。
「つぎはおまえなのぜ」
父まりさが、箱の中の子まりさの方に向いて冷たく言い放つ。母れいむが唇を噛み締めて父まりさに呪詛を浴びせるが気にし
ている様子はない。二匹の子ゆっくりも一緒になって、
「うるしゃいのじぇっ!!! ゆっくちできにゃいおちょーしゃんは、いましゅぐしにぇっ!!!!」
「れーみゅ……ぜっちゃいにゆるしゃにゃいよ……っ!!!!」
「だったらなんなのぜ? まりささまを“せいっさいっ!”できるのかぜ?」
「「ゆ゛ぎぃぃぃぃぃ!!!!!」」
二匹の子ゆっくりが父まりさを更に強く睨みつける。ふんぞり返って笑い続ける父まりさ。母れいむは目の前のゲスゆっくり
を今すぐにでも飛びかかって制裁したいと思っていたが、それをすることはできない。悔しくてたまらなかった。こんな箱の中
にさえいなければ、子供たちと力を合わせて父まりさを倒すことは可能であったかも知れないのに。
それなのに、自分たちの命を握っているのはこの父まりさなのである。いずれ父まりさに“今度はれいむを殺すのぜ”と言わ
れて、その通りにあの人間に殺されるのだけは屈辱だった。しかし、そうなってしまうのだろう。そんな自分の決定づけられた
未来を思うと、悔しくて悔しくて涙が溢れてくる。
「げらげらげらげらげらげら!!!!!」
父まりさの薄汚い高笑いが畳の部屋にこだました。
一方で男は動物病院へと車を走らせていた。当初の予定どおり飼い犬の様子を見に行くためだ。駐車場に車を止めていそいそ
と病院のドアを開ける。先生が出迎えてくれた。
「おお、君か」
「コタローの様子はどうですか?」
「うん。 餌もたくさん食べているし問題はないよ。 さすがに歩き回ったりはまだできないがね」
先生の言葉に男がほっと溜め息をつく。
「様子を見に行ってもいいですか?」
「構わんよ」
男が病院の奥にあるケージへと向かう。男の匂いに気付いたのか飼い犬がこちらへやってこようとする。男はそれを制しよう
と少し急ぎ足でケージの中に侵入していった。そっと頭を撫でる。飼い犬が穏やかな表情を浮かべた。
手術をした後ろ脚を覗き見ると、メスを入れるために刈り上げられたのであろう場所が痛々しい。
「クゥーン……」
飼い犬が甘えた鳴き声で男の腕に鼻を押し付ける。男は飼い犬としばらく一緒に過ごしていた。さすがに長居をするわけには
行かなかったので飼い犬の頭をぽんぽんと軽く叩いて立ち上がった。飼い犬がズボンの裾辺りに鼻を近づける。
“行かないで”
と言っているのだろう。男はもう一度だけ飼い犬の鼻の頭をちょん、と触ると名残惜しいがケージの中を後にした。振り向く
ことはしない。目が合ってしまったらきっともう一度ケージの中に入ってしまう。
(早く元気になれよ)
心の中でつぶやく。先生に挨拶をして男は病院を後にした。
ゆっくりに傷つけられた飼い犬の後ろ脚はすぐには治らないだろう。超高齢犬というのも手伝って治りは決して早くはないは
ずだ。それに比べて先ほどの子まりさはどうか。上半身と下半身をぶった切っても、くっつけてしばらく経てば勝手に回復する
のだ。
家に監禁しているゆっくり共への罰は“殺すぐらいでちょうどいい”のだ。
「今日はもう一匹殺すか……」
冷たい表情でそんな事を呟きながら男は家に向けて車を走らせた。
六、
玄関を開けると畳の部屋から怒鳴り声が聞こえてきた。声からして監禁している元まりさ一家が口論をしているようである。
この様子だと男が帰宅したことにも気づいていないらしい。そっと扉に耳を当ててみる。
「かぞくごろしのげすなまりさは、しねええぇぇぇぇ!!!!!」
「おちょーしゃんはゆっくちできにゃいよっ!!!」
「まりしゃ……おちょーしゃんだけはじぇったいにゆるしゃにゃいのじぇっ!!!!」
これまでの仕打ちに対しての怒りの矛先は全て父まりさに向けられているようだ。これが真っ当なゆっくりであれば、余りに
もゆっくりできない家族からの罵声に心が砕かれるのだろうが、父まりさは“真っ当なゆっくり”にカテゴライズされていない
らしい。
「さっきからうるさいのぜっ!!! どうせしぬんだから、おとなしくしてるのぜっ!!!」
それどころか反論する元気もあるようだ。いざ同族が殺される場面に立ち会うと恐怖で何もできないくせに命の選択権を与え
られているという立場上、気持ちに余裕があるのだろう。はっきり言って父まりさは臆病である。惨たらしく死んでいくゆっく
りの姿を直視できているのは、母れいむと子ゆっくりたちの方だ。
“一匹だけ助けてもらえる”という条件を呑み、次々と家族を見捨てていく父まりさはある意味では頭がいいと言えた。そう。
本当に、ある意味では。
男が扉を開けて畳の部屋へと入ってくる。父まりさは箱の中でぴょんぴょんと飛び跳ねながら、
「にんげんさんっ!! つぎはこのちびをころすのぜっ!!!!」
「ばでぃざあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!!!!!」
父まりさからの“リクエスト”はまた子まりさであった。その子まりさは、男に向かって無意味にな威嚇を涙目で行っていた。
こういう本当に覚悟を決めたゆっくりを虐待するときはさすがに注意を払わなければならない。いつものように箱の中に手を伸
ばす。男の手に向かって子まりさが体当たりをしかける。その行動を読んでいた男はそれをかわすとあっさり子まりさを掴み上
げて何か言いだす前に畳に叩きつけた。
「ゆ゛ぶぇっ!!!!」
凄まじい衝撃に、そこから動くことができないらいしい。男は竹のムチをうずくまって震えている子まりさに向けて振り下ろ
した。パァンッ!!という音が子まりさの皮から響く。既にその一撃で皮が破れ中身の餡子が飛び出していた。
「い゛ぢゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛い゛!!!!!!」
破れているのはあんよとあにゃる周りである。何の問題もない。そこを二度、三度打ち付ける。
「ゆ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛……っ!!」
呻くだけで抵抗らしい抵抗はしなくなった。所詮、ゆっくり如きの決意はこの程度のものだ。すぐに心が折れる。決死の覚悟
は一分と経たないうちに消えてなくなる。
「ゆひっ……、ゆひぃっ……!!!」
子まりさがずりずりと腹這いになって男から逃げ出す。それを踏みつける。
「ゆ゛げっ!!!」
短く叫んで餡子を吐き出す。子まりさが十分に動くことができなくなったのを確認すると、男は一旦部屋を出た。
「ちびちゃんっ!! ちびちゃんっ!!! ゆっくりしてねっ!!!!」
「おきゃーしゃん……くやしぃのじぇ……」
「どうして?! どうして?!」
「しぇっかく……はこしゃんからでられちゃのに……たしゅけちぇ……あげられなくちぇ……ごめんにぇ……?」
母れいむの目から涙が溢れる。今すぐに駆け寄って頬をすり寄せてあげたかった。傷口を舐めてあげたかった。箱に向かって
体当たりを繰り返す。ガタガタと揺れはするものの、やはりゆっくりの力では箱をどうにかすることはできない。こんなに痛く
て苦しい思いをしているのに、この子まりさは母れいむを箱から出すことを考えていたというのだろうか。
三つの箱には、それぞれ父まりさ、母れいむ、子れいむが入っている。現状、自由に動くことはできないが箱の中に入ってい
ないのは子まりさのみである。子まりさは、自分がこの状況を打破できないかと思考を巡らせていたのだった。もし、この子ま
りさが順調に育っていれば群れを治めるリーダーになっていたか、下手をすればドスになる資質さえ秘めていたかも知れない。
「ちびちゃん!! ちびちゃんだけでもにげてねっ!!! いますぐでいいよっ!!!!」
必死になって母れいむが叫ぶが子まりさにはその体力は残されていない。父まりさがその二匹の様子を見ながら大笑いしてい
た。
「げらげらげらっ!! ばかなのぜ? しぬのぜ? にんげんさんからにげられるわけないのぜっ!!!」
「ばでぃざは……だま゛っでろ゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ッ!!!!!!!」
「おお、こわいこわい」
父まりさが小馬鹿にしたような笑みを浮かべて小さく呟く。そこへ男が戻ってきた。ホットプレートを抱えている。母れいむ
と子まりさ、それに子れいむがこれまで見たことのない大きな道具に言い知れぬ恐怖を感じていた。
男が子まりさを乱暴に掴み上げる。それだけで先ほど竹のムチで打たれて引き裂かれた皮から餡子がぶりゅっ、と漏れ出して
くる。
「ゆ゛ぎぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛っ!!!!」
目を血走らせて子まりさが苦痛にうめき声を上げる。意識のある状態で自分の中身が体外へと出て行く痛みは相当なものであ
ろう。
「ぐぞじじぃぃぃぃ!!!!! ちびちゃんを……ばな゛ぜえ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ッ!!!!!!!!!」
立場を完全に理解して大人しくしている事しかできないと思っていた母れいむが、いつかのように激昂して男に対して咆哮を
上げた。男の傍らには竹のムチが置いてある。あの日、今と同じように男に文句を言ったあと自分がどうなったかを忘れている
わけではないだろうに。
「ぷっくうぅぅぅぅぅぅ!!!!!」
あろうことか威嚇までしてきた。今、母れいむにとって目の前の子まりさは自分の命よりも尊い存在になっていたのだ。これ
以上黙って我が子を殺されてなるものか……と、箱の中から牙を剥いてきたのである。男はまず先に母れいむを痛めつようかと
も思ったが、目の前で子まりさを惨たらしく殺したほうが精神的に堪えるだろうと踏んであえてそれはしなかった。
無視された母れいむは、少しでも自分に男の注意を引こうと必死になっている。男はホットプレートから伸びるプラグをコン
セントに刺し込むと、ホットプレートのダイヤルを回し始めた。その上に子まりさを置く。
「ゆ……? ゆ、ぐぅ……?」
これがどういう道具かが分からないが、ゆっくりできなさそうなのは間違いない……子まりさがその場から逃げ出そうとする
があんよを思うように動かすことができない。あんよを動かそうとすると先ほどムチで打たれた箇所が痛むのだ。
「ゆぅぅぅぅぅっ!!!」
痛みに耐えて必死にあんよを動かす。ずりずりとホットプレートの上を這っていく子まりさの頭を竹のムチで叩いた。
「ゆびぃっ!!!」
「れいぶの……ちびちゃんに……びどいごどをずる゛な゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!!!!」
箱の中から母れいむが叫ぶがそれを無視して、竹のムチで子まりさの頭を押さえつける。ようやく、ホットプレートが温まり
始めたようだ。子まりさが、不思議そうな表情を浮かべていた。
「ゆゆ……? にゃんだか……あんよが、あったかくなっちぇきたのじぇ……?」
激痛に耐えながらも自身を取り巻く環境が変化していっている事に気付くゆっくりは珍しい。そして、それが少しずつ熱くな
ってきていることにもいち早く勘付いたようだ。
「ゆっ!! ゆゆゆっ!!!」
「ちびちゃんっ!! ちびちゃん!!! どうしたのッ??!!!」
加熱が加速していく。やがて子まりさのあんよの皮が耐えがたい熱気に晒され始めた。
「あ゛ち゛ゅい゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!!!」
子まりさのあんよが張り付いたプレートから煙が上がり出す。男はそのまましばらく子まりさを押さえつけていた。身動きを
取れない子まりさのあんよがじわじわと焼かれていく。
「い゛ぢゃいの゛じぇえ゛ぇ゛え゛ぇ゛え゛ぇ゛!!!!!!!」
熱と一緒に今度は激痛が走り始める。あんよの皮が少しずつ焼き上げられていきその過程で、体内の餡子にまで熱によるダメ
ージが伝わるのだ。子まりさは、お下げを左右にぶんぶんと振り回して抵抗を試みたが押さえつける男の力に抗うことはできな
い。
「ちびちゃあああああああああああああああん!!!!!!!!!!」
母れいむが叫ぶ。また、自分の目の前で我が子が苦しむ姿を見ているしかないのだろうか。苦しみもがく子まりさの顔が、涙
が、母れいむの瞼の裏に焼きつけられていく。
「ゆ゛ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!」
天に向かって絶叫する子まりさ。男が押さえつけた手を離すも、油も敷かずに加熱を始めたホットプレートの上で焼かれた子
まりさのあんよはくっついてそこから離れない。あんよは少しずつ炭化を始めていた。無理に動かそうとすると、炭化した皮の
一部が崩れて更なる激痛に襲われる。
引き裂かれた皮の一部からは熱気が直接体内に入り込んで中身の餡子を炙っている。
「ゆ゛があ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!!!」
叫ぶ。まだ叫ぶ。どれだけ叫んでも、あんよから伝わってくる熱と痛みは終わらない。やがて、子まりさの底部付近は完全に
炭化してぴくりとも動かすことができなくなっていた。ここまで来たら次の段階である。男が子まりさに手を伸ばした。
「もう、やべでえ゛え゛え゛え゛え゛え゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!!!!!!!」
母れいむが箱の中で絶叫している。滝のように涙を流していた。既に顔面蒼白である。叫んだりでもしていなければ正気を保
つことができないのだろう。
男はそんな母れいむを尻目に子まりさの頭に右手をそっと当てた。親指で子まりさの目の付近を持ち上げて、残った四本の指
で子まりさの顔面を未だ熱されたままのホットプレートに押し付けた。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
あんよ焼きの次は顔面焼きである。無理矢理、押し付けているため底部から後頭部付近の皮が既に裂けている。そこから餡子
が漏れ出していた。
「あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!! あ゛ぢゅい゛ぃ゛ぃ゛ッ!!! ゆ゛びああ゛あ゛あああ゛ッ!!!!!!」
焼かれた顔の部分が真っ赤になっていく。その状態から額をこすりつけさせるように右手を動かす男。満遍なく顔全体が焼き
上げられていく。熱気によって茹であがった顔の一部が水膨れのように膨れ上がる。そこも更に丁寧に焼いていく。
「ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」
苦しみのあまり伸ばした舌先が、熱されたプレートに触れてくっつく。もうどこが熱くてどこが痛いのかさえ分からない。
「ゆひゅーーーー!! ごひゅーーーーっ!!!!」
まともに喋れなくなった子まりさをなおも熱と痛みが蹂躙していく。最初に押し付けられた額は既に炭化しており、右の目玉
が焼けただれて崩れ落ちてきた。ジュウゥゥゥ……という音と共に水蒸気が上がる。
しばらくして子まりさは、痙攣をするだけの塊となった。母れいむに顔を見せてやろうと引っ張り上げたとき、プレートにく
っついていた舌が千切れた。その時、一瞬だけ力強く痙攣を起こしたがそれ以降は「ゆ゛、ゆ゛……」と短く呻くばかりである。
「うぎゃああああああああ!!!!」
子まりさの焼けただれた姿を見て、母れいむが絶叫した。成体ゆっくりであるにも関わらず凄まじい勢いでしーしーを噴出さ
せる。
前髪は溶けてちりぢりになっており、額は真っ黒に炭化して痙攣を起こすたびに黒ずんだ固い皮がぱらぱらと落ちる。右目は
そこに存在しておらず焼け落ちたときの液体だか何か分からないが、それが右頬にべったりと付着していた。焼き上がっていな
い場所は一様に真っ赤に腫れ上がっており、そこにゆっくり独特の柔らかい皮などありはしない。唇も同様に焼かれており、剥
きだしになった歯茎からは数本の崩れた歯が見える。だらりと伸ばした舌は途中でちぎれており不気味に垂れていた。
「ひ……ひいぃぃぃぃぃぃっ!!!!!!」
左目だけが無傷で、その視線は母れいむに向けられていた。口のあった辺りを微かに動かすが言葉にはならない。男が子まり
さの考えているであろう言葉を代弁してやる。
「……おきゃーしゃん、たしゅけちぇ」
「ゆ゛……ッ、があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!! じね゛ッ!!! じねっ!!! じね゛ぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
母れいむが恐ろしい形相で男に対して批難を浴びせる。ゆっくり虐待用の道具としてはかなりの性能を誇る“透明な箱”が倒
れるのではないかと思うぐらいにガタガタと揺れていた。男がホットプレートのダイヤルを“切”に合わせてコンセントからプ
ラグを引き抜く。
子まりさはまだ生きていた。それを証明するのが無傷の左目から流れてくる涙である。
「ちびちゃあん……、ちびちゃああん……っ!!!」
悲痛な声が畳の部屋に響く。その声は子まりさに届いているのだろうか。男は子まりさの髪の毛を掴むと思い切り引っ張り上
げた。
「~~~~~~~~~~ッ!!!!!」
ブチブチブチィ……ッ、という嫌な音がしてホットプレートにくっついていたあんよが引きちぎられる。意識も痛覚も残って
いるのか、子まりさはその瞬間にカッと目を見開き強い痙攣を起こした。
「おでがいじばずぅ……もう、やべであげでぐだざい゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛……おでがいじばず……おでがいじばず……」
「もう終わったからやめてやるよ」
そうだ。もう、“終わった”のである。子まりさの体は完全に男によって崩されてしまった。底部が引きちぎられた事により、
中身の餡子がホットプレートの上に流出している。流していた涙も止まってしまっていた。
母れいむが絶望に染まった表情でホットプレートの上に横たわる我が子のなれの果てを見つめる。家族想いの子まりさは、も
うこの世にいない。最後の最後まで、生きたまま全身を焼かれて殺されたのである。それは母れいむにとってあまりにも残酷な
結末だった。
「うあ……あぁ……もう、……もうやだぁ……どうして……どうして……どうして……」
男は子供のように“どうして”を繰り返す母れいむを放置してホットプレートの片づけを始めた。子まりさが母れいむの視界
から消える。筆舌に尽くしがたい悲しみが母れいむを襲っていた。子れいむは途中から失神していたのだろう。しーしーを漏ら
しながら箱の中でぐったりしている。子まりさが無残に殺されるのを見て気を失ったのか、次は自分が子まりさと同じ苦しみを
与えられることを想像して気を失ったのかは、わからない。
父まりさも箱の中で怯えていたが、それは自分の命が危険に晒されているからというわけではないようだ。
(だいじょうぶなのぜ……! こわくないのぜ……! あとは、れいむとちびちゃんだけなのぜ……っ!!)
ぐったりとしている子れいむに不気味なまでの視線を送り、“ゆへ……ゆへへっ……”とか細い声で微笑む父まりさ。どうや
ら次に男に差し出す家族を決めたようである。
「ちびちゃん……ちびちゃん……ちびちゃん……」
「うるさいのぜ。 ちびちゃんはまたつくればいいのぜ!」
母れいむの感情の奥底からどす黒いものが湧きあがってくる。自分はこんなにも他者を憎むことができたのかと少しばかり戸
惑いながらも、へらへらと笑うゴミ以下の生き物を睨みつけた。
「……てやる……」
「なんなのぜ?」
「ごろ゛じでや゛る゛ぅ゛ぅ゛!!!!」
「ゆっへっへっ!! できっこないのぜっ!!!」
「れ゛い゛ぶがしんでも゛……ぜったい゛に……お゛ばえ゛を、ころじでやる゛う゛う゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛!!!!!!!」
れいむが。
死んでも。
絶対にお前を殺してやる。
七、
箱の中に横たわる子れいむはぴくりとも動かなかった。涙だけが溢れてくる。時々思い出したように揉み上げが微かに動く。
男が手を下す前から既に子れいむは憔悴しきっていた。大根おろし器ですり下ろされた姉妹の中身を餌として与えられたが、手
をつけてはいない。箱の中に監禁されてからただの一滴も水を口にしていない。体の小さな子れいむは、体力的にも精神的にも
とっくに限界を超えていたのだ
「ちびちゃん……っ! ゆっくり……ゆっくりしてね……ね? ね? ちびちゃん……ゆぅぅぅ……」
母れいむが声をかけるが反応は返ってこなかった。虚ろな瞳で天井のどこかを見上げたまま動かない子れいむ。母れいむにそ
の恐怖と絶望を拭い去るだけの励ましの言葉はかけてあげられなかった。
六匹もいた子ゆっくりのいた箱の中には、もう子れいむが一匹しか残っていない。子れいむは理解していたのだ。次に殺され
るのが自分だということを。目の前で行われた姉妹に対する数々の残虐な行為が頭によぎるたびに意識を失いそうになる。
恐ろしくて堪らないのに頬をすり寄せ合う相手も、頬を舐め合う相手もいない。無機質な立方体の中で永遠にも感じられる孤
独を味わう。いつになっても眠気は襲ってこなかった。せめて眠りについて夢の中でだけでも楽しい思いができたら、どんなに
幸せなことだろうか。
子れいむには、それさえも許されていなかった。畳の部屋を静寂が包む。父まりさは箱の中ですーやすーやと寝息を立ててい
た。その表情には勝者の余裕が浮かんでいる。月明かりが父まりさの寝顔を照らすたびに母れいむは腸が煮えくりかえるような
感覚に陥っていた。
月が沈み、再び太陽が昇ったときが子れいむの終焉である。母れいむも子れいむもそれを理解している。だからこそ恐ろしい
のだ。
“おひさましゃん、こんにちわー。 ぽーかぽーかしちぇあったかいにぇっ♪”
自分たちを暖かく包んでくれた太陽の光をこんなにも恨めしく思う日が来ようとは。
空が少しずつ明るくなってくる。死へのカウントダウン。無情にも陽はまた昇り、やがて“朝”が訪れた。
「ちびちゃん……?」
子れいむが箱の中をずりずりと這って移動し始めた。両親の顔から目を背けて箱の隅に身を寄せる。後姿がぶるぶると震えて
いた。見ていて痛々しい。家のどこからか足音が聞こえてきた。男が目を覚ましてのだろう。その音を聞いた瞬間、子れいむが
びくん、と体を大きく震わせた。
顔を箱の壁に押し付けて滝のように涙を流す子れいむ。眉をハの字に曲げ、顔を真っ赤にして泣き続ける。
(きょわい……きょわい……きょわい……きょわい……)
想像を絶する精神的な苦痛に中身の餡子を吐きそうになるがそれを堪える。痛めつけられるぐらいなら中身を全て吐いて楽に
なればいいのにと思うが、それは間違っている。“中身を吐く”というのは人間が想像しているより遥かにゆっくりにとって苦
痛なのだ。“食べた物を吐き出す”のではなく“中身を吐き出す”のである。
ふと、子れいむが箱の中央に移動を始めた。母れいむが心配そうにその様子を見つめている。
「しゅーり……しゅーり……」
子れいむは箱の中に“餌”として与えられた子まりさの残骸に頬をすり寄せ始めた。母れいむが思わず絶句する。子れいむの
頬に餡子が付着していく。
「ちびちゃ……」
「しゅーり、しゅーり……。 ……ちあわちぇ……」
何かにすがらずにはいられなかったのだろう。孤独の中に放置されるのは辛くて仕方がなかった。母れいむが叫ぶ。
「ちびちゃんっ!!!」
「しゅーり……しゅーり……」
「ちびちゃああああああああんっ!!!!!」
母れいむの声が聞こえていないのか一心不乱に餡子の塊に頬をすり寄せる子れいむ。顔の左半分が真っ黒に汚れていた。
「朝から元気だな」
開かれた扉の傍らに立っている男が残り三匹となったゆっくりに声をかけた。子れいむの視界に男が入った瞬間、しーしーが
勢いよく噴出された。その後もまるで蛇口を最後まで閉めなかった時のように、ちょろちょろとしーしー穴から砂糖水が漏れて
くる。表情は恐怖と絶望で染め上げられていた。
「にんげんさんっ!! つぎはあのちびをころすのぜっ!!!」
いつの間にか起きていた父まりさは開口一番、男に向かってそう言い放った。その物言いも最初の頃に比べて偉そうな態度に
変化していた。大方、父まりさは男のことを自分の望み通りに動く奴隷か何かと勘違いし始めているのだろう。初日に散々痛め
つけられたにも関わらず、命の選択権を与えてやったことで自分の立場というものが分からなくなってしまったようだ。
子れいむは無言で泣いていた。分かってはいた事である。そして、これから自分がどんな酷い目に遭わされるのかも、おぼろ
げに理解することができる。
ここまで生き残った事こそがこれから始まる苦痛と恐怖の序章であったのだ。
歯を鳴らす子れいむ。男が箱の中に手を伸ばした。あんよが震えて一歩たりともその場を動けない。持ち上げられる。
「ゆ……っ! ゆぅ……っ!!」
言葉を発することが唯一の抵抗の手段だった。身を捩らせることも、あんよをくねらすこともできない。恐怖で心が支配され
ているため、まるで金縛りにでもあったように体が動かない。男は子れいむを畳に置いた。それでも、逃げ出すことは叶わなか
った。つま先で軽く蹴る。ころころと転がっていく子れいむ。止まった先は母れいむの箱の目の前である。
「にんげんざんっ!! にんげんざんっ!!!」
叫び続ける母れいむを無視して男は再び子れいむを掴んだ。そして、それを見せつけるように母れいむの前に持ってくる。
「お……きゃ……しゃん……」
力なく自分に対して呼びかける子れいむの姿を見て母れいむが泣き叫んだ。
「だずげであ゛げでよ゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!!」
男は子れいむの前髪を指でつまむと、それを一気に引きちぎった。歯を食いしばり目を見開く子れいむ。
「い゛ぢゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぃ゛!!!!!」
恐怖に支配されていた心は、痛みによって解き放たれたらしい。急に身を捩らせて泣き叫ぶ子れいむの姿を母れいむが食い入
るように見つめている。男は子れいむの髪の毛を少しずつ、少しずつちぎっていった。
「ゆ゛びゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!!」
徐々に子れいむの頭皮が露わになっていく。邪魔だったリボンも引きちぎってバラバラに破いてやった。
「れーみゅのがわ゛い゛ぃ、おりぼんしゃんがぁぁぁぁぁ!!!!」
続いて揉み上げをそっとつまんだ。
「やめちぇにぇっ!! やめちぇにぇっ!! れーみゅのぴこぴこしゃんに……ひじょいこちょしにゃいでにぇっ!!!」
手の中から男を悲しそうな顔で見上げて必死に訴える。ぼろぼろ涙を流していた。男は揉み上げを持った手にそっと力をかけ
た。途端に子れいむが苦悶の表情を浮かべる。
「ゆ゛んぎぃぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ッ!!!!!」
歯を強く食いしばる。顔は真っ赤だ。男によって引っ張られた揉み上げは、子れいむの皮と共に在ろうとその場で抵抗を続け
る。そしてそれは子れいむの皮に対して凄まじい負荷をかけていた。
ミチミチ……ッ、と嫌な音がし始める。子れいむは全身から汗を噴き出して激痛に耐えている。目玉の三分の一ほどが飛び出
しているようにも思えた。あんよをくいっ、くいっ、と動かして痛みを紛らわせようとしているがそれは無駄な行為である。
ブチィィィィッ!!!!
「い゛ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!!!!!!!」
凄まじい音と共に子れいむの左の揉み上げが引きちぎられた。髪の毛が束になっているため、数本ずつ千切られるのはワケが
違う。揉み上げのあった場所の皮が少しだけ裂けてそこから餡子が漏れていた。
「ちびちゃあああああああああん!!!!!」
「い゛ち゛ゃい゛よ゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!!!!!!!!」
わざわざ痛がるような事をしているのだから当然だ。口を限界まで開き、顔を真っ赤にして泣き喚く姿は母れいむの心を存分
に傷つけた。今回は、母れいむの入った箱のすぐ目の前で残虐な行為が行われているのである。これまでと違って、我が子が男
に“何をされて”、“どうして泣き叫んでいるのか”がはっきりとわかる。
男の手の中で子れいむが滅茶苦茶に暴れまわる。どこにこんな力が残っていたのかわからない。鬱陶しくなってきたのか、掴
んでいた手の人差し指を子れいむの目玉に思いっきり突っ込んだ。右の目玉が一瞬で顔の奥に押し込まれてその中で形を崩す。
「ゆ゛ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!! れ゛ーみゅのぎゃわ゛い゛ぃ゛おべべがあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!」
「ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!! や゛べでね゛っ!!! や゛べでねっ!!!!!」
サイズが違うだけの同じ顔が似たような声で似たような言葉を吐き散らす。子れいむのしーしーが箱の壁にかかり、母れいむ
の視界をほんの少しだけ遮る。
「ゆ゛っ……ゆ゛……、れーみゅの……おべべ……もみあげ、しゃん……」
ぶるぶると体を震わせながら自分の置かれた状況を整理していく。畳に転がった揉み上げとリボンの切れ端が視界に入ると、
口を半開きにしたまま大粒の涙を流した。そこに潰して抉りだした目玉を添えてやると、子れいむは全身を震わせて泣き叫んだ。
「おでがいじばず!! おでがいじばず!!!!」
「もう何度、お願いしたよ? 一度も聞いてもらえなかっただろ? 諦めろよ」
「ゆ゛ぐ、ぎぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!」
男は執拗に子れいむの髪の毛を千切っていった。そのたびに体全体を大きく跳ね上げて激痛を訴えていたが男の行為がそれで
止まることはない。やがて、右の揉み上げを残すのみとなった中途半端な禿饅頭が畳に転がされた。子れいむが畳を這って進み、
千切られた髪の毛やリボン、揉み上げを見て叫び声を上げる。
「ゆ゛んや゛あ゛あ゛あ゛!!! れーみゅのかみのけしゃん!! おりぼんしゃん!! もみあげしゃん!!!!」
何もかもを奪われたことを嘆き絶望する子れいむの元に先ほど抉った目玉を見せてやると、
「おべべもぉぉぉぉぉぉ!!!!」
などと喚きながら、それらのゴミに舌を這わせる。
「ぺーりょぺーりょ……ゆっくちしにゃいで、なおっちぇにぇっ!! れーみゅ、こまっちぇりゅよっ!!!」
残された右の揉み上げだけをぴこぴこと動かし、必死になってリボンや髪の毛を舐め続ける姿はあまりにも滑稽であった。母
れいむはそんな子れいむの姿を見て、涙を流すのみだ。
男は無駄な行為を続ける子れいむの頭を右手で押さえつけた。
「ゆぶぶぶぶ!!!!」
口を畳に押し付けられて言葉を喋れなくなった子れいむが苦しそうに呻きだす。
「も゛う゛や゛べでよ゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!!!!」
母れいむが箱の中で絶叫する。男はそれを無視して子れいむの残された右の揉み上げをつまんだ。視界に入れることはできな
いが、どういう状況にあるかは感触で把握することのできた子れいむが必死になってこの場を逃れようと暴れまわる。しかし、
男によって更に強く顔を畳に押さえつけられることでその動きは制されてしまった。
先ほどと同じように揉み上げをゆっくりと引っ張っていく。踏ん張って抵抗していたせいか、あにゃるから少量の餡子が漏れ
出てきた。再び、揉み上げと皮の引っ張り合いである。涙を流しているのか顔周辺の畳は湿り気を帯びていた。しーしー穴の付
近には小さな水たまりができている。
程なくして、子れいむのもう一方の揉み上げも引き千切られた。刹那、尻をびくんと上に跳ね上げてぐったりと畳につけて小
刻みに震えだす。ようやく子れいむを抑えつけていた右手を離すと、すぐに起き上がって泣き叫び始めた。
「ゆ゛ん゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!! ……あ゛あ゛ッ!! や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!」
凄まじい叫び声である。その叫びには、痛みと苦しみ。恐怖と悲しみ。そして、男への怨みが込められていた。髪の毛を全て
引きちぎられる痛みは想像を絶するものがあるが、子れいむの中身はほとんど失われていない。どれだけぐったりしていても、
先ほどの叫びを聞けば分かるとおり生命活動には何の支障も出ていないのである。
呼吸を荒くしながら、悲痛な表情で泣き続ける子れいむ。男は淡々と次の作業に移った。ポケットからチャッカマンを取り出
した。子れいむの目の前で火をつける。
「ゆ゛びゃあ゛ッ!!!」
揺らめく炎が一瞬だけ、子れいむの頬を撫でた。それだけで飛び上がり喚き散らす子れいむ。
「や゛め……ちぇ、にぇ? それは……ゆ゛っぐち……できにゃいよ……」
怯えながら母れいむの入った箱の壁に頬をくっつける子れいむ。そこに母れいむが駆け寄る。壁を隔てた親子の再会だ。
「おきゃああああしゃああああああん!!!!!」
「ちびちゃんっ!!! ちびちゃんっ!!!!!」
そんな下らない“ごっこ遊び”には付き合わない。男は再び子れいむを掴み上げるとチャッカマンの先端をあにゃるに無理矢
理ねじ込み始めた。あにゃるを限界まで押し広げられて、痛みと恥ずかしさで顔を真っ赤にする子れいむ。あにゃるは少しだけ
裂けてしまっている。うんうんの通り道を突きぬけて体内の中央付近までチャッカマンをねじ込んだところで、男はようやく力
をかけるのをやめた。
「ゆ゛ぴっ……、ゆひぃ……っ!」
子れいむがびくびくと痙攣しながら、小さな声を漏らしている。視点は既に定まっていないようだ。
「や……じゃ……、やめ……ちぇ……」
チャッカマンの火力調整を“+”の側に持って行く。おもむろにトリガーを引くと、子れいむが恐ろしい形相で暴れ始めた。
「ゆ゛ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
「ゆひぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!!」
その絶叫は男の想像を遥かに超えるものであった。箱の中の母れいむも思わず怯えて後ずさる。
「あ゛あ゛あ゛!!! あ゛ぢゅい!!!! い゛ぢゃい゛ッ!!!! ゆ゛があ゛!!! ゆ゛ぎぃ゛ぃ゛ぃ゛!!!!!」
体内に刺し込まれたチャッカマンの先端から炎が出ている。
「や゛びぇ……ッ!!! ゆ゛ぎゃあ゛っ!!! だじゅ……!!!! げちぇ……ッ!!! ひぎゃあああああ!!!!!」
体の内側から、直接中身の餡子を焼き焦がされる激痛が文字通り子れいむの体内を駆け巡る。漏れ出すしーしーは留まるとこ
ろを知らない。滅茶苦茶に暴れまわる子れいむを抑えつけて炎を送り続ける男。母れいむには子れいむの中で何が起こっている
かまでは分からないため、その場でがたがた震えながら我が子の絶叫を聞いている。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!!!???」
男はチャッカマンを更に体内の奥深くにねじ込んでいった。そしてその先端が望み通りの場所へと“貫通”したのを確認する
と、もう一度チャッカマンのトリガーを引く。
「ゆああああああああああああ!!!!!」
絶叫してしーしーをぶちまけたのは母れいむである。既に息絶えた子れいむの口から炎が吐かれていた。視界に映る子れいむ
は母れいむにとって異形の魔物のように思えた。チャッカマンを引き抜くと、男は死んだ子れいむを持って畳の部屋を出て行っ
た。
一瞬にして部屋を静寂が包んだ。
「ゆ゛……ゆ゛……ゆ゛……ゆ゛……」
母れいむの切れ切れの呼吸だけが聞こえる。ふと、子ゆっくりたちが入っていた透明な箱に目を向ける。
六匹もいた愛らしい我が子。そのどれもが筆舌に尽くしがたい拷問の末に、惨たらしく殺された。箱の中は空っぽだ。小さな
体で一生懸命跳ねて暮らしていた子ゆっくりは、一匹たりともいない。
涙がぼろぼろと溢れてくる。
「ごめんね……っ!!! ごめんねっ!!! まもってあげられなくて……っ、ごめんね……っ!!!!」
八、
畳の部屋に二匹のゆっくり。父まりさと、母れいむ。お互いに一言も喋らない。これが数日前で仲良く夫婦をしていた二匹の
姿だろうか。その面影はどこにもない。
夕方。
仕事先から帰ってきた男はずっと隣の部屋にいた。足音だけが静かな部屋に聞こえてくる。母れいむは箱の壁に頬を寄せて、
これから我が子と同じような目に遭わされて殺されるのを……怯えながら待っていた。次に男が扉を開けてこの部屋に入ってき
たときが、自分の命の終わり。母れいむはそれを理解していた。
午後七時を回ったころ、それまで家の中から聞こえてきていた足音がぴたりと止んだ。家事を終えたのだろう。母れいむは、
唇を噛み締めた。隣の部屋での男の行動が終わったら、次の行動をするためにこの部屋に入ってくる。自分たちの命を次々に奪
っていく行動に移るのだ。
男が扉を開けて畳の部屋へと入ってくる。電灯のスイッチを入れると、満身創痍でうずくまっている母れいむとニヤニヤと笑
い続ける父まりさが照らし出された。
「にんげんさんっ!!!」
父まりさが声を上げる。
「なんだ?」
「ほんとうに、ひとりだけはたすけてくれるのぜ?!」
「“一匹だけ”ならな」
母れいむが箱の中で小刻みに震えていた。それを見て父まりさが笑い声を上げた。
「じゃあ、つぎはれいむをころすのぜぇぇぇ!!!!」
「ばでぃざあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!!!!」
嬉々として隣の箱に入った母れいむに死刑宣告を下す父まりさの顔はあまりにも醜いものだった。母れいむは、羅刹の如き形
相で父まりさを睨みつけている。それに対して“げらげらげら!”と笑い続ける父まりさの顔を見ていると衝動的に殺してしま
いそうになるので、さっさと箱から母れいむを引きずり出した。
「やめてねっ!! はなしてねっ!!! ぷっくうぅぅぅぅぅぅ!!!!」
さすがにすぐに泣き喚いたりはしない。涙目になりながらも行う威嚇は、母れいむにとっての宣戦布告であった。ただでやら
れるつもりはない、ということらしい。男はその威嚇を鼻で笑うと、手にした竹のムチで母れいむを殴打し始めた。
「ゆ゛ぎゃぁぁっ!!! ひぎぃっ!! ゆ゛げぇぇっ!!!」
戦いは始まる前に終わり、一方的な暴力が母れいむを襲った。初日とは違う。男は本気で竹のムチを振るっていた。あの日は
“痛めつけること”が目的だったが、今日は違う。最初から“殺すつもりで”母れいむの顔を打っているのだ。さすがに成体ゆ
っくりの皮は厚いため、二度三度打った程度で皮は破れない。
ムチの風を切る音。母れいむの皮を打つ乾いた音。母れいむの口から洩れる短い呻き。その三種類の音だけが畳の部屋に響く。
救いを求める相手もいない母れいむは、黙って自身に走る激痛に耐えるしかない。耐えて、耐えて、耐えて、やがて死ぬまでこ
の苦痛は終わらないのだ。
体中を痺れるような熱を持った痛みが駆けて行く。徹底的だった。男はこの短時間で何度ムチを振り下ろしたかわからない。
母れいむの皮が破れようが真っ赤に腫れ上がろうがお構いなしと言った様子だ。
顔を畳に自ら押し当てて痛みから逃れようとしている母れいむの尻を思いっきり蹴りつけた。
「ゆ゛ぎゃああッ?!」
目の前の柱に顔面をぶつけて畳にうずくまる。痛みにのた打ち回る母れいむの仰向けになった腹部のあたりを更にムチで打ち
つけた。そのたびに、体全体をびくんっ、びくんと跳ね上げる。
「ゆ゛ひぃ……ゆ゛ひぃ……。 ぎゅぶるッ!!!!」
ぐったりとしていた母れいむの顎のあたりに垂直に拳を下ろした。深々と皮の奥にめり込む。
「ゆ゛ぼぇっ!!!」
その衝撃からか、口から餡子を噴水のように吐き出した。その餡子がべちゃべちゃと母れいむの顔に降りかかる。
父まりさは少しだけ戸惑っていた。男の執拗な暴力の数々に、これまでとは違う何かを感じていたのだ。もちろん、子ゆっく
りに対して今のような虐待を行えばすぐに潰れてしまうというのもあるのだが。
「ぎゅべっ!!! ゆ゛ぶりゅっ!!!」
同じように拳を何度も何度も撃ち込む。その度に餡子を吐き出すため、母れいむの顔は自身の吐いた餡子で真っ黒になってい
た。
男はぐったりとして動かなくなった母れいむに再び竹のムチを振り下ろした。ピシャアアアアン!!!という音と共に、満足
に動かすことのできない体をびくん、と痙攣させる。
母れいむに関しては最初から殴り殺すだけと決めていた。様々な道具を使って泣き叫ぶゆっくりを見て楽しいのはせいぜい赤
ゆっくりか子ゆっくりぐらいまでのものだ。こんなふてぶてしい顔をしたバスケットボールサイズのゆっくりに、ちまちまと道
具を使った虐待などしても面白くない。成体ゆっくりは何も考えずに殴るに限る。男はそう思っていた。そっちのほうがストレ
ス解消にもなる。
「お前は……ッ!! どんだけ傷がついても構わないからな!!!」
口調を荒げながら執拗に殴打を繰り返す。男はたとえ金属バットを使ってもゆっくりを即死させずに長い時間いたぶることの
できる自信を持っていた。母れいむの顔は原形を留めないほどに醜く腫れ上がり、まるでジャガイモのような状態になってしま
っている。
一見すれば、これが“ゆっくり”だとは誰にもわかるまい。
一方でひたすらその身を打たれ続ける母れいむは、腫れ上がった皮のせいで誰にも知られることなく涙を流し続けていた。父
まりさの言ったとおりになってしまったことが悔しくて仕方がなかった。結局我が子を一匹も守ることができずに、こうして男
に弄られてやがては殺される。そんな自分の終焉に納得がいかなかった。しかし、それを変えるだけの力は持ち合わせていない。
腫れ上がった皮の隙間から父まりさの姿が見える。箱の中で母れいむを見ながら事もあろうに笑みを浮かべていた。その様子
を見て歯を食いしばる母れいむ。
(まりさ……ッ!!! ぜったいに……ぜったいにころしてやるっ!!! ころしてやるっ!!!!!)
その生命力の高さと皮の厚さが逆に長く母れいむを苦しめることになった。このジャガイモの中にはまだまだたくさんの餡子
が詰まっている。
「ゆ゛……っ、ゆ゛……っ、ゆ゛……っ」
苦しそうに呼吸をする母れいむの脇腹辺りを蹴りつける。
「ゆ゛べっ!!!」
しーしーが漏れ出してくる。部屋の壁に身を寄せてぐったりと横たわる母れいむの髪の毛を掴んで持ち上げる。その目には既
に光はない。痛みに対して呻き声を上げるだけの物体と化していた。そのまま柱に顔面を叩きつける。歯が折れたのか畳にぽろ
ぽろと小石のようなものが落ちてきた。
「ゆ゛ひゅー……、ゆ゛ひゅー……」
砕かれた歯の隙間から呼吸が漏れる。男は母れいむを畳の上に放り投げた。
「びゅげっ……!!!」
落下の際に勢いよく後頭部を叩きつける。そのまま体を震わせながら餡子を床に吐き出した。もはや虫の息である。男が母れ
いむを蹴って転がす。
「ゆ゛………………ゆ゛…………」
ここまで痛めつけられても母れいむはしぶとく生きている。生きている、という言い方が正しいのかはわからない。時々思い
出したように“ゆ゛”と鳴くだけの物体に、その言葉は少しもったいないようにも感じた。
「げらげらげら!!! れいむ!! まりささまを、ころしてやるとかいってたのぜ?!」
突如、箱の中の父まりさが声を上げた。
(ま゛……り゛…………ざぁ……ッ!!!!)
男が思わず目を見張る。母れいむの揉み上げが、父まりさの罵倒に反応するかのようにぴくりと動いたのだ。そんな事に気付
かず、父まりさは母れいむを思いつく限りの言葉で罵倒し続ける。
「なまいきなことばっかりいう、れいむはしんでとうぜんなのぜっ!!!」
今わの際の母れいむが体全体を微かに震わせている。泣いているのだろう。悔しくて悔しくてたまらないはずだ。家族と自分
を裏切ってのうのうと生き残ろうとしているこの父まりさが、憎らしくてたまらないはずだ。
「ゆっくりできないれいむは…………しねっ!!!!!」
反応を返さなくなった。母れいむはようやく死を迎えたのだ。体内の餡子がなくなってしまったのか。それとも心が死んでし
まったのかは分からない。畳の上にジャガイモのような饅頭が一個転がっていた。
男はその母れいむだったものの髪の毛を掴んでぶら下げた。だらりと力なく男の手にぶら下がる“それ”は討ち取った敵将の
首のようにも見える。男が無言で歩きだす。父まりさの入った箱の横を通ろうとしたとき、
「にんげんさんっ!!! やくそくなのぜっ!!! まりささまをたすけるのぜっ!!!!」
箱の中でたむたむと飛び跳ねる父まりさが本当に嬉しそうな笑顔で声をかけてきた。男が立ち止まる。父まりさは男がこの忌
々しい透明な箱の蓋を開けるのを今か今かと待ち望んでいる様子だった。
“一緒にゆっくりを殺した仲間”ということで、父まりさは自分が男と対等な立場にあると勘違いしているらしい。男が部屋
を出て行く。
「ま……まつのぜっ!!!」
父まりさが慌てふためいた様子で男の後ろ姿に声をぶつける。男は既に事切れた母れいむをダイニングテーブルの上に置いた。
今もなお騒ぎ立てている父まりさの元へと足を向ける。再び現れた男の姿に、父まりさが安堵の笑みを浮かべた。
「約束どおり“一匹だけ”は助けてやる」
その言葉を聞いた父まりさが醜悪な笑顔ではしゃぎ出す。男は無言で父まりさの入った透明な箱に、後ろ手で隠し持っていた
ハンマーを打ちつけた。
凄まじい音と共にガラス製の透明な箱の天井が砕けて、鋭い先端をもった破片が父まりさに降り注ぐ。
「ゆ゛ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ??!!!」
無数のガラス片が父まりさの顔に突き刺さる。あまりにも突然の出来事と、突如顔中を襲った激痛に思わず転げ回る。
「い゛だい゛よ゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!!!」
砕けた透明な箱の床に散らばったガラス片が更に父まりさを蹂躙していく。父まりさは歯を食いしばり滝のような涙を流しな
がら咆哮を上げた。
「な゛ん゛でごどずる゛の゛ぜえ゛ぇ゛ぇ゛ッ?! だずげる、ってい゛っだのぜぇ゛ぇ゛ぇ゛!!!!?????」
「ああ。 “一匹だけ”な。 だが、その一匹はお前じゃない」
「わげのわがらな゛いごどをいう゛な゛ぁぁぁッ!!! やぐぞぐはまも゛ら゛な゛いと、いけない゛んだぜえ゛ぇ゛ッ?!!」
「俺は、“最後に残った一匹を助けてやる”なんて一言も言ってない」
―――――この中で、“一匹だけ”なら助けてやってもいい
―――――明日からお前らを一匹ずつ殺してやる。 朝までに話し合って誰を殺すか決めておけ
―――――お前が決めろ。 自分が一番可愛いなら、最後まで残りの家族を殺すように言えばいい
「ふ……ふざげる゛な゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
男が父まりさの収まる透明は箱の前にしゃがみ込む。男は、父まりさを身の毛もよだつ様な冷たい視線で睨みつけた。
「ゆ……ゆひいぃぃぃぃぃぃッ!!!!」
睨まれただけで、父まりさは金縛りにあったようにその場を動けなくなった。既に自分を閉じ込めていた透明な箱は砕けてし
まい、ジャンプさえすれば脱出できるという状況にありながらその行動に移せない。それはこれまで父まりさが一度も感じた事
のない“恐怖”だった。
餡子脳で考える。男の言った言葉の意味を。
一匹だけなら助けてもらえる。一匹ずつ殺される。残りの家族を殺すように言い続ければ、必ず自分が最後の一匹になる。
三段論法で考えても父まりさが助かる結末に矛盾はないはずだ。なのに、どうして……?
めまぐるしく駆け巡る思考と恐怖とで凍りついたように動けなくなる父まりさ。男は父まりさに向かって語りかけた。
「まりさ。 ずっと誰を殺すか選び続けて疲れただろう?」
「ゆ゛、ゆ゛、ゆ゛、ゆ゛……」
ガチガチを歯を鳴らし震えだす父まりさ。男は父まりさにまるで耳打ちをするように顔を近づけていった。
「だから今度は俺が選んでやるよ」
「次に死ぬのは、―――――まりさ。 お前だ」
九、
死の宣告を受けた父まりさは怯えながら夜の月を見上げていた。凍りついたように動かなかったあんよも今は何とか動かす事
ができる。体内に刺さったガラス片の痛みさえ堪えればすぐに箱の中から脱出できるだろう。しかし、父まりさは今ようやく気
がついたのである。透明な箱の外も、更に大きな“部屋”という名の箱によって閉ざされているということを。
逃げることはできない。本能がそう呟く。
あれから何度考えても、自分が殺されてしまう理由がわからなかった。父まりさの最初の計画では今頃、山に帰って仲間のゆ
っくりを集めて今回の出来事を語って聞かせている段階である。それなのに今も変わらず男の家に監禁され、あまつさえ死刑宣
告さえ受けてしまった。
体の震えが収まらない。父まりさは自分の前で惨たらしい最期を遂げて死んでいった七匹のゆっくりの事を思い出していた。
「こわいよぉ……! しにたくないよぉぉ……!! だれか……すーりすーりしてほしいのぜぇぇぇ……!!!」
弱々しい声で鳴く。自身を慰めてくれる家族の全てを裏切り全滅させた父まりさは、母れいむや子ゆっくりたちと頬をすり寄
せたくて仕方がなかった。しかし、家族が捕えられていた二つの透明な箱の中には誰もいない。
幻のように浮かんでは消える母れいむの笑顔や、愛らしい仕草でぴょこぴょこと跳ね回る子ゆっくりたち。
「…………ゆぐっ!!」
我が身可愛さにそれらを全て裏切り消し去ってしまったのは、他ならぬ父まりさ自身である。
結局、この日、父まりさは一睡もすることなく次の日の朝を迎えた。
差し込む太陽の光が父まりさを照らし出す。家族が毎晩訪れるのを恐れていた、“朝”が来たのだ。
「ゆ……ゆああ……っ!! ゆああああ……」
朝の訪れに恐怖し、しーしーを垂れ流す父まりさ。部屋の向こうから男の足音が聞こえてくる。男もどうやら目を覚ましてい
るらしい。全身がわななくように震え出す。小刻みに歯をカチカチと鳴らし、額からは大量の汗が流れ出した。自然と瞳に涙が
溜まっていく。
「こわい……ごわい……ごわいよぉ…………」
小さく。どこまでも小さく父まりさが呟く。男の足音が、父まりさの命の時計を刻む針の音のように聞こえた。やがて、その
音が聞こえなくなる。
「―――――――――ッ!!!!」
父まりさの体が跳ね上がるかのように強く震えた。
―――ガチャッ……
扉が開く音。これから始まる地獄という名の時刻を告げる音。その時刻を告げるのは陽気な音楽でも、鳩の鳴き声でもない。
「ゆ゛あ゛あ゛……ッ!!! ゆああああああ……ッ!!!!!!」
畳の部屋に入ってきた男は父まりさを箱から取り出した。
「ゆ゛ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!!!」
そのまま、思い切り畳に叩きつける。
「ゆ゛ぎゅえッ??!!!」
思考がまともに動き出すよりも先に、顔面に凄まじい激痛が走る。一瞬、男の手から離れた父まりさが必死の形相で逃げよう
とする。だが、しかし。
「い゛だい゛のぜえ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!!!!
突然その場で転げ回る父まりさ。体内に無数のガラス片が刺さっていることは既に忘却の彼方だったのであろう。それを無理
矢理思い出させるのは体中を駆け巡る激痛。痛みに抗おうと暴れれば暴れるほど、父まりさはガラス片により中身の餡子を蹂躙
されるのだ。
「ゆ゛ひっ……、ゆ゛ひっ……!!!」
ぼろぼろと涙を流しながら激痛に歯を食いしばる父まりさ。男は父まりさを転がすように何度も何度も“優しく”蹴りつけた。
畳の上をごろごろと転がる父まりさが更なる絶叫を上げる。
「や゛べでえ゛え゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ッ!!!!」
泣き叫ぶ父まりさに竹のムチを振り下ろす。体の外側に電撃のように走る痛みに身を捩ると、今度は体の内側でガラス片がこ
すれ合う。
「ゆ゛ぎぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛!!!」
内と外。両方から生じる激痛の波が父まりさを容赦なく襲い続けた。動けば体の中から傷つけられるため、動いてはならない。
しかし放たれるムチによる衝撃に父まりさは体を跳ね上げざるを得ないのだ。体内のガラス片と襲いかかる竹のムチという連携
の前で父まりさは抗う術を思いつくことのないまま、ただひたすらに地獄の責め苦を味わわされた。
「ゆ゛げぇっ!!! う゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛っ!!!!」
凄まじいまでの苦痛に父まりさが思わず餡子を吐き出す。ぼとぼと畳に落ちた餡子を見て父まりさの顔が青ざめていった。
「ば……ばでぃざの……な゛がみざん……ゆっぐりじないで……」
男によって持ち上げられる父まりさ。その泣き顔でぐしゃぐしゃになってしまった顔を畳の餡子に向かって押し付ける。
「ゆ゛ぶぶぶぶぶ……ッ!!!」
「まだ中身を吐くには早すぎるだろ。 さっさと食え」
父まりさの中身である餡子が再び父まりさの口の中へと入って行く。そのあまりの気持ち悪さに父まりさはまた、餡子を吐き
出した。しかし、行き場のない餡子は父まりさの口から出ることはなく舌の上で留まっている。男は父まりさ頭頂部と顎の辺り
を抑えつけて中身を吐き出さないように仕向けた。
「ほら噛め」
そして、父まりさの口を上下に動かす。父まりさがあまりの苦痛に涙としーしー、うんうんを同時に垂れ流し始めた。それで
も男は父まりさに自分の中身を食べさせようとする。自身の中身が自分の歯で咀嚼され、喉を通り体内へと送られていく。
(ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ッ!!!!!!)
せっかく飲み込んだ餡子がまた逆流してくる。父まりさの口からは大量の餡子が勢いよく吐き出された。
「ゆ゛ぶる゛ぇ゛ッ!!! げへっ……!!! ゆ゛ぐぇ……ッ!!! ゆ゛はー……ゆ゛はー……ッ!!!!」
嗚咽に混じって口の中に残っていた餡子がぴゅるぴゅると飛び出す。顔面蒼白の父まりさが畳の上に転がる。痙攣を起こして
白目を剥いていた。男はあらかじめ用意していたオレンジジュースを父まりさの顔にぶっかける。
「ゆ゛がはっ!!!!」
まるで息を吹き返したかのように身を捩りだす。目からは洪水のように涙が流れ出している。ぐったりとしながらも、男に向
ける視線はこの苦しみからの解放を求めていた。哀願するように男を見上げている。男はそんな父まりさの顔面を思い切り踏み
つけた。
「ゆ゛べぇッ??!!!」
変形した顔の形に合わせて中身の餡子が動き、それに押しやられる形で体内のガラス片が父まりさの皮を突き破って顔を出し
た。
「ぎひっ……!!! い゛ぃ゛ぃ゛……っ!!! ゆ゛ぎぃ゛ぃ゛ぃ゛!!!!」
男は父まりさの皮から覗くガラス片を一つずつ引き抜いていった。引き抜くたびに父まりさが激痛に体を跳ね上げる。引き抜
く際、ガラス片が父まりさの皮にこすれているのだろう。
しばらくそれを繰り返した。父まりさを踏みつけたり殴ったりした際に自分がガラス片で傷ついてはたまらない。素手では危
険なので一番最初に犬小屋の入り口に打ち付けた板を使って父まりさの全身を圧迫していく。
「ゆ゛ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!!」
父まりさの顔面に板をあてがい片膝を乗せて徐々に体重をかけていく。一歩間違えば圧迫死してしまってもおかしくないのに、
男は器用に父まりさの体全体を押し潰していった。皮のあちらこちらからガラス片が飛び出してくる。
「がひっ!!! こひっ!!!」
“手術”の最中に患者である父まりさの容体が急変し始めたらオレンジジュースをかける。意識を取り戻したところで再び麻
酔なしの“手術”を再開する。
「や゛べでえ゛え゛え゛え゛え゛!!! い゛だい゛い゛だい゛い゛だい゛い゛だい゛!!!!!!!」
それを一時間近く繰り返した。父まりさは既に疲労困憊の様子である。だらしなく舌を垂らし、全身を痙攣させながらぐった
りしている。あらかた体内のガラス片は回収できたようだ。オレンジジュースを与えて回復したところに、竹のムチを振るう。
「もう゛や゛だあ゛あ゛あ゛あ゛!!! お゛う゛ぢがえ゛る゛う゛う゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛!!!!!!」
想像を絶する激痛と苦痛に幼児退行でもしているのだろうか。もうこの世のどこにも居場所などない死を決定づけられた饅頭
が悲痛な叫び声を上げた。激しく体をくねらせて痛みに抗おうとする父まりさの姿を見て、体内にガラス片が残されていないこ
とを確認する。
「どぼ……じで……」
父まりさが途切れ途切れに言葉を紡ぐ。満足に動くことができないようだ。それはそうだろう。父まりさのあんよは執拗に殴
打された結果、不気味なまでに腫れ上がっている。せいぜいあんよをうねうねと動かすくらいしかできないようだ。
「だずげでぐれる……で、いっだの゛に……ッ!! うぞづき……っ!! うぞづいちゃ……いげないんだよっ!! ゆっぐり
りがいじでね……っ?!」
男が父まりさを嘲笑する。
「家族を見捨てたゴミの分際で道徳を語るな」
父まりさには男の言葉の意味がわからない。それを教えてやる必要などない。
「うそづき……う゛ぞづぎ……うぞつぎ……」
同じ言葉を繰り返す父まりさを蹴り飛ばす。壁に叩きつけられて跳ね返ってきた。
「ゆ゛っ、ゆ゛っ、ゆ゛っ、ゆ゛っ……!!!!」
苦しそうに短く呻き声を上げる父まりさ。
「嘘つき呼ばわりは酷いな。 俺はちゃんとお前の家族を“一匹だけ”助けてやったぜ?」
「だがら……っ!! ぞれ゛は、ばでぃざでじょお゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ッ??!!!!」
「いや、違う」
「……ばでぃざあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あッ!!!! じね゛え゛え゛え゛ぇ゛ぇ゛ッ!!!!!!」
突然、響いた叫び声に父まりさが目を見開く。恐る恐る声のする方向に目を向ける。そこには父まりさに見覚えのない子ゆっく
りの“れいむ”がいた。見ず知らずの子“れいむ”にいきなり“死ね”と叫ばれた父まりさはあまりの展開に思考回路がまったく
ついていけていない。
“れいむ”が動けない父まりさに飛びかかる。恐ろしい形相である。所詮、子ゆっくりサイズの“れいむ”の攻撃は成体ゆっく
りである父まりさにはとっては大したダメージにならない。ならないのだが、父まりさは恐怖でがたがた震えていた。この“れい
む”の父まりさへの怨念たるや凄まじいものがある。
「ゆわぁ……ゆひぃぃぃぃ!!!!」
そもそも自分が何故ここまで怨まれなければならないのかが理解できず、心が恐怖に支配されていく。“れいむ”は父まりさの
顔に噛みついたり、体当たりをしたりを繰り返す。
「や……やべでぇぇぇぇ!!! やべでぇぇぇぇぇ!!!!」
ワケも分からず“れいむ”の攻撃を受け続ける父まりさは、先ほどまでの痛みすら忘れてこの状況に対して怯え苦しんでいた。
男が父まりさに語りかける。
「俺はな。 こいつを助けてやったんだ」
「……ッ??!!!」
父まりさには男が何を言っているかわからなかった。
「そいつを良く見てみろ」
言われたとおりに、自分に対して執拗なまでに攻撃を繰り返す“れいむ”を凝視する父まりさ。
「…………っ!!!!!」
突然、父まりさがガタガタと震え始めた。全身を冷や汗が伝う。呻くように短く呼吸をする。男が父まりさに“答え”を告げ
た。
「お前が裏切って見殺しにした……“家族”だろ?」
「ゆ゛げえ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ッ!!! う゛お゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛っ!!!!!」
あまりの息苦しさに中身の餡子を大量に吐き出す父まりさ。父まりさが餡子脳に刻み込まれた記憶を呼び覚ます。
―――最初に選んだ子れいむは、男の手の中で握り潰されて殺された。
―――二番目に選んだ子まりさは、片方の目玉を抉られ、大根おろし器で体をぐちゃぐちゃにされて殺された。
―――三番目に選んだ子れいむは、全身に縫い針を刺され、カッターで頭頂部を切り裂かれて殺された。
―――四番目に選んだ子まりさは、体を真っ二つにされて、奪われたお帽子を取り戻そうとしながら殺された。
―――五番目に選んだ子まりさは、左目のみを残して、ホットプレートにあんよと顔面を押し付けられて焼き殺された。
―――六番目に選んだ子れいむは、髪を残さずむしり取られて、チャッカマンで体内を焼かれて殺された。
―――最後に選んだ母れいむは、ひたすら男に殴られ続けて殺された。
「ゆ゛あ゛……っ、あ゛あ゛……っ!!!!」
「最初の子れいむのお飾り。 二番目の子まりさの右目。 三番目の子れいむの髪の毛と皮。 四番目の子まりさの―――」
「や゛べろ゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ッ!!!!!!!!」
狂ったような叫び声を上げる父まりさを無視して淡々と男が続ける。
「四番目の子まりさの下半身。 五番目の子まりさの左目。 六番目の子れいむの顔―――――」
「ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!」
恐ろしい形相で体当たりを繰り返す“れいむ”の左頬にはべったりと餡子が付着している。それは箱の中で最後に残された子
れいむが寂しさと恐怖を紛らわせるために、大根おろし器でぐちゃぐちゃにされて餌として与えられた子まりさの残骸に頬をす
り寄せたときのものである。
そして。
「ぜっだい゛に……ッ!!! お゛ばえ゛をごろじでや゛る゛う゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛!!!!!!!!!!!!!!」
「ゆ゛ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!」
男が一言。
「最後の母れいむの……餡子に刻み込まれた記憶」
父まりさの目の前にいる“れいむ”は、紛れもなく父まりさのかつて家族だったもののなれの果てである。
「う゛ぞだあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」
「……お前も、体を真っ二つにされた子まりさを覚えているだろう?」
「ゆぐぅ……ッ!!!」
“上半身と下半身をぶった切っても、くっつけてしばらく経てば勝手に回復するのだ。”
「ゆ゛……ゆ゛があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!!!!!!」
父まりさが渾身の力で飛び上がる。着地すると同時に“れいむ”が潰されて中身の餡子をぶちまけた。
「ゆ゛はー……っ!!! ゆ゛はー……っ!!!!!」
父まりさが、がたがた震えている。
「せっかく、“一匹だけ”助けてやったって言うのによ……」
男の声が届いているのかどうかはわからない。父まりさは姿の見えない何かに怯えてその場を一歩も動けずにいた。
「二度も家族を殺すなんて最低のゆっくりだな、お前は」
十、
「おすわり!」
退院したばかりの飼い犬の餌皿に“餌”を入れて命ずる。飼い犬は後ろ脚をゆっくり、ゆっくりと曲げて尻を下ろした。
「待て」
飼い犬が餌皿を見つめて涎を垂らす。
「よし!」
男が最後の指示を与えると、飼い犬は勢いよくその“餌”に食らいついた。
「ゆ゛ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!! や゛べでえ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!!!!」
あの後、男は父まりさのあんよをフライパンで焼いた。とは言っても炭化してしまうほど長く焼いていたわけではない。
あんよを焼かれて身動きの取れなくなった父まりさの体を三度ばかり包丁で切り裂いてガラス片が残っていないかを確認した。
目視だけでは不安だったので、餡子を三分の一程掻き出して余った母れいむの餡子を食べさせては中身を補充させるを数回にわ
たって繰り返し、餡子の交換を行った最後にもう一度腹を開いて中身をこねくり回してみたが、ガラス片は残っていなかった。
この一週間の間で父まりさに与えら得れた苦しみは相当なものであっただろう。そんな父まりさの中身の餡子は、人間が食べ
ても絶賛するほどの味になっているはずだ。
男は飼い犬への“退院祝い”に父まりさを与えたのだ。
「も゛っど……ゆっぐり、じだが……」
あっという間に餌皿の中の父まりさを食べ終わる飼い犬。
男が散歩用の紐を持って現れた。
「コタロー、散歩に行こうか」
「ワンワンワンッ!!!」
どこまでも澄み切った青空。男と飼い犬が並んで畑の中の道を歩いていく。
ゆっくり……ゆっくりと。
おわり
日常起こりうるゆっくりたちの悲劇をこよなく愛する余白あきでした。