虚無と獣王-17

17  淑女と獣王
唯一杖を持っていたギーシュによって拘束されたフーケは、憎々しげにクロコダインを睨みつけた。
「よくもまあ嘘を吐いてくれたもんだね! 何が『主の安全がかかってるのに嘘は言わん』だい!」
「心外だな。オレは嘘など吐いてはいないぞ」
全く怯む様子もなく言葉を返すクロコダインに、フーケはさらに言い募る。
「じゃあ何であんたはあの筒の中に封じ込められなかったのさ!?」
「ちゃんと言った筈だぞ。『筒には一体のモンスターを封じ込める効果がある』と。逆に言えば『一体しか封じられない』訳だ」
その言葉の意味に気付いたのはルイズだった。
「つまり、その『魔法の筒』の中にはもう何かが入ってるって事、よね?」
クロコダインは笑みを浮かべルイズに向き直る。
「そう言う事だ。そして中のモンスターを外に出す時の合言葉は『イルイル』じゃない」
「じゃあなんでそれを教えない!?」
「言おうとしたんだが、『そこまで聞けば充分』と言われてしまったのでな」
笑みを苦笑に変えるクロコダインに、フーケはぐうの音も出なかった。
「そもそもオスマン老はこの筒に『神隠しの杖』などという名前を付けているんだ。その意味をもう少し考えるべきだったな」
「……?」
首を捻る一同だったが、今度はキュルケが一番に気がついた。
「ああ! オールド・オスマンはこの杖の効果を知ってるのね!? だから『神隠しの杖』なんて名前を付けたんだわ!」
「いや、でも学院長はこの筒の使い方は知らないんじゃなかったか?」
ギムリのそんな疑問に答えたのはレイナールである。
「──使用方法が判らないのと効果を知っているのは話が別だよ。多分、学院長は誰かが使っているのを目撃したんじゃないかな」
「その筒はオスマン老の恩人の遺品。確かそう言っていた筈」
レイナールの説をタバサが無表情に補足した。
「まあそう言う事だ。嘘は吐いていないだろう?」
クロコダインはそう言って肩をすくめてみせた。

それにしても、とタバサは思う。
これまでのクロコダインの印象は「強い戦士」というものだったが、これからは「意外と切れ者」と付け加えなければならないと。
実際会話の流れに助けられた部分もあるのだろうが、本当に肝心な情報は一切フーケには伝わっていなかったのである。
さっきまでの補足話も落ち着いているからこそ推測できる物で、あの緊迫した状況下でそんな事が考えられる筈もない。
(興味深い)
この謎の多い使い魔を観察する必要がある。そんな事を考えながら、タバサはいつものポーカーフェイスを貫いていた。

「さて、こちらからも質問がある」
今度は逆にクロコダインがフーケに問うた。
「宝物庫から盗み出された物は2つ。『伝説の剣』は一体どこに隠した?」
魔法の筒を回収した事ですっかり安心していたルイズたちは、「あ、そー言えば」という顔を隠そうともしなかった。
「……ああ! すっかり忘れてたわ」
盗んだフーケからしてこの有様である。
「いや、あのインテリジェンス・ソードあんまり煩いもんだから、腹いせに小屋の近くに埋め込んだのよ」
鬼の所業であった。
「小屋の近くって……」「ひょっとしてゴーレムの材料になってないか……?」
フーケが作ったのは30メイルもの大きさのゴーレムである。当然の事ながら作るには大量の土が必要となる。
しばらくの間を置いて、フーケは心配げな顔の一同に告げた。
「さっきの攻撃で壊れてない事を祈るわ」
これっぽっちも心のこもっていない口調のフーケを尻目に、慌ててレイナールが広場へと赴きゴーレムだった土の山に向けてディテクト・マジックをかける。
反応のあった個所をクロコダインが掘ったところ、案の定と言うべきか鞘に入ったままの大振りの剣が見つかった。
剣を抜くとオスマンに聞いた通りの錆びついた刀身が現れる。
「……かれこれ6000年ばかり剣をやってきたけど、こんなひどい目みるのはじめて……」
いきなり愚痴る剣に、なんとコメントしようか思わず考え込むクロコダインだったが、結局いい言葉は思いつかずそのまま鞘へと納めることにした。
「……あれ? ちょっと待てオメ使い」
剣は何か言い掛けたようだったが鞘に収めると黙り込んだ為、まあいいかと思ったと後にクロコダインは語っている。

投げ捨てた杖を回収し、フーケをスリープ・クラウドで眠らせた上で一同は学院へと戻った。
フーケは衛兵に引き渡され、ルイズたちはその足で宝物庫へと向かう。
「うむ、確かに『神隠しの杖』と『伝説の剣』じゃ」
捜索に出てからの出来事を聞き終えた後、オールド・オスマンは真剣な眼で取り返された秘宝を確認した。
使命を果たし安堵のため息をつくルイズだったが、その耳にオスマンの独語が飛び込んでくる。
「それにしてもまさかミス・ロングビルが『土くれ』だったとはの……」
「そういえば、どうしてフーケは学院長の秘書という重要な役職に就けたんですか? 確か学院に勤める者は身分証明と誰かの紹介状が無いと駄目でしたよね?」
そんな疑問を投げ込んだのはレイナールである。
確かに国内の貴族の子弟を預かる以上、学院に勤めようとする者には教師からメイドに至るまで上記の2つが必要となる。
例えばシエスタの場合、タルブ村長からの身分証明と、結婚を機にメイドをやめる事になったタルブ出身の娘からの紹介状があって、初めて学院付きのメイドとなる事が出来た訳だ。
レイナールには宮廷に親戚がいるので、おそらくはそのあたりからこれらの事情を知っていたのだろう。
「うむ、それには深い訳があっての」
オールド・オスマンは重々しい口調で、とある酒場にてフーケをナンパしたあげく特例で秘書へと任命したという事実を披露し、結果として学生たちに白い目で見られたのだった。
「え? ちょっと何その汚物を見るような視線! だって尻とか触っても文句言わないんじゃぞ!? こりゃ私に惚れとるとか普通思うじゃろーが!」
ルイズ、キュルケ、タバサの3人ははっきりと「死ねばいいのに」という顔になり、男子生徒の中の幾人かは「流石は学院長だ」と感心しきりの様子だ。
そして微妙に自分に対する尊敬の念とかが危うくなったのを感じたオスマンは、すかさず話題を変える事にした。
フーケの件で登城する際、捜索に出た生徒全員にシュヴァリエの申請をするつもりがあることを伝えたのである。
「ホントですか!」
キュルケやギーシュたちは歓声を上げた。
シュヴァリエは武勲を挙げた貴族に与えられるもので、軍人ならばいざ知らずそれ以外の、ましてや学生が簡単に得られるものではない。彼らが喜ぶのは当然だと言えるだろう。
だが、そんな中で表情の優れない者がいる事にオールド・オスマンは気付いていた。
タバサはいつもの様に無表情だが、これは既にシュヴァリエであるからだ。勿論彼女には違う勲章を申請する予定である。
問題は、ルイズが浮かない顔をしている事にあった。

「どうしたのかね、ミス・ヴァリエール」
オスマンの問いに、ルイズは硬い声で答える。
「学院長、わたしは申請のメンバーから外して貰えないでしょうか」
皆が一様に驚きの表情を見せる中、オスマンは優しく問い直した。
「何故、と聞いてもいいかね?」
「わたしはフーケの捕獲に関しなにも貢献できませんでした。それだけならばまだしも、不注意から人質となり同行した者たちを危険に晒しています」
故にシュヴァリエにはなれないと、この生真面目な少女は答える。
「おバカねえ、ルイズ」
ふいに後ろからキュルケがルイズの頭の上にのしかかった。
ボリュームのある双丘がやんわりと形を変え、オスマンを始めとする男衆が生唾を飲み込む。
変なところで潔癖症よねこのコ、と思いつつ胸の下で「誰がおバカか!」と暴れる同級生にキュルケは言った。
「いい? そもそもあたしたちはフーケの捜索になんか行くつもりはなかったのよ? どこかの誰かが立候補しなければ、ね。そのあんたが辞退したらこっちの立場が無いじゃないの」
ギーシュたちがうんうんと頷く。目は2つの桃りんごに吸い寄せられていたけれども。
「まあ確かに人質にはなってたけど、その分クロコダインが大活躍してたんだから問題なしって事で」
「それはクロコダインの手柄でしょ! だったらクロコダインをシュバリエにして貰わなきゃ駄目じゃない!」
あくまで自分にはシュヴァリエたる資格はないと言い張るルイズに、オスマンは好感を持った。
「主と使い魔は一心同体と言うしの、使い魔の武勲は即ち主の武勲じゃろうて」
苦笑と共に言った台詞を、今まで沈黙を守っていたクロコダインが引き継いだ。
「オレには地位も勲章も必要の無いものだからな、ルイズが貰っておいてくれ。そもそもオレがそんなものを貰えるなら、シルフィードやフレイムにも渡さなければならなくなるぞ?」
当の使い間にそんな事を言われてしまっては返す言葉もない。確かに使い魔(つまりは人間以外の者)に騎士叙勲をするというのもおかしな話ではあった。
まあ、ルイズも他の学生たちもいつの間にかクロコダインが人間であるような感覚を持っていたので、本人に言われるまで特に違和感は抱いていなかったのだが。
「しかしミス・ヴァリエールの言い分にも一理はある。使い魔殿には私から何か贈ろうと思うが、何か希望はあるかね? 嫁さんとか言われると困るがの」
クロコダインは太い笑みと共に答えた。
「では、後で美味い酒でも持ってきてもらおうか」
「秘蔵の銘酒を届けさせよう」
オスマンも、また笑顔で答えた。

「おや、まだこちらにいたのですか」
控えめなノックの後、姿を現したのは教師コルベールであった。
「今夜はフリッグの舞踏会ですぞ。女性陣は早く支度をした方が」
「あ──────ッ!」
コルベールが言い終える前にルイズとキュルケが悲鳴じみた声を上げる。
「ちょっと待って待ってあれって今日だった!?」
「うわすっかりバッチリ忘れてたわ今何時ー!」
慌てふためく2人を前に、女性陣の中に入っている筈のタバサの反応は実に薄いものだった。
彼女にとって髪型やドレス、アクセサリーはさほど重要なものではなく、ちゃんとした服装を着て遅刻する事無く腹一杯ご馳走を食べられればそれでいいのだから当然であるとは言える。
「まずいよ早く、早く急いで準備しないと間に合わない!」
代わりに、という訳ではないのだろうがギーシュの方が余程慌てふためいていた。言い回しすらおかしくなっている。
「私からの話は以上じゃ。今夜は楽しむといい」
その言葉を聞いて退出しようとする一同に、オスマンは再び声を掛けた。
「あー、スマンがミス・ヴァリエールと使い魔殿には少し残って貰えんかの。なに、時間は取らせん」
微妙にえー、という顔をするルイズだったが、
「ちょうど良かった。オレも幾つか聞きたい事がある」
とクロコダインが答えた為、その場に残る事となった。

「さて、先ずそちらの聞きたい事とは何かの?」
「『神隠しの杖』に関しての事だ。あれは昔オレが使っていた『魔法の筒』と同じモノだが、どうしてここにあるのかが知りたい」
クロコダインの問いに、ふむとオスマンは考え込む素振りを見せた。
「昔同じモノを、という事はミス・ヴァリエールに召喚される以前という意味ですか!?」
オスマンの後ろに控えていたコルベールが口を挟む。宝物庫に残っている人間はクロコダインが異なる世界から来ている事を知っている者達でもあった。
「アレは私の命の恩人が遺したモノというのは既に言ってあったの」
頷くクロコダインに、オスマンは語り始めた。

20年ほど前、採集の為に森の奥深くへ入った時、翼長20メイルはあるワイバーンに襲われた事。
杖を飛ばされ、あわやという時に突然男が現れ、持っていた筒をワイバーンに向けると次の瞬間怪物の姿が消えてしまっていた事。
男は現れた時には既に重傷を負っており、急いで学院へ連れて行き介抱したがその甲斐もなく亡くなってしまった事。
男が持っていた刃の欠けた槍は墓標代わりにし、筒は『神隠しの杖』と名付け宝物庫へ保管した事。

一通り話し終えたオスマンは、クロコダインを見上げて言った。
「あの男も一風変わった容姿をしていたからの、ひょっとしたらお主と同じ世界から来たのかもしれん」
「変わった容姿というと、人間ではなかったのですか?」
一緒に話を聞いていたルイズが疑問の声を上げる。
「いや、基本的に人間と同じ体なんじゃがの、肌の色が紫がかっておってなぁ」
オスマンは昔を思い出ししているのか、どこか遠い眼をしていた。
「耳も人より大きかった。いや、エルフの様に尖っているのではなく、こう、幅が広いという感じで」
語るより見せた方が早い、とばかりにオスマンは懐から銅貨を取り出し小さなゴーレムに作り変えた。
そのゴーレムを見たクロコダインは驚きを隠せなかった。
「ラーハルト!?」
「知ってるの?」
主の問いに答える事も出来ず、クロコダインはゴーレムを凝視する。
だが、よく見るとかつての仲間とは少々容姿が異なっていた。
ともすれば細身に見えるラーハルトに比べ体つきはがっしりしており、顔もどことなく厳つい感じがする。
最初は自分と同じようにラーハルトも召喚されたのかと思ったが、考えてみれば謎の男がオスマンを助けたのは20年も前の話であるし、自分が覚えている限り、
かの槍騎士は魔法の筒を装備してはいなかった。
だが、身体的特徴からこの男が魔族(もしくはその血を引くモノ)であることは確かだ。
「いや、仲間に似ていたんでな。なんにせよこの男はおそらく、オレと同じ世界にいたのだとは思う」
魔族の説明をすると長くなる為、クロコダインはそう言うに留めた。
「この人もクロコダインみたいに誰かに召喚されたんですか?」
ルイズの質問にオスマンは首を振った。
「それは私にも判らなかった。近くには誰もおらなんだし、彼もうわごとで「帰りたい」としか言ってはくれなんだしの」
「そうですか……」
クロコダインを元いた世界に帰すと誓ったルイズだったが、その手がかりは全く掴めていない。
オスマンの命の恩人がこの世界に流れ着いた理由が判れば何かのヒントになるかと思ったが、そう上手くはいかないようだった。
「しかしあの男とお主が同郷とは思わなかった。これも何かの縁じゃ、その筒は使い魔殿が持っていてくれ」
オスマンはそう言ってこの話を切り上げた。

「ではそちらの用件を聞こうか」
クロコダインの言葉にオスマンとコルベールは表情を改めた。
「お聞きしたいのは貴方の左手に刻まれたルーンの事です」
「ミス・ヴァリエールの使い魔になった後で、何か身体的な変化などはなかったかの?」
2人の問いにルイズは怪訝な顔をした。
コントラクト・サーヴァントの影響で使い魔は知能が上がり、犬や猫などの人間の身近にいる動物は人語を話すようになる事はよく知られている。
今更そんな事を2人が確認するとは思えない。
一方、クロコダインには何か思い当たる節があるようだった。
「ギーシュたちと体を動かしている時も感じていたんだが、今日はっきりと自覚した事がある。あのゴーレムとの戦いで体が普段よりも明らかに軽くなっていた。
戦闘補助呪文を掛けられた訳でもないのにな」
「ほう」
「それに武器の使い方とでもいうのかな、これまで思いつきもしなかった扱い方が自然と流れ込んできた」
2人の教師は顔を見合わせた。
「学院長もコルベール先生も、一体何を気にしてるんですか」
状況が掴めないルイズが声を上げると、コルベールは意を決したように答えた。
「彼に刻まれたルーンが珍しいものだったのでね、調べた所それと同一のモノが過去にある事が判ったんだ」
一旦言葉を切って、コルベールは静かに言った。
「彼はガンダールヴだ」

「ガンダールヴ?」
怪訝そうな顔をするクロコダインとは逆に、ルイズはその名に聞き覚えがあった。
そう、学院に入学して初めてのトリステイン史の授業において、始祖の功績を学んだ時にその名を聞いたのだ。
神の左手。あらゆる武器を使いこなし始祖を守り抜いた伝説の使い魔。左手に大剣、右手に長槍を持つ天下無双の神の盾。
ルイズはこう見えて、歴代の学院生の中でも座学だけならトップクラスの秀才である。普通の生徒なら聞き流していたかもしれない事をしっかり覚えていた。
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
ルイズは慌てて問い質した。
「なななんで神の盾のルーンがクロコダインに刻まれちゃったんですか!」
「落ち着きたまえ、まだ確定したわけじゃない」
コルベールはそう言ったが、先程のクロコダインの言葉が説得力を打ち消していた。
契約の効果で武器の上手な使い方が流れ込んだり、戦闘能力が突然上がったりする話など聞いた事もない。
そしてこれらは、ガンダールヴになったからと仮定するとひどく納得のいく効果なのであった。

「ふむ、少し試してみるとしようかの」
オスマンはそう言って、傍らの『伝説の剣』を手に取った。
「これは以前ある武器商から譲り受けたものでな、なんでも6000年前に作られたと言われておる」
「この剣が、ですか? 誰がそんな事言ってるんです」
それこそ始祖が生きていた頃に作られたなどという話を、ルイズは信じる気にはなれなかった。
「剣本人がそう言っておるのさ」
オスマンは150サント余りの長剣を苦労して引き抜いた。その途端、鎬の金具を震わせながら『伝説の剣』が喋り始める。
「幾ら強そうで『使い手』だからって話してる最中に鞘に入れるなよっててめ、俺をこんなトコに押し込めやがったジジイじゃねぇか!」
わめく剣と対面したルイズは、フーケが地面の中に埋め込んだ時の気分を完全に理解した。
一方オスマンは剣に冷静なツッコみを入れる。
「自分で『伝説だぜ俺』とか言うとったじゃないか。確かに大層な魔法が掛かっておるようじゃしの」
当然の事ながらディテクト・マジックを掛けた上での発言である。
「俺は剣だっつの、斬ってなんぼの商売なのに倉庫に入れっぱなしたぁどういう了見だよ!」
憤る剣をさらりと無視してオスマンはクロコダインに話しかけた。
「どうじゃな、こいつを持っても上手な使い方とかは流こんでくるかの」
ルイズの背程もある大剣だがクロコダインが持つとやや小振りに見えてしまう。本来なら両手持ちの筈だが、彼の場合片手でも微妙に持ちにくそうだった。
「──ああ、オレは剣は得手じゃないが、どう振れば効果的かが判る」
目を閉じ、体内の気を高めながらルーンの効果を確認するクロコダインに剣が語りかける。
「おお! おめ、やっぱ『使い手』か! いやあ、人間以外の相棒なんて……あれ? 前にもあったような」
「ねえボロ剣、さっきから気になっていたんだけど、その『使い手』って一体何なのよ」
剣の言っている事が今一つ判らない面々を代表してのルイズの問いに剣は声を荒げた。
「誰がボロ剣だ! 俺にはデルフリンガーって立派な名前があらあ! 大体最近の奴は『使い手』の事も知らねぇのか、いいか『使い手』ってのは……なんだったっけ」
ルイズは静かな表情で言った。
「学院長。こいつ埋めて下さい」
「いや、そう短絡的にものを考えてはいかんぞ。まあどうせ賭けチェスのカタに武器屋の親父からせしめたモンじゃし、別に埋めても惜しくはないがの」
教育者らしい口調でオスマンが答える。その内容は酷いものだったが。
「ひでえだろその扱いは。なあ、俺を使ってくれねぇか相棒、色々役に立つぜ?」
クロコダインは黙って壁に立て掛けてある愛用の大戦斧を見つめた。
「い、いや待って、あれも確かに業物なんだろうが、ホラ! 狭い所だと使いにくいだろ? その点俺なら」
クロコダインは黙って腰に下げたギーシュ謹製の手斧を軽く叩いた。
「い、いや、まあ待ってくれよ、言っちゃなんだがそれ青銅製だろ? あんま武器としちゃ」
オスマンとコルベールがすかさず『固定化』の魔法をかける。火のトライアングルと土のスクエアの魔法は、ブロンズの斧を必要以上に固くした。
「なあ、これイジメ? 俺、泣いていい?」
結局、クロコダインは取り敢えず話し相手として剣改めデルフリンガーを預かる事にし、主から「お人よしが過ぎる」という評価を得ることになった。


話が終了し、退出する2人を見送ってからオスマンとコルベールは深々とため息をついた。
「流石にミス・ヴァリエールも気付かなかったようですな」
「いくら何でもそれは無理じゃ、そもそもこちらとて信より疑の方が多いからの」
実は一年前、ルイズが新入生としてやってくる時にオスマンは彼女の父親であるヴァリエール公爵から秘密裡に依頼されたことがある。

『もし出来ることならば、娘が魔法を失敗する理由を調べて欲しい。但し調べている事をルイズには知らせる必要はなく、また娘を特別扱いにする必要もない』

それから現在まで、オスマンは密かにルイズの言動に目を配っていた。
魔法成功率0%。
系統魔法を唱えれば呪文も魔力の込め方も正しいのに何故か爆発を引き起こす。
しかしその爆発は、火の魔法のエキスパートであるコルベールが再現できないものでもあった。
爆発という現象を引き起こすには少なくとも「火」と「土」のスペルを掛け合わせる必要があるにも関わらず、ルイズはドットスペルで
トライアングル相当の威力を叩き出す事がしばしば見られたのだ。
何故こんな事が起きるのか。
ともすれば魔法偏重主義と揶揄されるトリステインにおいて、魔法学院の教師となるにはそれ相応の知識と技術が必須となる。
そのエリートたちが、ルイズの失敗魔法について説明も再現も出来ないのだ。
全く持って非常識と言わざるを得ない。
ヴァリエール公爵が悩み、オールド・オスマンが頭を抱えたのも無理は無いと言えるだろう。
だが、ここに来て事態が変わった。あの使い魔が『始祖の左腕』ガンダールヴだとしたら、その主人の系統は?
オスマンもコルベールもそれを思いついた時はまさかと思い、しかしその可能性を否定する事は出来なかった。
「で、どうされるおつもりですか?」
コルベールの問いに、オスマンは首を振って答えた。
「どうもこうも、現状を維持するしかなかろう。元々確証がある訳じゃなし、うっかり王宮になど知られたらエライ事になるわ」
ただでさえ隣国では内乱が勃発している不穏な時期に、そんな事を報告しても碌な事になるまいと呟く。
「まあヴァリエール公爵には私からそれとなく伝えておこう。どうせフーケの件で城までいかねばならんからの」
実に嫌そうな顔をするオスマンに、コルベールは同情を禁じ得ない様子だった。
オスマンの王宮嫌いは今に始まった事ではない。
「彼女らの前では言えなんだが、君もよくやってくれたな。ヴォルテール君」
「コルベールです。どう間違えたらそうなりますか」
「冗談じゃ、マジになるでない。まあ舞踏会まで間がある。少し休みたまえ」
そう言ってオスマンは、自分の『頼み事』を無事果たしてくれた男を労うように肩を叩いた。

『フリッグの舞踏会』は本来、新入生を歓迎するという意味合いを持っている。
これまで多かれ少なかれ従者に世話をして貰っていた貴族の子女が全寮制の学校に来るのだから、当然新入生たちは緊張している。少しでもリラックスさせる為の舞踏会という訳だ。
また魔法学院は、貴族が貴族らしく振る舞う事が出来る為の学習の場でもある。
要は卒業後、王宮主催のパーティーに招かれた際などに恥をかいたりしないように学院側が配慮し、こうした機会を作る事で場慣れさせておく授業の一環でもあった。
だが今年は、例年とはいささか事情が異なっていた。
通常主役を求めない筈のこの会に、特別に紹介された者たちがいる。
「土くれのフーケ」が学院に盗みに入ったのは既に学生たちの間にも知れ渡っていたが、その怪盗を捕らえた者たちとして7名の学生が学院長の口から発表されたのだ。
そして今、その7名のうちの一人が多くの者に囲まれながら得意げに独演会を開いている。

「そこで僕はワルキューレを作ってゴーレムに立ち向かったのさ。
確かに敵は強大だったけれど、このギーシュ・ド・グラモンの勇気と誇りはそんな簡単に折れるモノではないと言うことをかの怪盗に教示しなければならなかったからね!」

その様子を少し離れた場所で眺めているのはギーシュらと一緒に紹介されたレイナールである。
彼の周りには上級生やクラスメイトなどが集まり、口々にギーシュの言ってる事が正しいのか確認していた。
「で、あれはどうだ」
「立ち向かっていったのはヴァリエールの使い魔、クロコダインだけですよ。おかげで僕たちはその間フーケを捜す事に専念できたんです」
上級生のベリッソンにそう答えると、相手は微妙な表情になった。
先日の食堂での一喝がまだ堪えているらしい。そういえばあの時ツェルプストーの盾に成り下がっていたなこの人、と要らない事を思い出した。
「じゃあ杖を投げ捨てる振りして油断させ、フーケを捕らえたって言うのもウソなの?」
「いや、それは本当だよ。フーケの捜索中に野薔薇を手折っていたから、杖を捨てろと言われた時、代わりにそれを投げていたんだ」
隣のクラスの女生徒の質問に補足を入れつつ答える。
その間にも独演会は続いており、丁度フーケを燻りだす算段を立てる所に差し掛かっていた。

「この僕の発案で、風竜を使って怪盗を見つけ出すことにしたのさ。そもそも木の上に隠れているのは容易く想像できる事だったしね!」

それは初耳だなあ、とレイナールは完全に部外者のノリである。
実はギーシュの独演会は、これで5回目となる。
彼の名誉の為に言っておくと、最初からこんな調子だった訳ではない。ちゃんと自分のした事と仲間のした事の区別はつけていた。
しかし、ギーシュの近くに集まる女生徒が増え、そして彼女らの賛辞が増え、更に薦められるワインの量が増えるに従って話が大きくなっていったのである。
因みに去年は壁の花であったマリコルヌとギムリも今日ばかりはモテまくっており、有頂天になっているのが手に取るように判った。
『春……! 季節も春だけど人生の春……!!』
心の声がここまで聞こえてきそうな勢いである。
勿論レイナールにもダンスの相手には困らない状態だったが、小休憩を取っていたらいつの間にか質疑応答と解説の時間になってしまっていただけの話だ。
なんだかなあと思いつつ、レイナールはワインを飲みほした。
一方、本当の捜索隊である女子3人はどうなっていたか。
キュルケは何時もの様に取り巻きが門前市を為す状態である。
真紅の髪に燃えるような赤いドレスの彼女は、今日の主役という事を差し引いても充分に華やかであった。
タバサは黒のパーティードレスに身を包み料理とタイマン勝負をしている。
子供の様な体型と無口な性分から彼女は男子に余り人気が無く、極一部の特殊な趣味を持つ者もいたが彼らは総じて話しかける勇気を持っていなかったので、誰にも邪魔される事無くハシバミ草を食べまくっていた。
そしてルイズは、近寄って来る男たちをうんざりしながら捌いている。
白のドレスにピーチブロンドの髪が映え、立ち振る舞いも上品の一言に尽きる淑女に驚いた男子生徒が今日の武勲との相乗効果もあり殺到したのだが、ルイズは失礼にならないようにしながらも頑なにダンスの誘いに応じはしなかった。
大体昨日まで『ゼロ』だなんだと馬鹿にしていた連中に褒められても嬉しくない。大貴族の意地で超特大の猫を被っているので周囲には全く気づかれてはいないのだが。
少年たちの賛辞の声に応じながら、その瞳はここにいる訳もない誰かを探しているようにも見えた。

「こんな所に居たのですか」
同時刻、ヴェストリの広場。
その片隅に使い魔たちが集まっている。輪の中心にいるクロコダインに、やって来たコルベールが話し掛ける。
「そちらこそ宴はどうしたんだ? 教師が場を離れてはいかんだろう」
そう言って笑うクロコダインの前にはたくさんの料理があった。
先程忙しい仕事の合間を縫ってシエスタらが持ってきてくれたのだ。マルトーからの指示だというそれらは貴族に出す料理と同じものだった。
シルフィードは大きな肉の塊を至福の表情で飲み込んでおり、フレイムも尾をパタパタと振って喜んでいる。尻尾には火が灯っているので迂闊には近寄れない状態だ。
その他のジャイアント・モールやフクロウ、カエルやスキュラらもそれぞれ自分の好物に手を出していた。
「ああいう華やかな場所はどうにも苦手でして」
苦笑と共にコルベールは『浮遊』の呪文で運んできた3つのガラス瓶を差し出す。篝火にルビーの様な赤がうっすらと透けた。
「学院長に頼まれましてな、約束の美味い酒だそうですぞ」
それはオスマンがまだ若い頃に樽ごと手に入れた銘酒を瓶に移し替えて今日まで保管していたという、文字通り秘蔵の一品だった。
「それはまた随分と早く約束を守ってくれたものだ。後で礼を言わなければな」
クロコダインは遠慮なく瓶を受け取り、傍に置く。
「そうだ、コルベールにもまだ礼を言っていなかったな。ありがとう、昼間は助かった」
コルベールは目を丸くした。
「一体、何の事です?」
「フーケにルイズが捕まった時、背後から『気』を放って動きを止めてくれただろう? ありがとう。アレのお陰でルイズは怪我をせずに済んだ」
クロコダインが頭を下げると、コルベールは慌てて言い繕う。
「いや、何か勘違いをされていませんか? 私はずっと学園におりましたが」
「そういう事にしておきたいのなら、確かにそうなんだろう。じゃあここからはオレの想像だ」
一旦言葉を切って、クロコダインは続ける。
「そもそもオスマン老が捜索隊を募った時から不思議に思っていた。何故お前が名乗り出ないのかと、な」
コルベールは黙して語らない。
「オレがルイズに召喚されたあの日、お前はルイズや他の生徒を庇うような位置に立っていた。仮に攻撃を試みても直ぐに阻止されただろうな。それに普段の体捌きを見ていても、
何らかの心得があるのは一目瞭然だったよ」
日頃の鍛錬を怠っていない証拠だなと付け加え、手近にあった肉をシルフィードに向かって投げる。器用に首をくねらせて風竜は空中でキャッチした。
「それにオスマン老も、素人に近い生徒たちを何の考えもなしに危険な任務を押し付けるとは考えにくい。腕の立つ教師に自分の使い魔をつけて一部始終を見守り、
いざという時にはフォローできる体制を整えていたとしてもおかしくは無いだろう」
話を聞きながらコルベールは無表情を保っていたが、内心では密かに舌を巻いていた。
確かにオスマンは自らの使い魔・モートソグニルを彼に託し、感覚同調で一部始終を観察している。更に宝物庫に保管されていた『眠りの鐘』を、学院長特権でコルベールに
貸し出してもいたのだから。
「さっきも言ったが、これはあくまでオレの想像に過ぎん。証拠などない話だしな。ただ、礼を言っておきたかったのさ。オレの主を助けてくれた礼を」
2度も礼を言われたコルベールからは無表情という名の仮面が剥がれ、ひどく複雑そうな顔になっている。
自分は罪から逃げた卑怯者だという考えがこれまで彼の脳裏から離れた事は無く、また今回の事もただ生徒たちが心配なのは確かだったが、クロコダインとルイズの力を
把握するという目的もあった。
少なくとも、礼を言われるような立場ではない。
「……私はただの臆病者に過ぎません。それより、礼を言わなければならないのはむしろこちらでしょう」
だからコルベールは、心からの感謝を込めてクロコダインに頭を下げた。
「ありがとう。私の生徒たちを守ってくれて」

しばらく話した後、コルベールはホールへと戻っていった。
流石に長時間席を離れているのは難しいらしい。
その姿を見送ってコップ(人間が持てばジョッキサイズ)に手酌でワインを注ごうとした時、再び誰かがこちらにやってくる気配がした。
「ああ、もう! 捜しちゃったじゃない!」
憤懣やるかたないといった顔で現れたのはルイズである。
あちこち見て回ったのか少し息を切らしていたが、それでもパールホワイトのドレスに身を包んだ少女は美しく、双月の光に照らされたその姿は幻想的ですらあった。
「いったいどうしたんだ? 主役が不在ではいくらなんでもまずいだろう」
「相棒の言う通りだ。早く戻った方がいいぜ、娘っ子」
軽口を飛ばすデルフリンガーをキッと睨みつけて黙らせ、ルイズはクロコダインに向き直る。
「私の事はどうでもいいの! それより何でクロコダインはこんなところにいるのよ」
クロコダインは笑って答えた。
「なんでもなにも、オレのような怪物が人間に混じって宴に出る訳にもいかんだろう?」
「そんな事、ない!」
ルイズは、そんな使い魔の言葉を真っ向から否定した。
「そんな事ないわよ! 私が主役だっていうならクロコダインだって充分主役の資格があるわ! 大体なんなのよ怪物って!」
顔を真っ赤にして、手を振り回し、優雅さも気品もかなぐり捨てたかのように、ルイズは懸命に言い募る。
「そりゃ確かに貴方は人間じゃないわ。立場としては私の使い魔だし、舞踏会に出るのはおかしいかもしれない。だけど……」
ぎゅっと拳を握り、俯いたままで、瞳に溢れる何かを堪えながら、ルイズは必死になって訴える。
「だからって、自分の事を怪物だなんて言わないで……」
ルイズは無性に悲しかった。何故かは分からないが、笑っている筈のクロコダインが、彼女にはひどく悲しいものに思えたのだ。
一方クロコダインは、泣き出す一歩手前といった風情の主を前に、心の底から困っていた。
数え切れぬ程の戦いを経て星の数程の死地を掻い潜り、人間の素晴らしさに目覚めた彼であったがこんな時どうすればいいのか全く見当がつかない。
コルベールがいた時は何かと茶々を入れてきたデルフリンガーもこの時ばかりは押し黙っている。
そんな2人の元へ、場違いな位に明るい声の救世主が襲来した。
「もー、ダメじゃないクロコダイン、幾ら小さくてもレディを泣かすのは犯罪よ?」
当然というべきか、ほんのりと頬を赤くしたキュルケがその声の主だった。
その後ろでこくこくと頷いているのはタバサだ。手にはハシバミ草の入った特大のボウルを抱えており、きゅいきゅいと鳴く風竜に食べさせようとして全力で拒否されていた。
「うむ、全くだ。女性を泣かせるなんて言語道断、始祖が許してもこの僕が許さないね!」
「敢えてツッコむぞ、お前が言うな!」
「流石に二股をかける男は言う事が違うね、月の無い夜には気をつけろよ」
「つまり自分自身が許せないという訳か、大変よく分かったとも」
更に、泥酔寸前でふらふらしている割に口は達者なギーシュと、それを支えつつ割と千鳥足気味のマルコリヌとギムリ、それなりに飲んでいるのに酔いを表に出していないレイナールが
続けて登場するに至って、デルフリンガーは思わず吹き出していた。
「これで主役が全員舞踏会を抜け出した訳か! おでれーたねどうも!」
「あ、ああ、あんたたちねぇ……」
先程のしおらしさはどこへやら、俯いているのは変わらないがルイズが今身に纏っているのは目に見えぬ怒りのオーラである。
「なななななんだって揃いも揃ってここにいるのよーっ!」
爆発するルイズに皆はしれっと答えた。
「んー、あんたが抜け出すのを偶然見ちゃってさー、てっきり逢い引きでもしに行くのかと」
「食後の運動」
「愛しい僕の使い魔に会いに来たのさ。ほーらドバドバミミズだよー」
「酔ってやがる。飲み過ぎたんだ」
「え? これ素じゃないのか」
「ごめん。不作法だとは思ったけど、こんな酔っぱらいを放っておく訳にはいかなかったんだ」
至極勝手な言い草を聞いて、わなわなと震えるルイズとは対照的に、実に楽しそうな声で笑ったのがクロコダインである。
憎まれ口を叩いていても、仲間を心配してここまできたのだと分かったのだ。大切なパーティーを中座してまで。
元の仲間たちもそうだった。立場も、年齢も、住む場所も、世界すら違えど、人は人を思いやる心を持っている。
クロコダインはあらためて思う。
やはり、人間というのは素晴らしいと。

結局、ルイズたちは舞踏会には戻らなかった。
彼らはマルトー特製の料理に舌鼓を打って使い魔一同を密かに嘆かせ、オスマン秘蔵のワインに心地よく酔って呂律が廻らなくなり、昼間の武勇伝に花を咲かせる。
やがて痛飲したキュルケをタバサが部屋まで連行し、完全に沈没したギーシュたちをレイナールがおざなりなレビテーションで半ば引きずりながら退場していった。
使い魔たちもそれぞれねぐらに帰って行く。
残っているのはクロコダインとデルフリンガー、そして半分寝ている状態のルイズだけになった。
「いいころー、これからー、じぶんのことー、かいぶつらなんれー、いっちゃらめー」
酒に弱いくせにしこたま飲んだせいか、完全に舌が回っていない。舞踏会での淑女っぷりはどこへやら、である。
「それからー、あるじろるかいまはー、いっしんろーたいなんらからー、いっしょにいるころー」
「なあ相棒、なんて言ってるかわかるか?」
「多分『主と使い魔は一心同体だから一緒にいろ』じゃないか?」
「ああ、言われてみれば」
クロコダインは酔っているように見えず、デルフリンガーはそもそも酔える訳がないので会話は一応成り立っていた。
「しかし何だね、それいい酒なんだろ? あんなに大勢で飲んでも良かったんか相棒。俺には分らんけど」
どうせ俺には飲めないしね、と鎬を鳴らして剣が喋る。3本あった大瓶のうち、2本が空になっていた。
「楽しく飲めればそれが一番さ。酒の良し悪しは、まあ二の次だ」
クロコダインは笑ってクラゲの様な状態のルイズを抱え上げた。
「美味い酒が飲めるのはいい事さ、それが仲間たちと一緒なら尚更な。さあ、そろそろ戻るぞルイズ」
「えー、やらー、もっろくろこらいんといるのー」
抵抗するのは口だけで、それも本気ではないのは誰の目にも明らかだ。それが獣人とインテリデンス・ソードであったとしても。
「いや、それにしてもてーしたもんだ!」
寮へ向かって歩き出すクロコダインを見送りながら、デルフリンガーは機嫌良さそうに笑った。
「主人にここまで懐かれる使い魔なんて、初めて見たぜ!」





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最終更新:2009年02月26日 21:10
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