ふたば系ゆっくりいじめ 537 地べたを這いずる饅頭の瞳に映る世界

地べたを這いずる饅頭の瞳に映る世界 21KB


虐待 観察 理不尽 飾り 実験・改造 現代 独自設定 設定考察系のお話

※独自設定垂れ流し


「なにやってんだよお前」

おもしろいものを見せるから来てくれ――そう友人に誘われわざわざ大学の中庭にやって
きた。そうしたら友人ときたら国民的二画面ゲーム機を持って突っ立っているのだ。
あきれてしまうのも仕方ないというものだろう。

「まあまあ、これを見てよ。おもしろいよ」
「なんだよ、お前が言ってたのってゲームかよ。なんでまた中庭なんかで……」

この友人、一言で評するなら変人だ。変わったことばかりに興味を持つ。
類は友を呼ぶという言葉もある。そんなやつと友人を続けている俺も、やっぱり変人かも
しれない。なにしろこうして友人の誘いに乗って中庭まで出向いて、律儀にゲーム機を覗
き込んでしまうのだから。

「なんだこりゃ? ただのカメラじゃないか」

二画面のゲーム機の上画面には中庭の映像が映し出されていた。
そういえば、このゲーム機の最新型にはカメラ機能が搭載されていることを思い出した。
ちょっと欲しかったんだよな。

「カメラはカメラだけど、ただのカメラじゃないよ。どこが違うかわかる?」

友人はいたずらっぽい笑みを浮かべる。
そう言われると興味がわいてきた。なにか変わったものでも映っているのだろうかと、つ
ぶさに見てみる。
上画面に映るのは中庭の植木や芝生、花やベンチ。それ自体はなにも珍しくない。
気づいたのは、やけに視点が低いことだ。ゲーム機は友人の手の中にあるのに、カメラの
映像はまるで地面にはいつくばって撮影しているかのようなものだった。
そして。

「下の画面は……なんだこりゃ?」

上画面は実写なのに対し、下画面は絵だった。白い画面の中、黒い線で描かれたそれは、
上画面を模写したもののようだ。「もののようだ」、と言うのも、中庭の光景であること
はわかっても、現実とはかけ離れていたからだ。
その画風を一言で表すなら、「能天気」。なんの変哲もない春の中庭が、現実のそれより
ずっとのどかでのんきに、幼児向けの絵本のようなほんわかした絵柄で描かれているのだ。
絵のことはよくわからないが、素朴な線でそんな雰囲気を出せるというのはなかなかの腕
前なのではないのかと思う。
見ているうちに上画面の画像が横にスライドしていった。カメラが動いているのだ。
同時に、下画面の絵も横にスライドした。上画面と同期しているらしい。つまり下の絵は、
リアルタイムで描画されているということになる。

「すごいな。お前、画像解析学とかやってたっけ?」

詳しくないは知らないが、テレビか何かで写真の映像を解析して絵に変換するというのは
見たことがある。もっともそれはカラーの画像から特定の色の線を機械的に抽出するとい
った類のもので、こんな風にちゃんとした絵にアレンジするものなんて見たことがなかっ
た。すごい技術なのではないだろうか。

「そんなの勉強している暇はないよ。ボクの専攻は知ってるでしょ?」

友人は中庭の一角を指差した。
そこには一匹の生首饅頭不思議ナマモノがいた。黒い髪に紅白のリボン。ゆっくりれいむ
だ。お下げの上辺りに小型のカメラらしきものをくくりつけられている。

「上画面はあのれいむにつけられたカメラの撮影した映像。下画面は、あのれいむの餡子
脳が認識している映像なんだよ。ね、おもしろいでしょ?」

俺の友人は変わっている。
なにしろこいつの大学での専攻は、「ゆっくり生態学」なんてバカげたものなのだから。



地べたを這いずる饅頭の瞳に映る世界



「えーと……これ、どうやってんだ?」

友人の言っていることは一応理解した。
上画面の映像がれいむにつけられたカメラのもの。それはわかる。見ればゲーム機のソフ
トを挿すスロットにはごてごてした受信機のようなものがつけられている。そこで映像を
受信し、上画面に映しているのだろう。
それくらいのこと、現代の技術なら別段難しいことではないだろう。
問題は下画面だ。
のんびりまったりとした、あえて言うなら「ゆっくりとした」絵。それがゆっくりの餡子
脳の映像だとは。
今、上画面では蝶が羽ばたいている。下画面を見ると落書きみたいに描かれた蝶に、にっ
こりと笑顔までついている。まさしく餡子脳といった感じのバカらしい絵だ。
だが、そんなものをどうやって映像化するというのか。
友人は俺の疑問に、指を立てて語り始めた。こいつは説明好きで、いつもこうやって俺に
講釈をたれるのだ。

「ゆっくりの中身は知ってるよね?」
「ああ、餡子だろ」

生首饅頭ナマモノ、ゆっくり。その生態には様々な不思議があるが、その構造は理不尽な
ほどにシンプル。やつらは饅頭。中身は餡子。種類によってカスタードやクリームといっ
たこともあるが、基本的には食べ物だ。

「中身が餡子。したがって、内臓も餡子、筋肉も餡子。だったら、神経だって餡子だよね?」
「あいつらはそんな複雑なもの持ってないような気もするけど……まあ、そういうことに
なるんだろうな」
「研究の結果、ゆっくりは餡子で神経網を形作っていることがわかったんだ。いわば餡子
神経。で、その神経網を通るのは液状餡子。濃度、糖度、粘度を信号とし、その組み合わ
せで情報を形作っている。情報というからには解析は可能だよね。暗号解読や古文書の解
読と要領はおんなじ」

友人はれいむのほうを指差した。

「れいむにつけたあのカメラと送信機。あれはただくくりつけてあるだけじゃなくって、
センサーがれいむの内部、眼球の裏の辺りまで伸びてる。そこで視覚の餡子神経の情報を
収集しているんだ」

次に友人は下画面を指差した。

「で、収集した情報を解析して映像化したのがこれ」

友人はさもあたりまえのようにさらっと言いやがった。

「……ちょ、ちょっと待てえ!? すげえ簡単に言ったけどなんか重要な過程をすっとば
さなかったか!?」
「なにが?」
「その、なんだ……餡子神経! そんなデタラメなものがあったとして、神経の信号が液
状の餡子だってわかったとして! そんなもの簡単に映像化なんてできるかよ!?」
「そりゃ、簡単じゃないよ。ゆっくりは色を認識するけど、解析が完全じゃなくって見て
のとおり白黒。まだまだ発展途上の技術だよ」
「発展途上ったって……こんなありふれたゲーム機でそんなすごいことやっているってい
うのかっ!?」
「ゆっくりの生態学なんて、世間でなかなか認められなくて大して予算ないからね。既存
のものをうまく使わないと。それに、ゲーム機のCPUもバカにしたものじゃないよ? 
初めて月に言ったロケットには搭載されたコンピュータは、20年前のゲーム機より性能
が低かったらしいよ」

俺の沸き上がる疑問へ次々と答えていく友人。だめだ。ちゃんと説明されたところで納得
はいかない。いくものか。

「なんかそれっぽいこといってごまかしてないか!? 超技術には代わりないだろ? お
かしいだろふざけんな!」
「そんなこと言ったって仕方ないよ。だって……」
「だって!?」
「だって、ゆっくりだもの」

俺は絶句した。
「だって、ゆっくりだもの」
そう言われてしまうとどんな不条理も許されてしまうような気になってしまう。
そうだよな。ゆっくりだもんな。なんでもアリだよな。
でもそれってただの思考停止だよな。ゆっくりの生態を学問として研究しているこいつが
そんなセリフ吐いていいものなのだろうか。

「まあとにかく、ゆっくりの視界ってやつを楽しもうよ。これが本当におもしろいんだ」

友人は俺にゲーム機を手渡すと、手を挙げてれいむに呼びかけた。

「おーい、れいむ!」
「ゆ! ゆっくりしていってね!」

友人の呼びかけにれいむはこちらを振り向いた。

「なんか下画面、俺達がほとんど映っていないんだけど……」

上画面のカメラ映像には俺達の姿がはっきり映っているのに、下画面では二人分の顔がや
けに遠くにぼんやりと描かれているだけだった。

「ゆっくりは視界が狭いんだよ。近づいても簡単に気づかれないのは、無警戒な性質だけ
じゃなくてそのせいもあるらしいよ」
「なるほどねえ……」

言われてみれば、近くにあるものは細かく描かれているのにちょっと遠くのものになる途
端にぼやける。
視野が狭くて目の前のものしか見えてない。まったくもって、ゆっくりらしいことだ。

「れいむ! あまあまあげるからこっちにおいで!」
「ゆ! あまあま!」

れいむはこちらに向かって跳ねてきた。

「おわ、ちょ、これっ……!」

ゲーム機の画面に集中していた俺は思わず悲鳴を上げてしまう。
ゆっくり特有の「ぴょんぴょん」。跳ねて移動するそれは視界の変化がすさまじい。上へ
下へとめまぐるしく変わる映像は、見ているだけで酔ってしまいそうだ。

「こいつらこんなんでよく気持ち悪くならないな……」
「ああ、ゆっくりは大丈夫なんだよ。下画面を見てみて」

言われて目を向ければ、下画面は上画面ほど揺れていなかった。せいぜい人間が普通に走
った視界とさほどかわらない上下の揺れだった。

「なんでこうなるんだ?」
「ゆっくりは上下の認識がいい加減なんだ。だから上下に大きく動いても認識している視
界はそれほど揺れないんだ」
「そういうもんなんだ……へええ……」
「その『上下の認識がいい加減』っていう特徴がまた面白くてね。きっともっと驚くこと
になると思うよ」

そして、れいむは俺達の足元までやってきた。

「ゆ! あまあま! あまあま!」

目をきらきらと輝かせて俺達を見上げる饅頭生物。かわいくらしく、それでいて小憎らし
いその様は、愛で派を最高に和ませ虐待派を最低にいらつかせるものだ。
そんなゆっくりは見慣れているが、ゲーム機の下画面はまったく予想だにしないものだっ
た。

「……なんだ、こりゃ?」

上画面には俺達の姿がローアングルで映っている。それはいい。普通だ。
問題は下画面。
俺達二人の頭がある。そこまでは許せる。しかし、体がおかしい。
デフォルメされた洋服からテキトーに手足が伸びている。その安っぽさは、さながらゆっ
くりのお飾り。そんなものが俺達の頭の下から伸びているのだ。しかも小さい。これじゃ
二頭身のデフォルメキャラだ。
体の上に頭がのっかっているのではなく、生首が飾りをぶら下げて浮かんでいるように見
える。それが素朴かつのどかな絵柄で描かれているのだ。無垢な子供がみたら将来に悪影
響を与えるよくないトラウマを受けること請け合いの心にクる映像だ。

「ゆっくりは手足というものが『理解できない』。だって、手も足もないもの。だから、
手足をおさげや髪飾りの一種として認識するらしいんだ」
「それにしても、やけに俺達の頭の位置が低くないか?」

俺たちの頭は、現実にはれいむのずっと上にある。ところが下画面の映像からすれば、俺
達の頭はれいむのそれよりちょっと高い位置にあるように見えるのだ。

「さっきも言ったように、ゆっくりは上下の認識がいい加減なんだよ。高さというものを
正確に理解できない。そして体を理解できないからお飾りとして無理矢理認識する。結果、
そんな変な映像になるんだ」
「納得いかないなあ。どう見てもおかしいだろう」
「ゆっくりからすれば矛盾のない映像なんだよ。そういう風にしか理解できない、と言っ
た方が近いかな」
「人間を嘗めるゆっくりがいなくならないわけがわかった気がするよ……」

下画面の俺たち二人は、不安定なお飾りにのっかったちっぽけな生首だった。
ゆっくりより弱くてもろそう。ゆっくりが時折見せる、あの根拠のない強気もうなずける
と言うものだ。

「でも、上下の認識が正しくできていないのも、悪いことばかりじゃないんだよ」

そういいながら、友人はゆっくりを抱き上げた。

「ゆうう、おそらをとんでるみたい~」

ゆっくりの定型句。ゆっくりのバカさ加減の象徴のひとつ。
だが、今の俺はゆっくりの頭の悪さを笑う機にはなれなかった。なぜなら、

「おお……」

俺もまた、思わず感嘆の声を上げてしまったからだ。
近くしか描かれていなかった下画面の映像。
それが、友人が持ち上げるにつれて一気に拡がった。
その変化は劇的だった。
苦労して上った山の頂上から眺める、広大な下界の景色。世界の広さを全身で感じる実感。
その高揚。
それが、友人がゆっくりを持ち上げるというわずかな時間にどんどん高まっていく様が、
下画面に描かれているのだ。
素朴で鮮烈な感動がそこにはあった。

「どうだい、すごいだろう?」
「ああ。まさに『おそらをとんでるみたい』だ」

なにひとつ特別なもののない中庭が、まるで無限に広がる自然のパノラマのようだ。
ゆっくりはいつもこんなすごい体験をしているのか。単純で愚かなナマモノだと思ってい
たが、こいつらは人間のなくしてしまった大切な何かを持っているのかもしれない。

「ゆ! こんなことでれいむごまかされないよ! あまあま! あまあまちょうだいね!」
「……ちょっと感動したのに台無しだ」

やっぱり、ゆっくりはゆっくりだった。
友人は苦笑すると、れいむを芝生の上におろした。

「はい。じゃあ約束通りあまあまをあげるよ。ほら」

友人はれいむの前にクッキーをおいた。
さて、ゆっくりにとってあまあまはどんな風に見えるのだろうか。俺は下画面に目をやっ
た。

「おいおい……」

下画面の中でクッキーは輝いてた。比喩でなく光を放っていた。まるで黄金だ。

「ゆっくりにとってあまあまは至高の宝物。視覚だけじゃなくて嗅覚でも全力で感じる。
それが視覚の餡子神経にも影響を与えるらしいんだ」

友人の説明の途中で輝くクッキーは下画面から消えた。こらえきれずれいむがかぶりつい
たからだ。

「むーしゃ、むーしゃ、しあわせー!」

本当に全身しあわせといったご様子のれいむ。さて、下画面はどうなっているかと見れば。

「おい、これ壊れたんじゃないか。真っ白になっちまったぞ」
「ああ、それはね。ゆっくりって甘みを食べるとそれを味わうことに全餡子神経を集中さ
せるんだ。そのせいで、短時間だけど視覚が機能しなくなる」
「ええと……つまり、あまあまに心奪われてなんにも目に入らなくなるってことか。どん
だけ食い意地張ってるんだ、こいつ」
「ゆっくりらしいことだよね」

下画面が真っ白になったのもわずかな間だった。

「ゆ! れいむはもっとあまあまをたべたいよ! ばかなにんげんはもっとあまあまもっ
てきてね! たくさんでいいよ!」

ずいぶんとムカつく発言をしてくれやがった。

「なんだよこいつ、躾がなってないな」
「視覚神経にセンサー仕込むなんて実験に、質のいいゆっくりなんて使ってられないよ、
もったいない。躾も手間がかかるからやらなかったしね。時間の無駄だから」
「ゆっくりに金と時間をかけるのは無駄だってのはよくわかる。でもムカつく」

俺がムカついているのはれいむの言葉だけではなかった。
下画面の映像だ。
先ほどの俺たちの姿はかなり不気味で弱々しいものだったが、それがさらに弱っちくなっ
ている。
ゲスなゆっくりは、時としてあまあまを与える人間を奴隷呼ばわりしてどこまでも欲深い
要求をしていることがある。
それがこれだ。このれいむ、俺たちを見下してやがる。

「ちょっとヒャッハーしていいか?」
「うーん、これは研究室の貴重な備品だからなあ。目をつぶすのはダメ。強い打撃もセン
サーがいかれちゃうからNG」
「オッケー、ならデコピンだ」

俺はしゃがみこみ、人差し指を親指で引き絞るとれいむの前につきだした。

「ゆ?」

横目でゲーム機の下画面を見れば、俺のお飾りの手がれいむの前に寄っただけだ。

「なにしてるの? あまあまがほしいっていってるのがわからないの? ばかなの? し
ぬの?」

うん、こいつこれから自分が何をされるかわからないらしい。
なに、目でわからなくてもすぐに痛みでわかる。問題ない。
そんなわけで、俺はデコピンを放った。

「ゆびぃ!?」

当然一発で終わらすつもりはない。額、頬、顎のあたりと、場所を変え何発となくデコピ
ンのラッシュを浴びせてやった。

「ゆぴ!? ゆぷ!? ゆううう! いぢゃいいい! やべでええええ!!」

下画面を見れば、俺の映像は相変わらず飾りをぶら下げた生首だ。だが、デコピンをして
いる手だけが現実に近づいている。アンバランスでたいへん不気味だ。

「やっぱりゆっくりに何かを理解させるには痛みしかないのかねえ……蹴ったら足も理解
するかな? 体を理解させるにはボディプレスでもかますしかないか?」
「……やめてね。これでも研究室の備品なんだから」

うん、まあいいか。気は晴れた。
俺の「右手」を理解したれいむは、すっかりおびえて震えている。おさげで目を隠してさ
めざめと泣きぬれて……まてよ、おさげ?
ふと、思いついた。

「なあ。こいつらってお飾りで仲間を区別してるけど、ゆっくりの視界ではどう見えるん
だ?」
「いいところに気がついたね。それも見せようと思ってちゃんと準備してあるよ」

そう言うと、友人は庭の隅に置いてあったバスケットの方にいくと、中から一匹のゆっく
りまりさを取り出した。

「ゆふぅ、もうたべられないよぉ……」

ベタな寝言をほざく饅頭。
友人が軽く芝生の上に落とすと、すぐに目を覚ました。

「ゆ? ゆゆ! ゆっくりしていってね!」

目をきょろきょろさせれいむの姿を見つけると、すぐさまその習性に従ってゆっくり特有
の挨拶をした。

「ゆゆう! ゆっくりしていってね!」

さっきまで泣いていたのに、同族がいるという安心感からにっこり笑って応えるれいむ。
むむ、また泣かしてやりたくなるな。

「さ、見てごらん。おもしろいから」

友人の指摘にちょっとした欲望を抑え、下画面へと目を移す。

「うっわー、なんかきっついなー」

思わずうめいてしまう。
よく、ゆっくりは自分のことをやたらかわいいと言ったりするが、その理由が何となく理
解できた。
下画面にはまりさがいた。ふっくらとした頬に柔らかそうな髪、おだやかながらもきりっ
とした目で、これならペットとして飼ってやってもいいかというゆっくりっぷりだった。
実際のまりさはどこにでもいる小憎らしい顔をした下膨れの饅頭で、研究室で飼われてい
た為か野良よりは少しは綺麗、という程度だ。
まあ、顔の方はそれぐらいだから別にいい。
問題はおぼうしだ。これがなんだかすごいことになっている。
上画面をつぶさに見れば、そのおぼうしにはわずかに糸が飛び出ていたり鍔がちょっぴり
歪んでいるところがあったり、リボンがほんの少し曲がっているなどの特徴がある。普通
なら見過ごしてしまう細かなことだ。
下画面では、その特徴が極端に描かれていた。
ちょっとはみ出た糸は太い棒のよう。ちょっと歪んだ鍔はぐにゃりと大きく曲がり、曲が
ったリボンはおぼうしを飛び出さんばかりだ。
それほど奇抜な形なのに、全体としてみるとちゃんとおぼうしに見え、見方によっては前
衛的なデザインと言えなくもない。それなりのデザイナーがこれをベースにうまくアレン
ジして商品化すれば、意外とヒットしてしまうかもしれない。

「ゆっくりはお飾りで同族を区別するというけれど、この視覚餡子神経の映像化でよくわ
かったよ。別のまりさのおぼうしもすごかったよ」
「ああ、うん。こんな風に見えるんだったら絶対に見間違えないし、忘れることもないん
だろうな。ゆっくりがお飾りで個体識別するってのがよくわかった」
「それでね。そのお飾りがなくなるとこうなるんだよ」

言うなり、友人はまりさのおぼうしを取り上げた。

「ゆわああ! まりさのおぼうしぃ! おぼうしかえしてえええ!!」

やかましいまりさの声。
いつもはむかつくそれが今は気にならない。下画面に集中していたからだ。
先ほどまでのまりさはいなくなっていた。

「ゆ? まりさ?」

れいむが呆然と呟くのも無理はない。
れいむの見ているもの。それは金髪の生えたのっぺらぼうの饅頭だったからだ。
いや、つぶさに見れば目も口もある。だが、どうにも朧ろだ。はっきりとしない。

「おぼうしぃ! おぼうしぃぃぃ!」

まりさはあんなに泣き叫んでいるというのに、下画面の画像からはそれが全く見てとれな
い。
ゆっくりはおかざりがなくなった同族を排斥し、時には容赦なく殺してしまうこともある。
その理由がよくわかった。
わからないのだ。ゆっくりであるということ。そんな基本的なことが、お飾りが無くなっ
てしまうとわからなくなってしまうのだ。別の何かに見えてしまうのだ。知ってはいたが
実感したらぞっとした。

「どう? 興味深いでしょ」

愕然とする俺に、面白そうに友人は問いかける。
俺は頭を振って正気に返った。

「おぼうし、返してやれよ」
「ああ、うん。そうだね」

ぽい、と、まるでゴミでも捨てるみたいに友人はおぼうしを落とした。それはすぽんとま
りさのあたまに被さった。

「まりさのすてきなすてきなおぼうし、ゆっくりおかえりぃぃ!」

まりさの笑顔が弾けた。
ゆっくりに同情するつもりなんかないが、今だけはこいつの喜びが理解してやれるような
気がした。

「……まったくもって、ゆっくりは不条理なナマモノだな」
「そうだね。だから、研究は楽しいよ」

友人は屈託なく笑った。




あれからもいろいろなものをゆっくりに見せたり、時には「人間の体を認識」させるため
に痛みを与えたりといろいろ楽しんだ。
そんなことをしているうちに、ふと気になった。

「なあ、そういえばこのゲーム機って、下画面がタッチパネルになってたよな」
「そうだね」
「そっちの方にもなんか仕掛け仕込んでたりもするのか」
「うん、仕込んだよ」
「マジか!? 冗談のつもりだったんだが」

友人はほほえみながらゲーム機のタッチペンを手に取った。
今、画面にはまりさがいる。れいむはまりさとおしゃべりして楽しんでいるのだ。
友人がタッチペンを走らせると、まりさの口の上にチョビヒゲが描かれた。

「ゆぷぷ! まりさ、おひげがはえてきたよ!」
「ゆ? なにいってるのぜ、れいむ?」
「ゆぷ、ゆぷ、ゆぷぷ! おひげおひげ、おひげのまりさ! ゆぷぷぷぷぷ!」
「なんのことなのぜ!? へんなこといわないでほしいのぜ!」

画面の中にヒゲが描かれたが、当然現実のまりさにヒゲが生えるはずもない。

「れいむにはセンサーを仕込んだだけじゃなくて、餡子神経にちょっとした情報を送れる
ようにもしてあるんだ。落書きするとれいむはそれを現実の映像としてご認識するんだよ」
「へえ、おもしろいな」

そして俺たちは落書きに興じた。

「ネコミミをつけよう」
「ならばネコヒゲも描かなきゃね」
「しっぽもつけよう」
「うん。ちぇんどころかゆっくりらんさまを越える、10本のしっぽなんかいいね!」

俺達はノリノリで楽しんだ。
れいむは最初は笑っていたものの、次第にまりさを恐れるようになった。

「ゆ! ま、まり、さ……? へ、へんなゆっくりがいるよ! ゆっくりできないよ!」
「さっきからなにいってるのかぜんぜんわかんないんだぜ! へんなのはれいむのほうな
のぜ!」
「や、やめてね! きもちわるいゆっくりは、ゆっくりどっかにいってね!」
「ゆがああ! どぼじでぞんなごどいうんだぜーっ!?」

そんな様子を見て俺たちはまたバカ笑い。
いや、ゆっくりの研究に役立つすごい発明品だと思っていたが、こんなユカイな機能まで
備えられているとは。実に隙がない。

「ありゃ?」

突然だった。ぷつん、と音を立て、画面は消えてしまった。上画面も下画面も真っ黒だ。

「あ、バッテリー切れだね。ずいぶん遊んだからね」

ちょうど楽しくなってきたところなのに。まあ、そういうことなら仕方ない。
そう思ったときだ。

「ゆあああああ!?」

突然、れいむが悲鳴を上げた。

「みえないよおおおお! まっくらだよおおおお! どぼじできゅうによるさんがきたの
おおおお!?」

友人は渋い顔をした。

「まずいな……バッテリーが切れたとき、変な刺激が視覚餡子神経に流れたらしい。失明
してたらやっかいだな……」
「そうか……なんか、すまないな。すこし遊びすぎたか」
「いや、いいよ。ボクの不注意だ」

友人はれいむの様子を調べ始めた。大した事ないといいんだが。ゆっくりがどうなろうと
知ったことではないが、あのれいむは友人の研究室の備品。壊れるのはよろしくない。

「どうだ? なおりそうか?」
「ああ、うん……ところで、さ」
「? なんだよ?」
「ゆっくりの思いこみって、知ってる?」
「なんだよ、いきなりな質問だな。ゆっくりの思いこみってあれだろ? 本来食べれない
野菜をむしゃむしゃ食べたり、割れないはずの窓ガラスを割って家に侵入する、思いこみ
で不可能を可能にしちまうっていう暴論」

ゆっくりの身体能力は低い。脆弱なナマモノだ。にも関わらず、時にそのスペックを越え
たことをすることがある。
それを説明するのがゆっくりの思いこみ能力。思いこみで不可能を可能にすると言うわけ
だ。面白いのがその不可能を可能にする過程で、「ゆっくりが自らの能力を上げる」ので
はなく「まわりのものが能力を下げる」という説があることだ。つまり、思いこみでもの
を変質させてしまうというのだ。
バカみたいな話だが、それを言うならゆっくり自体がバカみたいな存在だ……というのが
その説を容易に否定できなくさせる。
でも、そんなの詭弁だ。屁理屈と言ってもいい。

「知ってはいたけど、目の当たりにするとすこし背筋が寒くなるね」

友人は立ち上がった。

「でも、だからこそゆっくりの研究は楽しいいんだけどね」

俺の友人は変人だ。そのことを改めて思い知った。
だってこいつ、こんな時だというのに微笑んでいるんだ。
その手に、チョビヒゲとネコヒゲを生やし、ネコミミと十本のしっぽが生えた「まりさだ
ったもの」を抱いているというのに、嬉しそうにしていやがるんだ。

「ユックリシテイッテネ!」

友人の手の中の「そいつ」は、奇妙なイントネーションでゆっくりの定型句を叫んだ。



by触発あき

 ・過去作品
ふたば系ゆっくりいじめ 163 バトルゆ虐!
ふたば系ゆっくりいじめ 172 とてもゆっくりした蛇口
ふたば系ゆっくりいじめ 180 ゆっくりばけてでるよ!
ふたば系ゆっくりいじめ 181 ゆっくりばけてでるよ!後日談
ふたば系ゆっくりいじめ 199 ゆっくりたねをまいてね! 
ふたば系ゆっくりいじめ 201 ゆっくりはじけてね! 
ふたば系ゆっくりいじめ 204 餡小話の感想れいむ・その後
ふたば系ゆっくりいじめ 211 むかしなつかしゆーどろ遊び 
ふたば系ゆっくりいじめ 213 制裁は誰がために 
ふたば系ゆっくりいじめ 233 どすらりー
ふたば系ゆっくりいじめ 465 おぼうしをおいかけて
ふたば系ゆっくりいじめ 469 おぼうしをぶん投げて
ふたば系ゆっくりいじめ 478 おぼうしのなかにあったもの 「餡子ンペ09」
ふたば系ゆっくりいじめ 513 ネリアン
ふたば系ゆっくりいじめ 534 ラストれいむロストホープ

上記以前の過去作品一覧は下記作品に収録
ふたば系ゆっくりいじめ 151 ゆっくりみわけてね!



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感想

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  • んほおぉぉぉぉぉ!!
    この小説は都会派だわぁぁぁ!!!! -- 2012-10-31 22:15:51
  • 何それ怖いwww -- 2012-09-22 18:23:28
  • ゆっくり最強説が浮かんだ。何でもできるんじゃね?東方風に言うなら「思い込みを現実にする程度の能力」か。 -- 2012-07-23 19:57:40
  • 頭の部分でしか人間のサイズを認識できないという設定自体は使われることが増えたが
    これをこういったわかりやすい視点で描いたSSは殆どなかった。
    「おそらをとんでるみたい!」を論理的に解説したのはすでに3500以上の作品が
    出ている中で一つもなかった。
    これは歴史に大きな足跡を残したと個人的には思う。 -- 2012-06-19 09:26:49
  • ほしい -- 2011-03-02 21:55:53
  • だってゆでだからみたいなもんか -- 2010-12-23 09:58:38
  • 中々面白い研究だった。楽しめたよ~w
    最後のうまく使えば、変なゆっくり生産しまくれるなw -- 2010-10-14 21:23:00
  • 思い込みのデタラメ生物設定と、どうしてあんな行動を取るのかの解明は、
    別々の題材として分けるべきだったんじゃないかなぁ・・・
    途中までは至極納得がいったていたから、
    後半のとんでもっぷりでちょっと置いて行かれかけたよ -- 2010-10-07 17:10:20
  • なにこの高度で複雑な生き物。 -- 2010-07-17 23:21:23
最終更新:2009年11月30日 18:05
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