ふたば系ゆっくりいじめ 554 ゴキブリ(前編)

ゴキブリ(前編) 19KB


自業自得 飾り 自滅 うんしー 続きます。

まりさは同じ群れのれいむのことが、子ゆっくりの頃から好きだった。
れいむは美ゆっくりだ。群れの誰とくらべても美しい。
いつも顔を合わせているだけに照れくさく、口に出したことこそ無かったが、まりさはれいむと“ずっと一緒にいたい”と思っていた。
大人になってもその気持ちは変わらない。
体の成長に合わせて、その愛しさは大きく膨らんでいくようだった。
れいむが自分のことを好きだといってくれた時は、すごく嬉しかった。『ふぁーすとちゅっちゅ』も交わした。幸せだった。
しかしそんなまりさの気持ちとは裏腹に、まりさの両親はれいむをこころよく思っていなかった。
曰く――あの子はゆっくりできないよ。
なにを言っているのだろう?
両親の事は大好きだったが、この言葉だけは理解できなかった。
あんなにゆっくりしたゆっくりは、群れのどこを探しても見つからないのに。
あろうことか、『ゲス』という言葉まで使って相手を愚弄された。
悔しかった。
自分がどんなに「結婚したい」とお願いしても、頑として聞き入れてくれない。
そんな聞き分けのない両親を強引に振り切り――はじめて親に手を上げてしまったが仕方ない――まりさはれいむを連れ、群れを飛び出した。
ずっと育ってきた、ゆっくりした地を離れることに後ろ髪を引かれる思いはあった。だがそれも、今、隣にいるれいむとの幸せには代えがたい。
そう、自分達は晴れて夫婦になったのだ。もう誰にも邪魔はさせない。文句は言わせない
迷いを振り切るように必死に走り続けて、ふと足を止めた。
月明かりが自分達を照らしている。
相手への愛しさを我慢しきれなくなったまりさは、れいむと肌を重ねた。
二匹は名実ともに結ばれて――『ふぁーすとすっきり』を済ませ――今に至る。
れいむの頭生えた茎には、実ゆっくりが六つ。
大人への階段を昇ったばかりの二匹は、快感と興奮もそのまま、新たな生命の誕生に沸き立つ。
まりさは一生懸命、実ゆっくりに話しかけた。
れいむは素敵な歌を聞かせてあげている。何度聞いてもゆっくりできる歌だ。
――ふと、腹が減っていることに気づく。
無理もない。群れを飛び出してからこっち、水一滴すら口にしていないのだ。
しかしそれ以上に体力の限界が近い。
走り詰めだったし、先ほどの『すっきり』でもかなりのエネルギーを消費してしまったようだ。
特においしくもないその辺の雑草を食べて、夜露を舐めて、空腹をごまかす――れいむに申し訳なかった。
まりさは考える。
今日の所はここで休もう。
明日起きてから、ゆっくりと狩りに出かけて、幸せになれる食事を調達しよう。
そうだ。住むところも探さなくてはならない。
できるだけ大きな家がいい――なんといっても家族が増えるのだ。
大きく広がる未来を楽しく語らいながら、まりさとれいむはゆっくりと眠りに落ちた。


「ここはまりさとれいむのおうちなんだぜ! ばかなじじいはゆっくりしないででていくんだぜ!!」
「そのまえにあまあまのおかわりをちょうだいね!! うまれてくるれいむのあかちゃんのぶんもだよ!!」
――気味が悪い。
第一印象がそれだ。
帰宅した男は、甘ったるい、癇にさわる声で出迎えられた。
声は座卓の上の物体から発せられている。
そこにいたのは二匹のゆっくり――ソフトボール大のまりさとれいむ。
少なくとも、朝、男がこの家を出たときには存在しなかったモノだ。
二匹の足もとの惨状を見て、男は眉をひそめた。
座卓の上に置いてあった菓子の類が、無惨に食い散らかされている。
食べカスや破れた包装紙は座卓の上に下にと散乱し、ひどいありさまだ。
「ゆっ! なにをみているんだぜ!? これはまりさたちのあまあまなのぜ!」
男に横取りされると思ったのか、二匹は一心不乱に食べ残しを口にしはじめた。
「うめっ! これめっちゃうめっ!」
「むーしゃ、むーしゃ! がーつ、がーつ! ししししあわしぇええー!」
その見苦しい食事シーンから目を逸らし、男は窓に目をやる。
窓ガラスの隅が割られ、室内にはガラス片と、人間の拳大の石ころが無造作に転がっていた。
そして二匹の闖入者。
ここから導き出される結論は――わかりたくもない。
動揺した男は目を閉じ、気を鎮めるために、意識して盛大に溜息をついた。
油断していたどころの話ではない。こんなことが起こるなんて考えたこともなかった。
確かにテレビなどで見聞きしてはいた。たとえば畑や花壇を荒らしたりと、人に害なすゆっくりが、この国にはいるらしい。
しかし男は、それをどこか遠い世界での出来事だと感じていた。
と言うのも、男の住むこの街では、現在は野良ゆっくりの姿などめったに見られないからだ。
都市化――主に自動車の一般化――のせいで、この街のゆっくりは急激にその数を減らしてしまった。したがって街で通常目にするのは、躾の十分行き届いたペットショップで売られている飼いゆっくりだけなのだ。
もちろん野良ゆっくりが迷い込んでくることも、稀にだがあるにはある。
しかしそんな例外を目にすることがあったとしても、次の日にはどこへともなく消してしまっているし、そうでなければ道路の染みになっていることがほとんどだ。
少なくとも、ゆっくりが人間の生活に、家に、文字どおり土足で入り込んでくるなんてことは、この街ではここ数年は聞かない。
森の奥に野生のゆっくりが群れをなしているという話は、男も知っている。今そこを統べている長というのが、ゆっくりと人間との、さらに野生動物との住み分けを十分に考慮している「できた」ゆっくりだということも、ゆっくりを飼っている酔狂な知人に聞いていた。
そのため、自分達の縄張りから出てくることなどありえない、という話だったはずだ。
男は考える。
どんな世界にもはみ出し者はいるものだ。ゆっくりに関してもそうなのかも知れない。
こいつらはその手合いで、長の言いつけに従わずここまで来てしまったのだろうか。
あるいは。
捨てられた――普通は保健所に引き渡すらしい――飼いゆっくりの成れの果てだろうか。
男は苦笑し、
――どうでもいいか。
声に出さずそう言った。
男にとって、ゆっくりの身の上なんて興味もない。
もし仮にこいつらが森のゆっくりの尖兵か何かで、いずれやってくる大量のゆっくりによってこの街の侵略がはじまるのだとしても、大した脅威ではないだろう。何匹集まろうと饅頭は饅頭。想像するだに鳥肌の立つ光景ではあるが、それだけだ。少なくとも今心配することではない。
その時はその時。おそらく保健所あたりが動くはずだ。
それよりも目先の問題、この部屋の惨状の方が、男にとっては一大事だった。


「ゆっ! じじい! いつまでゆっくりしてるのぜ? まりさとれいむのあいのすから、さっさとでていくんだぜ!! あとあまあまをよこすのぜ!!」
「じじいはれいむにみとれているんだね! ゆふっ、かわいくてごめんねえ~!」
六つの実ゆっくりを付けた茎を揺らしながら、れいむは体をくねらせ、
「かんしょうりょうはあまあまでいいよ! たくさんもってきてね!」
と言った。
誰がおまえなんかに見とれるか。
だいたい何だ、その頭の植物は。生っているのは赤ん坊か? 気持ち悪いったらない。
そう思いながら男は二度目の溜息をついた。生態といい言動といい、こいつらは人知を超えている。
「ひゅーっ、せくしーなまりさのれいむに、じじいもめろめろなのぜえ?」
「ゆっふ~ん。しこってもいいのよ~。そのかわり、あまあまたくさんちょうだいね!!」
「ゆう、さーびすしすぎなのぜ、れいむう」
まりさはちょっとむくれた。
こいつらと会話が成り立つとは思えない――そう思いながらも、しかし男は口に出さずにいられなかった。
「おい」
この部屋に帰ってきてから、男は初めて声を発した。
そして二匹を見据えながらアゴで部屋の中を示し、
「出ていけ。ここは俺の家だ」
短く言った。
ひと呼吸おいて、まりさが目をむいた。
「はああああああ!? じじいはあたまがおかしいのかぜ!? ここはまりさたちがさいしょにみつけたんだから、まりさたちのものにきまっているのぜえええ!?」
「……留守にしていただけだろ。元々は俺が住んでる」
男の言い分は至極もっともだが、まりさは納得しない。
「ごちゃごちゃうるさいのぜええええええええ!! ここはまりさたちのおうちなのぜ!! くそじじいはまりさのいうことをきいて、さっさとでていくのぜ!!」
まりさの叫びに、れいむが続く。
「ゆふっ。まりさのいうことをきかないとこうかいするよ!! れいむのまりさはむれでいちばんつよいんだよ!! まりさはれいむとまりさのおとうさんとおかあさんを『せいさい』しちゃったんだよ!! すごいでしょ!! あとあまあまをはやくもってきてね!! くそじじいのくせにゆっくりしすぎだよ!!」
畳み掛けられた。
支離滅裂だ。
出ていけと言いながら、あまあま――菓子のことを言っているのはわかる――を持ってこいとは、どういうことなのだろうか。
三度目の溜息。
男は頭を抱えたくなった。――何の因果で、俺はこんな連中と会話しなきゃならないんだろう。
少し考えたがわからなかった。


体をブルっと震え震わせ、まりさが仰向けに寝転がった。
「ゆふう。ぽんぽんいっぱいになったから、まりさうんうんするのぜ!」
うんうん?
――まさか!
「ちょっと待て! おまえ――」
男が慌てて叫んだがもう遅い。
まりさの『あにゃる』と呼ばれる部分から、餡子状の排泄物――実際、餡子だ――が顔を覗かせた。
男の目の前で、それが座卓の上にポトリと落ちる。
人間を含めた動物の排泄物とは決定的に違うモノ。
そう頭ではわかってはいるが、だからと言ってとてもキレイなものには見えない。
男は気分が悪くなった。以前、「ゆっくりの大便や小便は人間が食べても平気です」と聞いた時は、狂ってると思ったものだ。
「すっきりー!」
最悪だ。
ティッシュで拭き取とったものかどうか男が逡巡していると、今度はれいむが、
「れいむもうんうんするよ! れいむのはずかしいところをじじいにとくべつにみせてあげてもいいよ!」
だからあまあまもってきてね!と、やらかしはじめた。
「ふざけ――」
今度も間に合わない。もっとも、男の言葉が間に合ったところで、止めてくれたかどうかは疑問だが。


座卓の上には二つの餡子の塊が、こんもりと盛られている。
男は吐きそうになった。
「はやくうんうんをそうじするのぜ! くさくてかなわないのぜ! まったく、きのきかないどれいなのぜ!!」
「どれいはまりさのいうことをきいたほうがいいよ! でないと、まりさがいたいめにあわせるよ!」
知らぬ間に、じじいから奴隷に格下げされていた。
「ゆっへっへ。むれでいちばんのじつりょくしゃとよばれたまりささまのおそろしさ、どれいはあじわいたいのぜ?」
「おお、こわいこわい。あと、あまあまはまだなの!? はやくしてね、このぐず!!」
話の通じない相手というのは、こんなにも腹ただしく忌々しいものなのか。
もうこんな奴らの相手は一秒でもしたくない。とっとと目の前から消してしまいたい――男は心底そう思った。
だからと言って、さすがに命まで奪ってしまうのは躊躇われる。
男が特別優しいわけではない。
虫ならいざしらず、たとえば猫やネズミが不法侵入してきたところで、わざわざ殺してしまう人間などは、そうそういないだろう。
ましてや、相手は人語を話す――理解しているかは甚だ疑問だが――ゆっくりだ。
安易な殺生は寝覚めが悪くなる。
――そういえばと、男は思い出した。
ゆっくりにとって頭の飾りは大切なものだったはずだ。
飾りの無いゆっくりは迫害されても文句が言えないらしい。
それどころか、中には飾りの有無で他者を識別する固体もいるとかいないとか――訳がわからない。
わからないが、その「お飾り命」という習性を利用しない手はない。
先ほどの話し合いは徒労に終わったが、それなら次は実力行使にでるべき。これは鉄則だ。
いっそ保健所に連絡してもいいが、あまり大事にしたくなかった。
男はティッシュを数枚、その手に取った。
なるべくなら直接触るのは避けたい。物質的にもだが、その存在は生理的、精神的に汚らしすぎる。本音を言えば近寄りたくもない。
「ゆへっ、ようやくまりささまのおそろしさにきづいたのぜ? いままでのぶれいはあまあまでゆるしてやるのぜ! ゆっくりしないでとっとと――」
とっとと済ませて手を洗おう。
そう思いながら、男は無言でまりさの帽子を奪った。もちろん、ティッシュ越しだ。
「ゆっ! まりさのおぼうしさん!!」
まりさの顔から一瞬で怒りが消えた。すでに泣き顔に近い。
「まりさのおぼうしさん!! かえすんだぜえええ!!」
必死に飛び跳ねるが、男の持つ帽子には届かない。
そんなまりさを見ながら、れいむが、
「ゆゆっ! おぼうしさんがないまりさとはゆっくりできないよ! かわいいれいむにちかよらないでね!」
そう言いきった。
「どうしてそんなこというんだぜえええええ!?
――こんな帽子がそんなに大事なのか。
弱点を発見し、何となく精神的に優勢にまわった男にいたずら心が芽生えた。
帽子をまりさの目の前に突き出す。途端に、
「すてきなおぼうしさん! ゆっくりおかえりなのぜ!!」
と喜色満面になるまりさ。
その瞬間、サッと帽子を取り上げる。
「ゆっ!? おぼうしさんっ!! まりさはこっちなのぜ!?」
また泣きそうな表情に逆戻り。
いくらか心に余裕が出てきた男は、前後左右、上へ下へと帽子を動かした。
「ゆゆっ! えいゆっ! ゆやっと!?  お、おぼうしさんんん!! なんでゆっくりしないのぜえええええええ!?」
座卓の上では、まりさによる楽しいダンスが披露されている。
「まりさのっ! おぼうしさんっ!」
まりさを中心に帽子を一回転させると、見事なターンを見せてくれた。
――なるほど、これは結構かわいいのかもな。
今のまりさを見ている分には、ゆっくりを飼っている人間の気持ちも少しはわかろうというものだ。
姿かたちこそ不気味極まりないが、ペット用おもちゃで遊ぶ犬や猫とそう変わらないのではないか。
ペットショップで売られているゆっくりは、さぞや性格もかわいらしいのだろう――目の前の二匹と違って。
そんなことを考えていると、
「ゆんやあああああ!! まりざのおぼうじざんんんんん!! いじばるじないでえええええ!!」
堪えきれなくなったらしいまりさが泣きだした。その目からは涙が溢れ出している。
涙だけならまだいい。足元を濡らすあれは、水源から見て明らかに『しーしー』だ。
「うわ、きったねえ!!」
男は慌てた。
あの液体が砂糖水だということは知っている。でも、そんなことは関係ない。
生理的嫌悪感の解消に、成分表など意味を成さないのだ。
かわいいなんてとんでもない! 男は再び認識を改めた。こいつらはただの汚物だ。
「まりざにもどっでえええええええ!! ゆっぐりがえじでええええええ!! ゆぎゃあああああああん!!」
一心不乱に跳ね回るからたまらない。涙やしーしーが周囲に飛び散る。
男はさらに慌てた。いたずら心を出したことを、すでに後悔していた。
「わかった! わかったから! か、返すから取りに行けよ? ほら、こっち――」
割られた窓を開け放ち、帽子を外に投げ捨てた。
最初からこうしておけばよかった。そういう作戦だったのだ。
「おぼうじざんっ!!」
汁を撒き散らしながら、まりさは一目散に座卓から飛び降りた。そして窓の方にぴょこんと跳ねる。
「まりさがいくまでゆっくりまつのぜ!!」
まりさの見事な跳躍は、しかし、その着地位置が悪かった。
「あっ、あぶね!」
男は思わず叫んだ。
「ゆぎっ、ゆぎゃあああっ! なんでがらすさんがおちてるのおおおおおおお!?」
まりさの足元の床には、飛び散ったガラス片。二匹が部屋に侵入してきた時の名残だ。
それがまりさの底部を切ったらしい。
「いだいっ! まりざのあんよがいだいいいいいいいい!」
あまりの痛みに耐えかねて反射的に跳ねる。
痛みで跳躍力の鈍ったまりさの着地地点には、やはり――
「がらずざんっ! がらずざんはゆっぐりでぎないいいいい!!」
また冷たい欠片を踏んだ。底部がさらに傷つく。
落ち着ついて対処すればケガは広がらないが、そんなことを考える余裕も頭脳もまりさにはない。
「ゆぎょおおおおお!! かもしかさんのようにしなやかなまりざのあんよがああああああ!!」
聞いてしまったカモシカが自殺したくなるようなセリフを言ってのけ、まりさは派手に引っくり返った。
こうなると当然、底部だけでなく全身にガラス片が襲いかかる。
「いじゃいいいいい!! いじゃいよおおおおお!! でいぶ、だずげでええええええ!!」
のた打ち回りながられいむに助けを求めるが、
「れいむのあかちゃん! ゆっくりげんきにそだってね!! ゆふふっ!」
聞いていなかった。れいむは額の実ゆっくりに話しかけている。
「どぼじでむじずるのおおおおおおおお!?」
まりさの体は所々裂け、餡子が流出している。
床には餡子がこびりついている。
あまりの出来事に放心していた男が、ここで我にかえった。
こんなに汚しやがって! 誰が掃除するんだよ! ――俺だよなあ。
惨めな気持ちになった。
飾りを外に投げてやれば、こいつらはそれをホイホイ追いかけて家から出て行くだろう。
我ながらいい作戦だと思ったのに、どうして状況を悪化させてしまったのか――。
今からでも外に追いやることはできる。
しかし、と考え直す。
こんな満身創痍の状態で追い出してみろ。庭先でのたれ死にでもされたらどうするのだ。
近所の目もあるし、何より自分自身の精神衛生上好ましくない。
――呼ぶしかないか、保健所。
男は思った。最初からそうしておけば良かった、と。
「いだいんだぜ……。いだいよお……」
ようやく魔のガラス地帯――直径20センチたらずだ――から脱出したまりさは、床にだらりと寝転がっている。
たまに窓の外に目をやるのは、自分の帽子を気にしているのだろうか。
見ると、比較的大き目のガラス片がまりさの右目の下に突き刺さっていた。
痛々しい。
男の良心が少しだけ痛んだ。
きっかけは二匹の不法侵入だったとは言え、まりさのケガの原因は自分にある――気がしないでもない。
保健所に連絡する前に、破片を取るくらいはしてやってもいいだろう。
「おお、ぶざまぶざま」
口の端を歪めてれいむが言った。


でも、やっぱり触りたくない。気持ち悪い。
中身が流出して、その醜悪さも増しているではないか。
さっきより大目のティッシュを手に取り、まりさに向かう。
「にんげんさん、たすけてくれだぜえ……」
『奴隷』と『人間』はどちらが上なのか判断しにくかったが、“さん”がついているところを見ると、おそらく下手に出ているのだろう。
おっかなびっくりガラス片をつまみ、そっと抜いてやろうとする。
「ああもう、気持ち悪いなあ……」
男の口を付いて出たその言葉に、まりさが反応した。
「ゆゆっ! このまりささまをぐろうするのかぜ!?」
言いながら、まりさが体を起こしたその瞬間。
ガラス片が右目を通過してまりさを切り裂いた。
「いぎいいいいいいいっ!! まりざのおべべがああああああ!! いじゃいいいいいい!!」
「うわっ! おまえ何やってんだよ」
「おべべがっ! とらさんのようにするどいまりざのおべべがあああああああ!! ゆぎゃああああああああ!!」
虎の威厳もあったもんじゃない。
顔の右側――毛の生え際までパックリいっている――から餡子を吹き出して、床の上を転げ回るまりさ。
「ひんぎゃあああああああああ!! ぎゃああああああ!!」
「お、落ち着けって……」
激しく揺れるその金髪が男の手の甲に直接触れた。
瞬間、男の全身の毛穴が開いた気がした。
「うわあっ!」
滑らかなまりさの金髪の感触――人間と変わらない――に、男の嫌悪感は爆発した。
まりさを突き放した男は、部屋を見渡し、隅に置いてあった『それ』を手に取る。
「いじゃああああああいいいいい!! れいぶだずげでえええええええ!!」
男は『それ』をまりさに向けて、無我夢中で上部のスイッチを押した。
「いじゃ――うぎゃあああああああ!! なにごれ! なにごれ! じみるううううううう!!」
男の手にした殺虫剤から吐き出された霧が、まりさの体を包み込む。
殺虫剤がゆっくりに与える効果は知らないが、男にそんなことは関係なかった。
「じみるうううううう!! まりざのからだがいじゃいいいいいいい!! おべべっ! おくちもおおおおおおおお!!」
のた打ち回るまりさ。傷に、開けっ放しの口に染みるようだ。
「ぐるじっ!! ぐるじいのおおおおおおおお!! いぎがあああああああ!! いぎがあああああああ!!」
毒の霧の中では、さすがに呼吸も満足にできないらしい。
「やめでええええええ!! ぷしゅーはやめでええええ!! ぷしゅーはゆっぐりでぎないいいいいいい!!」
涙によだれに、しーしー。その他全身から溢れたよくわからない汁にまみれ、ぬらぬらと光るまりさ。
残った左目は充血しているのか真っ赤だ――いや、この場合は充餡というのか。
――気持ち悪い! 気持ち悪い!
「ぷしゅーいやじゃああああああ!! じみるうううううう!! ぐるじいいいいいいいい!!」
男にまりさを殺すつもりはない。この不快な物体を、とにかく大人しくさせたいだけだ。
その場合、この殺虫剤による攻撃は逆効果なのだが、男がそうと気付いた時には、
「……やべで、ぼうやべで……。もういやなのぜ……まりざはおうぢにがえるんだぜえええ……」
まりさはもう虫の息だった。
体液を出しすぎた結果か、表面は醜く崩れ、すでにゆっくりの体をなしていない。
水で溶いた小麦粉と餡子でできたかのような、不恰好な塊だ。
――なまじっか仏心を出した結果がこれだよ……。
男が溜息をつくと、
「ゆっ! ゆっくりおはよう!」
突然、れいむが言った。
静かだと思ったら、まりさの悲鳴を子守唄に眠っていたらしい。なんと図太い神経か。
れいむは変わり果てたまりさを見て、
「ゆっ? ゆっくりできないまりさを『せいさい』してくれたんだね! さすがはかわいいれいむのどれいだね!」
にこやかにそう言った。
「れいむにとどめをのこしておくなんて、きのきいたどれいだよ! ゆふっ! ほめてあげたんだからあまあまちょうだいね!!」
言いながら、れいむは軽やかに飛び跳ねる。目標は――寝転ぶまりさだ。
「ゆべっ」
れいむに圧し掛かられたまりさが、今の自分に見合う潰れた声を出した。
理解できない事態に、男は目を見張るしかない。
「ゆっくりしね! おぼうしのないゆっくりできないぐずは、ゆっくりしね!」
まりさの上で執拗に飛び跳ねるれいむ。
もともと潰れていたようなものだ――まりさはあっさりぺしゃんこになった。
「れいぶう、どぼじでなんだぜえ……」
それがまりさの最期の言葉だった。
「ゆふう~」
やり遂げた顔で一息つくれいむ。
それを見て男は思った。
何だこいつは?
今まで見たどんなものよりも、こいつは気持ち悪くて汚らしい。
半ば無意識に、れいむに殺虫剤を向ける。
その瞬間、れいむは身を翻して窓の方に跳ねた。とても「ゆっくり」とは形容できない反応だ。
ガラス地帯を避け、開け放たれた窓の淵に着地する。
呆気に取られる男を振り返り、嘲るように笑う。
そこで潰れているバカとは違うよ!――あたかもそう言っているようだ。
「ゆふふっ! れいむはゆっくりにげるよ!」
言うが早いか、れいむは外に飛び出して行った。
「ゆっくりできないじじいはそくざにしね!」
捨てゼリフも忘れない。
「あっ、待て!」
男は反射的に言ってしまったが、本気で待って欲しいわけではない。元々この家から出て欲しかったのだ。大歓迎、望むところだ。
追いかけて殺そうとも思わない。
考えてもみて欲しい。
外に逃げ出したゴキブリを見て、安心こそすれ、わざわざトドメをさしに外にでようとする人間はいないだろう。
それにしても――男は溜息をつく。
「口をきかないだけ、ゴキブリの方がましだな」
男は心からそう言った。

(続く)






トップページに戻る
このSSへの感想 ※他人が不快になる発言はゆっくりできないよ!よく考えて投稿してね!
感想

すべてのコメントを見る
  • ↓6馬鹿野郎‼︎Gは最新技術によって災害が起きた場所を探索する生物機械になってるんだぞ‼︎ -- 2023-04-21 06:42:27
  • 俺だったらゆっくりに殺されるんじゃなくてゴキちゃんに殺されたほうがましだわw -- 2017-02-28 19:08:06
  • ↓4ゴキブリに失礼 -- 2016-03-23 21:51:59
  • ↓3ゆっくりよりゴキブリの方が上です。 -- 2016-02-14 18:04:52
  • 何が美ゆっくりだよ
    思いっきりの汚物じゃないか -- 2015-03-30 12:08:28
  • まりさの頭の髪を全て引っこ抜いてれいむに食わせろ

    -- 2014-04-02 17:55:19
  • 生ぬるいな
    一度姿を見かけた以上殺しつくすまで逃がしてはいけないのは
    ゆっくりもゴキブリも同じだ -- 2014-02-22 22:38:12
  • 男のトロさや変な甘さにイライラするー -- 2013-10-26 02:18:13
  • 赤ゆっくりをつぶして欲しかったが、後半を見てスッキリー -- 2013-01-26 22:04:21
  • 一番かわいそうなのはかもしかと虎とゴキブリって事でおk?後人間 -- 2012-07-23 20:43:26
  • 実に現実的な反応だと思う。 -- 2012-06-30 19:48:32
  • ウザすぎるキモすぎる
    本当にイライラするなこいつら
    -- 2012-06-23 21:43:48
  • トロイなぁ・・・ -- 2011-11-24 00:16:24
  • ささっと殺せ -- 2011-11-23 18:37:03
  • れいむ生きてるのがムカつく -- 2011-10-15 23:46:25
  • このにんげんさんがトロすぎていーらいーらする…… -- 2011-07-07 04:00:02
  • ストレスがマッハな人は後編へ急げ -- 2011-01-21 22:30:47
  • ストレスマッハ -- 2010-11-03 00:34:45
  • れいむぶち殺してぇぇええ -- 2010-10-16 15:22:12
  • 何故だろう、この人の気持ちがよくわかる。潔癖症なんだろうなこの人・・・ -- 2010-09-12 08:49:32
最終更新:2009年12月11日 07:05
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。