陽炎 66KB
虐待-普通 野良ゆ 希少種 都会 にゃーん
『陽炎』
序、
にゃーん…………
にゃーん……
「ゆゆっ!! ねこさんがいるよっ!!!」
「ねこさんはゆっくりできないよ……っ!!! ゆっくりしないでにげようねっ!!!」
「きょわいよぉぉぉぉ!!!」
「しょろーり……しょろーり……」
ある夜、四匹のゆっくり親子が餌を求めてゴミ捨て場へとやって来ていた。普通、ゆっくりは「夜は眠りの時間」とでも言
わんばかりにおうちで“すーやすーや”と寝息を立てているはずなのだが、中にはほんの少しだけ知恵の回る饅頭もいるらし
い。
昼にこういった行動を起こすと、高い確率で人間に発見されて潰される。最近の人間は、いちいち保健所に連絡などしたり
しない。何の躊躇もなく、命乞いするゆっくりを蹴り飛ばし、赤ゆを踏み潰す。
ゆっくりを潰した後の人間は、まるでへばりついたガムでもはがすかのように、アスファルトの角に靴底を擦りつけてべた
りとくっついた餡子をなすりつけて、去っていく。
夜は夜で、犬や猫などと言った先輩の野良たちがゆっくりを餌として狙い、死という名の洗礼を浴びせる。
朝も、昼も、夜も。ゆっくりに安息の時間など、無い。常に死と隣り合わせの現実で、まともな抵抗手段を持たないゆっく
りは、いついかなるときも蹂躙の対象となり、明日をも知れぬ生活を強いられていた。
そんな環境で生きてきたゆっくり親子にとって、猫の泣き声は死を告げる鐘と同義である。一目散にゴミ捨て場を離れてい
った。
がさがさ……と音を立てて、ゴミ袋に半ば埋もれていた何かが外に飛び出す。
「……じゃじゃーんっ!!!」
不必要なまでに大きな声で、陽気にそのゆっくりは叫んだ。叫んだ後に、きょろきょろと周囲を見渡す。
「ゆゆ……っ! あぶなかったよ……っ!!」
オーバーリアクションで、口を固く閉じる仕草を取る。
街灯の光がそのゆっくりを照らす。
鮮やかな、赤い髪。両サイドに垂れる三つ編みの先端と付け根の部分には、小さな黒いリボンが結われている。ややツリ目
で、その瞳の色も髪と同じく赤。閉じた口からは小さな白い八重歯が覗く。後頭部から底部にかけての辺りから伸びるゆらゆ
らと揺れる一本の尻尾。更に猫耳。
そこにいたのは、“おりん”と呼ばれる都会ではなかなかお目にかかることのできない、いわゆる希少種と呼ばれるゆっく
りの一種だった。
「ちびちゃんっ!! おりんたちのむーしゃむーしゃのじゃまをする、わるいゆっくりはおいはらったよ!!!」
そう言って、未だにゴミ袋の山の中で震えている子ゆっくりに外へ出てくるよう促す。恐る恐るゴミ袋の山から這い出した
ソフトボールサイズの子ゆっくりは、得意気な顔で自身を見つめる最愛の母に一言。
「ゆゆ~んっ! おかーさんの“ねこさんのなきまね”はすっごくゆっくりできるねっ!!!!」
「にゃ……、にゃにゃ~……」
親おりんが、恥ずかしそうに眼を閉じる。しばらく尻尾で器用に自分の頬の辺りをこねていたが突然キリッ!とした表情に
なり、
「ゆっ! おちびちゃん、むーしゃむーしゃしたら、ゆっくりしないでかえろうねっ!!!」
「ゆっくりりかいしたよっ!!!」
親おりんと子おりんが、二匹並んで路地裏へとその姿を消す。警戒心が強いのか、二匹とも、何度も後ろを振り返っていた。
この警戒心の強さこそが、ゆっくりでありながら親子二匹、互いの足を引っ張ることなく生きて来れた理由の一つであると言
えよう。
おりん親子のおうちは、決まった場所にはない。と、言うよりも、おりん親子が都会にやって来たのはほんのつい最近なの
だ。まだ決まっていない、と言ったほうが良い。
「おちびちゃん、きょうはここですーやすーやしようねっ!」
親おりんが選んだのは路地裏に不法投棄された粗大ゴミの陰である。自転車や冷蔵庫などが煩雑に積み重ねられている。し
かし、こういう場所には必ず先客がいるものである。おりん親子はそれを本能で察知していた。試しに、親おりんが猫の鳴き
声を真似て様子を見る。
にゃーん…………
親おりんが、猫の鳴き真似をすると粗大ゴミの一部から微かに何かが動く音が聞こえてきた。
「ゆぅ……っ! きょわいよぉ……!」
「おきゃーしゃん……っ!!」
「ゆぅ……また、ねこさんだよ……まりさ、ゆっくりしないでにげようね……っ!!」
「れいむ……まりさたち、いつになったらゆっくりできるのかな……?」
「れいむにもわからないよ……」
声を聞いて親おりんはゆっくり理解した。この場所で休んでいたのは、先ほどゴミ捨て場で追い払ったゆっくり親子だった。
ゆっくりにとっては捕食者である猫が付近に現れたとしても、隠れてやり過ごせば良いのだがそこは素敵な餡子脳。危険から
は逃げ出さないと気が済まないタチらしい。
「ゆっくち! ゆっくち!!」
「そろーり……そろーり……」
にゃーん……
親おりんが再び猫の鳴き真似をしてみる。今度は、ゆっくり親子の声も気配もすることがなかった。それを確認した、親お
りんはごそごそと粗大ゴミの陰に入っていく。
「おちびちゃん、おちびちゃんっ!! もうだいじょうぶだよ。 ゆっくりはいってきてね!!」
親おりんの声に促されて、子おりんがその後に続く。冷蔵庫にぴたりと体をくっつけて休んでいる親おりんの頬に、子おり
んが寄り添い、ほっと一息。ゴミ捨て場で、しっかりとした食事を摂っていた為か、二匹は夜だというのにまだ元気だった。
親おりんが、子おりんの頬にすーりすーりしたり、尻尾でくすぐったりして遊んでいる。子おりんは嬉しそうに目を細めた。
「おかーさん……?」
「ゆゆっ? くすぐったかった?」
「ちがうよ……おかーさんは、どうして、しんぐるまざーになっちゃったの?」
先ほどのゆっくり親子の会話や、街で他のゆっくり親子を見かけるたびに、子おりんは疑問に思っていた。大体、体の小さ
な赤ちゃんゆっくり、子ゆっくりには、親である成体ゆっくりが二匹いる。
子おりんが、まだ赤ゆだった頃はさして疑問にも思わなかった。優しいおりんお母さんが傍にいてくれるだけで幸せだった。
しかし、成長するとそれまで視界に入らなかったものが、映ってくるものである。“しんぐるまざー”、等という言葉もどこ
で覚えてきたのだろうか。親おりんは、子おりんには気づかれないように苦笑いをした。
「……おかあさんの……」
「ゆん……?」
一瞬だけ、子おりんの頬に身震いした親おりんの振動が伝わる。
「ゆっ! なんでもないよ……。 あしたもいっしょにゆっくりしようね!!」
「ゆ……そうだね……ゆっくり……おやすみなさい……」
元々、半分眠りかけていた。親おりんが話を聞かせたとしても、子おりんの記憶には残らなかったかも知れない。親おりん
は粗大ゴミの隙間から星空を見上げた。
一、
「ゆっ、ゆっ、ゆっ、ゆっ……っ!!!」
白昼の公園内を一匹の成体ゆっくりが必死の形相になって跳ねていた。顔中、泥だらけで汗まみれ。食いしばった歯の間か
らは涎がだらしなく垂れている。表情こそ、死に物狂いと言った様子ではあるが、まるでハムスターが口の中に餌を入れてい
る状態とでも言えば良いだろうか。そのゆっくりの頬は、ぽっこりと膨らんでいた。
バスケットボール程の大きさの、一匹いれば三十匹はいると言われるゆっくり界のスタンダード。街頭アンケートで、「ゆ
っくりと言えば?」という質問をすると約八割の人間が答えるであろう、黒い髪に赤いリボン。
(かわいいかわいいおちびちゃんは、ぜったいにれいむがまもってみせるよっ!!!!)
そんなれいむの後方では、ゴミ袋と火ばさみを持った男が悠然と一匹のゆっくりを追い詰めている最中だった。
「や……やめてねっ!! まりさ、なんにもわるいことしてないのにぃ……ゆ゛ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!」
(まりさ……っ!! まりさぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!)
れいむの口の中には、二匹の赤ゆが入っていた。人間や捕食者に追われる際、赤ゆの移動速度の遅さは致命的な敗北要因と
なり得る。赤ゆの柔らかい皮が多少ふやけてしまったとしても、このようにして逃げるほか手段はなかった。
「おきゃあしゃああああん!!! れいみゅの……あんよがぁぁぁぁぁ……っ!!」
「まりしゃの、ほっぺしゃんがぁぁぁぁぁぁ!!!」
案の定、口の中に入れた赤ゆたちが溶け始めたのだろう。れいむの中から、二匹の悲痛な叫び声が聞こえてくる。
「や゛……やべでぐだざ……おでがい゛じば…………っ!!!」
火ばさみを振るう男に何度も殴りつけられているまりさが懇願する。その願いは頬を、頭を打たれるたびに言い切ることな
く途切れてしまう。れいむは、最愛のまりさの悲鳴を聞いて口の中の赤ゆを吐き出した。
「ちびちゃんたちは、どこかにかくれていてねっ!!!」
「ゆぅ……おきゃーしゃんは……?」
「れいむは、まりさをたすけにいってくるよっ!!! ちびちゃんたちはぜったいにでてきたら、だめだよっ?!」
「ゆぴぃっ!!!」
言い聞かせながら、二匹の赤ゆに威嚇するれいむ。怯えた赤ゆたちは、背の低い区画用に植え込まれた枝木の向こう側に飛
び跳ねて移動した。それを確認すると、れいむはまりさの元へと跳ねていった。
「ゆ゛……ぐぢ…………ゆ゛っ、……じだ……い゛……!!!」
執拗に、殴る蹴るの暴行を加え続ける男にまりさが願うことはたった一つだけだった。“ゆっくりしたい”。ただ、それだ
けの願いすら都会では受け入れられることはない。今日は地区の奉仕活動の日だった。ゆっくりもゴミ扱いされているために、
ついでに小規模な一斉駆除が行われる。
「こいつ、意外としぶといなぁ……」
男の持っている袋の中には、すでに潰されて原形を留めていないゆっくりの皮が詰め込まれている。透明な袋の中には、赤
いリボンや、黒い帽子も一緒になってぐしゃぐしゃに押し込まれていた。
「にんげんさああああんっ!! おねがいしますぅぅぅ!!! まりさにひどいことしないでぇぇぇぇぇぇ!!!!」
れいむが、息を切らし大粒の涙を流しながら、男とまりさの元にやってきた。れいむの瞳にボロ雑巾のように変わり果てた
まりさの姿が映る。いつも自分に頬をすり寄せてくれたまりさの顔は所々が破れて中身の餡子が漏れ出している。まっすぐに
自分を見つめてくれた瞳の片方は、地面に転がっている。涙と、未だちょろちょろと漏れ続けているしーしーに、もはやかつ
てのまりさの面影はなかった。
「ゆぅぅぅぅ……っ!!! どぉして……? どおして、こんなことするのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ?!!」
「れ……いぶ……、にげ……で、ね……?」
片目だけになっても、れいむを想うまりさの瞳に偽りはなかった。れいむは恥じた。一瞬でも、目の前にいるまりさをこれ
までずっと一緒にゆっくりしてきたまりさの姿に重ねることができなかった自分を。
「ぷっくうううぅぅぅぅぅぅぅっ!!!!」
それは、れいむ渾身の威嚇であった。ゆっくり同士であれば、このれいむの威嚇を見たら即座に泣きながら逃げ出すくらい
のポテンシャルを秘めていたが、そんなものが人間に通用する道理はない。れいむの事を無視して、まりさにトドメを刺そう
とする人間。振り上げられた火ばさみが垂直にまりさに落とされると同時に、口から大量の餡子を吐き出してまりさは永遠に
ゆっくりしてしまった。
「う……うわああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
威嚇を解き、滝のように涙を流しながら絶叫するれいむ。
「まりさ……っ!!! まりさ……っ!!! まりさぁぁぁぁぁぁ!!! やだあぁぁぁぁぁ!!!!!」
原形は残しているものの、ひしゃげて醜く歪んだまりさの顔にれいむが頬をすり寄せる。そんなれいむの目の前で男がまり
さを火ばさみで解体していく。突き崩されていくまりさの顔を目に焼きつけながら、れいむは恐怖でしーしーを漏らしていた。
「ゆあ……あぁ……っ、やべで……やべでよ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛…………っ!!!!」
恐怖に支配され、体を動かすことはできない。本当なら、男に体当たりをしてでもやめさせたかった。ついに、まりさが袋
の中に放り込まれる。袋の中の残骸と同様に、まりさもゆっくりだったものになってしまった。
「までぃゆ゛ぎゅぶぇぇぇぇっ??!!!」
最愛の名を叫ぶ前に、れいむの顔の四分の一が弾け飛んだ。片目が遠くにころころと転がっていく。
「ゆ゛ぎゃああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!???」
遅れて襲う激痛に、れいむが絶叫する。これまで感じたことのない痛みが全身を包む。剥き出しになった餡子に空気が触れ、
埃が入るたびに気が狂いそうになるほどの苦痛が押し寄せる。
「い゛だい゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!!!!」
男が再び火ばさみを振り上げる。
「~~~~~~~~!!!」
れいむは、覚悟した。自分はこれから永遠にゆっくりしてしまうのだ、と。しかし、その火ばさみが振り下ろされることは
なかった。男は火ばさみを振り上げたのではなく、右手の腕時計を見ていただけだった。
「やっべ、仕事に遅れる……。でも、こいつは……ああ、もういいや!」
れいむには理解のできないことをつぶやいて、そのれいむを遠くに蹴り飛ばした。れいむの姿が見えなくなる。
「……これで、いいだろ。あとは野良犬か野良猫が処分してくれるさ……。あ、カラスもいるな」
言い聞かせるように独り言を繰り返し、男は袋の口を固く縛ると足早に公園を出て行った。
一部始終を見ていた、二匹の赤ゆが蹴り飛ばされたれいむを探して枝木の陰から飛び出す。
「ゆっくち!! ゆっくち!!!」
「おきゃーしゃん…っ!! かきゅれんぼちないで、でちぇきちぇにぇ……っ!!!」
ピンポン玉が、草むらの上を跳ねる。そして、ようやくれいむを見つけたときは、既に虫の息であった。小刻みに震えてい
る。極度の痛みは通り過ぎ、凄まじい寒気がれいむを襲っていた。“自分はもうすぐ永遠にゆっくりする……”れいむは、そ
れを理解していた。
「おぎゃああじゃああああんっ!!! ゆわああああああ!!!!!」
「ゆっくちしにゃいでなおっちぇにぇっ!!! ぺーりょぺーりょぺーりょ……っ!!!」
ぼやける視界の片隅で、愛しの我が子が自分のために何かしようとしてくれている。れいむには、それだけでもう満足であ
った。最後に、何か伝えたいと口をパクパクと動かすが言葉は出て来ない。
(ちび……ちゃん……ゆっくり、して……い……てね………………)
れいむは二度と動かなくなった。それに、二匹の赤ゆも気づいた。気づいてしまった。
「おきゃーしゃん……?」
「ゆっくちして……」
ぼろぼろと涙が溢れてくる。声すら上げることができなかった。今朝も、家族揃って挨拶をして、決して多くはない朝ご飯
を食べて、今日も一日苦しいけれど一緒に頑張ってゆっくりしよう、などと言っていたはずなのに。
悲しみに打ちひしがれて、二匹の赤ゆは一歩もそこを動くことができなかった。
そのときだった。
「じゃじゃーん……っ!!」
どこに隠れていたのか、目の前におりん親子が現れた。
「ゆ……っ?!」
二匹の赤ゆが親おりんを睨みつける。親おりんは、そんな赤ゆ如きには目もくれずにれいむの残骸をくまなく調べていた。
「ちびちゃんっ! やっぱり“いいにおい”はここからしてきたみたいだよ!!!」
親おりんの言葉に二匹の赤ゆが言葉を失う。“いい匂い”。目の前の成体ゆっくりは確かにそう言ったのだ。ゆっくりの死
臭漂う、この場所が。母親であるれいむがその場で死んでいなければ、すぐにでも逃げ出したくなるくらいのゆっくりできな
い臭いが漂うこの場所を。
おりん種は、ゆっくりの死臭を好む。死臭、などとは言っても人間が感知できるようなものではない。一種のフェロモンの
ようなものだ。ゆっくり同士でしか感知できないもの。一般的なゆっくりはその臭いに対して凄まじいまでの嫌悪感を抱くが、
おりん種は、その臭いを強く好む。意味合いは異なるが、猫にとってのマタタビのようなものであろうか。
「……じゃじゃーん……っ! ……ゆっくりしていってね!」
親おりんの後ろから飛び出した子おりんが、状況をまったく飲み込めないでいる二匹の赤ゆに挨拶をした。当然、返事は返
ってこない。子おりんは、ちょっとだけ不服そうな表情をしたが、目の前の“ごちそう”に心を奪われてそれどころではなか
った。
「おかーさんっ! ゆっくりむーしゃむーしゃしようねっ!!!」
「さきにちびちゃんがたべていいよっ! おかあさんは、のこりをたべるからねっ!!!」
二匹の赤ゆに悪寒が走った。このあまり見かけない二匹のゆっくり親子は何をしようとしているのだろうか。震えながら、
その様子を凝視する。
子おりんが、既に動かなくなったれいむの壊された皮から覗く餡子にかぶりついた。二匹の赤ゆに、凄まじい衝撃が走る。
「むーしゃ、むーしゃ……しあわせえぇぇぇぇぇ!!!!」
口元を餡子で汚しながら、子おりんが歓喜の声を上げた。再び、れいむの中身に顔をうずめる。れいむの皮の内側で子おり
んが咀嚼を繰り返す度に、れいむの残骸がずり……ずり……と動いたり、痙攣を起こしたりしているように見える。まるで、
死体が動きだしたかのような錯覚を起こさせた。赤ゆたちは、身を寄せ合って震えて泣いているだけだった。
おりん種は、ゆっくりの死骸を食べる。一時期、おりん種は死んだゆっくりを操ることができるのではないかという噂が流
れたが、その実態はつまりこういうことだったのだ。親おりんの見守る傍でゆっくりの死骸を内側から食べる子おりん。見る
人によっては、親おりんがゆっくりの死骸を“何らかの方法”で動かしているように見えないこともない。
「ゆ……ゆわぁぁぁぁ……っ」
自分たちの母親の死骸が、他のゆっくりに食い散らかされる。その地獄絵図のような光景を目の当たりにした二匹の赤ゆは、
怯えてがたがたがたがた震えていた。
そのとき、親おりんが子おりんに声をかけた。
「ちびちゃん」
「ゆ? ゆっくりごめんなさいっ! つぎはおかーさんが、むーしゃむーしゃしてね!!」
「ゆゆっ! ちがうよ。 ここでむーしゃむーしゃしてると、にんげんさんにみつかるかもしれないから、どこかでかくれて
むーしゃむーしゃしようね」
「ゆゆーん!! ゆっくりりかいしたよっ!!!」
久しぶりの御馳走を前に、さしもの親おりんも少し警戒が緩んでしまっていたのか、人目につきやすい場所で堂々と食事な
どをしてしまっていた。
口元についた餡子を舌でぺーろぺーろと舐め取りながら、れいむの死骸を親おりんに渡す。親おりんは、れいむの頭に結わ
れている赤いリボンを周りの髪ごと引きちぎると、地面に向かって吐き捨てた。
「………………っ!!!」
赤ゆの一匹が、涙を湛えた瞳で親おりんを睨みつける。親おりんは、それには気づかなかった。子おりんから受け取った、
“食料”を口に咥えると、そのまま引きずっていなくなってしまった。子おりんも、それに続いた。
泣きながら、唇を噛み締めて、二匹の赤ゆは何事もなかったのように去っていくおりん親子を見ていることしかできなかっ
た。
一方、おりん親子は、拠点にしていた粗大ゴミ置き場へと戻ってきた。その中でれいむの死骸を丁寧に食べていく。
「「むーしゃ、むーしゃ……しあわせぇぇぇぇぇっ!!!」」
半壊していたれいむの顔は、跡形もなく消え去ってしまった。すべて、おりん親子の腹の中だ。
おりん種は、ハイエナのようなゆっくりだった。野生で暮らしていた頃は、事故死したりせいっさいっ!!されたりして永
遠にゆっくりしてしまった、ゆっくりを食べたりして生活していた。もちろん、草花や芋虫なども食べることができるが、ゆ
っくりの死骸は格別の御馳走だったのである。
おりん親子が、山から都会に下りてきたのは、定期的に行われているゆっくり一斉駆除の翌日だった。たまたま、山と都会
の境界あたりにまで遊びに来ていたおりん親子の元に、風に乗って死臭が漂ってきたのだ。その死臭に誘われるかのように、
自ら都会へとあんよを踏み入れたのである。
リスクは大きかったが、そこはおりん親子にとっての天国だった。なにしろ、ちょっとあんよを這わせるだけで、ゆっくり
の死骸に出会うのである。御馳走がそこいら中に散らばっているのだ。しかも、死にたて新鮮のものばかり。
「ちびちゃんっ!! ずーっといっしょにゆっくりしようねっ!!!」
「ゆっくりりかいしたよ~っ!!!」
陽気な声が路地裏に響く。
しかし、二匹は気づいていない。ここは都会の片隅。
これまで全てが上手く行っていたからこそ、この場所を楽園か何かと勘違いしてしまっているが……。
……おりん親子がいる場所は、“人間の領域”なのだ。
二、
“その時”は、すぐにやってきた。
おりん親子は、道路脇で顔の一部を失って中身を周囲にぶちまけているまりさを引きずっていた。車にでも轢かれたのだろ
う。撥ね飛ばされた時に塀にでも叩きつけられたのか、ブロックに餡子が少量こびりついていた。
幸先が良かった。路地裏からこっそりと出てきて、早速御馳走にありつくことができたのだ。
餌を拠点の粗大ゴミ置き場へと運び終わると、二匹は一息ついた。朝食は取っていなかったために、どちらからともなく、
まりさの死骸に顔を埋める。
「「むーしゃ、むーしゃ、しあわせえぇぇぇぇ!!!」」
互いの頬をすり寄せながら、口の周りについた餡子を舐め取る。親おりんは、子おりんにまりさの死骸を食べているように
言うと、のそのそと周囲のゴミを経由して冷蔵庫の上に飛び乗った。食事中は、どちらかが見張りをすることに決めていたの
だ。
「あ、ゆっくりだ!! ゆっくりがいるぜ!!!」
「うわ、本当だ!! なんか見かけないヤツだなぁ」
親おりんの瞳孔が開く。声のする方に振り向くと、二人の少年が立っていた。一人はグローブをつけており、もう一人は金
属バットを肩で支えて手にしている。
「なぁ……!」
「そうだな。まだ、集合までは時間あるしさ……ちょっと、“遊んで”いこうぜ!!!」
「……ゆ、ゆっくり……ゆっくりしていってね……っ!!」
親おりんが、震えながら口を開く。陽気に挨拶をすれば、向こうも優しく返事を返してくれるのではないかという淡い期待
が込められていた。
「するかよバーカ」
その期待はあっさり裏切られ、少年の手にしていた金属バットが水平に薙がれる。親おりんは、少年の突然の攻撃に思わず
後ずさり、冷蔵庫の下の固い地面に後頭部から落下してしまった。一瞬だけ遅れて、凄まじい音が響き、冷蔵庫が数センチ動
く。少年の金属バットが冷蔵庫の上段部を捉えたのだろう。
「お……おかーさ……」
突然、上から降ってきた親おりんに駆け寄り、頬をぺーろぺーろする子おりん。
完全に油断していた。朝、餌を探しに行ってすぐに目当ての御馳走が見つかってしまったせいで、警戒心が緩んでいたのか
も知れない。粗大ゴミの総量はそんなに多くない。少年たちは、このゴミを移動させてでもおりん親子を引きずり出そうとす
るだろう。そうなったら、終わりだ。親子ともに、この路地裏で永遠にゆっくりしてしまう。
「ちびちゃんっ!!!」
落下した際に叩きつけた後頭部の痛みに朦朧とした意識の中で、親おりんが叫ぶ。子おりんは、これまでに見たことのない
親おりんの真剣な表情にたじろぎながらも、母の言葉を聞き漏らすまいと必死に親おりんを見つめている。
「さっきひろってきたゆっくりのなかにはいってねっ!! すぐだよっ!!」
子おりんは、親おりんの言っていることの意味がわからなかったが、今日の今日まで親おりんの言うとおりにして間違いが
あった事はない。キリッ!とした表情で頷くと、まりさの死骸の中の餡子を掻き出す作業に入った。
「にんげんさんっ!! ここは、おりんたちのゆっくりぷれいすだよっ!!! おりんりんらんどでもいいよっ!!!」
粗大ゴミ置き場から飛び出した親おりんが、頬に空気を溜めて威嚇しながら精一杯の主張を少年たち相手に試みた。
「何ワケのわかんねー事言ってるんだよ」
当然、無駄な行為である。振り下ろされた金属バットは親おりんの顔面を捉えることはなかったが、恐怖で地面にぺたりと
くっつけていた尻尾に直撃した。
「に゛ゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ??!!!!」
撃ち込まれた部分の尻尾はぐしゃりと潰れて、先端部分が千切れ飛んでいた。全身に走る激痛に、顔を歪めながら泣き叫ぶ
親おりん。
「い゛だい゛……っ!!! お゛り゛ん゛のじっぼざんがあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!!!!」
まりさの中身を掻き出している途中だった子おりんの動きがピタリと止まる。間を置かずに二度も聞こえてきた親おりんの
悲鳴。子おりんは、全身から冷や汗を噴き出しながらも、親おりんの言いつけどおりにまりさの死骸の中に隠れる準備をして
いる。
「なぁ、お前さ……こいつ見たことあるか?」
「いや、知らないなぁ……」
「や゛べで…っ!! じっぼざんづがんでもぢあげな゛い゛で……っ!!! ちぎれ゛じゃう゛うぅぅ゛ッ!!!!」
親おりんの尻尾を掴んだまま、その顔面を冷蔵庫の側面に叩きつける。
「ゆぶぎゅっ??!!!」
叩きつけられた場所がべっこりと凹み、八重歯を含めた白い歯が砕けてぽろぽろと地面に落ちる。親おりんは、それでもな
お宙釣りの状態にされていた。
「がひっ……っ!!! ゆ゛っぐり゛……や゛べ……」
ぶら下がった親おりんの左頬を金属バットが打ち付ける。
「えびゅっ!!!!!」
顔の半分を襲う凄まじい衝撃は、親おりんの中身を押し出し口から少量吐き出される。赤い。何か赤い物を吐き出した。
「うわ……こいつ、血ぃ吐きやがった!!」
「饅頭に血なんかあるわけないだろ……」
少年の見立ては正しかった。親おりんが吐き出したのはチリソースである。
「おでがい……だよぉ……!! おり゛ん゛……なにも、わる゛い゛ごどなんで……」
「黙って潰れてろよ。俺たちは遊んでるだけなんだ」
そう言って、再び金属バットで親おりんを殴打する。殴られた衝撃で、右の目玉が勢いよく飛び出した。空洞になった穴か
ら涙が流れ続けている。戯れに、もう一人の少年がボロボロになった傘の骨の部分を、目玉があった場所に思い切り刺し込ん
でみた。
「ぎに゛ゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!!!!!!!!!!」
びくんっ、と顔を跳ね上げる親おりん。目が存在していた位置から伸びる傘の骨が円を描くような動きで、親おりんの体内
を引っ掻き回す。
「い゛だい……っ!!! ゆ゛ぎィィィィッ!!!! ゆ゛……っ、があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!!!!」
尻尾を掴まれてぶら下がっているにも関わらず、まるで筋力トレーニングの背筋運動でもするかのように、顔全体を何度も
勢いよく持ち上げる親おりん。
(おかーさん……っ!!! いったいどうしちゃったの……?! ゆっくり……ゆっくりして……ゆっくりしてよぉ……!!)
一方、まりさの死骸の中にすっぽりと身を包んだ子おりんには、母親の置かれた状況が悲鳴とたまに聞こえる鈍い音でしか
推測できないため、その場から一歩も動くことができずに震えていた。声こそ上げないものの、溢れる涙は、留まるところを
知らない。
(……たすけてっ!! だれか、おかーさんを……っ!!!!)
「ゆ゛ぼお゛ぉ゛ぉ゛ッ??!!!」
親おりんの底部に、少年の放ったつま先が深々とめり込んでいる。そこから、先ほどと同様にチリソースがぼたぼたと垂れ
始める。少年は笑いながら、
「ゆっくりって饅頭とか甘いお菓子じゃなかったっけ? 辛そうな中身だなぁコイツのは…っ!!」
「だからって舐めてみようって気にはならないけどな~」
「当たり前じゃねーか」
「お゛り゛んの゛……ながみ゛ざん……っ!!! ゆっぐりじでね゛ッ!! こぼれ゛な゛い゛でえ゛え゛ぇ゛ッ!!!!」
悲痛な母親の叫びに、子おりんの震えがいっそう強くなる。親おりんがどんな酷い事をされているのかは分からないが、中
身が漏れ出している状況にあるのは把握できた。それが何を意味するかは、ゆっくりである以上本能で理解している。
(しんじゃう……っ!!! おかーさんが……しんじゃう……っ!!!!!)
恐怖。混乱。恐慌。それら負の感情が大きなうねりとなって、子おりんの体の奥の奥を駆け巡る。逆流してくる中身を吐か
ないように、必死になって口を閉じる。冷や汗が全身を伝う。
(どうして……っ? なにがいけなかったの……? おりんたち、なにをしたからこんなにいじめられてるの……っ?!!)
何度も自分以外の誰かに、あるいは何かに問いかける。当然、答えてくれる者などいるはずはない。
「ゆ゛っぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!」
尻尾が引き千切られることによって、ようやく宙釣りから解放された親おりんの猫耳がひと思いに片方むしり取られる。体
中、どこから発しているのか理解できぬほどの痛みの波が無数に広がる。激痛に耐えきれず、その場で体を打ちつけながらの
た打ち回る親おりんを、二人の少年が大笑いしながら見下ろしていた。
突如として、少年が悶え苦しむ親おりんの頭を踏みつける。それでも、痛みを紛らわせるために体を動かそうとするものだ
から、アスファルトで顔の表面を幾度となくこすりつけ、摩擦で火傷した皮が少しずつただれ始めてきた。親おりんはその事
にすら気付かない。
食いしばる歯は既にそこにはない。口を閉じていても、荒い呼吸が漏れ出す。片方だけの目に映し出された親おりんの視界
はぼんやりと歪んでいた。
それでも、少年たちの理不尽な暴力は終わることはなかった。少年たちはこの親おりんが完全に沈黙するまで攻撃の手を止
めるつもりはなかった。いっそ、一撃で弾け飛んでしまい、中身を一瞬で全て失ってしまったほうが幸福であろう。大の大人
の腕力であれば、それは可能であったかも知れない。少年たちの半端な腕力が、親おりんの苦しみを長く続かせている。
「や゛べで……ぐだ……ざ…………だずげで…………おでがい゛……じば……」
無言で、金属バットを振り下ろす。頭頂部に鈍い衝撃が走り、上から下へと押しやられた中身のチリソースが勢いよく口か
ら吐き出される。顔が変形していた。
「あははは!!!」
楽しそうに。本当に楽しそうに少年たちは、親おりんを蹴りつけたり、金属バットで殴りつけたりを繰り返した。何度目か
の一撃で、ついに顔の半分を破壊された親おりんから中身が大量に溢れだす。
遠のいていく意識の中で、親おりんの片方しかなくなってしまった耳に今となってはもはや懐かしいとさえ思える声が聞こ
えてきた。
……にゃーん……
「なんだ?」
「猫?」
「あ、おいっ!! 今何時だ?」
「やべぇっ!!! 練習に遅刻するぞ!!」
「せっかく近道選んで来たっていうのに、これじゃまた監督にケツバットくらっちまう!! 走るぞ!!!」
親おりんの目にはもう、何も映らない。最後にもう一度だけ強い衝撃がその身を襲い、中身が更に溢れ出してしまう。親お
りんは、中身のほとんどを失いそのゆん生を終えた。
静寂が路地裏を包み込む。
……にゃーん……
子おりんが、猫の鳴き真似をして周囲の様子に探りを入れる。何の反応も返ってこない。
「ゆ……くり……?」
もぞもぞと、まりさの死骸から這い出してくる子おりん。音を立てないように、移動を開始する。
「そろーり……そろーり……」
そびえたつ冷蔵庫の横を、周囲を見回しながらゆっくり、ゆっくり、移動する。やがて、冷蔵庫によって遮られていた視界
が目の前に広がる。
「……………………っ」
子おりんは、声を上げはしなかった。涙も流しはしなかった。ただ、恐怖でしーしーだけが、ちょろ……ちょろ……と無意
識に漏れ出てきた。そこから、一歩たりとも動くことができなかった。
「おか……あ、さん……?」
最初に目に飛び込んできたのは、破れた親おりんの顔のどこか。右頬だろうか?それとも左頬?あんよかも知れない。べっ
たりとチリソースが付着している。引きちぎられた尻尾。耳。どこを見ているか皆目見当のつかない、地面に転がる目玉。
「ゆっくり……して……」
気がつけば、あんよを這わせていた。母親の……親おりんの残骸の元へと。気が遠くなりながらも、ようやく親おりんだっ
た物への傍へとやってくる。
「すーり……す……っ!!!」
子おりんが、自分の頬を親おりんの頬に擦り合わせようとしたとき、
「ゆひいいぃぃぃぃっ!!!!」
冷たい。あまりにも冷たかった。ついさっきまで、心地よい温かさで自分を包んでくれた親おりんの頬はもう存在しない。
目を、強く閉じる。目尻から、涙が一粒。一筋。そして、滝のように流れ出す。
「ゆあわぁぁああぁああぁぁぁぁああ……っ!!!!!!」
空に向かって絶叫する子おりん。自分の出しうる、最も大きな声を上げれば、親おりんが反応して目覚めてくれるかも知れ
ない。そんなことを思ってはいたが、その淡い期待が叶うことはなかった。
「騒がしいわねぇ……また、どこかの野良ゆっくりかしら……」
「…………っ!!!」
突如、上から響く中年女性の声に、子おりんが再びゴミの中に身を隠す。塀から顔だけ出した中年女性は、ぐちゃぐちゃに
なった親おりんの残骸を見て舌打ちをすると、
「……ったく……。また死んでるよ……。野良犬か野良猫の仕業だか知らないけど、ゆっくりなんて別の場所で潰してくれれ
ばいいのにねぇ……」
そのもの言いが、悔しくて堪らなかった。何か、水の流れるような音が聞こえてくる。再び、親おりんが視界に入るような
位置に移動する。
「ゆぁ……」
ホースから勢いよく放たれた水が、親おりんの存在した痕跡を洗い流して行く。中身のチリソースや目玉に尻尾に耳。水で
流された親おりんの残骸が、排水溝に飲み込まれていく。皮だけとなってからも、執拗に水をかけ続けふやかし更に細かく破
って、排水溝へと流し続ける。
そこに、大好きだった親おりんの姿はなかった。あるのは、大きな水たまりだけだ。
ほんの数分の出来事だった。いや、おりん親子の前に少年たちが現れた時点からでも、三十分と時間は経過していない。子
おりんにとっては、一瞬の出来事だった。ほんの一瞬で、母親を失ってしまった。まりさの死骸を見つけて、喜び浮かれてこ
こに戻ってきたのは、ついさっきだったはずだ。
「早くゆっくりなんて全部死ねばいいのにねぇ……」
悲しみに打ちひしがれている子おりんに、トドメの一言が降りかかる。
どおして、そんな事言うの……?言いかけた言葉は、声にならない。
おりんたち、何も悪い事してないのに……!口には出せない。
一言でも喋ったら、殺されてしまうだろう。それが、子おりんの脳裏に刻み込まれた。そして、これが都会の日常であると
いうことを改めて理解した。人間に見つかったら問答無用で殺される。何をしているか、は関係のないことだった。何をして
いても殺されるのだ。
人間に迷惑をかけようが、かけまいが。基本種だろうが、希少種だろうが。野良ゆっくりは、全て等しく潰される。
「……ゆっくり、おやまさんにかえるよ……」
呟くように言葉にしてから気がついた。山への帰り道など、わからない。親おりんと一緒に都会に下りてきたが、今、自分
がどの辺りにいるのかなどわかるはずがない。この生き地獄から逃れる術はない、ということが徐々に事実へと変化していく。
身震いがした。
もう、自分を助けてくれるゆっくりはいない。一匹で生きていくには、この世界は厳しすぎた。もう出ないと思っていた涙
が再び溢れだす。
「こわい……こわいよぉ……」
にゃーん。
「…………ッ!!!」
近くに野良猫が来ている。子おりんは、大急ぎで冷蔵庫の陰に隠れた。
結局この日、一日。子おりんはここを動けなかった。
三、
「こんのクソゆっくりがぁぁぁっ!!! 待ちやがれぇぇぇ!!!!」
「ゆっ! ゆっ! ゆっ! ゆっ!!」
バスケットボールほどのサイズの成体ゆっくりにまで成長したおりんが、口に魚の骨を咥えて疾走している。後ろからは前
掛けをした中年の男がおりんを追いかけてきていた。
「……ちくしょうっ!! ゴミ箱漁りやがって……っ!! 害獣が!!!」
おりんは、男が決して入ってくることはできない建物と建物の間にするりと逃げ込むと、その場を一歩も動かずに男をやり
過ごすことに成功した。
「むーしゃ……、むーしゃ……!!」
魚の骨を一生懸命に噛み砕いて飲み込んで行く。独りで野良として生きる暮らしを余儀なくされたおりんは、“狩り”に成
功した暁には必ずその場で餌を食べることにしていた。食べられる時に食べておかなければ、いざというとき……先ほどの様
な場面に陥った時、逃げられるものも逃げられなくなってしまうからだ。
「ゆふぅ……」
“しあわせー!”とは言わない。食べきるのに精一杯で、そんな感情など湧いてこないからだ。
おりんは、中々に運動神経に恵まれたゆっくりであり、特にすばしっこさに関しては他のゆっくりに比べて頭一つ抜けてい
るようである。これに、元々強い警戒心を加えて、今日まで独りで生き抜いてきた。
別に、友達が欲しくないわけではない。しかし、おりんがこれまで見てきた人間に捕まって殺されたゆっくりの多くは、四
匹から五匹ぐらいの小規模な単位で行動している者たちばかりであった。ゆっくりは、情に弱いのだ。自分の身も満足に守れ
やしないくせに、不必要なまでに他者を思いやる。一匹捕まると、芋づる式に次々と捕まっていき、果ては全滅する。
しかし、それでも仲間を救いたいとする気持ちが痛いほどわかるから、あえておりんは単独で行動する道を選んだのだ。
相変わらず、おりんに決まったおうちはなかった。眠くなったら、安全だと思われる場所で少しだけ眠る。おりんの行動自
体は無意識に行っているだけだったが、都会暮らしの野良にとってこれは限りなく正解に近い行動であったと言える。
ゆっくりが一網打尽にされるもう一つの理由は、無駄に定住意識が強いという部分にもある。定住するための環境など何一
つ整っていない状況ででも、馬鹿の一つ覚えみたいに“おうち”の存在を意識するから、その“おうち”ごと人間に見つかっ
て何もかも破壊されてしまうのだ。
家族などができたら、もう最悪である。死ぬ要素が増えるだけだ。何一つとしてメリットはないのに、“かわいいちびちゃ
んを見てゆっくりするよ”などと馬鹿げた事をぬかして、すっきりー!を繰り返す。そんなことは、衣食住が全て整ってから
やるべきことのはずだが、ゆっくりは目先のゆっくりにしか目が行かないのだろう。
「ゆ……きょうは、ここでちょっとだけすーやすーやするよ」
おりんが、建物の隙間で静かに目を閉じる。目を閉じてはいるが、完全に眠り切ってはいなかった。浅い眠りについている。
あの日の出来事は、おりんの心に深いトラウマを刻み込んだだけではなかった。生き残るための術を、考える力をおりんに与
えてくれていた。あるいはそれは、死んだ親おりんから受け継がれた最初で最後の知識だったのかも知れない。
「ゆゆっ! ここをとおってにげられるよっ!! ゆっくりしないでにげようねっ!!!」
この場所に入って来ようとしている、ゆっくりの声がおりんの猫耳に届いた。猫耳をぴくぴくと動かすと、そっと瞼を開き、
真っ赤な瞳でそのゆっくりたちを見据える。
にゃーん…………
「ゆげぇっ!!!」
「ねこさんはゆっくりできないのぜっ!!! はやくもどるのぜ!!!」
「でも、にんげんさんが……」
「かんがえてるじかんなんてないのぜ……っ!!!」
おりんが、猫の鳴き声を真似ただけで回れ右する数匹のゆっくりたち。シルエットが完全に消えてしまうのを確認すると、
おりんは再び目を閉じた。
ゆぎゃあああああああ…………
やめでねっ!! たすけでぇぇぇぇ!!!
遠くから、ゆっくりたちの悲鳴が聞こえてくる。先ほどのゆっくりが人間にでも捕まったのだろうか。どちらにせよ、あの
叫び声から察するに、もう潰されてしまっているだろうが。
「にんげんさんは……ゆっくりできないよ」
まるで、自分に言い聞かせるかのように呟くおりん。あと少しだけ、目を閉じていたら動き出そう。おりんはそう決めても
うしばらくの間、目を閉じていた。
その日は、保健所職員による地区内のゆっくり一斉駆除の日だった。
目を閉じていても、どこからか別のゆっくりの悲鳴や絶叫。泣き叫ぶ声が聞こえ、一向に寝付くことができない。さすがに、
ゆっくり一匹がやっと入れる程度の隙間である、この建物の間にまで侵入してくることはないだろうが、警戒するに越した事
はない。
おりんは、面倒くさそうに目を開けて移動を開始した。
「ずーり……ずーり……」
体力を消費しないように、ゆっくりと這って進む。風に乗って流れてくる死臭の誘惑に負けないように、唇を噛み締めてい
た。
「わかるよー。 いまはまだ、でていかないほうがいいんだねー」
突如聞こえた声に、おりんが思わず振り返る。警戒心の強いおりんが、まるで気づくことができなかった。
「ゆゆっ?!」
「ゆっくりしていってねー。 ちぇんは、ちぇんだよー」
寝起きで警戒心が緩んでいたのだろうか。おりんから五メートルほど離れた位置に、ちぇん種と呼ばれるゆっくりがいた。
さらさらとした茶髪のショートカットに、ちょんと載せられた緑色の帽子。おりんと同じような猫耳には金色のイヤリング
がつけられている。そして、底部付近から、やはりおりんと同じように生える尻尾。違いは、それが二本あるということだろ
うか。
「みかけないゆっくりだねー。 おなまえをおしえてほしいんだよー」
あくまで友好的に話しかけてくるちぇんに対しておりんの表情からは警戒心が抜けきっていない。後ずさりをしながら、ち
ぇんの動きを凝視していた。
「わからないよー……そんなことしてたら、にんげんさんにみつかっちゃうんだねー……」
「……ッ」
確かに、このまま後ずさりを続ければ建物の間から出てしまう。外の状況も把握できないままに飛び出したところで、人間
に捕まって潰されてしまうのがオチだ。かと言って、背後から突然現れたちぇんへの警戒も怠ることができない。
(どうしよう……っ!! どうしよう……っ!!!)
「わかったよー……ちぇんはここをうごかないから、そっちもうごかないでねー……」
おりんが、目を丸くする。ちぇんは、一緒に隠れて人間をやり過ごそうという提案を出してきたのだ。おりんは、それを心
の中で了承し、後ずさりを止める。その瞬間に、目の前のちぇんが襲って来たりしないだろうかという考えもあったが、ちぇ
んは少しだけ寂しそうな顔で建物の隙間から覗く空を見上げているだけだった。
「……おりんは、おりんだよ」
そんなちぇんに少しばかり情が移ってしまったのか、自己紹介をするおりん。ちぇんの曇った表情に少しだけ晴れ間が刺し、
「ゆっくりしていってねー!!!」
独特の語尾を延ばすような口調で再度、挨拶をしてくる。
「……ゆっくりしていってね」
おりんも、挨拶を返した。そのとき、おりんの頬を一筋の涙が伝った。今度はちぇんが目を丸くする。何かあったのであれ
ばすぐにでも駆け寄ってすーりすーりして慰めてあげたいと思っていたが、突然おりんに近づいたら逃げてしまうかも知れな
い。
「わからないよー……? どこかいたいのー……?」
「ち……ちがうよっ、なんでもないよ……」
おりんの涙は止まらない。嬉しかったのだ。
あの母親を失った日以来、一度も“ゆっくりしていってね”と言う事はなかった。
それは、つまり、自分が今日までずっとゆっくりできていなかった証明でもある。自分がゆっくりできていないのに、“ゆ
っくりしていってね”とは言えない。状況としてはゆっくりできていないはずなのに、おりんは挨拶を返すことができた。そ
れは何故か。
目の前にいる、ちぇんの自分を気遣う優しさが、少しだけ……ほんの少しだけおりんをゆっくりさせていたのだ。
「おりん……? ちぇんのかんがえをきいてねー?」
「きかせて……ほしいよ」
涙を見られないようにそっぽを向いたおりんが、ちぇんの言葉に応える。
ちぇんの言わんとする事はこうだった。この狭い場所に他のゆっくりが逃げ込んできたら、自分たちが想像もつかないよう
な方法で一網打尽にされてしまう可能性が高い。逃げられる場所も二カ所しかないため、必ず追い詰められて潰されてしまう
だろう。だから、視界が開けており、なおかつ安全な場所を探して隠れながら移動した方が良いのではないか。
おりんとて、ここに留まるのがよろしくないと判断したから移動をしようとしたのである。ちぇんの意見に反対する要素は
一つとしてなかった。しかし、おりんは忘れていない。ゆっくりが複数で行動すると死の危険が増すということを。既に気づ
いている。もし、ちぇんが人間に捕まってしまったら、おりんはちぇんを助けようとしてしまうだろう。そして、自分も捕ま
り、潰される。
おりんは、考えていた。考えがまとまらないまま、二匹の間に沈黙が流れる。ちぇんも、真剣な表情でおりんを見据えてい
た。
「ゆ゛ぎゃああ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
「だずげでぇぇぇぇぇ!!!」
「ごわい゛よ゛お゛お゛ぉ゛ぉ゛っ!!!!」
反対側の建物の隙間から、駆除から逃げ惑うゆっくりが数匹入り込んできた。おりんとちぇんが振り返る。
「ゆ゛ぎぃ゛っ!!」
「い゛だい゛よ゛お゛ぉ゛ぉ゛!!! ばでぃざの……あんよがあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!!」
「やべでぇっ!!! いだい゛っ!!! じぬ……っ!! じんじゃうぅ゛ぅ゛ぅ゛!!!!!!」
「「「ゆ゛ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!!!!」」」
複数のゆっくりの悲鳴がおりんとちぇんの猫耳に届く。
「どぼじでごんなごどにな゛るの゛ぉぉぉぉぉ?!!」
「にんげんさんから、ごんなには゛な゛れでるの゛にぃぃぃぃ!!!!」
人間の影もおりんとちぇんの位置からはっきりと見える。確かに、ゆっくりと人間の間には距離があった。それでも、ゆっ
くりたちの悲鳴が途絶えることはない。
ゆっくり駆除用強化型エアガン。
駆除に駆り出される保健所職員の標準装備の一つだ。スチール缶を撃ち抜くほどの威力があるため、ゆっくり相手だと皮を
貫き内部の餡子を傷つけるには十分すぎるほどの代物である。至近距離で撃てば、ゆっくりの顔を平気で貫通するぐらいの威
力を誇る。有効射程距離はおよそ、二十メートル。
ちなみに、多少距離があっても当たればゆっくり特有の極度の痛がりが災いして、泣きながらその場で転げまわるために、
足止めとしては十分に役割を果たすことができるのだが。
流れ弾がおりんの近くに捨てられていた空き缶にヒットした。
「……ッ!!!」
空き缶に当たった音を聞くに、とてもじゃないがゆっくりできそうな雰囲気ではないということが推し量れる。
「おりん!!!」
ちぇんが叫ぶ。どちらからともなく、駆け出した。二匹の後方からは訪れる死に抗おうと、力の限りに泣き叫ぶゆっくりた
ちの悲鳴が延々とこだましていた。
建物の隙間から飛び出す。太陽の光が眩しくて目がくらんでいるのだろう。二匹は一瞬だけ立ち止まった。しかし。
「おいっ!!! 野良が出てきたぞ!!! さっさと捕まえろ!!!」
叫ぶのは保健所職員である。おりんとちぇんは、脇目も振らずに狭い路地裏を駆け抜けた。
(ちぇん……っ!! すごい……すごいよっ……!!!)
おりんは、自分のあんよの速さには自信があった。しかし、ちぇんはおりんよりも速く路地裏を跳ねて行く。ちぇんのスピ
ードについていけないことはないが、追い抜くことはできそうになかった。
「く……クソッ!! ゆっくりの癖に逃げ足の速い……っ!!」
幸いにも、この職員はエアガンを所持していなかった。規模の大きな駆除になってくると、人間側も役割分担をハッキリさ
せる。彼は、潰したゆっくりをゴミ袋などに詰めて回る収集班の人間だったのである。
呼吸を荒くしながら、二匹はようやくあんよを止めた。路地裏の一画。廃ビルの非常階段の下、適度に積み上げられた廃材
や段ボールの山に囲まれた場所で、追ってくるかも知れない保健所職員に対し警戒をしながら、一息つくことにする。
(ゆぁ……)
おりんは、思わずちぇんに見とれてしまった。先ほどは、建物の隙間のせいで暗くてよくは見えなかったが、ちぇんは野良
にしては綺麗な顔立ちをしたゆっくりだった。走った疲れのせいか、柔らかそうな唇からは速いテンポで白い息が吐き出され
る。加えて少しだけ紅潮したちぇんの表情は、おりんが色気を感じるには十分なものであった。
(おりん、どうしちゃったの……? ちぇんが……すごくかわいくみえてきたよ……)
ツリ目を伏せて、おりんが顔を真っ赤にする。おりんは、ちぇんに惹かれてしまった。初めて挨拶を交わした相手。職員か
らの逃走劇は、吊り橋効果を引き出すには十分過ぎるものでもある。しかも、自分よりもあんよが速くて、自分と同じくらい
に警戒心が強くて……。
ちぇんを好きになってしまうには、おりんにとってあまりにも条件が満たされ過ぎていたのだ。
「ちぇん……」
「どうしたのー……?」
この語尾を延ばす口調も、緊迫した状況下に置かれながらもどこかのほほんとした語り口も、その全てが可愛らしく思えて
きた。振り返り、きょとんとしながらおりんを見つめる瞳も、なかなかの破壊力であった。
こんな地獄のど真ん中で、事もあろうにおりんは恋に落ちてしまった。
おりんの中で理性と本能が互いに警鐘を鳴らし合う。
ちぇんと一緒にいたい。しかし、複数で行動することは死の危険を高める。
優しくて可愛いちぇんを守ってあげたい。しかし、自分の身もろくに守れない自分にそれができるだろうか。
「おりん……? わからないよー……? どうしちゃったのー……?」
おりんが、ずりずりとあんよを這わせてちぇんの元へと近寄る。ちぇんは、後ずさったりしない。おりんが、自分の目の前
にやってきても、臆することなくその強い眼差しを受け止めていた。
(……ちぇん……ごめん、ごめんねっ!!!)
「……っ!!!」
ちぇんの唇におりんの唇が触れる。ちぇんは、一瞬だけ目を点にしたがおりんの真剣な表情の中に見え隠れする、期待と不
安を感じると、静かに目を閉じそれを受け入れた。
そんなに長くはない、ちゅっちゅ。
ちぇんはどうだったかは知らないが、おりんにとってはふぁーすとちゅっちゅである。しかも、会ったばかりのちぇんを相
手に。“好き”も言わずに“キス”。この恋愛のノリ、スペイン系というか、ラテン系というか……。そんなところ。
おりんは、自分の真剣な気持ちを理解してもらおうと、無言でちぇんの瞳を見つめ続ける。ちぇんも一歩も引かない。この
とき、初めて気付いたが、ちぇんはおりんよりも少し小さかった。成体ゆっくりになりきってはいないのかも知れない。言動
からすれば、限りなく成体に近い子ゆっくりぐらいのように思えてくる。
そんな、少しばかり小さなちぇんがおりんを見つめ返すと、必然的に上目遣いになる。
(か……かわいいよぉっ!!! かわいいよぉぉぉぉっ!!!!)
心の中のおりんは、大はしゃぎである。脳内で、“おりんりんらんど、はじまるよーー!!!!”等と叫んでいる。
「……わからないよー……」
ちぇんの一言に、おりんの動きがピタリと止まる。“分からない”。ちぇんは確かにそう言った。おりんが戸惑いを隠せな
くなる。ちぇんに、ちゅっちゅした理由がわからないと言うなら、おりんの恋は絶望的である。
「まだ、にんげんさんがちかくにいるかもしれないのに……」
おりんの顔が青ざめて行く。確かに、ちぇんの言う通りだった。自分たちはまだ追われている途中なのだ。ちぇんに夢中に
なって警戒心などは遥か彼方に飛び去ってしまっていた。それは、おりん自身が恐れていた人間に潰されてしまうゆっくりの
パターンの一つではなかったのか。
「ご……ごめ……」
しどろもどろに謝ろうとする、おりんの口をちぇんが遮る。
(……ゆぇ……っ?!)
おりんの唇から、自分の唇をそっと離したちぇんが、おりんの顔を見ないようにして頬を朱色に染めながら、
「でも……うれしかったんだよー……」
「ちぇ……ちぇんっ! お、お、おおお……おり……おりんと…………っ!!!」
「わかるよー……。 ずっといっしょにゆっくりしようねー……」
……時は、三月某日。
地獄にまで春を告げる妖精は現れなかったが、その日、確かに春の訪れを感じた。
願わくば、この幸せがずっと……ずっと、続きますように。
おりんは心から、それを願っていた。
最終更新:2010年03月31日 16:15