采配のゆくえ

【さいはいのゆくえ】

ジャンル 合戦アドベンチャー
対応機種 ニンテンドーDS
発売元 コーエー
開発元 コーエー(オメガフォース)
発売日 2008年10月23日
定価 5,040円(税5%込)
プレイ人数 1人
セーブデータ 3個
レーティング CERO:A(全年齢対象)
判定 良作
ポイント 良くも悪くも「関ヶ原逆転裁判
劣化コピーではない内容


ストーリー

慶長5(1600)年9月15日、美濃国関ヶ原において「天下分け目の戦い」の火蓋が切られた。
石田三成率いる西軍は東軍を迎え撃つべく笹尾山・天満山・南宮山に陣を構えていたが、早朝の関ヶ原には敵と味方の区別も出来ないほどの深い霧が立ち込めていた。
一方、霧の中では先鋒を取った東軍の武将・福島正則がひそかに兵を進めていた…。

概要

本作では石田三成を主人公に、「西軍から見た関ヶ原の戦い」が描かれる。
三成は秀吉への忠義から西軍を指揮するが、軍勢・統率力では家康に及ばず、戦場ではさまざまな危機に遭遇する。
これらの危機を自らの知力で解決していくのが本作の目的である。

特徴・システム

  • シミュレーションゲームでもおかしくない紹介だが、「合戦アドベンチャー」というジャンル名の通り、本作はテキスト形式のアドベンチャーゲームである。
    関ヶ原の戦いの各戦局が1話分のシナリオになっており、基本的には「戦略パート」で情報を集めた後に「合戦パート」で采配を振る、という流れで進んでいく。
    • 戦略パート:合戦を有利に進めるために情報収集をするパート。自分や味方の陣地などを移動しながら怪しいところを調査したり、会話を交わしたり、所持品を見せたりして「言ノ葉」(情報)と「所持品」(アイテム)を集めていく。この「言ノ葉」「所持品」が、三成の主な武器となる。
    • 合戦パート:味方の「報告」を聞いて戦況を把握し、適切な「伝令」を出すパート。戦況によって各隊に指示できる「伝令」の内容は異なり、指示を誤るとライフポイント(矢)が1つ減る。5つすべてがなくなるとゲームオーバーとなる。
      また、ゲーム中盤以降は戦況をシミュレートできる「天眼」モードが登場することがある。このモードではパズルゲームのように味方の隊を動かし、指定された布陣になるように敵軍を誘導していく。
  • 戦略パート・合戦パートではキーパーソンとなる人物を「説得」しなければならないことがあり、これまで集めた「言ノ葉」や「所持品」をつきつけて自分の主張が正しいことを証明していく。
  • 三成には人の心を読む力があり、説得中に相手の心を読んで新たな「言ノ葉」を入手することもある。こちらも出すものを間違えるとライフポイント(扇)が1つずつ減り、5つすべてなくなるとゲームオーバーとなる。
  • ここまで読んでお気付きの方もいるだろうが、本作のシステムはカプコンの『逆転裁判』シリーズのものによく似ている
    というか、ゲームの進め方から使用できるコマンド、画面の構成、ボタン操作の内容、登場人物のデザインやキャラクターづけ、モーションのパターン、イラスト・アニメーションの雰囲気、バックログや既読スキップ、早送りができないなどの困った点までほぼそのまんまである
    • 更に言えば、公式サイトでプレイできるWEB体験版も、当時最新作の『逆転裁判4』公式サイトでプレイできたWEB体験版と瓜二つであった。*1
    • 本作は「『逆転裁判』が好きな人におすすめ」と紹介されることが多いのだが、それもそのはず文字通りの戦国版『逆転裁判』なのである。ただし、念のために言っておくと、本作とあちらとではそもそもの目的が全く違うため、あちらのファンの間でも「似ているが別ゲー」という認識で通っている。
  • セーブデータは3つまで保存可能。一方で、『逆転裁判』の「この章のはじめから」に相当する選択肢は無いため、詰み状況でセーブしてしまうと、その話の一番始めからやり直すしかなくなる。

評価点

  • ゲームの完成度
    • 評価の高い作品に近い構成なだけあって、ゲームシステムの完成度は高い。
    • 『逆転裁判』のパロディと言う観点では、「関ヶ原の戦い」というコーエーらしい舞台設定を採用しつつ、その雰囲気も違和感なく取り入れている。
    • 「合戦パート」「天眼モード」などのオリジナル要素も、アドベンチャーゲームの中で「合戦を指揮する」感覚を再現することに成功している。
  • 魅力的にデフォルメされた登場人物
    • 「ソロバンをはじきながら損得勘定をする小西行長*2」「いつも背景にユリを背負っている細川ガラシャ*3」など、登場人物には史実や逸話をもとにした親しみやすいデフォルメが施されており、主人公の三成も「忠義に厚い熱血漢だが、真っ直ぐ過ぎる(バカ)」というキャラクターになっている。
      • ちなみに、本作で三成のパートナーをつとめる島左近の娘・たまき(たま)も実在の左近の娘*4をモデルとしている。
  • 史実とオリジナル設定を織り交ぜた良質なシナリオ
    • 合戦の進行は史実どおりだが、その背景を補完するものとして登場人物のドラマが挿入されている。一部オリジナル設定を交えながら*5合戦に挑む武将たちの心情を詳しく描写しており、合戦パートや説得を通じて「彼らがどのような思いで戦いに臨んでいるのか」を明らかにしていくという、シミュレーションゲームとは違った楽しみ方ができる。
      • あらすじは史実に忠実なので歴史を習った人の大半は先の展開(どころかエンディング)が読めてしまうが、物語は中盤からオリジナルの展開を交えるようになり、エンディングも史実を上手くアレンジしたオリジナルのものになっている。
    • 一途な思いと人の心を読む力を武器に、文字通り相手の心に直接訴えかけていく三成の「説得」は、やや強引なところはあるものの設定に違わず熱い展開を見せる。
    • 人間模様の描写は実に秀逸。それぞれの信念や忠義、思惑の描写は勿論の事、説得されたキャラクターや主人公自身の成長の描写も良く出来ている。
  • BGMのクオリティ
    • BGMに定評あるコーエー作品ではあるが、今作のBGMも良曲ぞろいである。特に評価が高いのは、合戦パートに流れる「天下分け目の戦い-関ヶ原-~合戦~」はファンからは神曲と評価されている。
    • 残念な事にサウンドトラックは設定資料集と共に付属され、単品では販売されておらず、現在入手困難となっている。

問題点・残念な点

  • 『逆転裁判』とそっくりなシステムを採用したが為の悪評
    • システムが酷似していることから「逆裁のパクリ」と批判されることがあり、「『無双』が『BASARA』にパクられた意趣返しなのでは?」という推測もある*6。確かにここまで露骨だと意図的に似せているのだとしか思えないが、そのせいで内容とは無関係に悪い評価を受けやすくなってしまっている。
  • 戦略パートのネタ不足
    • 戦略パートの探索では『逆転裁判』同様、関係ないところを調べたり選択肢を間違えたりしたときの小ネタや掛け合いが用意されているのだが、一度に移動できる場所が少なく、調べられるポイントは一画面に3つ程度、場面によっては選べる行動が制限されているため、あまり量は多くない。
      • 三成と仲間たちの掛け合いはワンパターン化する場合が多く、『逆転裁判』のような独特のユーモアがない。特に三成の一途さを一律して「バカ」という言葉で表現しているためか、物語中では側近の島親子にやたらとバカバカと言われる。これが鬱陶しかったという意見も多い。
      • 関係ないところを調べた時の展開は、群を抜いてワンパターンである。「三成のつまらないダジャレ→同行者が呆れる(一人の時はカラスの鳴き声)」となる事が非常に多く、プレイヤーまで呆れさせられてしまう。
  • 親切すぎて低難易度
    • 戦略パート・合戦パート・説得のいずれでも、目的が分かりやすい内容となっている上、「言ノ葉」を選ぶ場面以外では選択肢自体が少ないので、ほぼ迷う事がない。更にヒントが過剰なほど出されるので、悩む必要自体無い場面すら多く存在する。
    • 合戦パートもリアルタイムの戦闘ではないのでじっくり考えることが可能であるし、ライフポイントがある割には選択肢を間違えてもペナルティなしで選び直せることが多い。また、とても悠長な状況ではない時に不必要な報告を求める・差し障りのない伝令を出す、と言った行動を取ってもペナルティを受けず、そのせいで折角の緊張感が損なわれてしまう場合もある。
      • 即ゲームオーバーになる選択肢も中には存在するが、露骨なのでわざとでない限りは選ばれないだろう。
    • 天眼モードは特に親切すぎるせいで難易度が低い。「三成の頭の中で動かしているだけ」と言う設定のため、ペナルティ無しで何度でもミス・やり直しが可能。それだけならパズルゲームとして試行錯誤を楽しめただろうが、最初から上画面に完成図が表示されており、それを目指すだけ。更に「操作可能な隊を最短距離で完成図の目標位置まで移動するだけ」と言うステージもある始末。テキストADVゲームでいきなり高難度のパズルゲームをやらされても困るが、いくらなんでもこれではゲームになっていない。
    • これらは「サクサク進めることができテンポがよい」という長所でもあるのだが、テキストADVとしてはあっさりしすぎているところもあり、物足りないと感じる人もいる。
  • グラフィックのバリエーション
    • 物語に深く関わるキャラクターには専用のグラフィックが用意されているが、それ以外は敵味方問わず全く同じデザインである。モブキャラならまだしも、それなりに活躍する武将までデザインに全く工夫が見られないのはどうにかならなかったのだろうか。最終決戦ですら同じ顔の武将が何人もおり、見分けがつかない状態である。
    • 戦略パートの風景もバリエーションが足りない。合戦場は仕方ないとしても、過去回想の町中や屋敷と言ったシーンには、別の場所なのに使い回される背景がある。
  • キャラクターの顛末がやや投げっぱなし
    • プレイヤーがキャラクターに感情移入しかけたところで退場ということが多く、複雑な心情が長々と語られた割にあっけなく倒されてしまう敵もいる(その後どうなったなどのフォローは一切ない)。キャラクターの心情描写が秀逸なだけに、もう少し掘り下げても良かったのではという意見もある。
  • 細川ガラシャに関する展開の空白
    • 細川ガラシャは第二話で登場し、謎を残したまま死亡する。この謎は第二話のメインファクターであるにもかかわらず第二話では完全には解消されず、以降の物語もその謎は残されたまま進行する。物語序盤の内に張られた伏線が引き摺られっぱなしとなる事には、歯切れの悪い印象を受ける。
      • ネタバレ「 この謎は最終話の大詰め、黒幕を問い詰める際にようやく明かされる事になる 」。その為、伏線として活かされるのだが、解消までの間が長すぎると感じる人は少なくないだろう。
    • このせいで彼女の夫である細川忠興の扱いが悪い。説得によって退けられた後で再登場するのだが、心ここにあらずと言う状態で戦いを続け、微妙な扱いのまま出番を終えてしまう。彼と共に謎の解決に向かうような展開が期待できただけに、この扱いは残念と言うしかない。
  • 物語の結末
    • 本作の結末はオリジナルの設定の下で綺麗にまとめられているが、経緯を考えると腑に落ちないという見方もできる。
      + ネタバレ注意
    • 関ヶ原の戦いは主人公の勝利で決着し、主人公は徳川家康を生かす事を選ぶ。その後、「狡猾な者でなければ治められない」と言う理由から、天下の座を徳川家康に譲る決断をする。
      • 主人公を勝利させる事でゲームとしての出来を損ねず、尚且つ徳川家が天下を取ると言う史実を歪めないシナリオ構成自体は、見事と言わざるを得ない。
      • しかし、この戦で命を落としていった者達の存在を考えると、あっさりと天下を譲る事には疑問が感じられ、最悪「本作の関ヶ原の戦いとは何だったのか」と言う風にも取られかねない。決断に至るまでの経緯描写や心理描写を充実させる、或いは選択肢を用意してIFエンドへ分岐させる、と言った解決法はあったはずであり、残念な印象も残る。

総評

『逆転裁判』に似ていることがよく取り上げられるが、単なる模倣ではなく、『逆転裁判』のエッセンスを汲み取った上で巧みな換骨奪胎が行われた作品である。
ゲームの難易度こそ低いが、物語の質はとても高く、単体のアドベンチャーゲームとして見ても良作と呼べる。
本作が「カプコンへの意趣返し」なのかどうかは分からないが、『逆転裁判』のパロディとして見ても非常に完成度の高い作品であり、類似性を楽しむのも一つの楽しみ方だろう。
コーエーのタイトルの中では『国盗り頭脳バトル 信長の野望』と並んでマイナーな作品だが、「戦国に興味があるけどあまり詳しくない」という方やシミュレーションゲームとは違った形で「戦国」に触れてみたい方、(皮肉抜きで)『逆転裁判』が好きな方は手に取ってみてはいかがだろうか。

余談

  • 討鬼伝』にはあらゆる歴史上の人物が登場する「ミタマ」という要素があり、石田三成のミタマもあるが、そのイラストとして本作主人公のものが採用されている。
  • 誰が言い始めたかは知らないが、『逆転裁判』を捩った『逆転采配』と言う呼称も広まっている。

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最終更新:2021年11月21日 11:48

*1 ポップアップされる小窓に始まり、嵌め込み画面のサイズ、嵌め込みに使用されている機種が白のDS Lite、下画面クリックでしか操作できない点まで隅から隅までそのまんまと言わざるを得まい。

*2 行長は和泉国の商人の家の生まれで、宇喜多家に商人として出入りするうちに家臣に抜擢されたという珍しい経歴を持つ。

*3 ガラシャは熱心なキリシタンである。彼女の肖像画や立像にはキリスト教で「純潔」を象徴するユリが添えられることが多い。

*4 名前を「珠」といい、柳生家に嫁いでいる。もちろん実際の歴史では彼女が関ヶ原の戦いに参加したとか三成のパートナーをつとめたといった話はない。

*5 例えば、本作では三成が西軍の「大将」とされているが、実際の西軍の大将は毛利輝元であった(ただし、ほとんどの指揮は三成が執っていた)。また、登場人物の大半の年齢は実際よりも若く設定されており、三成の場合だと史実では「40歳」だが本作では「23歳」とされている。

*6 本作を開発したオメガフォースが「無双シリーズ」の開発チームであることからこのような推測が生まれたのだと思われる。