百の世界の物語
【ひゃくのせかいのものがたり】
ジャンル
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RPG
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対応機種
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ファミリーコンピュータ
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発売元
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アスク講談社、冒険企画局
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発売日
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1991年8月9日
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定価
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6,200円
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判定
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良作
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ポイント
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元祖TRPG風ゲーム
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概要
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サブタイトルは『THE TALES ON A WATERY WILDERNESS』だがWikipedia等でも省略されている事が多いため、本記事のタイトルもサブタイトルを省略した形で掲載する。
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ボードゲーム形式のマップを進み、クエストをこなしレベルを上げ目標を達成するTRPGタイプのゲーム。
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プレイヤーはユキリアというファンタジーの世界を舞台に、3つのシナリオのうちの1つを選択し冒険していく事になる。毎回違うマップ、クエスト、登場キャラがタイトル通り百以上の物語を紡いでいく、ボードゲームとRPGを融合した隠れた名作ソフトである。
ストーリー
遠い世界の物語
それは、とても遠い世界の物語。
そして、とてもなつかしい物語。
竜退治のお話、隠された財宝を探す話、いなくなったお姫さまを探す話…。
それはユキリアと呼ばれる世界。
それは冒険のための世界。
美しいお姫さまがいて、とっても偉い王さまがいて、火を吹くドラゴンがいて、勇敢な冒険者がいて…。
その世界は夢のよう。
幼いころに聞かされたお話のよう。
魔法の本を開くように、そのたびごとに新しい冒険が、不思議な世界があなたを待っているのです。
さあ、物語のページをめくりましょう。
その物語の名前は──
「百の世界の物語」。
(公式ストーリーより)
特徴
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物語が始まる前に、どのシナリオで遊ぶかを始め、日数(ターン数)、プレイ人数や名前、性別を決める。
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最大4人まで参加可能。コンピューターを参加させる場合はその性格を4通りから選ぶこともできる。強さの選択はできない。
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めずらしい事に「おんな」の方が初期数値の攻撃力が高い。反面、防御力は低めに設定されており、バランスのとれた「おとこ」とは差別化されている。
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戦闘を早めに終わらせる事が重要になるため、攻撃力の高い「おんな」のほうが若干有利である。
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お姉さんが眠れない小さな子供に昔話を語るという設定であり、名前やシナリオを決めるところからこの世界に引き込んでくる。この導入部分はプレイヤーへこれから始まる物語への期待や好奇心を誘うよくできた演出と評価が高い。
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選択出来るストーリーは3本。
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われらドラゴンバスターズ:島を訪れた冒険者達が王様からの依頼でドラゴン討伐に向かう物語。
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でんせつのひほう:ドラゴンが守る伝説の秘宝を求めて繰り広げられる冒険。しかし同じく秘宝を狙う怪盗ドンパンも登場し…。
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おひめさまものがたり:明日に控えた結婚式を嫌がって家出してしまったお姫様の手がかりを探し奔走するストーリー。
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規定の日数が経過するか、誰かがクリア条件を満たす事でゲームは終了となる。最終的には経験値と所持品の価値(現金含む)の合計が一番多い人が勝利となる。
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「すでにゲームをやりましたか?」という問いに「いいえ」と答えるとお姉さんがゲームの流れを丁寧に説明してくれるので、初心者にも遊びやすくできている。
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最初マップは?マークが敷き詰められており、プレイヤーが通過した部分が開いていく。
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マップは毎回ランダムな為、道が続いているか、町があるか、とにかく誰かがすすんでみないとわからない仕様になっている。
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進めるコマ数はレベル依存。サイコロを振るランダム性はない。
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拠点は村と町があり、町のほうが強力なものを売っているが値段も高い。
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宿屋は無料で、1泊すると全回復できる。その後ランダムでイベントが発生することもある。
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酒場に行けばクエストが発生する。ただし既に複数のクエストが発生していると何も起きないことがある。また、同じ酒場に続けて入っても2個目のクエストは発生しない。
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クエストの受注は自由であり断ることもできる。
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クエストは受注した本人のみに適用されるものの他、誰でも参加出来るものがある。誰でも参加出来るものの場合、目的地近くのプレイヤーにあっけなく手柄を横取りされたりもする。
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クエストの依頼人が「北東に5マスの場所」といった説明をしてくれる。ただし方角指定が曖昧なため、まだフィールドが開いていない場合はある程度の目星を付けてそのマスに行って確認するしかない。
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メニューの「もくてき」の項目を見ると現段階で発生しているクエストを確認できるので、「何をするんだったか忘れた!」という時に便利である。
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クエストを完遂すると経験値とお礼の品をもらうことができる。同じクエストでも自分のレベルが高いほど得られるものは豪華になっていく。
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完遂にはモンスター討伐が必要な場合もある。このモンスターの強さはクエストを受けた人のレベルで決まるので、レベルの高い人のクエストを横取りしようとすると到底かなわないような敵と戦うことになってしまうことも。
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特定の日数になると固定イベントが発生する。大抵はその日になると通知されるが、通知がなくどこかの拠点に止まることで発生するものもある。
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必ずしも良いイベントとは限らず、ストーカーのような勇者ファンが勝手にパーティに加入して足を引っ張ったり、町人に化けた怪盗ドンパンに持ち物を奪われたりなど幅広い。
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最終目標のクリアの為にキャラクターを強化していく。
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シナリオの最後にはそれぞれ強敵がおり、初期のステータスでは太刀打ちできない。その為、お金を貯めて魔法を購入したり、ダンジョン内のモンスターを倒して強力な装備を手に入れる必要がある。
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装備は剣・盾・鎧があり、剣と盾は同じものを二つ装備することもできる。両手に盾を持って魔法で攻撃したり、防御力を犠牲にしてでも二刀流にして敵を短いターンで倒すという戦法も取れる。
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経験値はクエストのクリアやモンスターの撃破で入手できる。レベルアップ時に必要な経験値は少なめで非常にテンポが良い。ただしイベントや戦闘に敗北する事で経験値が下がる場面もあるので油断はできない。
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レベルによって進めるマスも増加するので、中盤以降フィールドの移動もしやすくなっていく。が、自分のレベルが低いと途端に不利になっていくので注意が必要。
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戦闘システム
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ボード上の1ターン毎に戦闘も1ターンで進む。数ターンに分けて戦闘する事もあり、そこに他プレイヤーが参戦する事もできる。
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トドメを刺したプレイヤーがモンスターを討伐したことになる為、頃合を見計らって突入し手柄を横取りしたり、防御で様子を見ながら自分のターンで撃破したり、参戦してきたプレイヤーキャラを逆にやっつけて横取りを防ぐなど様々な駆け引きもある。
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魔法はアイテム制で使用後には消滅する。
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敗北すると経験値が下がる為、敵わないと思ったら逃げるという選択も必要。逃げた場合モンスターはその場に残り続けるが、減ったHPは回復しない。
評価点
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まさに100回遊べる内容。
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マップが毎回ランダムということもあるが、豊富なクエストの量も魅力であり、プレイする度に新しい発見が出来る。
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クエストが毎回同じようにクリアできるわけではなく、思いがけない展開をする場合もある。最終目標のクエストを達成しても実は真のラスボスがいた!という展開も。
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以下軽いネタバレ
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「われらドラゴンバスターズ」ではドラゴンを倒して城に戻る事がクリア条件だが、親元からはぐれたドラゴンパピーを連れて行くとドラゴンを退治する事無く共存ENDになったりする。このあたりのほのぼのとした世界観に沿った展開はニクいところである。
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終始統一されている優しい世界観。
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物語導入部分から始まり、各イベントやNPC、エンディングまで一貫してほのぼのとしたファンタジーな世界が広がっている。
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敵キャラもRPGの王道のものもいるが、トマトをモチーフにしたもの等ユニークな容姿のキャラも多い。
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プレイヤー全員が主役になれるゲーム性。
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もちろん妨害要素もあり友情崩壊な展開もありうるが、一位を取ることだけが全てではないと思わせる内容になっている。
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「どんなに妨害されても仕返しせず、村人のクエストをこなす聖人として頑張った!」「一位は取れなかったけどすごい武器を初めて手に入れた!」など、自分のストーリーを作る楽しみがある。
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他にも、目標を達成し城に戻ろうとしている勇者を全員でフルボッコにしたり、勇者キラーとして他のプレイヤーを追いかけ回し恨まれたり、女からの依頼しか受けない色男を演じたり、誰よりもお金を貯めて自己満足に浸ってみたり、TRPGの自由度を存分に満喫できる。
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エンディングでは各勇者のその後が語られ、冒険者として名を馳せたり、姫と結婚したり、商人になったり…。酷い目に遭うような事はないので終了後も気持ちよく終わることができる。
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装備品や魔法は売値と買値が同一。
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特にお金を要求されるイベントもないので、所持金を思う存分使って強化できる。
賛否両論点
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いわゆる「おつかいゲー」という側面。
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レベルアップやアイテム獲得の為に最も手っ取り早いのがクエストであり、これを繰り返し行っていくおつかいゲームである事は否めない。
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対人の場合は駆け引きもあり楽しめる部分があるが、1人プレイの場合は上記の仕様もあって作業的になりかねない。逆にそういった作業が好きな人にはとことんハマるとも言える。
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「やらしいふく」「やらしいたて」という、昔話にそぐわないアイテムが登場する。
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ネタ装備というわけではなく、値段の割には強力な装備である。ちなみに男でも装備可能。
問題点
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CPUが弱い。
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対戦相手のコンピューターがお世辞にも賢いと言えないレベル。そのため、ある程度コツをつかみ始めると1人プレイでは物足りなくなってくる。
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最初にコンピューターの性格を設定するが、全員「みんななかよく」にしてもやたら序盤から戦闘を仕掛けてきたり、全員「いじわるだいすき」にしてもフリーイベントを積極的に横取りしたりはしない。性格がきちんと機能しているのか疑うレベル。
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序盤に仲間割れになると、どちらも似通ったパラメーターで戦う事になるのでただの泥仕合。戦闘は自分のターンと相手のターンの両方で行われるが、自分のターンでなければ逃げられない。逃げるのに失敗することもあるし、成功しても次の自分のターンが回ってくる前に再び戦闘を仕掛けてきたりする。非常に面倒。
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未踏破地域を積極的に開放していこうとするので、レベルの低い序盤から山や洞窟など危険なゾーンに遠出し、勝ち目の無いモンスターに挑んで長期戦の末負けたり、逃走を繰り返す。対人では発生し得ない事態を起こしてくれる。
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「のろいのくつ」「あくまのギプス」といった行動に支障が出るアイテムをあえて所持しつづける。持ったまま村や町に戻った場合、普通なら売り払うところだが、CPUは決して手放さない。
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攻撃魔法や回復魔法を大量に買い、確実に持て余す。有用な移動魔法は買わず、イベントで入手しても使わない。
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戦闘時のテンポの悪さ。
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自分の番で出来るのは1つの行動だけである。つまり一撃で相手を倒せない場合、1ターンブツ切りの戦闘を数回に分けて行うことになる。
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だからこそ戦闘中に他のプレイヤーが乱入したりもできるのだが、戦闘の合間に長々と他の人の行動を見ていなければならなくなる。
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攻撃魔法の使いづらさ。
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通常の攻撃魔法は炎・冷気・雷の3種類あるが、どの属性が効果的なのかを敵の見た目で判断しづらい。効かない敵には全く効かないので、貴重な1ターンを無駄に消費することになってしまう。
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「ドラゴンデス」の魔法はその名のとおりドラゴンに有効…と見せかけて、効かないドラゴンもいる。
総評
後に発売となるドカポンシリーズと似たゲーム性ではあるが、こちらの方がやや硬派な作りになっている。
とは言え、殺伐とした要素は殆ど無く牧歌的で優しいグラフィックやキャラクターは幅広い層に受け入れられた。
紙とペンとゲームマスターの役割を全てファミコンがやってくれるという、TRPGのハードルを下げて誰にでも楽しめるようにしたという点は当時斬新であり、クチコミで評判が広がった一本である。
誰もが主人公になれる、この先何が起こるかわからない冒険のワクワク感、温かみのあるファンタジーの世界。
これらの要素に反応した人は是非プレイしてみる事をお勧めする。無限の可能性の眠るユキリアという世界にどっぷりハマるだろう。
余談
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良作でありながら非常にマイナーな要因として、流通数の少なさが上げられる。
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現在でも新品はかなりプレミア価格、中古でも高めの値段設定になっている店が多い。
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ゲームデザインを担当した冒険企画局の出版物やTRPGでは同じユキリアが舞台となっている。中にはファンタジー世界にそぐわない建物やアイテムが出現するものもあるが、懐の大きな世界観がなんとなくカバー出来ていてアンバランスさが面白いと言うファンも多い。
最終更新:2023年12月15日 21:26