アディのおくりもの

【あでぃのおくりもの】

ジャンル パズル
対応機種 プレイステーション
発売元 Sony Computer Entertainment
開発元 アディソフトウェア
発売日 2000年2月3日
定価 5,800円(税別)
プレイ人数 1人
レーティング CERO:A (全年齢対象) *1
配信 ゲームアーカイブス
2008年3月12日/572円(税別)
判定 ゲームバランスが不安定
ポイント 水彩画風の心地よい世界観
オリジナリティの高いパズル
難易度は天才向け

概要

かつてSony Computer Entertainment*2によって行われていたゲームクリエイター発掘オーディション「ゲームやろうぜ!*3」によって発売に至ったパズルゲーム。

夢の世界へ迷い込んだ少女・アディが、物を別の物へ変えられる不思議なおもちゃを使って探検しつつ、友達によく似た男の子を追いかける…という大変童話的でハートフルな展開を想像させるストーリーだが、パズルの仕様および設問が異常に難しいのが特徴である。


ストーリー

アディが9歳の誕生日を迎えた夜、友達のエミィがやってきて「ログロック」というおもちゃをくれました。
ずっと欲しかったログロックに喜ぶアディですが、手放す理由を聞くと、両親が離婚して兄のモーゼも家を出るため要らなくなったのだと言います。

エミィが帰った後、部屋の窓の外にはモーゼがいて、1台の壊れたオルゴールを手渡してきました。
「そのオルゴールはね、父さんが母さんにあげた初めてのプレゼントなんだ。何度も直そうとしたけどダメだった……だからもういいんだ」

モーゼとの別れに戸惑いつつ眠りについたアディは、森に囲まれたお墓の上で目を覚ましました。
探索するうち大きな鳥かごに捕まっている少年を見つけたアディは、ログロックの力を使って「鳥かご(CAGE)」を「鐘(BELL)」に変えて助け出します。
そのモーゼによく似た少年「ジョーカ」に誘われて、アディの夢の世界での冒険が始まります。


ログロックについて

本作のキモとなる「ログロック」に関して記載する。
長文となるが、これらは全てログロックというたった一つのおもちゃに関する基礎知識であり、実際にゲームを攻略するには以下の仕様を覚え込み、いずれも駆使する必要がある。

大まかな目的

  • まずざっくりと言えば、ログロックを使って「問題開始時点の英単語を、指定された別の英単語に変えることができれば」その問題はクリアとなる。
    • アディの現実世界でのログロックはただそれだけのパズル玩具だが、夢の世界のログロックは対象物そのものも変更後の単語に変えてしまう。

ログロックの形状とパズルの目的

  • ログロックは横長のダイヤル錠のような形状で、1つのリングには「A~Z」26文字の鋲(形状からコインと呼ばれる)が縦方向に並んでいる。
    • リングの数は問題により異なり、1~8個までのパターンがある。
  • これらのリングを動かし、指定された英単語をログロックの中央行で完成させるのが目的。
    • ちなみにこの問題開始時の状態と目的の英単語は問題ごとに固定であり、開発者や愛好家の間では「○○ 2(to) ○○」(CAGE 2 BELLなど)と表現された。

ログロックのスライド操作と連動

  • リングはスライドさせることで当然1字ずつ変化する(A ⇒ B ⇒ C ⇒…またはA ⇒ Z ⇒ Y ⇒…)が、この時、全てのリングが連動して同方向にスライドする。
    • 例えば「LOCK」という状態から「L」を「M」へスライドすると、同時に「OCK」も動作して「MPDL」となる。
    • ただし、リングは最大1つまで外して「ストック」することができ、外した箇所から先は連動しない。「LOCK」の「C」を外してから「L ⇒ M」とした場合、「O」だけが連動して「MP K(ストック:C)」となる

リングの入れ替え

  • 外したリングは元の場所に戻すこともできるが、既にリングのある列と入れ替えしても良い。
  • なお、ストック中のリングに対して文字を変える操作はできない。

回転と鏡文字

  • リングはスライド操作の他、90度回転(時計/反時計)、180度回転、鏡文字化を行える。
    • 例えば「L」を時計回りにすれば「r」となるし、「M」を180度回転すれば「W」、「S」を鏡文字にすれば「Z」となる。
  • このように離れた文字に変えた場合、リング上のコインはアルファベット順に並び替えされる。つまり「M」を「W」にした後、下スライドさせると「X」となる。
  • この回転と鏡文字操作も、他のリングへ連動する。

手数について

  • 上記までに触れた「スライド」「リングの取り外し/装着/入れ替え」「回転」「鏡文字」はいずれも1手として換算される。
  • 問題にはそれぞれ「クオリファイ」(目標手数)と「レコード」(想定最少手数)が設定されている。
    • アディはHPのような扱いとなるポイントをゲーム全体通して所持しているが、クオリファイを超過してクリアするとその分のポイントが減少してしまい、0になるとゲームオーバーとなる。
    • クオリファイ未満でクリアした場合はその差だけポイントが増加する。
      • ちなみにレコード未満となった場合は「レコードブレイク」という特殊演出が表示されるが、ポイントの扱いはあくまでクオリファイからの差分のみが影響する。
  • 1回の操作でリングが幾つ動作したとしても1手であるため、できるだけ複数のリングを連動させていっぺんに完成に近づけた方が得となる。

大文字・小文字の扱いについて

  • アルファベット26文字はそれぞれ「大文字か小文字か」決められた方しか有効にならない。
    • ログロックで使われる文字は、電卓のような7セグに斜線や例外的な直線を含めた単純な形状であり、例えば「R」や「Q」といった文字が表現できない。
    • そのため、本作の仕様として「abCdEFghIJKLMNOPqrSTUVWXyZ」以外の大文字小文字はそれっぽく見えてもアルファベットとしては認識されない*4

認識されない文字の取り扱いについて

  • 回転や鏡文字によって無効な文字となってしまった場合、例外的にリングの全コインがその無効文字に変化する。
  • 例えば「a」を鏡文字にして「6」のような形状となった時、再度鏡文字で「a」に戻すか、180度回転させて「g」にするかしない限りどれだけスライドさせても「6」のままとなる。

ボムコインとボーナスコイン

  • 問題によっては特定の文字に特殊ルールが設定されている。
    • いずれかのリングを「ボムコイン」に指定された文字に変えてしまった場合、即時所持ポイントが減算されてしまう。
    • 反対に「ボーナスコイン」に変えた場合はクリア時の所持ポイントに倍率がかかるようになる。
    • これら特殊コインは効果が発動するまで(その文字にしてしまうまで)どの文字が該当するのかわからないようになっているが、「あと1手で特殊コインになる」という状況になるとコントローラが振動し、アディも固有アクションを取るので推測することが可能。
      • また、これらコインが設定された問題は、開始時のジングルが専用のものとなる。

スリップリングと固定リング

  • こちらも問題によって出現する特殊リング。スリップリングは青く、固定リングは赤いため見分けがつきやすい。
    • スリップリングは他のリングからの連動を受けないし、連動させることもない。
    • 固定リングは連動が発生するうえ、取り外すことができない。

評価点

  • 独創的ながら完成度の高いパズル仕様
    • 文字を使った言葉遊びに類するが、「文字自体を回転・反転させる」「他の文字にも連動する」点で他にないオリジナリティが生まれている。
    • 例えば「M」から「r」にしたい場合、普通にスライドさせると「M ⇒ N ⇒ O ⇒ p ⇒ q ⇒ r」で5手だが、MからLにスライドして90度回転させれば2手で済む。また、「pS」から「dS」にしたいのであれば、「S」を外してp ⇒ dに単独変化させるよりも、「S」の形状を活かして「pS」を丸ごと180度回転させれば1手で「dS」になる。
    • こうした「思わぬ効率化」が気持ち良いつくりであり、特に多量のリングを同時に動作させていっぺんに答の英単語が現出した瞬間などは、自身で操作していながら手品を見ているかのような驚きが生じる。
    • ちなみに本作の中でもひときわ輝く良問に「COW 2 CaT」がある。普通に考えれば11手*5だが、先述の仕様を読み込めば6手まで削減できる。是非挑戦してみてほしい。
  • 設問がおしゃれ
    • ほとんどの問題はストーリーに沿う形で変化前のものと変化後のものが定まっており、先に記したように「鳥かご」を「鐘」に変えて底を開けたり、道をふさぐ「牛」を「猫」に変えたりといった具合の設問となっているが、ゲームクリア後に挑戦できるスペシャル問題は語句の選択そのものが洒落たものになっている。
    • 一例として「dEaTh 2 bIrTh (死 ⇒ 誕生)」「apE 2 MaN (猿 ⇒ 人)」「gIrL 2 Lady (少女 ⇒ 女性)」「LOVELOrN 2 mEmOrIES (失恋 ⇒ 思い出)」などがあり、ストーリーには関与しないただの問題のひとつでありながら、(アディ自身の成長といった考察性を含め)印象に残る内容といえる。
    • また本編ラストの問題は目的の英単語が明かされず、「何の英単語にしたか」によって2通りのエンディングに分岐する凝った仕様。
  • 質の高いBGM
    • BGM制作を『XI』シリーズや『フリーダムウォーズ』で知られる足立賢明などが担当しており、全編通してクオリティの高い楽曲が揃っている。
    • オルゴールによる物悲しいメインフレーズから始まりながら徐々にギターやパーカッションがシャッフルリズムで重なってくるタイトル画面BGMや、フルートとエレピを多用したボサノヴァ調の大通りBGMなど、耳に心地よい曲が多い。
  • 水彩風の淡く爽やかなアートコンセプト
    • 本作のイラストは基本的に水彩画で描かれており(一部は鉛筆画)、ゲーム内でも歩行エリア外の背景などは水で滲んだような風合いがよく表されている。
    • 夢の世界が舞台とはいえ多くのロケーションが「青空」や「緑」といった爽やかな要素を含むものとなっており、上記のBGMと相まって、大変気持ちの良い雰囲気を形成している。
    • また、一部のマップでは特別なスチルが表示されるポイントがある。このイラストは当時公式サイトでもPC向け壁紙として配布されており、こうしたアートコンセプトが本作のアピールポイントとされていたことが窺える。
  • 常にアディの全身絵が表示される仕様
    • まず本作の3Dキャラクターについて、PS2発売直前の作品ではあるがモデリングが少々粗く、またしもぶくれ気味であまり可愛らしさがない。この点は問題点というほどではないものの少々残念な点ではあるのだが、それを補完するものとして、常に画面右側でアディの全身イラストが表示されるようになっている。
    • この2Dアディはプレイヤーの入力に応じて3Dモデルと一緒に歩行アニメや走行アニメに切り替わったり、調べられる対象に近づいた際はハッとしたような専用モーションをとったりと状況に合わせて変化し、アディの表情がかなり解りやすくプレイヤーに伝わるようになっている。
    • 3Dマップが固定カメラである都合上、3Dアディは殆ど背中を向けたままだったりあまり大きく描画されなかったりするが、この仕様によって、キャラの感情表現とプレイアビリティの確保が成立している。

賛否両論点

  • ボイスがない代わりにジングルが鳴る
    • 当時はボイスつきゲームも一般的になっていたが、本作ではその代わりに「キャラクターがしゃべる度に楽器が鳴る」という珍しい表現手法が取られている。
    • いずれも1秒程度の短いもので、例えば嬉しい時は明るいフレーズが、悲しい時は短調のフレーズが…と、ミュージカルのような雰囲気が醸し出されているのだが、モブ台詞の繰り返し応答であろうと毎度鳴るうえ、それなりに1つのメロディとして成立しているものであるため、若干煩わしく感じられるかもしれない。
      • 特に他者を突き放すような性格を持つエミィ(夢の世界ではイライザとして登場)はヒステリックな不協和音のヴァイオリンを頻繁に鳴らすため、なまじボイスよりもピリピリした雰囲気が伝わってくる。
    • ちなみに楽器種はキャラクターごとに割り当てられており、アディであればオルゴール、ジョーカであればアコースティックギターとなっている。アクター=楽器と言えるもので、繰り返しになるが結構珍しい演出といえる。

問題点

  • パズルが純粋に難しい
    • 「ある単語を別の指定された単語に変える」と聞けばシンプルだが、実際には既に記載した通り文字の回転や反転を駆使する必要がある。
      • 基本的にクオリファイ以内でのクリアを求められることから常に複数リングの連動を考慮しなくてはならない。
      • つまり、異なるアルファベットに対して「これらの2つ前のアルファベットはそれぞれ何か」「すべて回転や鏡文字化させるとどうなるか」などというこのゲームでなければ考える必要のない発想を要するため、非常に頭を使う。
      • 例えば「ShOE 2 CLOg (靴 ⇒ つっかけ)」という問題は僅か7手詰めだが、「Sh」の2つ先にある「UJ」を右90度回転すれば「CL」になると察知できるかが勝負になる。本当にそういうことを考え続けるゲームである。
    • とりわけ難しいのが無効文字の扱いであり、例えば「2リング同時に回転させて一方だけを無効にし、残った方をスライドさせる」ことでリング付け外し分の手数を節約する技があるが、「どの時点で無効にするか」「有効な文字に戻す時に別のリングへどう影響するか」の考慮がかなり難しくなってくる*6
      • しかもこうした技が夢の世界に来た一発目から求められる。
    • フォローすると最初の難問はあらかじめメニューから練習できるし、他の練習問題もあるので習熟環境は用意されているのだが、ストーリー面では割と早い段階で5リング問題やレコード2ケタ問題が出てくるため、序盤から詰まる可能性は十分にあると言える。
      • また、操作体系を学べる練習問題は用意されているものの、どういうアプローチで発想すればレコードに近づけるのかといったメソッドは記されていないため、結局は個人の根気によるところが大きい。
    • ちなみに一応当時の公式からは「リングを端に残してその横を空けておき、1つずつ目的の文字に変えていけば手数がかかってもクリアできる」という必勝法が公開されてはいたが、その場合は次の問題が生じることになる。
  • ポイントを稼ぐ手段に乏しい
    • 先述の通りアディが持つポイントは0になるとゲームオーバーになってしまううえ、加算する手段が「問題をクオリファイ未満で解く」しかない。
      • クオリファイはレコードの1.2~1.5倍程度であることが多いが、そもそもレコードの時点で開発者が熟考のうえ編み出した最少手数であるため、「クオリファイちょうどでもやっと」な問題が度々ある。そのため思ったように稼ぐのが難しい*7
    • 一度クリアした問題はメニューから再チャレンジできるが、そこでは加算対象とならないためポイントを確実に稼げる手段というのは無いことになる。
      • 更に、任意ではあるがログロックのデザイン変更機能があり、その拡張にもポイントが必要となっている。
    • そのため手数にこだわらずに進めていると終盤になるほどジリ貧となり、「ロクにパズル慣れしていないのにクオリファイ以下で解かない限り詰む」という事態に陥りやすい。
  • 「徒労」が多いストーリー
    • 物語上の目的は主に「アディを置き去りにして消えたジョーカを追う」もので、そのため夢の世界の住人たちと交流することになるのだが、無関係な行動やおつかいが多く、前向きに進んでいく面が感じられにくい。
    • 例えば「ジョーカの所へ案内する」という人物についていったのに喫茶店でからかい話をされただけで終わったり、目撃情報にありつけたと思ったら似た特徴の別のキャラクターのことであったりと、そうした小イベントの度に街じゅうを駆けまわる羽目になる割には実質的な進展はない、という展開が多い。

総評

ログロックというパズル自体は非常に斬新かつ高品質なものであり、言葉遊びや図形パズルが好きな人にはオススメの作品。
しかし「複数の異なるアルファベットの変化を並列で考える」という本パズルの根幹がそもそもパズルマニア向けの発想である。
そのためどれだけチュートリアルに手心を加えたところで純粋に難しいストロングスタイルな出来となっている*8
腕に覚えのある方であれば、PS3のゲームアーカイブス提供が終了しないうちにプレイしてみても良いだろう。


余談

  • アディの開発中の名前は「アズ」だったことが当時開発者のブログで記されていた。
    • これは「aからzのアルファベットを統べる者 ⇒ az (アズ)」の意味があったとのこと。
+ タグ編集
  • タグ:
  • 2000年
  • PS
  • PZL
  • ソニー・コンピュータエンタテインメント

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2023年12月05日 13:46

*1 ゲームアーカイブス配信時の審査による

*2 2016年に「Sony Interactive Entertainment」に変更。

*3 1995年から1999年まで開催。

*4 例えば「C」を時計回りに90度回転させた文字は「n」に見えるが、これは無効文字扱いである。

*5 ①「O」を外す ②~⑤「W」を「a」までスライドさせる ⑥ストックしていた「O」を「a」と入れ替える ⑦~⑩「O」を「N ⇒ Z ⇒ S ⇒ T」と変化させる ⑪ストックしていた「a」を空いている場所に入れる。

*6 「FX 2 gO」という問題があったとして、普通なら「①Fをストック」「X ⇒ ②Y ⇒ ③Z」「④Z ⇒ N」「⑤Fを戻して⑥FN ⇒ gO」の6手となるが、初っ端①右90度回転でXを維持しつつFを無効文字にし「X ⇒ ②Y ⇒ ③Z ⇒ ④左90度回転」とすればNになったついでにFが戻るので5手にできる。

*7 また、レコード:8、クオリファイ:10のようなうまみの無い問題もたまにある。

*8 ある意味このゲームの最も不思議な点は「この難易度のパズルで9歳の女の子が主人公なところ」であろう。