ゴシックマーダー -運命を変えるアドベンチャー-
【ごしっくまーだー うんめいをかえるあどべんちゃー】
ジャンル
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ロマンティックアドベンチャー |
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対応機種
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Windows/Macintosh (Steam) Nintendo Switch プレイステーション4
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発売・開発元
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オレンジ
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発売日
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【Steam】2020年2月13日 【Switch】:2020年3月12日 【PS4】:2020年7月30日 追加コンテンツ(Switch):2020年7月22日 追加コンテンツ(PS4):2020年11月26日
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定価
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【Steam/Switch】:1,200円(税込) 【PS4】:1210円(税込) 追加コンテンツ(Switch):360円(税込) 追加コンテンツ(PS4):330円(税込)
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プレイ人数
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1人
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レーティング
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CERO:B (12歳以上対象)
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判定
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良作
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ポイント
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小ぶりながら濃密なストーリー展開 主人公(推理力:A 観察眼:A 素早さ:SSS)
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概要
神宮寺三郎シリーズ(『GHOST OF THE DUSK』以降)の開発のほか、推理アドベンチャー『イヌワシ』シリーズを手掛けるオレンジがリリースしたテキストADV。
20世紀初めのイギリスを舞台に、予知夢を見る少女が事件を未然に防ぐために奔走する、という少々変わった筋書きだが、システム面はスタンダードな推理モノである。
なお、公式のジャンル名が「ロマンティックアドベンチャー」である通り、少量ながら女性主人公視点の恋愛要素がある。
ストーリー
両親の死に伴い、伯爵家に仕えることとなった新人メイド・エリーは、他者の死を夢で予知する能力を持つ。
そんな彼女がある日見たのは、当主・アーヴィングの死を示す夢。折しも屋敷は先代の奇妙な遺言を巡って不穏な様子を見せていた。
エリーは殺人を阻止すべく持ち前の推理力を発揮するが、当主を狙う魔の手は1つではなく――
果たしてエリーは陰謀渦巻く館でアーヴィングを守り切れるのだろうか。
登場人物
公式サイトに名前のあるキャラクターについてのみ記載する。
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エリー
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主人公。他者の死を予知夢によって目視する能力を持ち、雇い主に迫る危機を察知したことをきっかけに事件へ巻き込まれていく。
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寝坊癖のある新人メイドだが、一方で推理小説を読む趣味があり卓越した観察眼と推理力を有する。
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探求心も非常に強く、しばしばメイドの立場を忘れ他者のプライバシーに踏み込みがち。
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アーヴィング
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エリーの雇い主にあたる若き伯爵。
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寮生活中の学生であったが、先代当主の死に伴い、次期当主として館に戻った。
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マアヒ
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霊媒師の女性。先代当主の遺した「降霊会で呼び出された際に本当の遺言を伝える」という謎めいたオーダーにより招待された。
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ユーイン
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降霊会に招待された平民の青年。アーヴィングとは面識がなく、なぜ呼ばれたのかは本人も分かっていない。
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ウィリアム
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同じく降霊会に呼ばれたアーヴィングの叔父。貿易商をしているが、金に困っている。
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ルイザ
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先輩メイドである活発な少女。噂好きで、貴族たちの会話をよく盗み聞きしている。
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システム
基本的には多くのテキストADV同様、文章を読み進めつつ、合間に選択肢を選んで進行する。
以下では特筆すべき2点のモードについて記載する。
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サーチ
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室内の怪しい箇所を調べる際に開始される、探索モード。
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任意のポイントをカーソルで選ぶようなクリック形式ではなく、調査可能な場所にアイコンが表示され、それらを方向キーで選択して調べる方式。
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調べるだけではなく、アイテム欄から関連する手掛かりを組み合わせないと話が進まない場合もある。
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クエスチョン
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事件発生を防ぐため、重要人物と1対1で会話するモード。
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エリーと相手にはHPの役割となるポイントが設定されている。
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適切な質問と手掛かりの提示によって相手のポイントを0にすればストーリーは進行するが、誤った選択をするとエリーのポイントが減少し、すべて無くなるとゲームオーバーになる。
評価点
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短編にしては密度の濃いストーリー
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スムーズにいけば3時間もかからないコンパクトなボリュームだが、内容はやけに込み入っている。
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降霊会の開催を求める不思議な遺言に始まり、各キャラクターがそれぞれ抱える秘密や、或いは誤解が絡み合い、物語としてはかなり複雑。
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しかしそれらがうまい塩梅で提示されており、無理なく理解可能なペースで展開していく。
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やや描写があっさり気味な場面もなくはないが、ラストまで油断できないシナリオとなっており、ロープライスの推理ADVとしては十分に達成感が得られる内容といえる。
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主人公がグイグイ物語を引っ張るためストレスが少ない
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エリーが大人しめなビジュアルに反してかなり行動派であり、会ったばかりの上流階級者相手でも質問責めにする胆力を持っている。
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貴族に仕えるメイドという立場ゆえに得られるはずの手がかりが得られない、なんてことはなく、きっちりその時点で獲得可能な情報は聞き出してしまう。
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そのためプレイヤーの攻略欲求を阻害する場面や、それによるストレスはほとんどない。
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「死を夢で予知する」という奇抜な設定がちゃんと活きている
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一般的な探偵モノのように「起きた事件に対して捜査する」のではなく、「これから起きる殺人を阻止する(事件そのものを起こさせない)」のが目的であるため、予知夢を見るというキャラ設定が最後まで活かされている。
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また、事件を最初に「夢オチ」として処理することで、死体を見せるインパクトと、誰も死なない平和的な結末という矛盾する要素の両立にも繋がっている。
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推理モノにおいてこうした超常能力は、途中でおざなりになったり自然消滅すらあり得るものだが、本作については最後まで死に設定にならず活かされている。
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加えてエリー自身、予知夢によって最初からどんな事件が起きるか解っているため、捜査の初速が異常に速い。
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前項の評価点と合わせて、スピーディな展開の要因となっている。
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BGMが推理ゲームとしてぴったり
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楽曲は12曲とこれもまた短編ADVにしてはやや多めであり、その分様々なムードに対応している。
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奇抜な楽曲は無くむしろベタであるとすら言えるが、それゆえ物語の理解や推理を阻害しない。
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例えば調査中BGMは『007』シリーズのイントロのように伴奏の最高音が半音ずつ上がっていくいやらしい曲調。わかりやすく「緊張感」「高揚感」を持たせるがそれ以上の主張はしない、というものになっている。
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一方で佳境でのクエスチョンモードで用いられる『追及2』のテーマはポリリズムを取り込んだ勢いの良い曲であり、これはこれで緊迫した状況とマッチし、プレイヤーの気分を盛り立てる。
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オートセーブが細かく、リトライが楽
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合間合間でオートセーブが行われており、特にクエスチョンにおいては相手のポイントを減らす度に保存が行われている。
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そのため途中、例えば4問中の3問目などでゲームオーバーになったとしても、オートセーブからのリトライでその3問目からすぐにやり直すことができる。
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その質問が開始された時点でのエリーのポイントも保存されてしまっているため再度即死ということもあり得るが、正解済みの質問をやりなおさなくて良いメリットもあるため気になりにくい。
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この仕様による詰みも無いため、1人でプレイするなら正規のセーブは必要ないとすら言える。
賛否両論点
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アーヴィングが命を狙われ過ぎて変な意味で面白い
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事件を防いでも文字通り「一難去ってまた一難」でアーヴィングは命を狙われ続けることになる。
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最初こそプレイヤーもエリー同様、凶行に斃れる悲運の貴族の姿に「どうにか死の運命から遠ざけなければ」と思わされるが、2度3度と続くとそのトラブル気質がギャグのように見えてくる恐れがある。
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目を離した隙に単独行動を起こす場面も複数あり、人によって庇護欲を抱くか、世話が焼けると思うか分かれるところだろう。
問題点
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調査箇所が多いマップでカーソルの移動先が分かりにくい
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サーチモードでは前述の通り、調査可能な箇所に表示されたアイコンをカーソルが行き来する形となるが、その都合上アイコンは部屋中に散在しており、どのボタンを押せばどのアイコンにカーソルが飛ぶのか分かりにくいケースがある。
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例えば今カーソルのある箇所の右上と右下に別のアイコンがあった時、「右」を押すとどちらに飛ぶべきかというのは一概に言えず、あるプレイヤーによっては問題なくとも、別のプレイヤーにとっては直感に反する動きとなってしまう。
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そのため「調べるべき場所は解るのにそこへカーソルを移動する操作手段に自信が持てない」という事態になり、変な所でゲームプレイを阻害する恐れがある。
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マウス操作が不便
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SteamのPC版はマウス操作に対応しているのだが、一般的なPCノベルゲームの操作感とは異なるUIのため使い勝手が今ひとつ良くない。
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一般的に、ノベルゲームはコントローラではなくマウスの方が操作しやすいと感じる物であるが、本作に限ってはマウスよりコントローラの方が使いやすいと感じてしまう。
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以下に不便な操作の例をいくつかあげる。
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システムメニューが右上、アイテムや人物情報を開くメニューが左上、そして文章を読み進めるには「画面下部のメッセージウィンドウをクリック」する必要があるため、ゲーム中はマウスカーソルを頻繁に隅から隅へ移動させる必要がある。
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メッセージウィンドウ消去が右クリックではなく「メニューかメッセージウィンドウ以外の部分を左クリック」のため、メッセージ送りしようとしてマウスカーソルがずれていた場合にウィンドウが消去されてしまう。演出としてのウィンドウ消去なのかクリックする位置が悪くて消去されたのか一瞬判らないため、その度にゲームプレイが変に止まってしまう。
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バックログがホイール操作できず、メッセージウィンドウ下部のバックログボタンを押す必要がある。しかも右クリックで閉じることができず、[×]ボタンをクリックするかバックログウィンドウ外を左クリックする必要があるため、ここでもカーソル移動の距離が必要。
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アイテム・人物情報ウィンドウでは、「アイテムをクリックして使用」や「アイテムをクリックして選択、『使用』ボタンで使用」と言う一般的な動きではなく、「カーソルオーバーで選択、『使用』ボタンで使用」という動きをする。しかも『使用』ボタンの位置がマウスに最適化されていないため、「使いたいアイテムを選択して使用ボタンにカーソルを移動させようとしたら隣のアイテムに切り替わってしまった」という誤爆が頻発する。誤爆を避けるためには、マウスカーソルを一度真上に大きく逃がしてから『使用』ボタンを目指す必要がある。ここでもカーソル移動距離が無駄に伸びる。
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この仕様が最大の障害になるのが
コンフィグ画面
である。詳細は省略するが、
電流イライラ棒の様なコンフィグ操作は色々な意味で必見である。
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バックログがセーブされない
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評価点に記載の通りオートセーブが便利である一方、バックログまでは保存されておらず、ロード時に全消失している。
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これ自体はごく一般的な仕様だが、なまじクエスチョンの途中でセーブされるため、「いま何の話をしていて何を聞かれてるんだっけ?」ということになりがち。
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単体の機能の問題というより、オートセーブのシステムと噛み合わせが悪いというところである。
総評
プレイ時間3時間ほどというと少なめに感じるが、謎まみれの濃密なストーリーで十分な満足感を得られる一品。
命を狙われっぱなしの当主に対し、主人公の手際の良さが心地よい。
聡明で堂々としたその姿には、作中人物のみならずプレイヤーまでも頼りがいを感じてしまうだろう。
クエスチョンの難度も低過ぎず理不尽過ぎない、少々の手ごたえを感じられる程度であり、ライトな推理ADVを求める層にもオススメしやすい。
最終更新:2023年05月31日 19:53