幻想のアルテミス

【げんそうのあるてみす】

ジャンル 恋愛アドベンチャーゲーム
対応機種 プレイステーション
発売元 翔泳社
開発元 アストロビジョン
発売日 2000年1月27日
価格 6,800円(税別)
プレイ人数 1人
レーティング 【GA】CERO:B(12才以上対象)
配信 ゲームアーカイブス:2008年10月29日/600円
判定 なし


概要

人里離れた芸能学校を舞台に事件の調査を行う推理&恋愛アドベンチャー。
元々は「一風変わったギャルゲーを」という依頼で製作されたものであり、サスペンスと恋愛の両方が盛り込まれている。


ストーリー

生駒アクトレス・スクール。多くのトップアイドルを輩出した女子専門芸能学校だが、ここで一つの事件が起こる。
校内トップクラスとされ、業界でも有名な生徒・高原かおるが学校の屋上から転落死したのだ。
警察は自殺と判断したが動機は謎のままであり、校内の混乱は収まらなかった。
そこで理事長の生駒江里子は真相がはっきりすれば生徒達は落ち着くと考え、日下部探偵事務所を訪れる。
しかしそこに居たのは、亡き父から事務所を継いだばかりの新米探偵・日下部恭一であった。
然程難しい依頼でもないということから、生駒は恭一に高原かおるの自殺の真相解明を依頼。
恭一は身分を隠し、臨時講師として生駒アクトレス・スクールに滞在する事となった。
「女の園への招待」に釣られて軽い気持ちで依頼を受けた恭一だが、やがて彼は自殺騒動の裏に隠された真の事件を知る。


登場人物

+ クリックして展開
  • 日下部 恭一(CV : なし)
    • 主人公。大学生だったが探偵業を営んでいた父の急死により事務所を受け継ぐ羽目になる。尾行や調査などの基本知識は備えているが、探偵としては素人同然。
    • 姿はイベントスチルで表示されるが、顔は常に隠れるようになっている。
  • 国栖 みこと(CV : 川澄綾子)
    • 生駒アクトレス・スクールの生徒で、舞台女優志望。快活だがやや天然ボケ。学園内では有望視されているが当人は芸能界に慣れていない、良くも悪くも普通の少女。
  • 三香原 さらさ(CV : 柚木涼香)
    • 生駒アクトレス・スクールの生徒で、ファッションモデル志望。既にグラビアモデルとしても活動している。プライドが高く高圧的な性格だが…。
  • 泊瀬 こずえ(CV : 篠原恵美)
    • 生駒アクトレス・スクールの生徒で、歌手志望。淑やかだが感情表現に乏しく、演技もからっきし。しかし歌唱力は日本トップクラスと評されるほど。何故か三香原さらさの付き人を務めている。
  • 姫島 萌(CV : 西原久美子)
    • 生駒アクトレス・スクールの生徒で、学園のマスコット的存在。元有名子役で、10年に1人と言われる芝居の天才児でもある。しかしその高過ぎる演技力はある種の危険性を孕んでいる。
  • 生駒 良子(CV : 大谷育江)
    • 理事長の姪。芸能人ではなく作家志望だが訳あって生駒アクトレス・スクールに入学した。主人公のサポート役を務める。
    • 5人目のヒロイン候補であり、上記の4人全てとエンディングを迎えた後にルートが解禁される。

特徴

  • 生駒アクトレス・スクール内を移動して調査を行う。
    • 校内はいくつもの行先が存在し、赴いた先で人と会話したり調べたりして進行する。
    • 会話時には手持ちの話題から質問が可能。
  • 事件に関わる会話の他、各ヒロイン候補との交流イベントも発生する。
    • ヒロインの親密度を上げたり、イベントスチルを回収する。また、親密度に影響する選択肢も表示される。
    • ストーリーや親密度に関係なく、ただ人と会うだけのケースもある。どこで誰に会うかはランダム性が強いが、基本的にマップを回っていればその時点でイベントのある相手に一通り会えるようになっている。
  • その日の必須イベントを全て起こすと主人公が「もうこんな時間だ」などと発言し、部屋に戻るとセーブを挟んで翌日へ移る*1
    • しかし必須イベントだけでは事件解決など到底不可能であり、隠されたイベントを起こして情報を得なければならない。行くべき場所は主人公の独り言などでヒントは出るが、出ない場合もある。
    • イベントは日を跨いで起こる場合もあり、必ずしもその日のうちに全部のイベントを消化しなければならない訳ではないが、どのイベントが日を跨ぐのかは実際にやらないと分からない。
  • 自室では証拠や証言の検証、キャラのプロフィールやヒロインの親密度の確認ができる。
    • 検証によって主人公が新たな手掛かりに気付くこともある。
  • 事件解決には当該ヒロインとの親密度が必要。そして事件が解決しても、告白を受け入れられなければハッピーエンドにはならない。
    • ハッピーエンドを迎えたヒロインとはタイトル画面から後日談のショートシナリオが閲覧可能。

評価点

  • 題材の独自性
    • よくある学園ものではなく芸能学校という設定を採択しており、芸能界の厳しさ、夢に向かって努力するヒロイン、出世を巡る足の引っ張り合いなど舞台を活かしたストーリーが展開される。
  • ルートによって全く変わる展開
    • ヒロインのルートに応じて発生する事件が全く異なったものになる。被害者も犯人も事件の背景もがらりと変わり、毎回違った展開が楽しめる。
    • ADVでルート毎にストーリーが独立しているのは至って普通の事だが、本作では根本的な設定から異なっており、あるルートではモブ同然だったキャラが別ルートでは重要キャラになったり、前提にある人間関係や舞台設定がそもそも違ったりと、ルートをクリアするほど驚かされる一面もある。
    • 発端の女子生徒の転落死に関しても、その真相はルートに応じて全然違ったものになる。
  • キャラに魅力はある
    • 天然正統派、高飛車ツンデレ、物静か、天真爛漫、お騒がせ眼鏡と、各ヒロインはキャラ付けが分かりやすく、また同じ芸能人志望でもその志向はバラバラで差別化されている。
      • 加えて後年にはベテランとして名を馳せる声優陣の演技が個々の魅力を際立たせる。特に萌は同声優が演じた『サクラ大戦』のアイリスなどを彷彿とさせるあざとい妹系キャラだが、作中でも語られる通り演技時には鬼気迫る声で驚愕させてくれる。
    • どのルートもクライマックスには危機に陥ったヒロインを救う展開が待っており、感情移入度が強いほど奮い立たせてくれる。
    • ヒロイン候補以外も個性的なキャラが揃っている。ごく一部を除き、どのキャラも最低1ルートは何かしら本筋に関わる展開が用意されている。
  • 調査・推理が不十分でゲームオーバーを迎えても、丁寧なヒントが表示される。

問題点

  • 仕様に噛み合っていないヒロイン選択
    • 通常、ルート分岐系の恋愛ADVでは、共通ルートで恋愛対象の親密度を上げるなどの条件を満たし、それに応じて進行ルートを決定するという仕様が多い。対して本作では1日目終了時にヒロイン候補の中から「誰が気になるか」を選ぶ形でルートが決定する。1日目の行動や親密度は関係無い。
    • しかし親密度アップイベントはルート決定後も全員分平等に発生する。事件解決後の告白シーンもルートに関係なく、好きなヒロイン候補に告白可能となっている。
      • いくら親密度アップイベントを起こした所で当該ルート以外のヒロイン候補など、到底エンディング条件値には届かないので、実質的に無駄な要素になっている。
    • そもそも、各ルートではそのヒロイン一筋で行動し、両想いの雰囲気で進行する。にもかかわらず、後から告白相手を変えたり、親密度が足りないからとあっさり断られるのはそれまでの流れをぶった切るようで不自然である。
      • 一部ルートは、親密度が足りないと必要な情報が得られなかったり途中でバッドエンドになる。全体的にその仕様で良かったのではないだろうか。
    • 告白シーンもその設計故か汎用感が強く、本編の出来事をほぼ反映していない。
      • また、事後についても真っ暗な画面の主人公のモノローグであっさりにしか語られないので、推理と行動によって事件を解決したという実感があまり湧かない。
  • 推理ゲームとしての薄さ
    • イベントの起こる場所に赴いてそこのイベントを見て…を繰り返すだけで進む事が多く、能動的に証拠や証言を集める必要性やコマンドの意味は薄め。
    • 人と出会っても多くの場合は出会い頭と去り際のやり取りで済み、その後の質問や周囲を調べる事で進行フラグが立つ機会は多くはない。
      • 質問できる話題も少なく、1ルートで3~5程度しか手に入らない。せっかく個性的なキャラが登場するのに大抵は即「立ち去る」を選ぶしかなかったり、質問したとしても一言二言で終わるケースが多く、会話の楽しみもあまり無い。また、出会った人物に片っ端から聞くという総当たりがし易く、聞き込みの難易度も低い。
      • 一方、会話を終えて別れたキャラとはその日はもう会えないことが多いので、必須情報を得られなかった場合はゲームオーバー確定。結局、聞き込みも総当たりになりがち。
      • 最初から所持している「かおるの事件について」は誰に聞いても有力な情報は無く、役立つ場面は無いので実質無意味。
    • 「調べる」についてもストーリー上で調べる流れになる場面以外では特に意味が無く、自由行動中は主人公のコメントを聞けるのみ。従って、移動先で誰とも会えない=ハズレが確定する。
    • 特徴で上述した通りの仕様なので、さっさと寝ているとゲームオーバーに近付き、逆に「しらみ潰しに回って話を聞いてイベントが起きなくなったら寝る」で大抵は進めるというシンプルな構図となっている。
      • しかし説明書にはこの辺りについて書かれておらず、初見では主人公の言葉に大人しく従った結果、ゲームオーバーになりがち。
    • 全体的に事件の進み方が遅く、やっと推理が必要な事件が起きたと思ったら既に終盤だったりと、推理ゲームとしての量もあまり望めない。
      • 最初のうちは本当にうろうろするだけで日にちが進むことが多く、当初の目的を忘れそうになる。日を跨ぐイベントも多いので、前日のうちに必要なイベントを全部消化してしまい、後は本当に時間を潰すだけになってしまう場合も。
      • 無論、どのルートも後半~クライマックスには推理が求められるが、それまではひたすら彷徨く羽目になる事が多い。
    • 事件が起こったり証拠が手に入るのが遅い関係もあり、自室での証言や証拠の検証が必須なのは各ルートのクライマックスぐらいで早いうちは特にする必要が無い。推理の雰囲気が出るシステムだけに勿体ない。
      • 証言なら早いうちから検証可能だが、あくまで主人公が可能性や仮説を考えるだけなのでこれで捜査が進みはしない。
  • 構造上の関係か、どのヒロインもかなり早い段階で主人公に好印象を抱き、あっさりと仲良くなる。
    • みことは初日の夜から下の名前で呼ぶように言うし、萌については会って間もない時期からほぼベタ惚れ。奥手なこずえも、ガードの固いさらさも割と早く心を許す。
    • 親密になるまでの紆余曲折をしっかり見たい人には物足りないが、逆に気に入ったキャラと早く仲良くなりたい人にはあまり問題とならないだろう。
  • 原画とゲーム絵との乖離
    • パッケージや説明書に描かれた原画は繊細な絵柄だが、ゲーム中はアニメ絵となっている。アニメ絵の出来は良いのだがパッケージやタイトルから想起されるような雰囲気とは少々かけ離れている。
      • また、ヒロインは5人とも原画とゲーム絵で服装が全然違う。こちらでイメージを固めてから本編をプレイすると違和感に。
  • ボイス周り
    • ヒロイン候補と一部キャラは有名声優や人気声優を起用しているが、それ以外では演技力に欠けた声が見受けられる。男性キャラにはスタッフが演じているのかというほどの棒読みキャラもいる。
      • 特に萌ルートは棒読み気味の男性キャラが多めに登場するので、なまじ当該ヒロインの演技がズバ抜けている分、落差が目立っている。
  • システムについて
    • セーブが一日の終わりにしか出来ない。
      • そのためやり直しが面倒である。しかもどのルートのクライマックスにも、選択を誤ると即ゲームオーバーのデストラップがあるので失敗するとかなり戻される羽目に。特にみことルートには最後にリアルタイムの時限イベント(しかも猶予が短い)の初見殺しがあり、また同じ展開を見せられやすい。
      • また、あくまで部屋に戻った時点でのセーブなので、その後のイベントはまた見直しに。夜間には長いイベントも結構多いのでこれも面倒である。
    • メッセージ送りもキャラ絵の表示の関係で間があり、少々テンポが悪い。
      • また、キャラが画面中央に一人ずつしか表示されないので話者の切り替えで余計に間を生んでしまっている。
    • メッセージスキップは可能だが、やや遅めで注視すれば文章を読めるほど。
    • タイトル画面から解禁済みのイベントスチルが閲覧可能だが、選択画面では数字しか表示されないのでどれがどれだか実際に開かないと分からない。しかも順番は時系列通りではなくバラバラなので見たいスチルを探すのに苦労する。
  • 最終ルートについて
    • 4人のヒロインのルートを攻略すると良子ルートが解禁されるが、よくあるグランドルートの類ではなく、わざわざ最後に持って来た割には見合う内容とも言い難い。
    • 良子が生駒アクトレス・スクールに在籍している理由が明かされるのだが、そもそも本作はルート毎に根本的な設定が異なるのでこれもあくまでこのルート限定の設定である。
      • 実際、その明かされる理由にしても真相にしても他のルートとは噛み合わない。
    • 他のルートに比べて明らかに短く、内容自体も別ルートでは影が薄かった人物が唐突に黒幕化し、早々に悪事を暴いて成敗する展開であり、クライマックスもデフォルメ絵であっさり決まってしまうので感慨も何もない。事件もシンプル過ぎて推理の余地も無い。
    • 主人公が良子とくっつく過程も急過ぎてついていけない。良子自体が癖の強いキャラという点もあるが、他のヒロインのルートを体験していると尚更そう思える。これで本作のフィナーレを飾ると何とも言い難い気持ちになる。
      • 良子ルート攻略後はヒロイン5人の座談会的なショートシナリオが見られるが、この中でも良子は仕切り役になる上に主人公に「誰が本命なのか」と項目全てが「生駒良子」の選択肢を出して来たり、最後の記念撮影でも主人公を押し潰して中央を飾っていたりと、恋愛部分の薄さの割にかなり出しゃばってくる。
  • キャラの服装が中途半端
    • 作中の台詞からまだ寒い時期である事が分かり、しかも四方を森に囲まれた舞台で主人公も寒さを語るシーンがある。にもかかわらず普段着が半袖シャツのみこと、キャミソールのさらさなど、妙に薄着なキャラがごく一部いる。しかも2人ともスリットの入ったミニスカートを履いている上、一層冷える夜間にこの格好で出歩くシーンもある。
      • 他の登場人物は長袖の服を着ており、3日目のパーティーで生徒達が制服姿になるシーンでも皆冬服である。
      • 原画ではヒロイン全員が半袖や肩出しの夏服であり、当初は舞台設定が定まっていなかったのかもしれない。しかしそれなら全員分の服装を舞台設定に合わせるべきなのだが。
    • 前述のパーティーの他、OPでみことの制服姿が映ったり冒頭で死亡した生徒も制服だったりと、生駒アクトレススクールには正規の制服が存在することが判るが、実際はヒロイン候補も他の生徒もパーティーを除けば常時私服かレッスン用などの別衣装。学校の設定がいまいち分からない。
      • 一方、スクールにまともに通っていない良子だけ、何故か普段からどう見ても制服にしか見えない格好をしている*2。ちなみに原画では良子も私服である。

総評

推理要素に加え、製作陣が「普通の女の子じゃなく少し色を持たせたかった」と語るだけあり、普通のギャルゲーとは一風変わったプレイが出来る一作。
しかし探偵ものとして見ると『殺意の階層』『探偵 神宮寺三郎』『MISSING PARTS』などのような厳しい時間制限の縛りもない緩い作りだが、その分グダグダな捜査になりがちで、進展しているのかも分かりにくい話運びも相俟って、同系統のゲームに比べると事件の捜査をしている感覚は薄めであり、かと言って「難易度が低いから苦手な人にもオススメ」とも素直には言い難い。
恋愛部分も内容が悪い訳ではないが、ゲーム設計とはややズレた仕様に違和感を禁じ得ない。
本格的な推理&恋愛ゲームを求めるのではなく、「キャラや舞台設定が気になったから」ぐらいのそれこそ冒頭の主人公のような軽い気持ちでやるのが良いかもしれない。


余談

  • キャラクターデザインは雑誌『電撃プレイステーションD』の表紙で知られる猫有馬。
  • 監督は赤川次郎作品、とりわけ『三姉妹探偵団』を参考にしたと語っている。
    • 他にも推理小説の『Wの悲劇』、映画『雪の断章 -情熱-』を参考として挙げている。
  • 同年には小説版も発売されている。タイトルは『幻想のアルテミス 迷宮の少女』。
    • 萌ルートの後日談となっているが、本編で主人公が会ったキャラと初対面になっていたりと、メディアの違い故の差異がある。
  • 本作の登場人物には由来が存在し、女性キャラは万葉集に出てくる地名から取られている。
    • 一方の男性キャラは、5人がSMAPのメンバーから取られている。キャラとモデルの比較…はしない方がいいだろう。

+ タグ編集
  • タグ:
  • ADV
  • 翔泳社
  • アストロビジョン

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2024年03月01日 19:35

*1 元より必須イベントが消化済みの場合は適当にぶらつくとこの台詞が出る。

*2 他の生徒の制服を夏期仕様にした感じ。普段のバストアップだけではそこまで制服感は強くはないが、当人ルートのスチルで見られる全身図は完全に制服のそれである。しかし前述のパーティーでは他の生徒と同じブレザーに。なら普段着は一体何なのか。