成歩堂×千尋(in 春美)⑤

 春美ちゃんが遊びにきた日のことだった。
「ごめんね、春美ちゃん。真宵ちゃん、用があって今日は来ていないんだ」
 僕の言葉に、春美ちゃんは少ししょげてしまった。どうやら以前からの約束があったらしい。けれど、真宵ちゃんには別の仕事――事件の証拠探しなのだが――をお願いしてしまったのだ。
「本当ごめん。真宵ちゃんも言ってくれれば、僕が自分で行ったんだけど」
「あ、ち、ちがうのです。真宵さま、なるほどくんのお手伝いをしたいと思うのは当然のことですからっ!」
 パタパタと両手を振って僕の言葉を否定する春美ちゃん。
 僕も苦笑いを浮かべて、春美ちゃんの頭を撫でる。
「ありがとう。お詫びと言ってはなんだけど、ジュースでも飲むかい?」
「はいっ! ありがとうございますっ」
 ぴょこん、と頭を下げる春美ちゃんに僕は一つ笑うと、給湯室に行く。冷蔵庫の中からジュースのペットボトルを取り出すと、グラスに中身を注いだ。
「はい。春美ちゃん」
 オレンジジュースが満たされたグラスを手渡すと、春美ちゃんは満面の笑顔で「ありがとうございます」とお礼を言ってくれた。
 かわいいなぁ、と思う。この感情は、多分、父性愛の類だとも思った。
「そういえば、今日はどこへ行く余地絵だったの?」
「ええと、トノサマンのヒーローショーだと聞いていました」
「……なるほど」
 相変わらず、トノサマンマニアらしい。いや、これは真宵ちゃんの主導か。
「――それにしても、こんかいのジケンって、そんなにタイヘンなのですか?」
「うん。まあね。ミツルギの奴が妙に元気でね」
「ミツルギケンジさんですか。……でもっ、大丈夫ですよねっ! ナルホドくんならっ!」
「……まぁ、ね」
 煮え切らない声の僕に、春美ちゃんの表情が曇る。
「ダメ、なのですか?」
「いや、ダメってわけじゃないんだけど……少し、自信を無くしちゃってね。……いやっ。こんな事、春美ちゃんに言うような話じゃないよね。大丈夫だよ」
 言い切ると、僕は自分のデスクへ戻る。資料を手に取って、考える。今回の事件。正直、分が悪い。どう考えても、依頼人の無罪を主張することができないように思えるのだ。
「……困ったものね。貴方がそんな風じゃ、勝てるものも勝てないわよ」
 急に背中に呆れの混じった硬い声が当たった。
「……えぇっ!?」
 あわてて振り返ると、そこには。
「久しぶりね、ナルホドくん」
「ち、ちちちち、千尋さんっ!?」
 腕組みをして艶然と笑う千尋さんが立っていた。
「ど、どどどど」
「どうして、ここにいるかって? 決まってるじゃない。可愛い弟子が悩んでいるからよ」
「い、いや、そんな事は……」
「そんな事、大有りでしょう?」
 微笑まれ、僕は苦笑いを浮かべる。正直その通りだ。
「確かにその通りですが……春美ちゃんが降霊したんですか?」
「そうね。ナルホドくんが、よっぽど悩んでいるように見えたのね」
 クスクスと笑いながら、千尋さんがこちらに歩み寄ってくる。なんというか、服は春美ちゃんが着ていた衣装のままなせいか、非常に足の裾が危ういラインにある。ほとんど、足の付け根って感じだ。法廷では気にする余裕もなかったけれど、今、改めて見るとかなりきわどい。
 マイクロミニもかくやって短さだ。
「あ、ああの」
「また教えてあげなくちゃダメかしら? 弁護士に最後に求められるのは、度胸だって」
 ぐい、と僕ににじり寄ってくる千尋さん。小さな装束の中から、はちきれんばかりに自己主張しているバストが、ふよん、と僕の胸板に当たる。
「ち、ちちちち、チヒロサンッ!?」
「真宵は何時くらいに帰ってくるのかしら」
「え、ええっと、夕方くらいには帰ってくるはずですけど……」
「そう。じゃあ、まだ半日はあるのね」
 ルージュも引いていないのに、真っ赤な唇が艶やかに輝く。僕の視線が釘付けになっているのを知っているんだろう。千尋さんは笑うと、舌で上唇をちろりと舐める。
「千尋……さん」
「不本意なことだけれど、私は途中で貴方を放り出してしまう形になってしまったわ。でも貴方は自分の力で、ここまでやって来た。違う?」
「ですが……今度の事件は」
「一度煮詰まると、そうやって弱気になるのは悪い癖ね。普段はバカみたいに自信満々でハッタリかますクセに」
「バカみたいって、それ、酷いですよ」
「本当の事でしょ?」
 デスクに腰かけた僕の上に、千尋さんが馬乗りになる。豊かな胸が目の前に来て、僕は目を離せなくなる。
「あ、あの……」
「また、教えてあげるわ。――自信をもてるように」
「ん、んむっ」
 千尋さんの唇が、僕の唇を奪う。荒々しいキスに、一瞬で息が詰まる。まるで肺の中の酸素を、全部吸いだされるような感覚に、僕はぼうっとしてしまう。
 目の前で千尋さんは、ゆっくりと胸元をはだけた。

 ソファに座る僕の前に、千尋さんが跪いている。開いた足の間に身体を入れ、その豊かな胸の間に僕の物を挟んで揺する。
「ん……ふ……ちゅ……どう?」
「柔らかいです……すごく……いい」
 千尋さんは時折、胸の間から顔を出す先端を舌で舐めつつ、身体を動かして竿をしごきたてる。
 千尋さんの唾で濡れた竿が、彼女の胸でグチョグチョと音を立てているのを聞くと、ぼうっとしてしまう。
「ンフフ……ナルホドくん、相変わらずここが弱いの?」
「ちょっ、さ、先っぽに舌を入れないで下さいっ」
 赤い舌が蠢く様に、僕は顔が赤くなる。千尋さんはそんな僕を見て、楽しげに笑う。
「私が死んでから、他の人としたのかしら?」
「なっ……なにを言って……っ! ああっ!!」
 ぐいぐいと押し付けられる胸の感触に、僕は我慢できなかった。びゅくくっという感触と共に、勃起の先端から精液が飛び出す。
「ん……っフフ。してないみたいね。すごく濃いもの」
「ち、千尋さん……」
 飲んだ? 僕のを?
 千尋さんは、べったりと額や鼻についた粘液を指ですくうと、口に含んだ。
 唇の端から白い粘液が零れ落ちるのを見ながら、僕は唾を飲み込む。
「ぼ、僕だって……千尋さん以外の人としたいなんて……」
「ダメよ。私はもう死人だもの。こうして貴方と話すことができる方が、おかしいのよ」
 千尋さんは僕のワイシャツを脱がすと、ソファの上に座らせた。さらに僕の上に座る。
「でも。今は私のことだけ考えて。そう教えたでしょう?」
「は、はい」
 丁度、顔の前に来た胸を両手で掴むと、その感触を確かめながら揉みあげる。ピンク色の乳首の先端に向けて胸を揉むと、千尋さんは堪え切れないように声を漏らした。

「ん……いいわ。上手よ……」
 先端をくわえ、舌で舐め転がすと、千尋さんは身を震わせた。
 片方の手を千尋さんの足の付け根にやる。ふっくらとした、その癖みっちりとした質感のある太ももを撫でていくと、千尋さんがこらえ切れないように僕の首筋にキスを繰り返す。
「ナルホドくん……んん」
 千尋さんの股間を覆っているのは、「ぱんつ」だった。お腹の部分にリボンがついた可愛らしい物だ。それはそうだ。この服も、このパンツも、本来の身体の持ち主の春美ちゃんの物。
「あ、あの」
「あん……なに?」
「その身体って春美ちゃんの物なんですよね」
 両腕を首に回されたまま、僕は気になったことを尋ねた。
「ええ。そうよ?」
「あの……大丈夫なんですか?」
 僕の質問に、心底不思議そうに首を傾げる千尋さん。
「その、しちゃっても……大丈夫なんでしょうか」
「ああ、そういうこと?」
 納得したのか、千尋さんが笑った。そのまま僕の唇を奪う。しばらく舌を絡めあいつつ、ゆっくりと顔を離して千尋さんは艶然と笑う。
「大丈夫よ。今の身体は私の身体だもの。――倉院の霊媒師は身体を器に、本来の持ち主の姿を映すわ。それは肉体的損傷も同じ。たとえば生前の傷跡も、正確に復活させるの。だから……」
 耳元に顔を近づける千尋さん。熱い吐息が耳にかかって、くすぐったいやら、気持ちいいやら。僕は間近に見る千尋さんの顔に見とれながら、言葉の続きを待つ。
「……処女膜も、傷といえば傷でしょう?」
 微かに照れのある表情で微笑まれ、僕は苦笑いを浮かべた。
「じゃあ、大丈夫なんですね」
 ぐちゅ、と音を立てる股間に、指を一本潜り込ませる。

「はぁっ……ン」
「春美ちゃんのパンツがグチョグチョですよ、千尋さん」
「ん……ふぅ……そんなこと……」
「綿のパンツだから、吸水性も良い。これ、降霊が解けたらなんて言ったらいいんでしょうね」
 クスクスと笑いながら、指を動かす。中に潜り込ませると、千尋さんの反応がさらによくなった。
「……上手になったじゃない」
「師匠が良かったですから」
 僕は千尋さんの半開きの唇に自分の唇を重ねて、彼女の身体を抱えあげた。学生時代、肉体労働のバイトをしていただけあって、僕の身体はかなり筋肉質だ。初対面の人には弁護士バッジをしていないと、弁護士だと思われないくらいに。
 だから、どんなに背が高くても、千尋さんのようなスタイルの良い女性くらいなら、抱き上げることができる。
「きゃっ……んもうっ」
「我慢できません。僕だって、久しぶりなんですからっ」
「ん……私も、久しぶりっ……よっ……ああん!」
 深く奥まで貫く。ぬめった熱が僕のモノを締め付ける快楽。春美ちゃんの身体、なんだよな、と思う。そのくせ、あの時と変わらない感触に僕は呻いた。
「っくぅ……っ」
「すご……ん……やっぱり……いい」
 ぐ、と彼女の身体を抱き上げて、上下に揺さぶる。粘った水音を聞くと、僕は我慢できずに腰を打ち付ける。
「ん……ふぅ……あ、はぁっん」
 千尋さんの甘い声。厳しい声の印象が強い千尋さん。そんな彼女のこんな声は、多分、妹の真宵ちゃんだって知らないだろう。
「千尋さん……千尋さんっ」
「いいっナルホドくんっすごいぃっ!」
 唾液を唇の端からたらしながら、陶酔したまなざしの千尋さん。理知的な彼女の顔なんて、欠片も無い。

 頭の中が真っ白になるくらい、必死になって千尋さんを貫く。せり上がってくる射精感。
「ち、千尋さんっ!」
「いいわっ! 中に出してっ! ……あ、あぁぁぁぁーーーーーーっ!」」
 ぐっ、と腰を押し付け、彼女の腰を引き寄せる。どびゅびゅっ、という射精感。
 彼女の身体がピンと張ったまま、震えている。
 息を止め、ただ、彼女の中に注ぐ。
「……っはぁっはぁっ」
 弛緩した体は、必死に酸素を求めて呼吸を繰り返す。ぽすん、と柔らかい体が倒れ掛かってきた。
「……ん。やっぱり相性が良いわね。私とあなたは」
 とろんとした表情で、千尋さんはキスをする。
「……千尋さん」
「少しは自信が出たかしら。あなたは大丈夫。私がついてるんだから」
 たとえ、死が二人を分かつとも?
 その問いはしない。したって無意味だ。
「――はい」
 ゆっくりと立ち上がると、千尋さんは裸のまま、ぺたぺたとフロアを歩いていく。
「シャワー浴びるわ。ナルホドくんも用意なさい」
「あ、はい」
 裸の千尋さんの背中とお尻を眺めながら、僕もシャワールームへついていった。



「ナルホドくん。わたし……なんだか、その」
「どうしたの? 春美ちゃん」
 苦笑い。降霊を終えた春美ちゃんがモジモジとしながら、僕を見ている。
「そ、その……」
 濡れた下着は、結局そのままだった。まあ濡れて、といってもそんな履けない程じゃない。少し湿ってるとか、その程度だったから。
 千尋さんも、なんとか誤魔化せるでしょう、と言っていたし。
 ただ、男女の睦事を知らない春美ちゃんからすれば、自分がお漏らしでもしたと思ってしまったんだろう。
「わ、わたし、降霊中に何か失敗をしてませんでしたでしょうか」
「千尋さんだよ? 大丈夫。何もないよ」
 ポンポンと頭を撫でると、春美ちゃんは不安そうな顔に少しだけ安堵の笑みを浮かべる。
「ジュース、飲む?」
「い、いいえっ。す、すこし、いただきすぎたようですからっ」
 バタバタと両手を振って辞退する春美ちゃんに苦笑いすると、僕は肩を竦めた。
「あー、はみちゃん! 来ちゃったんだっ! 里の方には電話したのにっ!」
 真宵ちゃんがドアを開けて早々、大声を上げる。
「おかえり、真宵ちゃん」
「ただいま、ナルホドくん! 見て見て、新発見!」
 彼女達を見ていると、さっきまでの「勝てない」と思っていた自分はどこかへ行ってしまっていた。そうだ。僕は負けない。
 僕を信じて、自分の無実を証明して欲しいと願う依頼人がいる限り。

 『弁護士はピンチであればあるほど不敵に笑いなさい。ナルホドくん』

「はい……千尋さん」
 僕は自信満々の笑みを浮かべて、真宵ちゃんの新証拠を受け取った。
最終更新:2006年12月13日 07:59