第二十五話

90 名前: 石原 ◆qW/OVfUbJo [sage] 投稿日: 2008/08/22(金) 22:51:07 ID:CzeW9iKf0
霊を飼う男 1/3


まだ幼稚園に通ってた頃の話。

たしかその日は、同じ園に通っているママさん連中とでダイエーに買い物に出かけにいっていた。
ダイエーに着くと母親が服を見に行くってんで、オレたち子供はオモチャ売り場で待たされることになった。

オモチャ売り場の一角には自由に遊べるスペースみたいな所があって、退屈しない。
ただオモチャの魔力には勝てなかったらしく、
オレは途中から鬼ごっこをほっぽりだしてプラモデルコーナーの方に足を運んでいた。
で、目を輝かせてプラモを物色していると隣りに変な大人が立っていることに気づく。

背広を着た顔の青白い人。
いや、そいつはガンプラの箱とか持ち上げてたから幽霊ではないと思う。
ただ日曜日なのにサラリーマンの恰好をして、背中に小さな女の人をおぶっているのが不思議だった。


91 名前: 石原 ◆qW/OVfUbJo [sage] 投稿日: 2008/08/22(金) 22:52:22 ID:CzeW9iKf0
霊を飼う男 2/3

背中の女はマリモみたいな爆発した髪をしていて、ゴボウみたいに痩せこけた腕を男の首に巻きつけている。
オレはすぐにその女が幽霊だと悟った。
小さい時は普通にそういうものが見えていて別に恐怖はなかった。
むしろ親切心で「オジサン、背中に人がいますよ」って背広の男に声をかけた。
すると、男は意外にもこっちを見てニコッと微笑んだ。
でも微笑んだだけでその場から離れていってしまった。
オレはなんか知らないが喜んでるからいいかって感じでまた視線をプラモに向けた。

母親はまだ迎えにこなかった。
オレはさすがに退屈して、ベンチに座って目の前に置かれたテレビを見ていた。
当時は何故か延々とキョンシーが流されていた。
それ見てたら横から異様な視線を感じる。見ると、さっきの男が立っていてもちろん女の腕も見えた。
こっちが振り向くとまたニコッと笑って隣に座って来る。

オレはその時なって男が誘拐犯みたいに見え出してきて、怖くなった。
でもなんか逃げれないような雰囲気に押されてその場に固まってしまった。
男はオレの顔を覗き込むと「知ってるよ」と低い声で声をかけてきた。
で「これでしょ?」とか言って、背中の女をブラブラ揺さぶる。
あまりにもあっけらかんとしてやるのでオレは「幽霊、怖くないんですか?」って聞いた。


92 名前: 石原 ◆qW/OVfUbJo [sage] 投稿日: 2008/08/22(金) 22:53:31 ID:CzeW9iKf0
霊を飼う男 3/3


そしたらそいつ
「こうするとね。おっぱいが当たるんだよ。気持ちいいんだよ」とか言って
ニヤニヤ笑い出した。
「え?」
わけがわからない。
幽霊だぞ。幽霊は怖がるものだろと子供ながらつっこみたかった。
でも当時は大人の口から「おっぱい」なんて単語を聞くだけでひどく不気味で
恐怖に身を固めることしかできなかった。

男はさらに「声が聞こえるんだよ。聞いてみなよ」と
グゥッと青白い顔を近づけてくる。オレは「いいです」ってなんとか声を絞って断ると
必死に逃げて友達たちのいる近くの遊び場に飛び込んだ。
それからようやく母親が迎えに来て恐怖から解放されたんだが
男が物陰からずっとこっちを監視しているのがわかってたから
結局、誰にも言えずじまいだった。


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最終更新:2008年08月23日 00:14