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222 第168話 リモントンギ攻防戦(前篇)

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第168話 リモントンギ攻防戦(前篇)

1484年(1944年)7月31日 午前8時 ジャスオ領ウルス・トライヌク

ウルス・トライヌクで休養を取っていた第3海兵師団の各部隊は、早朝にも関わらず、慌ただしく動き回っていた。
第3海兵師団第3戦車大隊の指揮官であるヨアヒム・パイパー少佐は、愛車のキューポラから上半身を出して、各隊の準備状況を眺めていた。

「おい!モタモタするな!時間がないぞ!」
「早くしろ!遅れると味方に置いて行かれるぞ!」
「このばかたれが!さっさと動かんか!」
「徹甲弾は余分に積んどけ。規則なんぞ守らんで良い。」

あちこちで命令や叱咤の声が響く中、パイパーはそんな事はどこ吹く風といった顔つきでタバコを吹かしていた。

「あと4、5分で出発できるな。」

パイパーは、せわしなく動き回る部下達見つめながら、そう独語する。
第3海兵師団は、本来ならば正午にはここを出発する予定であった。
しかし、101空挺師団の側面をいつまでも開けておくにはいけない事と、同師団が対峙しているシホールアンル軍部隊が、
反撃を企図しているであろう新手の部隊である可能性が高く、第3海兵師団司令部は上層部の許可を取り付けて、出発時刻を
正午から早朝に早めた。
最も、第3海兵師団司令部の決定には反対意見もあった。
第3海兵師団は、本来ならば第1海兵師団並びに、第2海兵師団と一緒に前進を再開する予定であった。
それなのに、予定を早めて1個師団のみで出撃するのは時期尚早ではないか、との指摘があった。
対して、師団長であるグレーブス・アースカイン少将(6月に昇進し、第3海兵師団の師団長に任ぜられた)は、

「装甲部隊が居ない101師団では、いくら勇戦しても敵を押しとどめる事は不可能だ。101師団に一番近い位置ある
戦車部隊は、我々第3海兵師団の第3戦車大隊だ。ここは、一番近くにある戦車をなるべく早い内に、101師団の近くに移動すべきである。」

と、強い口調で軍団司令部に言った。
また、第3戦車大隊の指揮官であるパイパーもアースカイン師団長の考えに賛同し、

「戦車が居ると居ないとでは、戦闘の様相は大きく変わる。第3海兵師団は陸軍のようにまっとうな戦車連隊を保有してはいないが、
それでも58両の戦車を有している。対して、シホールアンル側も多くのキリラルブスを用意するだろうが、シャーマン戦車の性能は
キリラルブスのそれを上回っており、たとえ、敵がこの58両のシャーマンよりも倍以上、いや、3倍以上の戦力を擁していても、
この58両が居ると居ないとでは、反応は変わるだろう。だから、ここは101師団を支援するためにも、師団長の言う通り、
部隊を前進させるべきだ。」

と述べ、アースカイン師団長を援護した。
それに加え、海岸部に急造されつつある飛行場は単発機用の滑走路が、30日の正午に仮設ながらも完成し、同日の夕方に
第1海兵航空団の戦闘機隊が駐留し始め、早くも同地での航空援護が可能となった。
海兵隊航空隊のエルネイル駐留によって、同地の航空作戦はよりやり易くなり、101師団にはこの航空隊からの航空支援が約束された。
この他にも、他の戦域の支援で多忙な陸軍航空隊に代わって、第3艦隊からも母艦航空隊が101師団の担当戦域に派遣される事が決まり、
いつ始まってもおかしくない敵の反撃に対する備えは、着々と整いつつあった。

「大隊長、A中隊、出撃準備整いました。」

パイパー車にA中隊指揮官から報告が入る。
それから1分ほどの間に、残りのB、C、D中隊の指揮官から同様の報告が入る。
パイパーの率いる第3海兵戦車大隊は、書類上では各中隊が16両ずつのM4A3シャーマンを保有し、4個中隊総計で64両のM4A3戦車を
有している事になる。
各戦車中隊は、上陸当初は各連隊に分散して配置され、歩兵部隊の支援に当たるが、今回のような大陸制圧作戦では陸軍と同様に戦車部隊を
大隊規模に纏めて、攻撃の先鋒を務めさせるようになっている。
陸軍と違って、島嶼攻略の水陸両用作戦を得意とする海兵隊にドイツ軍式の前進隊形を取り入れるのは極めて異例であったが、機械化の進んだ
アメリカ軍内ではこのような特異な編成も実行可能であった。

「もうそろそろ出撃命令が下るな。」

パイパーはこともなげに呟いた。
後方から爆音が聞こえ始めた。彼は振り返って、その音の正体を確かめた。
西の空から、幾つもの機影が現れた。近づくにつれて、その機影の特徴的な形が明らかになる。
Ju87スツーカよりも角度が深いだろうと思えるほど湾曲した主翼を持つF4Uコルセアが40機、その40機が幾つもの編隊に分かれて
第3海兵師団の上空を通り過ぎていく。

「カクタスから飛んできた支援機だな。」

パイパーは、上空を飛ぶ航空隊のあだ名を呟きつつ、急造飛行場から飛び立った40機のコルセアを頼もしげな目つきで見送る。
カクタスとは海兵隊航空隊に付けられたあだ名である。
元々は、2年近く前のミスリアル王国攻防戦に参陣した第1海兵航空団を始めとする海兵隊航空隊に付けられたものだが、
そのあだ名はいつしか、海兵隊航空隊の全てを指すものになっている。
そのカクタス航空隊のコルセアが、一足先に101師団の戦域に向かって行く。

「空の守りは頼んだぜ。」

パイパーは、飛び去っていくコルセアの編隊に向けて言葉を送る。
海軍航空隊や陸軍航空隊は、上陸開始前からシホールアンル側のワイバーン隊と戦火を交えているが、敵の航空戦力は未だに健在で、
時折、数十騎単位のワイバーン隊が地上攻撃に現れる事もある。
パイパーの第3戦車大隊も敵ワイバーンの空襲によって戦車3両を撃破されるという手痛い損害を被っている。
そんな忌々しいワイバーン隊から守ってくる戦闘機隊は、海兵隊のみならず、連合軍の地上部隊将兵から頼りにされている存在だ。
(これで、敵のワイバーンに不意打ちにされる事はないだろう。)
彼はやや安堵した気持ちでそう思った。

「大隊長!大隊長!」

急に、無線手のウィル・ロードル軍曹が上ずった声で彼を呼んだ。

「何だ?」
「101師団から発せられた無線通信を傍受しました!どうやら、シホールアンル軍は攻撃を開始したようです!既に、101師団には
砲撃が加えられ、更に30騎以上の敵ワイバーン隊が向かいつつあるとのことです。」
「来たか。」

パイパーは別段驚く事もなく、小声で呟く。

「大隊長!たった今、連隊本部から出撃命令が下りました!」
「了解した!」

パイパーは待ってましたと言わんばかりに答える。

「こちらパイパー!これよりリモントンギに向かう!前進開始!」

彼は、マイクに向かって命令を伝えた。
彼の命令を受け取った第3戦車大隊を始めとする第3海兵師団前進部隊は、すぐさま前進を開始した。
第3戦車大隊の先鋒を務めるA中隊が楔形隊形で街道と草原を突っ切っていく。
両翼にはB中隊とC中隊が、同じように展開し、その中に第3海兵連隊の将兵が乗るハーフトラックが続く。
その後方にはD中隊が付き、全部隊が時速40キロで101師団の戦区目指して驀進して行った。

午前8時 エルネイル沖西方40マイル地点

第3艦隊に所属している第38任務部隊第1任務群では、北方戦線の支援に向かう艦載機の発艦を終えていた。
北方戦線、・・・・101空挺師団の戦区に行われる航空支援は、第1任務群のみならず、第2任務群からも行われる予定であり、
第2任務群は20分後に艦載機の発艦を開始する筈であった。
第3艦隊旗艦ニュージャージーでは、第3艦隊司令長官であるウィリアム・ハルゼー大将とその幕僚達が、どこか浮かぬ
表情を浮かべながらCICに陣取っていた。
通常ならば、ハルゼーは艦橋の張り出し通路に出て、艦載機の発艦風景に見入っているのだが、今日はそうも行かなかった。

「長官、さきほど傍受した魔法通信の通り、敵のワイバーンの大編隊が我が機動部隊に近付きつつあります。」

航空参謀のホレスト・モルン大佐は、円盤状の表示板に描かれた敵編隊の図を睨みつけるように見つめ続ける
(いや、実際睨みつけていた)ハルゼーに説明する。

「クレーゲル魔道参謀によると、敵編隊は2隊に別れており、それぞれが100騎以上の大編隊となっているようです。
この2編隊はそれぞれ20マイルずつの距離を開けており、先頭グループは北西20マイルにいるTG38.2から、
北東30マイルの距離まで迫っています。敵編隊の進路は、第1編隊と第2編隊で異なっており、第1編隊はTG38.2、
第2編隊はTG38.1に向かいつつあります。」
「つい先ほど、この近海からレンフェラルが発したと思しき魔法通信が傍受されています。」

魔道参謀に任ぜられているラウス・クレーゲルが、やや場違いと思えるような間延びした口ぶりでハルゼーに伝える。

「魔法通信はTG38.1の位置を記す内容で、10分おきに似たような内容が発信されてます。TG38.2の近くにも、
同じような偵察用のレンフェラルが潜んでいるかもしれません。」
「となると、TG38.2からは支援隊を発進させる事は出来んな。」

ハルゼーは苦々しげな口ぶりで言い放つ。

「最近は引き籠り気味のシホットにしては、久しぶりに活発に動いてきたな。しかも、俺の機動部隊に挑んでくるとは、良い度胸だ。」
「しかし長官。敵はまずい時に勝負を挑んできましたな。」

参謀長のロバート・カーニー少将が不安も露わな顔つきで言う。

「このエルネイル沖で、動けるのはTF38の2個空母群と、TF37所属のTG37.2のみです。TG37.1と37.3は
洋上補給のため、作戦海域から離脱しています。こんな時に敵ワイバーンの大編隊が・・・・ましてや、100機以上の攻撃隊を
送りだした後に襲い掛かってくるとは。」
「なに、状況はさほど悪くない。」

カーニーの不安を打ち消すかのように、ハルゼーは快活の良い口調で言う。

「確かにTG38.1からはかなりの数の艦載機が出払ってしまったが、敵さんが現れたおかげでTG38.2からはまだ攻撃隊が
発艦していない。こいつらに加わる予定だった戦闘機隊と、元々使える予定だった戦闘機を加えれば、それなりの戦闘機戦力が集まる。
もし敵が、TG38.2からも攻撃隊が発艦したあとに現れればえらい事になっただろう。だが、災い転じて福となすということわざが
示す通りに、俺達にはある程度まとまった数の戦闘機が残された。こいつらをぶつけりゃ、艦隊の被害は何とか抑えられるだろう。」
「なるほど。状況は確かに悪くないですな。」

カーニー少将がホッと胸を撫で下ろす。他の幕僚達からも安堵の色が見えた。
しかし、誰もが決して安堵していた訳ではない。

「だが、こうなると、101師団の支援が予定よりも手薄になってしまうな。」

ハルゼーはため息を吐く。

「TG38.1から発艦させた攻撃隊と、カクタスの奴らを合わせれば、まあまあの航空支援が出来るだろうが、それでも不安が残るな。」

その時、彼の心中にとある疑問が浮かぶ。
(まさか、シホットの連中は、俺達の艦隊から支援機を出したくないがために、久方ぶりに俺達を狙ったのだろうか?)

午前8時15分 リモントンギ

第101空挺師団506連隊長であるロバート・シンク大佐は、リモントンギ市内にある4階建ての市庁舎に設けた連隊本部から、
東に1キロ離れた前線を見つめていた。

「敵のワイバーンの数が多いな。」

シンク大佐は、前線の上空で動き回る幾つもの点に視線を向けている。
前線の上空では、10分前に到着した海兵隊のF4Uと、来襲してきたワイバーンが激しい空中戦を繰り広げている。
最初はコルセア40機に対して、ワイバーンは30騎ほどであり、コルセア隊の方が優勢であったのだが、2分前に新手のワイバーン隊
20騎余り来てからは、ほぼ互角の戦況となっている。
(いや、互角ではないな)
シンクは内心で訂正する。
敵の増援が来てからは、コルセア隊は押され気味になっている。
それに、つい今しがた、コルセアの迎撃を突破した数騎のワイバーンが連隊の守備陣地に襲い掛かったばかりである。
総合性能では敵ワイバーンに優れているF4Uとは言え、数が敵より少なければ自ずと限界が生じる。

「だが、この程度の空襲ならまだ耐えられる。問題は、敵の地上部隊が攻勢に出てきた時だな。」

シンクの懸念は、空よりも陸の方にある。
敵部隊は、キリラルブスという戦車に匹敵する陸上兵器を多数有しているとの情報が入っている。
それに対して、506連隊の属する101師団は、歩兵が主体の部隊であり、装甲兵力は全くない。
師団砲兵隊は居る物の、味方と敵部隊の位置が1キロも離れていないため、誤射の危険が大きい。
一応、対戦車用のM1バズーカを装備してはいるが、それでは満足に対応しきれないし、それ以前に、対戦車班は上陸初日の激戦で
少なからぬ犠牲を出している。
この決定的とも言える差を埋めるには・・・・

「海兵隊が必要だな。」

シンクは呟く。

101師団の後続部隊である第1海兵師団と第3海兵師団は、共に戦車大隊を有している。
このうち、第3海兵師団は既に出撃し、あと20分以内には前線に到達する予定だ。

「20分。あと20分耐え抜けば、戦力が揃う。それまで、前線を維持しなければな。」

シンクはそう呟き、部下達が耐え抜くように祈った。


だが、彼の祈りは戦神に聞き入れられなかった。

「左上方より敵ワイバーン接近!」

前進部隊を率いていたパイパーは、突然舞い込んできた報告に顔色を変えた。

「何だと?数は!?」

彼は報告を送ってきたA中隊の指揮車に聞き返す。

「約20騎です!」
「これはまずい事になった。」

パイパーは舌打ちする。
コルセア隊と戦っているワイバーン隊の他に、別働隊が居たのだ。
恐らく、この別働隊は後方から接近しつつある増援のために前もって準備されていたのであろう。
ワイバーンと思しき飛行物体が急速に接近しつつある。
そのワイバーン隊目がけて、対空部隊の対空砲火が火を噴く。
4丁の12.7ミリ機銃を束ねた4連装機銃が、勢いよく銃弾を放つ。
パンツァーカイル陣形の外側に配置された対空機銃搭載車は、一様に右上方から迫るワイバーン目がけて機銃を撃ちまくっている。

ワイバーンの先頭は、その機銃の弾幕を紙一重で避け、陣形の間近まで接近し、そこで爆弾を投下した。
胴体に取り付けられていた2発の爆弾が放り投げられ、ハーフトラックの群れの中で炸裂した。
爆発の瞬間、ハーフトラック1台が爆砕され、2台が横転する。中に乗っている1個分隊ほどの兵は殆どが戦死するか負傷した。
2番騎、3番騎と、敵ワイバーンは次々と飛来して爆弾を投下する。その度に、車両が叩き潰され、擱座していく。
ワイバーン1騎が、4連装機銃の十字砲火をまともに浴びた。
体の両側面に多量の高速弾を浴びたワイバーンと竜騎士は、ものの数秒でバラバラに引き裂かれた。
別の1騎が急所に致命弾を浴び、爆弾を投下する暇も与えられぬまま、そのまま地面に落下した。
パイパーはキューポラから顔を出したり引っ込めたりしながら、ワイバーンと前進部隊の戦闘を眺める。
直属の戦車の中には、キューポラの側にある12.7ミリ機銃を振りかざして応戦する者もいる。
だが、その兵にもワイバーンからの光弾が浴びせられる。
先ほどまで顔を真っ赤に染めながら応戦していた兵は光弾を受け、車体の後ろの地面に叩きつけられた。
その戦車に爆弾が落下し、1発が命中弾となる。
ドーン!という轟音が鳴り、戦車の左側面から紅蓮の炎が噴きあがった。

「B中隊4番車被弾!」

B中隊の指揮官から悲痛めいた口調で報告が伝えられてくる。

「5番車がやられた!」

更にC中隊指揮官からも報告(というよりは絶叫に近い)が届く。

「くそ!あっという間に2台もやられたのか!!」

パイパーは忌々しげに顔をゆがめる。
更に対空車両までもがワイバーンのブレス攻撃を浴びて、機銃手や運転手共々火葬にされてしまった。
敵ワイバーンとの戦闘が開始されてから10分後には、第3海兵師団前進部隊はハーフトラック12台と戦車3両、対空車両3両を
破壊され、陣形も壊乱状態に陥っていた。
陣形が崩れた事により、部隊は完全に足止めを食らってしまった。

「6時方向からワイバーン2騎!」

パイパーは自らの戦車に向かってくる敵ワイバーンを見るなり、操縦手に伝える。
周囲には、破壊された車両が黒煙を噴き上げている。損傷車両の周りには、無残にも討ち取られた海兵隊員や乗員達が横たわっている。

「まだだ、切るなよ。」

彼は振動に揺られながらも、迫りくるワイバーンを睨み続ける。
敵ワイバーンが距離200まで迫った時、不意に口が開くのを捉えた。

「右に切れ!」

彼はすかさず指示を伝える。戦車が向きを変えるのと、2騎のワイバーンがブレスを吐くのはほぼ同時であった。
パイパーはすぐに身を車内に隠し、ハッチを閉める。
急激に右へ曲がったため、車体が僅かに傾ぐ。後方をゴォー!という何かの音が通り過ぎていく。
音はすぐに止んだ。
シャーマン戦車は、ガソリンエンジンを積んでいるため、後部部分を上空から狙われるとかなり脆い。
シホールアンル側は、その特性を知っており、爆弾を非搭載時に戦車を攻撃する時は、後ろ側から攻撃せよと命じてあった。
パイパー車を狙った2騎のワイバーンは、セオリー通りに後ろ上方から攻撃を仕掛けたが、パイパーの巧みな判断で撃破できなかった。
彼は咄嗟にハッチから顔を出す。その時、2頭のワイバーンがパイパー車の上空を飛び去っていく。
そのワイバーンに対空機銃が追い撃ちをかけるのだが、全く当たらない。

「畜生め!このままじゃ、101師団の支援どころじゃないぞ!」

彼は憎らしげに喚いた。
しかし、第3海兵師団の苦闘もそこまでであった。

「なんてこった、第3海兵師団が敵ワイバーンに襲われているぞ!」

支援攻撃隊指揮官である空母ヨークタウン艦爆隊長のフリック・モートン少佐は、眼下に移る光景を信じられない気持で見つめていた。
この日は、陸軍航空隊が総力を挙げて、エルネイル周辺のワイバーン基地に大空襲を仕掛けており、敵のワイバーン隊はその防戦に
忙殺されているはずであった。
だが、シホールアンル側は攻撃を受けている航空基地とは別の基地から攻撃隊を発進させ、味方機動部隊や地上部隊を攻撃しているのである。

「エンタープライズ戦闘機隊は、好き勝手に暴れるシホットを追い払え!残りは101師団の支援に向かう!」
「了解!」

エンタープライズ戦闘機隊指揮官から応答の声が流れる。
支援攻撃隊は、空母ヨークタウンからF6F12機、SB2C16機、TBF12機。
エンタープライズからF6F16機、SBD14機、TBF8機。
ホーネットからF6F16機、SB2C11機、TBF12機。
軽空母フェイトからF6F13機の計130機で編成されている。
本来ならば、TG38.1のみならず、TG38.2からも120機ほどが加わる予定であった。
だが、機動部隊本隊は今、敵ワイバーンの空襲下にあり、TG38.2は攻撃隊を出せぬまま防空戦闘に従事している。
130機の編隊から16機のF6Fが離れていく。
それまで、地上部隊相手に好き勝手していたワイバーン群に変化が生じる。
残り16騎に減っていたワイバーンは慌てて向きを変え、F6Fに殺到する。
ワイバーン群がF6Fに矛先を変えたのを見たパイパーは、チャンスであると確信した。

「全部隊!前進を再開する!今は落伍車に構うな!」

彼は有無を言わせぬ口調で命じる。
生き残りの戦車や車両は、ゆっくりと前進しながら、以前と同じようにパンツァーカイル隊形を形成していく。
訓練で何度もやっただけあって、隊形を整えるのが早い。
やがて、ワイバーンの前進部隊は、今度こそ101師団の支援に向かうべく、リモントンギに向けて驀進して行った。

午前8時30分 リモントンギ

101師団とシホールアンル軍の戦闘は、早くも最高潮に達していた。
上空で未だにコルセアとワイバーンが死闘を繰り広げる中、地上では銃弾や光弾、それに砲弾や攻勢魔法がひっきりなしに飛び交う。
第506連隊第2大隊に属するE中隊では、草むらに隠れた将兵たちがライフルや機銃を撃ちまくる。

「中隊長!キリラルブスです!」

中隊長であるトーマス・ミーハン中尉は耳元で部下の声を聞いていた。

「くそ、ついに石の化け物を投入してきたか!」

彼は焦燥の混じった口調で叫ぶ。

「中隊長、第3海兵師団はどうしたんですか!?今頃はもう来ているはずなのに!」
「それは俺に聞くな!今は目の前の戦闘に集中しろ!」

側でライフルを撃っていた兵が苛立ったように叫んだが、ミーハン中尉は敵の方向を指さして逆に指示を下す。
隣でライフルを撃ちまくっていた兵がいきなり悲鳴を上げる。咄嗟に振り向くと、その兵は右手の人差し指が千切れていた。

「衛生兵!ここに負傷者だ!」

ミーハンは、右20メートルほど横で負傷兵の手当てをしている衛生兵を呼びつけるが、その負傷兵の手当てに忙殺されてなかなか来ない。

「しっかりしろ!大丈夫だぞ!」

ミーハンは、痛みで顔を引きつらせる負傷兵を励ましながら、自らもガーランドライフルを撃ちまくる。
草陰の合間にシホールアンル兵と思しき人影が魔道銃を撃ちまくる。
唐突に、真正面から、キリラルブスが草や木をなぎ倒しながら現れた。
キリラルブスの砲口から火が噴く。

陣地の目の前で砲弾が炸裂し、大量の土砂が噴き上がる。伏せ損ねた兵3人ほどが吹き飛ばされた。
キリラルブスは間髪入れずに砲を放つ。砲弾は草むらの奥に撃ちこまれ、30メートル離れた後方で着弾した。
後方からもう1台のキリラルブスが続く。
敵側前線のシホールアンル兵達は魔道銃は勿論、攻勢魔法も盛んに発してキリラルブスの前進を援護している。

「どんどん撃て!撃ち負けるな!」

後ろから副隊長のウィンターズ中尉が部下達を叱咤しながら通り過ぎていく。
敵のキリラルブスの周辺に迫撃砲弾が落下するが、至近弾ではキリラルブスを傷つけらない。
キリラルブスが前面の穴から魔道銃を撃ちまくる。30口径を乱射していた兵2人が撃たれた。

「対戦車班が出ます!」

唐突に、2名の兵が陣地の前に躍り出た。
バズーカを持っている兵に、装填手がロケット弾を込める。装填手が頭を2回叩き、装填官僚と伝える。
バズーカの筒先からロケット弾が勢いよく撃ちだされ、キリラルブスの車体底部に命中した。
キリラルブスは戦車と違って歩行式のため、低い場所からみれば、車体の底部を見る事ができる。
装甲の薄い底部にロケット弾を食らったキリラルブスは一瞬にして動きを止め、その場にへたり込んだ。
別のキリラルブスが、小癪な対戦車班を吹き飛ばそうと、搭載砲をぶっ放す。
砲弾は対戦車班に当たると思いきや、すぐ真上を通り過ぎ、後ろの木をなぎ倒してずっと後方で炸裂した。
そのキリラルブスも、別の所から忍び寄っていた対戦車班に狙い撃たれ、瞬時に擱座する。
対戦車班に敵側の射撃が集中される。4名の対戦車班は大慌てで陣地に逃げ戻った。

「よし、まずはあの化け物の動きを止めたぞ。」

ミーハンは満足げな口ぶりで呟く。そこに、F中隊とD中隊が布陣している方角からいくつもの炸裂音が響いた。

「F中隊とD中隊にも敵が向かっています!」

誰かが叫んだ。よく見ると、草陰から4、5体ほどのキリラルブスが、砲を放ちつつ、闘犬さながらの動きで飛び出している。

その直後、通信兵から驚くべき情報が伝えられた。

「中隊長!左翼のD中隊とF中隊が勝手に退却し始めたようです!」
「何だと!?」

彼は仰天した。

「あの腰抜け共が!第2大隊がここを放り出したら、リモントンギ全体が敵の野砲に撃たれちまうんだぞ!」

ミーハンはそう叫びながらも、内心で思考をめぐらせる。
目の前には、新手のキリラルブスが出てきている。キリラルブスの周囲には、魔道銃を構えた敵の歩兵も見える。
こちらの対戦車班が立て続けに2台撃破したせいか、キリラルブスの動きはのろい。
盛んに魔道銃や砲を撃ちはするものの、その行動は先と比べて慎重そのものである。
(今のところ、E中隊が相手している敵は慎重に部隊を進めている。だが、D中隊とF中隊を蹴散らした敵は、調子に乗って別の大隊にも
襲い掛かるに違いない。下手すれば、E中隊は包囲されるかもしれない)
どうすればいい?このままここを死守するべきか。
それとも・・・・撤退するべきか?
ミーハンは迷いながらも、敵目がけてライフルを撃ちまくる。そこに、通信兵が彼を呼びつけた。

「中隊長!中隊長!」
「何だ!?」
「航空支援です!航空部隊の指揮官が指示をくれと言っとります!」
「貸せ!」

ミーハンは受話器をひったくった。

「こちらは指揮官のミーハン中尉だ!」
「こちらビッグE艦爆隊の指揮官だ。今からそっちに支援爆撃を行うから、何か目印になるものを投げてくれ。」
「わかった!」

ミーハンはそう言うと、すぐに色つきの発煙弾を投げろと命じた。1人の兵士が赤色の発煙弾を敵目がけて投げつける。
発煙弾は、味方から40メートル、敵から50メートル離れた場所に落ち、やがて赤色の煙を放出した。

「今、赤の発煙弾を投げた!シホット共は煙から50メートル北にいる。俺達からかなり近いが、大丈夫か?」
「お安い御用だ。今からやる、伏せてろ!」

無線はそこで切れた。ミーハンはすかさず、中隊の全員に支援爆撃があることを伝える。

「海軍の攻撃機が爆弾を投下する!気をつけろ!」

彼がそう叫んだ直後、上空から何か甲高い音が響き始めた。
甲高い轟音はやがて大きくなり、まるで耳の奥を掻き毟るかのような錯覚に陥る。
(急降下爆撃か。誤爆はしないでくれよ!)
ミーハンは、耳に響くダイブブレーキの音を聞きながら、爆弾が味方の陣地に落ちてこないようにと祈った。
金切音が極大に達した時、エンジン音の咆哮が混じる。一瞬、北側の上空に向けて飛び抜ける機影が見えた。
その刹那、キリラルブスの群れの中で爆発が起こった。
爆炎と共に茶色い土砂が宙高く吹き上げられる。
そこから10メートルと離れていない場所に別の爆弾が落下し、1台のキリラルブスが横に吹き倒された。
エンタープライズ艦爆隊の爆撃は、ミーハンのみならず、E中隊の将兵全員が見ほれるほど完璧であった。
まるで、狙い澄ましたかのように、爆弾はほぼ横一列で弾着する。
1000ポンド陸用爆弾が炸裂するたびに、キリラルブスが爆砕され、随伴歩兵がバラバラに粉砕される。
ドーントレス隊は1000ポンド爆弾の他に、両翼に2発の小型爆弾も搭載していた。
その小型爆弾は後方の林に弾着し、今しも前進中の部隊に加わろうとしていた敵の歩兵やキリラルブスを叩き潰す。
外れ弾は側の木々を吹き飛ばし、あるいは爆風でなぎ倒して、呻いていた負傷兵がそれに下敷きになって絶命する。
エンタープライズ隊の攻撃はこれだけに留まらず、続行してきたアベンジャー隊も、2000メートルの高度から101師団とは
反対側にある林目がけて、2発ずつの500ポンド爆弾を降らせる。
計16発の500ポンド爆弾は、林の中で炸裂し、あちこちで弾薬が誘爆したと思しき2次爆発が起こる。
水平爆撃は広範囲に爆弾がばら撒かれるため、自然に101師団側の陣地にも降り注ぐ。
1発の爆弾は、E中隊から20メートルと離れていない場所に着弾した。
大音響と共に土砂が舞い上がり、爆風が伏せている兵の背中を掠めていく。幸いにも、この誤爆による死傷者は皆無であった。

「馬鹿野郎!俺達までふっ飛ばすつもりか!!」

通信兵のジョージ・ラズ伍長が側に落ちたヘルメットを拾いながら、上空を飛び去っていくアベンジャー隊をののしった。
その傍らで、ミーハン中尉は海軍の正確な支援爆撃に賛嘆の言葉を漏らしていた。

「さすがは、海軍でも有数の母艦航空隊だ。今まで、目の前で好き放題やってたシホット共が、いまでは滅茶苦茶だ。」

つい先ほどまで、キリラルブスを盾にしながらじりじりと進んでいたシホールアンル軍は、ドーントレス隊やアベンジャー隊の爆撃を
食らった事で、ほぼ半数以上の戦力を失っていた。
12台はあったはずのキリラルブスは3台のみしか動かなくなり、随伴歩兵はほぼ壊滅状態だ。
(ビッグE・・・・エンタープライズ所属の航空隊は、開戦以来の精鋭部隊だからな。常に海を走りまわる移動目標を相手に
している奴らにとって、動かない地上目標を狙う事はあさめし前って事か。いやはや、大したもんだ)

「中隊長!D、F中隊の戦区を突破しかけていた敵部隊も、海軍航空隊の支援爆撃を受けて前進をストップしたようです!」

ラズ伍長が喜色を滲ませながらミーハンに伝える。

「行けるぞ。この調子で敵を食い止め続ければ。」

ミーハンはそこまで行ってから絶句する。散々叩かれた林の向こうから、またもや新手のキリラルブスと歩兵が現れてきた。
新たに出てきたキリラルブスは計12台。うち、半数は車体のどこかが傷付いているが、戦闘には支障を来さないのであろう。
このキリラルブスは、戦死者の遺体などお構いなしに踏みにじりながら、やや早いスピードで突っ込んでくる。

「くそ、また来たぞ!迫撃砲はどうした!?おい、ありったけの砲弾を撃ちまくれと伝えろ!」

ミーハンは通信兵にそう命じた。
その瞬間、彼は右腕と肩に強い衝撃を感じ、頬に何か温かい物が張り付いた。
気がつけば、彼は地面に仰向けで倒れていた。

「ちゅ、中隊長!!」

傍でBARを撃っていた兵士が慌ててミーハンに取り付く。

「ああ、なんてこった。衛星兵!こっちだ!」
「くそ、やられてしまったか。」

ミーハンは肩と腕からくる激痛に顔をしかめた。試しに、指を動かそうとする。
だが、感覚が全くない。

「じっとしててください!腕が千切れかけています!」
「何だと・・・・くそったれめ!」

ミーハンは思わず罵声を挙げる。
腕の傷口から大量の血が流れていく。痛みよりも、出血の影響で徐々に意識が薄れ始めてきた。

「く・・・指揮を取らねば。」
「中隊長、いけません!」

無理やり起き上がろうとするミーハンを、兵は抑えようとするが、彼はすごい剣幕で兵を睨みつけた。

「馬鹿野郎!俺はE中隊の指揮官だ!たかが腕1本が使えないからって、まだ死んだわけではない!俺がまだ動ける限り、指揮は取り続ける!」

彼の言葉に、その兵は圧倒され、押し黙ってしまった。

「それよりも、おまえは銃を取って敵と戦え!いまここでE中隊が抑えなければ、敵はたちどころにリモントンギを奪取してしまうぞ!」
「し、しかし。」
「俺に構わんでいい!さっさと敵を撃て!」

ミーハンに強引に命じられた末、その兵士は慌てて射撃を再開した。

「中隊長!衛生兵です!」

衛生兵がミーハンの側に走り寄ってきた。

「やあドク。やられちまったよ。」

ミーハンは引きつった笑顔を浮かべる。

「話はあとです!中尉、手当てしますから横になってください。」
「駄目だ。横になっては戦況が見渡せられん。そのまま治療しろ。」

彼は衛生兵に命じてから、後ろに顔を向ける。
さっきから迫撃砲の支援射撃が無い。

「迫撃砲はどうしたんだ?おい、後ろの連中は何をやっているんだ!?」
「中隊長、迫撃砲小隊が弾切れだと言っています!」
「なんてこった、状況は悪化するばかりじゃないか!」

ミーハンは思わず頭を抱えそうになった。迫撃砲の支援があれば、キリラルブスは倒せないまでも、敵の歩兵を削ぐ事ができる。
しかし、迫撃砲の支援が無ければ、敵は歩兵を伴ったまま陣地に突っ込んでくる。
そうなっては、白兵戦が得意のシホールアンル側にとって願ってもないチャンスが訪れる事になる。
先頭のキリラルブスの筒先が、ミーハンの居る陣地に向けられ、固定された。
それに気付いているのは、何故か彼1人のみだ。他の兵は別のキリラルブスや歩兵に向けて銃を撃ちまくっている。

「敵が大砲を向けているぞ!移動しろ!」

ミーハンは大声で命じた。だが、もはや間に合うまいと思っていた。
恐らく、1秒後にはあの砲口から砲弾が飛び出ているだろう。そうなれば、自分たちは確実に死ぬ。
(万事休す!)

ミーハンの心中に、後悔の念が渦巻いた。
その刹那、キリラルブスの右側面に爆炎が噴きあがった。爆発音と共に石造りの車体が大きく欠損する。
次いで、その周囲に爆発が起こり、シホールアンル兵諸共、土砂が宙高く噴きあがる。

「なっ・・・・!」

ミーハンは一瞬、何が起こったのかが分からなかった。
誰もがキツネにつままれたような表情を浮かべた時、耳にキャタピラの駆動音が響いてきた。

「おい、この音は?」

ラズがBARを撃っていた兵に聞く。

「さぁ・・・・・あ、まさか!」

兵は最初首をかしげたが、やがて、思い当たりがあるのか、急に表情を和らげた。

「戦車だ!シャーマン戦車が来たぞ!」
「戦車・・・・マリーンの連中、やっと来たか!」

ラズも、増援に来る筈だった第3海兵師団の事を思い出し、いきなりその兵と抱き合った。

「おい、海兵隊だ!ごろつき野郎共が応援来たぞ!」
「マリーンに負けるな!撃ちまくれ!」

第3海兵師団の参陣で意気を取り戻したのだろう、機銃や小銃がこれまでよりも激しく撃ち放たれる。
E中隊の兵達が敵に容赦のない射撃を加えている時、第3海兵師団の前進部隊は、突出しつつあった敵を包囲するかのように前進を続けていた。

「目標、11時方向のキリラルブス!距離500!」

パイパーは、ペリスコープから見えるキリラルブスを見つめながら、砲手に指示を伝える。
砲手が狙いをつけ、照準よし!と叫んだ。

「撃て!」

凛とした声音で命ずる。直後、ドン!という音と共に76ミリ砲が放たれる。
砲弾は過たずキリラルブスに命中した。右側面から真っ赤な炎を噴き出したキリラルブスは、地面にガクリとへたり込んだ。
僚車も砲弾を放ち続け、次々とキリラルブスを仕留めていく。
キリラルブスも負けじと、何台かが向きを変えて、パイパー戦隊に立ち向かおうとする。
その横合いからE中隊の兵が放ったロケット弾が命中し、黒煙を噴き上げる。
中から慌てて乗員が飛び出し、地面に飛び降りるが、ライフルや機銃弾に射抜かれて、全員が射殺された。

「隊長!敵が後退し始めます!」
「こっちでも見えてるぞ!」

パイパーは、報告を伝えてきた操縦手にそう返す。
第3戦車大隊のシャーマン戦車に襲われ、相次いで被害を出したたために敵は恐れを成したのであろう。
健在であったキリラルブスが慌てて避退しようとする。歩兵もキリラルブスを追っていく。

「情け無用!撃ちまくれ!」

パイパーは叫んだ。ここで敵を逃がせば、また再編成を終えてやってくる。
後顧の憂いを断つためには、逃げる敵も徹底的に叩かねばならない。
応、とばかりに76ミリ砲が火を噴く。
この砲弾は、惜しくも逃走するキリラルブスの至近に弾着しただけとなったが、近くにいた兵2人が破片を食らって倒れ伏す。

「こちらC中隊、敵キリラルブスが後退を開始。追撃します。」
「こちらD中隊、敵キリラルブス4台を撃破。敵は後退を開始しました。これより追撃に入ります。」

無線機に、分派したC、D中隊から報せが入る。

これより10分前、パイパーは敵約1個大隊が前線を突破しつつあると聞き、戦力を2分してこの1個大隊を包囲しようと決めた。
C、D中隊は、後退してきた101師団の兵達をけし掛けながら前進し、敵キリラルブス部隊と正面から打ち合った。
元々、初期装備型のキリラルブスではシャーマン戦車に太刀打ちできない。
キリラルブスは、C、D中隊の戦車3両を撃破したが、逆に9台を破壊された。
それに、再び盛り返した101師団の部隊と第3海兵師団の部隊が猛反撃に出たため、敵1個大隊は前進をストップした。
そして、パイパーの指揮する部隊と戦っていた味方が後退を開始したのを聞くや、この大隊の指揮官は、包囲される前に急いで後退せよと
命じ、突破し、確保しようとしていた陣地を放棄して丘の上の林に逃げ戻りつつあった。

「突出してきた敵1個大隊は、やはり包囲出来なかったか。」

パイパーは思わず舌打ちしたが、すぐに気を取り直す。

「だが、これで戦線は安定した。さて、ここからは俺達の番だぞ、シホット!」

彼は小声ながらも、意気込んだ言葉を発した後、部隊に敵を追撃せよと命じたのであった。


第3海兵師団所属の戦車部隊は、敵を追い返しただけでは飽き足らず、逆に敵陣目がけて突っ込んでいく。
シャーマン戦車は林に隠れる敵の歩兵を蹂躙しながら、逃げるキリラルブスに容赦なく砲撃を浴びせる。
無論、海兵隊側も無傷では済まず、今も反撃を食らったシャーマン戦車が黒煙を噴き上げ、乗員が大慌てで外に飛び出していく。
だが、残りの戦車はそんな事はお構いなしとばかりに、林の向こうへ突進していく。
ミーハン中尉は、衛生兵の手当てを受けながら、ひたすら前進を続けていく海兵隊を見つめていた。

「あいつら、無茶しやがる。」

周りで、E中隊と海兵隊員が通り過ぎ間際に挨拶をかわしていく中、彼は頬を緩ませながら呟いていた。

「今は敵を追っ払うだけでいいのに。」
「ウチの連中はじっとしているのが苦手でね。」

不意に、後ろから声が聞こえた。振り返ると、そこには海兵隊の将校が立っていた。

「それに、さっきは俺達もワイバーンの空襲を受けたんだ。恐らく、パイパーさんはここぞとばかりにさっきの仕返しをしてやろうと
思ってるんだろう。」
「なるほどね。やられたら倍返しって奴か。」

ミーハンはそう呟いてから苦笑する。

「あんた大丈夫かい?」
「いや、この通りボロボロさ。衛生兵がモルヒネを打ってくれたから、今はこうしてしっかり喋れているが、とにかく、俺は野戦病院送りだな。」
「たっぷり休養が出来るな。紹介が遅れたが、俺は第3海兵連隊所属のルエスト・ステビンス中尉だ。」
「ミーハンだ。101師団506連隊に属している。あんたら海兵隊が来てくれたお陰で助かったよ。」
「なに、俺は後ろで震えてただけだ。今はまだ何もしていない。」

ステビンス中尉は肩をすくめながらミーハンに答えた。

「じゃ、俺は行くよ。遅れるとボスに怒られるんでね。」
「頑張れよ。俺の代わりにシホット共の顔をぶん殴ってくれ!」

ミーハンの気の利いたジョークにステビンスはハハハと笑いつつ、前進する戦車部隊の後を追って行った。

「中隊長、残念ですが、右腕はもう・・・・・」

衛生兵がすまなさそうに言ってくる。

「・・・・・まぁ、なってしまった物は仕方あるまい。これで、俺は前線指揮官をクビになるな。」

ミーハンはしばし顔を暗くするが、顔とは裏腹に生きのある声音で返した。
(さて、俺が使えないとなると・・・・・後任はやはり、あいつしかいないだろうな)
彼は、暢気ながらも、どこか悔しげな気持ちで、中隊の副隊長に告げる言葉を考え始めていた。
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