自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

093 外伝6

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156 :外伝(またはパラレル):2007/11/18(日) 19:04:28 ID:OiXF2z220
「みんな行くよー!」
透き通った少女の声に甲高い飛竜の鳴声が唱和する。
アーニスに先導された6騎のワイバーンは中継地を飛び立ちドラモンの街へと向った。
無人のワイバーンを先導するアーニスは15才。
再来月の誕生日で16歳になる。
調教師としては異例の若さだが、物心ついたときからワイバーンと寝食を共にし、ごく自
然に竜と心を通わせるアーニスは並の大人など足元にも及ばない超一流の飛竜乗りだった。
以前は前線へのワイバーンの補充は休養で後方に下がった竜騎士の仕事だったのだが、ワ
イバーンと竜騎士の損耗率が洒落にならないことになっている現在、本来なら前線に赴く
必要の無い調教師が実戦部隊へのフェリーを勤めることも珍しくなくなっていた。
「むぅ~」
前方の雲を睨みながらアーニスは唸った
カンパネラ山脈の上には分厚い雷雲が居座り時折稲妻を放っている
米軍機との接触を避けるため山間を縫ってドラモンへ抜ける予定だったが、手塩にかけた
ワイバーンを嵐で失うわけにはいかない。
アーニスは首から下げた竜笛を鳴らし、大きく右腕を回して編隊の進路を南へ向ける。
大回りしてトムナン湾を横断するルートなら体力的に少々きついが、陸軍機の航続圏外な
のでまだ安全と思われた。
ベグゲギュスに撃沈された潜水艦パンパニート捜索のため、駆逐艦オズモンド・イングラ
ムが派遣されていなければ。
そしてオズモンド・イングラムの上空では、VC-10(護衛空母ガムビアベイ搭載)の
FM-2ワイルドキャット4機が戦闘空中哨戒を行っていた。
駆逐艦からの連絡を受け、空中戦に飢えていた護衛空母の戦闘機乗りは拳を振って喝采を
叫ぶ。
F4F-4に比べ自重で200ポンド、全備重量で700ポンド近く軽減され、エンジン
出力は150馬力向上しているFM-2の低高度域での上昇力はF6Fを凌ぐ。
GM製の山猫は駆逐艦のレーダーが探知した不明目標に向って、海底を離れたタイガーフ
ィッシュのように上昇した。
鋭い警告音がアーニスの耳を打つ。
人間とは桁違いの聴力を持つワイバーンが接近するエンジン音を捉えたときには、FM-
2は充分な高度差を確保していた。
太陽を背にして逆落としに降ってくる四つの機影。
酒樽に長椅子の天板を突き通したようなシルエットは噂に聞いたグラマン戦闘機だ。
竜笛の合図で一斉に散開するワイバーン。
アーニスは丸々とした外見に似合わず以外と敏捷な米海軍機の注意を遁走する竜達から逸
らすべく、わざと敵の前面に躍り出た。
横長のダイヤモンド編隊で接近するワイルドキャットと正対したアーニスに向って、1番
機が射撃を開始する。
主翼の中央、やや付け根寄りにオレンジ色の発砲炎が瞬き、主翼下面から排出された空薬
莢が真鍮の輝きを放ちながら落下する。
アーニスがほんの僅かに手綱を引くと、ワイバーンは鮮やかな上昇旋回で秒速893メー
トルで撃ち出された50口径弾を躱す。
続く2番機、3番機の攻撃を連続横転で避け、最後の4番機をほとんど垂直上昇に近い宙
返りで遣り過ごした時には1番機がズーム上昇で再度攻撃位置に就けていた。
アーニスのワイバーンがループの頂点で一瞬無防備な体勢になったところを狙って、4挺
のブローニング機関銃が火を吹く。
アーニスの頭を掠めた銃弾が少女の体をワイバーンから弾き飛ばす。
石のように落下するアーニスの頭から風圧で革の飛行帽が脱げ、ウエーブの懸かったプラ
チナブロンドの髪が天使の翼のように広がる。
「これは死ぬなぁ…」
朦朧とした、それでいて妙に醒めた思考でアーニスは呟く。
だが海面に激突する直前、アーニスの飛行服は力強いワイバーンの脚に掴み取られていた。
いつの間にか散り散りに逃げたはずのワイバーンが、アーニスを護るように円陣を組んで
飛んでいる。
そしてすぐ隣りにはFM-2の編隊がいた。
4機ともキャノピーを開け放ち、露わになったアーニスの輝くような美貌をポカンとした
表情で見詰めている。
やがて先頭機のパイロットはやれやれといった風情で首を振り、沖合いへと機首を巡らせ
る。
米軍機は現れたときと同様、唐突に姿を消した。
「異世界から来た悪魔みたいな連中って聞いてたけど…」
空中でワイバーンの背中に器用に這い登りながらアーニスは言った。
「意外といい人達なのかも」
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